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 ゲーム音楽の
しくみ


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ゲーム音楽のしくみ・・・その作り方と鳴らし方
1.ファミコン以前のゲーム機たち
 
ゲーム音楽の起源は効果音だった

 本格的な家庭用ゲームの歴史は米国アタリ社に始まり、その成功に倣って日本国内の企業がこぞってゲーム業界に参入。「テレビゲーム」というものが、娯楽として市民権を得はじめた時代。この当時は、現在のようにゲームの中でメロディのある、いわゆる「音楽=BGM(バックグラウンドミュージック)」が鳴り続けるということはあまりなかった。ゲームスタート時のME(ミュージック・エフェクト)やゲームオーバー時の短いブリッジ音など、認識としては「効果音」とされるものがほとんどだった。次第にオープニングにちょっとしたメロディのある「音楽」が挿入されるようにもなるものの、ゲーム中にステージBGMとして音楽が延々と流れることは多くの場合においてなかったのである。

 これは、ゲームのBGMというものに対する理解と必要性が認識されていなかったこともあるが、最大の要因はハードの処理能力に依存する問題であった。つまり、背景・キャラクターといったグラフィックを表示し、動かし、かつ同時に音楽も鳴らすという処理に、ハードのスペックが追いつかなかったからに他ならない。中には「鳴らしたいけど鳴らせない」ような作品もあったのかもしれない。ゆえに、昔のゲームには効果音だけの作品が珍しくないのである。


 
コンピュータの音=PSGだった時代

 その効果音としての認識である「音」を作りだし再生していたのが、PSG(Programable Sound Generator)だ。PSGは昔のパーソナルコンピューターに搭載されていた音源方式で、多少の音色エディットも可能だったため、爆発音を模したもの、足音を模したものなど、クリエイターの技術によっては様々な音のイメージを作り出すことができた。この頃は8ビットパソコンからアーケードゲーム、家庭用ゲーム機すべてにPSGが採用されていたと言っても過言ではなく、一様に「ビープ音」などとも呼ばれるその独特の電子音は、以降しばらくの間『ゲームの音』として一般的なイメージとなって残された。いまだにゲームの音を「ピコピコ音」などと表現するのは、この名残と言えるだろう。

 また、当時はゲームのサウンドを専門に開発するスタッフという概念も少なく、プログラマーが自らSE(サウンド・エフェクツ=効果音)や音楽を製作することも多かったようである。現在の名だたるプログラマーの中にも、かつては自ら音楽も作っていたことを語る人は多い。プログラムの入り口が音楽だったとするプログラマーも少なくないのだ(ワープの飯野賢治氏、セガの中裕司氏など)。もちろん、ゲームの中で流される音楽が独立してレコード化されるなどということは、まだ考えられてもいない時代だった。

2.ファミコンの登場とゲーム音楽

 
ゲーム音楽が「あって当然」になるまで

 そんな状況がしばらく続いたのち、任天堂から家庭用ゲーム機「ファミリーコンピューター(以下ファミコン)」が発売される。ファミコンの音源形式ももちろんPSGであった。矩形波2音三角波1音、そしてホワイトノイズ1音の、計4音を同時に鳴らすことができた(つまり、同時発音数4)。CPUの処理能力が向上したことでここまでの表現が可能になったのである。音程のあるパートを司るのが矩形波・三角波の部分で、ホワイトノイズはリズム(ドラム・パーカッション)に模して使われることが多い。これにより、ファミコンにおけるゲームのバックには、常に何かしらの音楽が流れていることが珍しくなくなってきたのだ。

 そうは言っても、音程を構築するのは前述した矩形波2、三角波1の3パートのみ。音楽と言うにはあまりに少ないパート数で、ユーザーの気分を高揚させるような音楽を作り上げるのは至難の技である。音楽界で名を成した人物でも、3パートですべてを表現しなければならないゲーム音楽の世界ではもちろん通用するはずもない。この頃から、各メーカーごとにサウンド専門のスタッフが現われ始めるのだ。


ゲーム音楽のさまざまな制限

 また、「制約の中から生まれたアイディアや表現の味」を今でも愛するユーザーは数多い。「ドラゴンクエスト」シリーズの音楽を一貫して担当している作曲家のすぎやまこういち氏は、この制約の中であきらかにクラシック音楽と認識できる名曲をいくつも生み出している。現在のように、ピアノがピアノの音に、ラッパがラッパの音には到底聞こえないPSG音源で奏でられる「ロトのテーマ」のイントロが、誰が聞いてもホルンに聞こえるのは、ひとえに氏の作曲者としての、そして編曲者としての技量の高さによるものであると言える。氏はファミコンの同時発音数をふまえたうえでの作曲を心掛けており、その技巧はサントラCDブックレットに付属の楽譜を参照していただければ、音符の配列の巧みさに「なるほど」と納得してもらえることだろう。CDをお持ちの方は、一度じっくりと検証していただきたい。

 同時発音数とは、「そのハードが一度に鳴らすことのできる音の数」のこと。これはハードのスペックや音源の能力に依存する、即ち上限である。ファミコンの場合は同時発音数4であるから、一度に4つまでの音を同時に鳴らすことが可能。計算し尽くせば、4パートのアンサンブルを演奏することができるのだ。もしもこれをオーバーする量の発音命令が集中すると、本来鳴るべき音のうちいずれかが欠けることになる。作曲者はこのこともふまえたうえでの作業を行わなければならず、ゲームと無縁の作曲者がゲームにチャレンジした場合、まず最初にぶち当たるのがこの制約であった。


 ところが、ファミコンにおける音の制約はそれにとどまらない。合計発音数4パートの中に、BGMとSE(効果音)の両方を詰め込まなければいけなかったのである。つまり、BGMとSEを合わせて4パートのみ、ということ。4パートでフルに音楽を演奏してしまうと、何かのSEが鳴った時に音楽のいずれかのパートが欠けることになるのだ。それをも考慮しないと、製作者の意図しない音が再生されてしまうのである。音楽を優先するか、SEでの迫力を狙うか。現在のゲームサウンド製作ではありえないような問題があったのだ。これを解決するには、リズムを鳴らすホワイトノイズをSEのためだけに割り振ったり、派手にSEが鳴るイベントシーンでは一寸、音楽を鳴らさないようにする(それはそれで、緊迫感が出る演出にもなり得る)などの工夫が講じられ、結果としてゲーム音楽独特の「味」のようなものの形成に一役買っているのである。


 さらに、グラフィックの処理との兼ね合いもある。当時はサウンド専用のシーケンサが内蔵されていたわけでもなく、ゲームのプログラムの間にサウンドのプログラムが挿入されていた。理屈としては、キャラを一歩移動させる→音を鳴らす→キャラを一歩移動させる→音を鳴らす、を繰り返していた。つまり、グラフィックの処理とサウンドの処理はひとつひとつが交互に行われていたのだ。即ち、グラフィックの方で複雑な処理をしようとすれば、俗に言う「処理落ち(ゲーム自体が一瞬スローモーションのようになること)」が発生するばかりか、音楽が欠けたり、とぎれたりすることになるのである。ファミコンで音楽を鳴らす苦労というのは、並大抵のことではなかったのだ。


 もちろん、メモリーの節約という観点から、当時のゲーム音楽は1フレーズが短いものが多い。それをステージや状況が継続する限りループさせているわけだが、それが逆に今のゲーム音楽にはなかなか見られない「覚えやすいメロディ」「曲への思い入れ」につながっていたのも疑いようのない事実。今のゲーム音楽はサントラCDを聞いた時に、初めて耳にするようなフレーズの現われる長い楽曲が多い。誰でも覚えて口ずさむことができ、今なお名曲とされるゲーム音楽の大半は、シンプルなファミコン時代の音楽がほとんどではないだろうか?


 追記しておくと、PSGと言えどももちろん波形のエディットは可能で、アタック(立ち上がり)・ディケイ(減衰)・サステイン(持続)・リリース(余韻)という4要素、いわゆるADSRを音色ごとに加工できた。これによって、たとえば「ピアノっぽい音」「弦楽器っぽい音」「管楽器っぽい音」など、音色にキャラクター(個性)を持たせることができたほか、メーカーによって音色の傾向に違いを持たせることができたのだ。



ファミコンのディスクシステム

 ちなみに、ファミコンの拡張ハードである「ディスクシステム」では音源が追加されており、ファミコン単体では鳴らせない一味違う音を使うことが可能だった。その違いは第一弾ソフト「ゼルダの伝説」で既にじゅうぶん感じることができるだろう。荘厳なオープニングなどは、まさにこの拡張音源のたまもの。後に大容量のカセットROMが登場し、ディスクシステムのソフトがカセットに移植されることもあったが、その場合はファミコン単体の音源を使用することになるため、拡張音源に相当するパートは再現されない。ゆえにディスク版「ゼルダ」とカセット版のそれでは、ゲームの中身は同じでありながら耳に残る印象はだいぶ異なっている。

3.ファミコン以降のゲーム音楽
 
 順番から言えば、その後にPCエンジン、となるのだが、実はPCエンジンも性能が上がっているもののPSGであることに違いはなかった。ただし、専用のCD−ROMを取り付けることで、CDと同等の音源や人間の肉声の再生を可能にした。これは、家庭用ゲーム機としては初めてのことである。ただし、CD-ROMについてはハードの価格がまだまだ高く、残念ながらこの時点では普及したとは言い難い。本格的にCD-ROMが普及するのは、プレイステーションやセガサターンの登場を待つことになる。

初代PCE ←単体ではPSGだが、拡張という概念で家庭用ゲーム初の
CD-ROMを採り入れたPCエンジン。それによって再生される
CDクオリティの音楽や声優の生声には誰もが驚いた。

 一方、本格的に家庭用ゲーム音楽に変化が訪れるのは、セガの「メガドライブ」からであろう。これはYAMAHAのシンセサイザー、DX-7に代表される「FM音源」という方式を採用している。FM音源自体は「セガマークIII」の頃から使われていたが、あくまでオプションであり、標準装備という意味では「メガドライブ」が初となる(マスターシステムは例外として)。正弦波を複数の発振機で変調させて音色を作り出すこの方式の採用で、家庭用ゲームは「ピコピコ音楽」から一歩抜け出すこととなった。その音色はPSGと聞き比べれば一目(耳?)瞭然。ゲーム機が「音源付き・再生専用シーケンサー」を内蔵するのに等しいことである。また、ゲーム音楽にあらゆるジャンルの楽曲スタイルが取り入れられ始めたのもこの頃のこと。

セーガー ←初めてFM音源が標準実装された、セガの「メガドライブ」。
今でもファンの多い16ビットの名機である。普及型として
初のFM音源搭載機と言ってよい。
マスターシステム ←同じくセガの「マスターシステム」。
海外版の「セガマークIII」を日本国内向けにアレンジし、
オリジナルの「マークIII」でオプションだったFM音源を実装。
ただし普及機とは言い難い。

4.スーパーファミコン登場、時代はPCMへ

 
プリセットシンセ化していくゲーム機

 そして、スーパーファミコンの登場で家庭用ゲーム機の音楽は一気に変革する。スーパーファミコンでは『デジタル化した波形データを音色として持ち、それを鳴らして楽音を奏でる』PCM音源を搭載、この時からゲーム音楽の音色にサンプリングが用いられるようになる。

 例えば、ストリングス(弦楽器、たとえばバイオリン)の音色が必要であるとして、サウンドデザイナーがまず行うのは、シンセサイザーや音色CD−ROM(サンプリング素材)から使えそうなストリングスの音色を抜き出し、編集したり合成・加工することで、そのゲーム用のストリングスの音色を作成することである。そして、そのストリングスの音色はそのままではスーパーファミコンで鳴らすには容量が大きいので、メモリーなどを考慮して適度にダウンコンバートするのである。波形データは大きくなりがちなものの、ピアノは明らかにピアノ、ラッパは明らかにラッパの音がするようになった。ソフトの中に、専用のプリセット音源を内蔵する感覚に近い。あとはゲームの進行に合わせて適宜ロードし(もしくは音色データをRAMに常駐させ)、ともにローディングされた演奏データ(シーケンスデータと言っていい)からの指令によって発音し、楽曲を奏でるわけである。


 ただし、それでもスーパーファミコンのメモリー(RAM)には限りがある。同時発音数は8音に増えたものの、やはりBGMとSEを共存させねばならかった。このように細かい制約がなくなったわけではないが、初めて「ドラクエV」のロトのテーマを、「FFIV」のオープニングを聴いた時の劇的な変化にはただただ驚くしかなかった。ようやく音楽が、シナリオやグラフィックの進化に追い付いた感さえある。もちろん、8音すべてギチギチにスコアを重ねる必要はまったくなく、空きトラックをエコーディレイなどの効果、SEに回すことで、かなり贅沢なサウンドを構築することも可能だったのである。スポーツゲームにおける人間の歓声も、PSGの頃はホワイトノイズでそれらしく表現していたが、PCMになってからは本物の歓声をサンプリング。レートこそ低いものの、ゲーム機から音色として生の人声を出すことが可能になった。この頃から、格闘ゲームのキャラクターたちが『決め台詞』をしゃべるようにもなった。ゲームにとって「音の演出」が初めて本格化した時代だったのかもしれない。


異業種ミュージシャンの参入が容易に

 サンプリングが使えるということは、通常の音楽製作手法がそのまま持ち込めるということだ。生演奏はまだまだ難しいものの、打ち込みを得意とするミュージシャンにとっては、ある種の特殊技能を求められたゲーム音楽製作の垣根が、限りなく低くなったという恩恵があった。無論、プレイヤーを高揚させる楽曲作りには特殊な技術が求められるが、手段や機材の点でそれほど戸惑わずに済むようになったことは大きなメリットであっただろう。

名機 ←PCM音源を採用した国民的普及機・スーパーファミコン。
音楽のみならず、効果音での表現も格段に進化した。
このあたりから、ゲーム畑ではないコンポーザーたちにとって、
ゲーム音楽の障壁は(技術的には)低くなった。

5.そして、PS、PS2、DC…CD-ROM、そしてDVDへ

CDなんだからCDを再生すればOK?

 ソフトがCD-ROMになったんだから、音楽はCDから再生すればいいんでしょ?などと安易に考えてはいけない。CDからダイレクトに音楽を再生する場合、多少の差はあれCDへのアクセスラグが発生して、ロードが長くなったりユーザーに待ち時間を与えてしまったりと、弊害も多いのである。さらに、CDを再生すると言うことは、いつか曲の終わりが来るということで、終わったらどうなるかと言うと次の曲をサーチするまでの間、音楽が流れなくなる。CD再生は一部の格闘ゲームやレースゲームではわりと盛んに用いられていた手法であるが、これらのゲームでまれに音楽が消えるのはそのため。つまり途切れない音楽を再生し続けるためには、PSやDC、PS2においても、依然として内蔵音源が基本なのだ。

 音色の構築方法は、サンプリングしたPCM音源を使用するという点ではスーパーファミコンとさほど変わらない(もちろん、かなりグレードアップはしている)。また、ムービーやエンディングというような「ここぞ!」というシーンのみ、あえてCDからダイレクトに再生する方法を採ることもある。生ギターバリバリのロックチューンだろうが、フルオーケストラでの大迫力の演奏だろうが、CDから再生するのならばそれらの迫力をダイレクトに受け手に伝えることができる。場合によっては効果音も含めて、ムービーと同期した「完パケ(完全パッケージ)」にしてしまえば完璧である。

CD再生のいろいろ

 CDからの再生もいろいろで、CD-ROMに記録されているCDと同様のオーディオを直接再生する方法がひとつ。つまり、CD-ROMの中に普通の音楽CDと同じ方式のデータを入れておき、再生(読み出し)する時も普通の音楽CDのように行なうわけである。この場合、PSのCD-ROMをオーディオ用のCDプレイヤーで再生すると、BGMのみを聴くこともできる。PSなどのCD-ROMメディアを使うマシンで、音楽CDを再生できるのもこのおかげ、というわけだ。

音楽イイですよ ←例として、ナムコの「レイジレーサー」。通常のCDプレイヤーで
BGMを聴くことができる。1トラック目はゲームデータなので、
くれぐれも再生しないように。最悪、アンプやスピーカーが破損する。
他にもCD再生可能なタイトルは多数存在する。

 もうひとつは、可能な限り音質を損ねないよう、特殊な技術を用いて圧縮してあるものを再生する方法。データ容量を節約する必要がある場合などにこの方法が採られる。CD-XAという方式では、音質はやや落ちてしまうものの、通常の約8倍の容量を得ることができるという。特に近年、効果音をXAで再生するゲームソフトも増えてきているようである。従来は効果音もBGMと同じく内蔵音源を用いて製作・再生されてきたが、豪華な効果音をCDとほぼ同じクオリティで鳴らすことができるようになったというわけ。例えば「ファイナルファンタジーVII」の効果音は内蔵音源から発音されているが、次の「ファイナルファンタジーVIII」では効果音をXAで再生している。これらの圧縮された形式で記録されているソフトの場合、CD-ROMをCDプレイヤーで再生することはできない。


 
プレステ時代の内蔵音源

 内蔵音源に関しては、PS(プレイステーション)のそれも発音の仕組みはこれまで(スーパーファミコン時代)と似ていて、場面が変わるごとにそのシーンでかかるべき楽曲の演奏データと音色データがローディングされる。そして楽曲を鳴らすのである。PSの同時発音数は24音。一時期のMIDI音源ですら32音が主流であったことを考えると(現在は64や128が多い)、DTMにすらひけをとらないアンサンブルの再現が可能になったということである。CD-ROMであるわけだから、カセットROMのように大幅なデータの制約はなく、わりとレートの高いリアルなサンプリング音色を使用することができる。



 しかし、だからといって24トラックをフルで鳴らしたり、贅沢な音色を使いまくってしまうと問題がある。仮に1枚のCD-ROMの容量が650〜700MBあったとしても、その中に収録されるのは当然、音楽ばかりではない。グラフィック、シナリオ、その他もろもろが詰め込まれるわけである。

 さらに、PS(PS2)はゲーム機としては商業的に大成功したと言えるが、マニアックな視点から見ると最大の弱点がある。それは本体のメモリーの容量の少なさだ。このメモリーの容量というのは、CD-ROM(ソフト)からの一度のロードでどれだけのデータを本体に溜めこむことができるか、という要素を決定付ける。

プレイステーションの弱点とディスクメディアの問題

 たとえば、RPGにおいてワールドマップからある街に入ったとしよう。画面が暗転し、ソフトからゲーム機本体へあらゆるデータが読み出される(これはディスクメディアのゲームマシンならばすべて同じ)。この時に読み込まれるデータは、背景グラフィック、キャラクターグラフィック、イベントデータ、そしてサウンドと、すべての要素である。つまり、メモリー容量が多ければ多いほど、大量のデータが読み出せることになり、結果としてすべてのクオリティが高いゲームが製作できることになる。だが、PSはここが弱かったのだ。特にオーディオ用のメモリーは若干500キロバイト。CD-ROMの容量のおよそ1280分の1に過ぎないのだ。これはPS2になって容量は上がったものの、それでもDC(ドリームキャスト)のメモリーと比較すると弱い。

メモリー拡張してほしかった ←無敵と思われていたプレイステーションだったが、
クリエイター、コアユーザーともにそのメモリーの貧弱さは
大きな不満がある。

 余談だが、メモリー容量によって当然、使えるテクスチャー(ポリゴンモデルの表面に貼り付けるグラフィック)の密度も変わってくるため、一時期は『PS2よりもDCの方が見た目のグラフィックは良いはずだ』などと言われていたものである。それはまったくのデタラメでもないことは前述の通り。



 結局、何が言いたいのかというと、限られたメモリーの中でサウンドに割り当てられる容量はさらに狭められるわけで、本体スペックを鵜呑みにした豪華絢爛な音作りはできない、ということ。ハードのスペックは上がっても、作曲家やサウンドデザイナーたちの、容量との闘いは続いているわけだ。この辺が、ゲーム音楽がいま一歩、よくできたMIDI音楽に追い付くことができない所以である。しかし逆に、その制約の中で「いかにいい音にできるか」という挑戦もまた、同時に行われているのである。

 そこで講じられた工夫のひとつをご紹介しておこう。またもや例が「ファイナルファンタジー」で恐縮だが、PS時代の「FF」は、すべての楽曲で使用する音源を決め、RAMに常駐させていた。つまり「ラッパはこれ、弦はこれ」と決めおき、常に本体メモリーに常駐させることで、素早いアクセスを優先していた。しかしこの方法では、前述のように限りあるメモリーの中に音色を詰め込まねばならず、結果としてひとつひとつの音色をサイズダウンしなければならなくなる。そこで、同じPSでリリースされた「FFIX」からは手法を変え、楽曲ごとに使用する音色データをその都度読み込んだ。読み込み時間は発生するものの、音色が豪華になり表現力が増した。無難でない、特殊な音色が明らかにふんだんに使われているのがわかる。読み込みを優先するか、クオリティを重視するかという点で非常に興味深い事例である。



プレステ2とドリームキャスト

 若干PS2やDCの話が出てしまったが、あらためて解説しておこう。プレイステーション2になっても楽曲の製作工程自体に変化はない。ただし、PS2に関しては同時発音数が48チャンネル+α、と倍以上に向上している(DCは24音)。これは即ち、ちょっとしたDTMにも劣らない楽音表現が可能になったということである。本体メモリーの容量もPSに比べれば増えているので、音色もクオリティアップすることができる。コンピューター音楽が苦手とするギターのサウンドも、かなりそれらしいものが聴ける状況になってきた。一方のDCでは、YAMAHAのソフトウェアXGシンセ音源を搭載しており、パソコンと同等レベルの楽曲再生が可能。もちろんソフトによって独自の音源を使用することも可能である。

 「次世代機」と呼ばれるハードでリリースされるゲームが、しばしば行うようになってきた音楽再生の方法にストリーミング再生がある。実際はPS時代から実験的に行われてきたことだが(「FFVIII」の劇中主題歌もストリーミング再生)、PS2やDCで本格的に行われるようになったこの手法、今ではほぼすべての楽曲をストリーミングで鳴らしているゲームも珍しくない。ストリーミングとは、はたしてどんなものなのか。

ハグハグ ←「FFVIII」より。この宇宙のシーンで流れる
「EYES ON ME」は、ストリーミング再生によるものだ。

 ストリーミング再生は、今やインターネットでの動画・音楽再生でも馴染みのあるものになってきたので、その名前を聞いたことがある人は多いだろう。ゲーム機における音楽再生においては、「ステレオミックスの楽曲をひとつの大きな音色データとして扱い、それを徐々に本体メモリーに送り込む」ことを指す。ハード本体のメモリーに次々と(リレー式に)データを送り込んで、途切れのない再生を実現しているわけだ。このストリーミング再生を利用すれば、2つの曲を同時に鳴らすことも容易に行える。これを利用し、楽曲の切り替えをクロスフェード処理することで、途切れのない楽音再生を行なってみせる作品も現れた。つまり、前の曲が鳴り終わる前(フェードアウト中)に次の曲をスタートさせてしまうのである。

 また、PS2でのリメイク「ドラゴンクエストV」ではシリーズで初めて、すべてのゲーム中の音楽においてフルオーケストラ演奏されたトラックを採用し、豪華な音楽を聞かせてくれる。これもまた、ストリーミングの恩恵なのだ。いずれも内蔵音源によるリアルタイム演奏では到底不可能な手法である。

 もちろん両者はDVD(デジタル・バーティカル・ディスク)やGD(DC独自のメディア規格)といった大容量メディアを採用しているためこのような離れ業が可能になったのだが、内蔵音源による楽曲のクオリティは前述のように本体メモリーに依存するため、メディアが大容量になったからと言って音楽の質が向上するということについては直接関係しないので、念の為。だがCD-ROMの頃では容量の関係から見送られることの多かったキャラクターのセリフが、生の人声で語られるようになってきた。これは大容量メディアの恩恵と言っていいだろう。

6.PCM時代のゲーム音楽製作
 
 ゲーム作曲家が音楽を作曲するうえで、昔のような特殊なプログラム知識や機材は必要なくなってきている。普通の打ち込み音楽を作るのと何ら変わらない製作スタイルがそのまま持ち込めるのだ。もちろん最近のゲームメーカーには、サウンド専用レコーディングルームのようなものがあるにはあるが、実際アマチュアのMIDIファンとさほど変わらない環境で作曲をしている人も多い。それが、あらゆるジャンルのミュージシャンがゲーム音楽を担当することが多くなった所以でもある。

 作曲家のスタンスにもよるが、まずスケッチ程度と言うか、デモのような曲を製作する。そこで用いるのはシーケンスソフトの入ったパソコンと、いくつかの音源があればいい。極端な話、シーケンサーとSC-88だけでかまわないのだ(FFの植松伸夫氏は、まさにこれ)。そして楽曲ができあがったら、各パートの楽器を指定して、製作した楽曲のMIDIシーケンスデータをサウンドプログラマーおよびシンセサイザープログラマーに渡す。

←植松氏が作曲時に愛用する音源、SC-88。
民族楽器だとか特殊な音を期待しなければこれだけで
じゅうぶん、とは氏の談。DTM入門機ながらその質と
扱い易さはユーザーの多さからも保証つき。

 シンセサイザープログラマー
は、指定されたパートに対して音色を作成。ゲーム機で鳴ることを考慮し、容量とにらめっこの状態で、いかに音色を良いものにするかを考えていくのである。サンプリングや加工を繰り返し、音源を構築していく。例えば植松氏がスケッチ時に鳴らしていた音色は、ここで本チャン用の音色に差し替えられていくわけだ。

 一方でサウンドプログラマーは、必要であればゲーム機上でシーケンスデータ(演奏データ)を走らせるための「サウンドドライバー」というものを作る。一種のデータコンバーターのようなもの、と理解すればいい。これを通すことで、MIDIで作られたシーケンスデータがゲーム機の音楽フォーマットに変換され、実際のハードで鳴るようになるわけだ。これでやっと、ゲームから音楽が流れることになる。



 もちろん作曲家がこれらを兼ねる場合もあり、自分の作った音楽について、音色から吟味していくのである(例えば光田康典氏などはこれ)。この場合、多少は専門的な知識が必要であり、異業種から参入した作曲者にはやや敷居が高いと思われる。もちろん、音色のエディットなどの作業において、本来の「作曲」に対するアイディアを費やしたくない、純粋に「作曲」に集中したいという人もいるから、まさに人それぞれである。また、CD-XAなどでミックスダウンされた完成トラックを直接再生するタイプのサウンド開発においては、作曲者が音源のサンブリングから楽曲の録音まで、一人で完結させる場合も多い。



こんなかんじで、ゲーム音楽のしくみがなんとなくわかっていただけたでしょうか?もちろん、私も別にゲーム音楽で飯を食べているわけではないので、素人の浅知恵に過ぎません。それでも、しくみを知ることでよりゲーム音楽への興味が強くなってくれれば……。今までゲームのBGMをただ聴いてただけの人、単純に作られたものが再生されてるものだと思ってた人……。そんな中から一人でも、ゲーム音楽に対しての見方が変わったという人がいてくれれば、嬉しいです。
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