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Piano Collections FINAL FANTASY VII
 「FF」の音楽を、「ピアノコレクション」の存在を無視して語ることはできまい。作曲段階のスケッチにも当然のように使われる楽器、ピアノ。ユーザーにもFF音楽の演奏を手軽に楽しんでほしい、シンプルになったことで顕わになる楽曲本来のメロディを味わってほしい……、そんな植松伸夫氏の願いと思い入れが込められた「ピアノコレクション」。「FFIV」の頃から定番となり、植松氏がタッチしていない「X-2」のものまでもリリースされているが、なぜか「VII」だけは抜けていたのだ。

 タイミングを逃した、既に「リユニオントラック」があり更なる企画アルバムが成立しにくかった、「VIII」「IX」と短期間に新たな「FF」を製作しなければならず物理的に時間がなかった(でも「VIII」「IX」の「ピアコレ」は出たのだが)、など理由はいろいろあるが、ゲーム発売から7年の時を経て、やっと「VII」の「ピアノコレクション化」は実現した(「7」という数字に拘ったわけではあるまい)。発売から間もなくデジキューブの倒産によって一度は廃盤となってしまったこともあり、「VII」関連CDの中ではやや影の薄い存在となっている感はあるが、収録楽曲が「AC」に採用されるなど、今ではいちアレンジ盤には留まらないものになっていると言えるだろう。

 ちなみに、残された「I」〜「III」の「ピアノコレクション」についても、植松氏は「いつか必ず」と発言している。
デジキューブ
SSCX 10111
2003年(廃盤)
JASRAC表記:
なし
スクウェア・エニックス
SQEX-10020
2004年再発
JASRAC表記:
なし

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01 ティファのテーマ 個人的に、ゲーム本編ではキャラテーマとしてイマイチ成立していないかな、と思っていた「ティファ」のテーマ。それは楽曲そのものに起因するものではなく、使われ方によるものですが……(詳細はサントラのレビューを参照)。それを「ピアノコレクション」の一番手に持ってくるのですから、楽曲そのものには植松氏がかなり自信を持っているのではないかと思えます。

ピアノアレンジは余計な装飾を一切省いたシンプルなもの。イントロに続いてすぐに現れるメロディも、まごうことなき「ティファのテーマ」です。アレンジはFF音楽にはいまや欠かせない存在である浜口史郎氏。ピアノ演奏は浜口氏の学友である本田聖嗣氏で、依頼は浜口氏からあったとのこと。常に音楽仲間(植松氏が楽曲提供をしたこともあるフルート奏者・瀬尾和紀氏)から「FF」の評価を聞かされていた本田氏は「自分でいいのだろうか」とも思ったそうです。しかし演奏はお聴きの通り文句ナシ。緩急をつけた表情たっぷりの演奏は原曲以上の雰囲気を持っています。こんなふうに弾けたら気持ち良いだろうなあ……と同時に、コントロールルームで聴いてる側も聞き惚れるのみ、という感じではないでしょうか。楽譜をチェックしながらタバコをくゆらせ、目を閉じる植松氏の姿が浮かんできませんか?

このように記していると、「音楽の連鎖は確実にあるな」と思えてきます。「VII」の頃から植松氏と仕事をしてきた浜口氏、作曲を依頼したことが「ザナルカンドにて」誕生のキッカケになったとも言える瀬尾氏、そのどちらとも交流のある本田氏……おそらくは浜口氏がその輪の中心にいるのでしょうけど、そうなると浜口氏の「FF」音楽に対する貢献(というと凄く上から目線ですが)は尋常なものではないぞ、と。

さてこのトラック、「FFVII ADVENT CHILDREN」の本編中に使用されていることはご存知の通り。これはディレクターである野村哲也氏をはじめとする映像チームからのオーダーだったそうで、このCDがただのアレンジ盤ではなく、「VII」の世界を構成するに欠かせない存在であるとスタッフが認識していることの証であると言えます。
02 F.F.VIIメインテーマ もともとは長大な楽曲であった「FFVII」のメインテーマを、主メロディが最も顕著となる部分をピックアップしてピアノアレンジ化。原曲では52秒のあたりになるでしょうか。ゲーム音源ではシンセストリングスで、ともするとやや暗めな音になっていましたが、ピアノアレンジ版は最初からしっとりと優しげ。原曲にも途中からピアノが入りましたから、違和感はまるでありません。4分半という時間の中に、原曲に施された曲調変化もきちんと盛り込んであります。これはもうアレンジがお見事と言うほかないでしょう。原曲をしっかり噛み砕いて、曲のオイシイところはどこかということを理解していないとできないアレンジです。

それにしても「FFVII」はメインテーマ級の曲が複数あるので、どうしてもこの楽曲のイメージが「フィールドマップのBGM」に留まりがちなところが残念。同じ曲を元にしている飛空艇の曲の方が、印象強いんですよね。ゲーム中では雰囲気重視な音だったために多少の「わかりにくさ」も生んでいたのですが、こうしてシンプルな形になるとメロディ勝負の良曲であることがわかります。
03 シンコ・デ・チョコボ 「FF」のピアコレにはやはり一曲ぐらいチョコボものも欠かせない、ということで、今回は「シンコ」がチョイスされました。2分20秒という短いものですが、原曲のジャジーなテイストはしっかり継承。アドリブっぽい遊びのある演奏を楽しむと同時に、ピアノという楽器の幅広い表現力を感じて下さい。
04 旅の途中で カームやアンダージュノン、大氷河のホルゾフ小屋など、まさに「旅の途中で」立ち寄るいくつかの場所で耳にする、和み系のあったか音楽。原曲がアコギのバッキングとオカリナのような木管メロだったので、ピアノソロになるとかなり印象が変わりますね。「ほっと一息」だったものが、いろいろな内面・心情描写が加えられた感じというか……。もっと言えば、「BGM」だったものが語り始めたというか。シンプルになったのに、曲に込められた情景はボリュームアップしているように感じるのです。不思議なものですよね。変化に富むテンポ、緩急、タメ、音の余白……そういったところに、もの言わぬ「何か」が込められているのだと思います。音楽とはそういうもので、厚くするだけが能じゃない。隙間や空白が語るものもあるんです。

だからと言ってもちろん、このピアノバージョンがゲーム中で流れることが必ずしも良いわけではありません。それはそれであの独特の雰囲気、厳しい旅の途中で束の間の休息といった、あの「ホッ」とする感情は生まれないかもしれません。今になって聞くとあの頃の「VII」のゲーム音源は稚拙な打ち込み音楽かもしれませんが、あのアコギ、木管だからこそ芽生えた「ホッ」があるはずなのです。アレンジはあくまでアレンジであり、ゲーム本編の音楽とは別の価値なのですから。比較して「どちらの勝ち」ってことではないんです。
05 闘う者達 CDを買ってまず曲名を見たとき、「えっ、コレやるの?!」と驚いたのがこの曲、ゲームにおける通常戦闘のBGです。序盤はこれといったメロがなく構成&リズム重視、途中からはブラスによる盛り上げ必須なあの曲をピアノで?!仮にやったとして、雰囲気を出すためにはもの凄く音数が多くなるんじゃないの?という不安など一蹴するかのような勢いで、堂々のピアノ演奏を聞かせる本田氏。いや、これは参りました。浜口氏のアレンジも原曲を解体&再構築するかのような斬新なもので、アルバム中で最も原曲から変容したものに。それなのにどこを切っても「闘う者達」になっているんです。

これまでの「ピアノコレクション」にもバトル曲はありましたが、メロディのはっきりしたそれらとは違い、「VII」の曲をピアノソロ化するのは難しいだろうなと勝手に思っていましたが、さすがにアレンジャーもプレイヤーもプロです。パッと聞いて「闘う者達」とわかってしまいます。そのためか、「FFVII ADVENT CHILDREN」にも使われています。ティファとロッズが教会で闘うシーンですね。手数の多いピアノが両者の攻防を、そしてピアノの音がティファの戦いにぴったりと寄り添っていました。その効果は「もしそこで原曲やそれに近いアレンジが流れていたら」ということを想像しながら見ると、いかに絶大なものであるかわかると思います。
06 星降る峡谷 コスモキャニオンのテーマ曲です。どうしても曲名を見ると「ズンドド、ズンドド」というパーカッションを頭に思い浮かべてしまいますが、もちろんそんなものはここにはありません。まさしく星が降ってきそうなアルペジオ的な導入から、すぐにメロディが現れます。しっとり、ニュアンス重視で優しく弾く序盤から、感情が入ってきて盛り上がっていく中盤以降へと、ピアノの表現力をここでまたじっくり味わうことができるでしょう。本田氏も一音一音を大切に、丁寧に演奏しております。原曲はどうしても民俗音楽的な音色の面白さ、「FF」音楽としての目新しさが前に出ていたのですが、植松氏が紡いだメロディの良さがピアノでは際立ちますね。
07 ゴールドソーサー ラジオ体操っぽくなった「ゴールドソーサー」です。こりゃもう多くを語る必要ナシ!聴いて下さい。
08 牧場の少年 こういう曲がチョイスされるあたりが植松氏らしいなあ、と思える「チョコボファーム」の曲。もともとはアコギ&木管ものでしたが、これも「旅の途中で」同様にピアノソロとなってかなり表情が変わりましたね。
09 ルーファウス歓迎式典 「リユニオン・トラックス」に入ったことで「たいした曲じゃないのに、なんで?」と植松氏が不思議がったこの曲、そのわりには「FFIX」にもチラッと使われちゃったりもしてて、実は植松サンも嫌いじゃないんじゃないの?しっかりピアノコレクションにも入れちゃってるんだからぁ。もしかすると「ファン人気が高くて無視できなかった」のかもしれませんが……。

原曲はラッパが高らかに鳴り響くマーチ曲でしたが、ピアノソロになっても弾むような行進感覚は損なわれていません。考えてみれば行進曲は何人もの演奏者が必要なのに、一人で伴奏からメロディまで演奏できてしまうピアノってたいした楽器ですよね。もちろん演奏者もですけど。
10 J-E-N-O-V-A ガラリと変わってシリアスに。大人気曲「ジェノバ」です。「ピロリロピロリロ」という特徴的なイントロは改変されています。というか、残っているのはメロディだけと言ってもいいかもしれませんね。原曲でもピアノがやっていたベースパートが残っていたらかなり「ぽく」なっていたかもしれませんが、メロも弾きながら一人が受け持つには無理がありますね。けっこうあのベースが「キモ」だと思っているので……。

植松氏の楽曲の中では「構成曲」と言える「J-E-N-O-V-A」、ファンの耳コピも含めると膨大なバージョンがありますが、基本的にはみな圧倒的なビートとテンポで高揚感を煽っています(「AC」や「黒魔」における本家アレンジも例外ではないでしょう)。このような「薄くする方向性」でのアレンジは珍しいのではないでしょうか。
11 エアリスのテーマ これはもう欠かせない「エアリスのテーマ」。原曲もピアノによる導入でしたし、そもそもピアノで弾いてナンボ、という曲ですね。入らないわけがありません。もしもこの曲が「ピアノコレクション」に入ってなかったら、ファンは暴動を起こしたことでしょう。というか、ゲーム中にピアノアレンジなかったっけ?というぐらいに自然です(実はゲーム中にピアノソロは出てきません)。「リユニオン・トラックス」収録のオーケストラバージョンとの聴き比べも興味深く、オーケストラで演奏しようとピアノソロだろうと、原曲の芯はぶれていないことを発見できると思います。元のメロディが圧倒的に「強い」からですね。繰り返しますが、アレンジそれぞれの「優劣」のことではありませんよ。

この演奏も「FFVII ADVENT CHILDREN」に使用されています。
12 片翼の天使 さてさて来ました、「片翼」です。これも「闘う者達」同様に、ピアノでやるのか?!と思わされた曲。ブ厚いオケありき、コーラスありきじゃないですか。ピアノになった時にどういうことになるのか、まったく想像できませんでした。オケアレンジの時も浜口氏が担当していたわけですが、今回も原曲のポイントを巧みに抜き出したアレンジになっております。即ち、演奏する楽器は変わっても、ポイントとなる音は欠いていないため、パッと聞いてすぐにそれとわかるようになっているのです。

ある意味ではもはや「FFVII」を代表する楽曲になっていますから、「ピアノコレクション」でもスルーするわけにはいきません。が、この曲のそもそもの成り立ちと役割を考えたとき、ピアノアレンジにする意味はあったのだろうか……ということを考えると、ちょっと微妙ですね。「セフィロス!」と歌わない「片翼の天使」って、いったい何なのだろうと。これは単に「ピアノアレンジはよろしくない」などとという、単純な好き嫌いの話ではありません。ピアノアレンジすることは、果たしてこの曲にとって良かったことなのだろうか?と思えてしまったのです。バリエーションとしての世界の広がりや、アレンジの違いによる印象の変化などは他の曲と同じく楽しめるのですが、コーラスとかが抜けると意外になんてことないな……という後味が湧いてしまったもので……。強引に分けるのであれば「片翼」って、インパクト重視の構成曲なんですよね。意外にも、誰もが唸る強いメロディがあるわけではないんです。で、ピアノソロというシンプルな形になったとき、物足りなさを感じたのです。
13 忍びの末裔 「ピアノコレクション」はしばしば、作品のメインとなる楽曲の後にシャレた「オチ」を持ってきて締め括ることがあります。「VI」は「チョコボ」で終わってましたし、「VIII」は「スライドショー」で終わってた(笑)。今回の「VII」は「オチ」とは言いませんが、「エアリス」「片翼」ときて最後にコレかい!という「忍びの末裔」。実は植松氏のお気に入りなんじゃないでしょうか。ソロアルバムにもよく似た曲がありますし……。個人的には後味が微妙な「片翼」のあとにコレで締めてもらって、ホッとしました。

さてさて、順番的には「VIII」「IX」「X」ときて、やっと実現した「VII」のピアノコレクション。とあるインタビューにおける植松氏の公約が守られたわけですが、同時に氏は「I〜IIIもいつか」と語っておられました。これらが実現するのはいつ?!首を長〜くして待っておりますよ!

FFVIIピアノコレクション こちらは楽譜です。 「AC」のピアノ譜。

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