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FINAL FANTASY XIII Original Soundtrack -Plus-
ジャケット画像 SQUARE ENIX
SQEX 10192
2010年5月26日発売
JASRAC表記:
なし

このCDアルバムを購入できます。
 ゲームとしての評価は芳しくなかったものの、音楽は頑張ってた……それが「ファイナルファンタジーXIII(以下"FFXIII")」に対する、一般的な印象と捉えて間違いはない。"音楽すべてとは言わないまでも「閃光」は良かった"など、とにかくあらゆる部分で悪く語られがちな「FFXIII」において、良かったところを挙げるとするなら音楽、という意見は少なくない。そんな音楽を紡ぎ上げたのは、「大作RPGを制作しているゲーム会社に入り、そういったゲームの音楽を作曲したい」と、いちゲームユーザーの頃から想い続けていた、スクウェア・エニックスの浜渦正志氏(現在は退社しフリーに)。言わば「夢が叶った」とも言うべきナンバリングの「FF」を、「XIII」で任されたのである。もっとも伏線はそれ以前からあり、「FFX」では"FF音楽の父"植松伸夫氏とともに音楽を作り、またスピンオフの「DC FFVII」も担当。プロデューサーの北瀬佳典氏はこの時点で既に、「FFXIII」を浜渦氏に任せようと考えていたという。「XIII」はやはり、壮大なオーケストラだろうと想定していた北瀬氏にとって、「DC FFVII」ほかで耳にした浜渦氏のオーケストレーションがかっちりとはまっていたのだろう。

 そのような経緯があり、ついに一人で「FF」のナンバリング作品を担当することとなった浜渦氏。その気合いの入りようはとてつもなく、およそ氏が持ち得る「引き出し」をすべて投入して作曲にあたった。ほぼ独学で音楽を学んだ植松氏とは対照的な「学のある」アカデミックなオーケストレーションと、それとは真逆な手法でありながらも完璧に体得している「打ち込み」を併用し、両者の良い部分を組み合わせた「ハイブリッド」な楽曲を生み出しつつ、ある楽曲はブラス主体の生バンド、またある曲はブルージーなギターインストゥルメントと、幅の広さも「植松FF」にひけをとらない。ナンバリングシリーズでありながら「FFX-2」のように既存ナンバーを排除したことへの批判、もっと単純に植松氏のファンからの幼稚な拒絶を受けながらも、個々の楽曲のクオリティはもちろん、楽曲に意味を持たせた組み立ても、筆者は一級品の仕事だと思っている。

 ゲームをプレイせずに、もしくは途中で放棄したうえで楽曲のみを取り出し非難することは容易い。「FFXIII」という、ゲームの不出来さから派生して「音楽も良くない」と言うことは簡単だ。そしてそれは個人の自由である。しかし、筆者はそのような意見に対して、「何を聞いているのだろう?」と疑問を抱かずにはおれない(そういう疑問を抱くこともまた、自由であろう)。昨今のRPG音楽において、ここまで考え抜かれた作品があっただろうか?もちろん、「ゲーム音楽」も音楽の一種である以上、曲単体を評価されることもあるだろう。それは誰も責められない。曲のみを聴いたときに気持ち良くない、良いと思えないという意見があることも承知している。が、やはりゲーム音楽というものはゲームに寄り添うことを前提に作られたものであり、最優先に評価すべきは「ゲームに合っているか」「上手く寄り添っていたか」ということではないだろうか。「FFXIII」ではそれがどのように為されていたかについてはオリジナルサントラのレビューを参照していただくとして、さて、「-Plus-」である。

 PV(プロモーションビデオ)から始まっていくつものデモやバリエーションが作られた、「FFXIII」の音楽。海外版の発売にあたってはさらに、一部の「歌もの」の歌詞を差し替えたりと、さらなる派生曲が生まれている。これら「サントラ」の枠に当てはまらない楽曲の中で、「コクーン de チョコボ English Version」ぐらいは配信だけでもしたいね……と、浜渦氏はスタッフと話していたという。そのうちに「あれも、これも」と候補曲が挙がり、いつしか「サントラ未収録曲を集めてCD化」ということに話は膨れ上がっていった。そうして発売されたのがこの、「FINAL FANTASY XIII Original Soundtrack -Plus-」である。CDが売れないと言われている昨今、このような形のCDアルバムが発売されるのはゲーム音楽ファンとして嬉しい限り。サントラでない以上、どこの層をターゲットとした商品なのかその立ち位置は微妙であるし、採算が合うのかどうか心配もするのだが、それでも企画・発売を実現してくれた浜渦氏と関係スタッフに、いちファンとして感謝したい。

 ということで、「-Plus-」のレビューは本編のサウンドトラックについて把握している方を対象と想定して書き進めるので、そうでない方はぜひ予習をしていただきたい。もちろん、ゲームをプレイしていただくのがよりベターである。

CDはこちらから購入可能です。

ネタバレ成分多数ですのでゲーム未クリアの人はご注意を。未プレイの方はぜひプレイしてみて下さい。

01.PV「FINAL FANTASY XIII 2007 JFS」
2007年に開催された「ジャンプフェスタ」のために製作された楽曲で、いわゆるゲーム発売前のプロモーションビデオ("PV"というのはその略)に充てられたものです。同時にこの曲で、本編の楽曲において随所で行われている「かぶせ」の検証が行われています。サントラのレビューを読み込んでいただいた方はご存知だと思いますが、「FFXIII」の楽曲製作においては「シンセの上に生楽器をかぶせる」、通称「かぶせ」という手法が多用されています。一部の曲はワルシャワフィルでフルオーケストラ録音がされているものの、そうではない曲においてもフルオーケストラのような厚みが欲しい場合に、オーケストラをシミュレーションした打ち込みの上に小編成の生楽器を乗せることで、打ち込みの緻密さと生演奏のダイナミクス両者を併せ持つ、スケール感のある仕上がりを実現したのです(これは、映画界では定番の手法だったりします)。

生演奏ではぼやけがちな緻密な音のラインや輪郭のエッジは、打ち込みの方がカッチリと出せます。逆に、打ち込みでは再現の難しい特殊な奏法やニュアンス付け、またオーケストラの厚みや空気感などは、生演奏がベター。これらを重ねることで、両者の長所を取り込むわけです。ただし、単に重ねるだけでは混沌とするだけで、音楽的に成立させるには打ち込み音源と生楽器の微妙なピッチ差や揺らぎを合わせなければならず、最終的にバランスをとるミキシングも難しいものになります。この曲はそれを最初に行ったもので、打ち込みはもちろんスコアリングからミキシングまで全て自分で行う必要があり、とにかく時間がかかったと浜渦氏は振り返ります。曲の設計や完成形がわかっているのは浜渦氏しかいないわけで、自分でやるしかなかったのですね。試行錯誤を繰り返し、このような形になるのに1ヶ月かかったということですが、その後は経験値が溜まったのか徐々にスピードが上がり、本編の楽曲の多くで「かぶせ」を行うことができたのです。

楽曲を聴けば、冒頭が「プレリュード(ちなみに、シリーズおなじみのあの"プレリュード"ではありません)」で始まるのはすぐにわかります。その後でバーンと盛り上がるオーケストラ(24秒〜)、PVのつかみとして派手さも必要ですね。そこから繋がって35秒からは言うまでもなく「閃光」モチーフです。42秒あたりに一瞬入る、シンセベースの低音は「運命への反逆」の冒頭部分にも聞こえます。47秒から再び「プレリュード」のモチーフ(ヴァニラモチーフとも言えますが)、緩急をつけながら楽曲は進行し、1分23秒から再び「閃光」モチーフがメインに。時折「プレリュード」も顔を出しながら疾走感を増しグイグイと引っ張っていきます。1分58秒、一転して静かになる部分で聞こえてくるピアノは、「足音のモチーフ」。浜渦氏の言葉によれば「誰それのテーマというわけではなく、ゲームに統一感を出すべくそこかしこで聞こえる"FFXIII"の足音」ということで、本編の楽曲のいつくかで耳にすることができました。ラストは弦楽でしっとりと「プレリュード」を奏でて締めくくります。

基本は「プレリュード(ヴァニラのテーマ)」と「閃光」、「足音モチーフ」で組み立てられており、この段階からこれらの要素は確立されていたのだということが窺えます。こういうPV用楽曲は通常ならサントラのボーナストラックになるか、そうでなければ「PVでしか聴けない音源」となり、CD化されないことの方が多いものです。「FFXIII」も本編の楽曲数が多いためサントラには入れられませんでしたが、このように追加盤に収録されたのは本当に嬉しいですね。このクオリティ、埋もれさせるには惜しいじゃないですか。もちろん、作り手も同じ想いだったのでしょう。
02.PV「FINAL FANTASY XIII 2006 E3」
トラック1のジャンプフェスタよりもさらに前、2006年のE3で発表されたPVのために作られた楽曲です。E3が何かわからない人は、ちょっと勉強が必要。ゲームやその音楽に興味があるなら、E3のことぐらいは知っていた方が良いです。さすがにそれを説明するとただでさえ長いレビューが余計に長くなりますんで……。ということで、海外でも注目されるわけですから、そりゃ気合いが入るというもの。これが、浜渦氏が「FFXIII」のために最初に製作した楽曲になります。本編の「第13日」の原型になったのであろう、緊張した高音のストリングスでそろそろと始まり、38秒から「運命への反逆」と同様のシンセベース、ギターのリフ、ドラムが鳴り出します。このドラムは本編のものとはまた違う音色ですね。生ドラムのサンプルを切り刻んだような音色ですが、本編ではもっとエレクトロ寄りな音になっています。そのまま50秒の「閃光」になだれ込むという形です。ラストは「プレリュード」を思わせるフレーズ(2分7秒〜)を奏でつつ、「閃光」モチーフをリフレインして完結しています。

それにしてもPV用とは言っても「閃光」部分はほとんど製品版と変わらない仕上がりになっており、「閃光」はかなり早い時期に固まっていたものと思われます(製品版の「閃光」の、いわゆる"フルバージョン"にあたるのがこのトラックなのだとか)。なお、筆者は本編のレビューで「閃光」について「ドラムスはもっと出しちゃっても良かった」と書いたのですが、このPVバージョンはそのイメージに近く、ドラムスの聞こえ方が製品版の「閃光」よりも前に来てます。このようにアレンジはほぼ固まっていても、ミックスは完成に至るまで何度も調整しているんですね。こういうCDはゲーム音楽の「設計図」の断片を見られるようで、研究材料としてほんとうに面白いですし、有難いです。これが発売できるのも「FF」だからでしょうか。浜渦氏がこのCDを企画した意図のひとつとして「音楽の制作現場の雰囲気を感じてほしい」「ゲーム音楽作りの裏側を見てほしい」というものがあったようですから、まさに筆者のような人間にとってはツボですね。

我々が「FFXIII」に関する音楽を初めて耳にしたのも、このPVになるでしょう。最初にこのPVを見たとき、CGには慣れっこになっていたものの、単純に「音楽すげえ!期待できる!」と思ったものです。ネット上での感想も「音楽かっこいい」「バイオリンたまらん」といったものを多く目にしました。浜渦氏としてはこの楽曲はあくまでE3に向けて製作し、その後は1年ほど使えればいいと思っていたらしいのですが、ゲームの発売後もあちこちで使用されたそうです(ゲーム中では流れませんが)。


03.M1 No. 2 title a(アルファ) Version
本編のタイトルチューンである「FINAL FANTASY XIII 〜誓い〜」のデモバージョンだそうです。デモということはおそらく大部分はシンセということになろうかと思いますが、プロのデモというものはこれほどのクオリティなのか、と驚愕せざるを得ませんね!素人のMIDI職人が束になってもかなわないですよ、これは。今ではPCベースのソフトウェア音源で、音色だけなら限りなく生に近いものがいくらでもありますが、やはり奏法や音の重ね方を理解していないと宝の持ち腐れになってしまいます。

16秒あたりからチラッと聞こえる、広がりのあるシーケンス。そして同じようなシーケンスが1分4秒あたりから再び現れていますが、このいかにもシンセなパートは「すべて生に変えよう」との浜渦氏の意図から、本チャンでは使用されていません。後半のシーケンス部分は、本チャンバージョンでは弦に置き換えられています。ただ、このシンセパートもおおいにアリという意見が多かったようで、浜渦氏はどちらを活かすべきかレコーディング直前まで悩んだとのこと。「ハイブリッド」ということではシンセもありだと思いますが、曲の質感から言うと弦にしたのは正解でしょう。もっとも好みでしかない問題とも言えますが、皆さんもサントラ収録の本チャンと聴き比べて、どちらが良いか考えてみるのも面白いのでは。

曲名は、開発中のMナンバーでしょう。「制作過程を感じてほしい」という意図から、あえてこのような曲名にしてあるとのこと。「M1」というのはおそらく、開発中に想定される使用順、もしくは単に作曲順を表す便宜的な番号。「No.2」は、いくつかある候補のうち2番目ということ?「title」はタイトル画面での使用を想定したもので、「a(アルファ)」はそのうちのひとつということでしょうか。こうなると他のバージョンも聴いてみたいと思うのがファン心理ですが、作っていくうちに当然「これはアリ、これはナシ」とふるいにかけられていくわけで、すべてのバージョンがここまでのクオリティに至っているとは考え難く、中には作り手として「これは発表できん」というものもあるのでは……。筆者なんかは、そういうものもぜひ聴いてみたいですけどね。
04.M3 No. 4 BossA a(アルファ) Version
本編での中ボス戦音楽とでも言うべき「ブレイズエッジ」のデモ。なのに、この完成度。このままゲームで流れても、何の違和感もないのでは……。実はこれ、生オーケストラをかぶせる前ということで、シンセ音源による打ち込みなのです。ひと昔前の「打ち込み」をイメージしている人にとっては、驚きのクオリティなのでは?!「デモできましたよ〜」とこれを聞かせられてしまっては、そりゃあディレクターやその他スタッフも「もうこれで完成でいいじゃん」と思うでしょう。浜渦氏はもしかしたら全力でデモを作ることで、かえって周囲の理解を得られないという「損」をしていることもあるのではないか、と邪推してしまいます。氏のインタビューや解説を読んでいると、何度かそのような記述があったもので……。それは、この曲も例外ではなかったようです。

この後、完成に至るまでに生オーケストラがかぶせられたり、ピアノが差し替えられたりしていき、その違いは一耳瞭然というほどにクオリティを上げていきます(ぜひ、サントラの本チャンと聴き比べて下さい)。しかし開発中、実際にゲーム内に充てられた最終バージョンに至った楽曲のいくつかが、古いデモバージョンに戻ってしまうというトラブルが発生。浜渦氏によると「原因不明の事故」ということでまったく不本意なものであったわけですが、スタッフから「なんかボス曲がカッコよくなってるんですが、またいじりました?」と指摘されたとか。デモの方を「さらにカッコよくなった」と感じる人が実際にいたわけで、そういう人たちを「いやいや、生を入れた方がいいから」と説得し、時間と予算を捻出するのはけっこう大変なんだろうな〜と思ってしまいます。
05.M306 OPN2「運命への反逆」パラメキア突入 Version
こちらはデモでもなんでもなく、ゲーム中に使用された音源。いわば「別バージョン」ですね。「運命への反逆」はゲームのキモとなるところで何度も使用されていましたが、実はこの「パラメキア突入バージョン」の方が使用回数は多いのです。サントラ収録のものの方が、出番が少ない。おそらく曲の長さとCDの収録時間との都合からそうなったのでしょうけど、サントラバージョンはなんとゲーム冒頭のシーンでしか流れていません。あとの使用箇所はすべて、こちらの「パラメキア突入バージョン」なんです。ちなみに以下の通り。
第4章 ライトニングとホープをPSICOMの抹殺部隊が襲う〜そのまま戦闘へ
第7章 ホープの家を襲うPSICOM、プレイヤーが脱出するまで戦闘を通して流れる
第9章 主機関室以後、サッズ側・ライト側通してのマップBGM
第9章 パラメキア艦首通路〜ブリッジに辿り着くまでのBGM
第12章 AMPで高所から飛び降り〜聖府首都エデン・サイドウォークマップBGM
第12章 プラウド・クラッド戦後、真実を知る自分たちにしかできないことがあると
 奮い立つ一行、「人間らしくやってやるさ」

浜渦氏によると、「本来はほんの一部で使う予定が、各シーン割当数の計算違いであちこちに流れることに」とのこと。そんなこともあるんですね〜。サントラバージョンと「パラメキア突入バージョン」の違いは、比べればすぐにわかります。前者はイベントに合わせた形で完結しているのに対し、「パラメキア突入バージョン」は完結せずに続いていきます。具体的には、1分58秒までの両者はほぼ同じで、「パラメキア突入バージョン」はその後もリズム主体のアオリが2分以上続くのです(その後、アタマに戻ってループします)。ゲーム中でも長く流れるシーンが多いため、このリズムにけっこう引っ張られるんですよね。初めてサントラを聴いたとき、自分の知ってる「運命への反逆」と違うんでかなりガッカリしたものです("PLUS"収録バンザイ!)。このリズムパートが、いわゆるテクノやダンス系のビートともまた違う感じで、今で言うとエレクトロってとこなんでしょうけど、カッコいいんですよね。おそらく鈴木光人氏の仕事だと思うんですが、そういえば鈴木氏は「FFXIII-2」でもコンポーザーの一人として大活躍。「XIII」のときにこのようなサウンドを組み込んでいたことで、けっこう両者のサウンドに統一感が出ていて良い効果を生み出している、と筆者は感じています。もちろん浜渦氏の存在はあるとして、「XIII」と「XIII-2」の音はかなりの部分で鈴木氏が共通項を作っていると思うのです。

ついでに述べておくと、「FF」シリーズの派生作品「DISSIDIA 012 FINAL FANTASY」に「閃光」のアレンジが使われているのですが(サントラにも収録)、それは「閃光」に「運命への反逆」のリズムを発展させて乗せたものになっているんですよ。アレンジ担当はもちろん、鈴木氏。「アレンジ」というよりは「リミックス」という感じで、音源はオリジナルから拝借しているようです。こちらも派生アレンジとしてぜひ聴いてみて下さい。アレンジするのにオリジナルの音を使うのは、原作に参加していた特権というか、「ズルい!」という感じもあるのですが(笑)。



「DISSIDIA 012 FINAL FANTASY」サントラ
06.Hope_PfNer3
こちらは再びデモバージョン、「ホープのテーマ」のピアノ版です。サントラにも収録されている、ゲーム中での「ホープのテーマ」はアコースティックギターで奏でられていましたが、浜渦氏はもともとピアノでスケッチしていたのです。しかし、製品版では他にピアノ曲が多数存在していたこともあってか、氏としてはホープはアコギのイメージでいきたかったため、ピアノスケッチは誰にも聴かせなかったとのこと。うーん、聴かせたらぜったいに誰かが食い付いて、ゲーム中で使われていたでしょうね。ピアノはわかり易い楽器なので。

このトラックはフェードアウトする形で完結せずに終わりますが、実はこの倍ぐらい展開があって、完結する形になっているんだそうです。浜渦氏が「さすがに雑多」と判断したため、CDにはこのような形での収録となったのだとか。うーん、そんな半端な「生殺し」をするぐらいなら、いっそ入れてくれない方が……。だって、続きが聴きたくなるじゃないですか。もしくは、「実は続きがあるんです」みたいなことは言わないでいてくれた方が……。さらに、元々はもっと「ざっくり」としたデモで、CD収録にあたってわざわざ作り直してるそうなので、それなら全部入れてくれたらいいのにー、と思うでしょ、そりゃ。
07.M42E「サンレス水郷」海外 Version
こちらはデモではなく、ゲームでも使用されているもの。とは言っても海外版限定で、日本国内の「XIII」では聴けません。海外でのリリースにあたって少し歌詞を変え、国内版の開発後に改めてレコーディングされたものとのことです。なので、バックトラックに関してはほとんど違いがわかりません(というか、ありません?)。ボーカルのみ差し替えているのでしょう。ボーカルにかけられているリバーブも、国内バージョンより多めであるように聞こえます。で、なぜ海外版で歌詞を変える必要があったのでしょうか?もともと英語詞なのに……。なにかマズい表現、もしくは外人にはバレてしまう稚拙な英語があったのか……。

と、いろいろ邪推していたら、どうやら海外版のスタッフから「日常的に英語を使っている人に、もっと伝わり易い歌詞に変えたい」というオーダーがあったんだそうです。国内版も悪くないけど、それはあくまで日本人向けの英語なんだよね、ナチュラルに英語を使う人たちにはもっとベターな言い方があるんだけどね、ということのよう。ふーむ……、日常的に英語をまったく使わない筆者にしてみたら、国内バージョンもぜんぜん違和感ないのですが……。なお、サントラ盤に掲載されている国内向け歌詞を見ながら海外バージョンを聴くと「一部差し替え」どころではなく、全体的にかなり変わってるのがわかります。せっかくなので……比較してみますか?海外版はブックレットに歌詞が載ってないので、ちょっと自信のないところはありますけど。

国内版 海外版
Step into the rainbow,
find another view
Chase the tender light,
borders let's cross over
Ready to define the mists inside your heart ?
Take a breath and start your life
Waves of a new day
Clear all the gloom away
Hope is what we simply need to proceed
Step into the rainbow,
behold another view
Chase the heights of light,
soar beyond your sorrows
Dance among the colors, listen to the trees
Close your eyes and see the noon
Dawn of the new day
Clears all the gloom away
This is the part that we need to move on


なお、同様に英語歌詞のある「セラのテーマ」も海外版に向けてやはり、歌詞を変えてレコーディングし直されているのですが、このCDには収録されていません。限定販売のアナログ盤、「W/F:Music from FINAL FANTASY XIII -Gentle Reveries-」にのみ、収録されているのです。うおおー!CD化してくれー!
08.M36A「ガプラ樹林」Instrumental
こちらはゲーム未使用トラック。しかし、デモというのとはまた違います。製品版のバージョンから歌をなくし、インストとしたバージョンです。そもそもはインストとして作曲をしており、開発途中で歌を付けたバージョンを作り、ゲームでは両方を使用する予定だったとのこと。しかし予定が変わり、インストバージョンは使われなくなったそうです。いわばカラオケですね。誰か歌ってみますか?

となると、歌入りは「M36B」とかになるんでしょうか。
09.M74_2 PRO「宿命への抗い」コーラス無し Version
バルトアンデルス戦で流れる、ワルシャワフィルによるフルオーケストラ演奏のボス戦音楽です。原曲は荘厳なコーラスが乗っていますが、ここに収録されているのはコーラスを抜いたバージョン。デモやカラオケというものではなく、ゲーム中でも使われています。バトルではなく、9章のパラメキア脱出ムービーで流れるのです。これはまさにそのムービーに合わせて編集されたものであり、オリジナルのコーラスありバージョンよりも短くなっているのがわかるでしょうか。セリフも多く、その他の効果音も激しいシーンなので、邪魔をしないようにコーラスを抜こうという意図で作られたもののようです。もちろんれっきとした劇伴なのですが、コーラスの有無でどれだけ雰囲気が変わるのか、またはコーラスの後ろに埋もれたオーケストラアレンジを探る研究材料として、ありがたいトラックです。
10.M64E「コクーンdeチョコボ」English Version
もともと日本語詞だった「コクーンdeチョコボ」を、海外版に向けて英語詞に直したもの。もちろん海外版でしか流れませんが、「サンレス水郷」とはやや経緯が異なり、こちらは鳥山求ディレクターから「英語にしたい」とオーダーされて作られたそうです。ただ「サンレス水郷」や「セラのテーマ」の件があったからか、英語詞化にあたってはローカライズチームも加わって取り組んだとのこと。もちろん作詞とともに歌唱も担当しているのは、国内バージョンと同じくフランシス・マヤ。バックトラックは国内バージョンと同じですね。世界を見据えたゲーム音楽制作は、特に歌モノがある場合はいろいろタイヘンなんですね……。「FF」じゃないですが、うかつに宗教的な曲を作ってしまったがために海外版が大問題になった、なんてことも……。
11.M33 Lightning NW Version
製品版における「ライトニングのテーマ」の元となっているトラック。いわばデモなのですが、これもCD収録にあたってミキシングをやり直しているそうです。元をそのまま出すのはやはりプロとして抵抗があったのでしょうか。「製作の裏側を感じてもらいたい」というコンセプトなら、リミキシング前のものも聴かせてほしいな〜、というのは図々しい願いですね。こうしたものが聴かせてもらえるだけでも、感謝すべきなのですから。

このバージョンではサビメロ(1分23秒〜)がほぼピアノメインになっていますが、製品版「ライトニングのテーマ」では生のストリングスがほとんどユニゾンでメロディを奏でており、かなり印象が異なっています(ぜひ聴き比べをして下さい)。製作チームの中ではこちらの「打ち込みバージョン」も人気が高く、ゲームに使うことも検討されたそうです(結果として使われていませんが)。なお、曲名にある「NW」については、浜渦氏もその意味は覚えていないとのこと。ファイル名に付いていたものの、なんでそうしたのかわからない、と……。
12.M181 Shugeki2 Prototype
こちらは曲名にもある通り「プロトタイプ」で、生演奏などを加える前の「自宅録音」的な、ほぼ打ち込みオンリーの最初期バージョンという性質のものだそうです。このCDに収録されている「プロトタイプ」は、スタッフに曲の雰囲気がより伝わるようにかなり作り込んだタイプのもので、すべてのプロトタイプがここまでの仕上がりになっているわけではない、というようなことも浜渦氏は語っておられました。それにしても、「プロトタイプ」でこのクオリティですか……。浜渦氏は「自分が使っている音源は、ざっくり作ってもある程度良い音で鳴るので」と謙遜しますが、いやいやこの緻密な打ち込みは勉強になりますです、本当に。同じ音源を使ったとしても、素人ではこうはならないですよ。

そしてこの曲、「Shugeki2」となっていますが、そもそものコンセプトが「"FFX"の"襲撃"みたいな曲を作ろう」というもの。「FFX」に、浜渦氏が作曲した「襲撃」というファン人気も高い楽曲があるのですが、氏本人としてもお気に入りだったようで、それに似た構成の曲をまたやりたくなったのでしょう。この曲は後に「ファングのテーマ」となります。もちろん既に「閃光モチーフ」を核とした構成ははっきりと形になっており、2分50秒からはピアノの「足音モチーフ」も聞こえてきます。かなり初期から、「XIII」の音楽設計が固まっていたことのひとつの証しではないでしょうか。
13.M44B サッズB+ Prototype
製品版の「父ちゃん奮闘だぁ!」のデモ。製品版と同じく、浜渦氏の友人ギタリスト・田部井とおる氏が参加しており、作曲ブースに来てもらってギターを弾いてもらったとのこと。ピアノはもちろん浜渦氏ですね。ジャムりながら録音したのでしょうか、デモということで二人の声も随所に入ってます。一方で氏は、このプロトタイプに関しては「ギター以外はすべて打ち込み」とも語っており、ベースやピアノはリアルタイム演奏を編集しているものの、やはり打ち込みのようです。ドラムはわかりますが、えっ、この空気感すら感じるラッパ(2分46秒〜)も打ち込みなの?と驚いてしまいました。

打ち込みの手法は大きく分けて2つあり、ひとつはリアルタイムに鍵盤を弾いてそれを記録するやり方。弾けるなら、弾いてしまった方が早いですからね。それをあとでエディットすることも可能です。もうひとつは、鍵盤やキーボード、マウスでカチカチとプログラム的に音を記録していく、いわゆる「打ち込み」。リアルタイムに対して「ステップ」とか言ったりもします。楽器を弾けなかったり、弾けたとしても自分の演奏技術をはるかに上回る難しいフレーズを再現しなければならない場合、ステップなら可能になるわけです。ステップで打ち込む場合でも、音の長さや強弱といったニュアンスを緻密にシミュレートすることで、生っぽくすることができます(大変ですけど)。多くの打ち込み野郎たちが「生っぽく」を研究しているものですが、このトラックはかなり参考になるんじゃないでしょうか。

こうして打ち込んだものも、「プロトタイプ」に関しては後々、本チャンで打ち込みも差し替えるそうで、ここで聴ける音はゲームに採用されたものには一切残ってないとのこと。当然、ギターもレコーディングし直しています。ちなみに、サウンドチーム内でのやり取りにおいては「父ちゃん奮闘だぁ!」と言うよりも、「サッズB」と言った方が通じ易いんだとか。そりゃそうですよね、それでずっと開発してるわけですから。サントラの曲名はたいてい、後付けですもんね。
14.M106 Last Battle Prototype+
ラスボス戦用の「生誕のレクイエム」のデモバージョン。「プロトタイプ」と付いていることからもわかる通り、オール打ち込みです(やっぱり驚愕のクオリティ!)。先にも述べた通り、「プロトタイプ」についてはベースとなる打ち込みについても後で差し替えられているため、やはり製品版にはここで聴ける音は一切残っていません。打ち込みをさらにグレードアップさせ、さらにその上に生オケをかぶせているわけです(一方で3曲目の「誓い」のデモ、4曲目「ブレイズエッジ」のデモについては、本チャンにもベーシックな打ち込みパートは残っています)。さすがにラスボス曲だけあって、プロトタイプとは言えど気合いの入った打ち込みです。

あえてこれをこのCDに収録したのは、「生と打ち込みの問題を検証する意味もあって」とのことで、詳しいところはブックレットを読んでいただきたいのですが、やはり開発中も「生と打ち込み」は常に付いて回る問題だったようです。「打ち込みでじゅうぶんじゃないですか」という感想は何度となく届いたそうで、そう言う人に「生」の良さを伝えるのは本当に難しい。また、たとえ生演奏を録ったとしても、現在のレコーディングというものは多かれ少なかれその後に「切り貼り(編集)」が行われますから、だったら打ち込みと大差ないんじゃないか?と思われても仕方ありません。

以前に筆者は「ドラクエ」関係のレビューで、「同じ曲でも、ゲーム音楽に親しんだ人は譜面通りにカッチリした演奏をするNHK交響楽団を好み、普段からクラシックも聴いてるような人は情感や揺らぎのあるロンドンフィルの演奏の方がしっくりくる」というようなことを記しました。同じようなことは浜渦氏も感じているようで、「打ち込みの方がしっくりくる人も多数存在して、ゲーム音楽ファンやゲーム関係者には特に多いという実感があります」とのこと。中でも古くからゲームに親しんできた人というのは、制約の多かった内蔵音源による楽曲にも同時に触れてきているわけで、結果として規則正しくカッチリした打ち込みに何の違和感も感じないのです。まして最近の打ち込みは音源もかなりグレードアップしており、上手い人(浜渦氏とか)が打ち込めば、「これって生?」というような表現も可能ですから、なおさらです。結果、「もう打ち込みで完成でいいじゃん」となる。対して、ゲームをほとんどしたことのない人は「生の方がいい」と言われることが圧倒的に多いと浜渦氏。両者の印象に対してどう対応するかは、かなり頭を悩ませそうですな。ゲーム音楽制作とは、良い曲を作るということだけではダメなんですね。考えなければいけないことがいろいろあるのです。そこまで考えている作曲家が、どのぐらいいるのかはわかりませんが……。
15.M5_2「閃光」Long Version
製品版とほとんど同じの「閃光」ですが、サビに至るまでのAメロが長くなっています。浜渦氏によると「演出に合わせてサビがちょうどいいところに…という意図で編集しました」とのことなのですが、えっ、ということはゲーム中にもどこかで使われているってこと?そもそも「閃光」って、「サビが出てくるまでに時間がかかりすぎるのもいかがなものか」ということで、Bメロを切ったんでしたよね?Aメロを倍に伸ばしたら、もともとの趣旨に反するのでは?使われたのであれば、イベントから流れ始めてそのまま通しで……というようなシーンなんでしょうけど、今からそれを確認するほどの気力は……ないなあ。
16.M42「サンレス水郷」Instrumental
こちらはボーナストラックというか、ファンサービスですね。ファン人気の高い「サンレス水郷」ですが、「自分も気持ちよく歌いたい!」という声が多く届けられたそうで、それに答えてのボーカル抜きインストバージョンです。ボーカルがないこと以外、バックトラックは製品版と変わりありません。皆さんも高らかに歌ってみましょう!

筆者は「自分もバックトラック作りたい!」なので、ボーカルオンリーを下さい(笑)。

関連商品
ジャケット画像 W/F:Music from FINAL FANTASY XIII
-Gentle Reveries-

完全限定12inch アナログ・レコード
SQUARE ENIX  2010年6月30日発売

レビュー中でも触れている通り、海外版の発売にあたってボーカル曲の歌詞が修正されました。その中でも「セラのテーマ」は、この限定販売のアナログレコードにしか収録されておらず、レア度MAXなトラックとなっております。その他の収録曲については楽曲そのものはサントラ盤と同じですが、やはりアナログ盤は聞こえ方がまったく違ってるようです。
SIDE-A
FINAL FANTASY XIII プレリュード
ブレイズエッジ
セラのテーマ/海外 Version
宿命への抗い
SIDE-B
ドレッドノート大爆進!
スーリヤ湖
ヤシャス山
Choose to Fight

資料:海外版の主題歌について
「-Plus-」は海外版音源を補完するという性質もあるので、ここでもいちおう、海外版主題歌について触れておきます。これまでの「FF」シリーズでは、国内版と海外版のテーマソングは共通、もしくは歌詞のみ差し替えで原曲は同一という形を採っていましたが、「FFXIII」では曲そのものが変わっています。「君がいるから」にあたるテーマソングは海外版では、Leona Lewis(レオナ・ルイス)の「My Hands」になっています(レオナ・ルイスのセカンドアルバム「Echo」に収録)。即ち、思いっきり既存曲であり、浜渦氏はいっさい絡んでいないんですね。うーん、微妙……。せっかくだから海外版も手掛けてほしかったところです。
ジャケット画像 Leona Lewis「ECHO」

Sony Music  SICP-2466
2009年11月25日発売


↑まずはゲームから。 ↑サントラです。 ↑「PLUS」。 ↑ピアノアレンジ。


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