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THE BLACK MAGES III 「Darkness and Starlight」
ジャケット画像  「ファイナルファンタジー」シリーズでおなじみの楽曲を、主にバトル音楽中心にロックアレンジしてユーザーに届けることを目的とした「THE BLACK MAGES」。アルバムリリースに続くライブや、各種FFコンサートへの出演でその存在はすっかりおなじみのものになった感も。そして放たれた待望の第三弾アルバムがこちら。サプライズの多かった前作に続き、今回の目玉は果たして?!

Dog Ear Records
DERP-10002(TGCS-4854)
2008年
JASRAC表記:
あり

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 「FF」のアレンジ音楽はこれまでも多種多様に発表されてきたが、その多くはオーケストラであったり、民族音楽テイストであったりして、およそ「ファンタジー」のイメージからは大きく外れない類のものであった。しかし、「FF音楽の父」植松伸夫氏の音楽ルーツを知るファン、そして氏による楽曲(特にバトル音楽)から「ロック(プログレ)」の匂いを嗅ぎ取っていたユーザーは、実現は難しいと思いながらもロックアレンジが為されることを待ち望んでいたのだ。そしてその想いは、ファンだけのものではなかった。スクウェアサウンズの元コナミ組・福井健一郎氏と関戸剛氏は、かねてから個人的にFF音楽をロック調にアレンジしており、それが植松氏の目に(耳に)留まったことで、ロックアレンジアルバムの発売が実現する。それが2003年の「THE BLACK MAGES」である。ただしこれについてはドラムとベースはシンセ演奏という、「バンド」ではないものであった。

 アルバム発売後、ライブの企画が立ち上がる。もちろん福井氏と関戸氏がそれぞれキーボードとギターを担当することを前提に、スクウェア社内のスタッフにバンドへの参加を募った。ベースにはシンセサイザープログラマーの河盛慶次氏、ドラムスに宣伝の羽入田新氏、そしてもう一人のギターとして広報の岡宮道生氏が参入。このとき、岡宮氏が条件として「植松さんも演るなら」と提示したことで、植松氏自身もオルガンで参加することとなった。こうして6人編成となった「THE BLACK MAGES(以下TBM)」は1stアルバム発のライブをこなし、そして翌2004年には2ndアルバム「The Skies Above」をリリースする。もちろんメンバーらの手によって全曲バンド演奏され、ゲストボーカリストも招いてのサプライズの多いアルバムとなった。選曲・演奏とも非常に満足できる仕上がりである。

 その後、植松氏がスクウェア・エニックスを退社して自らの会社「SMILE PLEASE」を興したことで不安視されたこともあったが、植松氏はその後もスクエニ作品に参加。特に2005年の映像作品「FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN」においては、福井・関戸・河盛氏らを率いて楽曲を製作。岡宮氏と羽入田氏を欠いてはいるものの、そのサウンドトラックを「実質、TBMの3rdアルバム」とも発言している。

 が、正統な3rdアルバムについてはしばらく沈黙が続いた。FFコンサートへの出演や、2006年のDS版「FFIII」サントラにボーナストラックとして「最後の死闘」のTBMバージョンを収録するなど、活動は継続しているようだがフルアルバムの発表はなかなか為されなかった。そろそろネタが尽きたのだろうか?と囁かれながらも、ついに2007年末、3rdアルバムのリリースが告げられた。植松氏のSMILE PLEASEが発信する、自社レーベル「Dog Ear Records」の第二弾として(第一弾は「アナタヲユルサナイ」サントラCD)。

 そうして発売されたのがこの「Darkness and Starlight」。さすがに後期の作品からの選曲が多くなってきており、古参ユーザーからのウケはいまひとつだが、TBMの1st、2ndでは見送られた「ファンが聴きたかった曲」が補完されている(さすがにこれ以上はネタ切れかなという感もしてしまうが……)。前作にあった「ゲストボーカリストを迎えてのサプライズ」は今回も用意されており、なんとあの「FFVI」のオペラをロックアレンジしているのだ。それ以外はこれまで通りのロック・インストゥルメント。楽曲個別の演奏者クレジットが記載されていないことや、レコーディング風景を垣間見ることのできる公式サイトのムービーから、基本的にはフルメンバーでのバンドレコーディングがされているものと思われる。

 ただ、これは個人的に感じていることなのだが、今回のアルバムはミキシングがいまひとつのように思う。1stから一貫してミックスは福井氏が担当しており、純粋なバンドものという点で比較対象は2ndアルバムに限られるとしても、今回のミキシングは好きになれない。音が平べったいのである。奥行きやダイナミクスが感じられず、非常に「のっぺり」としている。原因は知る由もないし、前作がどのようにミックスされているかも知り得ないのだが、今回のミキシングは卓やアウトボードでじっくり音を練るタイプのものではなく、DAW内部でサラリと混ぜたような感触だ。確かにそういう時代ではあるし、もしかするとこの指摘はてんで的外れかもしれない。それにしても出音から2ndや「AC」のようなパワーが感じられないのは確か。そのため残念ながら「愛聴する」までには至っていないのが実際のところである。気にならない人にはまったく気にならないことかもしれないが、筆者はオーディオシステムの不調かと思ったほどだ。

01 Opening -
  Bombing Mission
(Final Fantasy VII)
原曲は「FFVII」の「オープニング〜爆破ミッション」。オーケストラコンサートでも定番の曲ですし、「VII」の世界的な人気を考えると立派に「FFの顔」となっている楽曲と言えます。TBMバージョンは、オリジナルに忠実なシンセストリングス+ベルによるイントロからスタート。シンセストリングスはパンニングされ、空間に広がりを与えています。ダン、ダンというパーカッションのアクセントがあり、主題部でバンドサウンドが乗ってきます。ギターとベースに埋もれがちですが、原曲を思わせる「ブンブンブン」というシンセベースもしっかり入ってるあたりは「わかってるな」という感じ。このイントロ部分はオリジナルよりもややテンポゆったりめですね。

そして1分21秒のクラッシュシンバルに導かれて「爆破ミッション」スタート!マーチ調のドラムスがテンポをキープしながら、ピアノとギターがユニゾンで迫り来るような、楽曲全体を支配するアルペジオを奏でます。原曲のブラスパートはもちろん、シンセブラスが担当。ギターソロやオルガンソロを挟みつつ、基本的には原曲のニュアンスを汲み取りながら進行していきます。担当楽器は変わっても、楽曲そのものの印象は維持している感じで安心して聴けますね。逆に原曲重視派以外には物足りないかな?とも。もっと暴れてくれ!というリスナーもきっといるでしょう。アレンジは福井氏です。

既に「ミキシングがイマイチ」ということは記しましたが、実はこの曲のみ、ミキサーを福井氏ではない別の方がやってるんですね。確かに2曲目以降とまとまりの質感は違うのですが、しかし「この曲だけ突出してる」というほどではありません。こうなると「マスタリングが悪いのか?」という気にもなってきました。ロックはもっと「突っ込んでも」いいと思いますが……。潰しすぎるのはカンベンですがね。
02 Neo EXDEATH
(Final Fantasy V)
FFV」のラスボス曲、「最後の戦い」です。イントロで最も強く出ている旋律は、原曲ではベースパートだったりします。なので出だしの印象はちょっと変わったと思います。しかしそれ以後は原曲の雰囲気重視。オリジナルにある要素(音色ではなく音符の、ね)はほぼ入ってると思います。筆者はかつて「FFV」のサントラレビューでこの曲に「メタルアレンジしてもイケそう」と記しましたが、まさしくこういうこと!という感じ。怒涛の疾走感が気持ち良いですね〜。1分58秒からのギターソロは関戸氏かな?そして2分19秒からはミッチーにバトンタッチかしら?なんて、ライブの様子を想像しながら聴くのもいいですね。アレンジは岡宮氏の手によるもの。
03 The Extreme
(Final Fantasy VIII)
FFVIII」のラスボス戦を彩った、同名曲のアレンジになります。原曲もSE的な音の中からアコギのアルペジオが現れ、ピアノが加わり……という構成で、それを忠実に再現しております。ただし原曲にあった「FITHOS LUSEC WECOS VINOSEC」のコラージュは割愛されてますね。41秒からの歪んだコーラス音色も、原曲にあった要素です。

そして、1分14秒からはベースとバッキングのギターが、いわゆる「FFバトルイントロ」を奏でて開戦!「VII」「VIII」は通常戦闘BGMからそれがなくなった作品ですが、ボス音楽の一部に組み込まれるという「ファンならニヤリ」の心憎い仕掛けが施されていたのです。さて、「VIII」はPS時代の作品ですから音色的にはそこそこのところまで到達しており、ベース、ドラム、オルガン、その他オケ系音色のイメージは固まっていたと言えます。なのでそれらのイメージはTBMバージョンでも原曲から外してはいません。新要素としてはギターになりますが、原曲のシンセパートを率先して受け持ち、2分38秒からは指がツりそうな早弾きを披露してくれます。

個人的には1分58秒からのハイハットの使い方が好きですね。リズム隊に原曲同様のタンバリンをちゃんと使ってくれたところも嬉しかったです。凄くマニアックですが(笑)。間奏ブレイク(2分58秒〜)の原曲再現度もバッチリです。このトラックも岡宮氏のアレンジになります。
04 Assault of the
  Silver Dragons
(Final Fantasy IX)
続いては「FFIX」の「銀竜戦」です。原曲はオケでまとめられていた曲だったので、変貌度で言えばアルバムで一番ではないでしょうか。アレンジはドラムの羽入田氏が担当しています。同じフレーズも、ロックでやると見事な「プロレス入場曲」風味に(笑)。失礼を承知で言うなら、原曲にこれと言ったツボがあったわけではないので、アレンジをどういう方向にするかはかなり試行錯誤があったのではないでしょうか。さらに言えばこの曲まで出てきたということは、「バトルアレンジ」をメインに据えての「TBM」はそろそろネタが尽きてきてるのかも。

2分22秒からのシンセソロも、音色のブっ飛び感やギミック、テクニカルな部分も含めて「飛び道具」の域を抜けてはおらず、ちょっと「苦しまぎれ」な感じはありますね。もっとも個人的にあまり原曲に思い入れがないからなのかもしれませんが……。サントラレビューでは何度か書いてることではありますが、楽曲の増加は楽曲単位の印象を弱めます。「FFIX」はその最たるもので、使用曲をサントラで網羅しきれず、「plus」なんてものまでリリースされています。ゲーム中の使用曲数は「FF」シリーズでも最多でしょう。その中の一曲をこうして抜き出されてもなかなか……「よりによってこの曲ですか?」みたいな。

でもユーザーの間ではこのトラック、アルバム中ではかなり人気があるんですよね……。筆者の感覚がズレてるんでしょうか。「FF」のアレンジ音楽としても、それと無関係のインストロックとしても特に突出したところはない、という感想なのですが……。
05 KURAYAMINOKUMO
(Final Fantasy III)
DS版「FFIII」サントラにボーナストラックとして収録されていた「"最後の死闘"TBMバージョン」を、曲名を改めて収録。「くらやみのくも」というのは、もちろん「III」のラスボスの名前でございます。個人的にはなんというか、DS版「FFIII」サントラまでバッチリ追いかけたファンだけの特典にしておきたかった気もないわけではない……。いやいや、やっぱりこういうものはあらゆるファンが共有できるのがいちばんですよねっ!ある意味でDSゲーム音源版「最後の死闘」だって、関戸・河盛コンビがアレンジしているという点では「プレTBM」であり、それはサントラでしか聴けませんし。ってことで(何が?)、曲のレビューはそちらから転載させていただきます。

アレンジ担当は福井氏。関戸氏によれば「2年ぶりの新録音」とのこと。DS版「III」のサントラに、何らかのTBM新曲を入れてはどう?と提案したのはプロデューサーの松下謙介氏だったそうです。構成はファミコン版サントラと同じ、序奏+本題の形。序奏はファミコン音を意識したシンセサウンドで奏でつつ、ギターの引っかきによるSEが散りばめられています。そこに強大なリバース音がフェードインしてきて一瞬無音となり、本題に突入。煽り立てる導入から福井シンセによる主メロ、2周目はギターメロとなります。ダウンビートの後にギターソロ、キーボードソロとTBMではお馴染みの展開を見せつつ、3周目の主題はオルガンからギターへとメロを受け渡しつつ、最後の最後にオルガンのアドリブがあって完結します。「テンポが速い曲なので、腕がどうにかなっちゃうぐらい弾きまくった」とは河盛氏、「ビルの1階から12階ぐらいまでを、階段を使って後ろ向きで上がる感じ」というよくわからない例えは関戸氏の談。

なお、今回3rdアルバムへの収録にあたっての変更・追加はないはずです。発表は先行しましたが、レコーディングそのものは3rdアルバムと同じく行われたもよう。
06 Distant Worlds
(Final Fantasy XI)
オンラインゲーム「FFXI」のオープニングテーマから、「Memoro de la Stono」(エスペラント語、邦題「石の記憶」)部分をのちにアレンジした「Distant Worlds」、それが原曲。ファン人気の高い楽曲で、そういえば今までTBMで「FFXI」はやってなかったなぁ〜と、このたびめでたく収録されました。アレンジ担当は福井氏です。筆者、サントラCDは持ってますし原曲との比較もできるんですけど、なにしろゲーム本編をプレイしてないので安易なレビューは控えたいと思います。考えてみればプレイする環境はいつの間にか揃ってたのですが、もうなんか「今さら……」なので。CDを聴いていない人にひとつだけ言えるのは、ガンガンのロックではないです。バラードですね。

ところで、トラック9「Darkness and Starlight」にコーラスで参加している清田愛未(今は"まなみ"という表記ではないそうです)さん、公式サイトを見ると本作に「コーラス&リコーダー」で参加していると記述されているのですが、リコーダーというのはこの曲のことですね。ブックレットには記載されていないのですが……。筆者が見落としてるだけ?それとも常識?

ちなみに、表記は「ワールズ」だけど読みは「ワールド」だというルールは、TBMバージョンにも適用されるのでしょうか?
07 Premonition
(Final Fantasy VIII)
FFVIII」の魔女バトルでゲーム中、何回か耳にすることになる同名曲のTBMバージョン。というか、イントロの雰囲気はほぼ原曲です。シンセ音色がとてもよく似せられているためか、全体を通して原曲のイメージが強く残っています。アレンジは関戸氏によるもの。アルバムがよく「原曲重視」と評されるのは、この曲の影響がかなり強いんじゃないでしょうか。オルガンソロやシンセソロ以外の構成・展開もほぼ原曲のままですね。話は違いますが、右側で鳴っているゴリゴリのオルガンがカッコいいです。もろにロック・オルガンという音作り。オルガンといっても学校にあるようなものしか知らない人には、右側で鳴っているカタい音がなんなのかわからないかもしれません。

この曲がアレンジされたってことは、今後「Liberi Fatali」のTBMバージョンはまずないということですな。「Premonition」がそもそもそのアレンジと言える曲ですから。オケやコーラス隊と絡んで……という可能性はコンサートなどではあり得るかもしれませんが。
08 Grand Cross
(Final Fantasy IX)
「グランドクロス」ってなんだっけ?と思いつつ聴いたら、イントロですぐにわかりました。「FFIX」のラスボス戦、「最後の闘い」ですね。イントロで聞こえる「呻き声」は、「IX」製作当時に植松氏がシンセプログラマの河盛氏に「地獄の音を録ってきて」と指示し、河盛氏が作成したものの再現。というか、同じ素材を使っているんじゃないかな?と思います。アレンジも河盛氏が担当ですしね。

この曲も原曲のテイストが色濃く残っていますね。というか、PS時代の曲はパート数もそれなりに多いですし、音色的なイメージも固まってますから、それを払拭するのはなかなか難しいでしょうね。そりゃあファミコンやスーファミ時代の曲をアレンジするのとはワケが違います。1周も長くなってますから。古い曲……それこそ1周が1分あるかないかの曲をアレンジする際には、4分なり5分なりを「もたせる」ために、原曲にはない部分を構築しなければなりません。それだけアレンジにおける変わり具合(新鮮味と言ってもよい)は大きくなります。が、比較的新しい曲のアレンジは、サイズを引き伸ばすよりも音の置き換えがメインになってきます。ギターソロやキーボードソロを除いた楽曲構成は原曲準拠となり、どうしても「原曲重視」と評されがちになるでしょう。アルバム全体が「原曲重視寄り」とレビューされているのをよく目にするのですが、上記のような理由から、後期曲中心の本作においては指摘するまでもないことですね。

だからこそ、そこを崩して原曲と変えていくことももちろんできますが、ことゲーム音楽のアレンジにおいてそれをやると、「変えすぎ!」とバッシングされることの方が多いような気がします。作り手もそれは心得ているんじゃないでしょうか?多数派を取るか?少数派を拾うか?難しいところです。

さてこのトラック、TBMアレンジがどうのこうのと言うより、この曲は原曲のイメージが(個人的にですが)希薄なので……。「呻き声」のインパクトが最も大きく、楽曲そのものは「VII」「VIII」に比べたらどうしてもラスボス戦音楽としての「華」がありません。いや、それを言うならボスの存在感そのものが……。なんか「IX」の終盤ってイマイチ印象に残ってないんですよね。
09 Darkness and Starlight
(Final Fantasy VI)
さて!本アルバム最大のサプライズトラックがこちら。なんと「FFVI」のオペラを15分30秒のロック・オペラにしてしまいました。植松氏はいつか「ロック・オペラには挑戦したい」と言ってましたから、ある意味ではこれで悲願達成でしょうか。リリース前からTBMメンバーがコーラスをやっているという情報は出されていましたが、この曲だったんです。メインのマリア・ドラクゥ・ラルスはFFコンサートでおなじみ、太田悦世さん・渡邊澄晃氏・小田川哲也氏が参加。さらに「まほろば」でおなじみの清田愛未さんもコーラスで参加しております。渡邊氏はTBM2ndで「Mr.Goo」として「ザナルカンドにて」を歌ってましたから、TBM二度目ですね!もはや7人目のTBM。

冒頭は「序曲」です。ここで43秒から聞こえる「オー、オ〜オ〜」という女声コーラスが清田愛未さんでしょう。……で、突然のナレーションにビックリ。海外のシンフォニック・メタルに、たまにこういうナレーションの入ったものがありますが、日本語だとやっぱり多少の違和感が……。FF音楽ファンって海外にもたくさんいますが、外国人の方々はこれをどう受け取るんでしょう。英語で、「悠久の風伝説」みたいにするテもあったんじゃないかと思いますが、もしかすると植松氏が日本語にこだわったのかもしれませんね。ナレーション担当は郡正夫氏。ナレーターさんというよりリングアナをしていたり、イベントMCをしていたり(東京ゲームショーにも!)、ラジオで清田愛未さんと関わりがあったりする人です。

そして続けて渡邊氏の「おー、マリア〜」です。コンサートではオケを従えて歌っているものと基本的には同じです。歌詞も同じ。4分54秒からが「アリア」にあたる部分。太田さん演じるマリアがおなじみの歌唱を響かせます。7分46秒からが「婚礼のワルツ」、一転して明るい雰囲気に、しかしすぐに緊迫感溢れる曲調となり、楽曲のハイライトへ。ナレーションが煽り倒し、マリア・ドラクゥ・ラルスの掛け合いが始まります。「決闘だ〜」を受けて楽曲はアップテンポなロックになり、TBMメンバーのコーラスも加わってきます。「とーっても大事だ」のところで笑って下さい。いや、本人たちはマジメなんでしょうけど。

12分過ぎから、楽曲は終局に入ります。さすがに「大団円」には行かず、「アリア」に戻って締め括る、コンサートと同じ形です。

基本的にはコンサートで演じるものの、オケをバンドサウンドに差し替えたような形です。アレンジはメンバーがブロックに分けて担当。ライナーノーツの記述から推測するに、「序曲」部分(part1)を関戸氏、2回ある「アリア」部分(part2&4)を福井氏、ハイライトを含めた「婚礼のワルツ(part3)」が岡宮氏ということになっているはずです。原曲にない歌詞は植松氏が補っているもよう。

ファンの間では賛否両論なトラックとなって……いや、「否」の方が圧倒的に多いですね。「ナレーションがキモい」「コーラスがふざけてる」とかすごい言われっぷりなんですが、筆者としてはそんなところがむしろ「FFっぽい」と感じてます。過剰なサービス精神・時には悪ノリ悪ふざけ・結果賛否両論というのは、ゲームの「FF」だっていつもそうじゃありませんか?そもそも「FFVI」のオペラシーンって、そういうものの集大成だと思うのですよ。
10 Life
〜in memory of KEITEN〜
FF音楽ではありませんので、コメントは省きます。楽曲の成り立ちや意味については公式サイトで植松氏が述べておられますので、そちらを参照のこと。というかこの曲について語る術なんて、第三者である筆者は持ち合わせておりません……。ただただ、合掌。
コラム:とにかく「賛否」の分かれる「TBM3」・・・なぜ?
 TBMのアルバムの中で、最も賛否両論となった本作。各サイトのレビューや掲示板に書き込まれた感想を見ると、1枚目・2枚目は「賛」が多かったのに対し、本作はやはり「否」の方が多くが目につきます。ここではなぜそうなったのかを、ちょっとだけ考察してみることにします。まず、期待が大きすぎたのではないかと。もっとも、筆者としては予想できていたことではあります。1枚目・2枚目でファン人気の高い曲を惜しまず出していたこともあり、楽曲そのものの人気値という点で3枚目は、どうしても見劣りしてしまっているのです。トラック全体を見渡すと、ゲーム中でごく限られた機会にしか流れない曲ばかりで、通常戦闘曲がありません。それは即ち思い入れ・印象度の点で不利になります。ユーザーの感想でもよく指摘されていることです。「選曲がいまひとつ」という言い方をする人もいますね。もともとがゲームの音楽であることを考えれば、頻繁に耳にする曲が少ないということは確かにマイナスになり得るでしょう。

 また、初期の作品がないことも「否」に拍車をかけていると言えます。先行して発表されていた「KURAYAMINOKUMO」を除いて最も古いのが「FFV」のラスボス戦です。即ちオールドファンの受けが良くない。しかも「VIII」「IX」の曲が多いとなれば、スーファミまででシリーズから離れたユーザーからは興味の対象外となります。「FF」シリーズはしばしばPS以前・以後で区別されることから、本作はPS以後の「FF」を知らない人からすると楽しむことができないのでしょう。筆者は「XI」を除いてPS以後の作品もプレイしていますから、選曲自体に不満はないのですが、やはり1枚目・2枚目と比べるとそこがマイナスになっているのかな、と思います。

 面白いのは本作がよく「原曲重視」と評されること。そしてそれが「賛」にも「否」にもなっているのです。「原曲重視だから良い」「原曲重視すぎる、もっと変えろ」と両極端。「原曲重視」というのは音色的なことも楽曲の構成・展開も含めてのことだと思いますが、それは当然です。ファミコン時代の曲は実機の制約もあって短いものですから、アレンジにあたっては原曲にない展開をさせていくことになります。つまり曲を「伸ばす」必要があるわけです。原曲にしかないフレーズだけでやっていたのでは、4分なり5分にしたら飽きてしまいますよね。もちろん音色もピコピコ音からバンドサウンドになるのですから、どうしたって原曲とは違ってきます。一方、スーファミ後期やPS以後の楽曲については、原曲の段階で音色イメージは固まってますし、長い曲を作れるようになり展開が豊富になっています。このようにもともとの楽曲の性質から異なるわけですから、初期の曲はアレンジ性が強くなり、後期の曲に原曲が色濃く残ってくるのは必然。そして後期曲が多くを占める本作は全体として「原曲重視」と言われることになるわけです。「賛」にしても「否」にしても、まずそこから考えないことには本質が見えていないと言わざるを得ません。もちろん原曲のイメージがどれだけ強かろうと、そこからさらに飛躍させることはできるわけですし、そこに期待したい気持ちは理解できます。せっかくのアレンジなわけですからね。原曲重視がいいならサントラ聞いてろ、ってことになりますから。でも、変えたら変えたで叩く人がいるのも事実。難しいですね〜。

 そして「Darkness and Starlight」。アルバム全体は「賛」とする人でも、「オペラだけは蛇足」「これに15分取るなら他の曲をいくつか入れてほしかった」と、とにかく不評なのです。とどめに「迫力がない」「音が軽い」「音作りがあまい」という、全体の音質についての不満。筆者も購入して聴いてすぐ音に違和感を感じたのですが、表現のしかたはそれぞれであっても多くの人が本作の「音」に不満を抱いているようです。当然のことながら「音が良くないアルバム」を愛聴する人はあまりいないでしょう。古い音楽の「音が悪い」は味になっても、最新のテクノロジーを用いて録音された音楽の「音が悪い」は欠点にしかなりません。結果、聴き込まれない→低評価、となります。

 発売前のTBMメンバーは「自信作」「楽しんで作れた」と本作を推していたのですが、それを受け取ったユーザーの多くがアルバムの「選曲」「アレンジ」「音質」いずれかを「否」と評している……。この温度差はどういうことでしょう。さすがに3枚目ともなると「ロックアレンジしました」だけでは驚いてもらえないでしょうし、ユーザーはより強い刺激を求めていくものですから、数を重ねるごとに評価は厳しくなっていくものではあります。それにしたって本作の「作り手と受け手の乖離」は尋常ではない気がするのですが……。

 1枚目は、一部メンバーが個人的趣味で「FF」の音楽をロックアレンジしていたものがそもそもの発端。言うなればそれは、一般的なユーザーと同じ視点・興味によって作られていたものだったはずです。2枚目は、初のフルバンド録音ということもあり、メンバーにも新鮮さがあったことでしょうし、受け手にとっても同様だったはず。3枚目は、それらの点についてもはや驚きはないということが大前提となっています。ロックで当然、バンドで当然。言わば初めて純粋な「内容勝負」だったわけです。しかもその前には「FFVIIAC」があり、「片翼」があったわけで、3枚目はそれらも含めてさらなる「上」を目指すことが求められたのです。しかし、制作はメンバーが「時間がない」を連呼する強行スケジュール。メンバーには本職があります。ゲーム音楽制作だったり、プロデュースだったり、宣伝だったり、学校の講師だったりといった「本職」をやりながらのアルバム制作。アルバムを作ることだけを生業にしている、いわゆるミュージシャンとは事情が違うのです。が、アルバムを出す以上は同等のものを出さなければ評価されない……。

 筆者は決して、本作を出来の悪いアルバムだとは思っていません。何度も述べているように全体的な出音は残念でしたが、選曲、演奏のレベル、そして過剰なまでのサービス精神にはじゅうぶんに満足しています。しかしながら上記のような「作り手と受け手の乖離」を見るにつけ、どうすればそれが解消できるのか?ということについて考えないわけにはいきません。ひたすらファンが望むものだけを作るのも、サービス。逆に作りたいものを作って世に問い、受け入れるか斬り捨てるかはユーザーしだい……それもまた、プロの姿勢。もしも4枚目があるのなら、締め切りを設けずに無理せず作り、いつの日か「1枚ぶん溜まったから出そうか?」という感じで、力を抜いて作る方がいいのかもしれません。期待されてるから、求められてるからアルバムを出さなければならない、そのためにアレンジしなければならない……というのではなく、初期のようにメンバー自身が「FF音楽ファン」の視点で、好きなときに好きなように。もちろん「バトル音楽中心」という縛りも捨ててしまった方が良いでしょうね。

 最後に書いておかなければならないのは、「何度も聴くうちに好きになってきた」という人も少なからず存在しているということ。音楽というのは不思議なもので、時間が経つにつれて感じ方がかわってきたりします。中には「FFVIII」や「FFIX」をあらためてプレイしたらこのアルバムが好きになった、という人もいるでしょう。いま現在の感じ方がすべてではありません。

ぜんぶ揃えたいTBMのCD。ライブDVDも発売です!
記念すべき1st バンドサウンドの2nd 賛否両論な3rd そして「FFVII AC」
1st、2ndアルバムリリースに際してのライブのもようは、植松氏のファンクラブ会員特典としてDVDが配布されました。つまり非売品であり、今から入手するためにはオークションなどで購入するしかありません。それに対して3rdのライブは、商品として販売されることになりました。Dog Ear Recordsから2009年3月25日に発売です。全12曲。120分というボリュームにMCやリハーサル風景も収録とのことなので、TBMファンはマストでチェック!


「黒魔道士」のバンド編成
 もうすっかりおなじみになった「THE BLACK MAGES」の面々ですが、3rdアルバム発売の頃にはだいぶ各自の経歴に変化が出てきたので、今回もあらためて御紹介しておきましょう。メンバーの変更・追加はありませんが、所属が変わっていたりします。

ギター:関戸"PTA"剛
もとコナミ出身で、スクウェアには1995年入社。以後「BRAVE FENCER 武蔵伝」「チョコボの不思議なダンジョン2」「オールスタープロレスリング」などの作曲を担当し、その傍ら「クロノ・トリガー」「ファイナルファンタジーI・II」のプレステ移植版のアレンジなどもこなしている。スクウェアファンにはギタリストとしてもおなじみで、数々の作品のサントラにギターで参加している。言うまでもなく、「THE BLACK MAGES」のメインアレンジャー。FFアレンジ曲満載の「DISIDIA FINAL FANTASY」でも数曲を担当。

ギター:岡宮"ミッチー"道生
元スクエニのプロダクションマネージャー。広報・宣伝関連の業務に携わり、メディアへの露出も多かった。ギターが数パートに渡る「THE BLACK MAGES」の楽曲において、ライブではオーバーアクションな「魅せる」ギタープレイで会場を沸かせる。関戸氏を「静」のプレイスタイルとするなら、ミッチーは「動」だ。スクエニ作品ではビジネスマネージャーとして「半熟英雄対3D」「FFCC」、Coプロデューサーとして「FFタクティクス」、プロデューサーとして「FFX」「ロマンシングサ・ガ3」などなどを担当。「半熟〜」ではボーカル曲のアレンジも担当した。2006年3月にスクエニを退社してキャビアに入社。ちなみにキャビアは植松氏が音楽を担当した「アナタヲユルサナイ」を製作している。その後キャビアはAQインタラクティブと社名変更し岡宮氏はそちらに移籍、宣伝として「KORG DS-10」発売の際には各種メディアに登場していた。

キーボード:福井"フクイしぇんしぇい"健一郎
関戸氏と同じくコナミ出身。コナミ時代には矩形波倶楽部に所属し、ライブでキーボードを担当していた。1995年にスクウェアに入社し、関戸とともに「オールスタープロレスリング」シリーズを担当する。ソロではシューティングゲーム「アインハンダー」などを担当し、テクノスタイルを押し出したキーボーディストならではのサントラが好評。フュージョン好きなところもあって、多彩なジャンルを操る。「FFVIIAC」のサウンドトラック製作では通常の楽曲製作のほかにコーラスアレンジ、指揮、ドラムプレイにと大活躍。また、DS版「FFIV」では同じく元コナミの仲野順也氏と組んでアレンジを担当した(仲野氏とは「プロジェクトシルフィード」でも組んだ)。関戸氏とともに「THE BLACK MAGES」の中核メンバーであり発起人。ステージではオルガン以外のシンセやピアノを縦横無尽に操る。2007年にスクエニを退社し、専門学校HAL東京のミュージック学部講師となった。とは言っても植松氏や岡宮氏らの参加した作品に今も関わっており、TBMを脱退した様子もない。なお、3rdライブよりニックネームを「フクイしぇんしぇい」と改めている(もちろん講師になったから)。

ベース:河盛"ニコラス"慶次
スクウェアサウンズファンには、シンセサイザープログラマとしておなじみ。FFシリーズを初めとして多くの作品を担当、我々の耳に届いている楽曲たちの音色的な印象は彼によるところが大きい。ゲーム中の音楽で使われている音色は植松氏が最初から作っているわけではなく、河盛氏の手によって膨らまされているのだ(簡単に言えば植松氏がラフな音色でスケッチしたものを、河盛氏がゴージャスにしてるってこと)。幾多のシンセを操る姿からは想像し難いが、力強く安定したベースでTBMの楽曲を支える。「FFVII AC」ではアレンジのみならず作曲もこなし、その後、DS版「FFIII」ではプログラマとしてではなく、関戸氏とともにアレンジを担当した。

ドラム:羽入田"ハニー"新
スクエニ宣伝関係の社員(最近では「FFX」や「FFXI」の宣伝を担当)ということもあり、おそらくミッチーとは旧知の仲。現在は同社のオンライン事業部推進・兼『FFXI』グローバルプロモーションプロデューサーを担当している。あまり表には出ない人ではあるが、「THE BLACK MAGES」を通じて、我々ファンにとってはすっかりおなじみとなった。パワフルなドラムプレイは愛・平和・神のタマモノ?!

オルガン:植松"ノビヨ"伸夫
言わずと知れた、我らがFF音楽の父。1stアルバム製作時は監修という形での関わり方だったが、ライブ及び2ndアルバムから本格参加。自ら作ったプログレ風フレーズに手を焼きつつも「まさか自分が弾くことになるとは」と笑ってみせるが、若かりし頃に培ったバンド経験がその体内で沸沸と温度を上げているはずだ。2004年10月にスクウェアエニックスを退職したが、TBMの活動には今後ももちろん継続して参加する。っていうかリーダーに抜けられちゃ困る!今回の3rdアルバムは氏の自社レーベル、Dog Ear Recordsからリリースされている。売り上げが自社の命運をダイレクトに左右するようになったのだ!


関連CD
ジャケット画像 DS版「FINAL FANTASY III」
オリジナル・サウンドトラック


スクウェア・エニックス
SQEX-10076〜7
2006年9月20日発売
JASRAC表記:あり
2ndアルバムは出た、「AC」のサントラも堪能した……。「ところでTBMの3枚目はまだ?」とファンが思い出した絶妙のタイミングでリリースされた、DS版「FFIII」のサントラ。ゲーム本編のアレンジを関戸氏と河盛氏が担当。特に、河盛氏がプログラマーではなくアレンジャーとなっていることに注目。これは「AC」での功績によって任されたものでしょう。しかし、それだけではこのCDをTBMの関連CDとする根拠にはなりません。実はこのCD、ボーナストラックとして「最後の死闘 THE BLACK MAGES Ver.」を収録しているのです。このためだけにCD買っちゃった人もけっこういるはず……。本作に収録されちゃいましたが……。

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