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ファイナルファンタジーX-2 Original Soundtrack
ジャケット画像  2003年3月17日発売の「ファイナルファンタジーX-2」のサントラが、同月末に早くも発売された。これまでデジキューブレーベルから発売されてきた「FF」のサントラだが、今回は主題歌を倖田來未が担当していることとの絡みで、エイベックスからの発売となった。同時に「FF」サントラ初の「コピーコントロールCD」が採用される。楽曲制作にFF音楽の父・植松伸夫氏が関わっていないなどのこともあり、ファンの間で大きな物議を醸したいわくつきの一枚と言える。

AVEX
AVCD-17254〜5  
2003年
JASRAC表記:
あり
ゲーム紹介

 初のプレイステーション2での「FF」として、2001年7月19日に発売された「ファイナルファンタジーX」は、PS2の機能をフルに活かした圧倒的な表現力と、こちらも初となるボイス採用に伴うキャラクター人気との相乗効果によって、200万枚を超える大ヒットとなった。プレイヤーによる想像の余地を残した余韻が残るエンディングもあってか、続編要望の声も多かったようだ。それに応えたのかどうかは知るよしもないが、2002年1月31日には(賛否両論あるも)「インターナショナル版」が発売。そして、それに同梱されていたボーナスディスク収録の後日談「永遠のナギ節」は、ユーザーに「もしや続編があるのでは」という期待を抱かせるには充分な内容であった(実はこの時点で続編の製作はスタートしていたが)。

 2002年、6月。最新の情報はあらゆるメディアよりも早く、インターネットを駆け巡る。そう、スクウェアが「X」の「派生版」を製作中との情報だった。この「続編」ではない「派生版」との表現がまたいろいろと邪推を巡らせるにはうってつけだったのだが、同年10月には「ファイナルファンタジーX-2」のタイトルで、正式な続編であることが発表された。「XI」でも「XII」でもない、「X-2」。「X」の「2」という、FFシリーズに新たな方向性を打ち出してきたスクウェア。一方ではオンラインゲームとして発売した「XI」もまだまだ現役であり、複数のFFシリーズが同時進行という事態にもなった。

 2003年3月17日、いよいよ「FFX-2」発売。当初はマップやモンスターを使い回したお手軽な続編との予想も多く聞かれたが、実際にプレイしてみれば、胸をはって完全新作と言える作り込みがなされ、短期間でよくぞここまで、と真逆の評価を得るに至る。結果として「X」と同等の200万枚近くを出荷、単純に考えると「X」をプレイした人のほとんどが購入した計算になる。今作の一種独特な(ともすれば「ギャルゲー」と揶揄されがちな)ノリに前作からのファンは戸惑いもあったようだが、また別の面から見ても「X-2」は「FF」として独特だ。それは、昨今の「FF」でこれほどまでに作品中の楽曲がユーザーから叩かれたことも、非常に稀有なことなのではないかということだ。

 これまで、「IX」まではたった一人でシリーズの音楽を手掛け、そして「X」「XI」と複数の若手とともに楽曲制作を担当してきた「FF音楽の父」植松伸夫氏が、「X-2」では完全に離脱。このことはオールドユーザーからの反感を招いただけにとどまらず、「X」をプレイしたユーザーにも違和感を感じさせることとなった。せっかくの続編、懐かしい土地を訪れた時には「あの曲が流れてきてほしい」と思うのはやむを得ないことではないだろうか。しかし、何も安易に作曲担当を変更したわけではない。無論、こう短期間に連続して「FF」が出たのでは、そのすべてを植松氏が手掛けることそのものが困難だという理由もあるが、それよりなにより、シナリオ・グラフィック・そして作品のノリとすべてにおいて「これまでにないFF」を開発陣が目指した「X-2」には、従来の「FFらしい」音楽は不要であったという制作(ディレクター)の判断があったようである。それはディレクションとしては間違ってはいないが、「XII」の音楽は植松氏自らが担当することが明らかになり、そのことから「X-2はあくまでFF番外編」との印象をユーザーに与えてしまったのは明らかにマイナスイメージではないだろうか。もっとも制作陣も番外のつもりであるようだが。

 「今までにないFF」だから、「今までのFFっぽくない音楽を」。白刃の矢が立ったのは『バハムートラグーン』などでスクウェアファンにはおなじみの松枝賀子氏と、『バハムートラグーン』の頃から『バウンサー』まで松枝氏をサポートし続けてきたアレンジャー・江口貴勅氏である。ディレクターからは「今までの世界観とは違うものを」と依頼された二人は、当初はやはり従来の(植松氏の)「FF音楽」を意識していたようだ。「Xから抜け出すのに時間がかかった」と語るこの二人が、どのような「新しい」FF音楽を作り上げたのか、植松ファンならずとも気になるところではないだろうか。

 ちなみに質問も多いことなので、ここで松枝氏と江口氏の関係についても触れておこう。松枝氏はスクウェアの正式なコンポーザーであるが、江口氏は言わばアレンジャーといった立場のプロで、スクウェアの人間ではない。普段は幅広い分野で活躍している、コンポーザー&ミュージシャンである。ではなぜ、江口氏は松枝氏の作品によく参加しているのか?実は、お二人は学生時代からの親友という間柄。「人が聞いたら、何事?と思うぐらいズバッと言い合う仲(松枝氏・談)」とのことで、ゆえに松枝氏は自分のプロジェクトへの参加を江口氏に依頼することが多いのである。なお、二人の共同作品は「バウンサー」や「フロントミッション2」「レーシングラグーン」のほか、古くは「バハムートラグーン」のオーケストラバージョンのアレンジにも江口氏は関わっている。そのぐらい、二人は長〜いコンビなのだ。

喰わず嫌いしないで、ゲームもプレイしてみれば……
オリジナルゲーム インターナショナル これがサントラ サントラ追加盤

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01 久遠 〜光と波の記憶〜 言うまでもなく、ゲームを立ち上げるとまず流れるオープニングデモで流れる曲で、「FFX-2」の主題曲でもあります。ピアノをメインに据えているあたり、「X」における「ザナルカンドにて」との共通した匂いを感じますね。私も「植松氏が参加しない」ことに当初は不安を感じていた一人ですが、この曲を初めて聴いた時にその不安はほぼ、なくなりました。「いい曲じゃん、イケるじゃん」って。松枝・江口コンビに何の問題もない、と確信したのです。

実はこの曲、最初は歌ものとして作られていました。「1000の言葉」と「後に久遠となる曲」、どっちをメインテーマにするかが未定だったのですね。どちらをテーマソングにするか、制作やavexサイドとの話し合いの結果、「1000の言葉」が選ばれ、この曲はいったんお蔵入りしてしまったのです。が、ディレクター(鳥山求氏)から「X-2の世界を象徴する曲がほしい」と依頼され、歌ものではなくインストルメントとしてこのメロディを再利用(というと聞こえは悪いですが)。「久遠」として復活したのです。もともと開発のかなり初期に作られた曲だけあって、二人のファーストインスピレーションが強く出ているという楽曲。そういう意味では、なかなか抜け出せなかったという「植松テイスト」が残っているのかもしれないですね。

しかし、そんな劇的な復活を果たしたこの曲ですが、オープニングデモの後はゲーム中でほとんど流れることがなく、ストーリーレベル4のラストでようやくマトモに使われます。逆にストーリーレベル5では各地のエピソードコンプリート時に乱用されるのです。
・ビサイドでの「イナミ」絡みのイベント
・キノコ岩街道でのルチルの演説
・雷平原の新たな洞窟でシドを救出
・マカラーニャにワンツが戻って来たイベント
・ビーカネルでのアンラ・マンユ撃破後
・ガガゼトでキマリがガリクを諭すシーン

これでは、ただ単にオープニングとラスト周辺に垂れ流されるだけの曲という印象に留まっており、「世界を象徴する曲」として使われているかどうかは疑問です。出来上がった曲をイベントに当てはめていくのはイベント担当、最終的にはディレクターの仕事。コレがヘタだとせっかくの曲も適切な効果を発揮することができません。残念ながら「久遠」は、「X-2」を全体で見渡すと印象の薄い曲になってしまっているのです。個人的にはもったいないなぁ、と思わずにはいられません。

インターナショナル版で追加された「魔物コロシアム」での、多くのクリーチャー人生エピソードコンプリート時にも聞くことができます。このように、魔物のエピソードのエンディングには、この「久遠」ほかさまざまな楽曲が流用されています。
02 real Emotion
  (FFX-2 Mix)
「負けない銃保有」……おおっ、ガンナーのユウナにピッタリな曲!なんてたわごとを言いつつ。一応「X-2」の主題歌ということになっている曲ですが、もちろんタイアップであり、メッセージに制作陣の思惑は一切反映されていないと思われます。当然作曲も、松枝・江口コンビはまったくタッチしていません。「X-2」が楽曲面で叩かれがちなのも、こういったタイアップがあったからなのかもしれません。私個人は、決して嫌いなタイプの曲ではないんですけどね。サントラには「real Emotion」を「FFX-2 Mix」としてエディットしたものを収録。コーダも付いていますが、せっかくならオープニングムービーでは足していた花火の爆発音も混ぜてほしかったです。

歌うは倖田來未。エイベックスが鋭意売り出し中の歌姫です。アムロの存在がかなり過去のものとなった今、その系統の後を継ぐ歌手と言っていいでしょう。曲は売れ線の4つ打ちダンスもの。かつてのFFにはまず間違いなく無かったテイストであり、「新しいFF」を自負する制作陣の狙いにはハマっています。ユーザーがどう受け取るかはそれこそ賛否両論ですが……。オープニングのユウナのコンサートムービーで使われ、CMも多く投下されたのでインパクトの点ではかなりのものがあったはずです。ムービースタッフも、歌って踊るというムービーは初めてのことなのでやり甲斐があったことでしょう。私としては「あのシーンのユウナはニセモノだから」と完全に割り切って楽しませていただいてます。ただ、このタイアップがあったからこそ、サントラがコピーコントロールCDになってしまったのも事実。そこはもう呪いたいほど気にくわないです(笑)。

倖田來未はテーマソングを担当した縁で、レンのボイスも担当しているのは有名な話。コンサートムービー(「1000の言葉」も含む)ではダンスのモーションキャプチャーにも参加しています。ムービーにおけるユウナの動きはもちろん、表情もキャプチャリングして反映されています。どうしてもレンが歌っているようにしか聞こえないのですが、ユウナが歌っていてもさほど違和感がないのは、ゲーム中のイベント(雷平原ムービー)でかなり強引にこじつけをしていたことの成果でしょう。

しかし、「キングダムハーツ」の宇多田ヒカルはわりと歓迎されていたように思うのですが、なぜこの曲はあまり受け入れられないのでしょうか……。もっともキンハーではディレクターの野村哲也氏が自ら宇多田サイドに依頼したのですが……。そういえば野村氏は宇多田、倖田をともに「必須」というほど愛聴しているそうで、まさか彼の思惑……とは思いたくないですね。テイルズシリーズは倉木麻衣ですし、ゲーム音楽もそろそろ商業ベースに乗っかる時代が来たのかも。ライトユーザーの取り込みにも効果はあるとは思いますが、そうやって取り込んだお客が「お得意さん」になってくれるかどうかは別問題。

なお、オープニングムービーについては鳥山ディレクターを始めとする「ダンス派」と、シナリオの野島一成氏を筆頭とした「アイドル派」が存在していたようで、実際のゲームでは「ダンス」になったのはご存知の通り。「キャンディーズ」をイメージしていたという野島氏パターンの「アイドル歌謡なユウナ」も、恐いもの見たさで見てみたかったような。ちなみに倖田來未のライブでの「real Emotion」の振り付けは、オープニングムービーのものとまったく同じなんだそうな。
03 ユリパファイト No.1 オープニングムービー後、にせユウナ(ルブラン)との対峙〜バトルから、追跡まで通して流れる曲。「real Emotion」を引き継ぐかのように、ダンス色が強く出ています。ここの引き渡しは正直ウマい、と思いました。が、最初はこの曲、ここで使われる予定ではなかったそうで、作曲の二人にしてみればオープニングとの繋がりは意識していないとのこと。なんだヨ、ただの偶然なのかヨ。

ローランド系のリズム音色に、ウネウネというシーケンス、そしてメイン音色のブラスが鳴り響きます。このブラスが、時にはセンターにいたり、時には右に寄ってたりするのが気になるんですが……。他にもいろいろな音が散りばめられています。植松氏の言葉を借りれば「メロのない構成曲」ということになるのでしょう。もちろん「X」も含めて、かつてのFFにはなかった色です。この曲もそうですが「ユリパファイト」系の楽曲は、ディレクター鳥山氏からの「レーシングラグーンぽい曲」という身もフタもない発注により、そのことを念頭に置いて作られているようです。松枝・江口両氏にしてみれば、最も得意とする曲調ではないでしょうか。

ゲームをやらずにサントラだけ聴いてる人には「ユリパってなに?」ということもあるでしょうから、一応解説しておきます。「ユウナ・リュック・パイン」ってことです。なんじゃそりゃ、と思うのならゲーム本編をプレイしましょう(笑)。この楽曲はオープニングミッションで使われた関係上、ルカでの「ユウナライブの真実!」でも使われます。後に「チョコボっ!」、ジョゼ街道での「戦闘服を手に入れろ!」、ミヘン街道の「暴走機械を止めろ!」などのミッションや、ビーカネル砂漠のサボテンダーの巣穴ではBGとして使用。ゲーム全体を通して見ると、「スフィアハンター」の方がよく使われるためにこの曲の使用頻度はだいぶ低いです。ただし、ブリッツボールでは試合中に流れるので、プレイしまくった人の耳には残っているでしょう(私はあまりやりませんでした)。

また、忘れがちですが、ナギ平原のミニゲーム「ゲッターカモメ」のBGMとしても使用されているのでチェックしましょう。
04 ユウナのテーマ 前作での「ユウナのテーマ」を想像しているとひっくり返ることうけあいですが、二丁拳銃で宙を舞い「マトリックス」しちゃう今作のユウナにはハマっています。ただ、最初に聴いた時のインパクトはいろんな意味で凄いです。なんかユウナは別人みたいだし、言葉使いも無理してそうだし、なにより「ユ・リ・パ」って……これホントにFFかあ!と思ってしまいますが、ユーザーにそう思わせることこそ制作陣の狙いでしょうから。「X」をプレイした人の大半が購入したと思われる「X-2」ですが、この時点で評価はまっぷたつに分かれたと言ってよいでしょう。「X-2」を見て「XII」開発中のスタッフが「そこまでしていいんだ!」と刺激を受けたとのことですが、願わくばヘンな影響を受けていませんように……。

楽曲は、ウノーとサノーに追い詰められたリュック・パインのもとにユウナが遅れて参上し、ユリパ3人が揃うシーンで初めて使われます(以後ウノー&サノー戦まで通して使用)。オルガンとエレピがメインの、キーボーディストの腕が鳴るファンク・チューン。ドラムもあまり打ち込みっぽくなく、全体にバンドっぽいアレンジになっています。ベースも実はかなりカッコいい。ちなみにディレクターの発注は「モーニング娘。みたいな」ということだったらしく、アイドルものが苦手な作曲コンビは「リュックのテーマ」同様、この曲にはだいぶ苦労されたとか。

ユウナ主導で何かのアクションを起こすイベントでは必ずと言っていいほど流れます。また、スフィアブレイク大会開催などのイベント、ガンシューティングプレイ中やブリッツのメニュー画面、トカゲランなどのミニゲームで使われているほか、ルカでの「モーグリを追え!」ではミッション中しばらく流れ続けます。

最初はあんなに違和感のあったユウナのテーマも、ラスボス直前の「注目!」の頃になると、ユウナのテーマとしてすっかり定着(洗脳?)しているんだから不思議です。むしろ、なにかヤル気にさせられる自分がいるんですよね。が、ナギ平原・公司合併時のトーブリ登場でこの曲が流れるのはナゼなんでしょう?そういえばトーブリってテーマないけどさ。

なお、1回目のルブラン戦後に流れる、ユウナの「体が勝手に踊っちゃう」ムービーで使われている完結バージョンはサントラには未収録。ついでに、ドレス「歌姫」で歌系アビリティ実行時にユウナが歌うハミング「ラララ〜」もこの曲です。ストーリーレベル2冒頭のダンスパーティではユウナがメロを歌っていますが、いずれもサントラには未収録。
05 ユリパファイト No.2 いわゆるボス戦BGです。風のようなシンセ、ディストーションギターが縦横無尽に駆け巡る、せわしないドラムンベース調の曲になっています。最初のルブランとのバトルで使われ、以後多くのボスたちとの戦いを彩りました。プログレテイストはないですが、FFのバトル音楽として違和感はまったく感じません。むしろ前作における浜渦・仲野テイストが好きだった人なら嫌いじゃないと思うのですが。果てしなく「バウンサー」という感じもしなくもないですけど(笑)。

ゲーム内で使われていたものと聞こえ方が若干異なるようにも思えますが、松枝氏いわく「サントラには、ゲームでは容量の都合上カットになった音色も加えて入れてあります」とのこと。「僕たちのオリジナルに近い音」と江口氏が語るように、サントラに収録されているのはこの曲に限らず、多くはゲーム用に落とし込む前の「完全版」とも言うべきミックスなのです。

インターナショナル版の追加要素であるクリーチャークリエイト内の、バトルシミュレーターでBGとして使われています。
06 ミッションコンプリート 各ミッションコンプリート時に流れるのはもちろん、戦闘終了時にも何度も耳にすることになります。つまり、これまでのFFで言う「ファンファーレ」的位置付けの楽曲です。ピアノとオルガンで、またもやキーボーディスト大活躍な曲になってます。ディレクターの発注はまたしても「レーシングラグーンのミッションコンプリート風」だったらしく、自分が関わった過去のタイトルにだいぶ愛着があるようです、鳥山氏。

しかし、個人的にはミッション終了時と通常バトル終了時は別々の曲にしてほしかった……。こんなにコレが多用されちゃうと、ミッションコンプリート時の達成感が薄れるような気がするんですよ。同じ会社内で権利問題もないでしょうし、戦闘の方は例えばおなじみのファンファーレで締め括るのもアリだったんじゃないでしょうか。懐古主義と言われるのも何なんで、別にファンファーレに固執するつもりはないんですが、一応「X-2」はFF史上初めてファンファーレがなくなったタイトルでもありますんで。「今までとは違うFF」を目指したからという答えが返ってくるのは百も承知なのですが、ここまで過去のFF音楽を排除しつつも、回復魔法は「ケアル」だし、モルボルだって出てくるし、音にばかり過去との訣別を強要する意図は何なんでしょうかね?

おっと、文句はこのぐらいにして。え〜、ひとつ特殊かつレアな使用例もご紹介しておきましょう。ストーリーレベル5で特定の条件を満たすと、飛空艇でドレスフィア「きぐるみ士」が手に入りますが、「カモメ団からのボーナスだ」ってところで、この曲が流れるのでした。パインは「どうなんだ、これ……」と、きぐるみには少々不満そうですが。

インターナショナル版で追加された「魔物コロシアム」では、プレイヤーチーム優勝時に流れます。また、「ラストミッション」においては、特定フロアのボスを倒した際に流れます。
07 スフィアハンター・カモメ団 スフィアハンター?カ、カモメ団?と、初プレイユーザーの頭はぐるぐる回っていることでしょうが、そんなカモメ団のテーマがコレ。ストーリーレベル1の最初、飛空艇のロングから流れ、以後は飛空艇内BGとして絶えず流れることになります。ギターが前面に出され、バックをエレピやクラヴィなどのキーボードが埋めていますが、カモメ団のメインモチーフは57秒から現われるブラスのフレーズです。

まだ今回の飛空艇のデザインを見ていなかった松枝氏は、ディレクターから「バイクみたいな感じで、全体にイレズミみたいなものが入ってる」「曲はワルっぽいイメージを出してほしい、ルパン三世風」といった説明を受けたそうです。「ファンキーなワウギターと、ブラスの音がほしい」というリクエストも加味してできたのがこの曲、というわけですね。

ストーリーレベル2、ルブランに「こわれたスフィア」を盗られた後の「盗られたら盗り返そう!」や、ストーリーレベル4の終わり「今度は3人で異界に行こう!」など、カモメ団としての決意を固めるイベントでは、いい感じのタイミングで使われることが多いです。一方でユウナ個人の決意には「ユウナのテーマ」が充てられています。注意して聴いていると、どの曲が鳴るかでそれが「カモメ団員としてのユウナ」か「個人としてのユウナ」、どちらの動機なのかがなんとなく把握できるようになっています。
08 ミッションスタート ディストーションギターがフィーチャーされた、テンポの早いデジタル・ロック(やや死語)。飛空艇での移動先選択、ロケーション画面で流れる曲です。ダチが何かの情報をキャッチした時にも、エマージェンシーブザーの効果音とともにしばしば使われます。テンポが途中で変化するギミックがあるためか、ゲーム中で聞いているとたまにハッとさせられてしまう……。リズムもギターも右に寄っているためか、曲全体のミックスが右に傾いたものになっており、CDで聞くとなんか気持ち悪いことになっちゃっているのが残念。

他に「ルブラン一味と競争!」ではミッション開始から移動中に通して流れ、またキーリカの検問突破でも使用。ミニゲーム系では、砂漠での発掘中にもこの曲が流れ、「早く戻らなくちゃ〜」と焦らせてくれます。ゲーム中では要所要所でイイ感じで流れてくるこの曲ですが、実はゲームの全体像が見えない時期に悩み抜いて作られたものだそうです。意外でした。

インターナショナル版では、クリーチャークリエイト中の魔物コロシアムメニュー画面でも流れます。
09 ガガゼト山 ガガゼト山のフィールドBGです。ぶ厚いホルンと険しい山を想像させるパーカッション群、そして雪の冷たさを感じさせるストリングス。その上にアコーディオンやバグパイプによる旋律が重ねられ、全体として「聖なる御山」を良い具合に演出しています。アクセントとしてサンプリングの男性ボイスも加えられていますね。私としては前作のガガゼトBGから何の違和感も感じないぐらい、同列のものとして捉えられます。「X」の世界観を破壊せず、むしろ「X」で流れていたとしても不自然さはないかと。

しかしその「X」らしさがアダともなりました。この曲は「X-2」で最も初期に作られた曲なのですが、初期はやはり全体的に民族音楽的な曲、壮大な曲、いわゆるファンタジーっぽい色でのデモ曲作りを進めていたのです。それらをディレクターに聞かせたところ、「いつものFFっぽすぎ、却下」となってしまいました。これによっていくつかの曲がお蔵入りとなったのですが、この「ガガゼト山」はなんとか生き残り、ゲームに採用されたのです。言わば、この曲こそ前作の世界からの生き証人。

ユウナたちが最初に向かうガガゼト遺跡で初出となりますが、その下にあるガガゼト山(祈り子の断崖、温泉含む)でももちろん流れます。ロンゾ族という種族のテーマとしてもしっくりきているんではないでしょうか?
10 ユリパファイト No.3 通常戦闘BGです。ストーリーレベル0では常に「ユリパファイト No.1」が流れているためこの曲の出番はなく、ストーリーレベル1のガガゼト遺跡でのエンカウントバトルで初めて耳にすることになります。

リズムの基本は「No.2」と同様ドラムンベース調。曲を引っ張っていくのはギターとベースで、核となるメロディはありません。よって従来の「植松バトル音楽」と同列に比較できるわけもなく、比べること自体が愚行というものです。FFを愛すればこそ無理もないことですが、どうも他の方々の意見を聞くと作曲者を責めすぎだと思うんですね。こういうテイストを指示したのは制作側(ディレクター)ですから、攻撃対象を見誤らないようにしましょう(笑)。プロの作曲家というものは指定された色で仕上げなければならないことも多々あるのです。制作に「ボツ」と言われりゃ作り直しですからね。

私はボス戦と同じく、このバトルもアリです。むしろドレミ出版のピアノ譜にコレが載っていないのが気にいらないほどです。って言ってもピアノ譜にしようがないか、こりゃ。リズム楽器だけで押していくバトル音楽も、本作のようなスピーディな戦闘にはうってつけだと思うんですけどね……いかがなもんでしょう?
11 ゲームオーバー ゲームオーバー時のME。なぜかこの曲からは「ザナルカンドにて」の匂いを強く感じる……。「久遠」もしくは「ユウナのバラード」のモチーフでしょうか。また、ガンシューティングでHPが尽きた際のリトライメニューでも流れます。こちらは実際にゲームオーバーにはなりませんが。

インターナショナル版の「魔物コロシアム」では、プレイヤーチームが敗北した際に流用されています。こちらも一部の特例をのぞいてゲームオーバーにはなりません。「ラストミッション」で塔の外に出されてしまった時にも使用されており、こちらもゲームの続行は可能。
12 ルブラン様はなんでもアリ! ストーリーレベル1、ガガゼト遺跡でのルブラン登場シーンで初めて耳にする、ルブランのテーマ。予想にたがわず、和風なテイストでまとめられています。彼女たちのどこか憎めないキャラのせいか、ユーモラスな曲に仕上がっています。途中でテンポが上がってものすごい盛り上がりを見せますが(ドリフっぽい?)、ゲーム中ではこの盛り上がり部分をカットしたバージョンの方がよく使われていました。この「控え目バージョン」はルカ・シアターでの音楽スフィアでは聴くことができますが(曲名「ルブランだよっ おぼえておきな!」)、サントラには未収録となっています。

イメージは、「ルブランって、演歌っぽい(松枝)」「浪花節ですね(江口)」とのこと。なるほど、どちらのイメージも惜しげもなく投入されたようですね。しかし投入しすぎちゃったためか、前述のような「控え目バージョン」の使用率の方が高くなってしまったワケですね。
13 お熱いのをくれてやるよ 括りとしてはバトル音楽なのですが、特にルブラン一味との戦闘専用といった位置付けのボス戦BG。そのため、メインのメロを三味線が受け持っていますが、全体はしっかり格好良いんですからサスガです。三味線のバックはまさに松枝・江口テイストなシンセがバッチリ埋めています。ループがちょっとありきたりなのはご愛嬌……。この曲も、かつてのFFにはなかったと言えばなかった色。ルブランのみならず、ウノー、サノー単独とのバトルでも用いられていました。前作「X」における「アジアンテイスト」を最も残しつつ、さらに局地的に突っ込んで「和風」を強調したルブラン一味にとって、この曲もテーマと言って差し支えないでしょう。実はこの曲、ルブランたちのキャラをいたく気に入ってしまった松枝氏が、発注されていないのに「彼女たちのテーマを増やそう」と進言して作ったものなのです。松枝氏いわく、「書きたくて書いちゃった曲」。もともとはルブランがらみのバトルでも「ユリパファイトNo.2」が使用される予定だったのです。

後にルブランたちとは協力体制が取られますが、ストーリーレベル2の終盤でベベルへ向かう場面では一味が飛空艇に乗り込みます。飛空艇の甲板に立つ一味の背後にはこの曲が勇ましく鳴り響いていたのでした。まあ、ここで「ルブラン様はなんでもアリ!」はありえないわけで、まさにこの曲が彼女たちのテーマとして使われた1シーンですね。イベントにも採用されて、松枝氏もご満悦といったところでしょうか。
14 シューインのテーマ わりと物語序盤から使われているので、最初はシューインのテーマとは気付かないと思いますが、ゲームが進むにつれてこの曲が鳴るとシューインを連想するようになってくるのですからウマいもんです。ここまではダンス系、テクノな香りのするサウンドが大部分を占めていましたが、ここにきてようやくRPGっぽい、「FF」っぽい楽曲が顔を出したわけです。

最も早いタイミングとしては、映像スフィア「旅のきっかけ」でうっすらと流れているのを耳にすることができます。同じく映像スフィア関連では、封印の洞窟での悲劇が映し出される「アカギ記録4(後半)」および「アカギ記録5」、さらにヌージのスフィア(死を求めるもの)でも聴くことができます。また、キノコ岩街道の封印の洞窟においては、マップのBGとして鳴らされています。

ストーリーレベル3・グアドサラムでのスフィア上映会において、メイチェンが現われて語るイベントでも使用。「牢獄のスフィア」に映るシューイン(この時点ではそれとはわかりませんが)と、「彼=ティーダ」との関係を巧みに暗示しています。実はこの曲、「1000の言葉」の間奏のリフを編み込んであるとか。シューインのいるところには常にレンもいる……そんな意味合いから施した仕掛けのようですが、これはかなり高度なんじゃないでしょうか。おそらくほとんどのユーザーが気づいてません。サントラを買って聴くタイプの人はともかく……。
15 ビサイド 最初にビサイドを訪れた時、「X」のビサイドの曲が流れないことに大きなショックを受けたものです。久しぶりにやって来た懐かしい土地で、知らない曲が流れる……、これはやはり「X」をプレイした者にとってみればショックですよ。で、新たな曲はというと、わざわざ変える必要があったの?という、さして斬新でもないものでした。

が、どうでしょう。今では、ビサイドの曲を思い出そうとすると、「X」のものよりも「X-2」が浮かぶのです。つまり、馴染んでしまった……というより、普通に気に入ってしまったのですね。これもガガゼトと同じく、「X」で流れたとしても決して違和感がなさそうだからでしょう。曲単体として聴けば非常にリラックスできる心地良いインストルメントで、ユウナの故郷とも言えるビサイドにはピッタリ。作曲者が「エリア曲としては最もお気に入り」とおっしゃるだけの魅力がある曲なのです。「X」を前提にして聴くから、最初は違和感を感じるのですね。当たり前のことですが、それに気付くのに私はちょっと時間を要したのです。それ以降、「これはX-2なんだ」ということを認識し、「X」に基づく(音楽に対する)先入観は捨てました。製作者も、そしてユウナも変わろうとしているのに、ユーザーが旧態依然としていちゃダメでしょ、と。

曲はもちろんビサイドのBGとして使われています。ビサイドではいろいろなイベントが発生しますが、この曲はそれらを決して邪魔することなく、優しく包み込むように静かに鳴り続けます。なんでもこの曲、締め切りの日の朝になってもできておらず、夜明けの静けさの中で「ポンッと」浮かんできたということで、江口氏にとっては「朝日の曲」として思い入れも強いとか。そんな「ビサイド」の使い所で最も印象的だったのは、最初にビサイドに訪れた時のルールーとのイベント。彼女がお腹の赤ちゃんに反応して「あっ……動いた……」と言うキッカケでイントロのピアノがポーンと鳴り、専用のイベント曲かと思うほどに雰囲気バッチリでした。ちなみにこのピアノは江口氏の手弾きだそうです。
16 キーリカ 調弦のようなシタールから始まるキーリカのBG。前作では「シン」に壊滅的な打撃を受けたキーリカですが、今作ではすっかり復興。人々の賑わいを感じさせる、明るい雰囲気となりました。そういった背景がまったく異なるので、楽曲も「X」とは安易に比較できません。ピアノのバッキングからパンフルート、パーカッションに至るまでがなんとなく「あったかそうな南の島」を連想させ、「ビサイド」同様にとっても心地良い楽曲となっています。それもそのはず、もともとこの曲はビサイドに使われる予定だったのですね。その後で「ビサイド」ができたので、これをキーリカにまわしたとのこと。
17 ルカ けっこう低音の出たキック&ベース、ドラムンベース的な配置のなされた軽めのスネアといったリズムの上に、陽気なアコーディオンと暖かいアコースティックギターが歌う、どことなくヨーロピアンなルカのBG。前作よりもわかりやすく軽快で、大きく腕を振って走るユウナもなんだか楽しげに見えてくるのだから不思議です。人がたくさん集まってなにやら面白そうな催し物が行なわれているぞ……スフィアブレイクやブリッツなど、娯楽の中心地としてのルカにはこれ以上はないぐらいにハマってます。
18 ミヘン街道 やっぱりミヘン街道というとこんな感じ……なんでしょう。前作でも植松氏がコミカルとも呑気とも取れる曲を充てていましたね。ただ、曲としてはこちらの方が正攻法というかマトモな曲。なんとなく体の弾む、楽しげなものになっております。なぜかキックとシンバルだけが妙に攻撃的なんですが、そこがアクセントになってます。チョコボを思わせる音色も聞き取ることができますね。

なお、曲名は「ミヘン街道」となっていますが、幻光河でも使用されていることをお忘れなく。イメージとしてはこちら重視かな。なんとなく、チョコマカ動きつつズッこけるトーブリを連想してしまいます。作曲のお二方によれば「徒歩のテーマ」とのことで、長い道を歩いていても飽きがこないよう考慮したそうです。

イベント曲としての流用では、ストーリーレベル4において、通信スフィアで見た時のガガゼト山・温泉BGとして流されていますね。さらに、ストーリーレベル5ではガガゼト山にリアンとエイドが帰って来る場面で使用してます。お、ガガゼトでの使用率高し。

どちらが良いかということではなく、とにかく植松伸夫という人が作る曲の個性は再認識させていただきました。街道の曲としてアレを推してくる植松氏は、やっぱり凄いなあと思うわけですよ。
19 キノコ岩街道 キノコ岩街道のBG。ミヘン街道からはマップ的に地続きですが、タッチを変えるためでしょう、かなり対照的にシリアスな曲調になっています。シーケンスとボイスのイントロから、マーチングリズムが加えられてすぐメロが展開していきます。個人的に、このメロからは「クロノトリガー」の匂いを感じてしまうわけですが……気のせいですね。ピアノによる切な系のアクセントが、この谷間に隠された「何か」を予感させます。

なお、ジョゼ街道に移動してもこの曲が続けて流れます。特殊な流用では、ストーリーレベル5のキーリカの森でBGとして使用されていました。また、ストーリーレベル2ビサイド島では、ベクレムの登場シーンで流れます。青年同盟本部からやってきた鬼コーチ、という意味合いで使われているものと思われます。
20 青年同盟 キノコ岩街道を奥まで進み、青年同盟本部に行くと流れる「青年同盟のテーマ」。勇ましすぎるほどの正統派マーチで、血気盛んな若者たちの叫びといった雰囲気。もう今すぐにでも武器をかついで飛び出していきそうです(笑)。こらこら、そんなに戦争したいのかオマイラ。「X-2」では各楽曲ごとの作曲分担は明かされていませんが、これはなんとなく松枝氏が得意そうな曲。「バハムートラグーン」に通じるものを感じますですよ。

ただ、新エボンとの差別化は完全ではないように感じます。どちらもオケベースの厚みのある楽曲なので、どちらがどちらでもさして……という印象。青年同盟は若者の集団だけに、楽曲にそういった要素を入れ込むことで新エボンとのタッチを付けた方がわかりやすいかなァ、と思ってしまった次第でございます。が、それも計算ずくのようでして……。ディレクターからは「新エボンと青年同盟はほぼ対等の勢力だから、音楽も同じ比重で」という発注があったそうです……失礼しました。

青年同盟のBGとして流れる他は、キーリカでのヌージ登場&演説イベントで印象的に使用されました。また、ストーリーレベル3ではポルト・キーリカ側のBGそのものがこの曲になります。変わったところではミッション「青年同盟を強行突破せよ!」や「青年同盟武闘大会!」で、バトルを通して使用されていました。
21 マキナ派 で、差別化・タッチという意味ではカンペキなのがマキナ派。この曲が流れるだけでマキナ・ギップル・アルベドというイメージが浮かぶわけで、他との混同もあるはずがないでしょう。また、場合によっては「ギップルのテーマ」なんかも作りたくなってしまうところを、この曲で統一したのは成功でしょう(これはバラライ、ヌージも同じ)。むやみに曲数が増えるのは好ましいことではありませんから、リーダーのテーマをすべて派閥のテーマで通した判断は、非常にスッキリしています。結果として、「X-2」は曲数が多からず少なすぎず、ちょうど良いあんばいになっているのではないでしょうか?

楽曲はジョゼ寺院で流れます。ただし最初に訪れた時はギップルの登場とともに流れ始めるため、ギップルのテーマという意味合いも非常に強いものかと思われます。特徴的なメロこそありませんが、一聴してそれとわかるサンプリングのワウギターとルーズなドラムで構成され、どことなくメカニカルな曲調が機械いじりの好きなアルベドにぴったり。曲全体のけだるい感じが、彼らのテキトーっぽさまで感じさせてくれてグッドです。
22 グアドサラム 前作のグアドサラムは鳴ってるんだか鳴ってないんだか、いっそナシでいいじゃんという曲でしたが、今作ではかなり立つ楽曲が充てられています。重く響くパーカッションにシタールのメロ、しばしば挿入されるバイオリン(胡弓かも?)が、なんとも民族音楽っぽいテイストを溢れさせており独特の雰囲気を演出しています。これでルブランのアジトに入ると今度は和風なんですから、民族色ごった煮のグアドサラムです。植松氏はどちらかと言うとアイリッシュやケルト風味を多用する人なので、従来のFFでは思ったほどこういうトーンの曲は耳にしないですよね。
23 雷平原 放電を思わせる音色が所々に挿入され、そのためかエレクトリックな香りのする、雷平原のBG。機械的に繰り返されるパーカッシヴなフレーズで「雷平原」としてはしごくまっとうな発想に基づく曲になっていますが、前作との方向性の違いも面白いですね。マップもグラフィックも、ついでに出現する魔物の種別もほぼ同じなのに、曲はこうも変わるか、っていう。作る人が変われば結果も変わる、と。

が、実はこの曲で松枝氏と江口氏は大ゲンカ……というよりも松枝氏が一方的に言ってそうですけど。江口氏メインで進めていたこの曲、松枝氏は「無機質で何も印象に残らない」、江口氏は「ゲームにはこういう曲も必要」と対立。結局はディレクター判断により採用となりましたが、松枝氏はいまだにこの曲に納得がいかないそうで……。

いちユーザーの意見としては、雷平原は前作と異なりあまりイベントがない変わりに、ストーリーレベル4では一大イベントがありますよね。そこを立たせるためには、普段のBGはこれぐらい引いてて良いのではないかと思うんですよ。さらに、グアドサラム・マカラーニャと、印象的な曲が当てられている場所に挟まれている地理的なこともあります。全部に印象的な楽曲を当てる必要は、必ずしもないのではないでしょうか。豪華な料理は第一印象は良いものですが、満腹になってしまうと見るのもイヤになるものですし。

関係ないですけど、もし今作にも「雷200回避け」があったなら、この曲の方が成功率は高そうです。なんとなく、ですけど。
24 マカラーニャの森 これはもう、序盤はほとんどSEですが、徐々に曲らしくなっていきます。悲壮感漂うストリングスと随所に散りばめられたキラキラ系の音色、そして幻想的なボーカリーズ。まもなく訪れる滅びの時を、ただ静かに待つだけの森にこの上なくマッチしたBGです。おかげでマカラーニャの森にいると、なんだかこちらの気分まで暗く、重く、もの悲しくなっちゃいます。

実はこの曲にも仕掛けがあり、エンディングのコードを編み込んであるそうです。指摘されてもなお気付くか気付かないか、ギリギリの仕掛けを施しまくる松枝・江口両氏。メロやリフならまだしも、コード入れといたから気付いてね!とおっしゃるのですか……。
25 ビーカネル砂漠 ゲーム中とはかなり聞こえ方の変わった、ビーカネル砂漠のBG。「マキナ派」とは意図的に音色の共通性を持たせたのか、とても自然に「アルベドの地」をイメージさせてくれます。メカニカルなリズム、ディストーション、そしてSE的なノイズと、どこを取っても「マキナ派」、という感じ。

前作でのビーカネル砂漠のBGは、ただひたすら「暑い……水……水を……」という感じでしたが、今回は「さぁ〜掘るべ掘るべ!」という、無性に仕事したくなるというか勤労意欲を掻き立てられます(ね?)。そこかしこでアルベド族たちが重い機械を駆使して発掘しているイメージ。一方で、ヘタすりゃ命にかかわる「熱砂の砂漠」といった、マイナスイメージは感じさせなくなりました。
26 新エボン党 新エボン党のテーマにして、ベベルのBG。圧倒的なコーラスとシンバルが、今だ衰え知らぬ巨大勢力を印象付けます。挿入される胡弓の音が限りなくチャイニーズな味付けをしており、寺院というよりはまるで格闘流派の総本山といった趣きです。そんな私の曲に対する感想に荷担してくれた……わけではないですが、実はこの曲、「X-2」最強の名を欲しいままにする隠しボス「トレマ」とのバトルで使用されているんです。戦闘に突入すると同時にこの曲が流れた時の意外性といったら、こりゃあ一本取られたぜ!という感じでした。

ちなみに、トレマはメテオを放つ際に「はさてかなえくたまえ〜」と念じるんです。そう、コレ、「X」の「祈りの歌」ですよね。これが、前作からの唯一の流用楽曲になります。「X」をプレイし、かつ「X-2」をトレマと戦うまでにやり込んだユーザーに対するサービスですかね。
27 ナギ平原 かつて召喚士が「シン」と戦い、そして前作でユウナが大きな決意をした場所。そんなナギ平原は本作ではミニゲームの宝庫といった感じで、作品中の設定でも一大娯楽スポットになっています。快活で前向き、明るくスポーティなこの楽曲はフィールドBGとしては異質ですが、広大な平原をあっちへ走りこっちへ走るユウナたちにはピッタリではないでしょうか。ピアノによる爽快感のあるメロディ、思わず体が動いてしまうリズムは、グラフィックそのものは前作と変わらない平原をテーマパークのように感じさせてくれます。松枝氏もナギ平原を「青空遊園地」と評してますね。

ピアノは江口氏の手弾きで、しかもファーストテイクだそうです。
28 ザナルカンド遺跡 やはり最初は「ザナルカンドにて」が流れないことに激しく違和感を感じたザナルカンド遺跡ですが……最初に訪れた時のユウナの回想ぐらい、「ザナルカンドにて」が流れてほしかったと思います。心情的にはね。

この曲はザナルカンド遺跡からエボン・ドームまで続けて流れるものですが、全体に哀愁を帯びた曲調は「現在は観光客で賑わっている」様子にはまるでしっくりきていません。どちらかと言うと、それを嘆くユウナの心境にシンクロしている曲調ですね。過去の出来事などおかまいなしにただの観光スポットとなってしまったことへの(当事者たちの)戸惑い……ってなイメージでしょう。しかし、サルが増えたおかげですっかり寂れてしまってからはミョーにハマるんだから面白いもんです。バグパイプとピアノの音色が、夜景を引き立てます。

結局、前作をプレイした人間にとっては、ここはもう「ザナルカンドにて」以外の曲では何を流したところで違和感は拭えるわけがないんです。それはもう「続編」の宿命でしかなく、製作者たちがどんなに頑張ったところで払拭できないものなのでしょう。それは製作者も理解しているから、まったく異質な曲をあえて持ってきた、と。

こんな話をどこかで読みました、「作品は完成するまでは作者のものだが、完結した後は受け手のものになる」……限りなく真実ではないかと思えるんです。著作権云々の話じゃなくてね。

なお、雷平原の「新たな洞窟」に流用されています。
29 スフィアハンター ユウナたち「スフィアハント」を生業とする者を象徴するテーマ。イントロから「作戦、開始!」という雰囲気に満ちており、コントローラーを握る者を見事にキャラクターと一体化させ、俄然ヤル気にさせてくれます。小気味良いビッグビート調のリズムとディストーション、そして苦難の道のりを現わすかのような力強い弦のメロと、王道的な作りながらミッションをいやおうなしに盛り上げます。

タイトル通り、スフィアハントに絡むミッションや活動時に使われることが多く、使用頻度も高いことから耳に馴染んでいる人も少なくないはず。シチュエーションからダンジョンの曲だろうと解釈されがちですが、あくまで「スフィアハンターの行動」を演出する楽曲です。

・キノコ岩魔物退治!
・お宝スフィアゲット!(イサール登場後)
・遺跡の魔物をおっぱらえ!
・オアシス調査
・公司の安全を確保せよ!

さらにビサイドの洞窟や、ミヘン街道の隠しダンジョン「ふしぎな洞窟」およびナギ平原の「遺跡の奥」ではBGとして使用。一方では「スフィア」がらみなのか、スフィアブレイクのゲーム中でも流れます(チュートリアル含む)。こちらはただの娯楽なのに、またえらい勇ましいのね……という感じ。

インターナショナル版では、クリーチャークリエイトにおける「クリーチャー捕獲」メニューでも使われています。
30 寺院 わかりやすく言えば前作の「祈りの歌」に相当する曲で、各寺院の内部で使われるものです。神秘的なボーカリーズは「新エボン党」との楽曲の統一性を図っているように思えます。ただ、神秘さの中にも不安・畏怖といった側面が見え隠れしており、「新たなエボン」もまた一筋縄ではいきそうにないことを暗に示していそうです。「エボンは隠し事が好きだからな」というパインの言葉に、すべてが現われているのではないでしょうか。

「今回は祈りの歌は使わない」というのが約束事で、ならばどんな曲にするかというのはなかなかの難題だったと思いますが、ボーカリーズを使ってしまった時点でやっぱりユーザーには「祈りの歌」を連想させてしまうと思います。そういう意味では、この部分においては前作を超えられなかったというのが正直なところではないでしょうか。「ザナルカンド」しかり、前作を「引き継がない続編」がいかに難しいかがわかります。

ベベル内部の寺院本部でも使われています。また、ストーリーレベル3の期間限定イベント・アンダーベベルでのヌージ・ギップル・バラライの密会でも使用。
31 緊迫 非常事態発生!といった状況で多用されるイベント曲。そのような状況ではそのまま戦闘に突入しても流れ続けるケースが多く、使用頻度の高さもあって、非常に耳に残る曲になっています。オケ主体のまさに劇伴といった曲調で、激しく鳴り響く管・ベースの役目を果たす低音部のピアノ・打ち鳴らす打楽器が危機感を煽ります。

キーリカの森は常に臨戦体制で、新エボンと青年同盟が火花を散らしており、必然的にBGもこの曲であるケースが多いです。そんなキーリカでのミッション「すんごいスフィアを奪え!」では、ミッションのスタートと同時にこの曲が鳴ります。雷平原の「避雷塔の魔物退治」も同様に、バトルを通して流れ続けました。

新エボンもしくは青年同盟に「すんごいスフィア」を返すと、そのスキに飛空艇へのルブランの侵入を許してしまいます。その連絡を受けたダチが「緊急事態だ!」と飛び込んで来るシーンでこの曲を使用。また、青年同盟にスフィアを返すとストーリーレベル2でのベベル侵入時に僧兵とバトルになりますが、このグレートブリッジ突破イベントでこの曲が流れ続けます。戦闘曲としての使用もあり、ジャボテンダーの登場〜戦闘、およびベベル廊20層におけるアラーネア、60層でのマウントマイマイとのバトルは、この曲をバックに行なわれます。

サボテンダーの穴にある「砂の通路」ではただでさえ時間の限られたイベント中、この曲がプレイヤーの焦燥感をさらに煽ってくれます。一方ザナルカンド遺跡では謎の笑い声(実はイサール)とともに流れてプレイヤーを焦らせますが、こちらは危機でも何でもなく、ただのコケおどしであることがすぐにわかります。このイベントのおかげで、個人的にはなんかこの曲のイントロにギャグのようなノリを感じてしまい困ってます。

他に映像スフィア「アカギ記録1」で使用。何者かと激しい戦闘を繰り広げるヌージ・ギップル・バラライが映し出されており、得体の知れない緊迫感を醸し出しています。いったい彼らはなぜ、なにと戦っているのか?
disc2
01 カモメ団マーチ disc1の7曲目「スフィアハンター・カモメ団」のアレンジで、よりコミカルに、お祭り騒ぎっぽい楽曲に変身しています。メインはブラスで、曲タイトル通りにマーチなのですが、よく聴くと右や左で様々なボイスやホイッスル、チョコボの鳴き声までもが好き勝手にドンチャン騒ぎしているといった感じでまさにお祭り騒ぎ!非常に楽しげな曲になっております。松枝氏によると、この曲は「ダウンタウンの掛け合い」をイメージしているそうで、左の松ちゃんがボケたら右の浜ちゃんがツッコみ、そして会場がドカーンと笑う、といったことを表現したかったとか。

もともとは「アニキのテーマ」として発注されたこの曲、オーダーは「軍歌や行進曲のようなニュアンスを」とのことだったようです。作曲側が目指したのは前述の通りとにかく「おバカ、笑い」。開発中はいろいろな遊びやSEを入れたこの曲でしたが、ゲームに落とし込む段階で容量の問題からカットになった音がかなりあったようで、サントラではすべて復活した形での収録となっています。ですのでゲーム中とは聞こえ方が変わってますね。

ストーリーレベル1の終盤で「すんごいスフィア」を入手した際に初めて流れるほか、ミッション「チョコボっ!(ホバーに協力を要請するシーン)」、ストーリーレベル5の飛空艇居住区でマスターの恋人(ダーリン)が登場するイベントなどで使用されています。また、ゲーム内ではしばしば、シンラ君がこのメロで「HiHiHI・カモ〜メ団、行け行け行け・カモ〜メだ〜ん」と歌っていました。これは作曲サイドとしては予定外だったそうです。
02 大いなる存在 ヴェグナガンのテーマと言ってよいでしょう。高音が持続する緊張感に溢れた弦とうねるシンセ、叩き付けるようなメタルパーカッションが圧倒的な恐怖感を醸し出しています。イントロ部分のピアノも印象的です。ヴェグナガン及びシューインは、ピアノがその存在をシンボライズした楽器であるように思えます。それもヴェグナガンの操縦方法に起因しているのでしょうが。前の曲「カモメ団マーチ」とのギャップが、「これホントに同じゲームの中で流れるのかよ?」という感じでなんとも混沌としてます。

ゲーム序盤ではヴェグナガン絡みの映像スフィア(「合体したスフィア」「消えたヴェグナガン」など)やムービー「ヴェグナガン」で聴くことができるほか、異界の核ではダンジョンBGとして使用。ただしそれらは大抵が23秒からの部分を使用しており、イントロのピアノを含めた完全な形で使われているのは、曲名と同タイトルのムービー「大いなる存在」のみかと思われます。
03 おやすみ 旅行公司や飛空艇で休んだ際に流れるME。ちょっと長めになっておりますが、セーブスフィアに触れれば回復できる本作では、この曲を聴く機会はあまりないかも知れません。ペット屋を開きたいのなら積極的に聴いておかなければなりませんよ。
04 不安 「苦悶の声」とでもいうべき雰囲気のこわ〜いボイスで始まるため「こんな曲あったっけ?」と思ってしまいますが、アンダーベベルの「迷宮」以降のマップや、隠された迷宮、通称「ベベル廊」でBGとして流れる曲ですね。アンダーベベルのテーマ、といったところですかね。いつ敵が現われるかという緊張感を、ダダダン・ダンと繰り返されるリズムとうねるようなストリングスが見事なまでに表現しています。ほんとうにこの先に進んでもいいのか……そんな「不安(まさに曲名通り!)」に満ちています。特にベベル廊探索における心理的効果はバツグンでしょう。

他に映像スフィア「1000年前の牢獄」、「アカギ記録6」、「アカギ報告1」および「同2」でも使われているほか、ストーリーレベル2冒頭で見られるムービー「ユウナの夢」でも流れています。ミニゲーム系では、ビサイド寺院でプレイできる「ガンシューティング試練」のBGとして流用されていました。
05 潜入!ルブランのアジト グアドサラムにあるルブランアジトに潜入すると、そこで耳にすることができるダンジョンBGです。「ルブラン様はなんでもアリ!」のモチーフが散りばめられており、和風な楽器も使用されていますが、実はこの曲、14曲目「迷宮」のルブランアジト専用バージョンとでも言いますか、汎用のダンジョン音楽にルブランモチーフをミックスしたものです。基本的にはオドロオドロしい曲なのですが、時折挿入される和風な響きがどこかヌケていて、ヘンなオブジェの置いてあるアジトにはピッタリ。

当初、ルブラン関係はテーマ曲(「ルブラン様はなんでもアリ!」)があればこと足りてたらしいのですが、ルブラン一味のキャラをいたく気に入ってしまった松枝氏が、この曲や専用バトル曲を自ら作ったのはすでに述べた通り。結果、自分の首をしめることに……とは松枝氏の談。愛があれば仕事が増えてもかまわない……アンタ、プロの鏡だヨ!ゆえに、おそらく最初はルブランアジトも「迷宮」が使用される予定であったと推測できます。
06 リュックのテーマ リュックのテーマです。ユウナのテーマ同様、前作から大きな変貌を遂げております(笑)。良い意味で、ひと昔前のアイドルポップ。勇ましい曲調を得意とする松枝氏は、こういう曲こそ苦戦したようです。いろいろ作ってはディレクターから「マジメすぎ」「もっとカワイク」「お花がパーッと咲いたような感じに、色で言うとピンク」とボツを出されたらしく、最終的に出た答えがこうなりました。ブラスのお花が咲いちゃいました。

とは言え、リュック絡みのイベントで効果的に使われている場面はまったくと言っていいほどなく、強いて言えばストーリーレベル2でのユリパ温泉イベントぐらい。あとはルカでのシェリンダによるテレビ放送といったイベントや、マッサージ・狼レース・修行の成果・リハーサルなどのミニゲームへの流用に終始しており、何のための「リュックのテーマ」なんだかさっぱりわからないのが残念です。FFは各キャラのテーマでは失敗することが多い印象がありますが、曲を使いこなす力量が不足した演出家にも原因がありそうですね。

なお、歌姫の時にリュックが歌うのはこの曲ですが、開発時に作曲コンビに知らされていたのは「ユリパの各テーマ曲のワンフレーズを何かに使う」ということのみ。「まさか歌姫が口ずさむとは」というのは江口氏の談。また、3人のテーマに関してはボーカルが入ることも想定されていたそうですので、つまり最初から「ボーカルコレクション」を発売するつもりで……この商売上手ぅ!
07 チョコボ 徹底的に「古き良きFF音楽」との訣別を断行した本作品ですが、もちろんチョコボのテーマ曲もおなじみのものは使われませんでした。チョコボは登場させるくせに曲は変えちゃうのね……寂しい限りです。「X-2」バージョンの「チョコボ」はメロらしいメロもなく、ひたすらブラスのワンフレーズを繰り返すループ音楽になっています。ただそのイメージは、従来のチョコボのテーマを脱しているとは言い難く、いつおなじみの「あの」メロディが鳴り始めたとしても違和感がありません。やはり植松チョコボは偉大だった(笑)。むしろヘタにメロディを付けなくて正解だったかも。

しばしばチョコボの鳴き声が挿入されますが(これがまたゲーム中ではまぎらわしい)、同じく挿入される人声の「合いの手」が何と言ってるかは不明(「チキチータ」みたいなことらしいが、江口氏も忘れているもよう)。これはラテン系の民俗音楽ソースから録ったサンプリング素材で、ユーザーの間で噂されている「クレヨンしんちゃん」であるというようなことはありません。

ミヘンでのミッション「チョコボっ!」で流れ、ナギ平原の遺跡にチョコ牧場が開設するとそのBGとしても使われます。なお、従来のFFではチョコボに乗ると音楽がチョコボのテーマになりましたが、今作では音楽は変化せず、マップのBGがそのまま鳴り続けます。
08 パインのテーマ クールなジャズ調のこの曲は、パインのテーマ。ハジケちゃってるユウナとリュックを冷静に見ている役割のパインですが、声優さんに対する演技指導も「パインはひたすらクールに」というものでした。もちろん楽曲もということで、ジャズが充てられたのでしょう。クールでありながら楽しげな雰囲気も漂っており、便利に使い回せそうになってます。ユウナやリュックのテーマに比べてイメージ作りは早かったようで、作曲にあたってキャラクターの資料を見た松枝氏が「わかった、まかせて」と取り掛かったそうです。

リュックに比べるときちんとパイン絡みのイベントで使われており、キノコ岩街道でヌージとの関係をリュックが詮索するシーンでは、うっとーしそうなパインと尊敬ポイント減点でヘコむリュックのどちらにもノッてましたね。また、ストーリーレベル5のジョゼ寺院でエクスペリメントを倒し、エピソードコンプリートした際にも流れます。ユウナとリュックにからかわれるパインが、ふだんはあまり見せないコミカルさを出していて曲ともどもいい雰囲気。逆にストーリーレベル4の冒頭、飛空艇甲板での会話イベントではちょっとムリヤリ感があるかな〜。流さなくてもよかったと思います。

他に、雷平原の避雷塔調整やナギ平原のウイングスロットなど、ミニゲームにも流用されています。ちなみに歌姫パインが歌実行時に口ずさむのもこの曲です。
09 ベベルの秘密 ボーカリーズで構成された、ベベル・試練の間のBG。とても冷ややかで神秘的、なんでここにこんなものが……という、まさにベベルの秘密といった趣きの楽曲になっています。ベベル廊においても、ボス戦やイベントの発生する固定層で使われています。

また、映像スフィア「寺院の秘密(バラライのスフィア)」では、シーモアとバラライの会話の背後で流れています。前作「X」でユウナがグアドサラムに到着する直前に、バラライはシーモアと会っていたのです。前作と「X-2」の繋がりを強く感じさせる、重要なシーンですね。

実はdisc1の「寺院」と同時に作られた曲で、どちらかを「寺院のテーマ」として使う予定だったのですが、2曲を聴いたディレクターが「ベベルの地下に使うから両方いただき」ということでどっちも採用。「寺院」を寺院のテーマに、この曲をベベル・試練の間に充てることになったようです。
10 アンダーベベル 言ってみれば従来のFFっぽいテイストの楽曲で、緊張感を盛り上げる弦と打ち鳴らすリズムが、あとには引けないユウナたちの「決意の戦い」を彩ります。先に進まなければならないのに邪魔者が、追っ手が迫り来る。「X-2」のユウナはそんな逆境にも果敢に立ち向かっていきます。この曲はむしろ「迫り来る敵」よりも「立ち向かっていくユウナ」を際立たせているような気がするんですよね。

アンダーベベル突入時のイベントで初めて流れ、封印を解除するまでは戦闘を通して流れ続けます。後にバハムート登場時にも使われています。さらにバハムート撃破後、アニキから緊急事態の連絡が入りストーリーレベル2コンプリート、そのままストーリーレベル3が始まって「スピラ中からSOSが!」といったあたりにも流れ続けます。位置付けとしてはdisc1「緊迫」テイストの、さらに深刻なシーン用楽曲、と言うことができますかね。

ベベル以外ではビーカネル砂漠のサボテンダー自治区で見られるアンラ・マンユ出現イベントでも耳にすることができます。次々と迫り来る魔物にビーム(?)で反撃するマルネラ……そんな、まさに緊迫したシーンを盛り上げてくれました。以後、サボテンダー自治区はサボテンダー探しを終えるまでこの曲がBGとなります。

ベベル廊における、対「すべてを捨てし者」戦もこの曲をバックに行なわれます。ベベル最下層で行なわれる戦いに、「アンダーベベル」はうってつけだと思います。召喚獣じゃないしね。
11 ユウナのバラード アレンジという作業がよくわからないんだけど……という人は、この「ユウナのバラード」とdisc1「ユウナのテーマ」を聴き比べてみて下さい。同じ曲だけど、ずいぶん雰囲気が変わっていますよね?簡単に言ってしまえば、これがアレンジということです。主だったメロディはそのままに、元気なバージョンとしっとりしたバージョンを用意して使い分けることで、テーマ曲としての印象を強くするのです。

と、いうわけで「ユウナのテーマ」のピアノ・バラード。普段は明るく元気に振る舞い「ユウナのテーマ」が似合う女の子を(ある意味)「演じて」いるユウナですが、過去のことや「キミ」のことを思い出すことも、そしてかつて召喚士であった頃の自分がチラっと顔を出すことだってある。そんなシチュエーションで多用されています。初出は、ストーリーレベル1・ルカでの「ユウナライブの真実!」ラストシーンでした。

この曲がユウナのテーマとして不動の印象を放つのは、アンダーベベルで突然現われたバハムートの前に、「やめて!」とユウナが立ちはだかるシーン(そのまま戦闘まで使用)。静かなこの曲をバックに行なわれる「かつての味方」召喚獣とのバトルには、ユウナの戸惑いがよく現われています。

同じような使い方に、アカギの洞窟でのイベントがあります。「何度も言わせないで……レンじゃないってば!!」のユウナの叫び。シューインの手にかかりユウナに襲いかかってくるリュック・パインとの、戸惑いながらの避けられない戦いは、この曲をバックに行なわれます。

その他の使用例
・StLv2ルブランアジトで、ルブランたちが飛空艇へ行った後
・StLv3ビサイド寺院でヴァルファーレ撃破後
・StLv3ラスト、異界でナゾの指笛が聞こえてくるシーン
・StLv5ルカでの回想シーン
・StLv5マカラーニャ聖なる泉でのユウナ独白
・StLv5ザナルカンドで、メイチェンが成仏するシーン
・ラスボス戦直前、ユウナとヌージの会話
・エンディング後の「THE END」画面

さらに、特定の条件を満たした際に見られる「ザナルカンドエンディング」でも聴くことができます。上に挙げた使用例とベストエンドでの使用から、この曲がいかに本作品にとって、そしてユウナにとって重要な曲であるかを伺い知ることができるでしょう。ザナルカンドエンドに使われることは作曲時からわかっていたとのことで、ただ悲しいだけではない、様々なニュアンスを含んだ曲になっているのです。
12 お助け屋カモメ団 ストーリーレベル3では、カモメ団がいったんスフィアハンターを休業し、代わりに「お助け屋」として各地を巡ることになります。この曲はそんな変化に伴い、ストーリーレベル3から飛空艇内BGとして流れるものです。冒頭で鳴るカモメの鳴き声が、これ以上ない隠し味になってますね。力強いブラスが歌い上げる、思わず体が動いてしまうテンポの良い曲。

「お助け屋カモメ団」と謳ってはいますが、楽曲は「ユウナのテーマ」のアレンジになっています。これは、パインの「そしてユウナまかせだ」という言葉に現われているように、お助け屋の後光があくまで「かつてシンを倒した(元)大召喚士ユウナ様」であることを示しているからに他なりません。実は作曲時、メロ以外はわりと早く上がったようですが、肝心のメロディがなかなか書けなかったとは松枝氏の談。結局は「書けない時は、みんなのテーマを入れる」ということでこうなりました。印象の分、ユウナのメロが最も立っていますが、リュックやパインもいたり、カモメ団モチーフも顔を出しています。

ちなみに、もうお気付きとは思いますが、カモメ団(飛空艇)関係はブラスでまとめられていますね。キャラやシチュエーションで、使う楽器の色も考慮してあるのです(例えば「アルベドはギター」、など)。カモメ団関係の曲は「ブラス、ファンキー」というキーワードで括られています。
13 オラたちのデバンだなや ストーリーレベル5、幻光河でのトーブリのイベントで楽団員が演奏しているという想定の楽曲。言わば現実音楽で、ここ以外で流れることはありません。ゆったりしたファンキーな曲なのですが、途中からテンポが変化、アップテンポなチョッパーがビンビン弾けるフュージョン調のパートが挿入されます。

作曲にあたっては、まず楽団員の姿に着目。「ハープとラッパとタイコだけで作らなければならない?」「演奏者として一流な彼らに、どんな演奏をさせるとそれらしい?」と悩みは尽きなかったようですが、制作の「やりたいようにやっていいよ」という言葉と、「逆に意外性を高くしてみよう」というヒラメキでこうなったようです。一応は楽団員の楽器を意識してはいるそうですが、例えばエレピはベライのハープで弾いているという(笑)。

気が付いている人もいると思うのですが、サントラに収録されているのは「トーブリのイベントが最高に盛り上がった」、即ちベストパターンの際に流れるもの。ルカシアターの音楽スフィアで言うところの「オラたちのデバンだなや No.2」にあたります。イベントのフラグに失敗して盛り上がりがイマイチだと、ここで別のバージョン(「オラたちのデバンだなや No.1」)が流れることになります。ストーリーレベル3で聴けるのもコレですね。バックトラックを淡々と繰り返すのみの演奏で、アップテンポな部分もありません。こちらはサントラには未収録なので、ルカシアターで聴きましょう。

なお、この曲はインターナショナル版の「ラストミッション」で、イベント中において何度か耳にすることができます。
14 迷宮 「潜入!ルブランのアジト」からルブランのモチーフをカットしたバージョンです(本当は逆ですが、CDの収録順で解説するとこう言わざるを得ない)。ルブランアジト以外のダンジョンBGとして数ヶ所で使われています。ルブランのモチーフがミュートされたことで低音のピチカートと弦の刻みが強調され、よりオドロオドロしく、ミステリアスな雰囲気を醸し出しています。江口氏いわく、「迷っては歩き、何度も足を止め、何かを見つけていくイメージ」とのこと。

ビサイド寺院の試練の間、ナギ平原の谷底の洞窟、雷平原の「魔物の巣窟」でダンジョンBGとして使用されています。また、ストーリーレベル5・ミヘン街道での「リンの犯人探し」における犯人解明イベントにも流用されていました。
15 混乱 ストーリーレベル3におけるキーリカ寺院の魔物退治ミッションで、バルテロを助けた後からBGとして流されるもの。「緊迫」や「不安」といった楽曲の流れを汲む焦らし系音楽ですが、よりわかり易い「映画音楽」的な構成と音色で、個人的には「ジョーズ」とかあのあたりに対するリスペクトなんじゃないかと思っています。管弦楽器のみの編成になっており、シンセサイザーっぽい音色やテクノっぽい音が一切ないのが「X-2」サントラにおいては珍しいカラー。

キーリカ同様にSOS発信後のジョゼ寺院でも使われ、魔物退治ミッション中はバトルを通して流れます。他での使用例はあまり多くありませんが、ストーリーレベル5のミヘン街道における「リンの犯人探し」では、犯人確定時にMEっぽく短く使われていました。ビーカネル砂漠での対アンラ・マンユ戦直前にもうっすらと挿入されています。

映像スフィアでは「アカギ記録2」にて使用。「アカギ記録1」に続いて激しい戦闘を繰り広げるヌージたち。名前は明かされませんが、ここで声のみ登場している「記録屋」はパインです。「アカギ記録8」のラストシーンでもちらっと流れます。
16 召喚獣 ボス戦の中でも、ストーリーレベル3以降で行なわれる特別なボス・召喚獣との戦いで使用される専用BG。通常のボス戦で使用される「ユリパファイト No.2」と比べるとオーケストラ然とした曲調になっており、「混乱」から引き継いだような色になっています。実際この2曲は続けて流れる場合も多いので、繋がり感は抜群なのではないでしょうか。ただ、「前作で消えたはずの召喚獣が、なぜ?」「かつてともに戦った仲間との、避けられぬ戦い」といったあたりの、ユウナとプレイヤーの戸惑いがあまり表わされておらず、ただ煽りたてるだけの曲になってしまっているのが唯一残念なところではあります。

この「煽り感」は、大晦日周辺でバトル関係の曲をまとめて書いており、しかも締め切りギリギリという、まさに緊迫した状況だったからこそ表現できたものだとか(笑)。切羽詰った方が良い結果が生まれる……仕事というものはどんな業種であれ、そういうものです。

召喚獣以外ではアンラ・マンユ戦でも使用されます。これは召喚獣ではありませんが、相手が相手だけに「ユリパファイト No.2」ではちと緊張感に欠けるとの判断から来る流用でしょう。それはいいのですが、雷平原における対フンババ戦でも使われているのは、ややオオゲサかも、と思ってみたり。

インターナショナル版では、クリーチャークリエイトで「祈り子のかけら」を持った魔物を解放した時に挿入される、召喚獣が魔物コロシアムに参戦するイベントでも使用されています。
17 異界の深淵 曲タイトルそのままの曲で、初出はストーリーレベル3で異界の深淵に落ちたユウナの所にシューインが現われるムービー。以後はストーリーレベル5において、異界への道でBGとして流れます(全ルート共通)。ディレイっぽく減衰していくパーカッションに乗せて、哀愁感たっぷりのストリングスが「1000の言葉」のモチーフを奏でます。いよいよシューインのもとへ向かうユウナたち、レンの「想い」も一緒に抱えて……そんな場面にはこのうえない選曲ではないでしょうか。「美しいメロディ」だけに留まらない曲想はお見事のひとこと。ユウナのさまざまな感情が充分すぎるほどに顕われ、同時にプレイヤーに「終局」を予感させています。

ストーリーレベル5コンプリート後の「花畑」でも使用。
18 久遠 〜楽団員さんの演奏〜 言うまでもなく、オープニングデモで聴くことのできる「久遠〜光と波の記憶〜」をアレンジしたもの。ストーリーレベル5のグアドサラムで流れる、楽団員の演奏による(という想定の)バージョンです。確かに彼らが弾いているんだなとわかる楽器編成になっています……って3人じゃちょっと厳しいか?ハープ・フルート・ドラムでいっぱいいっぱい。ベースと弦は誰が弾いているんじゃあ!なんて重箱のスミをつつくのはナシよ、と。楽器亜人種の演奏能力は、我々の想像をはるかに超えているんです。

この頃になると各地のエピソードコンプリート時に「久遠」はかなりの頻度で流れますから、プレイヤーの耳にも「あの曲だ」と認識できるはずです。なお「ストーリーレベル5のグアドサラム」と書きましたが、特定の条件を満たさないと流れないので、中にはこの曲がゲーム中では流れなかったと言うプレイヤーもいるでしょう。まあしっかりとロンゾの出陣は阻止しておきましょう、ってことですね。
19 1000の言葉
  (FFX-2 Mix)
倖田來未が歌う、「X-2」もうひとつの主題歌。と言うよりもこちらが本命ですね。「real Emotion」が制作陣(スクウェア側)の思惑が介在しないタイアップであったのに対し、「1000の言葉」は楽曲を松枝・江口コンビ、そして歌詞をシナリオの野島一成氏が担当しています。倖田來未本人も、この曲を「自分が一番好きなタイプのバラード」と言っていました。

ゲーム中で最初に聴くことができるのは、ストーリーレベル4・雷平原でのライブムービーです。倖田來未とかタイアップとかエイベックスとか、そんなもろもろの背景なんぞ忘れて、ただただ「良い曲だな〜」と思ってしまいました。倖田來未のボーカルもイケてるやん、って。まあ、ムービーの放つ「映像の説得力」も大きいですね。これがもし、ムービーではなく単に背景にBGMとして流れるだけだったら、果たしてどうなったか。

制作からの作曲者に対する要望は「大事な人を想うバラード」とのことで、シーンの盛り上がりと「ライブの曲」としての独立性も考慮しながらアレンジを加えていったそうです。「ゲーム中でなくてはならない場所で使われるので、歌詞も意味あるものに」、その歌詞を担当した野島氏、最初に書いた歌詞は鳥山ディレクターにダメ出しされ、「あの時は言えなかったけど、今なら言えるみたいなノリが良い」とのアドバイスを受けて書き直したそう。また、歌詞についてはエイベックスサイドから「現代の恋愛としても普通に解釈できるように」などの注文があったとのこと。確かにFFやRPG、ゲーム独特のキーワードが入ってしまうと、倖田來未の楽曲としては売りにくくなってしまいますからね。
20 洞窟の悪夢 この曲を聴かずにゲームを終えてしまった人も多いかと思われますが、アカギスフィアをすべて集めないと入れない、キノコ岩街道「封印の洞窟」におけるイベント(同名のムービー)で聴くことができる曲です。ムービーを見ればわかりますが、このピアノはシューインが演奏しています。ヴェグナガンの起動は操縦席に設置されているピアノ(のような装置)で行なわれるのですね。そのため、このピアノは22曲目の「ヴェグナガン起動」にも採用されています。松枝氏いわく「事実上のシューインのテーマ」。

なお、後半は「混乱」のモチーフを取り込んだ焦らし音楽になっているのですが、ムービーではまず前半のピアノ演奏が途中で途切れます。その後、シューインとレンのもとへ追っ手がやってくるシーンで後半部分がカットインされるという形で使用されています。
21 アカギ隊 アカギ隊関連のイベントではシューインのテーマが流用されることも多く、このアカギ隊のテーマ曲自体の印象は薄いですね。厚いコーラスによる、「アカギ隊アンセム」といった雰囲気の曲なのですが、荘厳なだけではありません。悲劇に見舞われたアカギ隊とそこに所属していた者たち(パインを含む)の「過去」を感じさせる、どこか悲しげな曲想。もっと立つ使いどころはなかったんかいな?と思わざるを得ない、もったいない曲です。

ストーリーレベル4冒頭でのパインの独白のほか、ヌージ・ギップル・バラライらが談笑する「アカギ記録3」、彼らがいよいよ封印の洞窟に踏み込む「アカギ記録4」とその後を映した「アカギ記録8」、そしてゲーム終盤で手に入る「パインのスフィア」を見ることで耳にすることができます。また、さりげない使い方ではストーリーレベル3・ベベル最下層でのヌ・ギ・バ会談の冒頭で、チラッと使われていたりもします。実はこれが初出で、彼らが揃ってアカギ隊であることを匂わせているのです。
22 ヴェグナガン起動 「洞窟の悪夢」と同じピアノのイントロで始まり、おっ、植松節?と錯覚してしまうようなチャーチオルガンと、圧倒的なコーラスによる印象的な旋律に繋がっていきます。ラスボス戦突入直前、意を決したユウナたちの前でいよいよヴェグナガンが起動!という、曲名まんまなイベントシーンで流れます。戦闘にも使えそうですが、バトルには流れません。
23 激突 ヴェグナガン起動後、ユウナたちの移動シーンからヴェグナガン・「尻尾」および「脚」戦まで通して使われる曲です。カヂャガチャというパーカッションとピアノ、管を中心に構成された威圧的な音色が、ヴェグナガンという圧倒的な存在を象徴しているかのようです。これから戦うのはあくまでヴェグナガンの一部でしかない……これに勝ったとしても、その後ははたして……そんな不安も顔を出しているかのようです。

このあたりのブ厚いバトル音楽は、実は意外と江口氏が得意とするテイスト。これらの曲を気に入った方には、江口氏が音楽を担当しているアニメーション「D・N・ANGEL」のサントラもオススメします。江口氏の描くドハデなアオリ音楽がてんこもりですヨ。
24 死闘 いよいよヴェグナガン本体(コア&ブルワーク)との戦い。「激突」と共通した脅かし系のブラスヒットを織り交ぜて威圧感を強調し、高音の弦が緊張感・焦燥感を、低音の刻みが不安を増幅してくれます。が、この曲のキモは何と言ってもボイスでしょう。何と言っているかはまったく見当つきませんが、わりといろいろなCDでよく聴くサンプル音源ですので、特別な意味付けはないものと思われます。それでも、ラテン語による命名がなされた攻撃手段を放ってくるヴェグナガンにはハマっています。狙っているのなら大成功ですね。もっとも「バウンサーっぽい」と言ってしまえば身もフタもないですが。これが松枝・江口コンビの持ち味ってやつなのです。

インターナショナル版の追加要素である「クリーチャークリエイト」における魔物コロシアムでは、通常は新曲が使われているのですが、「魔界の扉」「最強シンラ君カップ」「魔界カップ」ではこの曲が使われていることを追記しておきます。
25 破滅 ヴェグナガン頭部&リダウトとの、最後のヴェグナガン戦を彩る楽曲です。妙な仕掛けや小手先の脅かしがない、正統派なオーケストラ調・RPGボス戦音楽になっています。「激突」「死闘」と共通したモチーフを組み込んでおり、統一感についてもじゅうぶんに考慮されているようです。まったく異なるタイプのバラバラな曲を充てず、一連の共通項を持たせることで「同じボスの別々の部位との連戦」が上手く表現されていると思います。

惜しまれるのは、「X-2」には良い意味でクセのある曲が多く、プレイヤーがインパクトに慣れてしまっているため、ラスボス戦音楽がマトモに感じてしまうこと、そしてこの後に「真の最終決戦」が待っているため、この曲がイマイチ突き抜けきれていないこと。それでも、直球勝負のラスボス音楽には個人的には好感が持てます。作曲する側としても、これだけラスボスまわりで曲があると、ペース配分がかなり難しかったんじゃないでしょうか。序盤でやり過ぎちゃうと後のインパクトが欠けるし、かと言ってラスボスには違いないから手は抜けない……。「ヴェグナガンは通して1曲にしませんか」という提案もあったようですが、ディレクターから却下されてしまったそうです。
26 終焉 「おまえはレンじゃない!」ということで、なんとも子供ダマシなユウナたちの作戦は失敗し、逆にシューインを激怒させてしまいます。そして、やむなく戦闘へ。これはそんな最終決戦に流れる楽曲です。ピアノ奏者なシューインを象徴してか、ピアノによる流れるようなフレーズも入っていますが、印象としてはここまでのボス戦の流れを汲む楽曲になっています。ていうかほとんど出だしは「破滅」と同じ。カッコ良い曲ではあるのですが、やはりインパクトはどうしても薄い……従来のFFシリーズのような、インパクト重視な楽曲でなくなったのは残念です。シューイン戦はもっとガラっと曲調を変えてもよかったのでは?と思います。どうしてもヴェグナガン戦からの一連のイメージを脱していなくて、シューイン戦が「おまけ」っぽい印象に終始してしまいがち。植松氏のおかげで、ラスボス戦には特別な何か、をつい望んでしまう我々が悪いのでしょうか……。

なお、ユーザーの間では「シューインと終焉ってひっかけてんの?」と囁かれておりましたが、実は狙いのようです。曲名にまんま「シューイン」と付けてしまうとネタバレですから、「激突」「死闘」「破滅」そして「終焉」と、だんだん発展していく曲名にしたとのこと。

なお、松枝氏によると「ラスボスの曲は大晦日に書いていた」らしいのですが、実はそれは「召喚獣」を指しての発言だったようです。っていうか、それラスボスじゃないじゃん(笑)。どちらにしても除夜の鐘が入ってなくてよかったよかった。
27 1000の言葉 Piano Version
  〜時を越えた想い〜
シューインを倒した後に流れる、「1000の言葉」のピアノソロアレンジ。レンとシューインの再会を、切なく盛り上げます。どんなブ厚いオケよりも、こういうピアノソロは心に響いてきますね。ピアノという楽器の素晴らしさを再認識するとともに、「1000の言葉」のメロの良さも際立ちます。この後、「ストーリーレベル5コンプリート」の表示がされるまで通して使用されます。シューインとレンも再び出会えたし、みんな無事だったし、めでたしめでたし……あれっ、ティーダは?ということで、ユウナの「1000の言葉」はまだ届いていないわけで……。

シューインとレンのイベントを見ていると、「言えなかった1000個の言葉」とも、「1000年前は言えなかった言葉」とも、どちらにも受け取れますね。こういった意図的なダブルミーニングは好きです。意図してない(私が勝手に思ってるだけ)かもしれませんが。

録音時にはシューイン戦後のイベントをビデオで流しながら、リアルタイムに演奏したそうです。もう手法は完全に映画のサウンドトラックですね。そう言えば、「FFVII」で植松氏も同じことをやってましたな。
28 エンディング
  〜また会う日まで〜
すべてのプレイヤーが見ることのできるエンディングムービーで流れる、フルオーケストラ演奏による楽曲。一部にチラッと「ユウナのテーマ」が入りますが、「1000の言葉」や「リュックのテーマ」も顔を出しています。これも「各テーマ散りばめ系」ですね。

使いどころは、ムービーでは「自分の場所に帰るっす」の部分にあたります。そして飛空艇は飛び去り、38秒のところからは飛空艇甲板にへばりつく(笑)ユリパの3人、「もっと、高く〜!」の部分です。そのままスタッフロール直前まで引っ張って完結。

エンディングにしては短い曲だなと思われるかもしれませんが、ムービーを見た人ならわかると思います。前半のヌージ・ギップル・バラライによる演説シーンは音楽がかかりません。その後、ユウナが登場する場面からこの曲が鳴るのです。14秒からのフレーズは「ファイナルファンタジー」を連想させますね。オーケストラアレンジは松枝・江口コンビによるものですが、植松作品における浜口史郎アレンジに負けていません。これぞ(最近の)FFエンディング!といった感じです。同時に、ああ、終わったんだなあというプレイ後の余韻にも満ちています。
29 1000の言葉
  Orchestra Version
スタッフロールで流れるバージョンの「1000の言葉」。オケは純然なオーケストラになっており、この「テーマ曲のフルオケバージョン」といったあたりも、昨今のFFに倣っている点でしょう。このことからも、「1000の言葉」がメインテーマソングと言ってよいでしょう。もしも「real Emotion」のフルオケ版だったら……ここまでエンディングに没入できたでしょうか。ちなみに、オーケストラは総勢で60人ほどの編成だそうです。楽団という意味でのオーケストラではなく、スタジオミュージシャンで構成されたオーケストラで、それぞれブースに入っての多重録音だったようす。よって残響系は後付けですね。

松枝氏によると、開発中にはこの曲が長すぎるというクレームがあったそうな。つまり、予定されていたスタッフロールよりも長かったんですね。でもオーケストラ録音だからやり直しはきかないし……ってことで、スタッフロールの方のスピード(もしくは文字数や字の大きさ)を調整する方向で、なんとか現状維持となったようです。
30 エピローグ 〜再会〜 特定の条件を満たしたプレイヤーだけが見られる、通称「ティーダエンディング」で聴くことのできる曲です。ムービーは海中のティーダから始まり(ここはSEのみ)、水面に顔を出すとそこはビサイドの浜辺。このことから楽曲はビサイドのアレンジになっています。ビサイドのモチーフを盛り込むのは松枝・江口両氏に共通した考えだったそうですが、仕上がるまでに10曲ぐらい書いたとか(松枝氏談)。いったん仕上がったものを捨てて作り直したものが、ゲーム中で使われているこの曲だということです。エンディング、「1000の言葉」に続いてこの曲もフルオーケストラ演奏になっております。

ティーダの「つうかさ、変わったよな」という言葉はティーダのユウナに対する言葉であるとともに、「X-2」スタッフやユーザーに充てたメッセージでもあるのでしょう。

江口氏によると、今回はエピローグ関係の曲を先に作ったとのこと。オーケストラ録音するという都合上、通常の曲よりも早く仕上げなけないといった事情もあったからですが、普通はいろいろな曲の印象的なフレーズを集めてエンディングを紡ぐことが多いのに対し、今回は逆にエピローグのモチーフを散りばめるようにして各曲を作っていったとか。これは正直、意外でした。

はみ出しコラム「語ってもよいですかな?」

 ここまで「FFX-2」の楽曲についてやりたい放題語らせていただいたわけですが、まだちょっと語り足りないので語ります。楽曲面では前作との比較からユーザーの非難を受けることも多かった「X-2」ですが、ここでは他の視点から本作の「音」を検証してみましょう。音楽ほど表舞台に出ていないために、ユーザーから賞賛も非難もされることがなかなかないもの……それは、効果音です。

 「X-2」の効果音およびボイスは、「X」とほぼ同じスタッフが引き続き製作しています。当然、続編ですから各自クオリティアップを目指すわけです。前作よりもさらに素晴らしいものを、と頑張るわけです。例えば、効果スタッフは本作を作るにあたって「X」を再検証。その結果、「必要な所にはすべて音を付けたはずなのに、ぜんぜん足りてない、人間らしさが足りない」という結論に至りました。その反省をもとに、「X-2」ではさらに効果音の充実を目指し、あそこにもここにも……と音を乗せていくわけです。ワンシーンに使われているSEの量は
前作の倍、ひとつのイベントでは「X」なら100のところを今回は400、というように、とにかくこと細かに音を付けていく。動きとぜったいにズレない足音、動くたびにカチャカチャと鳴るアクセサリー……とにかくもの凄い仕事なわけですよ。

 ここまで聴けば「ブラボー!」な話なんですが、私個人としてはなんだか「間違った方向に力を注ぎ過ぎている」という感想を否定できません。例えば映画なら実写をベースにしてますから、効果音は乗せれば乗せただけ説得力が増します。ちょっとしたフォーリーも最大限の効果を発揮するでしょう。しかし、ゲームは映画ではありません。ムービーのようなハイエンドCGならいざしらず、リアルタイム描画のグラフィックは見ただけで「ゲームのCG」であることが誰にでもわかります。そこに「人間らしいSE」を乗せることの意味とは?

 そうやって重ねていった音のいくつが、ユーザーに届いているのでしょうか?もちろんプロとして、新作のたびに旧作を超えるべく努力をするのはもちろんだと思いますし、技術力を誇示するのも大切です。が、ふと立ち止まった時、最終的な受け手「プレイヤー」が、後ろに付いて来ているのでしょうか?今作をプレイしていて、私は正直「うるさいなあ」と思ってしまいました。例えば、戦闘に突入したとします。バトル音楽が鳴り、個々の効果音も鳴り出します。さらにキャラクターボイスも時折挿入されます。個々の音はそれはもう素晴らしいのですが、それがすべて
混ざり合ってスピーカーから送出される場合のことをどの程度想定しているのか、ということです。これはもちろん各家庭の再生装置に依存する問題でもありますが、マスキングされて聞こえなくなってしまってる音がどれだけあることか。バトルは一例にしか過ぎませんけど。

 ムービーに関しては計算されたミックスによってかなり良いバランスで聴くことができますが、リアルタイムの音はそうはいかないですよね。さらに、曲調との兼ね合いもあります。今回の音楽はリズムの強調された曲が多く、作曲者の個性かSE的な音色も多数挿入されています。そこに、
前作の音楽と同じ感覚で効果音を乗せてよいものでしょうか?全体的なバランスに難があるのも、そのあたりに原因があるような気がしてなりません。そろそろ、とにかく音を足していくという発想よりも、最終的なミックスバランスに重きを置くべき時期に来ているのではないでしょうか?

 個々の「音」はどれも本当に良いものばかりなので、あとは「さじ加減」ではないでしょうか。「FFVII」のライナーノーツで、植松氏はこんなことを書いていました。「多くの優秀なスタッフそれぞれがやる気200パーセントで取り組むあまり、収拾がつかなくなり、焦点がぼやけて詰めの甘い仕上がりになってしまう。いつまでたっても
無節操な作品しか発表できない。これはFFシリーズの長所であると同時に最大の反省点だ」……そのうえで、氏はこうも書いています。「あとは全体をきれいに手入れしていけばいい。FFはそろそろその時期にさしかかっています」……。いかがでしょうか。「X-2」は、最新作にしてまさにこの「無節操」をやってしまっているのではないでしょうか。これは音に限らず、他の様々な面もそうかもしれません。ですが、一方でそれがFFシリーズの特徴なんだということも理解しているつもりです。

 どうでしょう?私はそろそろ、各パートがそれぞれ「最高」を求めて混沌としてしまう「FF」ではなく、トータルバランスとしてまとまりの良い「FF」が見たい。植松氏が言うところの「きれいな手入れ」、それを達成した作品は今に至るまでまだ出現していないのではないでしょうか。そういう意味では、「X」に比べて「X-2」は退行してしまったような気がするのです。個々のパワーではなく全体のバランス、その究極をそろそろ目指してほしいのです。純粋にいちユーザーとして、そんな「FF」が我々の前に姿を現わすことを願って止みません。

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