GAMERS EDEN ゲーム音楽 ゲームサントラ レビュー ファイナルファンタジー | |
FINAL FANTASY XIII Original Soundtrack | |
「FINAL FANTASY XIII」の作品中で使用された膨大な数の楽曲をほぼ漏らすことなく、CD4枚にパッケージしたオリジナル・サウンドトラック。ナンバリングの「FF」シリーズでは初めて、ゲーム本編において音楽をストリーミング再生していることから、ゲームでの音とCDに入っている音は限りなく同じものだが、やはり音楽単体で好きなように聴けるサントラの存在はありがたいもの。それぞれの楽曲は長めに収録されているものの、単なるループかと思いきや2周目で楽器構成やアレンジが大きく変わるものもあり、ゲームで聴き馴染んでいたはずの曲についても新たな発見があるだろう。 作曲担当は主題歌も含め、スクウェア・エニックスの浜渦正志氏(「FFXIII」後に退社)。オーケストラも打ち込みも得意とする氏が、あらゆる手法やジャンルを駆使して製作した「ハイブリッド」な楽曲は「まったく新しいFF音楽の新基軸」として何ら不足することのない仕上がりである。「なんとなく」ではなく、しっかりと計算され意味を持たされたモチーフによってストーリーやシーンに寄り添う、あるべき映像音楽の姿と言っても過言ではあるまい。 初回生産限定盤にはサウンドトラックの他に1枚のCDが追加されている。Webで公開されていた前日談エピソード「Episode Zero -Promise-」をもとにしたサウンドドラマを聞くことができる。 SQUARE ENIX 限定盤:SQEX 10178〜81(+10182) 通常盤:SQEX 10183〜86 2010年1月27日発売 JASRAC表記:あり |
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↑初回生産限定盤ボックス | |
↑通常版パッケージ | |
ゲーム紹介 「ファイナルファンタジー(以下、「FF」)」は、常にその時点での最新技術を惜しみなく投じ、変化していく作品である。旧作で評価の高かった要素も時にはばっさりと切り落とし、まったく違うものにすることも珍しくない。そもそも、「らしさ」の固まったRPGのもうひとつの雄「ドラゴンクエスト」ではクリエイター側とユーザー側の持つ「ドラクエ像」がほぼ一致している(それでも最近は、堀井氏も変わりたがっているように感じるが)のに対し、「FF」の「らしさ」は人によってまるで異なる。ユーザー間でも統一されていないし、クリエイターによっても違ってくる。「ドラクエ」は常に堀井雄二氏がコントロールをしているが、「FF」は作品ごとにディレクターや開発チームが変わる。それは各セクションのリーダーについても同様であるため、ゲームシステムはもちろんグラフィックの雰囲気、シナリオなど、すべての要素が常に変化し続けている。共通しているのは「時点最高峰のグラフィックと美麗なムービー」ぐらいだろうか。 新たなるハード「PS3」初の「FF」となる「FFXIII」は、変わり続け新しいものを投与していった結果、多くのユーザーの拒否反応を誘った作品である。もちろんユーザーごとの「FFの定義」は前述のように多岐に渡るため、常に何らかの拒絶はされてきたが、「FFXIII」ほど徹底的に否定されたナンバリングタイトルを筆者は知らない。開発を担当したのは、過去に「VII」「VIII」「X」「X-2」を手掛けてきた、通称「北瀬チーム」。古参ユーザーの中ではシリーズを「VII以前」「VII以後」で分けて考察するケースが目立つが、中にはこの「北瀬チーム」を「FFを壊した戦犯」と扱う者も少なくない。そして「FFXIII」の制作発表にあたり、告げられた「北瀬佳範プロデューサー」「鳥山求ディレクター」「野村哲也デザイナー」という布陣。「FFの定義はユーザーによってバラバラ」ではあるものの、シリーズを常に追いかけているユーザーにとってはある種、この3人の名前がまず第一の拒否反応を引き起こさせる要因となった。 「XIII」の開発には実に、準備期間も含めて5年の歳月を費やしている。まず、大きなひとつの核となる神話を立ち上げ、そこから派生する複数の作品を作るというコンセプト、その神話の創造にそれなりの時間が必要であった。それは「FABULA NOVA CRYSTALLIS(ファブラ ノヴァ クリスタリス=新しいクリスタルの物語)」と名付けられ、「FF」ではおなじみの「クリスタル」を再び前面に押し出しつつも従来のそれとは異なる「新たな物語」にしていくという決意表明でもあった。同時に無印の「FFXIII」も含めた、3つの「FFXIII」を冠した作品が進行中であるとも発表。「VII」のコンピレーション作品のような後付け展開ではなく、神話を元にして最初から複数の作品を走らせた。これが、「なんで"XIII"が3つもあるのか」という、第2の拒否反応を生んだ。 開発が長期化した原因としては、ハードの変更も大きい。当初、「XIII」はPS2用ソフトとして開発が進んでいた。その中でPS3が発表され、「XIII」のチームはそれに対するスクウェア・エニックスとしてのテクニカルデモを制作。「FFVII」のオープニングシーンをムービーでなくPS3のリアルタイム描画で再現したそれは、ユーザーの大きな反響を生んだ。その中には当然「FFVIIがPS3でリメイク?!」というものもあったが、「PS3はリアルタイムでここまでできるのか」と思わせるに充分だった。それはユーザーのみならずクリエイターにとってもそうであったのだろう、PS2版「XIII」の開発に戻った彼らのモチベーションは上がるはずもない。一度PS3を触ってしまったために、PS2での開発には戻れなかったのである。そもそもスクエニとしては「FFXII」において、PS2でできることはほぼやり尽くしていたのだ。そのような経緯もあって、「FFXIII」はPS3へとシフトした。 開発中も雑誌媒体やWebに対し、情報はしばしばアップデートされていった。この間も、毎度おなじみのアンチたちからの細かい拒絶はあったものの、今になって振り返れば「召喚獣が変形する」あたりから、クリエイターとユーザー間での亀裂が大きくなり始めていたように思う。ただそれは、小出しにされる情報に対する反応であり、まだ本格的な拒否ではなかったはずだ。「FFVII ACC」に同梱された体験版で初めてユーザーは作品に触れることができたが、「さわり」も「さわり」であったため、この時もそれほど大きな反応はなかったように記憶している。そうこうしているうちに「ドラクエIX」が不具合で発売延期になる騒動があり、一方で情報が出されず沈黙してしまった「FFXIII」はどうなったのかと危惧した時期もあったが、2009年12月17日に「FFXIII」はようやく発売された。ここからが凄かった。 待たされたぶんだけ、期待も高い。そこに望んでいたものがなかったとき、叩く力はより増幅される。一方で、最初から叩くことだけを目的としたアンチも血眼になって突っ込み所を探していた。そういった人たちから一斉にブーイングが起こるのに、さほど時間はかからなかった。「1本道」「レベルがない」「キャラクターのステータスが少ない=育成に魅力がない」「育成が"FFX"の焼き直し」「バトルがボタン連打」「MPがない」「仲間が勝手に動く」「やたら敵が固くて時間だけかかる」「戦闘が終われば全回復=ヌルい」「リーダーが死ぬと仲間が無事でもゲームオーバー→でもリスクなしでリスタートできるので緊張感はない」「街がない」「説明もなく投じられる独自の用語が意味不明」「そもそもストーリーが……」「キャラクターがイタい」「自由度がまったくない」などなど、「FF」シリーズに、いや、ゲームに興味を持っている人であればどこかで一度は見たであろう拒絶反応の嵐である。唯一、さすがに映像美だけは誰もが認めるところではあったが、それゆえに「結末を見るのにえらく手間のかかる映画」とも言われてしまった。決して少なくないユーザーがプレイを断念して中古ショップに売却し、ショップによっては「FFXIII」の買い取りを拒否するほど中古品が溢れ、それに伴って新品もかなり早い時期からその価格を下げた。ワゴンとまではいかないが、3千円台の値付けをする店舗も早々に現れていたのだ。ユーザー同様、ショップも「XIII」には期待して大量に仕入れたのだろう、きっと青ざめたに違いない。一方、メーカーとしては出荷した時点で売り上げになっている。結果、酷評されているのに異常に売れたゲーム……という記録が残ってしまう。初回出荷は180万本、発売日初日の売り上げでミリオン達成、初週では150万本に届いた。PS3ソフトとして初のミリオン達成であり、ハードの売り上げにも貢献。しかし、そのうちどれほどが中古に投げ売られたのか……。 アメリカでは、ユーザーがプレイして気に入らなかったゲームは返品できる、という話を聞いたことがある。もし日本でそんなシステムがあれば、「XIII」は別の記録を樹立したのではないだろうか。誤解のないように記しておくが、海外での「XIII」の評価は驚くほど高い。中盤までほぼ自由度のない、外人ゲーマーからは嫌われそうな作品なのだが、わからないものだ。一方で国内においても、さすがに極端な叩きは終息し、冷静な評価がなされるようになってきている。それでも高評価は多くはないようだが、さらに時間が経つとまた変わってくるかもしれない。発売直後の評価だけがすべてではもちろんないのであるし。 ここで、告白しよう。筆者は一度、本作のプレイを中断した。発売直後にプレイを始めたものの、どうにも違和感や嫌悪感が先に立ってしまい、プレイし続ける意欲を保てなかったのだ。自負するが、筆者は「FF」シリーズにはかなり甘い、メーカーやクリエイターには都合の良いユーザーだと思う。ファミコン作品は言うまでもなくスーファミ作品も等しく好きであるし、「VII」以降も変わらず好きだ。「X」だって、何の問題もない。初めて違和感を感じたのは「X-2」だったが、終わってみれば「FFではこれもあり」だった。「XII」は、久々のユーザーに媚びない作品として楽しめた。DS移植版「III」「IV」も普通に楽しめてしまった。もちろん個々に言いたいことがないわけではないが、ゲームとして拒絶することなどなかった。「FF」ってそういうスタンスだから、なにがあってもそれが「FF」だから、と理解していたからだ。しかし、「XIII」ではこちらの許容量をはるかに超える勢いで「気に入らないもの」が押し寄せてきたのだ。よく見られる意見として「11章までいけばとたんに楽しくなる」というものがあったが、それまでとても耐えられなかった。それが仮に事実だったとしても、全13章のゲームで11章に至るまでの過程が楽しくないのでは、それはもうダメな作品だろう、と。ナンバリングの「FF」で初めて、最後までやらなくてもいいと思えたのは自分でも驚いたほどである。自分の周囲でも、今回ほど「途中で投げた」と言う人に出会ったことはない。 そんな筆者がプレイを再開し(しかもあらためて最初から)、結末に至ることができたのは、音楽のおかげかもしれない。これは決して、サントラレビューとして都合のよい前フリを書こうとして構成した文章ではない。そこまで自分を偽ることはできない。事実である。嫌々ながらもプレイしていたときも、唯一音楽だけは気になっていた。モチーフの散らばし方、ある楽曲に特定の旋律が込められている意味、そしてそれがそこで流れる意味……。昨今の映画やテレビドラマは、そういった仕掛けに実に乏しいと感じる。サントラを聴いてもどれもが個別の曲で、モチーフの分散など行われていない。「FFXIII」は実に巧みにそれが行われた、映画・ドラマ・ゲームいずれの映像作品を含めても久々に正統派で優秀なスコアリングが行われた作品なのだ。しかも、それらは「FFXII」よりもわかりやすく効果的。「FFXII」のそれはよほど音楽に気を付けていないとわからない、後々からの分析を要する複雑かつ難解なものが多かったが、「XIII」では意識しなくともすっと耳に入り、自然に理解できるよう組み立てられている。その行く末が見たい……まさに、音楽に導かれるようにして筆者は「FFXIII」のエンディングに至った。 ゲーム本編のレビューは機会があれば「ゲームレビュー」でやりたいが、ここはサントラレビューなのでいいかげんに音楽の話に移ろう。「FFXIII」の音楽は、すべてをスクウェア・エニックスのコンポーザー、浜渦正志氏が担当している。制作発表直後は「XII」のように、主題歌関連は植松伸夫氏が担当することになっていたが、いつの間にか植松氏は外れてしまった。個人的には「XII」における植松氏の関わり方に納得がいっていないので、むしろ浜渦氏オンリーになってよかったとさえ思っている。本編と何の関連性もない曲を「はい、主題歌です」といきなりエンディングに突っ込む、本編における楽曲の組み立てを無視した「ブチ壊し」は、たとえFF音楽の父・植松氏であっても勘弁していただきたいのだ。それはタイアップと何ら変わらない。もっとも鳥山氏の「FFX-2」における倖田……まあいいか。 浜渦氏はこれまで「FF」関連については、まず「チョコボの不思議なダンジョン」の楽曲を手掛けたのが最初で、「FFX」で3名から成るコンポーザーの一人としてナンバリング初参戦し、「DC FFVII」をソロで担当した。北瀬プロデューサーは、「DC FFVII」の頃に制作の始まっていた「XIII」の音楽について「やはり壮大なオーケストラだろう」と漠然と思っており、「DC FFVII」での仕事を聴いて「オーケストラなら浜渦かな」と想定していたとのこと。実際に鳥山ディレクターから浜渦氏に正式な依頼があったのは、「2006年のE3の少し前」らしい。昔から「ドラクエ」や「FF」の熱心なファンであり、「こういう大作RPGを作る会社に入り、その音楽を手掛ける仕事をしたい」と思っていた浜渦氏にしてみれば、ナンバリング「FF」はまさに願ったり叶ったりということで、かなり気合いが入ったようだ。 氏は常に「ひとつの主旋律を大事にしたい」と主張するタイプの曲作りをされているが、今回はその手法の集大成とも言える。というのも、ディレクターと相談のうえで打ち出された音楽のコンセプトは「ハイブリッド」。未来とファンタジーの融合というテーマを「未来=テクノロジー、ファンタジー=オーケストラ」と置き換え、あらゆる楽器・音色・ジャンルを縦横に駆使して楽曲を設計することとし、生(もしくはそれを模した)オーケストラを主体としつつも、リズム隊にはロックやテクノなど打ち込みの音を組み込むなど、ゲームショウで公開されたPVで早くもそのコンセプトは実践された。しかし、その方法で曲を作り続けていくと、RPG・しかも「FF」なのだから開発とともに曲数が増えていくことは容易に想像でき、結果として統一感のないバラバラな音楽になってしまう。そこで重要になってくるのがモチーフ、主旋律である。演奏する楽器が異なっても、印象的な主旋律があれば作品を貫く「芯」はでき、統一感も損なわない。さらに個々の曲に関連性と意味が生まれ、「ただのBGM」に留まらない効果を発揮してくるのだ。 「ハイブリッド」=「オーケストラとロックの融合」というキーワードは浜渦氏が所々で発言していることだが、「ハイブリッド」ということではもうひとつの意味が存在する。それが、「生演奏と打ち込みのハイブリッド」である。浜渦氏はもともと、オーケストラにも明るい「理論のある」コンポーザーである(誤解を恐れずあえて言うなら、植松氏には「理論がない」ことは御本人も認めているところ)。ゆえに生のオーケストラやアコースティックな楽器の良さをよくわかっている。一方で、「声楽科にいたくせに、声を出す100倍はDTMにのめりこんでいた」と自分で言うほどの打ち込み職人でもある。言わば、浜渦氏自身が既にハイブリッドなコンポーザーなのだ。そこから生まれた発想は、打ち込みに生を重ねる「かぶせ」。海外の映画音楽では曲に厚みを持たせるため、そして正確なデジタル演奏の良さとあいまいな人間味を同時に持たせるためによく行われる技法であるが、日本ではどちらかというと打ち込みはデモであり、本チャンは生に差し替えることが多い(その際、打ち込みの音は破棄してしまう)。「FFXIII」において浜渦氏は、打ち込みも生演奏もどちらも活かす方針を採用。ワルシャワフィルのような大オーケストラで演奏する楽曲は別として、小編成のオケでもフルオケのような厚みを持たせられる方法として多くの楽曲で行われた。 同時に、ある課題も生じてきたと浜渦氏は言う。最近はソフトウェアシンセを始めとするプリセット・サンプルバック・シンセの音が日ごとに大容量化しリアルになっていることもあり、打ち込みだけの状態でスタッフからは「もうこれでじゅうぶんじゃないの?」と言われるというのだ。「オケにする必要あるんですか?」というような意味だろう。浜渦氏は、人間がその楽曲を理解し、自分の解釈で演奏することに意味があると感じているようで、言ってみればそれが音楽に「魂を持たせる」ことなのだが、打ち込みで「よし」としてもいいものなのだろうかという、環境の変化と技術の進歩に伴う新たな問題は「いまだ先送り」とのこと。同時に、打ち込みの段階でよしとする人の多くは、ゲームにより親しんだ人々(制作者も含む)であるとも分析している。つまり、打ち込みの音楽、コンピューターが発する音楽に慣れている人々ということであり、さらに言うならファミコンやスーファミ、プレステを経ているゲーマーにとっては、それらで発せられた内蔵音源による音楽と比べれば、最近のリアルなシンセの音による打ち込みは既にOKのレベルなのだ。そういった層に生演奏や生オケの良さ、その意味を伝えるのは、なるほど確かになかなかやっかいかもしれない。「FF」は幸いなことに音楽制作費もそれなりに潤沢であろうから、望めばオーケストラも使えよう。そうでない場合、「いや、打ち込みでじゅうぶんでしょ。お金かけて生にする必要あるの?」と言う人を説得するのはなかなか難しい。 少し話がそれるのだが参考として記しておこう。「ドラクエ」の音楽CDは同一作品のものについて、複数の楽団によるCDが個別に発売されている。初期の頃は「ドラクエ」の交響組曲はNHK交響楽団が演奏していたのだが、ある時期からロンドンフィルハーモニー管弦楽団に変わり、旧作についても録音し直されCDになった。当然ユーザーの間では比較が行われ、それぞれに「N響の方が好き」「ロンフィルの方が良い」と述べるわけだが、現状ではおおかたの結論として「ゲームにより慣れた人にはN響派が多い」「日頃からクラシックも聴く人はおおむねロンフィル派」とされている。普段から劇伴の演奏を行うことも多いN響の、スコアに忠実なカッチリした演奏は打ち込み音楽に抵抗のない人には聴き易く、一方で日頃からオーケストラに慣れ親しんだ人にとっては、ロンドンフィルの情感のある揺れた演奏の方が自然に感じるということのようだ。音楽の良し悪しというものは結局は聴く人の好みであって一概に「何が優れているか」と括るのは難しいが、優劣というものは必ず決めなければならないものだろうか? さて、いつになったらサントラレビューが始まるのかとそろそろ怒られそうなので……。そうして浜渦氏が熟慮に熟慮を重ね、様々な人の手を経て作られた楽曲たちは、ゲーム上ではストリーミングで流されている。内蔵音源は使用していないのだ。すべての楽曲がストリーミングで流されるのは、ナンバリングの「FF」シリーズでは初のこと(同じく浜渦氏が担当した「DC FFVII」では行われている)。同時にそれは楽曲制作から一切の制約がなくなることでもあり、前述のような生オーケストラや生ギター、歌唱などあらゆるアイディアと手法を惜しむことなく使っている。そしてこれがいちばん驚いたことなのだが、どの曲をどこで流すのか、どのタイミングで鳴り始めるか、どこで鳴り止むか……といった実際の使用については、鳥山ディレクターがそのほとんどを自らこまかく調整したとのこと。もとの楽曲の質もさることながら、筆者をエンディングまで導いた音楽設計が鳥山氏の手によるものとは、正直に言って恐れ入った(これについては、浜渦氏も鳥山氏には絶大な信頼を寄せている)。「FFX-2」という作品を生んだ男、「バハムートラグーン」をディレクションした男として……はたまた身内からも「妙なイベントはだいたい鳥山担当」と言われてしまうことから、これまで氏のことをなんとなく「イロモノディレクター(失礼)」と認識していた筆者であるが、改めなければなるまい。 それでは、一度はプレイを中断した筆者がもう一度ゲームを再開し、結末に至る動機となった楽曲たちを聴いていこう。本作における音楽設計の性質上、内容に言及することも多々あるので、ゲームを未プレイでかつ今後プレイする意志のある方には注意を促したい。もっとも、プレイしていない人が理解できるものを書くつもりは毛頭ないのだが……。また、いまだ「FFXIII」のすべてを肯定する気持ちにはなりきれていない状態であるので、作品に対して多少ネガティブな記述もする可能性がある。これは書いてみなければわからないが、閲覧される方には御理解・御了承のうえで読み進めていただきたい。 |
ネタバレ成分多数ですのでゲーム未クリアの人はご注意を。未プレイの方はぜひプレイしてみて下さい。
大前提のコーナー | |||
複数のモチーフがあり、それらが様々な楽曲に散りばめられた「FFXIII」の音楽設計。どのモチーフが何を表し、それがどの曲に入れられ、さらにそれがどこで流れるのかを理解すると、それぞれの曲の持つ意味、そしてそれが流れることにきちんと理由があることがわかってきます。ここではぜひ皆さんにもCDを用意していただき、ともに聴きながら「FFXIII」の音楽を理解するための準備をしておきましょう。もちろん、音楽がわかればゲームの内容もより理解し易くなる……はず……。 大前提1. 「誓い」モチーフ 浜渦氏がこのように呼んでおられるので、ここでもそのように呼びたいと思います。代表的なものとして、Disc1の2曲目、「FINAL FANTASY XIII 〜誓い〜」がありますが、これはゲーム中でも最も耳にするであろう、作品やストーリーを象徴する大テーマです。実にいろいろと姿を変えて、様々な楽曲に組み込まれています。「XIII」のメインテーマと言っても良いでしょう。 同時に、この曲を聞けば多くの人が「セラのテーマ」だと思われるでしょう。しかし、確かに「セラのテーマ」としても使われていますが、メロディそのものが彼女を象徴しているわけではないことに注意。ルシにされてしまった者の想いや運命といったものから、それにまつわる人々との誓い、約束もシナリオ上の重要なテーマ。このメロディはどちらかというと、そういった「想い」「絆」といった、精神的な繋がりに対して付けられているものと解釈した方が正しいような気がします。直接的にはセラが関係してこないシーンでも流れることがあるからです。もちろんセラに対して充てられているケースも多々ありますが、彼女も含めたもっと大きなものを包み込んでいるようです。 大前提2. 「閃光」モチーフ バトルテーマ(Disc2-1曲目、「閃光」)に代表される、第二のメインテーマがこちら。ガラリと姿を変えて「ライトニングのテーマ(Disc2-10曲目)」になったり、「誓い」モチーフほどではありませんがこちらも多用されているモチーフです。ただし、ライトニング個人のテーマと言い切ってしまうと誤解が生じる可能性があります。「ファングのテーマ(Disc4-1曲目)」にも組み込まれているからです。筆者としてはゲームを最後までプレイした結果、暫定的には「運命に翻弄されつつも抗い戦う者たちのテーマ」、という理解になりました。そう考えると、「ライトニングのテーマ」のようにバラード調になったとしても、力強く感じます。 大前提3:キャラクターテーマ 大きなメインモチーフ2種に加え、キャラクターのテーマモチーフも存在しています。ライトニングとファングは「閃光」、セラは「誓い」で兼ねていますが、他に最も頻出するのはヴァニラ。彼女は作品のナレーター的立ち位置でもあることから、ちょっとした彼女のモノローグに「ヴァニラのテーマ(Disc3-6曲目)」がよく流れます。 特によく出るのがスノウで、彼のテーマ曲(Disc1-11曲目)はけっこうな数、アレンジされて登場します。もとがロック調の曲なのでわかりにくいのですが、「スノウのテーマ」の1分8秒からのメロディに注目して下さい。これは例えばDisc2-19曲目「希望なき闘争」、Disc3「償い」など、様々な曲調に変化し多用されているのです。一方でホープは、彼のテーマ曲「ホープのテーマ(Disc3-1曲目)」、そのスロウバージョン「お前の家はここだ(Disc3-4曲目)」といったアコースティックギターバージョンはあまり使われず、ピアノその他でアレンジされた「恩讐の果て(Disc2-20曲目)」が最もよく聞かれました。 これらキャラクターテーマも含め、敵側の曲についても個別の楽曲レビューで詳しく紹介します。 以上、3つの大前提をふまえたうえでレビューを読み進めて下さい。 |
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凡例 | |||
↓CDトラックナンバー | ↓英語曲名 | ||
01. | FINAL FANTASY XIII プレリュード | Prelude to FINAL FANTSAY XIII | |
↑日本語曲名 | |||
これを追うと楽曲の流れるゲーム中での位置、前後の流れがなんとなくわかります。 |
Disc1
01.FINAL FANTASY XIII プレリュード Prelude to FINAL FANTSAY XIII
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徐々にスニーク・インしてくるため、起動直後にテレビのボリュームを疑ってしまう、本作の「プレリュード」。起動デモで流れるものです。いわゆる「FF」の「プレリュード」とは関係なく、オリジナルのテーマになっています。マーチングスネアと空間的なパーカッシヴ・パッド、ピアノがゆっくりとその存在を明らかに。ピアノがごく小音量で奏でている繰り返しの音型は、「ゲームに統一感を出すべくそこかしこで聞こえる"FFXIII"の足音」で、7曲目の「パージされる者たち」ほか、いくつかの曲で似たような音が使われています。モチーフというほどではありませんが、ゲームに統一感を出すための工夫のひとつ。 1分31秒からが「大テーマ」とも呼べる部分で、壮大・雄大にして覚え易いメロディが弦とピアノで奏でられます。管群もそれをしっかりと支え、一体感のあるオーケストレーションはゲームの「つかみ」として絶大なパワーを持っていると言えるでしょう。1分55秒あたりからの部分は「ヴァニラのテーマ(Disc3-6)」も含んでいます。ナレーター的な役割を持ち、ゲームを俯瞰で語るヴァニラのテーマ曲に「プレリュード」と共通した部分を盛り込むことにより、立ち位置を明確にしているのです。 浜渦氏によれば、起動後デモ用の音楽としては、テンポの速いマーチ調のものがデモとして用意されていたとのことで、それは「新しい"FF"を作りたい」という制作陣の意気込みも受けてかなり元気な曲調だったとか。しかしゲーム本編の世界観を把握しきれていない段階で制作したため、かなり元気なものになってしまい採用はされなかったとのこと。同時に、それが本作唯一のボツ曲だそうです(これだけ曲数があるのに、それはそれで凄いですけど)。開発末期に「そろそろデモムービーの曲を作らなければ……」と制作されたのが、製品版のこの曲ということになります。こちらも、ボツになった「元気曲」とともに試作し眠らせてあったものだそうで、それをほぼそのまま乗せてみたらバッチリだった、最初の狙いは外れてなかったと、植松氏の「ザナルカンドにて」もびっくりの奇跡を浜渦氏は振り返ります。 このプレリュードを受けて、「急遽アレンジして、重要なところでもう一箇所、このテーマが鳴ることになった」とのことで、それは曲をお聴きになればわかる通り、「FINAL FANTASY XIII 〜奇跡〜(Disc4-17)」ですね。このプレリュード自体、できたのが浜渦氏いわく「開発末期」とのことで、冒頭のデモムービーに乗せる曲がそんなギリギリの頃に作られたということも驚きですが、ゲーム終盤のあのイベントはさらに後ということに。 |
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02.FINAL FANTASY XIII 〜誓い〜 FINAL FANTASY XIII - The Promise
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ソフトなピアノで紡がれる、ある意味では本作最大のテーマ曲である「誓い」。このような、一歩間違うとただのBGMになってしまうような曲調でありながら、聴いた瞬間に口ずさめるメロディを生み出すのは並大抵の苦労でないことは容易に想像できます。映画、ドラマ、ゲームなどあらゆる映像作品に劇伴音楽はつきものですが、「これがテーマでござい」と言いつつもまったく主張性に欠け、さほどの効果を生んでいないものも少なくありません。「閃光」が生み出された経緯なども把握したうえで考えるなら、この「誓い」を制作するにあたり浜渦氏はじっくりと熟考されたに違いありません。そしてもたらされた「覚え易さ(主張=曲の強さ)」と「旋律の説得力」を様々なアレンジへと派生させ、時にストーリーを支え、時には引っ張る役割を担っているのです。 「FFXIII」を斬って捨てたユーザーは少なくないでしょうが、少なくとも一応は最後までプレイした人であれば、この曲のことは覚えているはず……と思いたいのですが、ネットのユーザーレビューを見る限り「曲が印象に残ってない」というような記述ばかり。きっと義務感だけで嫌々プレイしていたのでしょう。そうでないなら、「耳ついてんのか?」と問いたい。これほど完成度が高く、かつ柔軟性のあるテーマ音楽はめったにないですよ。 1曲目のプレリュードと同様、浜渦氏がまだ「FFXIII」の世界観を把握していない頃に手探りで作った曲とのこと。4パターンほどのデモを、ゲームディレクターの鳥山氏とともに組み合わせを模索しながら構築、リアレンジして形にしたとか。そうしてできあがったものを外部の作編曲家・大森俊之氏にアレンジ依頼。浜渦氏の緻密なデモに「打ち込みのままでもいいのでは?」と大森氏は言ったそうですが、体験版の最初の曲でもあるし生演奏で……と差し替えをお願いしたそうです。結果、ピアノにハープが足されたり(15秒からピアノとユニゾンで鳴っています)、シンセが弦になったそうです(左側にいる副旋律、1分4秒からの後奏など)。デモバージョンも聴いてみたいですね。 なお、大森俊之氏は主に映像音楽を活動の舞台としている方で、映画・ドラマ・アニメーションなど作品多数。テレビ番組のテーマ曲も作られております(→Wikipedia)。「FFXIII」プロジェクトでは主に国内でのオーケストラレコーディングに伴うアレンジ&オーケストレーションを担当しております。 |
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03.第13日 The Thirteenth Day
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広大な大地に敷かれたレールを高速で疾走する乗り物。そこに乗っているものと思しき、うつむいた人々。「目覚めてからの13日が
世界の終わりの始まりだった」というモノローグが被さる、出だしからやたらに謎めいた導入ムービーに付けられている曲です。最後の「ボコオン」という、心拍音とも泡の音ともとれるエフェクト音(39秒)のところで、黒味に白文字で「FINAL
FANTASY XIII」と表示されます。 高音がうっすらと持続する緊張したシンセ、ピアノのタッチ、低音のドローンというシンプルな構成で、多くは語りません。タイトル画面の「誓い」、そして次にくる「運命への反逆」の間を繋ぐブリッジとして、あえて邪魔をしないように作られているのでしょう。テーマ性などもありません。 |
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04.運命への反逆 Defiers of Fate
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パージ列車の中で行動を起こすライトニングとともにイントロが鳴り始め、ディストーションギターが奏でるリフ、重低音のシンセベースに導かれて始まる「運命への反逆」。続けてデジタルなエレクトロドラムが、ムービーの圧倒的なスピード感を煽り立てます。20秒からは本作のバトルテーマである「閃光(Disc2-1)」を組み込み戦いを彩ります。56秒のあたりでグリーンに染められたハングドエッジの風景が描かれ、その圧倒的なグラフィックに息を呑みつつも場面は進行、世界観や状況もまだつかめないまま怒涛の展開を見せていきます。楽曲が再度、イントロのようなリズム主体に戻ると重攻撃騎マナスヴィンが出現、パージ列車を強引に停めてしまうところで音楽も完結します。リズムやシンセなど、仕上げとも言うべき最終的なアレンジについては、シンセサイザーオペレーターの鈴木光人氏や山崎良氏の手が加わっています。一方、オーケストレーションはこちらも大森俊之氏。 2006年のE3用に製作された、「FFXIII」最初の曲である「閃光」初代バージョンから派生させてできたものであると浜渦氏。「閃光」は当初Bメロの構想があったそうなのですが、通常バトルでサビまで時間が長すぎるのもどうかと、最終的に製品版の「閃光」ではBメロは入れられていません(イントロ、Aメロからすぐサビへ)。なのでこの「運命への反逆」で、Bメロのモチーフを一部再現したとのこと。56秒のあたり、もしくは1分37秒あたりでしょうか。 「運命への反逆」はゲーム中で何度か使用されていますが、実はサントラCDに入っているものはこの導入ムービーに完全に合わせたバージョンとなっており、その他の多くの場面では「-PLUS-」に収録されている「パラメキア突入バージョン」が充てられています(使用箇所リスト中、「別Ver」表記のもの)。そちらは「閃光」パート終了後のリズムパートがかなり長くなっているのです。 第4章での使用にあたっては閃光イントロ始まりになっており、ファイルとしては複数のパターンが用意されているもようです。 |
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05.ブレイズエッジ Saber's Edge
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本作で言うところの、「ボス戦BGM」。ルート進行を妨げシナリオの節目となる箇所で強制的に戦わされる、手強い敵たち。初出はゲームで初めての戦闘となる、チュートリアルも兼ねたマナスヴィン戦でした。以後、上記のようにあちこちで流れています。通常戦闘の「閃光(Disc2-1)」が「ロック・テクノ・オケのハイブリッド」ということもあり、ボスバトルは正統派のオケ曲に。重厚なオケのバッキングを従え、序盤のメロ(16秒〜)はハープとピアノが掛け合うという、浜渦氏らしいバトル音楽となっています。中盤以降は勇ましい金管が楽曲を盛り上げているように、全体的には「強敵とのバトルでピンチ!」という雰囲気を醸し出しつつも、プレイヤーを鼓舞するかのような曲調に寄っています。1分10秒からは単なるループのようでいて、楽曲はさらなる展開を見せます。こういった「楽曲の表現力の向上」は生演奏レコーディングを多用し、それをストリーミングで流すことで可能となったこと。生演奏をすれば、1回目より2回目をさらに盛り上げようとするのは自然なことですよね。それによって「飽きさせない」という効果も生まれるのです。ボス戦は長くなりがちですから(特に「FFXIII」は……)。生オケのアレンジはこれも大森俊之氏が行っておられます。 この曲では、かっちり作られた打ち込みのうえに生オケを被せるという、浜渦氏が言うところの「かぶせ」が行われています(もちろんこの曲だけではなく、他の多くの曲でも行われていますが)。通常、多くの楽曲製作においては打ち込みはデモ、本チャンで生に差し替えるものですが、「FFXIII」においては「どっちも活かす」ことがほとんど。結果として生演奏が持つスケール感や迫力といった表現力と、打ち込みの緻密なディテールが両方楽曲に与えられ、それによって「FFXIII」の壮大な世界観に応えていったのです。なお、「オケ&打ち込みどっちも活かし」は、ハリウッドをはじめとした映画音楽の世界ではわりとポピュラーな手法。 もちろん双方の「おいしいとこ取り」はヘタをするとグチャグチャになることもあるわけで、その方法論の確立には時間がかかったと浜渦氏は語っています。段取りとしてはデモとともにアレンジャーにオーケストレーションを依頼し、それぞれ録音したものをミックスする作業に至るわけですが、浜渦氏の打ち込みは「これでいいんじゃない?」と多くの場面で言われてしまうほどに完成度が高いものだったため、「だけどあえてオケも、生も欲しいんだ」と説得するのはなかなか大変だったのではないかと想像します。「これでじゅうぶん」に聞こえる完成度のものに対して、さらにオーケストラやら何やらの投資をすることにゴーサインを出す「上」はなかなかいないですよ、ふつう。お金がかかりますから。それでもできたのは「FF」だったから、というのも多分にあると思います。 |
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06.封鎖区画ハングドエッジ The Hanging Edge
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第1章のマップ、ハングドエッジの移動中BGM。マナスヴィン戦直後のイベントのあと、場所の名前表示とともにフェードインし、そのままマップBGMになります。緊張感のある持続したストリングス、テンポ感を出しプレイヤーに「行け!」と迫ってくるようなピアノ、次第に厚みを増していく低音弦の刻みとリズム楽器たちですが、全体的には煽り立てるというよりも「静かに急がせる」ようなトーン。はっきりとは目的の明かされていないプレイヤーキャラたち、見知らぬロケーション、得体の知れない敵という「プレイヤーの戸惑いと不安」に添った楽曲と言えるでしょう。1分39秒からはループ……と思わせつつ、アドリブ風味のヴァイオリンソロ(1分45秒〜)が加わるなど、ただ垂れ流されるだけではない音楽演出が行われています。所々に混ぜられている、飛行機の通過音を思わせるSE(効果音)もゲーム中ではやたらに効いてます。プレイ中は完全に効果音だと思っていたのですが、まさか曲に混ざったものだとは……。後に、第7章で再利用されています。 「FFXIII」の音楽コンセプトである「ハイブリッド」の例としてはどうしても「閃光」などが取り上げられがちですが、浜渦氏に言わせるとこの曲も「ハイブリッド」。「閃光」をバイオリンとオケ、ギターのハイブリッドとするならこの曲は「弦楽・ピアノ・シンセ」のハイブリッドとのこと。要素としては弦やピアノといった生が勝ってしまうところ、ミニマルな雰囲気にすることでシンセ側に寄っていいバランスになった、と浜渦氏は分析しています。そのあたりはアレンジの鈴木光人氏が貢献しているのでしょう。弦をはじめとしたオケのアレンジはやはり、大森俊之氏。いろいろな人の手を経て完成させているんですね。そこまで音楽に時間とお金をかけられない開発においては、すべて作曲担当の作業となるわけで、そうするとどうしても個々の楽曲のクオリティはなかなか上げられず……ということでは、「FF」は毎度のことながらとてもゼイタクです。もちろん、映像の質も上がる一方ですから、もう既に今のゲーム音楽(特にRPG)は「シンセ打ち込みだけで仕上げた曲」では対応しにくいこともあります。 |
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07.パージされる者たち Those For the Purge
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ハングドエッジで挿入される、ライトニングとサッズが敵を警戒しながら会話するイベントシーンで初出となる曲。「パージ」「下界(パルス)送り」「下界は地獄」など、プレイヤーにとってはいまだ事態がよく把握できないうちにキーワードが羅列されるイベントです。その他にも上記使用箇所リストを参照されればわかる通り、ゲーム中でかなりの頻度で耳にすることになります。曲名の「パージされる者たち」はあくまで1章のイベントの内容を指したものであり、その他の使用については直接的にパージ云々とは関係のないところにも。「汎用不穏BGM」のような位置づけですね。それでも「ルシにされた者たち、ルシと関わった者たち(=パージされるべき者たち)」の不安と戸惑いを描くシーンが多くなっています。 持続する弦が「ブーン」と唸ることで低音部分のベースを作り、そこに重めのリズム楽器やSE的な歪んだシンセが加わっていき、厚みを持たせつつも劇伴然とした、セリフの邪魔をしない構成で進行していきます。1分29秒からはやや雰囲気が変わり、心情的な色合いに。序盤こそ不穏な空気だけで進んでいきますが、途中で心情的なメロや音色を入れることで、飽きさせないだけでなく楽曲に柔軟性を持たせ、あらゆる場面にマッチさせることができるようになるのです。セリフや芝居との親和性も上がり、ユーザーの感情移入度を引き上げます。ストリーミングによって音色数の制限を受けず、かつ1曲を長く作れ展開を盛り込める「いまのゲームならでは」の曲です。これも仕上げのアレンジは鈴木光人氏によるもの。 14秒から現れるA・D・C・H、A・E・C・D……と繰り返されるピアノはついつい耳に残ってしまう印象的なモチーフですが、浜渦氏によると「誰それのテーマというわけではなく、ゲームに統一感を出すべくそこかしこで聞こえる"FFXIII"の足音」だとか。ここまで聴いてきた中では、1曲目の「プレリュード」序盤にも似たようなピアノがありました(以降も指摘していきます)。なるほど……。つい、何のテーマなのか深読みしてしまいそうになりますね。浜渦氏は自分の作品についてわりと細かくコメントを残して下さることが多いので、こちらとしては助かります(笑)。それがなければ、「このモチーフはどれそれを表したテーマだ!」なんて的外れなことを書いてしまう可能性もありますから。たぶんウチのレビューも、作曲者が見たら「なにそれ、ぜんぜん違うよ」ってことがいっぱい書かれているかと……。皆さんもここに書かれていることを鵜呑みにせずに、自分の耳で音楽を聴きましょうね!(自分がやってきた過去のレビュー全否定) |
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08.帰るための戦い The Warpath Home
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ヘビーなパーカッションと意を決したかのようなマーチングスネアで幕を開けるこの曲、すぐ21秒から奏でられる金管のフレーズは「スノウのモチーフ」のアレンジです。ゲーム序盤は「ノラのテーマ」的な使われ方をしていますが、楽曲としてはそれを率いるスノウに寄っているわけです。3章や7章での使われ方も、すべてスノウに関係したシーンになっています。ゲーム中で最も早くに登場する、スノウモチーフからの派生曲です。 他の多くの曲とは異なり、この曲も生を被せるつもりはあったものの、体験版時点でスタッフからの評判が良かったため、あまり印象を変えない方が得策と判断し打ち込みのままになったとのこと。つまり、サントラに収録されているこのバージョンということですよね。最終的な仕上げとして手は加えているでしょうが、「デモです」と言ってこのクオリティのものを持ってこられたら、「これ以上なにをする必要があるの?」と言いたくなる気持ちはわかります。 |
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09.下界(パルス)のファルシ The Pulse Fal'Cie
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ズガーンという、鐘の音色も含んだ圧倒的なインパクトで始まるこの曲、ゲーム中では2回しか流れないイベント曲です。後半の盛り上がり方や尺から考えると、1章のイベント用に作られたものでしょう。40秒あたりからストリングスが奏でているフレーズは、後の「聖府代表ダイスリー(Disc3-16)」26秒あたりから顕著な「聖府モチーフ(勝手に名付けました)」の変形。音楽的に、ここから聖府の存在というものの伏線を張っているわけです。 こちらも体験版の時の評判から、あえてオール打ち込みにしたそうです。 |
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10.逃げてもいいの Face It Later
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冒頭、「ポロロロン」と鳴るピアノは「ヴァニラのテーマ(Disc3-6)」、「優しい思い出(Disc4-6)」のイメージをややマイナーな感じに。直後のピアノメロや28秒からの部分は「ヴァニラのテーマ」のサビ部分です(さらに言うなら、「プレリュード」の後半部分でもあります)。ゲーム中での使われ方を見ると、「ヴァニラのテーマ・暗めバージョン」と言っても良いでしょう。曲名からもわかる通り、もともとは1章のイベント用に作られたもののようです。曲の初出は序盤ですが曲そのものを製作したのは開発末期だったそうで、その頃には「ヴァニラのテーマ」も固まり、使いどころも確定していたことでしょうから、それもふまえたうえで「短い尺でも雰囲気をまとめやすかった」とのことです。 ムービーを見ながら浜渦氏がリアルタイムで弾いて作った曲とのことで、いわゆる即興や弾き語りの手法です。ということはきっちりした打ち込みのデータや小節(ポジション)がないため、生のフルート演奏者には何度か音を聴いてもらって録音したそうです。そういう、「見ながら録る」ときって、何に録るんでしょうね……。「録る」とは言っても記録するのはシーケンサーではないのでしょうか。DAWとかにオーディオとして録ってしまうのでしょうか。さらに、フルートといっしょにピアノも録るのではダメだったんでしょうか……。 |
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11.スノウのテーマ Snow's Theme
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言うまでもなくスノウのテーマであるわけですが、浜渦氏の語るところによれば、これがあって他のアレンジが派生……ということでもなさそうです。大きく「スノウモチーフ」があり複数のバージョンが同時進行していくなか、このロックバージョンが彼のメインテーマになった、ということのよう。デモから大きく改修するつもりだったようですが、モニター(テストプレイヤーから)好評だったのでほとんど変えずそのままにしたとのこと。ギターは「FF」音楽ファンにはおなじみの関戸剛氏。「素晴らしく上品です!」というのは浜渦氏の感想です。 叩き付けるような、ドラムとギターによる「ダーダッ」というインパクトを何度か続けたのち、17秒からはこの後テンポが上がりそうなパワフルなリフ、かと思いきや速くはならず、ビートとリフでゆったりと、しかし力強く進行していきます。「スノウモチーフ」ということでおさえておきたいのはギターのリフではなく、1分8秒からセンターのギターが奏でているメロディ。それが1分過ぎまで出てこないというのも「前フリ長すぎ!」という気もしますが、このヒロイックな旋律を「スノウのテーマメロディ」として覚えておきましょう。いろいろな曲に現れてきますし、もちろんそれが現れるということはそこでスノウが重要な役どころとなっているはずですから。唯一、第12章だけはスノウではなく、ノラメンバーの方にこの曲が充てられています。それにしても、どうしてメインのメロディ(スノウモチーフ)がこんなに小さく、うっすらと混ぜられているんでしょうか……。もっとドカンと出してもよかったのに。 「スノウモチーフ」は既に8曲目、「帰るための戦い」で既出です。「モチーフとかよくわからないし……」という人は、それとこの曲を聴き比べてみることをオススメします。同じモチーフがアレンジや曲調でどのように変化するか、よくわかると思います。 |
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12.遺跡 The Vestige
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「はぁ〜あー、はぁ〜あー」というコーラスは、浜渦氏の愛娘AYA嬢によるもの。彼女のこういう「揺らぎコーラス」は、スクエニ音楽ファンはわりとあちこちで聴いているはずです。この曲のコーラスはあくまでデモ用だったらしいのですが、本チャンでも採用に。いや〜、行く末が恐ろしい子ですよ……(制作時点で8歳だとか)。1分24秒以降の、不安定さを保ったまま歌い上げるところもそうですし、その直後のハモリも素晴らしい。ゆくゆくは彼女が、フランシスやMinaに代わってメインボーカルを務めるのでしょうか? 暗いシーンで、音楽も直球のマイナー曲にしてしまうと臭くなったり重くなりすぎるため、この曲のようなメジャーともマイナーともつかないコードを意識して多用している、とは浜渦氏の談。「FFX」のテイストにも通じるような、アジアンな香りのするパーカッションを多用しつつ、広がりのある暖かさとうすら寒さを併せ持つシンセパッドが空間を作っています。所々にハープのアクセントを加えながら、そしてコーラスです。普通に聴いても民族テイストのある、しかしどことは断定しかねる無国籍感を持った妖しげな雰囲気に満ちていますが、そのことが、コクーンから見ても未知の文化に満ちている遺跡内部に見事ハマっています。 |
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13.ラグナロク Ragnarok
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神々しくも妖しい雰囲気があふれるコーラスで始まる、ラグナロクのテーマ。この「ラーララ〜」という音型は今後、他の曲でたまに出てくるのでおさえておきましょう。ラグナロク絡みのシーンで、また違った形でこの音型が鳴ると、思わずゾワッとしてしまいます。出だしからベースにうっすらと鳴っている音はなに?と思われるかもしれませんが、オルガンですね。楽曲後半、徐々に盛り上がってくるとわかると思います。 ワルシャワレコーディングに関するオーケストレーションは作編曲家の平野義久氏に依頼。平野氏はアニメーション作品の劇伴を多く手掛けておりますが、幼少期の音楽体験としてまずクラシックから入っている方で、そのオーケストレーションには定評があります(→Wikipedia)。「FF」関連では、やはり浜渦氏が音楽を担当した「DC FFVII」のアレンジを手掛けていました。 ワルシャワ録音の楽曲で、パイプオルガンもオケ録音をしたホールで、コーラスはホール近くにあるラジオ局のスタジオで……って、なぜコーラスもホールで録らなかったのでしょう。輪郭が欲しかったのでしょうか?それとも、後でバラす(バランスの再調整などを行う)可能性があったため、パラにしておく必要があったのでしょうか。まあ、一括で録ってしまうと後々の微調整が難しいでしょうし、双方のカブリはどうしようもなくなってしまいますからね。ここでもオルガンとコーラスをバラバラに録っておいたことで、あとで「終焉の揺籃(Disc4-13)」にこの曲のオルガンを素材として使用……というようなこともできたのです。 歌詞はディレクターの鳥山求氏が書き上げたものを訳しています。 |
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14.あの日の空 In the Sky That Night
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「誓い=セラモチーフ」を明るく、小気味のよいテンポでアレンジしたバージョン。絵と関係なくさらっとアレンジしたとのこと。しっかりアレンジしてレコーディングする予定もあったそうですが、最初のバージョンのバランスがスタッフから好評だったため、そのままにしたとか。つまり、製品版に乗っているのは浜渦氏による最初の「さらっとアレンジ」ほぼそのままということになりますね。もとの曲が非常に覚え易い「メロの強さ」を持っているということもありますが、このバージョンは一貫してボーダムの花火シーンに充てられているため、とても印象に残るものになっています。 まあ、ここまでやっても気付かない人は気付かないんですよ、本当に。「FFVIII」のあれほど明確な、「EYES ON ME」関連の仕掛けにも気付かない人がいたんですから。そうなると、「どのあたりのユーザーレベルに向けて作品を作るべきか」ということも、作り手は当然意識しながらやるわけです(やってるはずですし、やってなきゃおかしい)。「どうせやっても気付かれないならサラッと流しておこうかなあ」「わかる人はわかるはずだからしっかりやらないと!」……これは音楽だけではありません。すべての物作りにおいて考えなければならないことです。映像が美麗であることを喜ぶ人もいれば、ゲームとして面白ければグラフィックなんか……という人も当然います。操作上のレスポンスも、気になる人は気になるし気付かない人は気付かない。謎解きは人によっては簡単、ある人には難しい。戦闘も……という具合に、万人に向けたゲーム制作では「どこに基準を置くか」が難しいのです(中にはデータをいじくってデタラメなプレイをする人もいるのです)。もしも、あなたが作り手だったら、どのように考えますか?本作の浜渦氏は、「わからない人にはわからなくても仕方ないけど、なるべくわかってほしい、気付かせたい」という作り方をしていると筆者は思います。 |
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15.永遠の誓い Promised Eternity
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浜渦氏によると、イベントの映像を見ながらリアルタイムでMIDIを重ねていって作った曲だそうです。形になるにつれ、映像のピークでは作曲中に感動して打ち震え……ということもあったとか。いわゆる「サブイボ」ですね。量産型の映像作曲職人も今ではかなりの数が存在しますが、やっぱり作り手自身が感動するって大事なことだと思います。作った本人がなんとも思わないのに、お客さんを感動させることなんてできっこありません。もちろん、きわめて「お仕事」的に、そういうツボをつくのが上手い人もいるとは思いますが……。まして「FF」はCGです。CGキャラのお芝居に音楽を充てて、自分で「打ち震える」というのは、よほど入れ込んでないとできないでしょう。ところで、浜渦氏がサブイボ立ったのはどのシーンでしょうね?ゲーム中でこの曲が流れるのは、上に挙げた3箇所。第4章ではないと思うのですが、遺跡のシーン?プロポーズ? そうして浜渦氏が作った曲は大森俊之氏の手に渡り、オーケストラアレンジをなされて生録音がされています。「自分のオケをここまで引き出してくれる方と巡り会えるとは……感無量です」と大森氏を絶賛する浜渦氏、レコーディングの際もサブイボ立ったことでしょう。出だしはピアノソロで始まりますが、1分7秒あたりから弦が加わり、感情を盛り上げます。弦、ストリングスとひとことで言っても、「FF」ではおなじみの浜口史郎氏の使い方ともまた違った感じがありますね。 58秒あたりのコードは、浜渦氏いわく「あえてこうした」「好きなんですね、こういうのが……」とのこと。なるほど、確かに変わった(聴きようによっては気持ちの悪い)音の重ね方になっています。ゲームでは気になりませんでしたし、このように「告白」されなければ特に掘り下げることもなかったであろうポイントで、それでもバラしてしまう浜渦氏。自分の「こだわりポイント」をなるべく多くの人に知ってほしいという音楽家としての欲求か、それとも「あそこ間違ってるよ」と言い出しかねない輩への先制攻撃? |
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16.Eternal Love (Short Version)
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いわゆる「ゲーム音楽」とは違うプロセスやアプローチが必要で、なかなか戸惑ったと浜渦氏が振り返る「FFXIII」の挿入歌「Eternal Love」。もちろん、作曲は浜渦氏が手掛けています。歌い手は菅原紗由理(→公式サイト/Wikipedia)。もちろんゲーム中では一度しか流れません。ゲーム中での他のテーマやモチーフが組み込まれているということはありませんが、そこは歌い手のレパートリーとしても違和感のないものにしないといけないわけで。メインのコンポーザーが主題歌・挿入歌も手掛けるということ自体が大事なんですよね。こういう曲だけ他の人にやられても……って思うんです。 逆に言えば、別にテーマモチーフを組み込むわけでないのなら誰がやっても問題ないだろう、仮にこれだけ植松氏がやってもいいだろうとも考えられるのですが、姿勢の問題だと思うんですよ。それはそのへんのタイアップと何も変わらず、諸々の事情や都合で「とってつけたもの」でしかない。メインコンポーザーが作品の世界観を理解し、他のいくつもの「劇伴」を製作した過程や心境も経たうえで主題歌も作るから、意味がある。単純な言葉で言えば「魂」なんですよね。とってつけた曲にはそれがないよね、と言いたい。もっと言えば、昨今の映画やらドラマやらの主題歌の大部分がそうで、CMの音楽と大差ないわけですよ。しかし、そういう「とってつけた」ものの方がお客さんにはウケる傾向があったり……。難しいですな。 楽曲自体は普通にJ-POPのバラードという感じで、特別良いとか悪いとか、特に新しいとか古いとかそういうことはありません。「"FF"の挿入歌」とは知らない人が聴けば何の違和感もなく「菅原紗由理の曲」でしょう。歌詞はびっくりするぐらい合ってるんで、鳥山氏とか野島氏あたりが絡んでるのかなとも思ったのですが、関係ないようですね。歌詞と映像(シナリオ)のシンクロ、PS3で見る美麗なハイビジョンムービーには初見の人を驚かせるだけのインパクトはあります。ただ、ゲーム中における使い方には少々疑問が残ります。けっこうテキトーなところでフェード・アウトしてしまうんですよ。完結させろとまではいいませんが、もうちょっと歌のフレーズとか意識できなかったのでしょうか?曲とムービーそれぞれの仕上がりタイミングは知り得ませんが、「できあがったムービーに曲を乗せて、尺いっぱいでフェードアウト」という「お手軽さ」はどうにかなりませんでしたか。せっかくゲームのために作ったんだから、曲の構成をいじったり、もしくはもうちょっと映像の方で融通をきかせるとか、すり合せをしてほしかった……。こういう演出的な「甘さ」が見えちゃうと、シーンがどんなに感動的であっても醒めてしまうんですよ。 |
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17.ビルジ湖 Lake Bresha
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「タラリラタラリラ」とスピード感のある弦の刻み、あたり一面氷に包まれたロケーションを描きながら疾走感を出しているピアノ、メロを担当する管などがバランス良くまとまったビルジ湖のBG。そこに37秒からのヴァイオリンソロがもうひと味を加えています。短いシーケンスの繰り返しによってあまり変化しない曲のようでありながら、実は細かく表情が変わっていきます。完全にループになるまで、各パートそれぞれが2度は同じことをしないような感じと言いますか、聴くほどに発見がある曲です。ゲーム中ではビルジ湖でしか流れず、流用はありません。 ヴァイオリンソロ以外はすべて打ち込みとのことで、説得力のある生ものが入るだけで「打ち込み感」がだいぶ緩和される良い例(さすがに管はシンセっぽさが残っていますが)。もともと1分半ぐらいの曲だったものを、マップ曲にしてはループが早すぎると感じてレコーディング前に急遽展開部を作った、とは浜渦氏の談。生モノを入れるにあたっては、そういう苦労もあるんです。全部打ち込みなら、あとでどうにでもできますからね。 |
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18.下界(パルス)のルシたち The Pulse L'Cie
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第3章のイベントで2回流れて以降、流用のないレア曲。イベント専用ということで尺も短く、あくまで背景音楽然としており主張するタイプの曲ではありません。使用シーンを見ると、なんとか音楽ナシでもいけそうなイベントですし、それこそ専用曲を用意しなければならないほどではないのですが、流用も見越して「こういうのは何曲あっても、足りなくなることはあっても余ることはないから」というような感覚で、汎用曲として作られたものではないか……。と予想していたら、「もともと"下界のファルシ(Disc1-9)"を汎用できるように、追加部分として作ったもの」と浜渦氏。なるほどなるほど。で、これら両曲を並べて再生するとコードとテンポが同じになるそうです。試してみよう! | ||||||||||||||||||||||||||
19.召喚獣 Eidolons
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熱い曲キタ!ということでタイトルそのまま、主に「召喚獣」と呼ばれる敵とのバトルおよび、それが活躍するイベントシーンなどで流れるバトル兼イベント楽曲です。だいたい召喚獣の登場から流れ始め、そのまま戦闘になだれ込む形になります。イベントから戦闘に入るタイミングは各所でバラバラなため、楽曲的にはあえて「ここまでイベント、ここからバトル」という区切りを考えず作っているようにも思えますね。さらに、本作の音楽では珍しく、あまり大きく展開せずに進行していくことも特徴。もちろん進むごとに細かいところはいろいろ変化しているのですが、基本的には「イントロ部」と「盛り上げ部」の繰り返しになっており、途中で大きくフレーズや構成が変わることはありません。これについてもあえて、イベントや戦闘をどのように貫いてもかまわないように、明確な区切り点を作らないようにしているのではないかと。 オケ、ギター、ドラムをぐちゃぐちゃに突っ込み、あとで精査していこうと思っていたものの、バランスが面白かったため「ぜんぶ活かし」にしたのだとか。ギターは効果音担当の斉藤ゆうすけ氏。浜渦氏によると、スクエニのサウンド部署にはギターの名手が多いとのこと。 召喚獣に関するシーンで流れるのは当然ですし問題もありませんが、それ以外になんか、曲調とノリだけで選曲しちゃったようなところが目につきます。まず初出の第2章からして、召喚獣がまったく関係ありません。せめて初出はきっちり召喚獣絡みにするべきでしょう。7章のグライフもそうですね。12章のは「カウントダウン(Disc4-11)」とのつながりでこの曲を使ったのでしょうが、楽曲の意味を考えるとこの曲でなくてもいいところ。「強い曲」は選ぶ方としてもついつい使ってしまいたくなるのはわかりますし、ツッコミ覚悟で使ってるんだとは思いますが。 |
Disc2
01.閃光 Blinded By Light
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2006年のE3に向けて、「FFXIII」のために最初に作られた曲。パッと聞くとノリ重視な曲にも思えますが、実にいろいろなことが考え抜かれた深い楽曲です。大前提としてあるのは、ゲームディレクター鳥山求氏と打ち立てた「ハイブリッド」という音楽コンセプト。オケ、ロック、テクノなどあらゆるジャンル、技法を持ち込み未来的世界観のある楽曲に仕立てるという命題のもと、RPGフリークでもある浜渦氏自身の「自分が聞きたい大作RPGの曲とは」という欲求、またE3においてPVに付けられる曲として「1曲で世界観の伝わるもの」「覚えてもらえるもの、しかし単純明快ではないもの」など様々な課題に対し、浜渦氏が出した結論は「サビの反復」。しかしただ繰り返すだけでは単調になりますから、音のアクセントの位置やコードを変えていけば、反復感を押さえつつも耳には残り易いものになるだろうと。そうしてできたのが、このキャッチーなサビというわけです。何を言ってるのかわからない人は、口ずさんでいただければすべて理解できるでしょう。 また、サビの反復は当初4回だったそうですが、それだとコードやバッキングの反復感がくどすぎるように感じ、3回にしたとのこと。さらにサビの前にBメロを入れることも想定していたらしく、こちらは何百、何千とバトルを繰り返すのだからさっさとサビに入った方がいい、サビまでにかかりすぎるのもタルかろうという判断から見送られ、イントロ→Aメロ→サビというシンプルな構成に。そのかわり、想定していたBメロの一部は姉妹曲とも言える「運命への反逆(Disc1-4)」に反映されているとのこと。 最終的なアレンジには山崎良氏も参加。「運命への反逆」でもアレンジに加わっていた山崎氏ですが、おなじく「運命への反逆」に名前のある鈴木光人氏は「閃光」には不参加ということで、山崎氏は曲のベーシックな部分に関わっているものと推測されます。浜渦氏によれば、「ロックテイスト」をこの曲にもたらしたのは山崎氏だそうで、「彼なしではこんなスピード感は得られなかった」とまで。そうして様々な要素を入れ試行錯誤しながら調整は続きましたが、「どうも抜けてこない」と悩む浜渦氏が自宅でデモを聞いていたところ、愛娘AYA嬢が「フルートがあればいいのに」とアドバイス(?)。フルートというのは彼女の本意ではなく、「フルート=凄く音の高い楽器」という思い込みから出た言葉で、どうやら「もっと突き抜けた高音域があればいいのに」と感じたもよう。そこで浜渦氏が試しにオクターブ上のヴァイオリンをうっすら被せてみたら、見事に抜けてきたんだとか!やっぱりこの娘、末恐ろしいぞ……! 弦によるイントロが重々しく「避けられぬ戦い」への突入を報せ、そこに加わるティンパニやシェーカーが危機感を煽り、流れるような弦のバッキングに乗せて勇ましい金管の旋律(12秒〜、Aメロ)が鳴り響きます。24秒からはそこにディストーションギターのリフも加わり、楽曲を単なるオケものにしない「ハイブリッド」のための要素が集います。34秒からは、ここまでおとなしかったドラムスがスネアのフィルインから本格参加してサビのリズムを先導すると、ヴァイオリンによるサビメロが。53秒からのダウンフレーズでいったん落ち着きを取り戻すかのようにクールダウンしますが、せわしなくドコドコと駆け回るタムによってスピード感は失いません。そしてループになります。聞き込めば聞き込むほど、よく考えられた曲だな〜と感心してしまいますね。なにより飽きがきません。これ、特に意識せずに聞き流してる人にとっては「それほどの曲かぁ?」という感想にもなりかねないんですが、ネット上の評判、そして身近にいる「途中で挫折した人」の意見を聞くと、この曲に関してはおおむね評価が高いですね。 個人的な好みを言えば、ドラムスはもっと出しちゃっても良かったでしょうね。キックはじゅうぶんと言えるほど出ているんですが、スネア、ハット、シンバルはもっとイけたんじゃないかと。「ロックテイスト」のキモになる要素だけに、ちょっと遠慮しすぎているのではと思います。 |
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02.栄光のファンファーレ Glory's Fanfare
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「FF」おなじみのファンファーレとは関係ありません。本作の完全オリジナルです。そういう意味では「FFX-2」とコンセプトは同じです。鳥山氏による植松色排除です……というほどの思惑もないような気がします。本作のバトルで従来の「FFファンファーレ」が流れたら、さすがに浮くと思いますので……。初出は第2章、ヴァニラとホープの対ゲパルト烈爪戦。 「閃光」の色を引き継ぐかのように、こちらも弦、ギター、ベース、ドラムというハイブリッドな構成となっております。しかしこれほど短いものでもフルで流れることはまれで、たいていはラストがフェードアウトしつつすぐに「バトルリザルト」に乗り換わります。これ、なぜなんでしょう……。別にフルで流してもいいのでは? |
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03.バトルリザルト Battle Results
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上の「栄光のファンファーレ」の直後に流れる、戦績画面のBGM。ひとことで勝利と言っても、その捉え方(戦いや、敵に対する感じ方)はキャラクターによって、そしてプレイヤーによってそれぞれ異なるだろう……という考えから、解釈が広がりやすいコード展開にしてあるそう。一方で、作品トータルとしての曲の雰囲気が散らばらないための対策として、「誓い」のモチーフが組み込まれています(27秒〜)。歌唱を担当しているのは、浜渦氏の友人であるという歌手のMina。氏いわく、Minaの声は氏の曲にはまり易いんだとか。歌のラスト(52秒〜)はアイヌ語で「4、3、2、1」と歌っています。またトータルの仕上げとして、ここでも鈴木光人氏がひと味加えているそうです。 個人的には、58秒からのキックのリズムに「閃光」のキックとの共通性を感じる……。一連のバトル組曲として、関連性を持たせてある?まさかそこまで……。 |
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04.つかのまの安息 A Brief Respite
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明るいほのぼのイベントや、行く先にささやかな希望が見えるイベントで使われるイベント汎用曲。常にそこにはヴァニラがいることもあり、この曲は彼女のイメージが強いですね。ピアノ、弦、ピチカート、木管に、パーカッションはトライアングルという少ない編成で、音にわざと隙間も持たせていながら「薄さ」を感じさせないのはさすがです。 「閃光」のヴァイオリンレコーディングにあたり、せっかく生のヴァイオリンを録るのだから1曲だけではもったいないと、この曲を作っておき同時に録音したとか。浜渦氏によればこの曲そのものは(「FFXIII」リリース時点で)3年以上も前の曲であり、「XIII」のために制作した大半の楽曲とも2年ほどの時期的な開きがあるうえ、まったくの想像で作ったものであることから、他の曲とは毛色がだいぶ違っているそうな。 |
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05.騎兵隊のテーマ Cavalty Theme
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いわゆる「専用曲」で、おそらくは第4章のイベント(上記使用箇所参照)のために作られた曲。最初は漠然と「騎兵隊のテーマ」的なデモだったものを、絵に合わせてアレンジし直しつつ仕上げていったものだとか。浜渦氏によると「途中にある和音の平行移動の盛り上がり(28秒〜)は、巨大なあるものが登場するタイミングに合わせてある」とのことなのですが、その「あるもの」とは言うまでもなく、ムービーにおける旗艦リンドブルムのこと。このことからも、この曲がそのシーンに合わせて作られたものと断定できます。もちろんその後、騎兵隊関連のイベントに何度か使われるようになっていきます。 かなり厚いオケ曲なのですがアレンジャー表記がないので、浜渦氏アレンジでのオケ録音+「かぶせ」でしょうか。序盤は淡々と始まるマーチなのですが、盛り上がり後は緩急をつけながら進行していくため、かなり長く聞ける曲になっています。 |
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06.脱出 Escape
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ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団による演奏。体験版を除くと、「FFXIII」本編では初めて、映像の尺に合わせて作られた完全な専用曲であるとのことです。浜渦氏は「これといった主題を持たない、映像音楽に特化した曲」と解説しつつも、「それでもやはり"誓い"や"閃光"のモチーフは入れている」と語っています。15秒からは「閃光」の変形、26秒で右側にいる金管が一瞬だけ鳴らすのは「誓い」、1分8秒からはかなりわかりやすい形で「閃光」、1分22秒からは再度「誓い」が来ます。激しく展開していく映像に逐一合わせていく作曲作業は「楽しかった」ようで、そうしてできあがったデモを平野義久氏に依頼してオーケストラ用のアレンジスコアを作成、そして本番……を経て完成したのが、このトラックになります。 ワルシャワ録音の楽曲に対しては「かぶせ」をしていないのか、サントラ中ではワルシャワセッションの曲は聞こえ方が他の曲と違っています。なんでしょう、空気感が違うというのか、アンビエンスも含めた「鳴り」になっているというか……。もちろん、録った場所が違えばそれは変わってきますし、それを他の曲と合わせるため機械的に音圧を稼いで前に出すというのも、わざわざこのような手法を採った意味を根本から覆すことになります。それに、最終的な結果としてこのバランスで正解だと思います。ワルシャワセッションの曲は「ここぞ」というようなムービーやイベントで使われることが多く、そこではたいていSEもセリフも最大限に頑張ってるんですよ。それで音楽もガッチリしてしまうと、もう「音のカオス」になってしまって聴いちゃいられません。ガツンと前に出て暴れるSEと、絶対的に聞かせなければならないセリフを、音楽が包み込むぐらいでちょうど良いんです。そうなると、空気感のあるワルシャワセッションのバランスはこれで正解なんです。 |
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07.撃墜 Crash Landing
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上の「脱出」が流れるムービーと、この「撃墜」が流れるムービーとの間にはもうひとつイベントが挟まるため、実際にはこの2曲が連続して流れることはありませんが、これらはワルシャワフィルでの録音においては1曲として録音されたとのこと。もちろんオーケストラアレンジは平野義久氏の手によります。 | ||||||||||||||||||||
08.アフロブルース Daddy's Got the Blues
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サッズが「あぁ〜あ」と溜め息をついたり、嘆いたりといったシーンにピッタリとくる、やたらにシブいブルース。ゲーム音楽にここまでアドリブ中心の、本格的生演奏ものが使われるとは……。ゲーム音楽を「ピコピコ」などと模していた時代からしてみれば、ほんと信じられません。もちろんこれも、ストリーミングだからできる曲。内蔵音源で打ち込み、いやいや内蔵音源でなくとも、打ち込みでこのギターとブルースハープのニュアンスは出ませんぞ。ギターを担当しているのは、浜渦氏の大学時代からの友人、田部井とおる氏(→公式サイト)。田部井氏は過去の浜渦作品にも参加しておられるので、ご存知の方も多いのでは?田部井氏にはギター演奏だけでなく、「FFXIII」においてはギターアレンジもお願いしているとのこと。ちなみに田部井氏、「FFVII」および「VIII」のサントラにも参加していたりします。ギターで?いえいえ、コーラスとして、です。「片翼の天使」でテナーを担当していたのです(「VIII」は「FITHOS
LUSEC WECOS VINOSEC」にテナーとして参加)。 もともとイベント専用曲として細かなデモがあったというこの曲、しかしブルースハープには自由にのびのび演奏してもらった方が良いだろうということで、デモをチャラにして演奏者にはイメージだけ伝え、根本から作り替えることに。録音はスクウェア・エニックスの社内スタジオで行われたらしいのですが、そのスタジオにはブースがひとつしかないそうなのです。しかしギターとブルースハープを別々に録るわけにはいきません。前述のように「イメージだけ伝えて自由に演奏」ですから、別録りはあり得ないわけです。ギターとブルースハープが「いっせーの、せ」で、かつ息を合わせてアドリブを入れて……となると、同時に録るしかないのです。で、どうしたか。マイクが複数必要なギターはブースで演奏、一方のブルースハープはコントロールルームで演奏……ということに。 「コントロールルーム」もしくは「モニタールーム」と言ってもピンとこない人の方が多いと思いますが、「コントロールルーム(CR)」というのは、レコーディングスタジオのミキサー卓がある方……です。つまり、他に人がいます。防音されたブースとは異なり、いろいろと雑音が起こり得る環境なのです。「じゃあ、コントロールルームから演奏者以外が出て行けばいいじゃない?」と思われるかもしれませんが、そうしたら誰が機械を操り録音するのですか?誰が、演奏をチェックしてOKを出すのですか?ということで、レコーディングエンジニアと浜渦氏がひっそりと息を殺すなか、ブルースハープは録音されたのでした。 |
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09.遺棄領域ヴァイルピークス The Vile Peaks
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浜渦氏とは「シグマ ハーモニクス」
で組んだシンセサイザーオペレーター・鈴木光人氏は、そのときの縁もあり「FFXIII」で数曲のリアレンジを任されています。その中でも浜渦氏が「もっとも大きくいじってもらった」と語るのがこの曲。浜渦氏からMIDIとオーディオのデータを渡し、それを鈴木氏が拡げるというスタイルです。ミックス(仕上げ)も鈴木氏とのこと。浜渦氏でもできるんじゃない?という気もしますが、鈴木氏はこういった「ギミックのある打ち込み曲」の上手さにはスクエニのサウンドチーム内でも定評があるとか。「FF」音楽ファンにわかりやすいところで言うと、「DISSIDIA FINAL FANTASY」
のサントラに数曲、鈴木氏の担当曲がありますのでチェックして下さい。シンセを巧みに使ったテクノっぽい曲はお手のものです。 ベチベチと打ち鳴らす重いキックと「ブンブンブンブン」という無機質なベース、空間を埋める低音の弦、緊迫感を高める高音の弦、そしてシンセのバッキングを骨にして淡々と進行しつつ、イントロから何かの無線通信音のような人声、異形のものの咆哮を思わせるホイッスル音など、「何が現れるかわからないゴミ捨て場」であるヴァイルピークスの、真っ暗なロケーションを何倍にも不気味なものにしています。トドメに突然鳴り響く、苦悶の呻きにも聞こえるナゾのコーラス(1分9秒〜)。こわい、こわすぎる!かと思うと、ふっと曲調が優しくなる部分(1分57秒)も組み込んであるあたりが浜渦氏、どんな曲にも救いの部分を作ってくれます。第11章では、やはり機械系の敵が徘徊するマハーバラ坑道に流用。「下界の機械のテーマ」ですね。ヴァイルピークスに捨てられている機械の残骸も、下界から引き上げたものの不要となったモノたちですから。 |
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10.ライトニングのテーマ Lightning's Theme
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「閃光」=「ライトニングモチーフ」を大きく印象付ける、ピアノと弦による情感的な「閃光」のアレンジ曲。「閃光」が「2006年のE3に向けて"FFXIII"のために最初に作られた曲」ですから、この「ライトニングのテーマ」は明らかに「閃光」からの派生、別バージョンと断定してかまわないでしょう。となると、「ファングのテーマ(Disc4-1)」も「閃光」派生なのが疑問になってくるのですが……。 初出は第3章。ビルジ湖を探索中、クリスタルとなり氷中に埋もれたセラを発見した一行がそれを掘り起こしているなか、「さよならだ」と先へ進もうとするライトニング。「見捨てるのか」と言い、根拠のない前向きなだけの理想論を重ねるスノウをライトニングが殴りつけるシーンでした。ショッキングにも聞こえるイントロがインパクト大で、しばしの空白をあけて奏でられる主題がライトニングの心情に寄り添います。このように、ライトニングが心情を吐露するシーンにおいて、彼女の印象的な言葉を受けて流れ出すことが多いです。切ない中にも力強さを秘めた曲調が、意識して迷いを捨てよう、そのためにはただ戦うしかないというライトニングの胸中に上手くハマっています。 浜渦氏が自身のソロアルバム「Vielen Dank」 を製作していたとき、「閃光」もピアノで弾きたくなって「なんとなく」アレンジしていたそうですが、それに弦を足したのがこの曲だということです。アレンジに大森氏の名がありますので、その弦は彼の手によるものでしょう(もちろん原型は浜渦氏が作っているのですが)。また、「閃光」の解説で「もともとBメロがあった」というような話がありましたが、結局「閃光」ではBメロはカットされたものの、こちらの「ライトニングのテーマ」には盛り込まれています(56秒〜)。 CDに収録されたこのバージョンとは別に「打ち込みバージョン」も存在し、こちらもスタッフからの受けが良く、ゲームに使われることも検討されていたとか(ということは、最終的には使われていないということでしょう)。その打ち込み版は、「サビで弦が白玉、バイオリンが副旋律」だったとのこと。 |
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11.サッズのテーマ Sazh's Theme
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浜渦氏が、「アフロブルース」のところで登場した田部井とおる氏とともに作り上げた楽曲。作曲段階から田部井氏に参加してもらい、ギターを演奏してもらってはそれをDAWに貼り込み、細かく打ち込んでいったとのこと。プロがこれをやればそれだけで完成品クオリティになりますし、音楽素人にしてみれば完全にOKなものになるわけですが、そこからさらにこだわってこそプロということで、「やはりこういう曲はすべて生楽器でないと!」と、田部井氏がレコーディング用にリアレンジ。生演奏でレコーディングされました。なお、作曲時に拍子を5/8にするか、6/8にするか迷っていた浜渦氏に、田部井氏が「両方入れたら?」とアドバイスしてこのような曲になったとも。 気合いを入れ、手間ひまを惜しまず作り上げた楽曲にしては、出番があまりありません。ゲーム中盤、プレイヤーの操作がサッズとヴァニラに移るマップで流れるわけですが、あとは大平原で発生する2回のサボテンイベントぐらい。印象付けるためには、もうちょっと曲を活躍させてあげたかったところ。ただしまったくの「空気」かと言うとそうでもなく、他のキャラクターテーマがわりと強い旋律を有しているのに対し、サッズのテーマはメロというよりも曲調でイメージを付けています。言わばジャジー、ブルージーな生演奏でギターを中心としていることで、他との差別化をしているわけですが、他と曲調が被ることがないためにすぐサッズとわかる印象の強さはあるんです。 また、計算なのか結果なのか、グラン=パルスで流れるチョコボのテーマ(Disc4-4「パルスdeチョコボ」)も生演奏のバンド風味で、サッズとの音楽的な相性が良いんです。サッズとチョコボはイベントでたびたび絡むため、サッズの音楽的なイメージをこのようなテイストにしておいたことが、良い結果を生んでいるのです。 |
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12.ドレッドノート大爆進! March of the Dreadnoughts
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オール打ち込みの曲だそうで、浜渦氏が自分のブースで「せーの」で録音……ん?打ち込みで「せーの」ってどういうこと?全パート、リアルタイム入力にこだわったとか?何にしても「せーの」という状況がわからないのですが、まあ御本人がそう仰るのですからそうなんでしょう。浜渦氏が「オケの打ち込みは大好き」「こういうのはいくらやっても飽きない」と仰る通り、楽しく打ち込んでいる様子が曲にも現れていますね。ん?「オール打ち込み」?サントラのクレジットでは大森氏がアレンジしたことになっているのですが……。最終的に「かぶせ」も行われたのでしょうか?確かにオールシンセにも聞こえますし、シンセだけではない生々しさ・瑞々しさもあるといえばあるし……。ナゾです。 もともと「どこの曲」「何に使う曲」と決めずに作られた曲だそうで、4章のドレッドノートイベントに当てたのはディレクターの鳥山氏。「ロボットの無垢な感じから何からピッタリはまった」「鳥山氏の選曲センスにあらためて感服」と大絶賛する浜渦氏なのでした。お気に入りの曲がピッタリ合うシーンに使われれば、そりゃあ作曲者冥利に尽きるというか、嬉しいですよね。逆にそういった曲が用意されていなければ、他の何らかの曲が流用されてそれで済んだシーンでもありますが……。ある意味、使用シーンすべてがそうなので、場合によっては「削られた曲」かもしれませんし、この曲がまったく別のイベントで使われた可能性もあったわけです。 |
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13.ガプラ樹林 The Gapra Whitewood
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浜渦氏が「サントラの中で、最も気に入ってる曲のひとつ」と語る、ガプラ樹林のBG(初出はガプラ樹林ではありませんが)。序盤からうっすら聞こえるボーカリーズはおなじみ、氏の愛娘AYAによるもの。最初はそれだけで、即ちインストだったのですが、ふと思いついたメロディを歌手のMinaに伝えて試しに歌ってもらったところ(33秒〜)、イメージにピタリときたため採用に。それによってふたつのバージョンができたため、ゲーム中で両方を使い分けることも想定されたそうですが、最終的にインスト版は未使用ということになりました。なお、インストバージョンは追加サントラ盤「plus」に収録されています。 初めてゲーム中でこの曲が流れてきたとき、「RPGのマップBGで、とうとうコレをやったか!」と思ったものです。浮遊感のあるふわふわとしたシンセ、鳥の声を思わせるエフェクティヴな音、弾んだリズム、そして何と言っているかはわからないけど何かイイ感じの声。部分部分にはどこか不安定さも感じさせるんだけど、全体では心地良くまとまっており、そして新しい。「新しい=良い」ということは決してありませんが、少なくともこの曲はハマっちゃってる。現在では「RPGの音楽」にはある程度、「こういうもの」という概念ができあがっていますが、「もっと自由でもいいよね?実験的でもいいよね?」と思わせてくれた曲でした。もちろんその根底には「FFXIII」の音楽制作について、ハイブリッドな手法で積極的に新しいことをやっていこうという前提があったこと、それもディレクター了承のうえであることが下地にあったわけで、あらゆる作品で許されるわけではありません。さらに「FF」シリーズというものがそもそも、実験に寛容であるということも味方していると言えるでしょう。 また浜渦氏は、「情景に合いすぎた曲は印象に残らない」というようなことも語っております。このガプラ樹林も情景に合わせ、もっとまっとうな曲にすることも当然できるわけですが、それだとただのBGMになってしまい、ゲーム中では合っているし邪魔にもなりませんが、後々まで覚えていてもらえる曲にはならないということのようです。あえて「これは?」と思わせるような、語弊はあるかもしれませんが違和感のある、引っ掛かりのある要素を加えることで、ゲームにも合わせつつ楽曲単体の印象も高めているのです。 |
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14.緊迫 Tension in the Air
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ゲームのみならず、あらゆる劇伴に必ずと言っていいほどある「緊迫」。リズムを成すパーカッション、低音の這うような弦+シンセ、緊張を持続する高音のシンセストリングスを骨格にし、徐々に盛り上がりをみせる弦の刻みがどこを切っても「緊迫」。どこからでも出られ、どこでも止められる「ザ・劇伴」です。 映像作曲家を生業にしていれば誰しも、「緊迫」という名の曲を数え切れないほど作っているんじゃないでしょうか。浜渦氏にとっては「緊迫」といえば「仲野節」だそうです。そう、「FFX」や「武蔵伝2」などでも浜渦氏と組んだコンポーザー、仲野順也氏ですね。「仲野さんが作るような曲を作ってみよう」と曲作りをし、そして最後はなんと仲野氏御本人に仕上げを依頼!結果、どこから見ても(聴いても)「仲野な」曲になっています。しかし、自分の色がまったくなくなるのも寂しいからか、「後半にはうっすらと"プレリュード兼ヴァニラのサビ"のモチーフも組み込んでいます」とは浜渦氏の談。2分20秒あたりから左チャンネル寄りでうっすら聞こえる管ですね。まあその意図はわかるのですが、使用されているイベント的にはそのモチーフが組み込まれていなければならない必然性はないです。ある種、単なる自己満足でしかありませんが、プレリュードに関しては「"FFXIII"を俯瞰で見る視点で」とか言ってしまえば解決ですか? |
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15.果てなき疾走 Forever Fugitives
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浜渦氏が「自分らしさが出た曲」と語る、ムービー専用曲。ゲーム中では上記の一度きりしか流れることはありません。スノウとセラそれぞれのモチーフを縦に横にと何重にも絡め、愛の深さを表現したのだとか。「愛の深さ……」音で表現するのはともかく、字で書くとクッサイな(笑)。具体的には、23秒から「閃光」がまずやって来ます。30秒からの広がりのある、キラキラしたところは「スノウのテーマモチーフ」。44秒からの金管は「誓い」、53秒からまた「スノウ」、1分1秒で「誓い」、1分23秒「スノウ」……メロディだけに着目するとこうなりますが、なにしろ浜渦氏なので対旋律とかでもっと複雑なことをしているかもしれません。ところで「閃光」が入っているのはどうして? | ||||||||||||||||||||
16.サンレス水郷 The Sunleth Waterscape
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「よくある、"メロの立ったオケ曲のダサいダンスバージョン"を作ってやろうと、半ば冗談半分で作った曲」だそうで、あれですよね、劇伴にありがちな「メインテーマの疾走感あるバージョン」とか、「"パイレーツ・オブ・カリビアン"のサントラに入っている、誰が望んでいるのかわからない意図不明なメインテーマのダンスミックス」とかですよね!もしくは、クラシックのテクノアレンジとか。え、違う?つーか、そんな動機で曲を作られたらディレクターが泣くぞ……。みたいな前フリはどうでもいいですね。 はい、サンレス水郷です。「FF」シリーズは早くから「歌唱」を劇伴に取り入れてきた作品であることは疑いようのない事実ですが(さかのぼれば「FFVI」から)、それはオープニングやエンディング、ここぞという重要なイベントシーンに対して。しかし浜渦氏は、なんてことのない通常のフィールドBGMにさえ「歌」を使ってもいいんだ、ということを提示しました。「ガプラ樹林」よりもさらにわかりやすい、直球の歌モノです。まあ、フィールドと言うよりはダンジョンですけどね。最初にこのマップを訪れたときのインパクトは、凄かったですよ。こういった歌モノがRPGにおけるマップのBGMとして使えたことには、「"FFXIII"はすべての楽曲をストリーミングで流している」というスペックによる恩恵があったからこそであることは、今さら言うまでもありませんね。 「こういうストレートなぐらい恥ずかしいものには直球勝負、上手い歌手に歌ってもらうのが必須」ということで、浜渦氏が白羽の矢を立てたのはフランシス・マヤ(Frances Maya、公式ブログ)。浜渦氏と彼女の出会いは実に25年も前のことだそうで、彼女は氏がたまに参加していたという、氏の父の合唱団に所属していた「チビっ子ちゃん」。というか、そのとき浜渦氏自身はいくつだよという感じですが、25年経って彼女が素晴らしい音楽家になっていたことを知った浜渦氏が声をかけ、今回の参加に至ったそう。RPGのマップ曲に歌ものという、あまり前例のないチャレンジであったこと、ゲーム音楽の製作は直し(リテイク)も多々発生することなど、「気心知れた人でなければ頼めない」という事情もあったのでしょう。ゆえに、主題歌や挿入歌以外のこういった「ささやかな歌モノ」の歌手は、浜渦氏の知り合いが担当しているのです。フランシス・マヤはデモ制作の段階から参加し、浜渦氏がメロをその場で書きながら彼女が仮の歌詞をあて、次にはそれを見事に歌い上げ、ディレクターOKが出るまでは早かったとか。 前半は「誓い」もしくは「セラのテーマ」の爽やかなダンスバージョンであり、いかにもウケそうな感じです。こういう軽快なダンスビートとピアノによる「切ない系ダンス」はウケるんですよ。有名なところで言えば、「踊る大捜査線」の劇伴曲「MoonLight」 はサントラの中でも上位の人気曲。一部の間でそのネタ元と言われているRobert Milesの「Children」 も人気ありますね。まあそんな感じで始まります。個人的には、ベースが最初から入っているのではなく、26秒のところからふっと現れるのがツボです。その後のベースも凄く良い!そして1周したかな?という59秒からボーカルが入ってきます。特殊な言語ではなく、普通に英語です。たまに「歌詞を教えて下さい」という質問を見かけますが、「サントラ買って下さい」としか言えないですね。載ってますから。いやしかし、この曲についてはアレンジャーの表記がないんですよ。てっきり鈴木光人氏とかの手を経てると思ってたんですが、そうじゃない。「FFXIII」のシンセオペレーターは河盛慶次氏なので、音色的に鈴木氏が絡んでるということもないでしょう。とすると、大部分を浜渦氏がやってることになりますよね?音色のチョイスもパートの抜き差しも、個人的に凄く好きな感じなんですが!オケの質が高いのはもちろんとして、こういうのも上手いですね。 とまあ、曲そのものをベタ褒めしたところで、使い方に疑問を述べてみます。この曲は曲名の通り、サンレス水郷というロケーションでしか流れないわけですが、ここでプレイヤーキャラとなっているのはサッズとヴァニラです。そこでどうして曲が「誓い」もしくは「セラ」のアレンジになりますか?確かに彼らはヴァイルピークス以降、二人して「逃げよう」と後ろ向きに誓い合いましたが、それで「誓い」なわけがありません。まともな制作者なら、そんな理由で選曲しません。じゃあ「セラ」絡み?ヴァニラの意識中にはあったとしてもサッズはドッジのことで頭がいっぱいですし、なにしろ二人は逃亡中。セラを助けなきゃとか、みんなのところに戻らなきゃということは考えていません。個人的にこの曲が流れていること自体、凄く違和感を感じたんですよね。曲は良いのに、もっと適切に使えばさらに良かったのに、なんか雰囲気だけで付けちゃってない?という。自分が音楽、もしくは演出担当だったら、このロケーションにこの曲は乗せないですね、意味を考えたら。それともこの曲(誓い、セラモチーフ)には、こちらが把握している以上のもっと大きな意味があるのでしょうか?100歩譲って、この曲を「"FFXIII"を貫く総合テーマ曲」と位置付けてみても、やっぱりこのロケーション、このタイミング、このキャラクターたちに乗せるのは違うんではないかと……。あ、もしかすると逆説的な意味?誓いに背を向け逃げる二人に、あえて「誓い」を乗せてみる……。そんなヒネったことしないでしょ。 |
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17.見失った希望 Lost Hope
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この曲も、もともとは「ある特定のイベントのため」に作られた専用曲ですが(サントラでの位置、そして曲の展開から第6章・エウリーデ峡谷の回想イベントと予想)、ゲームの制作過程で「汎用曲か」というほどあちこちに流用されています。展開に山や谷があること、トーンが一定しておらず解釈が柔軟であること、それでいて適度に盛り上がるなど、使い易いのでしょう。16秒から弦が奏でるフレーズは「ラグナロク(Disc1-13)」をなぞっていると思っているのですが、いかがでしょうか。 6章のエウリーデ峡谷イベントと関連付けて、8章のドッジがクリスタルになってしまうイベントでもそれを思い起こさせるようにしっかり使っていたのは、演出としてよくできていました。音楽が出来事を繋げ、記憶を掘り起こし、感情を昂ぶらせる効果を最大限に発揮していたと思います。一貫してファルシ絡みのイベントに充ててきたことも、良い伏線になっていたのではないでしょうか。劇伴曲としての効果はある意味、全曲中でも最高レベルです。 |
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18.ルシ狩り作戦 To Hunt L'Cie
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「2007年のPV曲から派生させ、特定のイベント専用に作ったもの」とのことで、その特定のイベントは上記の通り。パルムポルムでPSICOMに囲まれるライトニングとホープ。「突っ込むから全力で逃げろ」とのライトニングの言葉に戸惑うホープ、そんな緊迫する事態を打開するかのように現れたスノウとファング、スノウがシヴァを召喚し敵を蹴散らす……そんなムービーにピタリと寄せられています。1分2秒からは15曲目「果てなき疾走」と同じ展開になりますが、「誓い」および「スノウモチーフ」はなく、「閃光」メインになっています。1分30秒は「プレリュード兼ヴァニラのサビ」にも聞こえますが、ここにヴァニラは関係ないので、「運命への反逆(Disc1-4)」の終盤展開部(1分38秒あたり)からの派生と考えましょう。再び「閃光」に戻り、最後に向けて盛り上がっていきます。 PVの時は実験も兼ねてオーケストレーションから録音、ミキシングまでを自分でやったと言う浜渦氏。それが予想以上にうまくいったことでその後の「かぶせ」の方針が決まったということなので、それは当然この曲においても行われていることでしょう。ところで「FFXIII」発売前、このムービーシーンの写真が初めてゲーム雑誌に載った時は、ちょっとした騒ぎになりましたっけ。「シヴァがバイクに変形するってなんだよ?!」というユーザーたちの反応。思えばあの時から「FFXIII」の前評判は、何か妙なことになっていったような気が。一通りゲームをプレイした後では、別にシヴァが何になろうが気にも留めないんですけど……。そもそもがいるわけのない存在ですし、だいたいやっぱり召喚獣は取得してもほとんど呼び出さないし……。 |
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19.希望なき闘争 No Way to Live
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使用箇所を見てもわかる通り、「スノウのテーマ」のアレンジになります。ダーダッ・ダダダッ、ダーダッ・ダダダッ、ダダッダダッというリズムをドラムとギターが繰り返すなか、金管群がスノウのテーマメロディを勇壮に奏でます。彼のまっすぐな決意をそのまま音にしたような感じです。ある意味、スノウの派生テーマの中では最も「スノウのテーマ(Disc1-11)」に近いですね。さらに熱いバージョンと言いましょうか。本作の楽曲の中では比較的1周が短く、2周目以降にも変化がないことからか使用シーンが少なく、かつ使用される尺も長くはありません。また、「スノウのテーマ」にはヤンチャさが感じられたのに対し、こちらはシリアストーンです。 | ||||||||||||||||||||
20.恩讐の果て Sustained by Hate
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「ホープのテーマ」のアレンジです。原曲はギターですが、ここではピアノソロに導かれて始まるオケ曲となっています。「ゆったりとした曲ながら、尺に合わせて作った専用曲です」とは浜渦氏の説明。言うまでもなくその専用イベントは、第7章のホープとスノウのイベント以外にはあり得ません。音の盛り上がりや、意図的に設けられたものであろう「音の隙間」が、それらのイベントにピタリときています。 序盤の一瞬のスキマ(39秒)は、ホープのスノウに対する「戦って人を巻き込んだら?」という問いを立たせるために設けられたもの。それまで何を訊かれても前向きなことしか言わなかったスノウが、その言葉でさすがに動揺し言葉を失います。序盤からの伏線のひとつが決着を迎える、ストーリー上のヤマ場です。後半のスキマ(1分50秒)は、自分の行いを詫びて「償わせてくれ」と言うスノウに、ホープが「あんたに責任とらせても……母さんは帰ってこないよ」と呟くところにスポッティング。楽曲の盛り上がりと、ふと訪れる無音で感情を何倍にも増幅しています。この7章のイベントについては、ディレクターの鳥山氏も「心情に深く寄り添う音楽があったからこそ、最高の人間ドラマに仕上がった」と語っています。 他の使用箇所については流用ですが、一貫してホープ関係のイベントにのみ使われています。当たり前といえば当たり前なのですが、これはコンポーザーとディレクターの間に意志の疎通がなされていないとできないことでもあります。音楽的素養のないディレクターは、テーマ性などおかまいなしに曲を流用しますからね。そういう意味では、鳥山氏は「わかっている」のだと思えます(本作にも一部、意味のない流用があることは承知のうえで、ホープ関連の曲付けは秀逸でしたと言っておきます)。 感情に訴えかけまくるオーケストレーションはやはり、大森俊之氏の仕事。こういうジワジワとくる、徐々に盛り上がっていく展開はたまらないですね。映画的です。ピアノと木管のユニゾンも効いており、切なさをこれでもと押し出します。ピークで鳴り響くリコーダーも効果的で、直後の静寂との対比が絶妙。 |
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21.グラン=パルスのルシ The Pulse L'Cie
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浜渦氏によると、「ファングのテーマ(Disc4-1)」のスローバージョンとして作った曲であるとのこと。もちろん曲名もファングを指しています。曲を聞けばそのこと自体はすぐわかるのですが、制作動機が面白いのです。「"ファングのテーマ"で施したピアノの合いの手やコードの展開が気に入ったので、それをゆっくり明確に表現してみたいと思い」。ことゲーム音楽の作曲において、そういう動機で曲を作る人が浜渦氏以外にいるでしょうか?!もう単純に、「凄いなあ」と。 「ファングのテーマ」派生なので、当然「閃光」のフレーズが……と思いきや、この曲にはありません。ということは、ファングのテーマに値するのは35秒から繰り返されるメロディなのであると仮定できます。「ファングのテーマ」の方に「閃光」が含まれているのは、使用されているシーンから想起して組み込まれたものであり、それが直接的にファングを象徴しているわけではないと言うことができます。もし「閃光」がファングを表しているのなら、これはライトニングのテーマではないのか?という、キャラクターテーマの意味が根本から崩壊する問題にもなりかねません。 そうなると、サントラの「ファングのテーマ」にその曲名を与えてしまったことが間違っているのではないか、と思えてきます。この「グラン=パルスのルシ」を「ファングのテーマ」にし、現「ファングのテーマ」を派生曲として別名にすれば無用な混乱は避けられたのではないでしょうか? この曲で注目なのは、1分41秒から「聖府代表ダイスリー(Disc3-16)」でも使われている「聖府モチーフ」も組み込まれていること。これは「ファングのテーマ」にも盛り込まれており、ファングと敵対するものとして込められているのでしょう。 |
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22.セラのテーマ Serah's Theme
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「誓い」の音源に被せて、フランシス・マヤに歌ってもらったものとのこと。歌詞もフランシスが担当。海外版では歌を録音し直し、歌詞が少し異なるうえにゲーム中で鳴る場所も1箇所増えているとのこと。歌詞の違いにも興味ありますが、鳴る場所が増えているとは?!そっちの方が気になります。海外版をプレイ……するしかないのか?ゲームとして面白ければもちろんそれも辞さないんですが、「FFXIII」をもう一回ですかぁ……。せめて曲だけでも、「plus」に入れてくれれば。しかしこれは本当に「強い」曲ですね。シンプルなのに、立つ。すぐに耳に、記憶に刻まれるメロディ。こういう曲こそ、作るのは難しいんです。装飾がないので誤魔化しがききませんから、「本質」が問われます。 オケは「FINAL FANTASY XIII 〜誓い〜(Disc1-2)」をそのまま使っていると思っていいでしょう。サビに入る尺、全体尺、楽器編成などが同じです。 |
Disc3
01.父ちゃん奮闘だぁ! Can't Catch a Break
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第9章、パラメキアを部隊とした仲間たちの侵入劇&脱出劇において、サッズ&ヴァニラ側を彩った曲です。打ち込みで一度は完成していたものを、やはり生の方がいいだろうということで田部井とおる氏とともにリアレンジ、生演奏レコーディングに差し替わったのが、このCD収録のもの。打ち込み版とはかなり変わったそうです。「打ち込みも人気が高かったので、機会があれば公開したい」と浜渦氏。打ち込み版ってもしかして、発売前に公式サイトで流れてたっけな?ジャズ調の曲が流れていた記憶はあるのですが……。 既に前で述べた通り、サッズのテーマ曲一連は楽曲やテーマ性のあるメロディによって印象付ける手法ではなく、曲のテイスト(ジャジー、ブルージー)や楽器構成、演奏スタイルで特徴を付けています。この曲と「サッズのテーマ(Disc2-11)」の類似性は誰にでもわかりますが、「このメロディ、あのモチーフで関連付けているんだよ」とは言えないでしょう。そもそもジャズ的な音楽は、ゲーム音楽しか聴かない人には敷居が高いですし、それだけではなく一般的な人々にとってもあまり馴染みがありません。そういう音楽で「派生」「アレンジ」をやっても、多くの人は気付きませんし見抜けません。作り手としてもそれはわかっているわけで、そういう手法は採っていないのでしょう。 メロディでの印象付けをしていなくとも、サッズ絡みの曲が一定のイメージ付けに成功していることはわかると思います。しかし、それを理解したうえで言わせていただければ、この曲って必要でしたか?パラメキア艦内でのサッズ&ヴァニラサイドの脱出でこの曲、それはわかります。しかしこの曲、「サッズのテーマ」と曲調がさほど変わりません。わざわざこのシーンでしか流れない曲を専用に1曲、用意しなければならなかったのでしょうか。「サッズのテーマ」でも大きくは違わなかったのではないでしょうか。だいたい「サッズのテーマ」も、キャラクターテーマにしては他のキャラと比べて流れる機会が極端に少ないのですから、むしろ9章もそれを流すべきだったのではないかと考えます。いかにサッズとヴァニラという、ライトニングチームと比べて呑気な二人とはいえ、このシーンはもっと緊迫してるんじゃないの?根本から曲調が違うのでは?とまでは言いませんが。緊張しっ放しよりは、適度に緩和できてて良いバランスにはなっていましたので。 |
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02.PSICOM
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PSICOMのテーマ、的な位置付けの曲ですが、さらに言えばロッシュ大佐のテーマということになります。ティンパニとスネアによるマーチングロールで引っ張りますが、唐突にファンファーレ調のアタックが入ります。これは浜渦氏によると「ロッシュの内面を表すもの」だそうで、氏としてもPSICOMの、というよりはロッシュその人のテーマとして作られたのでしょう。曲自体は完結しており、おそらく第7章最初のイベント用に専用曲として作られたものと思われますが、やはり流用されています。12章ではプラウド・クラッドとのバトルBGとしてループさせて使用。もとが短いので繰り返しがクドく、しかも大半はマーチングロール。拡げた別曲が用意できればもっと良かったのですが……。 7章、ライトニングとスノウの電話でのやり取りにまでマーチをこぼしていたのはちと気になりました。雰囲気でしかなく、シーンにメリハリをつけるという意味では、しっかりなくした方が良かったでしょう。 |
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03.ホープのテーマ Hope's Theme
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これまでゲームにおいて「ホープのテーマ」のアレンジ、「恩讐の果て(Disc2-20)」は何度も流れましたが、この曲が本命「ホープのテーマ」。ピアノで作った曲を田部井とおる氏に伝え、ギターに置き換えていってもらい完成したもので、この手法は「アンリミテッド・サガ」
の頃によく行われたものだそうです。アコースティックギターソロとすることで、同じくギターをフィーチャーしたサッズ関連曲ともまた異なる雰囲気にしています。これもシンプルゆえに覚え易く、キャラクターテーマとしての「強さ」を持っていますね。ゲーム中では「恩讐の果て」に比べて圧倒的に使用回数が少ないですが。ギターだとちょっと、「匂い」が出すぎちゃいますからね。 これまで筆者は過去の「FF」シリーズのサントラレビューにおいて、だいたい「敵はともかく、仲間キャラクターのテーマ曲があまり効果を発揮していない」というようなことをちょくちょく書いてきました。これはもちろんシーンへの充て方にも原因があるのでしょうが、今回、良い機会なので過去作品のキャラテーマをいろいろ聴いてみた結果、「要素が多すぎたのかもなあ」という仮の結論に至りました。メロディ自体が「キャラテーマ」というほど突出したものでないこともあるにはあるのですが、メロディを印象付ける(ユーザーの脳に刻み込む)ことを阻害するようなリズムやらバッキングやら副旋律やらパート数が多く、言ってみれば「豪華すぎた」のではないかと。キャラクターのメインテーマはそれこそピアノソロ、ギターソロぐらいでシンプルにはっきりと提示しておき、そのうえで様々なアレンジを派生させるのがベスト。過去の「FF」においては、キャラのメインテーマからしてわりとリッチに作られており、他のもろもろの楽曲に埋没してしまってたのではないか、と感じました。 そういう意味では「FFXIII」は、「ヒロインのテーマがバトルテーマも兼ねている」「セラのテーマが"誓い"としてメインテーマ級に露出する」ことのほか、ホープはギターソロ、ヴァニラはピアノソロ、サッズはジャジーな生演奏という具合に明確に色分けされています(ファングはちょっと曖昧ですが)。スノウだけは従来の手法(ひとつのメインモチーフを様々に派生)を採っていますが、その手法がスノウでしか使われていないため、かえって他と区別できているのです。そのうえで、曲の充て所も考え抜かれている。植松氏がどうこうとか、「XIII」がゲームとしてどうこうということは関係なく、音楽演出というところでは「XIII」は確かにこれまでのどの「FF」より優れていると、反対意見を覚悟のうえで断言してしまいましょう。これはもちろん過去の「FF」を否定しているわけではないですし、浜渦氏に比べて植松氏が劣っている、ということではありません。それぞれの作品を広い視点から見たとき、総合的な音楽構成が……という部分を取り出して結論付けたものです。誤解のしようもありませんが、念のため。 |
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04.おまえの家はここだ This Is Your Home
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「ホープのテーマ」を同じくギターで、しかしさらにゆっくりと演奏したバージョン。もちろん田部井とおる氏が参加しています。説明は不要でしょう、打ち込みでは出せない「味」を感じて下さい。 | ||||||||||||||||||||||||||
05.償い Atonement
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オーボエメインで情感的に歌い上げるイベント曲で、「スノウのテーマ」のアレンジ。鳥山ディレクターとどのような曲にするか、深くしっかりとやり取りしたことで、スノウの荒々しさとはまた違った「熱い心意気」を引き出せたのではないかと浜渦氏。「熱い心意気」なのに10章のスノウは落ち込んでる、というツッコミは不要です。 収録時間の関係かサントラ上での位置はここになっていますが、やはりこの曲は7章のイベントでしょう。曲のトーンも「恩讐の果て(Disc2-20)」を受けるかのような共通性を持たされていますし、このシーンを想定して作られたものではないでしょうか。緩急をつけて盛り上げ、最後にダメ押しのもうひと盛り上がり!弦楽をバックに従えての情感的な木管はズルいです。4分以上もある曲に対して「スノウのテーマ」モチーフの短さから、どうしても繰り返し感が出てしまうのは否定できませんが、展開に変化をつけることで単調さを回避しています。このあたりはアレンジの腕の見せ所ですね。 |
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06.ヴァニラのテーマ Vanille's Theme
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ピアノソロによる、スキップするかのように楽しげに弾んだ、ヴァニラのテーマ曲。派生曲「優しい思い出(Disc4-6)」も合わせるとけっこうな回数がゲーム中で流れていますが、実は鳥山ディレクターがキャラクターテーマの中でイチ押しに挙げる曲です。「優しく泣けるヴァニラの曲がとても愛おしく、ここぞというところにもってこれるように、もったいぶりながら全体の音楽展開を構成してみました」と、その思い入れのほどが伝わってきます。それでもこれだけ使われたということは……やっぱり愛おしいから、ですよね? 浜渦氏によると「雨の中でヴァニラが語るイベントに合わせて作った専用曲」とのことなので、第6章の観光艇発着場における、サッズとヴァニラの会話イベントのことですね。「悲しい曲で状況の上塗りをするのではなく、あえて可愛らしく優しい曲にすることで、ヴァニラの心境を浮き彫りにしようと考えた」そうで、映像作品ではよく採られる演出手法ではありますが、浜渦氏の狙いはハマったようで、非常に評価の高いシーンになったそうです(もっともその"評価"は、制作スタッフや知人などの身内ではなく、ユーザーから起こったものでないと作品として意味がないのですが……ユーザーからも好評だと思いたい)。 もちろんそのシーンに留まらず、だいぶ流用されてゲーム中で頻出。さらに、ヴァニラはモノローグで語るナレーターとしての役割もあるため、直接的には彼女がいないイベントでもこの曲が流れることがあります。上記使用シーン一覧でヴァニラがいるはずのない7章については、イベントのシメに彼女のモノローグが入るのだと思って下さい。直接的にヴァニラやその心情を描写する以外に、ゲームを「俯瞰の視点」から見渡す役割もまた、この曲には持たされているのです。その役割を満たすため、2分20秒からがこの曲の「サビ」とされていますが、「プレリュード(Disc1-1)」と共通のモチーフが込められてもいます。 なお、浜渦氏はまず曲ありきの「ヴァニラのテーマを作ろう」「できた、これがヴァニラのテーマ。これをあのシーンに流して……」というプランニングをしたのではないようです。ヴァニラのイベントシーンに対して曲を作ったものが、テーマ曲として確立していったというのが正しいらしく、最初からキャラクターに発想を得て「このキャラクターはこんな曲」という具合に音楽を作ったのは、スノウぐらいだとも語っています。 |
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07.刻限 The Final Stage
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ハープによるゆっくりとしたアルペジオと木管群による、状況説明的な楽曲です。おどろおどろしくはありませんが、どことなく不安で寂しげな曲。どんなシーンで流すものか考えずに作ったもので、そのため従来の自分節がよく出ていると分析するのは浜渦氏。よって汎用イベント曲として、合いそうなところになんとなく、という使われ方をしています。主張するタイプの曲ではないので、乗せれば乗っちゃうんですよね、こういうのは。逆に言えば、「別にここ、曲なくてもいけるよね」ということにもなり得るのですが。 | ||||||||||||||||||||||||||
08.ポンパ・サンクタ The Pompa Sancta
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ゲーム中では一度しか流れない、それもムービーの専用曲。ノーチラスにおける召喚獣パレードのムービーですね。その映像に完全に合わせて作られています。曲名はパレードの名前です。これはもう圧巻ですので、映像を見てくれとしか言えません。うっすらヴァニラのモチーフも組み込まれていたりします(27秒〜)。アレンジャー表記がないので、浜渦氏が全部やっているものと思われます。 | ||||||||||||||||||||||||||
09.歓楽都市ノーチラス Nautilus
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「夢を感じさせる派手なオケを」ということで作られた楽曲で、言ってしまえば単なるマップ用背景曲なのですが、ワルシャワフィルでレコーディングされているなど、かなり贅沢です。それぐらいのスケールでなければ、「夢」など感じさせられないのでしょう。役割としては、「FFVII」のゴールドソーサーの曲と同じなんですが、手間暇はこちらの方が圧倒的にかかってます。ワルシャワセッションなので、もちろんオーケストレーションは平野義久氏が担当。浜渦氏としては「今回のサントラでは珍しく、"何かが降りてきた"的に生まれた」ものだそう。 「ノーチラスのテーマモチーフ」がそこかしこに散りばめられているのですが、わかりやすいところで1分12秒あたり。ここからのテーマはこのあとの重要な伏線になってきますので、覚えておきましょう。それにしても、ロケーションに対してテーマが与えられているのは、本作においてはノーチラスのみ。まあ、本作では珍しい「街」ですので……。 |
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10.コクーンdeチョコボ 〜夢をみようよII〜 Chocobos of Cocoon - Chasing Dreams
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「夢をみようよII」ってなに?「I」は?という疑問を持たれるのも当然ですが、「夢をみようよ」というのは、浜渦氏のソロデビュー作「チョコボの不思議なダンジョン」
で作られた曲。ソロデビューとは言っても、(植松氏の)チョコボのテーマという大前提があったうえでのことですが、それを今回リアレンジしたわけです。だから「II」なんです。12年ぶりのリアレンジ担当は山崎良氏、歌唱および歌詞はフランシス・マヤ。 で、このような曲調(テクノポップ調)になったのは、浜渦氏のアイディアや山崎氏の思い付きではありませんでした。こういう曲を聴いたとき、ちょっとJ-POPにも通じてる人なら「Perfume」を思い浮かべると思うんです。もしくは中田ヤスタカ(Cupsel)。女性ボーカルをピッチでいじくってロボ風味にして……。これ、ディレクター鳥山氏をはじめとするシナリオチームの男3人がPerfumeの大ファンで、「こんなふうな曲にして」と浜渦氏にお願いしたんだとか。さすが、「FFX-2」のオープニングムービーを「ダンス」にするか「アイドル」にするかでモメただけのことはあります。彼らがあまりにも変わってなくて安心した……。ゲーム制作中に流行っていたものなんて、発売する頃には廃れかけてるに決まってるのに……。案の定、Perfumeも「FFXIII」発売の頃には全盛期ほどの勢いはなく……。 「こういうふうにして」とオーダーされてエレクトロ調になったわけですが、そこはやはりその道のプロのようにはいかず、「にわか」な音になっていますね。これはさすがに。言ってしまえばただのシンセサウンドなんですけど、流儀というかノウハウがあるので、知らないとPerfumeな音にはなりません。さらに言うならこのテの曲、一時期バーッと流行って既に廃れた感がありますが、ボーカルを弄ぶことを頑張りすぎて、何て歌ってるのかわからないというのが最大の問題だったと思うんですよ。歌詞カードを見なけりゃ歌詞がわからないなんて、歌モノとしては0点でしょ。よくあるのが「声も楽器のひとつだから」みたいな言い訳。だったら歌詞はなくていいでしょと。ハミングやスキャットでどうぞ。 さて、この曲が流れるのはノーチラスのノーチラス・パーク。もちろんそこにはチョコボがいっぱい!でも乗ることはできませんので、騎乗BGMではないのです。マップの、ほんとうの意味でBGMですね。セリフも乗るし、SEも乗るのに歌入りでしかも加工ボイス……やっぱり聞こえないのでは?ゲーム中ではもう一箇所、コクーンではなくグラン=パルスにて流されます。イベント自体がきわめて短いものなので、曲が流れるのも一瞬ですけど。寄り道しないと見られないイベントなので、見逃した人も少なくないのでは。その内容は……「ヴァニラが生きた羊の毛をブチッ!」……必要か?このイベント。それはいいとしても、なんで曲がチョコボ?羊だよ? |
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11.偽りの饗宴 Feast of Betrayal
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第8章で初出となって以降、あとは11章でなぜか「ファルシのテーマ」的にちょこちょこ使われるだけとなる、不幸な曲。浜渦氏的には、尊敬する大森俊之氏にアレンジを依頼し、その完全無欠のオーケストレーションに大感激!な至福の曲だったのに、本編での扱いが……。 そもそもこの曲は第8章のイベント〜マップ用として作られたものだと思うんですが、そもそも違うんじゃないかと。たしかに、「どちらもやや頼りなさげなサッズとヴァニラの、アタフタとした逃走劇」と考えればそれなりにマッチしているんですが、前後の流れですよ。この曲の前も後ろも、かなりシリアスなイベントによって挟まれているんです。大きな視点ではなく、非常にマクロな視点でオーダーに対応してしまったとしか思えません。要するに「浮いてる」んです、曲が。ある意味、シーンとしては「流して」かまわないところなのに、大森先生だオーケストレーションだと、力を入れるところが違ってませんか?この曲が唯一「FFXIII」で、筆者が曲そのものに違和感を感じたものです。 |
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12.夢の終わり Eidolons on Parade
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「長いイベントに合わせて作った、他ではかからない完全な専用曲」という浜渦氏の説明通り、第8章の魔王城イベントだけで流れるイベント専用曲です。「ノーチラスでの総括的なシーン」ということで、9曲目「歓楽都市ノーチラス」のアレンジとして作られています。早くも26秒から、ノーチラスのモチーフがしっかり入れられてますね(原曲の1分12秒あたりと比較してみましょう)。それも、終盤はこれでもかとリフレインしていきます。所々に設けられた静寂が、シーンの進行とピッタリマッチしていて、思わず背筋に電流が。イベントに寄り添うようにして、サッズとヴァニラ(とプレイヤー)の感情を引き立てじわじわと盛り上げます。ラストの方は張り裂けんほどに!普段は明るいヴァニラ、ムードメーカーなサッズの、ここぞとばかりのシリアスな演技も良かったですね。 アレンジャーの記述がないので浜渦氏みずからオーケストレーションをしていると思うのですが(そのうえで「かぶせ」もしているのでしょうが)、まったく遜色ないというと「オマエはなにさまだよ」と言われそうなので……。いや、素朴な疑問として、外部のアレンジャーを立ててオケ曲の編曲を依頼したり、シンセ系はオペレーターにアレンジをお願いしたり、それらはどのような理由によるのか興味があるんですよね。「自分でできるが、時間的・物理的にタイトなので分業をしたい」なのか、「自分にないものを曲に加えてもらい、質を上げたい&客観的な視点がほしい」なのか。後者だとは思うんですが、浜渦氏のこれまでの仕事、そして今回の仕事を聴いていると、他の人の手を借りなくてもじゅうぶんできるんじゃないかと思えてしまうので……。 |
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13.ルシの試練 Test of the L'Cie
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汎用として使われることはわかっていたけど、浜渦氏としては第8章ノーチラスでのイベント(ブリュンヒルデ登場)を強く意識して制作したというボス戦音楽。「夢の終わり」の感動をぶち壊すように、「舐めきった反復メロ」「ボスなのに妙に明るいコード感」「途中でいきなり3拍子になったり」と、超越した敵を表現したくてこのようになったとか。さらにリズムトラックに鈴木光人氏がいろいろ足しているそうです。 ドンドコ!ミョーミョーミョーミョー(舐めきった反復メロ)、というインパクト重視のイントロで始まり、これが核となってこの曲を貫きます。変化をつけながら進行しますが、メロらしいメロは現れずに勢いだけでグイグイと引っ張っていく、いわゆる「構成曲」です。ファルシや召喚獣といった「強敵」との戦いを彩りますが、最終章の通常戦闘はいずれもボス戦並みの厳しさがあるため、通常戦闘にも関わらずこの曲が流れることになります。それにしても、召喚獣によって戦闘曲が「召喚獣」だったりこの曲だったりするのは何故でしょうね? 曲そのものとは関係ないですが、この曲にまつわるエピソードをひとつ。筆者が最初にブリュンヒルデと戦った際、実はこの曲が流れなかったんです。でも狙いであるかのように思えたので、「ええっ、BGMなし?!なるほど、ここまでのイベントを受けてあえてやめたのか。思い切ったなあ。でも、雰囲気としてはこれもアリだな」と、感心したのです。数日後、クリア前にセーブデータがいっぱいになってしまいました。サントラレビューをする際にそれらを呼び出し、イベントごとに使用曲を確認しつつ書こうと思っていたのですが、いったんここまでの分をビデオにでも残さないと続きができません。なので、セーブデータを呼び出してはイベントを起こして録画、リセットして次のセーブデータをロードして録画……ということをするハメに(バカでしょ?実は手間がかかってます)。そうしたら、ブリュンヒルデ戦で音楽が流れるじゃないですか!つまり、最初の時の「無音」は、何かが原因で音楽のロードに失敗してたのです。「ストリーミングだとこういうことがあるか」と思ったわけですが、恐ろしいのはもしあそこでセーブデータがいっぱいにならなかったら……。もしセーブテータの保存数が倍だったら……。筆者は「確認プレイ」をしなかったでしょう。その場合、レビューに「ブリュンヒルデ戦は音楽が流れません。斬新な演出!これにはやられた!」とか書いていたかもしれないんですよ!ああ恐ろしい!恥ずかしい! |
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14.世界の敵 All the World Against Us
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汎用「おどろおどろ」BGMのように数箇所で使われていますが、これももとはムービーに合わせて作られた専用曲。第8章、連行されるヴァニラとサッズのムービーです。「ただマイナーにするのではなく、"引いた"展開を作り状況を浮き彫りにする、という趣旨でやってみた」とのこと。構成や編成に「見失った希望(Disc2-17)」との共通点も感じます。 | ||||||||||||||||||||||||||
15.ゲームオーバー Game Over
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浜渦氏が「ピアノとシンセ数種だけで作った」曲で、それに鈴木光人氏がいろいろな音を足してさらに虚無感を引き出したのだそう。すぐにデメリットなくリスタートできる本作においては、そんなに長くゲームオーバー曲を聞くこともなかなかないでしょう。そのため、どこで切られてもいいような、ほとんどMEというような構成になっています。しかしなぜ、サントラのこの位置に? ゲームオーバー以外にもイベントに2度ほど使われていまして……というか、こちらとしてはイベントにゲームオーバーの曲を充てるなんて思いもしてません。使用曲をリストにしているとき、どの曲かわからないのが出てきたんですよ(上記の2箇所ですが)。ことこまかにサントラを聴いてもそれにあたる曲はありません。もちろんその際、ゲームオーバーの曲はハナからスルーしてます。そんなもの、イベントに使わないと思っているからです。「なんだこれは!サントラ未収録曲か?何かのアンダースコアか?」と諦め、保留にしてとりあえずレビューを開始。そこで「ゲームオーバー」を聴いたとき……「なんだよコレかよ……」と脱力。頭から使っていればまだわかったのでしょうが、よりによって後半の静かな部分を抜き出して使ってるんですよね、イベントでは。さすがだぜ、鳥山サン! |
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16.聖府代表ダイスリー Primarch Dysley
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鐘とドラ、ショッキングなストリングスで幕を開ける、聖府の代表者ダイスリーのテーマ曲です。浜渦氏いわく、「王道の敵曲」。26秒からのメロは「聖府側のテーマ」とも言えるモチーフで、他の曲にも入ってますので覚えておいて下さい。受け持つパートは逐一変化しますが、基本的にはその反復によって盛り上がったり落ち着いたりしながら進行していきます。 さてこのダイスリー、当初はキャラクターアートデザイナーの池田奈緒氏が担当するはずでしたが、メインキャラクターデザイナーの野村哲也氏が「おじさん描きたい」と自ら立候補して描いたもの。好き放題に楽しんで描いたため、あとから「良い人にも見えるデザインで」というオーダーを知って慌てたというエピソードがありますが、音楽はどうだったのでしょう。作曲者が「王道の敵曲」と言うような曲調で良かったのでしょうか?第9章あたりではダイスリーというキャラクターがある程度わかってきているためこの曲で何の問題もありませんが、第3章ではちょっと早すぎたかな……という気もします。善人ぶってパージ政策の正当性を語るダイスリーですが、この曲が後ろに流れることで「ぜったいウラがある」「コイツ悪人だろ」という予想を許しているのです。曲を充てたディレクター、もしくはプランナーの勇み足ですかね? |
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17.宿命への抗い Fighting Fate
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主にバルトアンデルスとの戦闘で流れる、特別なボス戦音楽です。バルトアンデルスとはゲーム中、3回戦うことになりますので、曲が流れるのも3回だけです。ただし、「コーラス無しバージョン」が、9章のパラメキア脱出ムービーに使われています(なので、都合4回)。 その特別感を出すため、平野義久氏のアレンジを経てワルシャワフィルでフルオーケストラレコーディングされています。荘厳なコーラスもワルシャワ録音。Disc1-「ラグナロク」と同様、コーラス隊はオケと同時ではなく、ワルシャワのラジオ局にあるホールで別録りされています。最初は「どうしてコーラスも一緒に録らないのだろう」と思ったのですが、「plus」に収録の「コーラス無しバージョン」の存在で理解しました。同時に録ったら互いにカブリが出てしまい、あとでコーラス無しとか作れなくなるからですね。オーケストラでコーラス、しかもホールで録音となるとついつい「同時に完パケ録音」と思ってしまうのですが、劇伴としての後処理のし易さを考えれば別録りにした方が良いのです。なので、コーラス無しとか最初から作る気がないラスボス戦音楽(Disc4-14「降誕」)は、コーラスもオケとともに同時録音されています。 ブリブリと割れそうな威圧的な金管群と、なんと言っても楽曲のキモとなっている、ある意味ヒステリックにも聞こえ、かつ小さき者を嘲笑うかのようなコーラスが、巨大かつ強力なバルトアンデルスを讃えています。敵側に立って作られている曲であると言えるでしょう。ティンパニやマーチングスネアといったリズム楽器は、敵の強大さを際立たせつつも楽曲にテンポ感をもたらし、小刻みな弦の駆け上がりもまた、曲にスピード感と緊迫感を与えています。各パートが一体となり、とにかくこちらを焦らそう、負かそうと迫ってくるのです。バルトアンデルスは戦闘中、あれこれとこちらに話しかけてきますが、あの「お前たちを相手にすることなど造作もない」「己の愚かさを知れ!」みたいな余裕、貴様たちなどとるに足りんという嘲笑するかのような態度に乗った曲になっています。そう考えると、おどろおどろしさや暗さで煽り立てるのではなく、圧倒的で堂々とした曲調にも頷けますね。また、曲は完結する形で作られていますが、バトルにおいてはループされるためコーダを聞くことはできません。ただし、前述のように一度だけムービーに使用されており「コーラス無しバージョン」、そこではコーダが使われています。そのために作られているわけではないので、おそらく編集は施しているものと思われます。 歌詞はディレクターの鳥山求氏が書き上げたもの。鳥山氏はもちろん日本語で考えていますから翻訳家の手を経ています。サントラには翻訳後の歌詞が載っていますが、これラテン語ですよね。翻訳前の歌詞(つまり日本語詞)も載せてほしかったなあ。 |
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18.ルシたちの想い Separate Paths
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弦と木管がリードする、心情描写音楽。何度も流れる曲ではないのですが、反復される旋律はテーマ性がありそうで、やたらと耳に残ります。使用シーンの多くが回想であるためか浮遊感のある淡いトーンで仕上げられており、メロとユニゾンのディレイがかかったピアノのような音(40秒〜)がその雰囲気を強調しています。これは開発の初期段階で作った曲であるとのことです。その段階ではかなり短い曲だったため、レコーディングにあたって急遽展開部(1分19秒以降?)を加えたのだとか。 | ||||||||||||||||||||||||||
19.継ぎゆく意志 Setting You Free
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ぐにょ〜んと引っ張るドローン系の音色、そして重々しいパーカッションと鐘の音で始まる楽曲。映像音楽然としており、これといった主張もテーマ性もないように聞こえるかもしれませんが、中盤の1分4秒あたりから提示されるメロディは、「聖府代表ダイスリー」の26秒あたりでも使われた「聖府モチーフ」とでも言うべきもの。使用箇所を見るとシド・レインズが絡んだイベントがほとんどを占めるため、これを「シドのテーマ」と錯覚してしまう人もおられるかもしれません。しかし、この曲が流れているときは「シドが聖府の企みを語っている」わけで、音楽はシドよりも聖府の方を装飾していると考えられます。また、己の信念を持ちつつも結局は最後まで聖府の傀儡として生き、そして散ったシドに、この葬送曲のような雰囲気も併せ持ちながら奏でられる「聖府モチーフ」は、聖府の呪縛も表現しているかのようで、ある意味で彼に相応しいと言えるかもしれませんね。 浜渦氏によると、「"FFXIII"では数曲〜20数曲をまとめて一気にデモを作るというセッションを何回かやった」「この曲は最後から二番目のセッションの中で、最後にできた曲」「早く最終セッションに移りたいが、手抜きもいやだ」「気合いで30分でデモを作り、鈴木光人にシンセとミックスを依頼」……という状況で生まれた楽曲。急に必要になったのでしょうか? |
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20.死闘 Desperate Struggle
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いわゆるボス戦音楽になります。刻む弦が、出だしから焦燥感と緊迫感といったテンションを、めいっぱいに高めていきます。展開しそうでしない……まだ引っ張る……という感じで進行し、52秒からパーカッションが勢いを上げてやっと本題に入る……のかと思いきや、1分11秒で再びイントロと同じ形に戻ります。その後、またしばらくその形で引っ張った後、2分7秒でやっとサビと言えるような展開に。しかし、全編通して前に出るようなメロらしいメロはなく、弦とパーカッションによるテンションだけで突っ切るような曲になっています。いわゆる、要素で聞かせる「構成曲」という類です。「FFX」のとき植松伸夫氏は、どんな曲でもついわかりやすいメロを入れてしまう自分と比較し、浜渦氏や仲野氏のことを「構成だけで聞かせられる曲が作れるというのは凄い」と賞賛していましたが、まさにこのトラックこそがそのテの曲になるでしょう。 この曲に関してはデモをブラッシュアップすればいけるかな、と漠然と考えていた浜渦氏ですが、こういうのはやっぱりあのお方!そう、仲野順也氏に「自由にいじって下さい」とアレンジを依頼。そして仕上がってきたのがこの曲です。浜渦氏いわく、「期待以上のものが!」。仲野氏に頼めばこう上がってくるだろう、というモロな感じになっています。「FFX」のボス戦っぽい! 同じ用途の楽曲としては既に「ブレイズエッジ(Disc1-5)」、「召喚獣(Disc1-19)」、「ルシの試練」などがありましたが、その使い分けはどうなっているのでしょうか。「召喚獣」の用途は明確で、召喚獣とのバトルに使われます。が、一部の召喚獣にはこの「死闘」や「ルシの試練」が充てられており、前後のイベントの雰囲気も含めて合うであろうものを選曲しているようです(「こういう時にはこの曲」という明確な根拠、ルールはないもよう)。 では、「ブレイズエッジ」と「死闘」の使い分けはどうか。使用シーンを見ると、「ブレイズエッジ」は序盤寄り、「死闘」は終盤寄りとなっています。しかし互いにそれ以外にはまったく使われないということもなく、これもなんとなく前後の雰囲気や敵によって合う方を使っているという感じですね。機械系・生物系で分けているわけでもありませんし……。どちらかというと、「死闘」の方がより厳しく、手強い敵との戦い向けというイメージなのでしょう。もうひとつの見方としては、プレイヤーを鼓舞するようなメロのある「ブレイズエッジ」はプレイヤー寄り、たたみかける「死闘」は敵側に寄ってこちらに焦燥感と危機感をもたらすものとして使い分けられているとも。そう考えると、終盤「死闘」の比率が高くなってくるのも当然という感じですね。 |
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21.神秘 Mysteries Abound
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「RPGといったらかつては"ふんわりしたファンタジー"だったのが、"FFXIII"の世界はシャープ。そんななか、この曲は数少ない旧来型のファンタジー曲になった」と語るのはもちろん浜渦氏。このニュアンス、ファミコン時代からRPGをやってきた人にはかなり共感できるのではないかと。使用シーンは多くはありませんが、そのどれもが「手掛かりのない"使命"に対して答えの出そうにない思考を巡らせる面々」というシーンになっており、「知り得ぬ使命」や「想像もつかないファルシの意図」といったものを「神秘」と括っているようです。 楽曲はシンセによるボーカリーズとハープ、フルート、空間を埋めるパッドとシンセストリングスによって「ふんわりと」作られています。確かに本作では珍しい曲調かも。 |
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22.Choose to Fight Will to Fight
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かなり、一筋縄ではいかない曲です(笑)。常に先の展開についての予想を裏切りながら進行していきます。いろいろな要素がごちゃまぜに乗っけられているものの、バランスはグー。いわゆるマップBGMなのですが、飽きさせません。「ギターやシンセに、生の弦が全力で演奏。ティンパニが暴れ、歌まで乗っています。それでいてコードはふわふわ、サビの展開はあまりにも普通に存在」というのは浜渦氏によるこの曲の解説ですが、これを「こういうのは面白すぎてやめられません」と言うマニアックさ、それほど音楽に注目していないユーザー、もしくは音楽に興味はあるけどリスニング専門な人にどれだけ伝わるのか?ホームページやライナーノーツに掲載されている浜渦氏のコメントは、マニアックすぎて私なんかは最高に楽しめるし興味も持てるのですが……。「コード感が」「オブリが」など、文章でためらいなく音楽的表現を記す浜渦氏、今後もおおいに語ってほしいです。 それでもしばらくは、誤解を恐れずに言えば「テンポの速い移動中BGM」として展開していきます。そしてやはり、歌詞アリの歌が乗ってくるところでドキッとしますね。それが出てくるのが後半も後半、1分57秒のあたり。「まだこれ以上展開するのか?!」と思わされてしまう、かなり長い曲です。シーンによっては戦闘中にも通して流れるため、長く長く聴くことになります。なので、このように展開の多い構成にしてあるのでしょう。そしていつの間にか、歌詞がわからないなりに自分的テキトー歌詞で口ずさんでしまう……見事に浜渦氏の策略(?)に乗せられております。テーマ性のある曲ではありませんが、1分52秒でややクールダウンするところのピアノに注目。これ、「プレリュード(Disc1-1)」や「パージされる者たち(Disc1-7)」などで聞くことのできる、浜渦氏の言うところの「ゲームに統一感を出すべくそこかしこで聞こえる"FFXIII"の足音」ですね。 歌唱はMinaが担当。「歌ってもらいながらリアルタイムで作曲」……って、今の時代はそれも可能か。それこそ、気心が知れていなければできないことですな。歌はMinaですが、歌詞はフランシス・マヤによるもの。 |
Disc4
01.ファングのテーマ Fang's Theme
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デモ段階では「襲撃2」というタイトルが付けられていた曲(「Plus」に収録)で、言うまでもなく「FFX」の「襲撃」のような曲を、ということで作られていた曲。おそらくそもそもはムービー曲として作られたものではないかと推測していたのですが、「FFX」の「襲撃」もムービー曲でしたから、そういう意味でも姉妹曲のような関係ですね。尺的に完結していることもあり、11章冒頭のムービー用に作られたものではないかと思われます。オケはワルシャワ録音で、アレンジは平野義久氏。オケによる迫力は言うまでもなく、ともに楽曲をくぐり抜けるかのように奔放に駆け回るピアノがいかにも浜渦氏、いかにも「襲撃」。 最終的には「ファングのテーマ」ということになっていますが、それにしては「閃光」モチーフがかなりフィーチャーされていたり、かと思うと聖府モチーフ(1分5秒〜)が入っていたりと、とっ散らかった印象を与える構成になっている謎の多い曲です。さらっとゲームをプレイし、サントラもひと通り聞くと多くの人は「閃光」をライトニングのテーマであると認識すると思いますが(曲名からしてそうですし)、だとすると「ファングのテーマ」にそれが込められている意味がまったくわからなくなります。なんか「ファングのテーマ」という曲名が後付けで、そのためこの曲の立ち位置がわかりにくくなっている気もするのですが。 この曲から派生したスローバージョンとも言える「グラン=パルスのルシ(Disc2-21)」を聴くと、「閃光」モチーフはありません。ということは、両者に共通した序盤の勇ましいメロ(13秒からのピアノ、26秒からの管)こそがファングのテーマモチーフであると言えるでしょう。この「ファングのテーマ」における「閃光(52秒〜)」は、シチュエーションから組み込まれた組曲的な発想であり、ファング、閃光、聖府といった敵味方のモチーフを散りばめることで、シーンを大きく括ろうと狙ったものであると解釈できます。筆者的にこの曲における「閃光」は、直接的にファングを装飾したものではないと仮定しておくことにします。 この問題については、浜渦氏があるインタビューで語ったことがひとつの答えになりそうです。 じつは、「必ずしもこのキャラクターだからこういう曲にしよう」と考えて作ってはいなんですね。唯一はっきりそうしたのは、「スノウのテーマ」くらいでしょうか。例えば「ファングのテーマ」は疾走感のあるメロディになっているのですが、これは最初からファングのテーマとして作ったわけではありませんでした。どこかの場面で使うだろうなあと思って作曲したものが、たまたまゲーム中に反映されたときにファングが活躍するシーンだったんです。それが次第にファングのテーマとして定着していった感じなんです。 ……っていまさら!筆者が思い入れたっぷりに語ってきたレビューを全否定するような発言は控えて下さいませんか!?……なんて怒ることはないんですが、つまり、使用シーンから曲名(というか、曲の位置付け)が「ファングのテーマ」になったということなので、やはり「閃光」はファングにはかかっていないという推測は当たりでした。そういう理由からキャラクターのテーマが固まることも、よくあること。でもやはり、この曲のタイトルを「ファングのテーマ」とするのは、いろいろと混乱を招くと思うのですが……。 一方の、「聖府モチーフ」について。9章におけるパラメキア突入というシチュエーション「だけ」を考えると、聖府モチーフの投入は理解できます。が、おそらくこの曲のそもそもの使用目的であろう「グラン=パルス降下ムービー」には聖府モチーフは不要だろうと。しかし、派生曲である「グラン=パルスのルシ」にも、聖府モチーフは残っているんですよ。もしかして……これは「似ている」だけで、聖府モチーフではないのか? さらに言えば、パラメキア突入に際しては、ファングの「ヴァニラを助けに行くんだ」という意志が大きな動機になっているのは間違いないのですが、それが全てではないはず。なのに、シーン全体を「ファングのテーマ」が括っている不自然さ。ゲームを最後までプレイした人の中には「結局は、ファングとヴァニラの物語なんだよね」と総括するケースも少なくないのですが、それには同意できる面もあるにせよ、やっぱりこの曲はタイトルも構成も使われ方も気持ち悪い。「はっきりしてよ」と言いたいわけです。曲名はおそらく後付けでしょうが、「ファングのテーマ」としたことが間違いのような気が……。「グラン=パルスのルシ」を「ファングのテーマ」にして、この曲をその派生として別名にした方がスッキリとまとまったのではないでしょうか? ここまで書くと「アンタちょっと考えすぎなんじゃない?ゲームのBGMなんだからさ、もうちょっとラクに聴けばいいじゃない」と言われそうな気もします。もちろん、他の作品ならそれでもいいでしょう。しかし「FFXIII」は作曲者が考えに考え抜き、モチーフや楽曲の統一感についてかなり力が入れられた作品なのです。中には(いや、それが大多数か?)そういった仕掛けをまったく気にも留めない人もいるでしょう。ですが筆者はゲームプレイ中からそれが気になってますし、だからこそこうして後々検証・考察をしてるのです。ノリの良い曲が流れていれば成立するジャンルならばともかく、ストーリーのあるRPGについて「音楽のストーリー」を「考えすぎる」人がいてもいいよね?最近、そういうサイトがほとんどないですし。 |
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02.異境大陸グラン=パルス Terra Incognita
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第11章の冒頭、モノローグとともに描き出されるグラン=パルスの情景に充てられた楽曲。オーケストラが大自然とそこに躍動する無数の生命を讃えるように、雄大に、壮大に……。そう、まさに「生命賛歌」です!これまでキャラクターたちは(プレイヤーもともに)、「パルスは地獄」と何度も刷り込まれてきたわけです。そらもう、どんな恐ろしいところなのかと。実際に降り立ってみれば、ファルシが管理する機械的な自然とはまったく違った、天然の自然が拡がる世界……。楽曲は壮大さを出すことはもちろん、「聞いてたのとずいぶん違うじゃん」というギャップを生じさせる役割も担っています。「地獄にこんな曲はかからないよね?ってことは下界って、今まで聞かされたほど酷い所ではないってこと?」と。まあ、そのへん歩いてるカメに戦いを挑むと瞬殺されたりしますんで、弱肉強食的な大自然の厳しさはありますが、聖府やその発表を鵜呑みにしている人々の言う下界とはずいぶん違います。 「スローで壮大な曲を」と、特にどこで使うかはっきり決めずに作っていたものが、うまくグラン=パルスにはまってくれました!と浜渦氏。そんないきあたりバッタリで良いの?と思われるかもしれませんが、「FF」の音楽制作では特に珍しいことではありません。「FFX」の時点で、「どんな曲を作ってもどこかに当てはめられる不思議な許容量が、FFにはあるよね」と言う植松氏に、浜渦氏や仲野氏も同意していましたし。それにしてもこの曲は、決め打ちなしで作ったにしては情景にハマりすぎでしたね。なお、特に既存のモチーフなどを組み込むといったテーマ性はありません。 5章の流用は単なる雰囲気ですね。グラン=パルス関係ないし。11章までとっておかず、合うところがあれば使ってしまうのが鳥山氏。まあ、もともと「どこで使うかはっきり決めずに作った曲」ですから……。 |
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03.アルカキルティ大平原 The Archylte Steppe
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グラウンドビートに乗って展開していく、フルートメロの「誓い」アレンジ。第11章のアルカキルティ大平原で流れるBGです。「誓い」はゲーム中で頻出するテーマであり、終盤に感極まるかのような盛り上がりを作るべく、半音上昇の転調(3分7秒〜)を盛り込んだこのような形になったとか。元に戻るところも違和感がありません。サビですうっと弦主体のメロになるあたりも溜め息の出る美しさですね。このような、セラ自身は来たこともないであろうロケーションに彼女のテーマとも言える「誓い」がアレンジされて使われていることからも、「誓い」モチーフがもっと大きな視点からストーリーを括った曲であるとわかります。「セラのテーマ」はそこからの派生であり、キャラクターたちにとってあらゆる行動の動機となる象徴として、「セラをなんとかして救いたい=託された想い=誓い、約束=ルシの使命を果たす」という作品の大テーマを被せているわけです。作品を象徴する頻出テーマ曲とセラのテーマ曲が同じである理由は、これで説明がつきます(でも、サンレス水郷で流れる件については納得できかねますが)。 この曲では生のネパールの縦笛、そしてアコーディオンを浜渦氏が自分で演奏し、フルートメロにうっすらと被せているそうです。全体に漂う「民族感」はそのため。しかし、なんでそんなに自分で弾けちゃいますか。アコーディオンは鍵盤楽器なのでまだわかりますが、笛まで……。筆者の知人にもギターだろうがキーボードだろうが弾けてしまうマルチプレイヤーはおりますが、どれひとつとして満足に弾けない者から見ると、別の種類の人間という感じですね(もちろん褒めてます)。脳や指先の仕様が異なるというか。あれですかね、Winが使えればMacもそこそこわかる(逆もしかり)みたいなものですか?もしくは「Pro toolsが使えればCubaseもなんとなくわかる(逆もしかり)」とか。でもAKAIのサンプラーが使えてもローランドのサンプラーは使えません……。おっと、曲から離れてきたのでここまで。 |
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04.パルスdeチョコボ Chocobos of Pulse
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生演奏レコーディングの、グラン=パルスにおけるチョコボ騎乗中BG。もっともコクーンではチョコボに乗れませんが……。「FFX」の「ブラスdeチョコボ」に通じるものがありますね。そろそろジャンルや楽器で括るのは限界か……。この曲も田部井とおる氏の協力のもと作られたもので、デモではまったく違う曲だったそうです(もっと捻ったリズムの曲だった、とか)。しかし「どうもパリッとこない」ということで作り直し、そして生レコーディングが行われました。この録音には「FFXIII」のメインプログラマー、柏谷佳樹氏もブラスセクションのひとりとして参加しています。ディレクターにも内緒だったとか。レコーディングはデモと同じテンポ設定で始めたらしいのですが、「速すぎるかも?」という浜渦氏の心配は杞憂に。全員平気でついてこられたんだそうです。ちゃんと楽器演奏のできるミュージシャンの演奏を目の当たりにすると、感動しますよね。 しかし、サントラのどこを見ても植松氏の名前って無いんですね……。チョコボのテーマは言うまでもなく植松氏の曲。しかしあまりにスタンダードになりすぎたのか、「"FF"やってれば知ってるよね?」ということなのか、もはやわざわざ「Original Composed by Nobuo Uematsu」とか書かないんですね。もうスクエニの人じゃないからなのか……。いや、むしろ外の人だからこそ書くもんじゃないの?とも思うんですが、おそらく楽曲の権利は会社(スクエニ)が所有してるんです。だから、「わざわざ直接的に関わってない外の人はクレジットしません」ということなのでしょう。うーん……。そういえば「DISSIDIA FINAL FANTASY」 のサントラも、大部分が植松氏の「FF」音楽をアレンジしたもの(ものによってはそのまま)だったのに、表記はなかったですよね。スペシャルサンクスぐらい載せても……。冷たいなあ。 |
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05.ヤシャス山 The Yaschas Massif
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「なんだこの涼しげなボッサは!?」……人によっては、もしかするとゲームでこの曲を聞いてない人もいるかもしれませんね。イベントシーンの曲?と思ってしまうところでしょうが、ヤシャス山のマップBGMなのです。バッサバッサというようなデカい鳥や、これまたデカいプリンなんかが徘徊するロケーションを、この曲で移動するのです。「ガプラ樹林」や「サンレス水郷」といった歌モノBGMよりもむしろ、こちらの方が「アリかナシか」が議論されそうな。いやいや、筆者はアリだと思いましたよ。「FF」ですし。ネットで見たユーザーレビューの中には「ヤシャス山の曲は良かった。でもマップには合ってない」なんてのもありましたが……。 もともとは、浜渦氏が「FFXIII」開発の2年ほど前に自宅でふと思い付き、ピアノを弾いて携帯に録音しておいた曲なのだそう。それを「FFXIII」の音楽制作中、訪れていた田部井とおる氏に「これもやってみて」とお願いしてデモを仕上げたのだとか。しかし、作ったはいいもののこんなボサノバがゲーム中で使えるのか?と思いつつボツ覚悟で出してみたところ、鳥山ディレクターからすぐに「使うところあります」とリアクションされ、ヤシャス山のBGに採用されたそうです。「XIII」の世界観からしたらボツでもやむなし、という曲なのですが、ヤシャス山は立ち寄らなくともゲームに支障がない場所ですから、多少の遊びもOKということなのでしょう。 遊びついでに、浜渦氏とシンセサイザープログラマーの河盛氏は「あえてループさせない」という方法を選択しました。実際にゲームをプレイすればわかるのですが、この曲、ゲームを進めているとそのうち鳴り止んでしまうんですよ。マップBGMというものは普通ならループさせてアタマに戻り、「鳴りっ放し」にするものですが、これはそうしてないんです。曲が終わるとしばらく情景音(環境的なベース・ノイズ)だけになり、おや?と思った頃にまた曲が流れ始めるのです。浜渦氏は「なんて斬新な演出!」と仰っていますが、「斬新=良い」とは限らないわけで……。筆者なんかは「ああ、開発終盤に急遽差し込んで時間がなかったのね」と思ってしまいました。あとで解説を読んで「狙いだったのか!」と。いっそ「あえて曲をつけず、環境音だけにしました」の方がよっぽど……。ボツ覚悟で出したような曲を、乗せればいいというもんでもないと思うのですが。 作曲者の抱く「自分の曲で作品を染めたい」という欲求は理解できますし、出された曲を可能な限り使ってあげるディレクターの優しさもわかるのですが、ユーザーがどう受け取るか……はまったく別のおハナシ。作品というものは作り手が「やりたいように作る」ものだとは思いますが、それがユーザーに受け入れられれば名作認定、受け入れられなければ批難されるだけで、この「ヤシャス山」音楽の経緯をそのまま作品全体に広げていくと、ゲーム全体の評価に繋がるんだから不思議です。 |
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06.優しい思い出 Memories of Happier Days
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浜渦氏が「絵を見ながら作った専用曲」と語るこの曲ですが、4箇所で流れています。もちろん浜渦氏が見たのは第11章、ヴァニラとセラの会話イベントでしょう。他は流用です。とは言えこの曲、お聴きの通り「ヴァニラのテーマ」のアレンジですから、ヴァニラ絡みのイベントに流用されるのは当然のことと言えます。「ヴァニラのテーマ・スローバージョン」とも言えますからね。始めはピアノソロですが、途中から弦と木管が加わってきます。 最後のサビ(2分4秒〜)は「プレリュード(Disc1-1)」のモチーフであり、「ヴァニラはナレーターでもあり、プレリュードのゲーム全体を語る視点と一致させたいと考えた」と言う浜渦氏が施した音楽的な仕掛けです。この曲のオーケストラアレンジは大森俊之氏。 |
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07.スーリヤ湖 Sulyya Springs
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「まとまり具合、完成度はサントラ中でもいちばんでは」と浜渦氏が大のお気に入りを公言する、スーリヤ湖のBGM。これも「歌モノマップBG」のひとつで、歌っているのはMina(歌詞はフランシス・マヤ)。神秘的、幻想的かつ気だるい感じで、気だるさを永遠のテーマだと言う浜渦氏がお気に入りなのも納得です。49秒からはヴァニラのモチーフ、1分15秒からはセラのモチーフ(誓い)が紡がれており、イベントシーン(第9日・臨海都市ボーダム回想、ヴァニラとセラの会話)の余韻も込められています。セラモチーフが現れるところのチェロとフルートは胸に迫る情感たっぷりの演奏で、グッときますね。 | ||||||||
08.テージンタワー Taejin's Tower
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とにかく「ビヨンボヨン」の印象が強い、テージンタワーのBGM(その他でも流れていますが)。このビヨンボヨンは「ムックリ」という、アイヌの口琴だそうです。民族楽器というやつですね。なんと演奏しているのは、劇伴の歌唱でも大活躍したMina。レコーディングは頭から最後まで通した3テイクのみ。左右にふたりのムックリ奏者がいる想定で、まず片方を演奏し、それを聴きながら今度はかけあい側を録るわけですが、1テイクは様子見のリハーサルとして、残り2テイクがそのまま使われているそうです。つまり右側、左側の「擬似かけあい」を、リアルタイム通し録音で演りきっているわけです。言わば昔ながらのひとり多重録音ですが、ムックリという楽器の演奏が難しいことはなんとなく想像できます。近代的な楽器のようにカッチリしておらず、民族楽器は発音も奏法も微妙にまばらですからね……。 16秒あたりから「コソコソ、ヒソヒソ」という人声に聞こえる音が入れられていますが、これはパーカッションでしょうか?それともやはり人声を加工したもの?あの「タワーの巨像」の声に思えてしかたないんですが……。これはもうとにかく、インパクト重視の構成曲ですね。メロとかモチーフとかではなく、つまりはムックリですよ。わけのわからない仕掛けに何度も挑まなければならないテージンタワーで、ベタベタにメロのある曲が流れててもクドく感じてしまうかもしれませんから。 |
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09.色のない世界 Dust to Dust
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ヲルバ郷で流れる、いかようにも解釈のできそうなトーンを持った楽曲。やっと辿り着いたという安堵感、思っていたのと違うのではという不安、そして虚無感……それでもやっぱりここは故郷なんだという想い……そんな様々な感情がひとつの曲に込められているかのよう。歌唱は浜渦氏の奥様で、歌詞はフランシス・マヤが担当。生楽器は入れずにオール打ち込みで、鈴木光人氏がシンセのアレンジを担当しています。 オーダー時の曲リストにあった仮の曲名は「最果ての地」で、まだビジュアルなどない頃にそのキーワードだけで作っていたと浜渦氏が振り返るのがこの曲。氏が意識したのは「閃光」の「サビ後のモチーフ」で、それを副旋律として入れることで、「ゲーム終盤まで積み重ねてきたものを癒すかのような効果を狙った」とのこと。わかりやすいところでは1分3秒からの部分がハッキリと「"閃光"のサビ後」になっていますが、歌の後ろにもうっすらと入れられています。これはあくまで「ゲーム終盤まで積み重ねてきたもの」としての「閃光」であり、ライトニングがどうしたとか、「ファングのテーマ」にも「閃光」は入っているからとか、そういったことはあまり関係ないようです。こういうことされると、自分の中での「閃光」の位置付けが揺らぐなあ〜。 |
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10.帰郷 The Road Home
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第11章から12章を繋ぐムービーを彩る、短い専用曲。浜渦氏の「自分の"王道オケ"をやっていない!」という衝動(欲求?)から前半部を作ったそうです。用途は想定していなかったものの、どこか合うところはないかと探すと、上記のシーンにピタリ。それからムービーに合わせ、後半の展開を作ったのだとか。7秒からは「プレリュード兼ヴァニラのサビ」ですね。シーンをヴァニラのモノローグが主導しているので、もっともな構成です。35秒からは曲調が変わり、コクーンへ!というシーンにスポッティングされています。 | ||||||||
11.カウントダウン Start Your Engines
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「召喚獣(Disc1-19)」をもとにして、大森俊之氏の手によって完全アレンジされたムービー専用曲です。なぜ「召喚獣」がベースになっているのかは、ムービーを見ればわかりすぎるほどに理解できますので、途中で投げ出した人もぜひゲームをここまで進めて下さい。えっ、興味ないって?それについてはなんとも言えません……。それにしてもこのムービーはなんというか……展開がめまぐるしいうえに情報量が多く、勢いと「なんか凄い」という怒涛の物量で押し切ってますが、一度見ただけでは何が起こっているのかわからないかも。 基本的にはほぼ「召喚獣」と変わりません。もちろん出音や細部のアレンジは違いますが、大森氏のアレンジだからといってオケ感がそれほど増強されているわけでもなく、わりとシンセ色が強いです。個人的にはオリジナルの「召喚獣」のバランスや音圧感の方が好きですね。誤解を恐れずに言えば「カウントダウン」は薄めな音になっているのです。もちろんこれはセリフやSEがこれでもかと付けられているムービーにおいて、あえて一歩引いた結果なのだろうとも推測できます。 |
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12.動乱のエデン Eden Under Siege
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「うわーっ!エデンにとんでもない魔物がー!えらいこっちゃー!」というシーンに充てられている、「動乱の」というタイトルそのままのパニック音楽。初出時の流れとしては前の「カウントダウン」を受け、エデンでの最初のバトルとなる守護騎アナヴァタプタとの戦いから、魔物がどっと押し寄せるイベントまでを貫く形になります。終盤を予感させる、オケを基調とした重々しい楽器編成、危機感たっぷりの旋律がシーンを盛り上げています。浜渦氏の言うように「騒がしい曲」なのですが、マップからバトルを通して長時間流れることもあるわりにうるさくは感じないのは、主張し過ぎるメロディがなく「語っていそうで語らない」構成重視の楽曲として作られているからでしょう。42秒のブラスは「閃光」の変奏?考えすぎか?筆者は見ていないのですが、TVCMでこの曲が使われていたらしく、浜渦氏は「まさかこの曲が全国に流れるとは」とたいそう驚かれたそうです。 浜渦氏的なセールスポイントは、「ラストの2小節の開離の最後の低音二発(2拍目と3拍目、というと1分13秒あたり?)を同じ音にしたのは、少しばかり手応えがあります」……マニアックすぎる!ゲームやってるだけの人はもちろん、サントラ聴き込むタイプの人だってそこに引っ掛かりを感じる人がどれだけいるんだぁ〜ッ!?そんなことよりも、もう少し文章の研究もされた方が。「ラストの2小節の開離の最後の〜」って、「の」で繋ぎすぎて小学生の作文みたいになってますがな。 |
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13.終焉の揺籃 The Cradle Will Fall
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ここまで来たら、ほんとうに終盤。あとはラスボスまで突っ走るのみ!まあ、大平原には戻れますので、やり込む人はミッションをこなしたりアイテム探ししたり、まだまだ遊べます。というか、よほどの高難易度ミッションは除き、それなりのミッションぐらいは消化したようなパーティでないと、ラスボス戦ではけっこう苦戦しそうですが……。オーファンズ・クレイドルでのバトルも基本的には避けず、視界に入った敵は倒すぐらいしていかないとキツいでしょう。 ということで、いわゆるラストダンジョンであるオーファンズ・クレイドル内部で流れるBGがこちら。最後まで手を抜かない、目が回りそうなマップグラフィックに充てられたのは、終局だからと煽り立てずに、画に合わせたどこか抽象的な楽曲。ドドン、ドドンドンという低音のキックと「カカツカンカカン、カカツカンカカン」という薄いループがかろうじてテンポをキープしていますが、リズム感はあまりありません。空間的な音がうねるように音場を支配し、先に何があるかわからない不安感を醸し出すとともに、どうすればいいのか、どこに進めば良いのかという戸惑いをプレイヤーにもたらします。実際、「1本道」と言われた本作のマップにあって、オーファンズ・クレイドルはわりと迷子になりそうな構造になっています。あえて固定しない(絶えず動き続ける)背景にしたのも、迷ってもらうためではないでしょうか? 一度終わりそうになりますが、少し曲調が変わって再度鳴り出します(3分8秒)。これは切り分けられて使われているわけではなく、この「隙間」も活かしたまま流れています。この終盤部分で顕著ですが、「ラグナロク(Disc1-13)」で録音した生のオルガンを素材として使用しているとのこと。浜渦氏いわく、「比較的ざっくりとしたデモ」をしっかり仕上げたのはおなじみ、鈴木光人氏。 |
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14.降誕 Born Anew
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さて、ここからが「FF」史上、いやいやRPG史上と言い切ってしまってもいいでしょう!最も長いラスボスイベント〜エンディングを盛り上げるべく作られた楽曲たちになります。これがですね、本当に長いんですよ。途中でゲームオーバーになろうものなら……まあ、イベントはスキップできますけどね。作り手自らが絶賛する「史上最長ラスボス戦」がどのようなものなのか、一度見てみる価値はあります。サントラではオーファン出現からになっていますが、ゲームではその前にダイスリーとの対峙〜バルトアンデルスとのバトルもラスボス戦の流れに組み込まれているので、バトルは3戦、その間にそれぞれイベントが挟まれ……という展開になっています。なので、くどいようですが本当に長い!途中でセーブもできませんから、「よし、クリアしよう!」と思ったのならじゅうぶんに時間のとれるときにしましょう。半端な時間に始めてしまうと、「明日に備えて寝なければいけないのに」「もう出かけなければいけないのに」ということになりかねません。……いいかげん、曲の話にいきましょうか。 バルトアンデルス戦後、ついにオーファン出現!というところから流れ始めて、バトルへと貫く楽曲がこちら。ラスボス第一形態というやつです。「降誕」というのは、もちろんオーファンが、ということ。それを荘厳に讃え、かつ威圧的に迫ってくる冒頭からのコーラス、そしてワルシャワフィルが重厚に奏でるフルオーケストラ。「ワルシャワフィルでのコーラス付きオケのレコーディングということで、真っ先に思いついたのがテナーソロ」と語る浜渦氏、「コーラス付きオケ」との表現が示すように、この曲は他の曲のように「コーラスだけラジオ局のブースで別録り」ではなく、まるごと同時録音したということでしょうか。確かにパラ録りしている他の楽曲に比べて、オケとコーラスに一体感があります。コーラスは場所によってはかなり微弱で、もうちょっと前に出しても……というところがないわけではありませんが、一体感や空気感を優先したのでしょう。それに一発録りだと後処理に制限があるので、「コーラスだけ上げる」のはなかなか難しかったりしますし。 ちなみに同時録音と言っても大きく分けて「一発でワンポイント完パケ録音」と「パートごとにマルチマイク録音」という2つの手法がありますが、この曲はどうでしょうね。出音を聴くと前者のような気がしますし、マルチマイク録音したものをあとで整えた音ではないように思えます。後者ならコーラスだけ上げることもできますから。 コーラスの中でも特にテナーソロについては「まさに理想のテナー(2分37秒〜)」だったということで、これならもっとソロパートがあってもよかったか、と浜渦氏は振り返ります。オーケストレーションは平野義久氏、歌詞はディレクターの鳥山求氏によるもの。RPGのラスボス戦音楽としてはまっとうな曲がまず来たな、という印象ですね。王道ですが、ハズシのない曲です。ただ、ゲームではこの前にバルトアンデルス戦がありますので、「宿命への抗い(Disc3-17)」との被りがやや気になりますが……。どっちもコーラスものですからねえ……。いや、あえて被せてあると考えるべきか。 |
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15.罪深き希望 Sinful Hope
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対オーファン第一形態戦のあとに挿入されるイベントで流れるもので、開発終盤にインスピレーションを刺激され、浜渦氏側から急遽提案して制作された曲。いわく、「FF史上最長のイベント用の曲群の一曲目」。で、そんな長い長〜いイベントですが、最初の制作側からのオーダーでは「1曲だけ用意すればいいことになっていた」のだとか。しかし、他の曲を挟み込んだとしてもそれでこの長いイベントを「もたせる」のは難しく、かつ映像を見たら次々とインスピレーションが湧いてきたので、イベントに合わせて複数の専用曲を作ったとのこと。結果、浜渦氏としてはボス戦前のイベントからバトルを経てエンディングへと至る構成は、かなりの自信作になったそうです。 たしかに、エンディングならばともかくラスボス戦前やその中に挟まるイベントとしては、「FF」シリーズはもちろんRPG史上でも例がないものかと(反面、「はやく戦わせろ」とか「映画」とか批難もされてますが)。いくら筆者でも、そんな何でもかんでもRPGをプレイしているわけではないのですが、少なくとも過去に自分がプレイしたものの中では前例のない長さのイベントでした。これがやりたかったんだな、これを見せたいんだなと思うのと同時に、「最初から映像作品ではいけなかったの?」と思ったのも事実です……。「FFVII AC」の前例があるだけに、いま「FF」ってなにげに「ゲームであることの意味」が問われているような気もするんですよね……。おっと、またまた音楽のレビューなのかゲームのレビューなのか微妙になってきました。曲に戻りましょう。 ラスボス戦途中にして、プレイヤーにとってはかなりショッキングなイベントが展開されます。ここまで来たのに……今までやってきたことって……。同時に、筆者にとってこの曲は、ここまでやってきた楽曲の分析が覆される絶望的なものになっています。お聴きの通り楽曲は「閃光(Disc2-1)」もしくは「ライトニングのテーマ(Disc2-10)」のアレンジとなっています。筆者はここまでこの旋律を、あくまでライトニングのものであるとしてきました。「ファングのテーマ(Disc4-1)」にこの旋律が入っているのは、シチュエーションからくる流用であってファングを修飾したものではない、とも結論付けました。しかし、このイベントの主役はファングです。そこにこの曲……ええっ、やっぱりこの旋律はファングのテーマでもあるのか?!それとももっと大きな意味が?!と、そうとう混乱してしまいました。そのうえで無理矢理に定義するなら、「運命に翻弄されつつも抗い戦う者たちのテーマ」といった感じの曖昧な結論にせざるを得ません。かなり気持ち悪いですけどね。残念ながらこのあたりの事情については浜渦氏も語っておりませんし、「FFXIII」の楽曲を詳細に語るネット上のサイトもないので、他に参考にできる意見や分析がありません。 そういえば最近、ネット上のゲーム音楽レビューサイトも少なくなりました。筆者がこのサイトを始めた頃は他にも、ゲーム音楽について自分の感想や分析を細かく、情熱的に記したサイトがいくつもあったものですが、気がつくとそれらはなくなっていたり、存続していても規模縮小していたり、ブログになって多くは語らずというスタイルになっていたりと、現在は非常に残念な状況になっています。「そういう聞き方もあるか」「なるほど、確かにそれは言えてる」と思わされるレビューがないんですね。もっとも対象となっているのが「FFXIII」ではしかたないところもあるのですが、「FFXII」の頃からその傾向はあったと思います。なんだろう……植松氏が離れたからなのかな。それでもまだ「FFの音楽」を語ってるのは筆者ぐらいなのかな、と錯覚してしまうほどの寂しい状態。「ゲーム離れ」と言われれば確かにそうかも、と思わされてしまいます。いわゆるホームページよりもブログやWikiが主流になったこともあると思いますが、筆者はこのコンテンツをブログに移行する気はないですね。ブログにこんな長文が載ってたらウザいでしょ? なお、この曲はすべて打ち込みだそうです。 |
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16.ファブラ・ノヴァ・クリスタリス Fabula Nova Crystallis
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浜渦氏の定義としては「誓い」のロングバージョンとのこと。大森俊之氏にアレンジを依頼し、仕上がりは浜渦氏にとってまさしく「理想通り」だとか。これはラスボスイベント中で流れる楽曲群の中では珍しく、他に流用のある曲です。というか、ラスボスイベントに使ったこと自体が流用なのかもしれませんね。もともとどこに使うことを想定して作られた曲なのでしょうか……。サントラではこの位置ですが、初出はもっとずうっと前です。 やはりこの旋律を聴くとセラ絡みの意味を探ってしまうものですが、ことラスボスイベントに関してはセラは関係ありません。「誓い」とは言ってもここでは「ファングとヴァニラ」のそれになっています。確かにセラのイメージは強いのですが、もともとこのメロディは「誓い」という大きなキーワードに寄り添う楽曲であって、ゲーム終盤は使いどころがかなり柔軟に(別の言い方をすれば曖昧に)なってくるのです。 ここで、この曲に与えられたタイトルを見て下さい。「ファブラ・ノヴァ・クリスタリス」と、神話の名前になってますね。あと付けかもしれませんが、セラ個人とか彼女との誓いとか、単にそういう小さなものを括った曲ではないのです。もっと大きな視点から、ゲーム全体を括っているわけです。そう考えると、直接的にセラが関係してこない様々なところにこのモチーフが流れることについて、理解ができるでしょう。しかし、ゲームを括る大テーマとしては他に「奇跡(プレリュード)」もあるわけで、その使い分けについては多少の行き当たりバッタリ感が拭えません。 もっとも、ここでこの曲に神話のタイトルが与えられているからといって、他の「FFXIII」関連作品にこのメロディが登場するという保証はありませんし、たぶんないでしょう。即ち、同じ神話を核としているはずの「ヴェルサス」や「アギト」にこの曲が流れるかどうか、という可能性です。「FFシリーズ」における、「ファイナルファンタジー」や「プレリュード」のような位置付け……作曲者もそれぞれ異なりますし、まあこれは無印「FFXIII」の中での、という扱いになるでしょうね。 |
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17.FINAL FANTASY XIII 〜奇跡〜 FINAL FANTASY XIII - Miracles
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浜渦氏いわく、「プレリュードの別バージョン」である「奇跡」。作ってはあったものの眠らせてあった曲を、「そろそろデモムービーの曲を考えねば……」という段階で乗せてみたらピッタリ!という経緯は「プレリュード(Disc1-1)」の項で記しましたが、それこそが浜渦氏にとってまさに「奇跡」だったのですね。ラスボスイベント中におけるこの曲は絵にガッチリ合わせてかなり気合いを入れて作り、鳥山ディレクターから「泣けました」とのOKメールが来たときが、氏にとって本作最大のガッツポーズだったとか。こちらもアレンジは大森俊之氏です。2分17秒では「誓い」モチーフもチラッと顔を出してます。 ここに至るイベントはプレイヤーにとって、最大の絶望ポイント。ヒロインも、ここまで育て上げてきた仲間たちも既に亡き者同然、残されたファングとヴァニラも絶対的窮地……そこに!という、まさに「奇跡」が起こるところで鳴り響く曲なのです。確かにプレイヤーにとってはホッと胸を撫で下ろすシーンであり、作り手的にも泣かせのシーンであり、感動させたいところなのでしょうが、どうしてそうなったのか、何が起こったのかについては曖昧にされており、筆者としては泣きというよりも御都合主義的な展開が気になりました。楽曲の盛り上がりで誤魔化されている感じ。まあ、だから「奇跡」なんでしょうけど、このイベント中ずっとラスボス戦のテンションを維持するのは、けっこうツラいかもしれないですね……。 さて、この曲のもう一箇所での使用について。河盛氏によると、音楽側で想定していた尺よりもエンディングのスタッフロール長くなってしまったため「エンディングロール(Disc4-22)」だけでは足りなくなり、「急遽ゲーム中で使った曲をはさみ込んだ」のだそうで、確認していただければわかるのですが、この「FINAL FANTASY XIII 〜奇跡〜」が使われています。スタッフロールまわりの音楽の流れはゲーム中では、「君がいるから」がムービーからメインスタッフクレジットまで流れ、続けて流れ始めてくる声優陣の縦ロールから「FINAL FANTASY XIII 〜奇跡〜」、途中で「エンディングロール」にすーっとなんとなく乗り替わる処理がとられています。 |
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18.使命 Focus
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「奇跡」後から「生誕のレクイエム」までを繋ぎ、緊張感を維持する目的で作られた専用曲。おどろおどろしいストリングスのトレモロ、そしてティンパニが最終戦前のなんとも言えない空気を醸し出しています。まさしく「嵐の前の静けさ」と言うべきか。これなども制作からのオーダーにはなく、浜渦氏からの提案で作られた曲でしょう。 | ||||||||
19.生誕のレクイエム Nascent Requiem
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本当に最後の最終戦であるオーファン第二形態の出現、そしてバトルを彩る「真のラスボス音楽」がこちら。「悲しみや怒り、狂気など様々な感情を一つの曲に表現したくて作った曲」と、浜渦氏はその意図を語っています。「特にミニマルなピアノは凶悪さが出せた」とのことです。ある意味では浜渦氏ならではの曲で、技巧的にはハイレベルな楽曲であることはわかりますが、「"FFXIII"のラスボス音楽」としては、わりと普通におさまったな……というのが正直な印象です。 ここまで様々な楽曲が戦闘を彩ってきたわけですが、熟慮に熟慮を重ねた通常バトル、インパクト重視のボス戦、そしてコーラス入りの特別なボス……そのわりには、ラスボス戦は意外にまともですよね?という。悪い意味ではないですよ、正統派ということです。ミニマルなピアノもマニアックさはあるものの、おおおっ!というほどの要素ではない。第一形態でコーラス入りの「こけおどし」を既にやってしまっただけに、それ以上のものはなかなか難しいですね。別の考え方をすれば、エンディングを立たせるためにちょっとおさえた……ということもあり得るかもしれませんが、ラスボス戦はオマケかい?!となってしまうので、それはないでしょう、さすがに。 2分15秒あたりから左側で鳴っている管は……何かのモチーフを奏でているんでしょうか、どこか聴き覚えがあるのですが……。思い出そうといろいろ考えました。何かに聞こえると言えばそんな気もしますが、そこまで明確なモチーフではない。だいたい、そこまで主張するようには組み込まれていない……でもこのフレーズはぜったいどこかにあった……。そしてその記憶のもとが、「エヴァンゲリオン」の「魂のルフラン」だということに気付いたときは脱力しました。「FFXIII」関係ないじゃん!と自分で自分に突っ込んでしまいました。まあ、既存の「FFXIII」関連曲からのモチーフは入ってないということでいいでしょう。3分40秒からの「お約束の、恐怖を超えたときの優しい展開部」は、なにか入ってそうにも聞こえますが(プレリュード兼ヴァニラのサビ、とか)。 オーケストレーションは平野義久氏によります。 |
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20.決意 Determination
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エンディングムービー前半にかかる曲で、「閃光」を核にしながら「誓い」も盛り込み、ここまで引っ張り続けてきた強いテーマモチーフをドドーッと開放した感じ。オーケストラアレンジは大森俊之氏です。最初の盛り上がりに、聞き馴染みのない、しかし圧倒的な強さを持ったテーマ性のある旋律が現れますが(33秒〜)、これは浜渦氏によると「自分の持ち得るパワー、自分的な旋律で全体を引っ張ろうと考えたもの」だそうです。そしてすぐに「閃光」です(41秒〜)。57秒からは「プレリュード兼ヴァニラのサビ」、続けて「誓い(1分5秒〜)」と、めまぐるしいメドレーになっています。 いったんの空白をはさみ、1分22秒から再度「閃光」です。ここは「FF」のエンディングにはよくある、プレイヤーに解釈を委ねた「何が起こっているのかよくわからない映像」が流れます。とにかく圧巻!怒涛!情報量の多い映像と厚い音楽でとにかく盛り上げる!どうやら良い方向に向かっているっぽいのですが、プレイヤーとしては複雑な心境になるかも。いろいろな意味で。 |
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21.君がいるから (Long Version) Kimi ga Irukara (Long Version)
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言うまでもなく本作の主題歌で、エンディングムービーの大団円で流れるおいしい曲です。歌唱は挿入歌と同じく菅原紗由理。作曲はもちろん浜渦氏が行っています。当初はもっとゆったり歌い上げる曲にしようと考えていた浜渦氏ですが、歌い手の声を聴きポップな印象を受けたため、それを活かした曲調にアレンジしてもらったとのこと。編曲担当はこちらも挿入歌と同じく、菅原紗由理のほとんどの楽曲を手掛けるSin氏。 「普段はヒットチャート上位を……みたいな音楽をやってきたわけではないので、そういう狙いもあるこの曲では、自分はFF13の世界観を伝える役割に徹しました。そこからは菅原さんの音楽のほぼすべてを作編曲されてきたSinさんにお願いし、徹底的にアレンジしていただきました。このエンディングまわりのシーンの流れは大変素晴らしく、是非ゲームを最後までじっくり堪能していただきたいと思います(浜渦氏のコメント)」…… あまりに制作者が「大変素晴らしい」と自画自賛しすぎるとユーザーはむしろ醒めてしまうものですが、それはそれとして置いときましょう。ここで言いたいのはもちろん、音楽についてです。「FF」は(というかゲーム業界は)どうも既存のアーティストや大物、そうでなければ売り出し中の若手からこれは!という歌手を発掘、ということに拘る傾向があるのですが、もうそろそろそれはいいだろうと。菅原紗由理は「XIII」発売時点ではそれほどブレイクしていたわけでなく、「X-2」の倖田來未もそう。倖田サンはその後売れると「X-2」に関わっていたこと自体を黒歴史にしているフシがありますし、要は双方にとってどの程度メリットがあったのよ?ということ。ゲームファンはどの程度、主題歌歌手のCDを買ったのか?歌手のファンがどれだけ、ゲームに流れてくれたのか?ということを考えると、それほど大きな恩恵があったとは思えません。「FFVII」のファンでGacktのCD買った人いる?Gacktファンは「DC FFVII」プレイしたの? であれば、「FFXIII」においては劇伴曲においても、失礼な言い方になるかもしれませんが、それほど知名度はなくとも素敵なボーカリストが参加してくれていますから、いっそそういう人に主題歌をやってもらっていいんじゃないかと。どうしても外の歌手をタイアップ込みで使うと、その歌手の作品としても成立させなければならないため「ゲーム中の印象的なモチーフは使わず」とか、「ゲーム的な単語は入れずに」といった制約が生じてしまうものですが、制約のない歌い手を起用して作品の世界観にベッタリ寄った主題歌があっていいし、あるべきだと思います。エンディングで流れるこの主題歌に、もしも「誓い」のモチーフが思いっきり入っていたら泣けたかもしれません(その場合、もちろん周辺の楽曲構成も考えなければなりませんが)。いまやゲームに主題歌が入ってること自体が珍しくもなんともないわけで、そろそろ考え方をシフトしてほしい。メインコンポーザーが主題歌を手掛ける機会に恵まれた「FFXIII」であればこそ、よりそのことが悔やまれます。後世に残る「主題曲」はおそらく、過去の映画などを振り返っても本編との密接な関連性を抜いては存在し得ないわけで、おそらくこの曲は数年経ったら(もしかすると既に?)、忘れられていくタイプの主題歌だと思うのです。残念ながら。 |
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22.エンディングロール Ending Credits
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本来はスタッフロールにのみ流れる曲なのですが、実はゲーム中で一度流れています。ムービーではあるのですが、スーリヤ湖でのイベントに途中からの部分を使用しているのです。普通、エンディングやスタッフロールの曲というものは特別なものであり、まず流用など考えないわけなのですが、浜渦氏が絶賛する鳥山ディレクターの「選曲センス」はそんなことおかまいなし!エンディングの曲だろうと何だろうと、合うところがあれば使っちゃうよーという。その良し悪しをここで論ずるつもりはありませんが、受け取り方はそれぞれだと思います。筆者は古い考えの持ち主なので、まさかエンドロールの曲をイベントに転用しているなどとは思いもしませんでした。ですから音楽の使用箇所を洗い出すにあたり、上のイベントシーンで流れた曲がサントラのどこを聴いてもないんですよ。もちろんエンドロールの曲は聴いてません。あり得ないと思ってますから。しかたなく、サントラ未収録曲か?と捜索を保留にし、ゲームをクリアしたとき……「まさか、これか!」と。いや〜、やられました。 冒頭は「誓い」モチーフから静かに始まります。しばらく「誓い」のサビを管弦で繰り返し、43秒でふっと静かに。チェロのソロが一瞬入った後、あらためて「誓い」が奏でられます。清々しい木管が印象的です。2分19秒でヴァイオリンが「閃光」のフレーズを奏でながら楽曲は沈静化していきますが、2分54秒から再び盛り上がり、ラストに向け「誓い」で締め括ります。やはり、本作の音楽的な大テーマは「誓い」なんだと言うことができます。最後の最後、大エンディングでここまでプッシュされたら、それ以外にはあり得ないでしょう。圧巻のオーケストレーションは平野義久氏の手によるもの。 ところが、エンディングロールが当初の想定よりも長くなったため、この曲だけでは足りなくなってしまったようで、河盛氏によると「急遽ゲーム中で使った曲をはさみ込んだ」とのこと。そのため、ゲーム中ではこの曲の前に「急遽はさみ込んだ」という「FINAL FANTASY XIII 〜奇跡〜」が流れます。ということで結局、ゲーム中でのスタッフロールまわりの音楽の流れは、「君がいるから」がムービーからメインスタッフクレジットまで流れ、続けて流れ始めてくる声優陣の縦ロールから「FINAL FANTASY XIII 〜奇跡〜」、途中で「エンディングロール」へと乗り替わります。「FINAL FANTASY XIII 〜奇跡〜」のラストと「エンディングロール」のアタマに「誓い」モチーフが被っているため、前者は完結させずにコーダへ向かってフェードアウト処理がされています。別に被せてしまってもうまく繋がったのでは?とも思えるのですが、そうすると逆に尺をオーバーしてしまうのかも。まあ音楽チームにとっては「想定外」の事態だったのでしょうが、「結果的にはより盛り上がる形に仕上がったので、嬉しい誤算でした」とは河盛氏の談。確かに、当初のプラン通りに「エンディングロール」だけだと、やや寂しかったかもしれません。「FINAL FANTASY XIII 〜奇跡〜」が挟まることでゲームをクリアしストーリーを見届けた充実感と達成感が際立ち、ユーザーの満足感を高めるはずです。さらに、ゲームのスタートとエンドを同一テーマが括ることにもなり、さらなる統一感も出ています。まさしく「嬉しい誤算」と言えますね。 |
関連CD | |
FINAL FANTASY XIII Original Soundtrack PLUS SQUARE ENIX SQEX-10192 2010年5月26日発売 JASRAC表記:なし 本編発売前のPVで使用された音楽をはじめ、海外版で手が加えられた楽曲やデモバージョン、本編で「実はちょっと違うバージョンでした」という曲をギュッと詰め込んだサントラ「プラス」。かなりマニアックな商品になりますが、ここまで追いかけたらホンモノ。 詳細は別頁でレビューしていますので、ぜひ一読を。 |
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Piano Collections FINAL FANTASY XIII
SQUARE ENIX SQEX-10196 2010年7月21日発売 JASRAC表記:あり 浜渦氏自身がアレンジした、「FF」シリーズではおなじみの「ピアノコレクションズ」。「XII」では出ませんでしたが、「XIII」で久々の復活です。ピアノ演奏は黒田亜樹さん、ということは「FFX」のピアノコレクション以来の浜渦・黒田コラボになりますね。浜渦氏にとってもかなりの自信作として仕上がったようです、要チェック。 詳細は別頁でレビューする予定です。 |
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菅原紗由理「君がいるから」
FOR LIFE MUSIC ENTERTAINMENT 初回生産限定盤:FLCF-4310/通常盤:FLCF-4311 2009年12月2日発売 JASRAC表記:あり 言うまでもなく、本編の主題歌と挿入歌をカップリングしたマキシシングルです。菅原紗由理としては2ndシングルになります。初回限定盤はDVDが付属し、本編のTGS Ver PVが収録されています。ほかに、限定盤・通常盤とも初回プレス分のみ、「ルシの刻印シール」が付いています(笑)。 サントラにも入っていますが、ゲーム用にサイズなどの調整をしたものですので、彼女の曲が気に入った方はオリジナルのシングルで聴くべしです。私はこんなサイトやってるので当然購入してますが。「君がいるから」はミックスの印象がだいぶ違ってます。 |
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W/F:Music from FINAL FANTASY XIII 完全限定12inch アナログ・レコード SQUARE ENIX 2010年2月26日発売 スクウェア・エニックス e-STOREでのみ限定販売された、「FFXIII」の音楽を収録したアナログレコードです。最初はコレクターズ・アイテム的色合いの強い「企画」でしたが、カッティングに立ち会った浜渦氏はその出音にいたく感動。やはりデジタルのように可聴外帯域カット/圧縮をしないアナログの音はぜんぜん違うのです。アナログで出す意義の強いオーケストラ曲を中心に全8曲をチョイス。中でもここにしか収録されていない「ラグナロク - Sans Pipe Organ -」がレア。パイプオルガンをカットした、コーラスのみのバージョンです。 |
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SIDE-A 歓楽都市ノーチラス ファングのテーマ サンレス水郷 父ちゃん奮闘だぁ! |
SIDE-B パルスdeチョコボ 色のない世界 閃光 ラグナロク - Sans Pipe Organ - |
W/F:Music from FINAL FANTASY XIII -Gentle Reveries- 完全限定12inch アナログ・レコード SQUARE ENIX 2010年6月30日発売 限定販売のアナログ盤、第二弾。前回好評だったため実現した企画だそうです。今回はオケものからデジものまで幅広いタイプの楽曲をセレクト。中でも聴きものは、新たにレコーディングされた「セラのテーマ/海外 Version」。歌を録音し直しているとのことで、日本版とは異なっているんです。まあ、日本でも海外版のゲームがXbox 360で発売されることになりましたし、そのうちサントラも出るかもしれませんね。 |
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SIDE-A FINAL FANTASY XIII プレリュード ブレイズエッジ セラのテーマ/海外 Version 宿命への抗い |
SIDE-B ドレッドノート大爆進! スーリヤ湖 ヤシャス山 Choose to Fight |
資料:体験版の音楽について | ||
Blu-ray版「FFVII AC」である、「FFVII AC Complete」に付属していた「FFXIII トライアルバージョン」内の楽曲についても触れておきましょう。この体験版は、製品版における第1章がプレイできますが、結論から言えば楽曲の使いどころは製品版と同じです。曲そのものはまだ最終調整を終えてないのかな、というバランスのものもありますが、基本的なアレンジや旋律はこれも本チャンと変わりません。音楽については本当に「以上!」という感じで、過去の「FFVII体験版」や「FFVIII体験版」のような、製品版との大きな差異はありませんでした。それよりもグラフィックや戦闘システムの変わりようが興味深く……。エフェクトやライティングの調整が行われていないグラフィックとか、ユージュがまったく違うキャラクターだったりとか……。持っている人はやってみて下さい。 ファイナルファンタジーVII アドベントチルドレン コンプリート (限定版:PS3版「ファイナルファンタジーXIII」体験版同梱) Blu-ray Disc |
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資料:海外版の主題歌について | ||
これまでの「FF」シリーズでは、国内版と海外版のテーマソングは共通、もしくは歌詞のみ差し替えで原曲は同一という形を採っていましたが、「FFXIII」では曲そのものが変わっています。「君がいるから」にあたるテーマソングは海外版では、Leona
Lewis(レオナ・ルイス)の「My Hands」になっています(レオナ・ルイスのセカンドアルバム「Echo」に収録)。即ち、思いっきり既存曲であり、浜渦氏はいっさい絡んでいないんですね。うーん、微妙……。せっかくだから海外版も手掛けてほしかったところです。 そういえば、海外版って挿入歌の記述がないですよね。花火ムービーのところは何がかかっているんでしょうか。そこで思い出すのが、「海外版では"セラのテーマ"のゲーム中で鳴る場所が1箇所増えている」ということ。もしかすると花火ムービーでは「セラのテーマ」が流れるのでは? なお、海外版は「ULTIMATE HITS INTERNATIONAL」という形で、国内でも2010年の12月16日に発売されることが決定しました。ただし、Xbox 360ソフトとしてね。発売後1年、「国内ではPS3のみです」とか言いながら結局360でも出すんかい!と全力でツッコみたいところですが……。DVD3枚組で、もちろん英語ボイス、音楽も海外版のものになっていますので、そのあたりの差異が気になる人にとっては、手軽に確認できるようになったのは歓迎すべき?途中で投げ出し「クソゲー」の烙印を押す人があまりに多かったからなのか、イージーモードを実装。ブレイクし易いとか、AIの調整(ヘイストを早めに使うとか・笑)などが行われているようです。
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総評:「FFXIII」の「音」について | ||
音楽それぞれについてはもう、語りすぎるぐらい語らせていただきましたので、ここでは「総評」的に、効果音も含めた「"FFXIII"全体の音」についてもう少し、語らせて下さい。 ここまでも何度も記してきた通り、用意されたテーマとその使い方はかなり上手くいっており、作曲者(浜渦氏)とディレクター(鳥山氏)とのやり取りがかなり密に行われたのであろうことが窺えます。全編に渡って選曲とその鳴り出すタイミングなどを自ら決めたという鳥山氏、浜渦氏も絶賛するそのセンスはなるほど、確かに優れています。ちょっとした楽曲の音のスキマで鳴り止ますことで完結したかのような効果を出したり、一瞬の「ス」でセリフを際立たせたり、またはマップやバトルを1曲で通したりと、音楽のもたらす効果を知っているからこその演出が随所で光っていました。選曲もおおむねハズシがなく、これは浜渦氏側からも楽曲の意味や特定テーマの派生である旨が詳細に鳥山氏へ伝えられていたからでしょう。「はい、曲できたからあとはよろしく」では為し得ない、計画的な音楽設計が行われていました。これについては昨今の「FF」、過去の「植松FF」すらも超えるレベルであると評価できます。ここをお読みの方は当然了解済みでしょうが、もちろん植松氏の音楽と浜渦氏の音楽そのものを比較して優劣をつけているのではありません。「使い方」のことを言っています。誤解なきよう。 効果音についても、個々の音はかなりゼイタクに作り込まれており、システム音、エフェクト音、フォーリーも含めた現実音の類は「FFXII」までの作品を振り返っても、これも「XIII」が一歩リードしています。イベントやバトルにおける効果音の付け方も過不足なく、良いバランスで付いていました。特に、完パケのムービーではないリアルタイムイベントにおけるフォーリーは、「ゲームの音もここまできたか」と思わせるにじゅうぶんなものだったと思います。 ただ、気になるところもなかったわけではありません。イベントにおいてはキャラクターの心情的なモノローグやナレーションが前面に出ることも多々ありましたが、しばしば「ナレーションバックで演技するなにげないキャラクターたち」に対する音付けがおかしなことに。そういうシーンではナレーションの邪魔をしないように、キャラクターたちが何か話しているようでも声は乗せられていなかったりしますが、そのわりにSE(足音やキヌズレ)だけ鳴っているのはどう考えてもおかしいですよね。それをやるならボイスもOFFで乗せないとダメです。それがダメならSEも外してサイレントにするべきでした。人の声が届かないのに聞こえてくる足音やキヌズレって、どれだけデカい音なんですか。 また、本作ではコンフィグに、音量に関する項目がありません。普通はBGMやSEのバランスが調整できるようになっているものですが、サウンドディレクターの矢島友宏氏によると、「コンフィグが必要ないぐらい、バランスをしっかり調整した自負があるから」とのこと。凄い自信ですし、おおむねよくできていることは筆者も認めます。が、やはりコンフィグは用意した方が親切です。ユーザーの視聴環境なんて千差万別バラバラであることを忘れてはいけません。当然、調整は複数の環境で行っているとは思いますが、ボイス系の音量が甘いところがありますね。字幕をなくすと何を言っているのかわからないのでは、ボイスである意味がありません。さらに、ボイスどうしが重なったときの処理ももう少し頑張ろうよと。たとえばラスボスイベントなどは顕著な例で、オーファンがファングを痛めつけているシーン。字幕ではオーファンのセリフが出ているのですが、そのボイスはファングの絶叫とSEに完全にマスキングされているんです。聞かせたいのはどっち?ということですね。 あと、これはシステム上のこともあってサウンド関連だけの問題ではないのですが、本作ってモブ(マップ上に配置されているNPC)に近付くと勝手に声が聞こえてくるじゃないですか。あれ、やっぱりユーザーの意志で話しかける方が良いですね。壮大な実験としてはアリでしたが、結果的にあまり効果的でないことが今回わかりました。電車の中での携帯電話と同じで、自分が聞きたいと思わない勝手な音(特に人の声)は、不快なノイズにしかならないということ。聞く気のない話し声が本人の意思を問わずに耳へと飛び込んでくる不快感、本作ではそれを感じさせてもらいました。今後はあのシステム、いらないですね。現実世界での「リアルさ」を求めるとああいう発想になるのはわかりますが、やっぱりゲームなので。雑然とした「ざわざわ」ならともかく、あそこまでくっきりと会話が聞こえるっていうのはちょっと……。「なんか言ってるぞ?」と足を止めて耳を傾けると、たいしたことのない話だったりして。 もう一点、これはコンフィグとかではどうしようもないことですが、仮にゲーム中の音量バランスはできていたとしても、意外に見落としていることがあると思います。それは、「完パケムービー」と「リアルタイムゲーム」との音量差。簡単に言えば、ムービーの音がデカいんです。完パケムービーの音はそのノウハウを持つ外部のスタジオ、外部のエンジニアによってMIXされていますが、極めて映画的な、音圧MAXのミキシングが行われています。それをそのままゲーム中に放り込んでいるため、それ以外の「通常のゲームの音量」ととんでもない差が生じているのです。このあたりもなんとかしないことには、快適とは言い難いですね。トータルのサウンドディレクションとしては「うーん、もういっちょ!」という感じです。 近い将来、そういった部分も改善された「いうことなし!」な作品に出会えることを望みます。 |
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