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FINAL FANTASY XII Original Soundtrack
限定盤パッケージ  「FINAL FANTASY XII」の作品中で使用された膨大な数の楽曲を、CD4枚にパッケージしたオリジナル・サウンドトラック。しかし、ただゲーム音源を収録しただけのサントラではない。ここに収められているのは、作曲・崎元仁氏によるオリジナルバージョンなのだ。実際のゲームではこれをゲーム用に落とし込んだものが流れていたわけだが、作曲者がいま明かす「完全版」は、ゲームを終えた我々の耳にどのように響いてくるのだろうか。

Sony Music(Aniplex)
SVWC 7351〜4
2006年5月31日発売
JASRAC表記:
あり
ゲーム紹介

 「FF最新作」はいつも、各メディアがその発表を大々的に報じる。「XII」も例外ではなかった。メーカーサイドとしてもそれは理解しているから、それなりの発表の場を設ける。しかもこの「FFXII」は、番外だった「X-2」、そしてオンラインであるがゆえ限られた人々しかプレイしていない「XI」を経て、コンシューマパッケージとして久々の正統な「ファイナルファンタジー」のナンバリングシリーズとなる。「X-2」のノリについていけなかったユーザー、「XI」を体験できなかったファンたちの期待が過度に高まってしまったのも無理はない。過去作のリメイクやコンピレーション展開、映像作品などのリリースが相次ぐなか、純粋な新作としての「FFXII」はFFファンのみならずゲーム業界の注目を集めた。制作発表は2003年11月、こちらも世間の注目を集めていた完成したばかりの六本木ヒルズで行われ、FFの生みの親である坂口博信氏も久々に「FF関係者」としてその姿を現した。

 期待が大きくなったことのひとつに、制作を担当するメインスタッフの存在がある。かつてスクウェアで「ファイナルファンタジータクティクス」や「ベイグラントストーリー」を手掛けたカリスマクリエイター、松野泰己氏がディレクションを務めるとあっては、独特の世界観と語り口を持つ松野作品のファンが捨て置くはずもない。キャラクターデザインは松野氏から全幅の信頼を得ている吉田明彦氏、彼も松野作品には欠かせないデザイナーである。そして音楽は、松野作品ではこちらもおなじみの崎元仁氏が担当。松野氏は初めてとなる「ナンバリングFF」を受け持つにあたり、自分にとっての最強スタッフを集めたのだ。その意気込みもわかろうというものである。かなり早い段階からイメージビジュアルや主人公キャラ、「イヴァリース」という世界観を具体的に提示し、公式サイトでは楽曲の試聴も可能だったことから、製作はきわめて順調であろうと誰もが思ったものだ。発表された「2004年夏」という発売日を疑う者は、この段階ではまだいなかったはずだ。筆者などは「FFXI」との食い合い、続々リリースされる「FFVII」関連のコンピレーション作品など自社(スクエニ)製品との競合を他人事ながら心配したほどである。「こんなに短期間にいろんなFFが出ていいのか」、と。

 しかし、だ。ある時期を境に。「FFXII」の情報は滞りがちになる。発売日が刻々と近付いているというのに、続報が届かない。さすがに「本当にリリースできるのか?」と思い始めた2004年5月、発売延期が告知される。その後もたびたび発売延期を繰り返し、その過程でディレクションを務める松野氏が病気療養中だという衝撃の事実も伝えられた。言ってみれば映画の製作中に監督が倒れたようなもの。氏の作品はクリエイターのカラーが強く出るタイプのもので、それこそが人気を集める要因にもなっている。氏が退場することはそのまま、作品の完成すら危うくなるとの予測に直結する。以後松野氏は監修という形で関わることとなり、かわってエグゼクティヴプロデューサーとして投入されたのが、古くから「FF」に携わる河津秋敏氏だった。失礼な言い方になるが、ゲームキューブの「FFCC」やPS2「アンリミテッド・サガ」の不振でユーザーから叩かれていた河津氏の投入に、「FFXIIは終わった」と早すぎる評価を下すファンも少なくなかったことは事実としてお伝えしておく。

 そのような事情もあり、幾度かの延期を経て2006年3月16日、「FFXII」はついに発売された。その出来を危惧していたユーザーは決して少なくなかったが、なかなかどうして、全編に渡って紡がれる松野節。制作陣が「時間だけはありましたから」と言うだけのことはある渾身のグラフィック、そしていわゆるエンカウントのないシームレスなバトル。美麗なムービーはお家芸として、シナリオに関係しないやり込み要素やミニゲームも盛りだくさんで、胸を張って「FFです」と言える仕上がり、そしてこれまでにはなかった新しい「FF」として立派に完成していた。松野氏が一歩退いたなかでここまで作り上げることは並大抵の苦労ではなかったであろうが、ここからわかるのは松野氏は決してワンマンな天才ではなかったということだ。もちろん優秀なクリエイターではあるのだが、それを支える優秀なスタッフの力を得て、結果として最高の作品を作り上げる。でなければ監督不在の映画がここまでのクオリティをもって完成することなどあり得ないではないか。結果、さすがに「FF」と言うべきか、出荷初週だけで200万本を突破、「FFX」の248万本も射程距離に捉えている。

 ただ、個人的に気になるのは「あまりにも静か」なところ。それは世間の反応が、だ。確かに売れてはいる、が、良い評判も悪い評判もあまり聞こえてこない。「やっと発売された」という安堵感だけを感じるのだ。特に身近に、いつも「FF」はやっているにもかかわらず今回は「ほめられもけなされもしてないから見送っている」という人間が複数いるのが気になる。良い評価だけでなく、酷評もユーザーの心を動かし得るのだと実感した。販売本数を購入動機とするユーザーは、実はそれほどいないのではないか。「XII」ユーザーは発売されたことのみに安心してただ黙々とプレイしているだけなのかもしれないが、その感想をもっと声にしても良いのではないだろうか?

 話が横道にそれてしまったので元に戻そう。「優秀なスタッフ」は、音楽も例外ではない。崎元仁氏と言えば、業界ではもう大御所と言っても良いほどのコンポーザーだ。手掛けたタイトルも数知れないが、あらゆるジャンルを駆使して作品ごとにまったく違った顔を見せるさまはまさに「職人」。ロックやテクノ的楽曲もお手のものだが、今回「FFXII」で氏が採ったのは、正統派「FF」音楽としてまっとうなオーケストラ音色をふんだんに使ったものだった。それも、FF音楽の父・植松伸夫氏がやるように時にはロックもあり、なんでもありという姿勢ではなく、全編を徹底してオーケストラで彩った。かつて「プレステでなぜこの音が出せる?」と誰もが驚いた(であろう)「ファイナルファンタジータクティクス」のカラーと言えばおわかりいただけるであろうか?この荘厳なシンフォニーは、オーケストラ録音を除いて過去の「ナンバリングFF」ではなかなか聴けなかったものであり、しかもすべて内蔵音源で処理している。これはもちろんロードの長時間化を嫌ってのことであり、楽曲の鳴りということでは完パケを流していた「DCFFVII」に劣りはするものの、内蔵音源ということでは高いレベルのものである。

 それに貢献したのはTHE BLACK MAGESのベーシストとしてもFF音楽ファンにはおなじみ、シンセサイザープログラマーの河盛慶次氏だ。崎元氏が自分のスタジオで作り上げてきた楽曲のデータをゲームに落とし込むために欠かせない「職人」である。当然崎元氏が上げてくるデータは実機の制約を考慮していない、音色やパートをふんだんに使用したゴージャスなもの。曲によっては160音近く鳴っているものもあったとのことで、当然そのままではゲームに入れるには大きすぎる。これを「なんとかする」のが河盛氏の仕事だ。具体的には音色のサイズダウンに始まり、ランダムになっている音を一体化したひとつの音源としてリサンプリングしたり、帯域ごとに鳴っている音の印象は変えないように巧みに音色を差し替えたり……これを全曲、すべてのパートにわたって行うのであるから気が遠くなる作業だ。これを行うにはただの技術屋さんではダメで、音楽を構成する要素のどこがオイシイ部分なのか、どれがキモなのかを理解できる素養がなければ適わない。こう書くと崎元氏は好きに作って河盛氏だけが苦労していたようにも思えるだろう。ならば崎元氏が最初から実機の制約を考えて作ればいいじゃないか、と。そこは崎元氏的には「それだけ河盛さんの技術力を信頼していたということなんです」とのこと。河盛氏と崎元氏とは過去「FFT」の頃に顔見知りだったため、今回の作業はハードながらもスムーズに行えたという。崎元氏は「FFT」当時、フリーランスでありながら毎日のようにスクウェアに通い詰めていたというのだから、顔見知りとなったのも無理はない。その頃は河盛氏とはもっぱら「鉄拳」の対戦ばかりだったようだが……。「仕事の話はあまりしてない」というのは有名なエピソード。

 さて、というところでこのCDである。ゲームに使用された膨大な楽曲をほぼ網羅し、未使用曲やテーマ曲のゲームバージョンも含めてCD4枚にまとめている。ここでゲーム音楽ファンとして興味深いのは、CDに収められているのが純粋なゲーム音源ではないということ。つまりゲームに落とし込む前の、崎元氏によるオリジナル音源を収録しているのだという。もともとどのような響きを持っていた楽曲なのか、元はどんな曲だったのか、ゲーム音源と比較して聴くのがベストだろう。そうなるとゲーム音源のサントラも欲しいところだが、リリースの予定はないので自分でなんとかするほかない。むろん筆者などはもう作る気でいるのだ。

 ところで、「FF」の音楽と言えば忘れてはならないのが植松伸夫氏だ。彼は今回参加していないのか?ということについて結論を言うと、植松氏は本作にはテーマソングのみを提供している。これについても本編の制作と同様、紆余曲折があった。本編の制作が発表された直後、植松氏は「FFXIIは久々にひとりでやります」と発言していたのだ。松野作品であれば崎元氏の参加を期待していた固定ファンも少なくなかっただろうが、この植松氏の発言によってその可能性は一度は極限まで低下した。しかし、前述の制作発表会で突然崎元氏の参加が発表されたのだからファンは大騒ぎだ。既に植松氏は「X」「XI」で複数のコンポーザーによる制作体制を敷いており、また先にリリースされたゲームボーイアドバンスソフト「ファイナルファンタジータクティクスアドバンス」において、一度は植松+崎元のコラボレーションが実現していたことから、ファンの間では「植松+崎元共作」と言われたり、「テーマ系は植松、他を崎元」→「崎元メインで主題歌を植松」などなど情報が錯綜したが、最終的には製品版のような形になった。同時にこれは正統ナンバリング「FF」において初めて、植松氏が事実上外れたことを意味している。

 ここでちょっと背景を邪推してみたい。記憶しておられる人も多いだろうが、当初「FFXII」は2004年夏の発売を予定していた。つまり、制作発表会の行われた2003年11月というのは、最終的な調整・修正を残しているにしてもおおかたの開発は(本来なら)ほぼ見えていなければならないはずの時期。しかし、崎元氏の参加は一般にはここで初めて告げられている。そして、崎元氏が松野氏からオーダーを受けたのが、「制作発表会の約5ヶ月前です」とのことから2003年6月頃ということになる(なんでも松野氏から「飲もう」と誘われて出掛けていったら、その場で「FFXIIの音楽よろしくね」と言われたとか)。2004年夏に発売を予定しているタイトルの音楽を、そんな時期(開発終了までほぼ1年)に外注することがあるのだろうか?ゲーム業界では珍しくないスケジュールかもしれぬが、並みのゲームとは規模が違う。しかも、「FFXII」は2001年から始動している作品である。それまで一切音楽のことを考慮せずに開発を進めていたなどということがあり得るだろうか?筆者はその時点でスクエニ内部的には「2004年夏はまずムリ」ということは確定的だったのではないかと感じる。さらに、崎元氏に発注するまでの空白の2年間、植松氏及び若手スクエニコンポーザーによって多少なりとも作曲作業が行われていた可能性も否定できない。もっといやらしく言うなら……そこで制作された楽曲たちもしくはサウンドチームと、開発側との間に何らかのトラブルがあった可能性も……。結果的にはそこから幾度もの発売延期を繰り返したため、崎元氏の作曲期間は「すべての曲を作り終えたのは(2005年の)12月です」とのことから、ほぼ2年半ということになる。もちろん、開発終了まで楽曲の微調整は行われていた。

 筆者的には、松野氏がやるんなら崎元メインになるだろうと予想していたので驚きはなかったが、一部ユーザーの間では植松氏を外したことについて賛否両論のようだ。「FFX」「FFXI」
と3人体制で制作し、「X-2」では完全に外れてしまった植松氏。「XII」で久々の復帰か、と思っていたファンも少なくないだけに無理もないこと。しかし、そもそも松野氏の固定ファンが多い「FFXII」ユーザーには崎元ファンも多く、「X-2」の時ほどの騒ぎにはならなかったように見える。崎元氏としては過去に植松氏が作ったシリーズ定番の楽曲を組み込むことで、ファンサービス&植松氏へのリスペクトを忘れていないあたりやっぱり「職人」。そんな氏が作り上げた、「本来の」楽曲はどんなものなのか、CDを皆さんとともに聴き進めてみたい。

まだCDをお持ちでない方、こちらから購入可能です

ネタバレ成分多数ですのでゲーム未クリアの人はご注意を。未プレイの方はぜひプレイしてみて下さい。

大前提のコーナー
レビュー本文中でも何度となく言及しますが、本作の音楽は「メインテーマ」と敵国である「帝国のテーマ」を様々な曲に散りばめ、この2大テーマメロディを柱としての音楽的世界観の構築が徹底されています。作曲の崎元氏は「ともに太いメロディを使い、どんな変奏・アレンジをしてもそれとわからなければ意味がない」とおっしゃっているわけですが、そういう音楽の聴き方を普段からしている人でないとわからない仕掛けであることもまた事実。解り易い曲もあれば、「これもそうなの?」というものまで、特に音楽に注目していなければ多くの人が気にも留めないことではありますが、せっかくサントラを聴くのですから(少なくともここを読んでいる時点でアナタにはその意志があるのでしょう)、とことん分析してみたいと思います。それにはまず、どれが「メインテーマ」でどれが「帝国のテーマ」なのかをあらかじめ知っておくことが重要でしょう。既にCDを所有している人はそれを聴きながら、以下を参考にして下さい。

大前提1.「メインテーマ」と「FFXIIのテーマ」、「解放軍のテーマ」は同義
筆者もレビューの中で記述を混在させていることがあるのですが、本作における「FFXIIのテーマ」即ち「メインテーマ」と「解放軍のテーマ」は楽曲的には同じものです。プレイヤーが立場的には解放軍側に属していることから、作品のメインテーマ=主人公サイド、即ち解放軍のテーマと言うことができます。この3つの呼称が混乱を招くこともありますから、はっきりさせておきましょう。「メインテーマ=FFXIIのテーマ=解放軍のテーマ」、です。

大前提2.「メインテーマ(=解放軍のテーマ)」はメロディ的に複数存在する
まず、「メインテーマ」とは何か、と言えば、サントラ的には「オープニング・ムービー(Final Fantasy XIIのテーマ)」ということになります。ということでまずはそれを聴いてみましょう。この長い曲をすべて「メインテーマ」と括ることもできますが、実際はここに含まれる様々なメロディがあちこちの曲に散りばめられています。即ち、ひとことで「これはメインテーマのアレンジです」と言っても、対象となるメロディは複数存在することになります。ここでCDを聴きながら、それぞれを把握しておくことにしましょう。

メインテーマ1:1分16秒から聞こえてくる、コーラスのメロディ
短いうえにうっすらとした音色なのでわかりにくいかもしれませんが、発売前のトレーラーでも印象的に使われていたボーカリーズです。1分55秒のところではマーチの後ろでひっそりと、弦がこのメロディを奏でています。同じ「オープニング・ムービー」の終盤、6分24秒からのコーラスもこれの変奏です。
メインテーマ2:51秒から奏でられている弦のメロディ
メインテーマとして最もわかりやすいメロディがこれです。同じものが2分34秒、2分45秒にもあり、楽曲の最後、6分38秒で締め括るのもこのメロディ。特徴的かつキャッチーで、特に注意していなくとも耳に残るでしょう。
メインテーマ3:1分47秒から聞こえる、弦の刻み
ダッ、ダッ、ダッ、ダララララッ、ダララララッ、というマーチ調の伴奏。「ガラムサイズ水路」や「東ダルマスカ砂漠」、「揺れるバハムート」などに使われています。
メインテーマ4:2分11秒から2分22秒まで、弦と金管が奏でているもの
「メインテーマ3」からほぼ繋がっていますが、別々に転用されているのであえて区別しておきましょう。主張するメロディというよりほとんど伴奏の部類ですが、こちらもいろいろな楽曲に組み込まれています。4分36秒からのブラスもこのフレーズを奏でていますね。

メインテーマ2はわかりやすいのですが、1と4はちょっと強烈な提示が足りていない気もしますが、大きく分けるとこの4つぐらいになります。特に2は頻繁に出てくるので覚えて下さい。レビュー本文中でも「
メインテーマ3」のように番号を付けた記述を用いますが、その際はここで述べている内容を参照して下さい。「どれが弦?どれが金管?ブラスってどれ?」ということまで説明しているとキリがないので、楽器に関しては個々のお勉強に期待します。

大前提3:「帝国のテーマ」はわかりやすい
そのものズバリなトラック、ディスク2の「帝国のテーマ」を聴いて下さい。イントロから聴ける、弦が刻むマーチ調のフレーズ、そして「パーパー、パラパララー」というメロディ。これが「帝国のテーマ」の骨格です。そのまま曲を聴き進めれば、基本的にはこの変奏を中心にしていることが理解できるでしょう。これらも形を変えて様々な楽曲に投じられていますが、もともとがわかりやすいため「メインテーマ」に比べて判別はた易いです。

以上、3つの大前提をふまえたうえでレビューを読み進めて下さい。

Disc1

01.ループデモ
・ループデモ前半
ゲームを起動するとまず聞こえてくる、懐かしいハープのアルペジオ。そう、「FF」シリーズではおなじみの「プレリュード」ですね。かつて「FF」のオープニングと言えばこの「プレリュード」は欠かせない曲でした。紛うことなき「FF」であることの証明として、そして足を踏み入れる幻想世界への期待感を盛り上げてくれる曲……。しかし、ここ最近の「FF」ではあまり良い扱いをされてきませんでした。徐々にエンディングに追いやられたかと思えば、「VIII」「IX」ではゲームオーバー時のMEに、「X」ではちょっとしたデモイベントに、「X-2」では存在せず!「XI」のことはよく知りませんが、純粋な家庭用パッケージとしての「FF」では久々に、あるべきところに戻って来たゾ!待ってたゾ!としばしうっとりと聴き浸ったファンも少なくないでしょう。

これまで一貫して「FF」の音楽を担当してきた植松伸夫氏が一歩退き、松野ディレクターと数々の名作を残してきたコンポーザー・崎元仁氏が手掛けることとなった「XII」ですが、そこでシリーズおなじみの楽曲がどのように使われるのか、また使われるのならどのようにアレンジされるのかということはファンにとって最大の関心事であり、ひょっとしたら「X-2」の悪夢再び?との悪い予想もあったわけですが、早い時期から崎元氏が「おなじみの曲はしかるべきところで使っていきます」と名言してくれたため、それは不安から楽しみへと変わっていきました。そして用意してくれた、正統派の「プレリュード」、どうですか!誰が聴いても「FF」おなじみの「プレリュード」ではないですか!思えばプラットフォームがプレステ2になってから、こういうマトモなプレリュードって初めてではないでしょうか(「X」ではテクノポップだったし)。「VII」のプレリュードを踏襲しているようですが、ハープはよりハープらしく、そして清楚に歌い上げるコーラスの音色も絶品。それと同時に、プレリュードがこの出来なら他の曲も安心だ、とファンに思わせる仕上がりになっています。

50秒からはガラリと変わって本作オリジナルの曲。叩き付けるような荒々しいメタルヒット音は鎧を連想させ、ムービーではジャッジと呼ばれる鎧の騎士たちが象徴的に描き出されます。さらに圧倒的に力強い金管主体の演奏に乗せて、強大な権力を持っているであろうことを予感させる帝国の軍事力を見せ付けられます。この曲はボス戦用音楽である「剣の一閃(Disc2-2)」にも組み込まれており、さながら戦いの象徴。こういった強力なメロディの流用は本作で頻繁に行われています。

この曲についてはソフト内部に内蔵サウンドファイル(psf)が見当たらないことから、ゲームでもCDとほぼ変わらない完パケミックスのものをストリーミングなどの手法を使って再生していると思われます。ほかオープニング、エンディングもフルオーケストラ録音したものを流しており、即ちそれ以外の曲はゲーム中ではすべて内蔵音源による発音となっています。
02.FINAL FANTASY〜FFXIIバージョン〜
・ループデモ後半
・ニューゲーム選択時および直後のコンフィグ設定
・ロードゲーム選択時および直後のセーブデータ選択
・リヴァイアサン艦隊壊滅後に挿入されるオンドール4世の「回顧録」〜ムービー:帝都アルケイディス
・ドラクロア研究所クリア後に挿入される、オンドール4世の「回顧録(帝国軍と解放軍)」
ループデモは前半・後半に分けることができます。後半は帝国の描写の後、ハッチが徐々に開いていくカットからになりますが、実際のゲームでは前半からダイレクトに続きます。そして、そこで流れてくるのがシリーズを象徴するメインテーマ曲、この「ファイナルファンタジー」です。それこそ「FFIX」以来と言っていいでしょう、「X」「X-2」では存在すらしませんでしたから。「FFVIIAC」ではエンディングで聴くことができましたが、純粋なゲームでは久しぶり(繰り返しますが「XI」のことは知りません)。開いていくハッチとともに徐々に盛り上がってくるイントロ……最近ではエンディングを飾る曲として定番になっていただけに、このイントロが付いた形は「IV」のものをモデルとしているようですね。というかコレがオープニングにくるのって実に「IV」以来ですか。感慨深いですね〜。「プレリュード」との連携コンボにシリーズのファンは(古参であればあるほど)メロメロではないでしょうか。

そしてこの堂々としたアレンジ!勇ましいブラスによるアタックと、流れるようなストリングス、そして表情豊かなシンバルのアクセントに、その中を縫うようにして駆け抜けるウインドチャイム。鐘の音も随所でタッチを付けています。最近ではフルオーケストラで演奏される機会も多いこの曲ですが、エンディングで定番のものだけにいずれのアレンジもマイルドでした。ここまで説得力のあるオーケストラ音色で、オープニング型のアレンジが聴けるのは嬉しいですね。響きの良い金管も当然シンセです。河盛氏が「崎元さんの曲は金管にこだわりを感じる」というだけあって、その表現力は鳥肌もの。高らかに鳴り響くものの耳に障らない上品な金管です。こんなモノを持ち込まれたら、ゲーム音源への落とし込みを担当していたシンセサイザープログラマー、河盛慶次氏も青くなったんじゃないでしょうか?植松氏であれば浜口史郎氏に依頼してフルオケアレンジし、それを録音したものを使うところですが、あくまで内蔵音源にこだわったのが本作のサウンドチームなのです(ゲーム上での制約ゆえ、ではありましたが)。デモに使うものですから完パケミックスでも問題ないんでしょうが、逆に言えば冒頭のこの曲を処理できないようでは、とても最後まで開発できないというひとつの「物差し」だったんじゃないでしょうか。

ここで聴ける、CDに収録されているものはゲーム紹介でもご説明した通り、ゲーム音源に落とし込む前のシンセバージョン。言わば崎元氏の作曲段階のアレンジです。サントラCD化にあたってアレンジしたわけではなく、ゲームに落とし込む前の完パケ音源だ、ということです。これを崎元氏はへ河盛氏へと渡し、そこから河盛氏の仕事が始まるわけです。つまり、「いかに聴き劣りのしないよう、しかし容量は抑えてゲーム音源にするか」という戦いですね。聴き比べるてみとCDの方が音数が多かったり、ゲーム音源にはない音が入っていたりもするのですが、そこで驚くべきは実機(PS2)で鳴っている楽曲の質の高さ。ハンデの多い実機音源において、CDと比べてあからさまに劣るようには聞こえないですよね?予備知識なくCDを聴いたら、ゲーム音源との違いなどまず意識しないであろうレベルです。河盛氏によるプロの仕事が、あらためてCDを聴くことでも実感できます。

とは言え、ゲーム音源ではさすがに発音数に限界があるでしょうから多少パートは省略されていますが、本来ランダムなウインドチャイムの音色を、一定の周期を持つサンプル音色とすることでしっかり表現。「その帯域で音が鳴ることが重要」という崎元氏の要求を、実現可能な範囲でしっかりと反映させる工夫と言えます。

崎元氏としては「プレリュード」と「ファイナルファンタジー」をループデモに使うことについて「何の迷いもなかった」とのことです。出し惜しみせず、最初にドーンと出すということはやはり早くから決めていたとか。「この曲が流れると、スタッフも笑顔になるんですよね。FFと言えばこれだよなー、って感じで(談)」。すっかり制作サイドにも浸透しているFF定番のテーマ曲、我々ファンももちろん待ち望んでおりましたが、実は最近のFFの制作に携わっているスタッフも欲求不満だったんじゃないでしょうか?特に最近はかつてのFFファンが制作側になっていたりしますし。ゲーム中にも出てるんですよね、昔の作品の魔法が復活してたり、「フレア」が「フレアー」になってたり。

ちなみに、ループデモ用ということで本作の「ファイナルファンタジー」はコーダ(完結部)がありません。コーダがなく、ループデモの終了とともにフェードアウトしていきます。ループデモ前半をすっ飛ばしてスタートボタンを押せば、タイトル画面とともにこの曲が流れます。新規ゲームの場合は最初のコンフィグ設定まで通して、ロードゲーム時はセーブデータ選択時まで通して流れるのです。他にゲーム中ではシナリオの節目に挿入される、オンドール4世の「回顧録」のBGMとして2度ほど使われています。なお、エンディングには流れません。
03.オープニング・ムービー(FINAL FANTASY XIIのテーマ)
・オープニングムービー
FFと言えば豪華・美麗なオープニングムービーももはやお約束。本作「XII」ではこれがまた長い!そこに充てられる楽曲ももちろん長く、シーンの展開に合わせて寄り添うように紡がれています。ただし崎元氏はあまり「部分ごとの作曲」や「スケッチのようなアイディア溜め」を行わない人。「ひとまとめに何かができてくるまではひたすら悩むタイプ(談)」とのことで、この曲が出来上がるまでにはさぞや悩みに悩んだことと思われます。

冒頭からのパーカッションは、ムービーでは街の喧騒からフェードイン。SE(効果音)で鐘の音も挿入される部分ですからあえて楽曲にメロディを持たせず、リズムだけで「何かが始まる期待感」を煽ります。そして、セクシーなヴィエラに気をさられていると突如鳴り響くファンファーレ(40秒〜)!スターウォーズも真っ青のパレードシーンです。一応映像的には、ここで行進する楽団が演奏している現実音楽の扱いですね。なお、52秒から提示されているのが「FFXIIのテーマ(=メインテーマ)」であり、「解放軍のモチーフ」になります。まだゲームは始まったばかりですが、イメージの統一をはかるべくこんなに早くから伏線が張られているんですね。いったん静かになる部分(1分13秒〜)は、ムービーでは誓いの口付けのあたり。このコーラスのメロディは発売前のトレイラー映像でも印象的に使われていたもので、これも「メインテーマ」として他の楽曲に組み込まれていきます。そうこうするうちにも楽曲は進行していき、セリフの有無、場面の推移にぴったりと合わせているあたりはまさしく映画音楽。

1分47秒から場面が変わります。帝国の侵攻によってナブディスが落ちた、という緊迫したシーン。ここで聴くことのできる刻み系のフレーズは「ガラムサイズ水路」と同様のものですが、一応これもメインテーマの派生形。2分11秒以降から提示されているマーチ調の伴奏も「FFXIIのテーマ=解放軍のモチーフ」、そこからさらにメインテーマの中でも最もキャッチーなメロディへと繋げ(2分23秒〜)、バッシュとラスラたちがナルビナに向かいます。後にアーシェを中心とした解放軍決起の根拠となる事件が起こるシーンだけに、楽曲もしっかりとここで伏線を張っているわけです。

そして舞台はナルビナ城塞へ(3分32秒〜)。激しい飛空艇戦、そして白兵戦に呼応するかのように楽曲も緊迫の度を増していきます。4分26秒あたりもメインテーマの変奏を組み込んでますね。そして(5分23秒)!ラスラの身体を貫く一本の矢……。楽曲にも一瞬の静寂が訪れますが追っ手の追撃は止まず。ついにナルビナは陥落してしまいます(6分00秒〜)。さらにラスラも還らぬ人となってしまいました。棺桶に横たわるラスラのカットから、6分24秒のボーカリーズが寄り添います。このボーカリーズのメロディは1分13秒で示されたものと同じもの(「大前提」で解説するところの「
メインテーマ1」)。そして最後にもう一度「メインテーマ=解放軍モチーフ」を提示して楽曲を締め括ります。ちなみに、ラストカットで兵士の骸をついばむ黒い鳥は黒チョコボ。えっ、チョコボって肉も食べるの……?

この曲はシンセ音源ではなくオーケストラ録音されており、ゲームでもそれが流れます。読み込みを気にする必要のないオープニングムービーだからこそ、ゴージャスな完パケ音源を使えるのですね。そして、このオーケストラアレンジを手掛けたのが、崎元氏の盟友・松尾早人氏。かつてスーパーファミコンの「オウガバトル」で崎元氏とともに楽曲制作を担当した人物(最近のスクエニ関係では「いたストSP」で流れるFFサイドの楽曲をアレンジしています)。ブックレットでの崎元氏の記述によると3分50秒〜4分25秒は完全に松尾氏の創作とのこと。また、このオーケストラ録音はエンディングの楽曲と同じ日に一日で行われましたが、崎元氏的には「座ってるだけでよかったので、お客様気分で気楽に楽しんだ」そうです。筆者も「やっぱりオケはいいよなー」と思いながら聞き惚れるばかりですが、だからこそ他の楽曲における、崎元氏のサンプラー演奏のクオリティの高さも実感できます。こうやってオケ演奏のトラックを放り込んでも違和感なく、アルバムとしてまとまっているのがわかるでしょうか。
04.潜入
・ゲーム冒頭、レックスを操作してのチュートリアルシナリオ
筆者なんかは「おお、FFT!」と思ってしまった楽曲でありますが、オープニングムービー終了後、プレイヤーが初めてキャラクターを操作することになるチュートリアルシナリオで流れるものです。ゲームの基本的な操作をわかりやすく教えてくれるチュートリアルさえ、巧みにシナリオに組み込まれていることに感心しました。操作するキャラが新米兵士ならば違和感もありませんね。このチュートリアル部分はけっこう長いんですが、楽曲はテンポを一定に保ちつつも音の厚みや展開に緩急をつけ、リズムを出したり引いたりすることでイベントの様々な展開に対応しています。一曲の中にいろいろな展開を盛り込むことは、長いスパンで音楽が流れ続ける場面では非常に有効なテクニックです。プレイヤーそれぞれの進め方によってフレーズのあたりどころこそ特定できませんが、飽きずに聞かせることが可能となります。そしてこのテクニックは、ザコモンスターとの戦闘がシームレスで行われる本作のフィールドにおいてもしっかり活用されているのです。

「FFT!」と言ったのはあくまで雰囲気的なものであって、「ベイグラント!」でもかまわないのですが、つまり松野+崎元なテイストが早くから炸裂しているな、ということです。製作開始当初は「イヴァリース」という世界観の共有から、かつてのイヴァリースを舞台とした作品の楽曲やモチーフを流用することも検討されたようですが、開発を進めていくうえでそれがさほど重要な要素ではなくなったため、結果として意識しなかったとのこと。特に意識はしなくとも「僕が作曲すれば何らかの共通点はできると思いますし」とは崎元氏の談。今後また「イヴァリース」を舞台にした作品があれば、「FFXII」の印象的なモチーフが使われることも考えられるわけですね。

ちなみに河盛氏が「いちばん大変だった」と述懐するのがこの曲。「XII」のサウンドの方向性がまったくわからない段階で崎元氏から一番最初に受け取ったのがこの曲のデータだったらしいのですが、「見たこともないほどたくさんのトラックが並んでましたね(談)」。トラックが多いということは、発音数制限のある実機上では当然すべては鳴らせないわけですから、それをどう落とし込んでいくか、「FFVIII」からずっとFFの音を担当してきたさすがの河盛氏も目眩がしたんじゃないでしょうか。対して崎元氏は「さすがに悪いなと思ってごめん、と謝りながら渡したけど、それをうまく(PS2の)内蔵音源で鳴らしてくれたから、次から何も言わずに渡してたよね」とのこと。同時に河盛氏的には、今後どの曲もこの状態で上がってくるんだろうな、という覚悟にもなったとか。

ちなみに、この曲の他への流用はまったくありません。
05.ボス戦
・ボスと呼ばれる固定エンカウントエネミーとのバトル
・天陽の繭を暴走させるシド〜そのままシドとのバトルへ通して流れる
チュートリアルシナリオで早くも用意されているボス戦。曲名そのまんまなこの曲をゲーム中で最初に耳にするのは、レックスを操作してのナルビナ城塞での小型飛空艇レモラとのバトルになります。とりあえず、この曲が使われているボス戦をずらっとリストアップしてみましょうかね。それっ。

ブッシュファイア(ガラムサイズ水路)、ミミッククィーン(バルハイム地下道)、ジャッジ(リヴァイアサン内部)、ガルーダ(レイスウォール王墓)、ティアマット(ヘネ魔石鉱)、エルダードラゴン(ゴルモア大森林)、ヴィヌスカラ(ミリアム遺跡)、アーリマン(ソーヘン地下宮殿)、ダイダロス(ギルヴェガン外観)、タイラント(ギルヴェガン)、ハイドロ(リドルアナ大灯台外観)、パンデモニウム(リドルアナ大灯台下層)、シャーリート(リドルアナ大灯台下層)、フェンリル(リドルアナ大灯台中層)、シド(リドルアナ大灯台)、フューリー(死都ナブディス)、オメガmk.XII(クリスタルグランデ)、魔神竜(ソーヘン地下宮殿)、ヤズマット(リドルアナ大灯台外観・コロシアム)

……けっこうありますね。ユーザーにとってはかなり耳馴染みのある曲なんじゃないでしょうか。で、本作には他にもボスなど特別な敵との戦いで流れる曲がいくつか用意されているのですが、音楽ファンとして気になるのはその使い分けでしょう。特に「剣の一閃(Disc2-2)」とどのように区別されているのか、という。最初に考えたのが「対モンスター戦と対人間戦」という使い分けですが、リストを見ればわかる通りそれはない。次に思い付くのは「シナリオに絡む戦いと、そうではない戦い」。つまり、「帝国VS解放軍」という枠の中なのか、そうではなくて単に襲い掛かってくるモンスターなのか、という点。これもなかったです。あとは戦闘が始まる際の演出の違いぐらいしか要素がないのですが、いまいち使い分けに明確な定義を感じられません。実はたいして根拠はなかったり?

ジワジワと焦燥感を盛り上げるストリングス主体のイントロから、徐々に唸り始める金管群が敵の強大さを歌い上げていきます。細かく刻むスネアがせわしなさを強調、全体に高音のストリングスが支配していることから緊迫感たっぷりの戦いといった雰囲気。40秒からは「メインテーマ=解放軍のテーマ」も組み込まれ、プレイヤー側を励ましてくれているかのよう。

フューリー戦では遊びアリ。最初は巨体のバケモノの姿をしているフューリーですが、実はただのコケおどし。すぐに小さくて可愛らしいウサギのような姿に……この時、音楽もいったん鳴り止むあたりちょっと笑ってしまいました。しかし、フューリーが正体を現してから改めて同じ「ボス戦」がフェード・インしてくるのですが、思い切って別の曲(それこそ「剣の一閃」とか)にした方がタッチを付けられたかも。

実際のゲームではサントラと同様のバージョンとは別に、56秒〜1分36秒の一番の盛り上がりどころをカットしたバージョンもファイルとして用意されており、使われてもいますが、このバージョンの使い分けの根拠も不明です。聴き手を混乱させようとしているとしか思えなくなってきました……。
06.幻聴
・レックス、バッシュの手にかかり倒れる
・レイスウォールで暁の断片入手後、再びギースと対峙〜やむなく暁の断片を渡す
・ギルヴェガンでのアーシェとオキューリアのやり取り後半(異端者だ!以降、滅亡の罰を与えよ)
・反乱を潰すには力あるのみ、と言うヴェインにラーサーが「あなたは……間違っている」
ナルビナ城塞に潜入し、追っ手を振り払い辿り着いた場所で見たものは、絶望……混乱……自分が追っ手を食い止めている間、先行した仲間に何があったのか?わけのわからぬまま周囲をただ見渡すことしかできないレックスの前に現れたのは……なぜあなたが?陛下が売国奴?薄れゆく意識の中で、レックスはただひとりの肉親のことを思っていた。ラバナスタにいる弟、その名はヴァン……。という、チュートリアルシナリオのラストで流れる曲がこちらです。ただただ悲劇的、悲壮感たっぷりな楽曲で、まったく救いがありません。地面を這うような低音を中心にまとめられた構成はまさに「ダーク」。シンセだけで構成されているとは思えない、楽器の表情にも耳を澄ませてほしいところです。緻密なシミュレートが行われています。

開発初期に音楽のトーンについて松野氏と打ち合わせをした崎元氏は「くれぐれもベイグラントみたいなのはやめてくれ」とクギを刺されていたりしますが、実は崎元氏もそれは自覚しており、「僕は気を抜くとダークサイドの曲を書いてしまう」との言葉通り、得意なんですよね、こういうのが。松野氏としてはもちろんそういう崎元氏の持ち味を知ったうえで、「今回のはFFだし、多くの人に楽しんでもらいたいものだから、それを意識さえしてくれればあとは好きにやっていい」とオーダーしています。なにも無理に明るくしてくれ、と言っているわけではありません。なので、イベントの内容にベッタリと合わせたこういう曲ももちろん必要になるわけです。暗くするべきところはとことん暗く。こういうところが、崎元氏の楽曲や松野氏の作品に固定ファンが多い理由なのではないでしょうか。万人ウケを狙うと、こういうシーンでもどこか遠慮してしまうもの。遠慮しないのが彼らの作風なのです。

ということで、ダークなシーンに何度か流用されています。
07.秘密の練習
・ガラムサイズ水路でウェアラットを狩るヴァン
ダークなイベントからガラリと変わって、水路でネズミ狩りをするヴァン。おいおい、まさかそれ食うのか?ということではないようで、戦いの練習をしてるんですね。木管が奏でる可愛らしい音色は「楽しげな追いかけっこ」という感じですが、遊びで駆られるネズミにしてみればたまったものではありません(笑)。まあ、きっと住人も手を焼いているということで、ヴァンの行いは善行なんだと思い込みましょう。7秒や43秒には「FFXIIのテーマ=解放軍のテーマ」がチラッと組み込まれていますが、この時点のヴァンは解放軍でも何でもなく、意味的には「FFXIIのテーマ・コミカルバージョン」といったところ。主人公を描写するために作品のメインテーマを使っているわけです。うーん、ちょっと混乱するかな。作品テーマと解放軍のテーマを別のものにするというテもあったんでしょうけど……。

途中でちょっと勇ましい感じに盛り上がりますが、これはバトルにも通して流れるためでしょう。ところでこの曲、異常に耳に焼き付いているんですが、流用は一切ないんですよねえ……。なんでこんなに聞き馴染みがあるんだろう、と思ったら、アタマ28秒間が「港町バーフォンハイム(Disc4-3)」にも流用されているからなんですね。バーフォンハイムに行くと必ず「秘密の練習」も耳にしていたわけです。が、これを読んで確認のためにサントラの「港町バーフォンハイム」を聴いてもムダです。サントラではなぜかあちらの曲では「秘密の練習」の部分がカットされているんです。
08.小さな幸せ
・ゲーム未使用曲
ゲームで使われていない、しかも短いMEなのでコメントのしようもないのですが、フレーズを聴く限りでは「秘密の練習」の関連曲で、そのイベントの近辺で流れる予定だったのでは?
09.王都ラバナスタ/市街地上層
・王都ラバナスタ/上層(バザー含む)
ゲーム前半はラバナスタがプレイヤーの拠点となるため、何度も何度も、しかも長時間に渡って耳にした曲でしょう。人によってはラバナスタがゲーム終盤まで拠点となることも(筆者はバーフォンハイムでしたが)。いろいろな施設があって便利ですからねえ。ンッパンッパンッパンッパと爪弾くピチカートで軽快に始まりますが、既にこのピチカートのシミュレートがタダモノではないというか、リアルです。踊るような木管、リズムをキープするトライアングルも出色。34秒からは弾むタンバリンに乗ってふくよかな金管が鳴り響き、街の大きさ、人口の多さを語っています。1分26秒からは弦を中心に、ここまで登場したフレーズを変奏しながら展開していきます。

2分18秒からは大サビとも呼べる部分で、いちばんの盛り上がりを見せます。そして2分39秒からがリピートですね。街の曲が1周2分39秒!けっこうな長さですが、これぐらいの長さでいろいろな展開を入れておかないと、広大なラバナスタを歩き回るうちに同じフレーズが何度も出てきてしまうんでしょう。それは決して悪いことではないですし、昔のゲーム音楽というものはそれによって覚えられ、時代を超える名曲になったものも少なくないので……。ただ、現在のゲーム音楽製作では短すぎる曲はあまり作られないですよね。作曲者による純粋な欲求もあるので、それも一概に否定はできません。
10.パンネロのテーマ
・パンネロ初登場(スリをして小銭を手にしたヴァンから、パン代を徴収)
・ギーザ草原遊牧民の集落でパンネロと出会うシーン
・リヴァイアサン脱出後、ビュエルバでバルフレアにハンカチを返すパンネロ
崎元氏のパンネロ萌えは本作のファンには有名な話ですが(?)、その氏がパンネロへの思い入れもたっぷりに作り上げたのがこの「パンネロのテーマ」。キャラクター数のわりにちゃんとしたテーマが用意されているのはアーシェとパンネロぐらいのもので、主人公にすらテーマがないことを考えれば女性キャラというものは特別なんだなあと思わされますね。もっとも植松FFにおいてはキャラテーマを作りすぎていつも失敗してますから、実はこれぐらいのバランスがベストなのかもしれませんな。

で、パンネロ萌えは置いといて、最初に聴いた時に「グラディウス?」と思ってしまったことを告白しておきます。あの、ランキング画面の曲。「グラディウスV」なんかも担当している崎元氏ですから、こんなところでひっそりと初代グラディウスへのリスペクトを……してるわけないか。

楽曲は木管を中心に、どこかのんびりとした雰囲気で始まります。低音のピチカートストリングスもイイ感じに鳴っています。ピチカート好きな筆者にはたまりません、この生楽器のような音!31秒からはここまでとはまた違う曲調に変化し、54秒あたりからは「王都ラバナスタ」を匂わせつつアタマに戻ります。ゲーム中でそう何度も流れない曲ではあるのですが、このオーケストレーションの巧みさはさりげなく凄いです。崎元氏って専門的なクラシック音楽の勉強とかもしてるんでしょうか?「FFT」の頃から感じていたんですが、植松氏には一人では絶対にできないような緻密な編曲がなされているんですよね、崎元氏の曲って。こういう人がまたテクノやロックも武器として装備しているのですからタチが悪い(笑)。オールマイティなんだけど、決して底は浅くないと言いますか。御本人は「クラシック畑の人間ではないんです」とおっしゃっていますけど。
11.空賊への夢
・会話するヴァンとパンネロの頭上を飛空艇が通過、「俺はいつか自分の飛空艇を手に入れる」
ピアノとウインドチャイムの静かな導入から、金管による晴れ晴れとしたメロディが。これ、「サリカ樹林(Disc3-18)」と同じですね。なんで同じなのかは謎ですが……。この曲は短いイベント専用のもので、流用はありません。長く流されることの多い本作の楽曲において、こういったイベントありきで作られた専用曲の存在は貴重です。誤解を恐れず言うなら、「いろんな場面にあてはまりそうなBGM」が大部分を占める「FFXII」で、イベントの内容・演出・長さにピッタリと添った曲こそ、その意味をもっと語られてもいいと思うんですよね。なぜここは通しのBGMではなく、あえて別の曲を付けてあるのか、という。でもこの曲についてはとにかく「なんで森の曲と同じフレーズが入ってるの?」という疑問ばかりが浮かんできます。教えて!
12.小悪党
・砂海亭でのカイツ、トマジとの会話イベント(はぐれトマトについて)
・ミゲロ、ヴァンと帝国兵のイザコザを仲裁(「これはまた立派なチョコボですなあ」)
・アルケイディス旧市街で情報屋ジュール登場
曲名まんまな曲調(笑)。古い映画とか、ミュージカルにありそうな。小悪党ってヴァンのこと?スリとかしてるし。と思ったら、どうやらこれはこの曲が初出となるイベントで語られているはぐれトマトのことのようですね。もしくはジュールのことかもしれませんが、サントラでの位置的にはトマトでしょう。こんな曲でもメインテーマの匂いを感じてしまいますが(26秒や51秒あたりなど特に)、そういうつもりで聴いていると全てそう聞こえてきますね。

おそらく「幻聴」と同じ音源を使っているんだと思いますが、左側にいるストリングス音色のノイズ、気になるなあ(1分17秒以降で顕著)。
13.東ダルマスカ砂漠
・東ダルマスカ砂漠全域(集落は除く)
プレイヤーが初めて出ることになるフィールド、それが東ダルマスカ砂漠です。初めてのフィールドというインパクトも当然重視しているのでしょうが、このチカラ入りまくりの曲はどうですか!スネアやティンパニまで伴って、これでもかというほどにハイテンポ、そして盛り上げまくりの管と弦。いやあ、参りました。メインテーマ(=解放軍モチーフ、24秒〜)まで組み込むサービス精神。当然プレイヤーは解放軍サイドなので、メインテーマはフィールドの楽曲にもよく組み込まれているんです。42秒からのメロディは、「オープニング・ムービー(FFXIIのテーマ)」における1分16秒からコーラスで奏でられている「メインテーマ1」です。実はイントロもこれの変奏なんですね。さらに1分38秒からは「ガラムサイズ水路」でも使われている「メインテーマ3」。こうして分析してみるとこの曲、全編がメインテーマアレンジになっているということがわかるでしょうか。

一部では(というかかなり多くの人から)「うるさすぎ」「フィールドっぽくない」と言われているこの曲。というよりも本作のフィールド曲全般についてそういった評価がかなり目立つんですが、それもそのはずというか、予想された反応ではありますね。移動と戦闘という区別のない本作のフィールドはまさにシームレス(継ぎ目なし)で、移動と戦闘が常に同時に行われますから、そこで流れる音楽は両方の役割を持たされることになります。フィールドBGでありながら戦闘音楽でもあることが求められるわけです。これをもしフィールドに特化した、たとえばゆったりとしたものにしたなら戦闘では物足りないでしょうし、場合によっては戦闘用の音楽に切り替える必要も出てきます。せっかくシームレスなフィールドを実現したのに、音楽はそうでなくなってしまうのです。そこで多少なりとも読み込みも発生するでしょうから、ロードの点から音楽を内蔵音源にした努力さえも無駄になりかねません。

もともと開発においては、戦闘開始に伴う音楽の切り替えも検討されていたようです。しかしそれをやるとなると、フィールドBGMと戦闘音楽両方の音色をサウンドメモリーに常駐させなければなりません。結果としてひとつの音に使える容量が狭まり、音質が低下します。それをしないためには切り替えのたびに音色の読み込みをしなければなりませんが、シームレスバトルではそれも難しいと。サウンドのクオリティを現状のもので維持するには、戦闘音楽の挿入はどうやっても無理だったのです。それでも強行していたら、音の厚みは現状のゲーム音源よりもはるかに劣ったものになったでしょう。音質を下げてでも戦闘曲は必要か?という問いに対して制作陣が出した回答が、製品版のような形だったわけで。ならばストリーミングを流してはどうか?という議論も見かけますが、同じことです。

フィールド音楽と戦闘音楽、双方の役目を満たすものとしてこういう曲調になったわけですが、もうひとつ理由があります。それは制作側からのオーダーである、「ダンジョンBGMとの差別化」。暗いダンジョンから出たら、そこに真っ青な空が広がっていた……その開放感、爽快感をきっちりと音楽で表現してほしい、という要望。これを満たすために、底抜けに前向きで明るい曲が多いのです。

本作のフィールドBGMにはもうひとつ特徴があります。それは「展開の多さ」です。この「東ダルマスカ砂漠」なんかは少ない部類ですが、総じてフィールドBGやダンジョンBGは一周が長めで、様々な展開が盛り込まれています。これは言うまでもなく変化し続けるマップの風景や、そこで発生するイベントにも通して流れた場合を想定してのギミックと言えます。何らかの変化が起こっているのに曲調が終始単一では飽きられてしまいますよね。意図的に楽曲の中に極端な展開や緩急を設けておくことで、視覚・演出上の変化へのはまりどころを作っているのです。もちろんプレイヤーの行動によって変化が現れるポイントはまちまちですが、だらだらと似たような曲調が続くよりは収まりが良くなるのです。かと言って本当に複数の曲を紡いだような楽曲にしてしまうとかえってわかりにくくなるため、リズムは一定にキープするのがミソ。あくまでひとつの曲でありつつ、様々な表情を持たせてあげるのことが重要なのです。

崎元氏によればこの「東ダルマスカ砂漠」は場面とのシンクロがうまく表現できた曲だとのこと。「何も知らずに砂漠を歩き回るヴァンの気持ちをうまく表現できたと思います」。そう、ヴァンが初めてフィールドに出るのがこの東ダルマスカ砂漠であり、その広大さへの驚きと戸惑い、襲い来るモンスターへの恐れと戦うことへのワクワク感は、完全にプレイヤーの心境ともシンクロしているんです。
14.レベルアップ!
・レベルアップME
戦闘中、突然響き渡るレベルアップのMEがコチラ。短いMEなのに誰が聴いても「レベルアップ」なのはさすがというか、プロの仕事です。思わず「やった!」と叫びたくなりますが、はて、誰がレベルアップしたのかな?なんて思ってるとマップの遥か彼方で好き勝手に戦ってるヤツだったり……。画面右下にメッセージ出てますけど、戦闘中って凄い速さで流れていきますからねえ。ちなみに筆者、携帯のメール着信音にしてます(笑)。
15.童心
・ネズミ狩りを終えたヴァンがカイツとともにガラムサイズ水路から立ち去る
・ラバナスタに戻ったヴァンにカイツが「ナルビナ送りじゃなかったの?」〜「抜け出すなんて簡単」
・飛空艇定期便に搭乗中、飛空艇内部BGM
・ブルオミシェイス神殿でアルシド初登場(「私だけじゃ戦争を止められないんで」以降「美しい花」まで)
飛空艇BGとしてゲーム終盤まで任意に聴くことのできる曲です。タイトルの「童心」は、そんな飛空艇に乗った時の気持ちを表したものでしょうか。まあ普通に考えたらヴァンとカイツの会話を指しているんでしょうけどね。49秒からのフレーズは「FFXIIのテーマ=解放軍のテーマ」で、「東ダルマスカ砂漠」でも聴くことのできたメロディです(「東ダルマスカ砂漠」では42秒〜)。この曲においては解放軍うんぬんというよりは作品のテーマ曲としての意味合いでしょう。

この曲はアルシドの初登場シーンでも流れていますが、あのキャラクターで「童心」ってことはないですな。
16.共存(帝国バージョン)
・ヴェイン、ミゲロに「殿下はよせ、ヴェインでかまわんよ」〜呆れるヴァン。「オレなら-」
・ビュエルバでラーサー(ラモン)と出会うイベント
・オンドール公爵邸貴賓室での、ラーサーとパンネロのやり取り
・帝都アルケイディスに初めて訪れた際のパンネロとヴァンの会話(「ヴァン、変わったよ」)
「XII」のサウンドプロジェクトではかなり早い段階から、基本となるメロディを重要なシーンで繰り返し提示していくことが名言されており、味方側(解放軍)のモチーフと敵側(帝国)のモチーフを2本の柱としています。受け手はこれらをしっかり聴き分けることで、イベントにおいて語られるストーリーがより解り易くなるはずです。ゲーム的にはそれらのメロディを象徴的に使い分けていくことで、音楽による背景描写をより明確なものにすることを目指しています。解放軍と同様、帝国にもさまざまなパターンのアレンジが用意されているわけですが、このトラックは言うなれば「帝国のテーマ・明るいバージョン」。冷酷無比の帝国に明るいバージョンなんか必要なの?と思われるかもしれませんが、意外とあるんですよコレが。例えばラーサーなんてのは敵国の人間ではありますが敵対はしていませんし、帝都アルケイディスでも明るいイベントがあります。そういうシーンでもともとの「帝国のテーマ」を流すと当然恐すぎるわけで、この「共存」の出番となるのですね。

こういう「多様なアレンジバージョン」を積極的に使っていくうえで重要なのは、もともとのメロディの印象強さ。もとのメロディの印象が弱いと、いくらアレンジしたところで気付いてもらえません。崎元氏の言葉を借りれば「太い」メロディをまず、作る必要があります。「テーマをたくさん流用することが前提の場合、そのテーマ自体がキャッチーで、変化を加えてももとのメロディの形が残っていなければならないんです。例えば帝国軍のテーマは音が鳴った瞬間にそれとわかってもらえないと困るわけです。ちょっと極端なアレンジにしても、それに左右されることなく"帝国軍のメロディ"とわからなくてはいけないんです」。明るくなっても、悲しくしてもそれとわかる印象的なモチーフを使うことで、初めてアレンジバージョンによる効果が現れるのですね。その「太い」メロディを生み出す苦労はもちろん並のものではないようで、崎元氏の場合は「ああああー!」とか言ってるみたいです(笑)。神に祈ったりとか

この「明るい帝国のテーマ」は、ラバナスタでのヴェインとミゲロのやり取りで初出となります。ここだけ見ているとヴェインが良い人に見えるのですが、そんなことはないわけで。まあこの曲をこの場面で初めて聴いて「帝国の曲のアレンジだ!」と気付く人というのはかなりスルドイ人だとは思います。よく吟味すれば出だしから既に組み込まれているのですが、最もわかり易いのは46秒以降の管によるパートですかね。プレイ中にセリフを聞いたり映像を見ながらこれを感じ取れ、というのはかなりハードルの高い要求ではあります。というか、その時点ではまだ元祖・帝国のテーマが提示されていませんしね。
17.変化の兆し
・ヴァン、王宮のパーティへの潜入を思い付く。「ダルマスカのものを取り戻すんだ」
・ダウンタウン、解放軍アジトでのバッシュとウォースラの議論、ヴァンも加わる
・オンドール邸でのパンネロとラーサーのやり取り後半(「帝国が恐い」と言うパンネロ)
   〜レジスタンスアジトにて、オンドール邸に招かれるバッシュたち
・協力を要請されるも、王家の証を持たぬアーシェは無力だと主張するオンドール
  〜落胆するアーシェが飛空艇で単独行動を決意、それを引き止めるヴァン、バルフレア
・ガリフの里に現れたラーサーが対戦の勃発を止めるため、ブルオミシェイス行きを提案
・オズモーネ平原でのアーシェとバッシュのやり取り(ダルマスカと帝国の友好・屈辱と平和)
・グラミス皇帝暗殺を報せたアルシドが、さらにヴェイン直属艦隊の始動、進む開戦準備について告げる
・ドラクロア研究所クリア後の、バーフォンハイムでのアーシェとレダスの会話
                                 〜レダスとオンドール侯のやり取り回想
・オキューリアとアーシェのやり取り後、「シドに一杯くわされた」ことに気付く一行
  〜一方帝都にて、ヴェインを説得するラーサー。ヴェイン、アーシェの所にガブラスを向かわせる
トップクラスの使用頻度を誇るイベント音楽で、解放軍のモチーフ(20秒〜、「メインテーマ4」)を組み込みながら静かに奏でられています。「変化の兆し」とはまたユーザーに委ねた曲名になっていますが、シナリオ上での大きな変化が告げられるシーンでよく流れている曲です。深刻さと悲しさを中心に据え、パーティ(もしくは特定のキャラクター)にとってなにやら好ましくない状況に向かいつつある、というシチュエーションのイベントBG。初めて流れることになる、ヴァンが王宮への潜入を思い立つシーンのみやや用途が異なりますが、逆にラバナスタが帝国からどんな酷い仕打ちを受けてきたか、を感じさせています。悲しさと不安さが同居する性質を持つため、様々なイベントで便利に使用されているのです。

こういう曲に転用・意味付けするには、少し「
メインテーマ4」は提示が足りないところが否めないのですが……。単体での明確な露出としては「オープニング・ムービー」での8小節+4小節ほどに留まっていますし。これをもって「テーマの変奏ですよ」とこの曲で主張するのは無理があるかも。ゲーム中盤あたりならともかく、初出の際にそれを感じさせるのは難しいでしょうね。逆に言えば、FF音楽ファンが試されているのかもしれませんけど。崎元氏が「わかるかな?わかんねーだろーなー」って。
18.ミッション開始
・ゲーム未使用曲
今となってはどんなところで使われる予定だったのかは知り得ないのですが、「ミッション失敗」とセットなのは明らか。何らかのお使いイベントや、もしくはモブハントがミッション形式だったのかもしれませんね。こういう「未使用曲」、それも短いMEをサントラに収録して喜ぶ人がいるのかどうかは疑問ですが、製作過程での変化の痕跡が見えるのは興味深いところではあります。
19.ラバナスタ・ダウンタウン
・ラバナスタ・ダウンタウン(北部・南部とも)
本作の楽曲について「基本は普通のオーケストラ編成にしました」と語る崎元氏。曲の雰囲気はこれまでの「FF」シリーズに近いものにしようと考えてはいたものの、楽器編成をオーケストラ中心にすることで結果的には従来のシリーズとは違うものになったのでは、とも言っています。ここで従来のFFのファンであれば、ん?ちょっと待てよ?と思うかもしれません。「いつものFFだってオーケストラじゃん?」と。確かにその傾向はありますが、植松氏の場合は時にはロックあり、民族音楽ありといろいろなタイプの音楽を散りばめていましたよね。今回の「XII」ではそういったことをほとんど行っていない、という意味の発言なんです。あくまで全編、オーケストラシンフォニー。「民族楽器のような特殊な楽器は、雰囲気作りの面でどうしても必要なところのみ使用する、といった感じに抑えてあります」とのことで、それが例えばこの「ラバナスタ・ダウンタウン」なのでしょう。

ここで暮らしている住民の性質を考えれば、いかにもなオーケストラ音楽は馴染みそうにありません。では他の楽曲から浮くことなく、しかし異なる雰囲気を出すためにはどうするか。そこで選ばれたのがパーカッションや民族楽器的な音色だったのです。これならば従来のFFのイメージも損ないませんしね。特に「王都ラバナスタ」のアレンジになっていないことについては、あくまで違う雰囲気を出すことのみを重視しての結果でしょう。無理に統一感を出すことはしなかった、と。

43秒からの部分は、ゲームバージョンとだいぶ異なった印象を受けます。ゲームの方だとギターのような音色が加えられて「テケテン、テケテン」とやってるんですよね。サントラバージョンはそれがないのでかなり聞こえ方が変わっているんです。ゲーム版でのギターはどの時点で加えられたのでしょうか。
20.ミッション失敗
・ゲーム未使用曲
なんかゲームオーバーなみに、プレイヤーをどん底へ突き落としそうなほど暗い「ミッション失敗」。いったいどんなミッションだったのか、想像もつきません。
21.静かなる決意
・ダラン爺と初対面(王宮への潜入について知恵を借りに行く)
ラバナスタ・ダウンタウンにいるダラン爺と初めて会話するイベントで流れるものです。ダラン爺のテーマかな?と最初は思ったんですが、把握している限りゲーム中ではこの一度きりしか流れません。そのわりにけっこう長い曲で、前半こそ「少年のたくらみ」ふうなのですが、後半はかなり重々しい表情も見せています。他のイベントに流用される可能性も見越しての展開でしょうが、前述の通り流用はされずに終わっています。
22.西ダルマスカ砂漠
・西ダルマスカ砂漠全域
「東ダルマスカ砂漠」とは正反対の、重々しいフィールド音楽になっている「西ダルマスカ砂漠」。東とのメリハリという意味でこのようになっていると思われますが、崎元氏としてはその場所を訪れる際の状況やヴァン(プレイヤー)の心理なども曲調に反映させているそうです。「西と東、ふたつの砂漠の曲を作ってくれと言われたとき、正直戸惑いました。しかし、訪れるタイミングによるヴァンたちの感情を曲に反映させることで、ふたつの差を出すことができたと思います。シナリオ上、訪れる場所と時期はある程度決まってますので」。隣接したフィールド同士での曲と曲の繋がりにも気を遣っているそうで、メリハリをつけつつも違和感のないようにすることについてはかなりの苦労を強いられたようです。「東ダルマスカ砂漠」がテーマの塊であるのに対してこちらにはまったく入っていないのも、そういう狙いがあってのことでしょう。

西ダルマスカ砂漠は制作サイドが意図するタイミングよりも早く訪れることが可能ですが、この曲のヘビーさがプレイヤーに「まだここは来ちゃいけない場所なのでは……」と思わせます。実際、モンスターも東に比べて手強いですしね。精霊なんかもいますし。東がイケイケな曲調であるのに対し、西の曲はあくまで「灼熱の砂漠」という描写にスポットを当てることで、エリアごとのタッチを付けています。多彩なパーカッションとストリングスによる、ジワリジワリと汗をかくような雰囲気は、グラフィックの持つ説得力との相乗効果で本当に暑そうです。
23.クラン本部
・ラバナスタ上層クラン本部内
・宴が開かれているラバナスタ王宮内
宮殿の華やかな舞踏パーティといった趣の前半と、ガラリと雰囲気を変えたドタバタコメディテイストの後半部分が組み合わせられたクラン本部の曲です。FFXIIのテーマ=解放軍のテーマも顔を出しています(15秒〜)。それに続く22秒からは「王都ラバナスタ」のフレーズ。ラバナスタ王宮でもうっすらと流れる曲ですので、それが入っているのも納得です。クラン本部もラバナスタにありますしね。
24.小さな拾い物
・ゲーム未使用曲
これも未使用MEなのですが、クラン本部の次に入っているところから、はぐれトマトを倒した後でガルバナの花を入手するところじゃないかな〜、と予想してみます。
25.ギーザ草原
・ギーザ草原(乾季・雨季共通)
・ツィッタ大草原(全天候共通)
・バッガモナンにさらわれたパンネロを助けるべく、ビュエルバへ行くと言い出すヴァン
非常に展開の多い、起伏に富んだギーザ草原のフィールドBGM。出だしこそやわらかな木管が主導していますが、21秒からはマーチングスネアと金管が勇壮に盛り上げます。かと思うと42秒からは不安げにクールダウン。なにくそとばかりに1分16秒からは再度盛り返します。移動と戦闘にピッタリと寄り添うのみならず、コロコロと天候を変化させる草原マップにふさわしい構成です。曲名こそ「ギーザ草原」ですがツィッタ大草原でも流れますので、草原マップのテーマといったところ。これを「安易な流用」と評する声もあるようですが、そんなにアホみたいに曲数増やしてどうしますか。まあ本作ではマップBGMの流用が少ないですから、逆にこういう流用が目立ってしまうんですけどね。「ツィッタも専用曲にしろ」という意見もわからないでもないです。

しかし、フィールドBGやダンジョンBGはイベントへの転用も少なくないので、それらも「使い回すな」と言うのでしょうか。すべてのマップやイベントに専用曲を用意したら100曲どころじゃなくなりますよ。それでサントラに全部収まらなかったりすれば、それはそれで文句を言うのでしょ?だいたいいつから「すべてのマップに別の曲を充てるべし」という風潮になったんでしょう。もちろんFF自身がそういう方向に持ってきた事実は認めますが……。なんかちょっとした流用や重複にも目くじらを立てるっていうのは、どうかと思うんですけどね。どうでしょう?

さて、この曲もイベントへの流用があり、ラバナスタの砂海亭でミゲロから「パンネロがさらわれた」と聞かされたヴァンがビュエルバには俺が行くと言い出し、バルフレアに飛空艇で送ってくれ、送ってくれたら魔石はやるよと言い出すシーンで流れています。まあ確かに……「なんでここでギーザ草原の曲?」と思わないでもないんですが。他に使える曲がないならともかく、そうじゃないですからね。
26.パンネロとの別れ
・ギーザ草原後、密かに宮殿への侵入を決意したヴァンとそれを知らないパンネロの別れ
「お願いだから危ないことはやめてね。いやだよ、ケガとか、いなくなるとか」と、けなげにヴァンを案ずるパンネロのセリフに添えられたピアノソロの小曲。「パンネロのテーマ」のアレンジになっています。ヴァンはそれに対して「俺だっていやだよ」と答えますが、「なら、いいんだ」と安心して立ち去るパンネロを見送りながら、一方で彼は王宮への潜入の決意を固いものにしていました。ここでの「別れ」はこの後しばらく行動(生活)を共にできなくなるということと、パンネロのパーティからの離脱の両方を意味していますが、主人公のテーマすら用意されていない本作においてパンネロアレンジはしっかりと用意されているあたり、「パーティにパンネロがいないとどこにも行く気がしない」という崎元氏のパンネロ萌えをこのうえなく表しています。しかもここでしか流れない専用曲ですから、ある意味ではアーシェよりも格上の扱いを受けています、音楽的には。制作からのオーダーがないのに崎元氏が勝手に作ったんじゃないか?という邪推はしないのがオトナ。

パート数の多い楽曲だらけの本作において、こういったシンプルな楽曲はきっと河盛氏をホッとさせたことでしょう。マニピュレーターに優しい音楽です。
27.ガラムサイズ水路
・ガラムサイズ水路全域
プレイヤーが初めて訪れることになるダンジョン、ガラムサイズ水路で流れるダンジョンBGMがこの曲。ラバナスタの地下に広がる水路ですが、ラバナスタのメロディが組み込まれるといったギミックはありません。ですが、「メインテーマ3」が組み込まれていたりします。楽曲全体を支配している弦の刻み(8秒〜)がそれ。フィールド音楽にもテーマアレンジを使っている本作において、ダンジョン音楽にメインテーマが組み込まれていることには何の不思議もありません。

ダンジョンの暗さ、何が潜んでいるか知れないおどろおどろしさを前面に出した曲調で、低音を効果的に配して迫り来る魔物のうごめきを感じさせます。一方ではウインドチャイムやハープが、水路を流れる水を思わせています。序盤のダンジョンにしては恐すぎると思われるかもしれませんが、初めてのダンジョンだからこそインパクトを強くしているのでしょう。また、ゲーム終盤までここでは強力なモブや召喚獣との出会いもありますから、その時まで通用するように作られているとも言えます。本作のダンジョンの多くはシナリオ上で一回通過したらハイおしまい、というものではないのです。ヘビーユーザーのために、お楽しみがいろいろ残してあるんですね。
28.予兆
・王宮宝物庫で魔石発見〜バルフレア&フランと初対峙
・ビュエルバでレジスタンスアジトに連れ込まれるヴァン、そこへ現れるバッシュ
・ラバナスタ王宮執政官執務室でのヴェインとガブラスとのやり取り、「見上げた弟だ」
・アルケイディスでグラミスに謁見したガブラスが、ラーサーの守護とヴェインの監視を命じられる
・ヘネ魔石鉱の入り口で、ドラクロア研究員の亡骸を発見。「どうしてこんな場所に……」
・ドラクロア研究所潜入時
わりと多くのイベントで耳にする曲ですね。不穏な空気というか陰謀めいたもの、もしくは言葉と言葉のやり取りの裏に秘められた駆け引き……といったドラマに寄り添うイベント音楽で、ひたすらジワジワと緊迫した空気を醸し出しています。ホラーテイストな高音のストリングス、淡々としたハープ、ドロドロとした思惑を重厚に描き出す低音の管、威圧感を感じさせる低音弦のピチカートなどなど、どいつもこいつも暗くて重い!

初めのうちはヴァン側のイベントで使われているので、7秒あたりにひっそりとメインテーマが仕込まれているのもわかるのですが、中盤あたりになると帝国側のイベントでも使われるようになっていきます。もしかすると開発サイドがその仕掛けに気付かないまま使い回してしまったのかな〜、なんて邪推してしまいますが。
29.騒乱
・ムービー:ラバナスタ王宮に攻め入る解放軍〜ヴァン、バルフレアたちの脱出劇
・リヴァイアサンでアーシェ救出後、脱出するために艦内を移動〜探索中BG
・巡洋艦シヴァにて、破魔石の影響で暴走し暴れるフラン
・ムービー:破魔石の暴走によってリヴァイアサン艦隊壊滅〜ヴァンら脱出、暁の断片回収
パッパパッパパッパパッパと勇ましく幕を開けるイベントBGM。金管群を中心に、曲名通りの騒乱シーンを彩ります。使われているシーンを検証すると、メロディの印象付けを命題としている本作においてテーマモチーフがまったく使われていないことが逆に気になってしまいますが、この曲は崎元氏の手によるものではないのです。オープニングのオーケストラアレンジを担当した松尾早人氏がゲストコンポーザーとして作曲したものであり、松尾氏はこの曲の他にも本作で合計7曲を手掛けています。また、ゲストコンポーザーとしては岩田匡治氏も参加、2曲担当されています。このお二人、崎元氏とはともにスーファミの「伝説のオウガバトル(もちろん松野作品)」時代からのお仲間。また、「FFXII」にはオウガスタッフも多く参加していることから、十数年の時を経て再びこの3人で曲を製作できたことは崎元氏にとって大きな喜びであるとのこと。人と人との繋がりを人一倍重要視する崎元氏だからこそ、この二人に声をかけたんではないでしょうか(なお、岩田氏は崎元氏とともに「ファイナルファンタジータクティクス」も手掛けています)。惜しまれるのは、崎元氏の思い入れを削ぐかのようなサントラブックレットでの「オーガ」という表記。もちろん正しくは「オウガ」です。どこで誰が間違ったんだ?
30.ナルビナ城塞市街地
・ナルビナ城塞市街地(もちろんジャジム・バザーも含む)
弦と木管が軽やかに、楽しげに奏でるナルビナの曲。チュートリアルで訪れた城内や、後で辿り着くことになる地下の牢獄とは対照的ですね。時おり挿入されるティンパニのアタックや踊るようなタンバリンが、バザーの喧騒を思い起こさせます。ただ、ナルビナ城塞市街地自体があまり重要な場所ではなく、それほど立ち寄る必要のない場所ですので、この曲のゲームでの印象は低いですね。なお、「潜入」や「ナルビナ城塞地下雑居房(Disc2-8)」との共通項はありません。アレンジのしようもないですし、統一感を持たせる意味もないですから。ただし「メインテーマ1」の変奏は入ってます(24秒〜)。え?入ってない?俺の耳がバカになってんのかな?

Disc2

01.王女の幻影
・ガラムサイズ水路にて、アーシェと出会ってすぐの戦闘後の会話(アマリアと名乗るアーシェ)
・リヴァイアサン脱出後、オンドールに改めて協力を要請するアーシェら一行
・レイスウォール王墓にて、ラスラの幻影を見るアーシェ
・リヴァイアサン壊滅後、再度ラスラの幻影を見るアーシェ〜ラバナスタでの作戦会議へ
・フォーン海岸ハンターズキャンプでの、アーシェがラスラとの会話を回想するムービー
・ギルヴェガンクリア後、そこで知った事実、そこまでの出来事をレダスに伝えるシーン
アーシェのテーマ(Disc4-9)」をしっとりとしたアレンジにした曲です。冒頭から現れるメロディがアーシェ・モチーフ。王女であり女性であるアーシェというキャラクターのテーマと言えば美しい楽曲、もしくは毅然とした凛々しいイメージの曲を想像しますが、実際の「アーシェのテーマ」は聴いていただければわかると思いますが、「えっ、コレがアーシェのテーマ曲なの?」というほど恐いブロックもあり、よほどイベントの演出とカッチリはまっていないと、汎用的な使い勝手はあまり良くなさそうなものになっています。そういう意味で、アーシェ絡みのイベントではむしろアレンジバージョンであるこの「王女の幻影」の方が使用頻度が高くなっています。

ハープとストリングスが主体の清楚な雰囲気を持ちつつも、全体にミステリアスかつ悲しげな表情も内包した、複雑な楽曲です。その点ではどこに乗せても場面に馴染む性質を持っているとも言え、緊迫感のあるシーンから悲しげなシーン、戸惑う場面や過去を想う場面など使われているイベントもさまざまです。

曲名は「王女の幻影」となっていますが、使用されているイベントから考えると、ゲームで実際に「幻影」となって現れるのはラスラなんですよね。アーシェは幻影ではない。となると「王女と幻影」の方が直接的な意味は解り易くなりますが、タイトルとしてはあまり美しくありません。「王女の(中の)幻影(=ラスラ)」ぐらいに解釈するか、もしくは「王女の(見る)幻影」とか。個人的には、かつてダルマスカ王女であったアーシェがふとした時に時折見せる「王女の顔」を指して「幻影」と称しているのかな、とも思います。解放軍側にとっては今でもアーシェは王女ですが、帝国サイドからは認められていないわけで、ヴァンやプレイヤーがふと「あ、こいつ王女だったんだっけ」と思うような気持ちを曲名に込めたと言いますか。「こいつはやめて」って言われそうですが。
02.剣の一閃
・リドルアナ大灯台上層「覇を問う空域」
・ボスと呼ばれる固定エンカウントエネミーとのバトル
いわゆるボス戦音楽ですが、「ボス戦(Disc1-5)」との使い分けについては明確な定義がありません。使われている場面を検証しても、貫かれている意図が見えてこないんですよね。

プリン×4(ガラムサイズ水路)、マンドラーズ(ソーヘン地下宮殿)、ボムキング(サリカ樹林)、アースドラゴン(東ダルマスカ砂漠)、ラフレシア(幻妖の森)、フンババボス(死都ナブディス)、フェニックス(リドルアナ大灯台地下層)

このように使用頻度はあまり高くないのですが、「ループデモ(Disc1-1)」の後半と同じ部分があったり(22秒〜)、イントロから「FFXIIメインテーマ=解放軍モチーフ」を散りばめてアレンジされていることから、「ボス戦」に比べて特別な意味を持った曲だとは思うんです。でも使われている戦闘の意味合いに一貫性がないんですよね、どうにも。物語に絡む戦闘と、単に経路上にたまたまいた魔物との戦いとで楽曲を使い分けるとか、効果的な印象付けをする方法はなかったんでしょうか。なんとなくボス戦音楽が2曲ありま〜す、という感じでなんかね。

とは言え、曲そのものは文句なくカッコいいですね。しっかりとした使い分けがなされていなくても、何か宿命的なものを勝手に感じてしまうメインテーマの組み込み。「ボス戦」と対照的な、「行くぞ!」という感じのわかり易いアタックが付けられたイントロ。楽器編成は「ボス戦」と同じですが、曲が醸し出すムードはかなり異なっています。コーラス音色や鐘の音も使われており、なおのこと運命的に聞えてきますね。そのためか本来ならばまったく意味不明な大灯台上層への流用も、「これはこれでアリかな〜」なんて思わされてしまいます。松野氏がオーダーするところの「FFはたくさんの人がプレイするものだから、音楽もキャッチーで耳馴染みの良いものを」という条件を見事に満たした曲と言えるでしょう。言ってみれば大作感のある、映える曲ということです。「ベイグラント」も良かったけどこれは「FF」だからね、頼むよ、という松野氏の狙いを、崎元氏はバッチリ理解してます。崎元氏ってわりと何度も聴くような戦闘の曲においても、シチュエーションを重視したタイプの曲を作る傾向があるんですよね。それはそれで良いのですが、今回はそれプラス「パッと聞きのかっこ良さ」もうまく組み込んでいるように感じます。もちろんそれにはメインテーマの存在も貢献していることは言うまでもありません。

発音数の制限を一切考慮していない、限界ギリギリまで鳴らされたシンバル系も迫力を増すのに一役買ってます。それも河盛氏の悩みのタネとなるわけですが……。あと改めて思うのは金管系の音色が本当によく出来ているな、ということ。シンセやサンプラーを使った音楽は世に氾濫していますが、ここまで上質なブラス音色は滅多に聞けませんよ。もっともゲームに落とし込む際には劣化しますが、そこでゲーム音源を聴いても目立った遜色がないことに再び驚いてしまうわけで。河盛氏による職人的仕事のタマモノですな。もちろん中には明らかに劣っているというユーザーもいますが、それは当然だろうと。制約はどうにもなりませんから。視点を変えて、ここまで鳴らせている内蔵音源採用のゲームが他にどれだけあるか?というところを考えてみてほしいところです。ましてや本作の音源について、河盛氏を批難するなどはもってのほかですよ。彼の仕事は間違いなく一級品。他に誰がここまでできるでしょうか。逆に言えば、誰がどう頑張ってもこれ以上のものにはならないということです。実機の制約とはそういうものです。むしろ罪を問うのなら、このゴージャスなサントラ盤の存在そのものでは?いっそCDもゲーム音源にすれば、我々ファンが「本来の音質」を知ることもなかったのですから。
03.勝利のファンファーレ〜FFXIIバージョン〜
・ボス戦、召喚獣戦など区切りとなる戦闘勝利後(一部除く)
きたー!FFシリーズおなじみのファンファーレです。フィールドでは移動とバトルがシームレスに行われるため、いわゆるザコ戦では「戦闘終了」という区切りのない本作において、このファンファーレは主にボス戦など重要な戦いに勝利した時にのみ使われるスペシャルなもの。それだけに流れた時の感動も大きなものになっています。これによってイベントやシナリオにもひとつの段落のような区切りが生まれるのです。初出となるのはガラムサイズ水路でアーシェ(アマリア)と合流後に行われるプリン戦。ここで背筋に電流が走ったファンも少なくないのでは?以後、以下の戦闘での勝利時に流れます。

ジャッジ(リヴァイアサン)、ガルーダ(レイスウォール王墓)、デモンズウォール戦(レイスウォール王墓)、ティアマット(ヘネ魔石鉱)、エルダードラゴン(ゴルモア大森林)、ヴィヌスカラ(ミリアム遺跡)、マティウス(ミリアム遺跡)、マンドラーズ(ソーヘン地下宮殿)、アーリマン(ソーヘン地下宮殿)、ボムキング(サリカ樹林)、アースドラゴン(東ダルマスカ砂漠)、ラフレシア(幻妖の森)、ダイダロス(ギルヴェガン外観)、タイラント(ギルヴェガン)、シュミハザ(ギルヴェガン)、アドラメレク(ゼルテニアン洞窟)、ハイドロ(リドルアナ大灯台)、パンデモニウム(リドルアナ大灯台下層)、シャーリート(リドルアナ大灯台下層)、フェンリル(リドルアナ大灯台中層)、ハシュマリム(リドルアナ大灯台上層)、ザルエラ(バルハイム地下道)、ゼロムス(ミリアム遺跡)、バッガモナン(ナム・エンサ)、フューリー(死都ナブディス)、フンババボス(死都ナブディス)、カオス(死都ナブディス)、キュクレイン(ガラムサイズ水路)、エクスデス(モスフォーラ山地)、フェニックス(リドルアナ大灯台地下層)、ゾディアーク(ヘネ魔石鉱)、アルテマ(クリスタルグランデ)、オメガmk.XII(クリスタルグランデ)、魔神竜(ソーヘン地下宮殿)

モブはフィールドにいるザコモンスターと同じ扱いで、通常はモブを倒してもファンファーレが鳴ることはありませんが、一部の特別なモブについては勝利時にファンファーレが流れることがあります。ギルガメッシュ(2回とも)、ヤズマットがそれです。ギルガメッシュについては「ビッグブリッヂ→ファンファーレ」のコンボがオールドファンにはアツいですね。ヤズマットについては、コイツを倒したプレイヤーに対して賞賛のファンファーレを鳴らさないわけにはいかないでしょう。今回のファンファーレはコーラス主体の荘厳な出だしが達成感をさらに強調し、その後に続くフレーズはおなじみのものを忠実になぞってます。そういやこれまで、コーラスによるファンファーレってありそうでなかったですよね。

ファンファーレを語ったついでに、音楽以外のことでひとつだけ。戦闘終了後に一度ブラックアウトしてから勝利ポーズ、という仕様が個人的に凄く不満なんですよね。それこそシームレスに、朽ち果てる敵の姿から勝利ポーズをとる仲間たちへと繋げてほしかったところです。いったん暗転してしまうことで気持ちのいい流れを分断し、爽快感を欠いてしまっています。残念。まあこれはシステムへの注文になるんですが。
04.深淵
・ゲーム未使用曲
ゲストコンポーザー・松尾早人氏による曲。やはりイベントでの使い勝手を考慮してか、さまざまな展開を盛り込んだ表情の多いものになっています。ブラスとピアノ主体のいかにも怪しげな出だし、木管と弦が怪しげな雰囲気を醸す42秒からのブロックと、わりと汎用的に使えそうな便利な曲なのですが、ゲームでは未使用となっています。どんな場面にあてはまるか、想像を巡らせてみるのもいいでしょう。個人的にはピアノが、本作の他の楽曲ではあまり聴けない独特の味を出していて好きですね。まあ、だからこそ「ちょっと馴染まないかな、浮くかな」という理由で使われなかった可能性もあるんですけど。これにもし帝国モチーフが入っていたら、逆にあちこちで流れた可能性も。
05.暗雲(帝国バージョン)
・ガラムサイズ水路にて、帝国(ヴェイン)に囚われるヴァン、アーシェたち
・ナルビナ城塞地下牢にて、バッシュを尋問するガブラス
・リヴァイアサン艦隊壊滅の責をヴェインに求め、グラミス皇帝を追求する元老院
・アルケイディスでのジャッジたちのやり取り(ヴェインへの忠誠とそれへの疑問)
・ヴェインとグラミス皇帝の会話(「ソリドールの剣に迷いは不要」「すべてはソリドールのために、か」)
・リドルアナ大灯台でガブラスとの戦いを終えた一行の前にシドが登場
・バハムートでヴェイン登場「わがバハムートへようこそ、アーシェ殿下」
「共存」に続く帝国バリエーション、その2。こちらはタイトルからわかる通り、陰謀や企み、水面下でのアレコレみたいなシーンでの用途を想定した重々しいものです。重っ苦しい管が奏でる主題はまさに「帝国のテーマ」で、その下をドロドロとした弦が這い回ります。他にも低音のピアノや鐘など重々しい音色が、これでもかというほどに場面の空気を演出していきます。非常に便利に使える曲で、ゲームの中でも5本の指に入るか?というほどに頻繁に耳にすることができます。あっ帝国だ、とすぐにわかる主題こそ、崎元氏が言うところの「太いテーマ」というもの。帝国サイドのイベントシーンにまんべんなく使われていますが、最終的にヴェインとパーティが対峙するシーンにも流れていることから、個人的にヴェインの野望を強く感じる曲ですね。
06.バルフレアとの約束
・囚われるヴァンに駆け寄るパンネロ〜バルフレアからの預かりもの
ガラムサイズ水路脱出を目前にして帝国に囚われたヴァンら一行。どこかへ連行されようとしているヴァンを見かねて、パンネロは「許して下さい、ほんの出来心なんです」と兵士に詰め寄ります。彼女を安心させようとしたのか、「おごりはまた今度な」とおどけてみせるヴァンに、帝国兵が一撃。「やめて!」と反射的に駆け出したパンネロを静止したのはバルフレアでした。「ヴァンを連れて帰るまでしばらく預かっといてくれ」と、あるものを託します。曲名はこの約束を指しています。ここでしか流れないイベント専用曲。

10秒からは「宿命(Disc3-20)」を感じさせつつ、16秒からはすぐに解放軍モチーフ(=FFXIIのテーマ、
メインテーマ4」)も顔を出します。重々しい雰囲気が全体を支配していますが、この解放軍モチーフが一点の救いになっているというか、「必ず戻るからな」という約束を示しているのでしょう。さすがにこの雰囲気に「パンネロのテーマ」は組み込めませんね。
07.ゲームオーバー
・ゲームオーバー画面
「FFXIIのテーマ(メインテーマ1)」をハープで奏でた、ゲームオーバーME。徹底したテーマの提示はこんなところでも行われているのでした(気付きました?)。「X」では主題歌「素敵だね」のメロディがゲームオーバーMEになっていましたから、その路線と言えます。それ以前のPS時代の「FF」はゲームオーバーに「プレリュード」が使われるケースが目立っていたため、昨今の風潮は良い流れだと思います。ちなみに河盛氏によると「パートが1つだけの素晴らしい曲」とのことで、いかに他の曲で苦労したかが伝わってくるリアルなお言葉ですね(笑)。
08.ナルビナ城塞地下雑居房
・ナルビナ城塞地下雑居房(牢獄)
・かつて神々からガリフが破魔石を授かったこと、それが覇王へと渡った経緯を語るガリフの長老
「民族楽器は必要な場合だけに留めた」パート2、ナルビナ牢獄のBGです。パーカッション音色とコーラスが特に目立っていますが、ギターのように爪弾く弦楽器も使われており、異国感は抜群。暑苦しくて薄暗い、そこらに死体がゴロゴロしている砂漠の地下という特殊な空間にピッタリです。さらに面白いのは、解放軍テーマ(1分5秒〜)と帝国テーマ(1分15秒〜)がともに顔を出していることでしょう。サントラ全体を見渡しても、この両方が同居している楽曲は多くはありません(あとはラスボス戦ぐらい?)。もちろん帝国テーマはこの施設が帝国のものであることから組み込まれており、そこに放り込まれたヴァンたちということで解放軍テーマもチラッと顔を出しているのです。舞台と状況をともに巧みに盛り込んだこの楽曲、テーマの印象付けをここまで徹底的に行っている作品はそうそうないものです。
09.蛮族
・ナルビナ城塞地下雑居房で、族に暴行を受けるヴァン
・レイスウォール王墓でのデモンズウォール戦(2回目、逃げられない方)
・リヴァイアサンでの破魔石実験〜高まるミストに反応し暴走するフラン
・バハムート内にて、ヴェインが人造破魔石の力で変容〜ヴェインに剣を向けるガブラス
わりといろいろなシチュエーションに流用されている曲で、曲名は初出となるシーンから採ったものでしょう。重々しく威圧的な管と緊張したストリングス、蛮族の足音を思わせるティンパニでズンズンと進行し、35秒からはさながら「ジョーズ」のように、弦の刻みが緊迫の度合いを高めていきます。それでもあまりやり過ぎることなく、背景音楽としての役目を重視してわりと淡々と進む曲です。
10.戦いのドラム
・ナルビナ城塞地下雑居房でのダグザ率いる族との戦い
・ルース魔石鉱でバッガモナンら登場
・ナム・エンサでバッガモナンら登場(モブ「ベリト」討伐中)
これも民族音楽的なものに分類できるでしょう。蛮族の咆哮を思わせるブラスアタックが面白い効果になっており、乱れ打つ打楽器が荒々しい敵の闘争心を煽るかのようです。ゲーム中ではそれほど多くは使われておらず、曲名は「戦いのドラム」ですが実際にバトルで流れるのは初出時の一度のみ。それ以外は敵の登場イベントで前フリ的に、「言葉無き戦い」へと繋ぐブリッジのような使われ方をしています。そのためゲーム中ではサントラに準じたアレンジのほか、ドラムのみのバージョンもデータとして用意されています。
11.帝国のテーマ
・帝都アルケイディス及びドラクロア研究所のマップBGM
・ムービー:ラバナスタで演説に向かうヴェインの車を走って追うヴァン
・上の続きで、演説によって人心を掌握したヴェイン
・ナルビナ城塞地下雑居房に現れるジャッジガブラス
・ルース魔石鉱でのジャッジ・ギースとオンドールのやり取り
・リヴァイアサン脱出直前、ジャッジ・ギースと対峙
・ムービー:アルケイディスに到着するジャッジ・ガブラス〜グラミス皇帝に謁見
・ジャッジ・ガブラス戦(リドルアナ大灯台)
・ヴェインに剣を突き付けるラーサー〜やって来るガブラス〜ヴェイン第一形態戦
バルフレアを追ってナルビナ城塞地下雑居房までやって来たバッガモナン。しかし、そこにバルフレアの姿は見当たりません。どういうことかと帝国兵に対して口調を荒げるバッガモナンを静止したのは、威厳をもって登場したジャッジ・ガブラスでした。その際、帝国を象徴するジャッジという存在の登場を堂々と、かつ威圧的に盛り上げたのがこの「帝国のテーマ」。そもそも崎元氏が帝国のテーマを作るにあたってイメージしたのがジャッジという存在だったとのことですから、このハマり具合も納得です。

なにしろメインテーマ(解放軍のテーマ)と対を成す、もうひとつのメインテーマと言っても過言ではない重要な曲ですから、その使用頻度も高いものになっています。派生した別アレンジも含めると、ユーザーはこの帝国モチーフを数え切れないほど耳にすることになるでしょう。ガブラスとの戦闘ではバトル中にも使用され、そこまで重ねてきた印象付けが最大の効果を発揮していたりもします。それでも、どのように表情を変えてもそれとわかる帝国のモチーフはまったく「さすが!」と言うほかありません。キャッチーで覚え易く、しかも手を加えられるように柔軟であることが求められるテーマを生み出すのは並みの苦労ではないでしょう。まあ「スターウォーズ」とか「インペリアルマーチ」なんて言っちゃうと身もフタもないのですが、王道というものはやはりカッチリはまるからこそ王道なのであって。

ダースベイダーが現れそうな(笑)、マーチ調のイントロから早々にテーマを提示、静まったり盛り上がったりしながら進行し、54秒からがメインですね。この曲で最もわかりやすい部分です。イベントへのはまりを配慮したのか、厳かな宮殿楽曲のような展開もありつつ(1分31秒)、ひたすら帝国のモチーフを前面に押し出して進んでいきます。オーケストラ楽器全体で盛大に鳴り響かせるタイプの交響曲といった構成で、ぜひフルオケ演奏を聴いてみたい曲ですね。今後のFFコンサートでやらないかしら?植松さんの曲じゃないから無理かなあ。

実際にゲーム中においてサントラのような形でダラダラと流れるケースはほとんどなく、その場面に合わせた出しどころからスタートするなど工夫されています。崎元氏は公称で全100曲を作曲したとおっしゃっており、サントラも100曲ですからほぼ全曲収録されてはいるのですが、サントラに収録されているものの中には「実際にゲーム中では分かれている曲をひとつにしたもの」や、その逆にテーマ関係などは「最初に様々な展開を入れながら作った長い曲を、そのままではゲームで使いにくいので切り分けた」ものもあり、そういったものもカウントしていくと120〜130曲になるそうです。この「帝国のテーマ」などはその解り易い例で、たとえば頻繁に耳にする1分31秒からのおだやかなブロックなどは、そのままループして最初に戻るとイベントの雰囲気と合わなくなることがあるため、おだやかブロックのみをループするファイルが別にゲーム中では用意されていたりします。ラバナスタでのヴェイン演説ムービー直前で流れているのはまさにこの「おだやかループ」です。他にゲーム内ではマーチ部分のみをループするファイル、おだやかブロックを抜いたファイルなど数パターンが使い分けられています。
12.チョコボFFXIIアレンジVer.1
・ゲーム未使用曲
「プレリュード」や「ファイナルファンタジー」同様、崎元氏が早い時期から「絶対に使おう」と決めていたという「FF」おなじみのナンバーです。思わず「えっ、オーケストラ演奏?」と錯覚してしまいそうなほど見事な編曲と音源ですが、残念ながらこれはゲーム未使用のバージョン。実際に使用されたバージョン(Disc3-11)が疾走感のあるテンポの速いものなのに対し、この未使用バージョンはゆったりした雰囲気で、FFファンの期待を裏切らない、逆に言えばストレートなアレンジになっています。もしかすると騎乗時以外にもチョコボ絡みのイベントがあったのかもしれませんね。これはそこで流れるハズだったのかも。騎乗時のつもりで作られたのだとしたら「もっとテンポがある方がいいなあ」という判断があったのかもしれません。

崎元氏もユーザーとしてFFの音楽を聴いてきた世代ですから(ちなみに氏のベストFFは「VIII」だとか)、当然シリーズおなじみの曲をどうするか、という問題でも悩んだはずです。本作オリジナルの曲に関しては植松氏から「過去のシリーズを意識せずに自分の曲を作ればいい」と言われたそうですが、おなじみの曲についてはユーザーの持つイメージを損なわないよう、しかし本作の全体的なイメージには馴染むよう意識されたとか。そんな裏話を聞くと、この未使用バージョンは過去のイメージを意識しすぎてしまったのかな、とも思えてきます。本作の「オーケストラ調」という音楽的前提をふまえてアレンジをしたら、こうなりますよね。植松氏はと言うと毎度サンバとかテクノとかモッズとか好きにやってきたわけですが、「XII」でそういったジャンル的な遊びはできないわけで。ということでさらに煮詰めて作ったのがゲームバージョンなのかな、と。
13.バルハイム地下道
・バルハイム地下道全域
・ガリフの長老から暁の断片が再び使えるのは孫子の代だろうと聞かされ、落胆するアーシェ
ガラムサイズ水路に続いて序盤で耳にするダンジョンBGM。弦によるズン・ズン・ズンという刻みをベースにし、ピッコロのような木管が怪しげなメロディを奏でます。金管が、果てしない闇に潜むものを思わせる威圧的なアクセントを付けつつ、「ナルビナ城塞地下雑居房」から引き継いだような爪弾く弦楽器も参加し(1分13秒〜)、緩急を付けて多様な展開を魅せる楽曲です。淡々としているのにいろいろな表情があるのは、移動、イベント、戦闘がシームレスに発生する本作ならでは。このダンジョンは中盤以降にならないと入れないエリアがあったりして、モブや召喚獣などやり込み要素に手を染めるとそれこそ終盤までお世話になる場所だったりします。
14.悲哀(解放軍バージョン)
・バルハイム地下道で、皇帝暗殺に関する真実を聞かされたヴァンが「信じられるかよ」
・リヴァイアサン内部でパンネロと再会、ラーサーとアーシェ、ウォースラのやり取り
・ベルガの手にかかりアナスタシス死亡、ラーサーもガブラスに連れ去られたとアルシドが告げる
    〜ロザリアに亡命させたいというアルシドの申し出を断り、黄昏の破片を潰すと言うアーシェ
・天陽の繭の前でラスラの幻影を打ち砕いたアーシェが「私は聖女なんかじゃない!」
    〜「破魔石を捨てる!」〜ヴァンが「兄さんはもう……いないんだ」
解放軍のテーマの悲しいバージョンです。13秒から早くもメインテーマ2が示され、20秒からのピアノはメインテーマ4。その後の弦も同じですね。感情をたっぷり込め、強弱と表情を付けた演奏はもはやゲーム音楽の域を超え、映画音楽だと胸を張って断言できるほどの仕上がり。もちろんそれには、徹底したテーマの印象付けによる効果も欠かせないことは言うまでもありません。帝国側に比べて解放軍側は、「いったいどれが解放軍のテーマなの?」というわかりにくさが少しあるのですが……。サントラに「解放軍のテーマ」という曲は存在しませんしね。「帝国のテーマ」はあるのに。さらにこの曲が前面に持ってきているのは、最も提示の少ないメインテーマ4ですから。

ここで大前提をおさらい。「解放軍のテーマ」とはそもそも、「FFXIIのテーマ」から派生したものです。では「FFXIIのテーマ」とは何かと言えば、最初に崎元氏が作った、制作発表会用のテーマ曲(Disc4-21)のこと。ということでそれを聴いてみましょう。1分17秒のところや、1分43秒以降頻繁に繰り返される聞き馴染みのあるメロディ。これが「FFXIIのテーマモチーフ」の基本形です(
メインテーマ2)。そして、この発表会用テーマをゲームで受け継いだのが、製品版の「オープニング・ムービー(Disc1-3)」です。次にそちらを聴いてみましょう。52秒からさきほどと同じメロディが出てきました。2分22秒からもわかりやすい形で何度も繰り返しています。4分26秒あたりでも聞こえてきますね。このメロディは「FFXIIのテーマ」であり、かつ「解放軍のテーマ」でもあるわけです。基本的にプレイヤーが解放軍サイドだから、ですね。

一方、「オープニング・ムービー」の2分11秒あたりからのメロディは別のメロディですが、こちらもゲーム中ではいろいろな曲で耳にするフレーズです。これも「FFXIIのテーマ」であり、かつ「解放軍のテーマ」です
メインテーマ4)。ということで「悲哀(解放軍バージョン)」に戻って下さい。13秒からの管は「オープニング・ムービー」での4分26秒のメロディ、続く20秒からのピアノは「オープニング・ムービー」での2分22秒などですね。つまり、この2つのモチーフは等しく「FFXIIのテーマ」であり「解放軍のテーマ」でもあるわけです。印象に残り易い「太い」モチーフがひとつのテーマに複数存在し、さらにそれらがいろいろな曲に散りばめられていることから、一本太い幹のある「帝国のテーマ」に比べてややわかりにくくなっているのです。
15.バッシュの回想
・バルハイム地下道で、皇帝暗殺に関する真実を打ち明けるバッシュの回想シーン
ボーカリーズが荘厳に歌う、宗教音楽的な雰囲気を持った短いイベント曲で、上で記した場面以外への流用はありません。ボーカリーズソロは極めて限定されたところにのみ使われており、例えば「オープニング・ムービー(Disc1-3)」のラストなどがそれ。ラスラの葬送シーンと、それに至る事件の真相を語るこのイベントとで共通した音を使うことで、メロディこそ異なるものの統一したイメージを持たせているのでしょう。うまいな、という感じです。
16.共存(解放軍バージョン)
・バルハイム地下道を抜け、東ダルマスカ砂漠を抜けてラバナスタへ辿り着いた一行
・解放軍アジトでウォースラとのやり取りの後、和解するヴァンとバッシュ
・ラーサーとともにガリフの里からブルオミシェイスへと出発〜バッシュとバルフレアの会話
・サリカ樹林での大工モーグリ探しを終え、フォーン海岸方面への道を開けてもらうイベント
「共存」は明るいテーマバリエーションに付けられた曲名。Disc1には帝国バージョンがありましたが、こちらは解放軍バージョンです。主人公サイドは明るい場面も多そうに思えるのですが、実はこの曲の出番はそれほど多くありません。ひとつは解放軍と括るには何の関係もなさげなモーグリイベントだし(笑)。

ドアタマから解放軍テーマ=メインテーマを惜しまず出しています。イントロから2度繰り返す「チャッ、チャッ、チャッ、チャララララッ」は「
メインテーマ3」、15秒からの管は「メインテーマ1」、47秒の木管は「メインテーマ2」と、まんべんなくテーマを使用しているのがわかるでしょうか。けっこう崩しているのにそれとわかるのが凄いですよね。清らかなイメージの弦とふっくらとして暖かな管、瑞々しいハープがひとときのやすらぎ、といった感じ。
17.空中都市ビュエルバ
・空中都市ビュエルバ全域
・ギーザ草原遊牧民の集落
そういえばかつてのRPGでは街の曲なんてほとんど共通だったのに、最近ではまず場所ごとに別の曲が充てられていますよね。街ごとの特色や雰囲気・空気感をそれぞれ描きたいのであれば、専用の曲が効果を発揮します。逆に言うと街の数だけ曲数が増加し、一曲あたりの印象が低下してしまうことにもなりますが……。そこはそれこそ街ごとの雰囲気やグラフィック、その街で起こるイベントとセットで覚えてもらうこともできるでしょうね。

ということでビュエルバのBGです。ラバナスタにいる時間がわりと長かったため、この曲が新鮮に聞えた人も多いのではないでしょうか。巨大で人口の多いラバナスタがわりと人の喧騒を思わせる、躍動感のある曲調だったのに対し、ビュエルバは空に浮かぶ街ということもあってかどこか浮遊感のある感じ。ふんわりとした木管と、3拍子のリズムがそう思わせるのでしょうか。実際に歩いてみるとラバナスタにひけをとらないぐらい広いビュエルバですが、3拍子と4拍子を交互に入れ換えながら進むことで、広い街の景色の移り変わりや人々の往来を描いているかのよう。

遊牧民の集落に転用されており、実はビュエルバに着くより先にギーザ草原で聞いていたりします。ビュエルバより後に立ち寄る場所に使うならともかく、そこで先に使っちゃうのはどうかと思いましたが……。小さな集落に使える曲なんて他にもあるじゃないですか。
18.魔石の秘密
・ルース魔石鉱
・ナルビナ城塞地下牢にて、囚われのバッシュとヴァンらのやり取り
・オグルエンサでのアーシェとウォースラの会話〜ウルタンエンサ族出現ムービー
・レイスウォール王墓到着時に挿入される、外観全景(死者の谷)俯瞰ムービー
・アルシドがアーシェの王位継承を制止、グラミス皇帝が暗殺されたことを語る
   〜その頃のアルケイディス(連行される元老院、ドレイスがヴェインに剣を向ける)
最初は魔石鉱専用のダンジョンBGかと錯覚してたんですが、ヘネ魔石鉱は違う曲なんですよね、ってことでルース魔石鉱の曲です。実はナルビナ地下牢でバッシュと初めて対面した時にも流れてます。今回、ダンジョンBGもわりとイベントに転用されているんですよね

静かな導入に始まり、弦の刻みをベースに淡々と進行するあたりは「バルハイム地下道」と似たような感じ。こちらの方がよりオドロオドロしさが強くなっています。曲調のせいか弦の刻みのせいなのか、帝国のテーマが入っているような印象を受けますね。多分気のせいのような気もしますが、43秒以降あたりなんかどうでしょう。いかにも帝国のテーマに繋がっていきそうな雰囲気でしょう?もう、耳が最初から疑ってかかってますんで……。
19.闇夜(帝国バージョン)
・ヴェインのいる執政官執務室にやって来るドクターシド(初登場シーン)
・ガブラスとドレイスのやり取り(元老院の企み、ラーサーは二人で守り抜くぞ)
・ギルヴェガンクリア後に挿入される、ヴェイン、シド、ヴェーネスの会話イベント
木管メロによる「帝国のテーマ」、静かなバージョン。用途としては「暗雲(帝国バージョン)」と似た感じのイベント用BGMですが、夜のシーンを想定しているのか盛り上がる箇所がなく、ひたすらひっそりとしています。陰謀や言葉の含みを無駄に装飾せず、背景音楽に徹しているというか。ところで「暗雲」もそうなんですけどわざわざ「帝国バージョン」としてあるあたり、開発中は解放軍バージョンもあったりしたんでしょうか?だとしたらどんな場面で流れるはずだったのか、どんなアレンジだったのか気になるところです。
20.言葉無き戦い
・ルース魔石鉱でバッガモナン一味に追われるイベント(逃げ切るか倒すまで)
・レイスウォール王墓で最初にエンカウントするデモンズウォール戦
・モブ「ベリト(バッガモナン一味)」戦
・飛空艇定期便乗船中、デスゲイズ出現(以後、飛空艇内部〜戦闘中まで通して使用)
まあ「話の通じない相手との問答無用の戦い」という意味での「言葉無き戦い」ということでしょう。この曲もひとつのボス戦音楽と思ってよいのでは。バッガモナン一味のイメージからか、「戦いのドラム」からの流れを意識した打楽器の乱打が最大の特徴になっており、急き立てるような慌しさは「逃げ」イベントで使われることが多いゆえ。「早く逃げなきゃ〜殺される〜!」とプレイヤーの焦りと恐怖心を誘う、バリバリと割れそうなブラスも独特です。ルース魔石鉱ではバッガモナンに追われ、レイスウォール王墓ではデモンズウォールから逃げ、まともなバトルで聴けるのはいずれも高位モブ。こうなると本来はバトル曲であってもほとんどイベント音楽ですね。従来のFFで言うところの「急げ!」みたいな存在です。
21.戦艦リヴァイアサン艦橋
・リヴァイアサンの艦橋でジャッジ・ギースから、アマリアをアーシェ王女だと告げられるシーン
ビュエルバから帝国の戦艦・リヴァイアサンへと連行されるシーン、そしてその後のギースとのやり取りまで流れたイベント音楽。そこでヴァンたちはアマリアの正体がアーシェ王女であることを知ります。問答無用でバッシュのツラを張るアーシェ、そしてアーシェの正体を知った一同の驚きを意識したものか、これでもかとショッキングな構成の曲になっています。個人的にはゲーム中ではちょっとうるさすぎるかな、と「やりすぎ感」を感じました。なお、ゲストコンポーザーである松尾早人氏の手による曲なのですが、6秒のあたりに解放軍モチーフ(メインテーマ4)のようなものがあるのは偶然でしょうか?
22.帝国への挑戦
・リヴァイアサンの中で連行される途中、ウォースラも加わってアーシェ救出&脱出へと動き出す一行
      〜リヴァイアサン内部探索BG
・ミリアム遺跡からブルオミシェイスに戻ると、アナスタシスがベルガの手にかかり殺害されていた
・ドラクロア研究所にて、シドと対峙するレダス〜そこへやって来るバルフレアたちとのやり取り
こちらも松尾氏の曲で、リヴァイアサン探索中にかなり長いこと耳にした曲です。1分7秒以降のストリングスのけたたましいフレーズが特徴的で、妙にここだけが記憶に残ってます。他のイベントに流用された時も、このフレーズが異常に立って聞えるんですよ。金管がブリバリとけたたましく鳴り響く変拍子音楽は松尾氏らしいと言えば失礼ですが、音源も崎元氏の曲とは違いません?最終的には河盛氏の手を通ってゲームに入っているわけですが、サントラは既に記した通り作曲段階のオリジナルシンセバージョン。松尾氏や岩田氏の曲って、どの段階での出音なんですかね。両氏の環境での音なのか、一度崎元氏のもとに届いたところでの音なのか?河盛氏は崎元氏の環境に合わせてツールや音源を用意してますが、当然松尾氏や岩田氏の場合はまた違ったデータが届くわけですよね。……ナゾだ。
23.切迫する事態
・リヴァイアサンからアトモスに乗って脱出〜ムービー
・ギルヴェガンクリア後、レダスの所に戻った一行にリドルアナ大瀑布で水上船団遭難の報せ
・突然揺れ出すバハムート〜善戦する解放軍ムービー
解放軍のモチーフ(=FFXIIのテーマ)によって構成された、煽りもののイベント音楽。冒頭の「チャッ、チャッ、チャッ、チャララララッ」は「ガラムサイズ水路(Disc1-27)」と同じメインテーマ3。22秒からがメインテーマ4、57秒からはメインテーマ24が続き、1分10秒でメインテーマ1。これぐらいわかりやすいメインテーマのアレンジが鳴ると、ゲーム中でも気持ちいいですよね。最終決戦で挿入されるムービーでのハマり具合といったらもう、積み重ねてきた音楽的伏線が最大限の効果を発揮していました。切迫した事態ではありながらも決して一方的な危機ではなく、「いけいけ、解放軍!」というような前向きな曲調になっています。この曲で面白いのは右側にいる低音楽器群によるベース。これがまるでシンセベースのように聞こえるんです。あとは「クワンクワン」というチャイナシンバルの音が、他の曲ではあまり聴けない独特の味になってます。
24.動乱(帝国バージョン)
・VSジャッジ・ギース戦(リヴァイアサン内部)
・ベルガの身体からミスト〜VSジャッジ・ベルガ戦(ブルオミシェイス)
・リドルアナ大灯台で天陽の繭を前にしたアーシェたちの所にガブラスが登場、復讐せよと煽る
・ヴェインに剣を向けたガブラスが「ラーサー様をお守りする」〜ヴェイン=ノウス(第二形態)戦
本作にはいくつかのバトル専用音楽が用意されていることは既に書いてきましたが、正直その使い分けについては明確な意図があまり感じられませんでした。この曲もバトル音楽なのですが、「ボス戦」や「剣の一閃」とは異なり、その用途が明確な楽曲です。即ち、対ジャッジ、対帝国。ギースやベルガといったジャッジマスターとの戦い、そして最終ボスであるヴェインの第二形態で使われています。そのため帝国のテーマを柱に作られており、というよりは「帝国のテーマ・バトルバージョン」といった感じ。帝国なんかに負けてたまるか!と、コントローラーを握る手にも力が入ってしまうほどのわかりやすさと、威圧感。金管を中心にまとめた迫力たっぷりの編曲で、ティンパニ、シンバル、ドラなどの打楽器、中盤のマーチングスネアも激しい戦いを彩ります。

イベントにも一回だけ転用されており、大灯台でのガブラスの登場シーンにおける緊迫感たっぷりの台詞の応酬は曲による煽り立ても手伝って、個人的に本作で5本の指に入るベスト・イベントでした。ところでこの曲にも「帝国バージョン」とことわりが付けられているんですが、「動乱(解放軍バージョン)」なんてのもあったの?
25.レイスウォール王墓
・レイスウォール王墓
何パートものパーカッションが積み重ねられて異様な雰囲気を形成するなか、本作ではきわめて珍しいオーケストラ楽器でも民族楽器でもなさそうな、あからさまにシンセっぽい音色がそこかしこを飛び回る難解なこの曲、レイスウォール王墓のBGMです。さらにこれも本作では珍しいことなんですが、メロディらしいメロディがありません。雰囲気ものですね。しかし、情景は見事に描き出しているところに注目です。エコーで広げられて定位的な遊びを加えられたシンセ音色は、充満するミストをイメージさせます。さらにしばしば挿入される人の吐息のような音は、得体の知れない人の意思(霊魂?)を感じさせます。なんたってここ、墓ですから。どこを切っても背景音楽なのですが、主張のしかたはヘタにメロのあるBGMよりもはるかに強力。

Disc3

01.大砂海
・オグル・エンサおよびナム・エンサ
・ナルビナ城塞地下雑居房にバッガモナン登場〜帝国兵との罵り合い
・リヴァイアサン艦橋で黄昏の破片をギースに渡すヴァン〜連行される一行
広い!とにかく広い、大砂海のフィールドBG。「西ダルマスカ砂漠(Disc1-22)」の延長というか、より暑くて広大な、見渡す限りの果てしない砂・砂・砂!思わず「もう行くのやめようよ……」と言いたくなる重苦しさと気だるさを表現しています。イントロからたびたび現れる、遠のいては近付いてくる木管が、彼方に見える蜃気楼をイメージさせます。「FFXIIは砂漠がたくさんあったり、ぱっと見た印象が似ているエリアでの曲の差別化には苦労しました」とは崎元氏のお言葉。ところで43秒からのブラスってメインテーマですかね?変奏な気がしないでも。

実は大砂海に辿り着くより以前に、ナルビナ地下牢で一度流れてます。バッガモナンの登場シーンです。
02.召喚獣戦
・召喚獣と呼ばれる魔物との戦闘BGM
プレイヤーは召喚獣とバトルをして勝利することでその召喚ライセンスを得る、というのが本作における召喚獣獲得の概要。中には必須ルート上に配置されている召喚獣もおり、ストーリーを進めれば何体かの召喚獣は入手できますが、寄り道にこそ強力な召喚獣がいたりするわけです。で、それら召喚獣たちとのバトルで流れるのがこちらの曲、もうタイトルそのまんまですね。他への流用はありません。召喚獣は13体存在し、いずれも例外なくこの曲が使われています。一応リスト、それ。

ベリアス(レイスウォール王墓)、マティウス(ミリアム遺跡)、シュミハザ(ギルヴェガン)、アドラメレク(ゼルテニアン洞窟)、ハシュマリム(リドルアナ大灯台上層)、ファムフリート(リドルアナ大灯台最上層)、ザルエラ(バルハイム地下道)、ゼロムス(ミリアム遺跡)、カオス(死都ナブディス)、キュクレイン(ガラムサイズ水路)、エクスデス(モスフォーラ山地)、ゾディアーク(ヘネ魔石鉱)、アルテマ(クリスタルグランデ)

本作において「召喚獣とは?」というあたりはレイスウォール王墓でのイベントぐらいでしか語られないのですが、歴代シリーズでの強力無比、聖なるもの&邪悪なるものというあたりを意識してか、コーラス音色が添えられた荘厳な曲になっています。ダン、ダン、ダンというリズムが揺らぐことのない圧倒的な力を感じさせ、管弦はコーラスの引き立て役として脇を固めています。用途の明確なバトル音楽です。
03.悲哀(帝国バージョン)
・ウォースラとの闘いの後、地に足をつくウォースラ〜バッシュにアーシェを託す
・ヴェインがガブラスにドレイスの処刑を命じる〜躊躇いながらも刃を立てるガブラス、ドレイス絶命
       〜その頃のブルオミシェイス(ヴェインの脅威を語るアルシド、言葉もないラーサー)
・大灯台でのシド戦後、シドとヴェーネスの会話〜シドとバルフレアのやり取り、シド消滅
・バハムートでのガブラス戦終了後〜リフト上昇中
解放軍サイドの「悲哀」がトップクラスの使用頻度を誇るのに対し、帝国の「悲哀」はあまり出番のない曲になっています。帝国側であまり悲しい出来事が起こらないからなんですが、もうほとんどこのイベント専用!と言っても過言ではない、ガブラスがドレイスを手にかけてしまうシーンは、筆者のベスト・イベント上位に食い込むこと必至。もちろんこの曲あってのことですが、威圧的であればこその「帝国のテーマ」がこのように悲しげに変貌してもしっかりそれとわかるのは、おおもとのメロディの「太さ」あってこそ。逆に言えばそういうテーマさえできてしまえばしめたもの、実質的な「作曲」は半分終わったようなものです。あとはいかにアレンジしてバージョンを作っていくかという作業になるわけです(もちろんそれも作曲と等しく大変なんですが)。

しかしこういう静かな、情緒的な曲を聴くと思うんですが、管のサンプリングは素晴らしいのですが弦がもうひとつだな、という。崎元さん音源なに使ったんだっけ?Sonic Implants Stringsかぁ。うーん。
04.求めし力
・パラミナ大峡谷
・ラバナスタで破魔石について語る一行〜暁の断片で帝国に復讐を、と息巻くアーシェ
・ドラクロア研究所、シドの部屋らしき場所でのバルフレアの独白「あれから6年か……」
・リドルアナ大灯台に現れたガブラスの前にレダスが立ち塞がり、「一人のジャッジマスターがいた……」
    〜煽るガブラスと説得するレダスとの間で葛藤し、ラスラの幻影を打ち砕くアーシェ
・バハムートで再びガブラスと対峙、バッシュとのやり取り
一面の雪景色にマッチしまくりな、重い宿命や運命的なものをずっしりと背負っているかのように聞こえるパラミナ大峡谷のBG。戦闘も行われるフィールドBGMとしてはやや落ち着きすぎている感はあるものの、なかなかどうして後戻りのできないアーシェ一行の今後を暗示しているような曲調はファンの人気も高いですね。その人気の高さはある意味、従来のFFシリーズでのフィールド音楽のような雰囲気を持っているからではないでしょうか。ズウーンと響く骨太の低音で地盤をしっかり固めつつ、上ものはピアノや弦、木管など比較的高い音の楽器を採用することで、寒々しい雪景色との調和が取られており空気感は抜群です。

その曲調からかイベントシーンへの転用がフィールドBGいち多く、わりと重要な、運命的でシリアスな場面でたびたび耳にします。特にレダスとガブラスとのやり取りは鳥肌モノでした。特筆すべきは、これがゲストコンポーザー・松尾早人氏の曲であるということ。本作で7曲を担当し、中には未使用曲もあった松尾氏ですが、筆者個人的にはこの曲、「オープニング・ムービー(Disc1-3)」のオーケストレーションに並ぶ松尾氏の最大の功績だと思っているんですよ。氏の曲は音符の運びや音色の使い方など、崎元氏の曲の中に投じた場合にほんのわずかな違和感を感じるのですが、この曲にはそれがないんです。誤解のないように書いておきますが、その「違和感」とは決して間違っているとかヘンだという意味ではなく、あくまで崎元氏の楽曲がほとんどを占める本作において微妙に感触が異なっている、ということですよ。
05.死闘
・ボス戦BGM
・オンドールを説き伏せたアーシェたち、シュトラールでバハムートへ
通常のザコ戦はフィールドにおいてシームレスに行われるため、いわゆるザコ戦音楽のない本作。しかしボス戦に関してはバリエーション豊かに、ゼイタクに楽曲を用意しています。これもそのひとつで、物語中盤以降の避けることのできない宿命的な対人戦で使われているものです。使用箇所は以下。

ウォースラ(巡洋艦シヴァ)、シド(ドラクロア研究所)、ガブラス(空中要塞バハムート)

ご覧の通りシナリオ上きわめて重要な人物との戦い、付け加えるなら「パーティにいる誰かと因縁のある敵」との戦いを彩る曲なのです。ウォースラはアーシェやバッシュと因縁がありますし、シドはバルフレアと、そしてガブラスはやはりバッシュと。いずれもボス戦の中でも「決戦」と呼んで差し支えのないものです。楽曲のカッコ良さは皆さんお聴きの通り。パッと聴いた感じだと金管中心の煽り曲なのですが、実はその裏で進行を担い続けている弦楽器が、リズムキープの役割もあって非常に重要。特に楽曲に漂う焦燥感と緊張感のほとんどは弦が醸し出しているものだと言ってよいでしょう。メタルヒットによる打ち鳴らすショッキングタッチも最高の緊迫感をもたらしています。

楽曲は避けられない運命を描くかのように静かに幕を開け、徐々に盛り上がります。13秒で聞けるモチーフは解放軍の変奏でしょうか。1分8秒からは「ループデモ(Disc1-1)」の後半部分や「剣の一閃(Disc2-2)」でも使われているフレーズですが、どれがおおもとなのかはわかりません。個人的にはこの「死闘」がおおもとで「ループデモ」や「剣の一閃」へ派生したのではないかと思っているのですが、根拠はないです。

バハムート突入時のムービーにも転用されています。
06.ガリフの地ジャハラ
・ガリフの地ジャハラ
・オープニングムービー後に挿入されるオンドール4世の「回顧録」
・レイスウォール王墓入り口で覇王レイスウォールについて語るアーシェ
実はオープニングムービー直後に速攻で使われている曲なのですが、本来の役目はジャハラのBG。メロディ及び伴奏はシンフォニックなものでまとめられていますが、幾重にも重ねられたパーカッション類が民俗音楽的なテイストを楽曲に与え、外部の者を拒みながら独自の生活を営むガリフとその歴史を重々しく語ります。でもなんだかんだ言ってジャハラって通過点でしかないんですよね。結局彼らは石の使い方も知らなかったわけで、意味ありげなことを喋ってはいるものの、実はたいしてアーシェたちの助けにはなっていないんですよ。ラーサーがやって来たり、アーシェとヴァンのイベントがあるからこそジャハラが特別な地であるような気がするだけで、ガリフ自体は……。まあモブ狩りとか召喚獣獲得を目指すプレイヤーは何度かお世話になるんですが。

オープニングの「回顧録」のほか、レイスウォール王墓でのイベントに転用されてます。この曲の重々しさは、歴史や過去の偉人を語るのにうってつけですね。
07.オズモーネ平原
・オズモーネ平原全域
わりと呑気な感じにも聞える、オズモーネ平原のフィールドBGM。呑気に感じるのは3拍子であること、木管が目立っていること、そしてなにより木琴と、「カッポカッポ」という左側のウッドブロックじゃないでしょうか。なんか昔話のようなのんびりとした雰囲気なんですよね〜、切羽詰った感じがないというか。終盤はボーカリーズが加わって少し雰囲気変わるんですけど。というか、オズモーネ平原ってギーザ→ジャハラ→ヘネ魔石鉱を辿る過程の通過点に過ぎず、ある程度モンスターを狩ってしまうとあとはチョコボで素通りしちゃう場所なので、この曲が耳に染み込むほど長居していないんですよ。なので曲への思い入れもなく。この曲調ですからイベントなどへの流用もないですしね。
08.ゴルモア大森林
・ゴルモア大森林全域
怪しさ、不安さ全開のゴルモア大森林専用曲。あのマップの見た目の暗さ、日の光りが一切射し込まない雰囲気、そこでうごめくモルボルを中心としたモンスターたち、すべてにピタリとハマっています。鉄琴と弦によるお化けでも出そうな心細いメロディとハープのアルペジオ、ズムズムと迫り来るものを予告するかのような恐怖感たっぷりのブラス群。しかしどれもやり過ぎるでもなく盛り上げるでもなく、暗く静かな森をわりと淡々と描き出しています。筆者個人のことで恐縮なのですが、プレイ中はテレポストーンをほとんど使わなかったんですよね。戦闘の楽しさ、狩りの面白さのせいでどこへ行くにも基本的には徒歩。そのためゴルモア大森林は何度も行き来した場所で、この曲もそれは何度も何度も聴きましたとも。
09.エルトの里
・エルトの里
・帝国への復讐を誓うも破魔石の使い方を知らぬアーシェに、フランがガリフの話をする
ハープとフルートがメインの、エルトの里のBG。音数が少なくシンプルな構成で、下界を拒んでひっそりと暮らすヴィエラたちにふさわしい曲です。森林浴の効果も最大限に得られそうな、アルファ波たっぷりの癒し効果もありそう。ボーカリーズ音色は森のささやきのイメージ?関係ないですけどヴィエラって男(オス)はいないの?まあ、あの露出度でウサ耳つけた男がいてもヤだけど。単性生殖だとしたら、あれほど人間でいう女性の肉体に偏っているってのも妙ですよねえ。まさか両性……おっと、サントラと関係なさすぎにつき自粛。
10.本当に子供なんだから…。
・エルトの里でのイベント「フランって、何歳?」
緊迫した状況にも関わらず、空気を読めないヴァンがフランに年齢を尋ねるイベントのオチで流れたME。こんな短い曲でもしっかりメインテーマがフィーチャーされているような気がして仕方ないんですけど、筆者の耳はヘンになってますか?曲名はパンネロのセリフで、正確には「ほんと子供なんだから」でした。他にもアーシェは溜め息、ラーサーからは「失礼ですよ」と叱咤される始末。主人公ってのはこういう扱いをされる人のことを指すんでしょうか?なお、ゲームではフェードインさせて使用しており、はっきり耳に聞こえてくるのは5秒あたりのところから。
11.チョコボ〜FFXIIバージョン〜
・チョコボ騎乗中
本作のチョコボアレンジのゲーム採用バージョンがこちら。移動中にふさわしく、未使用のバージョン(Disc2-12)に比べてテンポが速くなっているほか、原曲にはない崎元オリジナルな部分もありますね。さらに、原曲の音と微妙に変えてあるところもあり、かなり挑戦的なアレンジになっています。賛否あるかもしれませんが、筆者はせっかく植松氏以外の人間がやるのなら、これぐらいやっちゃった方がいいと思うんですよ。
12.迫る脅威
・ヘネ魔石鉱
・空中要塞バハムート出現ムービー〜ヴェインとラーサーの会話〜バハムート主砲発射
ヘネ魔石鉱で流れるダンジョンBGで、ルース魔石鉱で使われている「魔石の秘密(Disc2-18)」と同様、静かに始まります。が、すぐにハンスジマーばりのハリウッド調行進曲に。強敵・難敵ひしめくヘネ魔石鉱にふさわしい煽り方だと思います。特にモブ狩りを極めようとすると、ヘネ魔石鉱の奥地は音楽で励ましてもらわないとくじけそうになるほどキツい場所なので……。1分12秒からの太鼓による「ドンドコドコドン!」もグーなアクセントになっています。緩急・静動が設けられた構成はダンジョン内のあらゆる局面にマッチしそうです。

22秒以降なんかはイベント曲としても使い勝手が良さそうですが、意外や意外、終盤のバハムートムービーぐらいにしか転用されてないんですよね。
13.ビッグブリッジの死闘〜FFXIIバージョン〜
・VSギルガメッシュ戦(一回戦・二回戦とも)
・バルハイム地下道のゼバイア連結橋でギルガメッシュと再会時
ゲーム本編のリリースと同時期に発売された雑誌での崎元氏のインタビューから、その存在だけは確定(ネタバレ)していた「FFXII」版「ビッグブリッヂの死闘」。本作での表記は「ビッグブリッ」のようです。もちろん使われているのはモブとして登場する「あの男」、ギルガメッシュとの戦闘です。まあヤツが出てくるならばこの曲は欠かせまい!崎元氏からシリーズのファンに向けたサービス……かと思いきや、これは開発チームからのリクエストなんだとか。スタッフのみならずファン人気も非常に高い曲なので、そのイメージを損なうことなく最大限にひねろうと初めは試みた崎元氏でしたが、プログレッシブロック調の原曲を「FFXII」の音楽世界に違和感なく馴染むオーケストラアレンジとした意外は、結局ほとんど原曲の基本線は崩せなかったそうです(お聴きいただければわかりますよね?)。しかし、原曲を忠実にオケアレンジしたことでスタッフ受けも良く、結果的にベストなものになっているのではないかと筆者も思います。もしそこで意表をついたものにしても他の楽曲と馴染まなくなったかもしれませんし、バンドアレンジはあっても意外と正統オケの「ビッグブリッヂ」はありませんでしたから。

オーケストラになっても原曲の早いテンポは再現。イントロも忠実です。管と弦が一体となって、時にはフレーズを受け渡ししながら奏でる迫力ある演奏は、シリーズのファンにも好評のようです。ロック好きな人にとってはちょっと不満かな?でもやっぱり、「XII」の世界でこの曲を流すんであれば、筆者はこの形しかないと思いますよ。むしろ、シナリオ本筋にはまったく絡まないモブのために一曲用意してくれた心意気に感謝しようじゃありませんか。きっとこの曲を耳にしないままゲームをクリアしてしまった人もたくさんいるでしょう。わかる人だけに向けたサービス、そこまでやり込んだ人へのご褒美なんです。

ところで、ギルガメッシュが郷里サンの声で喋った時は爆笑させてもらいました。いや、アルシドが若本ボイスなのにもそーとー笑ったんですが。声優のチョイスがツボすぎ。
14.捨て去りし力
・神都ブルオミシェイス(神殿へ続く道以降)
・レイスウォール王墓でン・モゥ族の伝承を語るフラン〜魔人について語るアーシェ
・ティアマット戦後、倒れたミュリンを抱き起こすフラン〜ミュリンとの会話〜里へ戻る
・ギルヴェガンでの、アーシェとオキューリアのやり取り前半(天陽の繭)
・リドルアナ大灯台上層で天陽の繭を目前にして、パンネロが「(アーシェ、)復讐するのかな」
人間の知識では理解するに至らない、神聖なるもののテーマ的な意味合いの楽曲。そのことからブルオミシェイスのBGにもなっています(いや、用途としてはそっちが先か?)。ピアノのアルペジオとボーカリーズでおだやかに始まり、神がかりな存在が放つ威厳と神秘さを表すかのような、広がりのある管弦が奏でる「FFXIIのテーマ=解放軍のテーマ(25秒〜)」が顔を出します。

神都ブルオミシェイスでは、帝国の攻撃を受けアナスタシスが殺害されてからはBGがこの曲から「白い部屋」に変化しますが、モブ「ファーヴニル」を討伐すると再度この「捨て去りし力」に戻ります。
15.ミリアム遺跡
・ミリアム遺跡
ゆったりとしたテンポで雄大に語りかけてくるような、ミリアム遺跡の曲です。威厳はありますが、恐怖感や威圧感はそれほど感じません。低音のふくよかな管を中心に編成されているからでしょう。ボーカリーズ音色が使われているのは遺跡自体の神秘性ももちろんですが、ブルオミシェイスからの一連のトーンを保つことで、連続したシナリオに統一感を持たせる狙いでは。25秒からのフレーズはメインテーマ、というのは考えすぎ?ここまでくるともうそうとしか聞えない自分がいる……。「捨て去りし力」にも入っていることですし。
16.安息の時
・レイスウォール王墓、暁天の間
・ミリアム遺跡、覇者の間
・ソーヘン地下宮殿、天を仰ぐ部屋
遺跡系ダンジョンの最奥、非戦闘マップで共通して流れる曲。曲名の「安息の時」はその意味ですね。ハープのアルペジオとフルートの優しいメロディが、戦い疲れた我々を癒してくれます。ただ、遺跡の最奥地はまず初めて訪れた際にしか行かない場所であり、ゲーム中でこの曲を聴く機会はごく限られています。なので例えばですね、ギーザ草原の集落とかでまだ行っていないビュエルバの曲を使っちゃったりするよりかは、こういった曲を流用した方が良かったんじゃないかと思うんですよ。本来ずっと後に聴くべき楽曲を、そんなちょっとしたマップでネタバレならぬ「曲バレ」してしまうのはあまりにもったいないかな、と。
17.白い部屋
・チュートリアルイベント(レックスの死)後に挿入される、オンドール4世の「回顧録」
・意識を失ったヴァンが見た夢(ガルバナの花を兄に手渡す〜兄さんは王様殺しの一味だったの?)
・ギースに囚われ、巡洋艦シヴァに移送されたアーシェがウォースラに「いまさら誰を信じろというの」
・ミュリンがヨーテに「ヴィエラは今のままでいいのか」と疑問、不満を露わにする〜制止するフラン
・ミリアム遺跡クリア後、帝国の攻撃によって壊滅的打撃を受けた神都ブルオミシェイス
・ギルヴェガン初到達時のイベント(充満するミストにヴェーネスの気配を感じる)
わりとイベントで印象的な使われ方をしていたため、記憶に残り易い楽曲。曲名は使用箇所リストの2番目にある、気を失ったヴァンが見た夢に出てくる「レックスのいる白い部屋」を指しているものと思われます。ゲームプレイ中は「兄弟のテーマ」的な使われ方をしていくのかな、と予想していましたが、兄さんうんぬんはゲーム序盤にバッシュと和解することでほぼ解決してしまうため、思ったより長い「引き」にはなっておらず、それ以降は特に関連性のない汎用イベントBGとして転用されていきます。個人的には「FF」でいちばんありがちなタイプの哀しみ音楽だと思っているんですが……。植松氏がやりそうな感じですよね。

基本的には弦楽メインで、あとはハープとウインドチャイム、低音の管が加わるぐらい。パッと聞きのパート数は多くはありませんが、弦だけでいくつも使っているので、印象よりは消費してますね。うーん、やっぱりこの弦の音、あまり好きじゃないかも……。いや、音色単体はともかく、元素材が共通しているのか、波形レベルでの微妙なフランジングが起こっているんですよね。シンセでのシミュレートってここがやっかいなところで、早いパッセージやアタッキーな単音はともかく、こういった長く引っ張る減衰音だと目立つんです。これを避けるには表面上の音色エディットではダメで、使用する元の素材どうしを完全に違うものにしなければなりません。音源や素材集に入っている音って何種類も入っているように見えて、実は素材の加工の過程を変えてあるだけの音色も多く、聴感上は別の音色でも波形レベルでは完全に一致しちゃったりして、それを複数のパートで重ねていくと互いに干渉してしまうのです。具体的にはダブったところがシュワシュワした感じになったり、こもったり、ノイジーになったりといいことありません。この曲についてはいちばん気になるのは1分9秒以降、特に左側にいる弦。
18.サリカ樹林
・サリカ樹林全域
ゴルモア大森林と比べると明るい印象のサリカ樹林、そこにいる魔物もどこかにくめないヤツが多く、曲調も明るくて前向きです。パーカッションの音が木々のざわめき、板場を歩くキャラクターの足音を連想させ、情景へのマッチングはバッチリです。48秒からは「空賊への夢(Disc1-11)」と同じフレーズ。これって「FFXIIのテーマ」ではないし、んー、何かのテーマ的な意味があるのかな?それにしてもイベント曲である「空賊への夢」と森のフィールドBGMとで共通したメロディを使う意図がわからない……。サリカ樹林は空賊や飛空艇と直接関係ない、よなあ……。無理に共通点を探るのであれば、「空賊の夢=空賊に憧れるヴァン」、「サリカ樹林=ホントは飛空艇で行くとラクだけど、帝国の監視網に引っ掛かりたくないからやむなく歩いてる」、つまり両者ともに地を這う者の空への想いを……無理矢理すぎますな。

もうひとつの仮定。もともと「ヴァンのテーマ」的に散りばめるつもりだったメロディとか。違うな。
19.フォーン海岸
・フォーン海岸全域
・ムービー:ビュエルバに向けてシュトラール発進
底抜けに明るくイケイケな、フォーン海岸のBG。泳ぎたくなっちまうじゃねーか!それにしてはコーラス音色なんかも使われていたりして、わりとどんな場面にも充てられそうにしているあたり、シュトラール発進ムービーのために作った曲をフォーン海岸に転用したのかな、という気もします。バトルも行われるフィールドBGとは言え、いくらなんでもやかましすぎる!との声が最も多いのがこの曲だったりします(ネットなんかでの声を拾う限り)。わりと緩急をつけてきたここまでのフィールドBGに比べて、始終煽りまくりですから無理もありません。

まあ、落ち着いた感じのサリカ樹林を抜けて海岸に出て、パーッと青空と海が広がっていたらこの曲アリなんですよ。「暗い場所から明るい場所に出た時の音楽的なメリハリはきっちり付けてほしい」という開発サイドの要望も満たしていますし、隣接したエリアどうしのメリハリもしっかり付けられているじゃないですか。しかし、ツィッタ大草原側から来た場合はどうでしょう?向こうで使われているのは「ギーザ草原(Disc1-25)」、やはりイケイケな感じの曲です。するとイケイケが続いてしまうんですよね。もちろんフォーン海岸からツィッタ大草原に入った際も同じです。もっともツィッタの曲は流用なので計算外だったのかもしれませんけど……。

「テンポを一定に保ちつつ緩急を付けることでシーンやフィールド、バトルの変化を感じさせる」という、本作で主張された崎元氏の意図に対してもこの曲は添っていないのではないでしょうか。「急」ばかりで「緩」の部分がまったくないんですよね。なお、ここまでくれば指摘せずとも皆さんお気付きかもしれませんが、この曲にもテーマが組み込まれていますね。20秒から、コーラスの裏で弦が「
メインテーマ1」を奏でています。
20.宿命
・暁の断片を手に入れるため、自分を誘拐して下さいとバルフレアに申し出るアーシェ
・フォーン海岸ハンターズキャンプにて、アーシェに自分の過去を語るバルフレア
・アーシェに「力を追い求めるならギルヴェガンを目指せ!」と焚き付けるシド
・大灯台でシド撃破後、暴走する繭、倒れるフラン、繭を砕くレダス
・上のイベント直後に挿入されるムービー(シュトラールで塔から脱出したヴァンが「レダス……」)
・ヴェイン=ノウスの攻撃を破魔石で吸収するラーサー、ヴェインに突進するヴァン〜
               去っていくヴェインを追う一行〜ガブラスがバッシュに「悪くない主だろう?」
タイトルそのものを見事に表現している、弦楽中心のヘビーなイベント曲。ゲーム中盤以降で頻繁に耳にする印象がありますが、実はこの曲そのものの使用はそれほど多くありません。多く感じるのは、エンディングなどにこの曲が盛り込まれていたり、わりと重要な印象に残るイベントに充てられているからでしょう。曲自体はわりと同じフレーズを繰り返して進行するタイプのもので、大きく展開することはありません。それも重要なイベントに使うことを前提としているからでしょう、セリフやビジュアルが多くを語る場面において、音楽はあえてあまり出過ぎず、淡々としたものになったのではないでしょうか。

個人的にはバルフレアのテーマ的な使われ方もしているように感じます。フォーン海岸でのイベントもそうですが、シドとの確執と別離を語ってもいますし、エンディングではバハムート落下〜バハムートに留まってグロセアリングを修理しているバルフレア、という場面にこのメロディが組み込まれています。さすが、「この物語の主人公」と自ら主張するだけのことはありますね!え、ヴァンって誰?
21.ソーヘン地下宮殿
・ソーヘン地下宮殿
・レイスウォール王墓で暁の断片の存在を感じるアーシェと、ウォースラのやり取り
・エルトの里にて、ヨーテがミュリンの居場所を「森」に訊くイベント
・ミリアム遺跡で覇王の剣を手にするアーシェ
・リドルアナ大灯台入り口にあるレイスウォールの碑文をフランが読み上げる
・天陽の繭の前でアーシェが覇王の剣を振りかざす〜反応してミストを放出する繭
        〜現れたラスラの幻影に、「破壊があなたの願いなの?」と語りかけるアーシェ
本作に2曲を提供しているゲストコンポーザー、岩田匡治氏によるソーヘン地下宮殿のBG。ソーヘン以外にイベントへの転用も多数なされている曲で、わりとスタッフ受けが良かったんじゃないでしょうか。楽曲はボーカリーズに導かれて静かに始まりますが、その旋律には悲壮感が。46秒からの木管メロディもそれを受け継ぎ、1分8秒からは決意めいたものを感じさせるかのように盛り上がります。かと思うと再び落ち着きを取り戻し、1分45秒からはループ。緩急を付けるということではその厚みの変化と展開の豊富さで飽きさせない仕掛けがなされており、イベントに多用されている要因にもなっていると言えます。

岩田氏と松尾氏の参加は事前に発表されておらず、ゲーム発売後にエンディングのスタッフロールで発覚しました。古くからの崎元ファン、オウガファン、ベイシスケイプの追っかけにしてみれば思わず「あっ」と言うようなサプライズだったのです。
22.一時の休息
・レイスウォール王墓外観(死者の谷)
・ガリフの里で夜、ヴァンとアーシェの語らい〜逃げたかっただけなんだ、と心情を吐露するヴァン
・神都ブルオミシェイス神殿内でアナスタシスと会話(「なに、眠っておるようなものよ」以降)
・アルケイディス旧市街
・リドルアナ大灯台・外観
崎元氏が「個人的に気に入っているが一般受けは良くないだろう」と予測しつつも、「思ったよりイベントなどに使われていたので嬉しかった」、と語るこの曲。なるほど、言われてみればスタッフ受けの良くなかった(?)「セロビ大地(Disc4-1)」と通じるものを感じますね。曲名が何を指しているのかいまひとつピンとこないのですが、まさか寝ているアナスタシスのことではないでしょう(笑)。アルケイディス旧市街ではBGとして使用されており、帝国の本拠地に侵入する前のまさに「一時の休息」となっています。どこか民族的な旋律、そして神秘的な雰囲気を持つ曲で、さらに1分8秒からはまた趣を変えて悲壮感のあるものになります。この展開の豊富さ、要素の多さが「思ったよりも使われた」理由でしょう。
23.水のほとり
・東ダルマスカ砂漠小キャンプ
・東ダルマスカ砂漠ネブラ河沿いの集落
・レイスウォールへ向けて出発するアーシェたち〜ヤクトについてパンネロに説明するヴァン
・フォーン海岸ハンターズキャンプ
・バハムートを止めてダルマスカを守ろうと決意する一行、微笑むアーシェ
集落およびキャンプといった、人々の小規模な生活の場に添えられたマップBGM。この曲が鳴っている場所では戦闘も発生しないため、ホッと一息といったところ。やさしく暖かな、しかしテンポのある曲調は楽しげで、太陽の光がさんさんと差し込む夏のイメージたっぷり。思う存分息抜きして下さい。なお、ゲーム中では出だしの異なる(サントラでの1分2秒〜)別バージョンのファイルも用意されています。
24.モスフォーラ山地
・モスフォーラ山地全域
メインテーマで幕を開ける、モスフォーラ山地のBGM。以後もこのテーマが楽曲全体を支配していきますが、イケイケで進め!的な雰囲気かと思うと一転して危機的な表情も見せたりして、「緩急」こそないものの多様なイメージを含んでおり、次々と敵が襲い掛かってくるモスフォーラ山地において飽きのこない作りと言えます。38秒から51秒にかけては「帝国のテーマ」の変奏も含んでいるように聞こえますね。メインテーマのバリエーションとしてイベントに転用可能な気もしますが、それは一切ありません。

Disc4

01.セロビ大地
・セロビ大地全域
崎元氏が個人的なお気に入りとして常に推しているセロビ大地の曲。その際、「あやうくボツになりそうだった曲」ということも常に語られています。イマいちスタッフからのウケがよろしくなく、崎元氏が「どこでもいいので使って下さい!」と懇願し、なんとかセロビ大地に使ってもらえたという経緯があるんだそうです。もしこの曲がボツになっていたら、セロビ大地にはどの曲が流れたんだろうと逆に気になりますね。ちなみに、ゲーム中での地名は「セロビ地」ですが、サントラの曲名は「セロビ地」になってるのです。ミス?

木管の踊るような旋律で始まるこの曲は、始終どこか神秘的なイメージを放っており、特に34秒以降の美しさは書き表しようのないものになっています。ファンの声を聞く限りユーザー人気は非常に高い曲だと言えますが、前述の通り制作スタッフ的にはボツにしたい曲だったとのことで、そのギャップはどこにあるのでしょうね。おそらくとらえどころのない旋律と、お世辞にもキャッチーとは言い難い曲調が、万人ウケをテーマとしていた大作「FF」最新作には相応しくない、ということだったのではないでしょうか。でもキャッチーな曲だけだと、全体では味が濃すぎていつか飽きてしまうんですよね。こういう「雰囲気で感じさせる曲」も必要なんです。口ずさめるような明快なメロがないのに、雰囲気だけでこれだけ聞かせる曲ってそうそうないですよ。
02.召喚
・召喚獣を呼び出している間
・ギルヴェガン入り口で魔人ベリアスを呼び出すイベント(必須)
召喚獣を呼び出すと流れる曲なのですが、皆さん、召喚獣って使いました?なんかSFC以降の「FF」って、あまり召喚獣を頼りにしたことがないんですよ、個人的に。それより自分でぶん殴った方が強かったり、早かったり。召喚時のグラフィックも最初の一回はいいけど、何度も見てると「わかったから早く〜!」なんて思ったりして。「FFX」では盾としてわりと利用させてもらいましたけど、「XII」ではほとんど呼ばなかったです。なので正直、この曲あんまりゲームで聴いてないんですよね。

そんな人でも必ず一度は、この曲を耳にする機会があります。ギルヴェガンの入り口は「魔人」の力を借りないと開きません。ここでベリアスを使うことに気付かず立ち往生したプレイヤーも少なくないでしょう。松野作品を知っている人なら「魔人ベリアス」はひとつの固有名詞みたいなもんですから「魔人ってことは、ベリアスを呼べばいいんだな」と直感的にわかる(と思う)のですが、そうでない人は……。で、まあここで必ず一度はベリアスを召喚しないと、ゲームが進みません。その際にこの曲が流れるんですね。普段召喚獣を呼ばない人は、この曲をイベント専用音楽だと思っている可能性もあり得ますね。

「召喚獣戦(Disc3-2)」との統一感を狙ったかのようなコーラスの音色(13秒〜)が最大の特徴で、旋律そのものも似せてあるようです。他には明確なメロディを持たせず、せわしないリズムと弦の刻みによって場面に緊張感をもたらしています。一定時間が経つといなくなってしまう召喚獣の、制限時間のある性質を表しているのでしょう。召喚獣は1分30秒経過すると帰ってしまうので、この曲が流れるのは1回につきMAXでそのぐらいということになります。
03.港町バーフォンハイム
・港町バーフォンハイム
ゲーム的には最後に立ち寄ることになる街、バーフォンハイムのBGです。かなり広大で人口も多い街なのですが、港町ということでラバナスタやビュエルバとはまた違う、日差しを感じさせる暖かい雰囲気に満ちたものになっています。弦と木管中心の編成になっているからですね。

この曲、サントラバージョンはゲームで使われていたものとだいぶ違っています。それはゲーム音源とオリジナルバージョンの音色の違いとか質感の違いといったものではなく、もっと根本的なことです。ゲームでの「港町バーフォンハイム」は頭に30秒ほど、「秘密の練習(Disc1-7)」が付いているんですが、サントラではそこを全てカットしてあるんです。これがゲームバージョンの作成時にくっついたものなのか、サントラでの重複を嫌って切ったのかはわかりませんが、ゲームと同じ形で収録してほしかったなあ。もっともこの転用の意図はナゾなんですが。
04.仮眠
・飛空艇でリラックスルームを利用
・キャンプで宿泊
RPGではお約束の「おやすみ」ME。しかし本作では宿屋があるわけでもなく、飛空艇ぐらいしか使用箇所が思い出せなかったのですが……。イベントの合間に挿入されたりとかしてたっけかな?あ、キャンプで聴けましたね。とかいうことを書くためだけにゲームを起動して、あちこち歩き回った筆者……。だってセーブクリスタルで回復できるのに、わざわざ寝ますか?

なお、この短いMEですらしっかりメインテーマのアレンジになっているのです。
05.ゼルテニアン洞窟
・ゼルテニアン洞窟全域
シナリオ上はまったく立ち寄る必要のない、ゼルテニアン洞窟のBG。序盤から入れる場所なのに、ちょっとかないそうにない魔物が入り口付近を徘徊していたりして、そしてこの不穏な、不気味な曲が流れているわけですから、「まだやめとこうかな」という気になるってもんです。実際ここには召喚獣やモブなんかがいるわけですが、本筋を進めるうちにパーティが強くなり、終盤になって「あ!そういえば……」と思い出して行ってみると、ぜんぜんたいしたことなかったり。筆者なんかは「この奥に、クリア後の隠しダンジョンの入り口や強力アイテムが眠っているに違いない」と勝手に確信していただけに、拍子抜けしたもんです。確かにここを抜けないと行けない場所もあるんですが、何のためにあるんだかイマイチわからない洞窟です。

楽曲は他の洞窟……たとえば「魔石の秘密(Disc2-18)」や「迫る脅威(Disc3-12)」と同じように静かに始まりますが、そのおどろおどろしい恐怖感は抜きん出ています。51秒からのティンパニ+低音弦が醸し出す不気味さ、1分27秒からのピチカートのザクザク感はホラーな雰囲気満点。
06.追憶の地
・ナブレウス湿原
・レダス邸でギルヴェガン行きを前に「ヴィエラの古謡」について語り出すフラン
      〜バルフレアとのやり取り〜アーシェに「いまでも石が欲しいか」と問うレダス
こちらもシナリオ上で必須ではない、ナブレウス湿原の曲です。言葉にしにくい独特の浮遊感というか、どこかぼんやりとした感じはモヤのかかった湿原のグラフィックにピッタリとハマってますね。コーラス音色も散りばめつつ、明るさと暗さ両方を内包しながら進んでいきます。いったんは完結するかのようにまとまりながら、1分28秒からは別の曲であるかのような展開が待ち受けており、ヴァイオリンと木管、ハープによる哀愁漂う曲調に。もとからイベントへの転用を考慮してあるかのような構成になっていますが、イベントに使われているのは一度だけに留まっています。なお、この曲は松尾氏によるものです。こういう「展開は多く」「イベントにも使い回すかもしれない」といったようなことは、あらかじめ崎元氏からゲストの方々へ説明されていたのでしょうか。
07.忘れ去られし都
・死都ナブディス
・初めてエルトの里を訪れた際の、ヨーテ登場〜フランとのやり取り
・ミリアム遺跡で、暁の断片が覇王の剣を恐れてざわめくイベント〜ラスラの幻影が現れる
さらにシナリオに絡まない場所、ナブディスのBG。必須でない場所に専用の音楽が充てられているのに、必ず通るツィッタ大草原は流用……ということに拒否反応を示す人がけっこういますね。もともとイベント用を想定して作った曲をナブディスに流用した可能性もあるわけですが……。さて、木管と弦を中心とした構成は「追憶の地」を引き継ぐかのようで、ナブレウス湿原からナブディスへの流れとしてトーンが統一されています。それもそのはず、こちらも松尾氏の曲でした。なんか本作においては松尾氏、変拍子だらけの難解音楽ばっかり作っている気がするんですけど……。
08.幻妖の森
・幻妖の森全域
・バッシュがオンドールへアーシェ救出に協力してくれないかと願い出る
・上からの続きで、ビュエルバにやって来る帝国艦隊〜オンドールに捕らえられるヴァンたち
これも「あっ、まだここは来てはいけない場所だ」と思わせるタイプの曲ですね。ゲーム上の進行から外れ、パラミナ大峡谷から幻妖の森へ寄り道……うっそうとした雰囲気と見たことのない魔物、そしてこの音楽。プレイヤーを寄せ付けない雰囲気に満ちています。本来はゲーム終盤、ギルヴェガンへと至る道筋で耳にすべき音楽ですから、終局へと導くような重さと敵の強さを感じさせる恐怖感は欠かせない要素。ズーンとしたイントロで這いずり回るトレモロストリングスが醸し出す恐怖感は一級品。その後もティンパニによるリズムに乗せて、管・弦・コーラスが一体となって煽り立ててきます。トドメにドラまで鳴ってます。
09.アーシェのテーマ
・ガラムサイズ水路に潜入したウォースラに女性(アーシェ)が歩み寄る
・ガラムサイズ水路で帝国兵に追い詰められるアーシェ〜「飛び降りろ!」〜直後のバトル
・ギルヴェガン進入直後にラスラの幻影を見るアーシェ〜そのまま外観部分のBGへ
・リドルアナ大灯台地下層
知らなければ「アーシェのテーマ」とは思わないだろう曲。普通、ゲームで女性キャラのテーマって言ったらさ、ピアノとか弦とか木管で優しく、美しく……ってのがパターンでしょう。前半はそうかもしれませんが、イントロから何か不穏な感じですし、まあその後は「決意の王女」って感じで納得なんですけど、この後半(1分36秒〜)の恐さはなんですか!どこにアーシェがいるのですか?大灯台の印象しかありません。というか、これを「アーシェのテーマ」とするなら、それがダンジョンBGMとして流用される意味がわからない!誰か教えてプリーズ!……取り乱してしまいましたが、21秒からがアーシェのテーマモチーフです。これは「王女の幻影(Disc2-1)」にも使われているフレーズになります。

まあ、なんやかんや言っても後半も好きなんですよ。普通にカッコイイですし。もっとアーシェのモチーフを絡めていればさらに良かったのですが……。そしてそれをガラムサイズ水路での、アーシェ(アマリア)と出会って以降とかに使えば意味も出てきたんですけどね。ただし、キャラクターテーマとしては明らかに失敗と言えるでしょう。「メインテーマ」「帝国のテーマ」という2大テーマが既にあり、さらに個々のキャラクターテーマを使うのならば、よほど上手く効果的に使わない限り印象に残らないものになってしまいます。「アーシェのテーマ」がまさにそうで、ヘタに大灯台地下層に流用しているため、よほど注意深く音楽を分析していない限り、ほとんどのプレイヤーがこの曲を「アーシェのテーマ」と認識することはないでしょう。では大灯台地下層に立ち寄っていないプレイヤーはどうか?ということですが、そもそも本編でこの曲が流れること自体が稀であるため、やはり効果的なものにはなっていません。「王女の幻影」の存在によってかろうじて、鋭い人であれば「あれ?アーシェの曲だ?」と気付くかどうか。

河盛氏によるとこの曲も微妙に難題だったようで、「いろんな楽器が入れ替わりながらメロディを演奏するので、うまくメロディを立たせながらバランスを取りつつ、ニュアンスを伝えるのが難しかった」とのこと。そりゃあ前半・後半でここまでいろいろな要素が入っているのですから無理もないですね。本作にはこの曲のみならず、そういった楽曲が多いような気もしますが。

ゲーム中ではイントロのみで完結するショートMEバージョンも用意されており、ガラムサイズ水路でアーシェが初めてその姿を現す際に短く使われています。もっともこの時は顔が見えずアーシェとはわからないのですが、音楽的にはしっかりと関連付けようと試みられてはいます。また、後半部分(1分35秒〜2分38秒)のみをループするファイルも用意されており、これが大灯台地下層で使われています。
10.ギルヴェガンの謎
・古代都市ギルヴェガン内部全域
・ルース魔石鉱にて人造破魔石を取り出すラーサーと、そんな彼を問い詰めるバルフレア
・ティアマット戦後、ミュリンの登場。その手には人造破魔石、そして背後には何者かが……
ゲートとスイッチの関係にピンと来ず、あちこち駆け巡っては立ち往生する人が続発したギルヴェガンのBG。さらに「火の門から先に進めない」という人が続出した場所でもあります。神に近い場所ということで全体に神秘的なイメージでまとめられています。かなり長いことウロウロすることになったため、「チャーラーラーラー」という悲壮感たっぷりの旋律とコーラスが耳にこびりついて仕方がありません(笑)。一周1分18秒と、本作のダンジョンBGとしては短めであることもその理由。短い曲って覚え易いですからね。
11.神々の場所へ
・クリスタルグランデ内部全域
出た!敵の強さ、そしてマップの難解さで言えば間違いなく本作の隠しダンジョンである、ギルヴェガン内クリスタルグランデのBG。行けども行けども似たような景色にわかりにくい地名、いくつもあるゲートと転送装置にギブアップした人多数というウワサです。当サイトではマップを載せたりもしてますので参考にして下さいね。で、その難解な場所をウロウロする間にえんえんと聴くことになるのがこの曲なわけです。最大の難易度を誇るダンジョンであるにも関わらず曲にハードさはなく、3拍子のいわゆるワルツのリズムはどこか呑気。曲までハードにすると疲れてしまうからという配慮があるのかどうかはわかりませんが、これに癒されながらやる気を保つか、逆になんとなく気が滅入ってしまうかはプレイヤーしだいですね。
12.終局の始まり
・リドルアナ大灯台下層「見極めの礎域」
・ドラクロア研究所にて、突如現れたレダスがバッシュに斬りかかる
・大灯台クリア後、レダス邸に現れたアルシドが「戦争が始まります」と告げるシーン
・ヴェイン=ノウスに斬り付けるガブラス〜ヴェインが「許さんぞ、ガブラス!」
大灯台下層の曲、という解説が最も適切だとは思いますが、他のイベントにも転用されている曲です。いずれもゲーム終盤であるため、サントラで聴いても「いよいよラストだなあ」と感じてしまいます。フィールドの雰囲気とバトルの緊張感が良い具合に融合した曲。疾走感がありつつも低音域を中心にしてまとめられているため、重い宿命を背負って頂を目指す者たちの決意、覚悟といったものまで感じさせます。
13.頂上へ
・リドルアナ大灯台中層「裁し律する封域」
続いては大灯台中層の曲。下層とはまた違った、跳ねたような雰囲気が特徴です。無難にまとめられたという印象で特筆することもなく、下層と上層のまさに「繋ぎ」といった感じ。上層で鳴り響く「剣の一閃(Disc2-2)」を立てようという意図でしょうか。しかし、下層・中層としっかり曲を用意しておきながら、上層で「剣の一閃」という既出曲(しかもボス戦の曲)が流れることについては、あまり肯定的に捉えているユーザーはいないですね。筆者としてはシナリオ上での最大のヤマ場へと至る上層において、メインテーマアレンジが組み込まれた「剣の一閃」が流れること自体はアリだと思いますし、実際ゲーム中で聴いた際には「おっ、きたきた」とノッてしまったクチなんですが、あとから流用の意図を検証してみると、それほど明確なものが思い浮かびませんでした。上層が「ボスオンパレード」みたいなフロアだったらまだわかるんですが……。
14.空中要塞バハムート
・ヴェインの「アルケイディア万歳!」〜ついに開戦ムービー〜やって来るシュトラール
・バハムート内BG
いよいよやって来ました、ラストダンジョン「空中要塞バハムート」のBGです、なんてことは曲名を見れば一目瞭然でしたね。ラスダンらしく管弦一体となり、オーケストラ全体で盛り上げていきます。上を目指せ!という意気込みと疾走感、迫り来る敵との戦闘を繰り返す緊張感もじゅうぶんに盛り込まれていますが、他のダンジョンに比べて冒険というか遊びがないというか、非常に真面目に、言い換えれば無難に作られた曲だと感じます。敵国の最終兵器ということでもっと「帝国のテーマ」が組み込まれるかな、と予想したのですが、イベントやボス戦で「帝国のテーマ」はしょっちゅう流れるんですよね。それでBGであるこの曲にまで組み込むと、バハムート内部はどこもかしこも「帝国のテーマ」だらけになってしまうわけで、あえて主張しない方向を選んだのでしょう。それでも緩急はしっかり付けられており、背景音楽としてしっかりメリハリは効いています。
15.揺れるバハムート
・バハムート内のショートイベント「勝ってアーシェは女王様だ」〜「一緒に来たし、一緒に行くんだ」
短いイベント専用曲なのですが、「FFXII音楽メドレー」とでも言うかのように色々な曲が紡がれています。最初は「ガラムサイズ水路(Disc1-27)」と同様のメインテーマ3、5秒からは「迫る脅威(Disc3-12)」に聞こえます。12秒からは特定しにくいのですが、26秒からがメインテーマ2ですね。
16.自由への闘い
・ヴェーネスに呼びかける瀕死のヴェイン、ヴェーネスとのやり取り「覇王になりそこねた」〜
   ヴェインがさらに変化してゆくムービー〜不滅なるものとの戦闘
ヴェイン第二形態(ヴェイン=ノウス)戦終了後のイベントからムービー、そして最終戦へと貫かれている、いわゆるラスボス音楽です。力を失ってヨロヨロと歩くヴェインとヴェーネスの会話、周囲の機械を取り込んでカチャカチャと変身するヴェイン、そして不滅なるものとの戦闘が幕を開けます。そして、ゲーム開始直後から張り続けて来た音楽的伏線が集束する場でもあります。ここまでサントラを聴いてきた方にはすぐに気付くでしょう、この曲、戦闘が始まってからは「帝国のテーマ」と「メインテーマ」を交互に奏でて構成されていることを。解放軍VS帝国の最後の戦いに相応しい楽曲であり、これ以外にあり得ないものになっています。もし、本作でここまでこの2大勢力のテーマで押してきたのにも関わらずラストがこのような曲でなかったなら、ちゃぶ台引っくり返し状態というか、テーマがすべて無意味なものになってしまったことでしょう。最終戦はこの曲、というよりこの手法によって作られた楽曲以外にはあり得ないのです。想像を絶するヴェインの猛攻と、屈せず反撃するプレイヤー、完全にはシンクロするはずもないですけど、メインテーマが鳴り響く時には思わず気合が入りませんか?音楽に注意を注いでいないプレイヤーにどこまで伝わっているかはわかりませんが、テーマを使うということはこういうことなのです。

当初、最終決戦は導入イベントと戦闘開始後で音楽を2曲に分ける方向で考えられていたようですが、一連のシーンを見た崎元氏が「イベントの流れに合わせて曲を合体させた方がいい」と判断し、このようになりました。こうなった時に誰よりも驚いたのが河盛氏でした。お聴きのように長い曲で、かつ使われている楽器(パート)も多いため、1曲として扱うには実機のメモリ的な制約からかなり困難であることは素人目にも予想できます。最初に崎元氏から「1曲の方がいいですね」と言われた河盛氏もさすがに「えっ、2曲ですよね?」とリアクションしたとか。ここまでわりとどんな曲でも「大丈夫ですよ」と言いながらデータを受け取ってきた河盛氏が、明らかにうろたえたのがこの曲だったのです。それでも実際にイベントを見た河盛氏は「確かに1曲の方が流れが良かったので、これはやるしかないなと」腹を括ったそうです。

とまあ、崎元バージョンとゲーム音源を比較した際の相違について賛否あることは何度も述べてきましたが、やっぱり河盛氏を批難している人々に対して筆者は異議を申し立てたいところですね。それは例えば、オーケストラ音楽をMIDIで再現した人に対して「音がショボいよ」とイチャモン付けるようなもので、同じものになるわけがないんです。実機でサントラのような音が鳴るなら、高価なシンセや音源なんて必要ないわけで。あえて言うならという前提であれば、非があるとしたら作曲者である崎元氏の方ですよ。実機での制約を考慮せず、たくさんのパートと豪華な音色を使いまくって原曲を作り込んだ崎元氏が悪い(って言っちゃうと語弊ありますが)。それは崎元氏自身も認めており、「自分もマニピュレーターの経験があるが、もし今回のような曲がきたら、間違いなくキレる」と発言しています。無茶は承知だったわけです。

昔はいざ知らず、現在のような制作環境になってからの崎元氏は、まず実機の制約を考えずにMAXで曲を作り、後から実機に合わせて落とし込むやり方を採っているわけです。場合によってはストリーミングでそのまま流せてしまえる、今のゲーム音楽だからこそ可能な手法ですね。内蔵音源のことは後で考えよう、ってことです。ストリーミングが使えず実機のスペックも貧弱だった時代なら、それで苦労するのは自分ですから最初から考えて作ったでしょうが、今はプロのマニピュレーターが付きますし、誤解を恐れずに言ってしまえば依存したスタイルなわけです。同時にそれは本作のマニピュレーター=河盛氏が持つスキルの高さを信頼してのことなんですね。マニピュレーターがイマイチな人であることが最初からわかっていたら、さすがの崎元氏でももうちょっと割り切って作るでしょうし。

あとゲーム発売前の、楽曲の露出にも問題ありましたね。公式サイトでは数曲が早くから公開されていましたし、トレイラーなどでゲームの曲を聴くこともありましたが、いずれもゲーム音源ではなく崎元バージョン(サントラと同等の音源)だったのです。そして一足早く体験版をプレイした人々が「音楽がこれまで聴いてたものと何か違う」と騒ぎ始めてしまった、という経緯がありました。その時に「本編は内蔵音源らしいぞ!」と、事情通を気取るファンが必要以上に事を荒立てたのも作品にとってはマイナスの方向に作用したと言えます。
17.闘いの結末
・不滅なるもの戦終了後
広がる青空に、プレイヤーを讃えるかのような晴れやかな解放軍モチーフ(=メインテーマ)。ヴェインとの、帝国との戦いは終わった……いや!終わっていない!まだ帝国軍と解放軍は激しい戦いを続けている。次は彼らを止めなければ!最終戦直後に挿入される、短いイベントの専用曲です。エンディングの前にトイレは済ませておきましょうね。長いですよ〜。
18.エンディング・ムービー
・エンディングムービー前半
本作のエンディングは大きく3つに分けられます。最終戦直後の事態収拾ムービー、パンネロのモノローグによって進行する後日談、そしてスタッフロールです。この曲はエンディングでも最終戦直後、停戦からバハムート落下阻止までを彩る曲になります。「オープニング・ムービー(Disc1-3)」同様、本作で数少ないオーケストラ録音がなされているトラックでもあります。もちろん編曲は松尾早人氏で、収録は「オープニング・ムービー」と同じ日に行われました。

ヴェインは倒れた、しかしその事実を知らない両軍はなおも戦いを続けています。それを止めるために動き出すアーシェたち。43秒からの帝国テーマはシュトラール内でのガブラスとバッシュ、ラーサーの会話。1分25秒からの解放軍モチーフ(
メインテーマ2)が鳴り響くとヴァンの手によってシュトラールはバハムートから離れ、再度の帝国モチーフ(1分47秒〜)はバッシュ演ずるガブラスとラーサーが停戦を呼びかける場面。2分58秒からのコーラスの盛り上げは「私たちはもう、自由です!」。……しかし、機能が停止したバハムートはラバナスタへ落下し始めているのです!逃げまどうラバナスタの市民たち、特攻してでもバハムートを食い止めようと決意するジャッジ・ザルガバース。3分53秒からの「宿命」のアレンジは……バハムートに残ってグロセアリングを修理しているバルフレアとフラン。早く脱出を!アーシェの悲痛な絶叫も虚しくバルフレアたちの姿は確認できぬまま、それでも彼らの活躍によってバハムートのラバナスタ直撃は回避できた……。最後は雄大な解放軍モチーフで締め括ります。
19.Kiss Me Good-Bye -featured in FINAL FANTASY XII-
・エンディングムービー後半(パンネロのモノローグによるエピローグ)
本作では「挿入曲」と位置づけられている歌モノで、植松伸夫氏による唯一の「FFXII」オリジナル曲です(アレンジは福井健一郎氏)。ゲームではエンディングムービーの後半、パンネロのモノローグによる後日談部分で流れます。歌うはアンジェラ・アキで、美形で日本語(しかも関西弁)・英語どちらもペラペラ、作曲もできれば歌も上手い、誰だ「天は二物を与えず」なんて言ったのは!与えられまくってるじゃねーか。えー、コホン。彼女が参加した経緯はこれまでのFFシリーズと一緒で、スタッフによるCD持ち寄り試聴会を開いた際に決定しました。それが2003年で、まだアンジェラ・アキはデビュー前。デビューしてない人のCDがなんであったの?という疑問もありますが(笑)、「メジャーデビュー」ということなんでしょうか?あれ〜、インディーズデビュー(ミニアルバム「ONE」)も2005年なんですけどぉ。アンジェラ本人も「皆さんに聴いてもらったのは自宅で録音したようなデモテープでした」とか言っちゃっているので、それってオーディションじゃん、という気がしないでもないです。

楽曲の制作は歌い手がアンジェラに決定した後。植松氏が曲を作ってからそれをアンジェラに渡し、自由に作詞してもらったそうです。しかし、実は植松氏、曲をアンジェラに手渡す直前に作り変えたそうで、もしかすると別のメロディだった可能性もあったとか。「何かやり残しているような気がして急遽変更しちゃった。でもたぶん今のメロディで正解だったと思いますよ」とは植松氏の談。

歌詞はゲームの映像やシナリオを見聞きして書いたのではなく、曲を最初に聴いた時に感じた「切なさ」から「これは別れの歌なんだ」と思って書き上げたとのこと。そしてまず書いたのは英語詞で、それがゲームで使われたものになります。さらに、「せっかくいい曲になったのだから」という植松氏の発案で、「FFXII」の主題歌ではなく、アンジェラ・アキのナンバーだったら、という想定で日本語詞バージョンも作られたそうです(サントラには未収録)。その時点で曲名は決まっていませんでしたが、植松氏が「これはもうKiss Me Good-Byeしかないでしょう」ということでそれに決定。ちなみに「Loves Memory」という案もあったとか。これも歌詞の一部分ですな。

そうして出来上がった曲を映像に合わせた際、あまりのピッタリ加減にお二人とも驚いたそうで、「植松さんは映像を見ずに曲を書いてるし、私はストーリーを知らずに歌詞を書いたのに」とアンジェラが語っていますが、うーん、それをエンディングで流していいのですか……?そのへんのタイアップ曲とあまり変わらないような気がするんですけど……。なんて感じでレビューが後ろ向きになってきたところで言っちゃいます。筆者はこの曲を「FFXII」の関連楽曲として認めたくはありません。なんか、すべてが言い訳じみているんですよ。「挿入曲」とか言いながらエンディングのいちばんいいところで流れてるところなんか、どうなのよ?曲そのものは良い曲なんですよ、それを否定するつもりはないです。とは言え英語詞の曲としては「Eyes On Me」を超えているとも思いませんが。

ここでちょっと、2003年11月の制作発表会を振り返ってみましょう。植松氏は「まだどこで使われるとは言えないんですが、ゲーム中で非常に重要となるシーンで流れる"歌"を中心に作ってます。今回は僕だけでなく、崎元仁くんという僕の大好きな作曲家といっしょにやっています」と語りました。今さらな指摘になりますが、この言い方はどう考えても「Kiss Me Good-Bye」以外の曲も何曲か(植松氏が)作ってるということですよね。「"歌"を中心に」という言い方しかり、「崎元くんといっしょに」しかり。エンディング用の歌モノだけを作るということがハッキリしていれば、絶対にこういう言い方にはならないでしょう。まあそれはいいです。気になるのは「まだどこで使われるとは言えない」「重要なシーンで流れる」というくだり。普通、歌モノを作っていると言われれば、たいていの人は「エンディングテーマだろうな」と予想するでしょう。それに対して「どこで使われるとは言えない」「重要なシーンで流れる」というのは不自然では?というか、伏せる意味がない。確かにエンディングは重要なシーンですけど、そんな思わせぶりな言い方をするようなものでもないと思うのです。この言い方は、誰もが想像できないようなシーンでの驚くような使い方を想定してのものだと断言できます。つまり、この段階では植松氏の作る歌モノは「もっと別のどこか」で流れるハズだった、ということです。

さらに同じ発表会での松野氏のコメント。「"VIII"以降、歌の要素は非常に重要だと考えています。その意味では、今作においても歌の占める位置は大きいとお考え下さい。エンディングロールで流れるだけのような形では使いたくないなと思っています」……でも、結果はまさにそういう使い方になっているではありませんか。しかも「歌の占める位置は大きい」とは到底思えない使われ方で。また松野氏も言っているように「FFVIII」以降、これまで主題歌が抜群の意味と効果を発揮してきたのは、その主題歌のアレンジバージョンをゲーム中に散りばめてきたからこそ。本作ではそれもありません。崎元氏が徹底してテーマにこだわって構築してきた音楽的世界観を、エンディングのいちばん良いところでブチ壊していると言ってもいいでしょう。そう、唐突なんです。ならば、この曲をアレンジしてゲーム中で使用していれば解決したのかと言われれば、それも違うでしょうけど。メロディで伏線を張ればオッケー、というわけでもない。「なんでこの曲が本作で使われなければならなかったのか」というところです。

単純なセールス狙いのタイアップでも、話題性重視のコラボレーションでもない。今はともかく発表時点でのアンジェラ・アキは一部を除いてほぼ無名でしたし、売りたいだけなら有名どころとやればいい。でも、それはやらなかった。では、この曲にどのような意味があるのか?つまり、最近の「FF」で徐々に遠のいていく植松氏の存在に拒否反応を示すファンに対して、「ほらほら、今回も植松サンはちゃあんと参加してるんですよ〜、関わってますよ〜、だからこれはFFなんですよ〜」という言い訳がこの曲なんだと。もっと言えば、もうスクエニの人間ではなく他のゲーム作品やコンサート活動で多忙な植松氏が「FF」に関わるのは、もうこれぐらいが限界なんだと捉えるべきでしょう。「FFXIII」も同じような関わり方になりそうですし。寂しいですけどね。
20.交響詩「希望」 Symphonic Poem "Hope"〜FINAL FANTASY XII PV Ver.〜
・エンディングスタッフロール部分
「Kiss Me Good-Bye」を酷評したところで、ついでに暴言吐く気マンマンの筆者、そう「希望」です。こちらもいらんコラボレーションと言ってしまえばそれまで。葉加瀬太郎氏はクライズラー&カンパニーの頃からファンでしたし、今でも好きなんですが、本作に限って言えば「最高の蛇足」です。身を粉にして本作に尽くしてきた崎元氏の姿が、終局に向けてだんだん見えなくなっていくというのはどういうことですか?「希望」は単体では間違いなく名曲ですしキャッチーなのですが、本作で流れる意味がまったくわかりません。確かにメインテーマの変奏は組み込まれていますし、葉加瀬氏は崎元氏のテーマも聴いたうえで作ってますから、「Kiss Me Good-Bye」に比べたら本編との関連性は高いです。しかし、崎元氏だってこれに劣らないエンディング……、本編の楽曲を紡いできた崎元氏だからこそ作り得たエンディング音楽が存在したはずだと考えると、なんとも残念な気持ちになりませんか?

葉加瀬氏とのコラボレーションが発表されたのは2005年12月に開催された「FFXII」記者発表会。そこには実際に葉加瀬氏本人が現れ、「数年前に依頼を受けて、こんなゲームだ、キャラクター、世界観はこんな感じで……と、本当にいちばん最初から関わらせてもらいました」「音楽担当の崎元さんとも会って、彼が作った曲も聴かせていただき、そこからインスパイアされて(「希望」を)作りました」と語っていました。しかし、筆者が気になるのは、この発表会における「希望」の紹介のされかた。「FFXIIのメインテーマ」という冠が付いているのです。賢明な方ならお気付きの通り、「メインテーマ」は崎元氏の曲以外にあり得ず、世間に対して誤解を招く表現はいかがなものかと。さらに同時に配布されたリリースに「共通のメロディをゲーム本編の随所に使用する」とあったことから、「希望」のアレンジがあちこちに使われるのでは?という誤解も生みました(事実、そう報じたゲーム誌もありました)。

なんかなー、「アンジェラ・アキだとちょっと弱いな、もうちょっと有名どころとタイアップできないか?」という思惑を感じるんだよなー。この発表会で同時に「サントリーからポーションが出ますよ」なんて発表されたこともあって、とにかく話題作りに必死、という感じが拭えません。度重なる発売延期と松野氏のリタイアなどネガティブな要素が多く、作品に不安を抱いていたユーザーが少なくなかっただけに……。

曲は言うまでもなく素晴らしい出来。葉加瀬氏が「映画のサウンドトラックを作るような気持ちで作らせていただきました」と言うだけに、聴き応えはじゅうぶん。重々しい前半部、そして2分からの最もキャッチーな後半部分ともに完璧な仕上がりと言えます。特に後半のヴァイオリンによる旋律はPVやCMで頻出しただけに、発売前から直後にかけては「FFXIIの顔」にもなりました。一般層には「すげえなー、今のゲームは音楽を葉加瀬にやらせちゃうんだ」と思わせるにじゅうぶん、PRとしては最高級の効果を発揮したことでしょう。まあ、詐欺ですけど。エンディングの最後の最後、スタッフロールだけに唐突に流れる曲がメインテーマですよ、なんて筆者は絶対に認めません。そもそもこの曲や「Kiss Me Good-Bye」がソフト発売前にあれだけ露出してしまっては、崎元氏の曲の出る幕がないじゃないですか。本編で「これがメインテーマでござい」なんて言って解放軍のテーマとか聴かされても、事情を知らないユーザーにしてみれば「あれ、葉加瀬じゃないの?」なんてね。

「Kiss Me Good-Bye」はともかく、「希望」のメロは本編でも使ってほしかったですね。そうすれば納得できたんですけど。なお、サントラ収録のものは曲名に「PV Ver.」とあるように、プロモバージョンであって実際のゲームで流れるものとは違います。そのためメインテーマを組み込んだ部分がバッサリ落とされており、サントラとしては不満の残るものになってしまいました。即ち、ゲームのエンディングバージョンは未CD化ということになります。足りない部分はシングルCDで補完しましょうね。ついでに記しておきますと、サントラの発売が一度延期になったのは、「Kiss Me Good-Bye」もしくは「希望」の権利処理がうまくいってなかったから、なんてウワサもありました。
21.FINAL FANTASY XIIのテーマ(制作発表会バージョン)
ゲーム未使用曲
制作発表会で披露されたムービーに充てられていた楽曲でゲームでは使われていませんが、サントラには特別に収録されました。FFでおなじみの「プレリュード」から始まるあたり、古くからのFFファンに対する「引き」を最大限に意識しています。38秒からのブロックは「メインテーマ1」、続くは製品版のオープニングムービーにおけるパレードシーンに使われているファンファーレ調の楽曲。1分20秒あたりから聞こえてくるおなじみのフレーズは「解放軍のモチーフ」というか、これがそもそも「FFXIIのテーマ」的な意味合いを持たされていたんですね。以後もこのメロディをリフレインして進行します。

ただし、サントラ収録のこのトラック、厳密には本当の「制作発表会バージョン」ではありません。また、同名の楽曲がi-tunesミュージックストアで配信されたり、ゲーム雑誌の付録に収録されたこともありますが、いずれも実際に制作発表会で流れたものとは異なっています。

関連CD
葉加瀬太郎 交響詩 「希望」

HATS UNLIMITED INC.  HUCD 10014/B
2006年3月1日発売   JASRAC表記:
あり

「希望」葉加瀬名義のシングル盤。シングルでは第一楽章から第五楽章に別れています。第一楽章はゲームのスタッフロール序盤に添えられていた、重々しく切ない弦楽。第二楽章は勇壮なマーチ。第三楽章は崎元氏の「メインテーマ」の変奏で幕を開ける、CMやPVで多用された最もキャッチーな部分で、コーダでもバイオリンで崎元テーマを提示。甘く切ない第四楽章「ロマンス」を挟み、第五楽章で第三楽章をリプライズして完結します(ここでは崎元テーマはなし)。作曲は葉加瀬氏と鳥山雄司氏の連名で、アレンジは鳥山氏。録音はかのアビィロードスタジオで行われ、楽団はロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラ。

左のジャケット画像は、「希望」をバックにゲーム映像を紡いだPVを収録したDVDとの2枚組、「スペシャルパッケージ」のもの。楽譜のアップをあしらった通常盤(HUCD 10015)も発売されています。
アンジェラ・アキ 「Kiss Me Good-Bye」

Epic Records(Sony Music)  ESCL 2808〜9
2006年3月15日発売   JASRAC表記:
あり

1曲目に日本語バージョン、4曲目にゲームと同じ英語バージョンの「Kiss Me Good-Bye」を収録したマキシ。英語バージョンは植松氏の片腕、黒魔でもおなじみの福井健一郎氏がアレンジを担当。日本語バージョンはそのオケにボーカルだけ乗せ換えたものじゃないの?と思われるかもしれませんが、まったく別のオケになっています。プロデューサーでもある松岡モトキ氏による別解釈のアレンジもぜひ聴いて下さい。原曲(英語Ver)のイメージは損ねていませんよ。
アンジェラ・アキ 「Home」

Epic Records(Sony Music)  ESCL 2848〜9
2006年6月14日発売   JASRAC表記:
あり

1曲目に、シングルから日本語バージョンの「Kiss Me Good-Bye」を収録した、アンジェラ・アキメジャーデビュー初フルアルバム。「心の戦士」「This Love」など先行シングルを含む全13曲。初回盤付属のDVDにはシングル曲のPVはもちろん、「FFXII」の「完全オリジナルムービー〜Final Edition〜」を収録。ここだけでしか見られない特別な映像ですので、本編のファンも要チェックです。
イメージ ITMS「THE BEST of FINAL FANTASY XII」

CDではないですけど、i-tunes music storeにおいて1500円でダウンロード販売されている、「XII」サントラのベストセレクション。「オープニング・ムービー」「東ダルマスカ砂漠」「帝国のテーマ」「アーシェのテーマ」「セロビ大地」「パンネロのテーマ」「切迫する事態」「剣の一閃」「一時の休息」「フィイナルファンタジーXIIのテーマ(ゲーム未使用)」「チョコボFFXIIアレンジ Ver.1(ゲーム未使用)」の全11曲。バラで購入すると1曲150円なので、まとめて買った方がおトクです。「セロビ大地」や「一時の休息」、そして「パンネロのテーマ」が入っているあたり、セレクションはひょっとして崎元氏がしたもの?と思ったら、やはり崎元氏によるもののようです。

他のゲームにおける「FFXII」の音楽
DQ&FF in いたストSP スクウェア・エニックスから発売されているPS2用ソフト「ドラゴンクエスト&ファイナルファンタジー in いただきストリート Special」では、タイトルの通りドラクエキャラ・FFキャラが夢の共演。さらに音楽もドラクエとFFのものが使用されています。ゲームのリリースは2004年ですから「FFXII」よりもだいぶ先行しているのですが、そこからゲストとして「XII」キャラが参戦。もちろん音楽も使われているのです!「ラバナスタ市街地(FFXIIでは王都ラバナスタ/市街地上層)」「パンネロのテーマ」「ナルビナ地下雑居房」「地下闘技場(「FFXII」では「蛮族」)」の4曲がそれ。アレンジは、ゲストコンポーザーとして「XII」本編にも参加した松尾早人氏。ちなみに松尾氏は「いたストSP」でのFF音楽すべてのアレンジを手掛けており、懐かしいシリーズ音楽の新アレンジが楽しめるということだけでも価値アリな作品です。また、2006年リリースのPSP版「ドラゴンクエスト&ファイナルファンタジー in いただきストリート ポータブル」にも「FFXII」のキャラと音楽が出張。ここでは「ボス戦」と「東ダルマスカ砂漠」を新たに聴くことができます。もちろんこちらも松尾氏アレンジです。ここまで追いかけてこそホンモノ!

「FFXII」の効果音について
「FFXII」の効果音は、かつて「ベイグラントストーリー」でも崎元氏と組んだスクウェア・エニックスのサウンドエフェクトディレクター、矢島友宏氏がチーフとなって製作を担当(ちなみに崎元氏は「ベイグラント」開発当時のみ、およそ2年半社員としてスクウェアサウンズに在籍)。「ベイグラント」の時は崎元氏・矢島氏それぞれがやりたいことを最大限で持ち寄ったためにサウンドトータルとしてのバランスに破綻が生じ、かなり本気で「根っこの部分でぶつかり合った」、つまり大モメしたというのは有名なエピソードですが、本作はそれを経ての2度目のタッグだったため、作業はスムーズに進んだようです。

「ベイグラント」の時は効果音は効果音、音楽は音楽で好き勝手に製作。すると、それらが同時に鳴った時にとんでもないことになったわけです。音楽は何を語るべきか、効果音は何を表現すべきかということを考えずにそのままぶつけ合ってしまったんですね。激しいシーンではアタックの強い効果音が必要になりますが、当然音楽も盛り上げようとしてきます。単純な効果音と音楽の音量バランスの調整ももちろん、効果音に足りない低音・高音域を音楽がカバーするとか、またその逆もしかりで、それぞれの役割をふまえたうえでのトータルな「音の集合体」ということを最初から意識して製作にあたったのが今回の「FFXII」だということです。音楽と効果音は無関係ではなく、最終的に同じスピーカーから同時に送出される以上、互いへの配慮が最終的な作品としてのクオリティアップに密接に繋がってくるのです。

さて、効果音と一言に言っても、大きく分けて2種類があります。ひとつはゲーム内でプレイヤーの操作とともにリアルタイムで発音される音。もうひとつはムービーなどの映像に充てられる完パケの音です。まずはゲーム内の効果音について……最初に思い付くのは、メニュー画面などにおけるカーソル音、決定音などですね。あとは魔法の音なんかもそうですし、戦闘中の打撃音、移動時の足音……数え上げていくとキリがありませんが、そういった音をすべてゼロから作る気の遠くなるような仕事です。特にアイテム使用時や魔法の音は現実にない音だけに、担当者のイマジネーションがすべてになってきます。それら、使用したもの・未使用のもの含めて製作した効果音は3万6千個と言いますから大変なものです。RPGの中でもケタ違いではないでしょうか。

アイテム音、魔法の音といった「現実にない音」はサンプリングではなく、基本的な波形の組み合わせでいろいろな音を作り出す、いわゆるシンセサイズによって表現されています。もっとも現実にない音ですからサンプルの取りようもないのですが、効果音作りの基本的な手法であるシンセサイズが、今でも欠かせないテクニックとなっていることに注目して下さい。さて、アイテムや魔法と言っても「FF」には様々なものがありますが、「ファイア」「サンダー」など現実音としてイメージし易いものについては、その効果音の製作も比較的容易ではありますよね。「これがファイアの音です」と聴かされた側も、「ああ、これね」と理解し易い。しかし、「回復」といったイメージしにくいものは音にするのも難しくなります。矢島氏が特に苦労したと語るのが、やはり「ケアル」や「ポーション」などの効果音。さらに同じ回復でもMPを回復する「エーテル」、HPとMP両方を回復する「エリクサー」で違う音を作らなければならないのです。50種以上の音をボツにして、最終的には炭酸飲料の発泡をイメージした清涼感のある音を基本軸としたとのこと。

足音は足場の素材やキャラクター別にバリエーションを用意したうえで、音の強弱・遠近・位置はゲーム内でリアルタイムに算出し発音。キャラクターが「右側の遠いところにいる」のであれば、定位を右に寄せて音量を遠ざける、というようなことをグラフィックと合わせて処理しているのです。これはプレイヤーの操作によってまちまちとなる要素ですから、リアルタイムにやるほかありません。最初から「大きい足音・小さい足音」や「右に寄った足音」「遠い足音」を収録しているのではなく、特定の音を実機上でコントロールしているということです(ムービーやイベントシーンの効果音はユーザーの操作によって状況が変化することはないので、事前に定位や音量をしっかり処理したものが流れています)。とは言え、「音の表情」までは機械的にはコントロールできません。例えば、立ち止まる時の足音。単に立ち止まる時と、何かに気付いて立ち止まる時の足音は違ってくる、と矢島氏は主張します。そのあたりは手作業で抑揚を付けているとのこと。そうなると「立ち止まる時の足音」ということで複数用意されていることが言えるでしょう。

ただ、あまり足音で語りすぎてしまうとその先のイベントを予感させることもあり得るため、演出サイドからの要請で修正したことも何度かあったとか。「この後に驚くようなイベントがあるので、ここはあまり意味ありげにせずサラッと自然に流しといて」というようなことです。イベントは必ずしもゲームの進行に沿わずバラバラに上がってくるため、前後の繋がりの詳細を知らぬまま音を作るケースも少なくなかったことから生じたNGですね。こういったものは後から指摘されて逐一修正していったとのこと。

足音関係で筆者が個人的に気になったのは、鎧をまとった帝国兵たちの足音。メインキャラたちに比べてかなり不自然だったように思います。キャラクターの足音にリアルな音が付き始めた、プレステ初期のような音……と言ったら失礼かもしれませんが、あまりに単調・機械的で、とてもリアルには聞こえませんでした。複数の兵士がいる場合に、パッと聞いた感じではすべて同じ音が使われていたのも不自然さの原因になっていると思います。兵士の足音にももう少しバリエーションがあった方が良かったのでは。

さて、鎧ときたらジャッジたちの音です。キャラクターが動くことで発せられる鎧が擦れる音、戦いの時のつばぜり合い、刀がガラーンと落ちる音などなど、重厚で印象的な効果音を本作ではたびたび耳にすることができました。これらはフォーリーの領域ですが、緻密に合わせようとすればするほど、アリモノの素材集だけでは足りなくなってくるもの。そこで本作の効果音チームは本物の鎧(の篭手と脚)や剣、盾を購入し、それをフォーリースタジオに持ち込んで様々な音を収録しました。剣と剣がぶつかる音、剣が落ちる音、鞘から剣を抜く音……ムービーやイベントでふんだんに使われていましたね。収録した音そのままで迫力が足りない時には別の素材をMIXしたり、イコライザー処理を施します。これらも効果音作りでは基本的な手法です。

効果音と言えば……皆さん、アレ手に入れました?「トロの剣」。スクエニの合併効果が、正統なナンバリングタイトルで初めてハッキリと出たケースとして、後世に伝えてもいいフィーチャーだと思うんですよ。もちろん「ドラゴンクエスト」シリーズの伝説の武器「ロトの剣」をモチーフとしたお遊びアイテムですが、その攻撃力は折り紙つき。アートディレクションの皆葉英夫氏によれば、松野氏にもナイショで秘密裏に仕込んだもので、バレた時にはもの凄く怒られたそうです。で、この「トロの剣」、装備して攻撃するとドラクエの効果音が鳴るんですよ!これには驚きましたが、どうせやるなら……ということでスタッフのお遊びに乗っかった矢島氏の努力のタマモノなんです。バトルシステムデザインの前廣和豊氏からの依頼を受けて「そっくりに作りますけどいいんですか?」と言いながらも、どうせ作るんだったらサンプリングしただけじゃ面白くないし、ということで、オリジナルの「ドラクエ」をわざわざプレイし直して、耳で聴いてそっくりな効果音を作ったんだそうです。さらに、ゲームには入っていないけれど、呪文を唱える際の効果音とかも全部作ったんだとか!開発の息抜きを兼ねた遊びについついのめり込んでしまったのでしょうか?別の考え方をすれば、「ドラクエ」の音ってパロディにできるほどのオリジナリティがあるってことですよね。もし「ドラクエ」がFFの効果音をパロったとして、それに気付く人は少数派なのでは。

このように、音楽に負けず劣らずの労力と創意工夫が費やされている効果音。FFサウンドファンを自認するアナタ、こちらにも耳を傾けてみてはいかがでしょうか。

情報提供・ミス指摘thanks! → カルボーン様

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2006 GAMERS EDEN

未プレイの方にはぜひプレイしてほしいですね。