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すぎやまこういち交響組曲「ドラゴンクエストIII」そして伝説へ…
(スーパーファミコン版オーケストラバージョン)
 1988年にファミコンで発売された「ドラゴンクエストIII」を、8年の時を経てスーパーファミコンでリメイク。シナリオはほぼそのままながら、新たなフィーチャーや隠しダンジョンの追加、そして「ドラクエVI」の技術を利用して作られた美しいグラフィックとサウンドによって、「III」が今でも通用する名作であることを堂々証明してみせた。本CDはゲーム中で聴くことのできる楽曲をオーケストラアレンジしたものを収録したもの。ゲーム音源は別のCDとして発売されている。

Sony Music Entertainment
SRCL 3563
1996年
JASRAC表記:
あり

このCD(旧盤)を購入できます。
ゲーム紹介

 1986年に発売された「ドラゴンクエスト」は、ファミコンユーザーに対して「ロールプレイングゲーム」というものをわかりやすく翻訳し、その魅力を広く認知させることに成功、150万本の売り上げをもって堂々のヒット。翌1987年には続編「ドラゴンクエストII」が発売される。この2作品は、昨今のRPGにありがちな「タイトルやアイテムの名前が共通なだけの、形ばかりのシリーズ」ではなく、ストーリーも密接に絡んだまっとうな続編であった。前作の主人公が残した子孫、そして前作で登場した町や城が登場、前作の世界は「II」で語られる世界のほんの一部分でしかなかった……ゲームの中で徐々にそのことが明らかになり始めると、ユーザーは唸ったものだった。

 そして1988年2月10日、今では考えられないリリースペースをもって、第三作「ドラゴンクエストIII」が発売。前2作とのストーリーの繋がりは、誰も予想しなかった「I」よりも過去の話、という内容で語られた。つまり、時間の流れとしては「III」→「I」→「II」となる。ゲームの終盤になってからそのことが明らかになることもあり、堀井雄二という稀代のストーリーテラーに「してやられた」という名シナリオである。当時の雑誌や公式ガイドブックでさえ、それに関する内容は一切伏せられており、ゲーム終盤にアレフガルドが登場することについては最重要機密並みの扱いであった。「III」の主人公が「I」における勇者の称号「ロト」となるいきさつ、そして残された武具が「ロトの装備」となり後世に残されていくところなど、「I」をプレイしたユーザーであれば背筋がゾクゾクするような仕掛けが盛り込まれている。

 その後、新シリーズ「天空編」としてファミコンで「IV」、スーパーファミコンで「V」「VI」がリリースされる。ストーリーの繋がりはロト3部作ほど密接ではないものの、共通するキーワード「天空城」がいずれも登場することから、これらも3部作として括られている。そして1996年、当時の最新作「VI」のシステムを流用してリメイクされたのが、スーパーファミコン版「ドラクエIII」である。スーファミでは3作目となる「VI」の成熟したグラフィックによって「III」は生まれ変わり、シナリオはほぼオリジナルのままながらまったく古さを感じさせない。ファミコン版にはなかったちいさなメダルも加えられ、すごろくやクリア後の隠しダンジョンなど追加要素もふんだんに用意された。演出面でも、ファミコン版での「本当はこれをやりたかったけど容量の都合でカット」といったイベントが強化されており、飽きさせない。結果として、リメイクでありながらただ見た目をグレードアップしただけのものには留まらず、スーパーファミコンでの「ドラクエ最新作!」として堂々と世に発表できるクオリティに仕上がっている。また、後に発表されるあらゆる「リメイク作品」の基礎ともなった作品であると言っても過言ではなかろう。

 イベントの追加によって、ゲーム中の楽曲も増えた。もちろんすべてすぎやまこういち氏による新曲である。我々はゲーム冒頭から、「まどろみの中で」という名の新曲に触れることになるだろう。さらに、ゲームの世界が夜になると、城や街の音楽が夜らしいアレンジのものに変化する(「夜」自体はファミコン版にも存在した要素だが、楽曲の変化はなかった)。これらもスーファミ版の新曲と言って良いだろう。バラモス戦用の曲も追加され、ファミコン版では「ダンジョン」がそのまま使われていた「ゾーマの城」にも専用のBGが与えられるなど、楽曲面での強化も注目すべきポイントである。。

 このCDは、そんなスーファミ版「ドラクエIII」で使用された新旧の楽曲たちを、すぎやまこういち氏みずからがオーケストラアレンジして収録したアルバムである。演奏は、おなじみロンドンフィルハーモニック管弦楽団ゲームボーイ版サントラに収録されたNHK交響楽団の演奏と聞き比べるのも面白いだろう。一方でスーパーファミコンのゲーム音源バージョンは、単独のCDとして同時発売されている。2枚1セットで手元に置いておきたい。

 なお、このレビューの一部をファミコン版交響組曲(NHK交響楽団盤)からコピー・改変して作成していることをご了承いただきたい。その理由は、演奏楽団が変わっても楽曲の背景や使用目的が同一ゆえに他ならない。新曲や、ロンドンフィルの演奏で特筆すべき点を追記・補完していく形になっている。
2009年、SUGIレーベルのキングレコード移籍に伴い、
パッケージリニューアルで再販されました。
交響組曲「ドラゴンクエストIII」そして伝説へ・・・

KICC-6316

音源・演奏は既発のものと変わりません。

01 ロトのテーマ
Roto
おそらく、日本で最も有名なRPG音楽だろうと思われる、ドラゴンクエストシリーズのメインテーマです。「I」では「序曲」、「II」では「ドラゴンクエストマーチ」と呼ばれていたこの曲は、ロト完結編の「III」で初めて「ロトのテーマ」という称号を与えられました。同時に、「III」はメインテーマにドラクエ前期イントロとも言える、ホルンによる「ロト編ファンファーレ」が採用された最後の作品ともなりました。次回作「IV」からは冒頭のファンファーレが大きく変化することになるのです(俗に言う「天空編ファンファーレ」です)。

そんなホルンの勇ましいイントロに続いて、誰もが口ずさむことのできる主題部が始まります(0'10"〜)。そして41秒からの主題のリピートでは、オーケストラ全体が奏でる圧倒的な迫力で我々を魅了してくれます。スーパーファミコン版の「I」「II」「VI」に引き続き、「III」の交響組曲の演奏を担当するのはロンドンフィルハーモニック管弦楽団。マルチトラック収録+後付けミキシングのNHK交響楽団の録音に比べ、豊かな空気感がいちばんの特徴。後付けのエフェクト(機械的な残響の付加)に比べ、そのナチュラルさ、マイルドさは明らかでしょう。「I」「II」「VI」を経て、演奏的にも成熟の度合いを増しているようです。ロンフィルに対して「成熟」とか言うのは失礼なのですが、決して悪い意味ではなく、すぎやま氏との信頼関係が深まっているようだ、ぐらいに受け取って下さい。
02 まどろみの中で
Prologue
スーパーファミコン版の新曲「まどろみの中で」。ゲームでは冒頭の性格診断で使われている曲になります。ゲーム音源でのボーカリーズは憂いを帯びた木管や弦に置き換えられ、また違う表情を見せています。さまざまな展開が盛り込まれたさまは、まるで舞台音楽かのよう。このままバレエとかに使ってもハマるのではないでしょうか?
03 王宮のロンド
Rondo
弦楽による「城」の音楽です。いかにも王城という感じの、古典的バロックの香りがする秀逸な楽曲。すぎやまこういち氏の有名な発言に「『I』を基準として、『II』は新たな世代の物語だから音楽もポップス的に、『III』は過去の話だから音楽もよりクラシカルに」というものがあります。その発言の意図は、このお城の音楽を聴いていただければなんとなくでも理解してもらえるのではないでしょうか?

ロンドンフィルの演奏は、前述の通り豊かな空間的残響によって、弦楽器の持つ音色の美しさを堪能できる仕上がりとなっています。「I」「II」の頃は「縦の線がバラバラ」とも言われたものですが、もうそんなことは言わせないとばかりに息の合った演奏を聴かせます。そういう意味ではNHK交響楽団は、サウンドトラックのスコア録音も数多くこなしていますから、縦の線を揃えることについてはスペシャリストなんですね。

なお、アレフガルドでの城や街、ダンジョンの音楽までは演奏されていないので、ある意味では「I」のCDと合わせて完全版、という捉え方もできますね。作品のみならず、音楽の面でも「I」と「III」は密接です。これらを合わせて、自分で「ドラクエIIIオーケストラバージョン完全版」を編集するのも楽しいのではないでしょうか。
04 世界をまわる
(街〜ジパング〜
  ピラミッド〜村))
Around The World
タイトルの通り、音楽で世界一周といきましょうか。「III」で旅することになる、あらゆる街や村で流れる楽曲たちをメドレーにした組曲トラックです。まずは、なんとも楽しげな、木管楽器が跳ねるような「街」の曲から。編曲的なことでは、かつてのN響のものと大きな差異はないでしょう。流れるようなストリングス群は、まさに美麗のひとこと。行き交う人々で賑わう様子がよく表現されています。

1分24秒からは「ジパング」の専用BGM。いわゆる「和風」ではなく、もっともっと昔の日本、イメージは邪馬台国といった感じ。右側のチャンネルで鳴っているひっかくような音は、弦楽器の弦を弓で叩くようにして発音しているものです。このあたりもN響バージョンのアレンジを引き継いでいます。3分0秒からは「ピラミッド」の曲です。もっともピラミッドは街ではなくダンジョンですが……。ロンフィルの面々は、このような異国情緒溢れる楽曲をどのような思いで演奏しているのでしょう。ちょっと興味ありますよね。

4分9秒からは、「III」で初めて登場した「村」で流れる曲です。「街」と比べてよりのどかで、ふくよかな金管・木管がふんだんに使われており、人々がマイペースに暮らしている伸びやかな雰囲気になっております。
05 冒険の旅
Adventure
アレフガルドを除き、ゲーム全編を通したフィールドで流れる楽曲。「III」の中でも最も人気が高い部類に入るでしょう。特にオーケストラバージョンの、N響版から引き継がれる珠玉のイントロが高評価であるようです。この流れるような弦が宿命をも感じさせてくれます。だからと言って悲壮感はまったくなく、あくまで前向き。楽曲そのものは、勇壮な金管にマーチングスネアの添えられた、なんともヤル気にさせてくれるものなのですが、このイントロがあるからこそ、楽曲全体の勇ましさがより引き立っています。このイントロを受ける形のような、53秒からの弦パートもなんとも言えません。オルテガより受け継ぎし意志と、後の世へと継がれていくロトの伝説を語っているかのようです。

「ロト3部作」で最も勇ましいフィールド曲であると言っても過言ではないでしょう。しかし実は、本作でも「II」のように、物語序盤と後半ではフィールド曲を変えることが検討されていたようです。この「冒険の旅」は後半用で、序盤は「I」のように寂しげな曲も用意されていたらしいのですが、いわゆる「容量の問題」からカットされ、この曲が全編で使われるようになったのです。今の感覚で考えると、曲ひとつでそんなに容量を切迫するのだろうか?と思えてしまいますが、ファミコンというのはそういうものだったのですよ。
06 ダンジョン〜塔
      〜幽霊船
Dungeon〜Tower
〜The Phantom Ship
「I」のダンジョンに通じるテイストを持った、孤独感と緊張感を増幅する「洞窟」のBGMから。冷ややかなストリングスと怪しげな木管群といった編曲は、N響版から引き継がれた要素。ロンフィルの演奏では、トライアングルやウッドブロックなどのパーカッションがふんだんに使用されています。

1分52秒からは、「II」から定着した要素である「塔」の音楽。「II」とはまた違った、脅かし要素が多い構成の楽曲です。軽やかな木管と威圧的な金管の対比が面白く、ひたすら塔を登っていくパーティと、物陰に潜み今にも襲いかからんとするモンスターをそれぞれ表しているかのようですね。

3分13秒からは、「III」で新たに登場したタイプのダンジョン「幽霊船」の曲です。「船乗りの骨」で位置をつかみ、海上で幽霊船を見つけた!いったい中はどうなっているのだろう……。その不気味な雰囲気に、一歩一歩が慎重になってしまう。カッ・カッ・カッというウッドブロックと、チキチキと鳴るシンバルが、そんなパーティの足音のように聞こえてしまいます。弦楽器は労働を強いられる者たちの悲鳴、威圧的な金管は異形のモンスターの雄叫びか……いろいろな情景が見えてくる曲です。5分26秒で鳴る、1発の「ザン!」は、「I」の交響組曲における「竜王」のアタマでも聞くことのできたバルトークピチカート。
07 回想
Distant Memories
スーパーファミコン版の新曲で、ゲーム中ではオルテガに関するイベントシーン2箇所で聞くことになるものです。ゲーム音源ではボーカリーズ主体のアレンジでしたが、オーケストラ版では弦と木管を中心とした切なくもどこか暖かみのある構成になっています。もちろんオーケストラバージョンはこのロンドンフィルの演奏しか存在しません。演奏にあたっては楽曲の意味を尊重したものにするため、ロンフィル側の主席奏者がすぎやま氏に対して曲の持つ背景をことこまかに質問した、というエピソードも。より良い演奏にしようという楽団の姿勢が伝わってきますね。

非常に展開の多い曲なのですが、ゲームの中ではいまひとつ活かしきれていないのが残念ですね。単にイベントに添えられているだけという感じで、楽曲との相乗効果でプレイヤーの魂を揺さぶるところまでは到達していません。というよりも、オルテガへの感情移入度がそれほど高くなく、イベントそのものもわりとあっさりしているからなんですね。
08 鎮魂歌〜ほこら
Requiem〜
Small Shrine
悲哀の2曲をメドレーで。前のトラック「回想」からの流れも非常にスムーズですね。まずは全滅時に流れる「鎮魂歌」をどうぞ。「ドラクエ」では戦闘で全滅してもわりとすぐ再開できますから、全滅時の曲という印象よりはむしろ「テドンの曲」と言った方がわかりやすいかもしれません。ロンドンフィルの演奏は思い切り感情が込められており、そのためかN響の演奏よりも5秒程度長くなっています。もちろん、指揮をしているすぎやま氏の思い入れもあってのことでしょう。

1分32秒からが「ほこら」の曲です。短いME的な楽曲で用途も限定されているにもかかわらず、非常にファン人気の高い曲です。こちらは悲しい曲というわけではないですが、妙な切なさに溢れた逸品。「ほこら」の数がとにかく多い「III」の世界ではあちこちで耳にすることになります。それだけに数ある「ほこら曲」の中でも最も印象深い楽曲でしょう。
09 海を越えて
Sailing
ドラクエの海はワルツ!その鉄則にのっとった、船で移動中に流れる「海」BG。その方向性は「II」のものよりもさらに強められ、まるで舞踏会のよう。ズンチャッチャ、ズンチャッチャ、紳士と貴婦人が手を取り合って踊っていそう。弦とホルンの空間的な響きも加わって、N響の演奏よりも格段にリッチに聞こえます。良し悪しではないんですが、録音手法の違いが楽曲の表情すら変えるということはとても興味深いことだと思います。
10 おおぞらをとぶ
Heavenly Flight
フィールド曲「冒険の旅」と並んで、「III」で1・2を争う人気を誇るのがこの「おおぞらをとぶ」。ラーミアに乗って空を飛んでいる際に流れるものです。その人気ゆえか、2004年発売の「ドラクエVIII」で復活してもいます。気になるヒトはぜひ「VIII」もプレイしてみましょ。

ラーミアに乗っている限りはモンスターとエンカウントせずに流れ続けますから、長時間聴くことになるため人気が高いのも必至というわけです。冒頭のフルートとオーボエが神秘的なラーミアの存在を語り、27秒からのオケ全体による盛り上がりが、オーブを全て集めた達成感、そしてこれから終局へと向かっていく冒険を讃えてくれます。

個人的には「ラーミア、飛ぶの遅せー!」とか思ってしまうんですが、確かにこの曲に乗せてラーミアがビュンビュン飛んじゃったら違和感あるかも。それにしても「FFIII」のインビンシブルといい、「『III』に登場する空飛ぶ乗り物」ってばなんでノロいんでしょう?
11 戦いのとき
Gruelling Fight
スーパーファミコン版の新曲。バラモスとの戦闘および、対ラスボス・ゾーマ戦で「ひかりのたま」を使う前まで流れるバトル音楽です(ゾーマ戦では、「ひかりのたま」を使った後は「勇者の挑戦」に変化)。隠しダンジョンの神竜とのバトルでも使用されています。初出はオープニングデモイベントで、オルテガが火山の火口で魔物と凄まじい戦いを繰り広げる場面で使われています。

スーパーファミコンでの新規楽曲ですから、オケ版の演奏はこのロンドンフィルバージョンのみです。オーケストラ全体でこれでもかというほどの厚い演奏を堪能させてくれますね。ダイナミックレンジも広く、迫力の名演奏と言えると思います。このオーケストラバージョンでは、「ゾーマの城」を受け継ぐように、「ダンジョン」のモチーフが採り入れられているのが特徴(2分36秒に顕著なフレーズあり)。

イントロ部分(42秒〜、2分43秒〜)にある木管(ピッコロ?)の7小節に渡る演奏は「苦しくないの?どうしてそんなに息が続くの?」と思いませんか?プロの中にはもちろんこれぐらい息が続く人もいるのでしょうが、おそらく複数の奏者が交互に音を繋げて、ひとつの長い音にしているのではないかと思います。シンセサイザーではなく生身の人間が演奏する場合には、不可能を可能にするテクというものがあるわけですね。
12 ゾーマの城
Zoma's Castle
こちらもスーパーファミコン版での新曲です。ファミコン版では「ダンジョン」が使われていたゾーマの城に、専用の楽曲が充てられました(なお、バラモス城で使われているのが初出です)。聴けばすぐわかる通り、「ダンジョン」のアレンジになっています。あえてうすら寒い、スキ間を残した構成にすることで、普通の人間ならまず足を踏み入れない恐怖の場所、というシチュエーションを巧みに演出しています。
13 戦闘のテーマ〜
アレフガルドにて〜
勇者の挑戦
Fighting Spirits
トラック13ではバトル音楽組曲をお送りします。まずは通常の戦闘音楽「戦闘のテーマ」から。初めてこの曲をファミコンで聴いた時には「ずいぶん細かい音を詰め込んだな」と思ったものでした。ファミコン音源で迫力のある音を作る時、細かい音をビッシリと並べることはひとつのテクニックなんだそうです。子供心に「これオーケストラで演奏できるのかな?」と余計な心配をしたのですが、聴いてお分かりの通り、まったく問題ナシです。ロンドンフィルの演奏では、N響のスコアを引き継ぎつつも、鉄琴などの楽器が細部に追加されています。

続いては、ゲーム終盤に訪れる「アレフガルド」のフィールドBGM(1分42秒〜)。切なすぎる木管と3連符で奏でられるハープのアルペジオで構成されています。郷愁を誘うイメージは「I」「II」、そしてN響版に共通です。

と、静かな演奏に浸っていると突然「ドジャーン!!」。2分55秒からはラスボス・ゾーマ戦のバトル音楽「勇者の挑戦」。特筆すべきは間奏部分。4分47秒からをよく聴いて下さい。まず現れる右側の金管は「ロトのテーマ」のイントロ部分、続く4分49秒からの弦によるモチーフはまさしく「アレフガルドにて」ですね(4分50秒からの左側にいる管も追いかけてます)。続く4分54秒で聴ける金管のフレーズは、「ロトのテーマ」の主題部です。さらに4分59秒には、「I」の「序曲」だけに組み込まれている間奏からの引用も。なんだかすぎやま氏に試されているような。「どこまでわかるかな?」って。「I」と「III」を繋ぐような、音楽的な仕掛けが満載です。もちろんゲーム音源にはありませんが……オケ版だけのファンサービスというところですね。ロンドンフィルの演奏は基本的にはN響演奏時の編曲を受け継ぎつつ、圧倒的に聴感上の音圧が出ていて痛快です。これは演奏の問題というよりは録音手段、そしてマスタリングまで含めた技術面の結果ですが、デジタル録音がまだまだ実験段階であったファミコン版当時(1988年)に比べ、96年のロンフィル版時点でそれらの技術が格段に進歩しているのは当然。比較するまでもないですね。

曲名を見ればわかる通り、あくまでこの曲は「勇者側の視点」から見た決戦を表現している曲なのですね。決して敵の強大さだけを語っているのではないということです。だから、ロトのモチーフが顔を出しているのです(ゲームでは再現されていませんが)。こういった立場で作られているラスボス曲というのは、「ドラクエ」シリーズでもきわめて珍しいのではないかと思います。
14 そして伝説へ…
Into The Legend
エンディングテーマ、「そして伝説へ…」をフルオーケストラで。もちろん曲名は、ゲーム本編のサブタイトルでもあります。つまり、「I」のロトの伝説へ繋がっていく…という意味ですね。「III」とは言っても、まだまだエンディングは短くシンプルでしたね。その後の物語はプレイヤーに委ねるというか、余韻を残すというか。「III」が終わった直後に「I」をプレイした人はかなりいるんじゃないでしょうか(私もそうでした)。

なお、この曲はドラクエのオーケストラコンサートにおけるアンコールの定番。暗黙の了解というか、みんなわかってる。最近はどうなのかわかりませんが……。すぎやま氏もMCでは「この曲は聞いたらすぐ分かりますよ。分からないと言う人は、ドラクエをやってないモグリですね」というような紹介のしかたをしていたようです。一度でいいからロンフィルの生演奏も聴いてみたいと思うのはファンなら無理もないことでしょう。

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