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すぎやまこういち交響組曲「ドラゴンクエストV 天空の花嫁」
ロンドンフィルハーモニー管弦楽団演奏、SBM盤
ジャケット画像  「ドラゴンクエストV」の交響組曲には92年発売のNHK交響楽団盤が既に存在しているが、すぎやまこういち氏がロンドンフィルハーモニー管弦楽団と交流を深めるうち、過去の楽曲の再録音も行われるようになった。その過程でできたもののうちのひとつが、このロンドンフィル盤「ドラクエV」である。高い人気がありながらN響盤での収録に漏れた「哀愁物語」を初めてCD化したものとして、都響盤などもちろん存在しなかった2000年当時、ドラクエ音楽ファンの間でマストアイテムとされた逸品である。N響盤・都響盤と比較しながら聴き込むのも楽しみのひとつだろう。

ソニーミュージックエンターテインメント
SVWC 7065
2000年
JASRAC表記:
あり

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2009年、SUGIレーベルのキングレコード移籍に伴い、
パッケージリニューアルで再販されました。
交響組曲「ドラゴンクエストV」天空の花嫁

KICC-6318
楽曲解説は一部、N響盤の改変によって作成しています。

01 序曲のマーチ
Overture
N響盤よりもやや低いピッチのトランペットによる盛大なファンファーレに導かれ、ロンフィル盤序曲はスタートします。N響盤にあった主題のリピートは省かれ、1分20秒ほどの短いものになっています・・・・・・って、ここで「アレ?」と思った人は鋭い!実はこのトラック、何かのミスがあったのか、「ドラクエVI」の組曲と同じものが収録されてしまっているんです。つまり、正しくは「V」として録音された「序曲のマーチ」ではないんですね。マスタリングへと至る過程で間違ったものを入れてしまったようです。ですが、「V」「VI」の「序曲」に明確な違い(新たなアレンジの変更など)はないので、ここではあえて「V」の序曲として話を進めますね。ややこしくてすいません(って私が謝ることじゃないですが)。なお、本来の「V」のために演奏されたロンフィル盤「序曲のマーチ」は、コンプリートCD-BOXに収録されています。

ロンフィル盤もN響と同じマルチマイクでの集音を行っていますが、かなりオンマイク気味で楽器の輪郭まで聴き取れるN響盤と対照的に、全体の余韻を大事にした空気感のある音像。イントロのトランペットの反響ですぐにわかると思います。N響盤が各楽器を音の「点」で聴かせるとするなら、このロンフィル盤は「場」ですね。これは「序曲のマーチ」のみならず全曲に共通して言えることでしょう。

オーケストラものとしてどちらがより良いのかという問いに対しては、簡単に答えを導くことはできません。デリケートなオーケストラ録音には録音環境や使用機材、楽員の配置はもちろん(力量や指揮者との相性も)、状況によっては温度や湿度も影響してきます。まして日本とイギリスではそのあたりの環境はまったく異なってきますから、まず録音条件が揃うことはありません。エンジニアのものの捉え方も異なるでしょう。つまり、異なる録音があった場合、両者は違ってて当然なのです。むしろ違わなければ、同じ楽曲を異なる楽団で演奏する意味がありません。そうなれば、あとは聞き手としては好みの問題。あなたの耳にどちらが馴染むか、がすべてです。思いっきり主観で判断してかまいません。が、それを他の人に強要するのは音楽ファンとしてのマナーに反します。私個人としては、例えは良くないですがいわゆる「リミックス」と同じ感覚で、各楽団の演奏を平等に楽しませてもらってます。

「V」の「序曲」から加わった大きな要素として、主旋律に対する木管楽器の対旋律があります。N響盤ではセンターに定位し、かなり自己主張の強かったこの対旋律、ロンフィル盤ではやや横に配置され、レベル的にも少し下げられて主旋律の邪魔をしないよう、より配慮されているようです。せっかくの新要素ですからもっと前に出てもいいのかなあ、などと思ったりもしますが。ゲームではタイトル画面のほか、試練の洞窟をクリア後に主人公がグランバニアの王となるイベント、そしてラスボス撃破後に主人公がグランバニア王の間へと凱旋するシーンの全3ヶ所で流れる曲です。もちろんSFC版で流れるのはゲーム音源、PS2版ではN響盤です。ロンフィルの演奏がゲーム本編で流れることはありません(「V」は特に複雑な事情を抱えているので、あえて最初に断っておきます)。
02 王宮のトランペット
Castle Trumpeter
冒頭で鳴り響くトランペットの響きがすでに、N響とはまるで別物になっている「王宮のトランペット」。重複しますが、どちらが良し悪しということではありませんので、そこのところをご了承下さい。以下、このような表現を用いる場合も、特別な記述のない限り同様です。

わかりやすい印象として、ロンフィル盤とN響盤を比較した場合にまずわかるのが「広がり感」ではないでしょうか。両者ともスタジオ録音であることに違いはありませんが、N響の演奏はわりと各楽器の定位が密集し、すぐ左右に壁があるようなイメージ。対してロンフィル盤は、広い空間(それこそホールのような)で演奏されたかのような、ふくよかな響きを感じることができます。これは場の残響を収録するアンビエンスの活かし方による違いが大きいと思われます。

楽器と残響の定位の関係……と言うと少し複雑ですが、たとえば右側で鳴っている楽器の残響(わかりやすく言うとエコー)が、同様に右側だけで響いているのがN響盤。同じように右側に定位している楽器の残響が、空間全体に響き渡って左側にも反響しているのがロンフィル盤です。この場合、後者の方がより広がりを演出できます。これは後処理による残響の付加や調整ではなかなか得られない効果で、録音の段階から計算されたマイク配置が求められるのです。そういう点では、日本人的・英国人的なものの捉え方の違いが現れると言っても大袈裟ではないでしょう。

ゲームではいわゆる「お城」という場所で流れる曲で、これまでのシリーズでは王宮音楽は弦楽主体でまとめられてきたのですが、「V」で初めて金管(トランペット)が主役となりました。しかしその印象は過去のシリーズから大きく外れることはなく、やはり全体を包み込むような美しい弦楽器が主体となっています。トランペットは言わばアクセント的な味付けとなっていますが、これまでの「ドラクエの城=弦楽」というイメージに一石を投じることに成功しています。PS2版のゲーム中で流れるのはN響盤ですが、もしもロンフィル盤が使われていたらだいぶ印象が変わったことでしょう。ただこれも良し悪しではなく、むしろ必要以上のステレオ感(広がり)は一般的なテレビのスピーカーには向かないものです。そういう点でもN響の演奏はゲームにおいても「劇伴」として適しているのですね。
03 街角のメロディ〜
地平の彼方へ〜
カジノ都市〜
街は生きている〜
街角のメロディ

Melody in an Ancient Town〜
Toward the Horizon〜
Casino〜
Lively Town〜
Melody in an Ancient Town
街関係+フィールドのメドレーです。まず最初は「街角のメロディ」。ゲーム本編をプレイした人には妖精の世界の曲としておなじみではないでしょうか?妖精の世界のフィールドと妖精の村で、途切れることなく流れ続ける曲です。これがまた妖精の世界に独特の空気感を与えているんですね。フィールドでも流れるというところが最大のポイントになってます。ロンフィル盤の演奏は、パーカッション(後ろの方でカッカカラカカッカとやってるアレ)の音符の配置がN響の時と変わっているため、冒頭からリズム的な違和感を感じました。もっともそれはN響の演奏に耳が慣れているからですけどね。シメのリプライズでも同じことをやってるのでミスではなく、意図的に変えているようです。

続く1分56秒からは、通常のフィールドBG「地平の彼方へ」。暗黒世界と妖精の世界をのぞくフィールドで、少年期・青年期を通して流れるものです。オーボエに導かれて始まる「心細さ」は、シリーズではもはや伝統となりつつある「寂しげなフィールド」のイメージを貫いたものでしょうか。ロンフィルの演奏はイントロの入りが揃っておらず、ちょっとだらしない印象で始まります。いわゆるN響支持派はロンフィルにおけるこういうところが気になるんではないでしょうか?一方、盛り上がり以降の圧倒的にふくよかな響きはロンフィルならでは、という感じです。

3分32秒でチラッと顔を出すトランペットは「宿屋」のME。N響盤でも行われていたサービスですね。そして「カジノ都市」へと続きます。小刻みなピチカートと対照的にずっしりとしたバス、そして木管(クラリネット)によるメロディが、そこかしこの悲喜こもごもを表しているかのよう。この「カジノ都市」、かなり印象は変えていますが「街は生きている」のアレンジです。「カジノは街のアレンジ」というのはシリーズの伝統なのです。ここでの演奏は、N響のものと比べてテンポが遅くなっています。そのせいなのかパーカッションとピチカートストリングスが揃っておらず、個人的にはバラバラな印象を受けます。N響ではさすがにこのあたりがビシッと揃ってくるため、聞いていて快いリズムを形成していたのですが。

4分40秒からは「街」で流れる曲「街は生きている」。フルートによる優しげ・楽しげな音色と清らかなストリングスでまとめられており、ゲーム中で安心できる場所であることをはっきりと示しています。豊かな残響のおかげで、N響盤の演奏よりも金管が強調されており、雰囲気がだいぶ異なる印象を受けますね。響きというものはこのように重要なのです。また、「カジノ都市」とは逆で、この曲ではN響よりもテンポが上がっています。このあたりは指揮者のノリや気分次第ですな。

6分44秒からは「街角のメロディ」をリプライズしてメドレーを締めます。
04 空飛ぶ絨毯〜
大海原へ

Magic Carpet〜
The Ocean
乗り物メドレーです。まずは「まほうのじゅうたん」に乗って移動する際に流れる「空飛ぶ絨毯」から。「てんくうのベル」を手に入れ、マスタードラゴンの背中に乗って飛んでいる間も流れる曲ですね。イントロではヒラヒラヒラ〜とじゅうたんが舞い上がり、軽快に飛んでいくさま、そして様々な景色に呼応してテンポが変化、時にのどかに、時に憂いを帯びる展開は聴きものでしょう。まほうのじゅうたんと言えばアラビックなイメージもありますが、そういった音階は用いられていません。ですが、イントロ直後や1分19秒のあたりなどにはエキゾチックな音の並びが感じられます。

3分53秒からは船で海上を移動する際に流れる「大海原へ」。シリーズの海音楽はいつもワルツで統一しているように見せながら(とは言っても「II」「III」だけですが)、それを覆したのは前作「IV」でした。それこそ「II」の海はまだまだ狭く、「ドンブラコ」のリズムのよく合うものだったのですが、世界の規模が比較にならないほど広大になるにつれ、「もはやワルツじゃないだろう」という判断からか、海の音楽もそれに見合った壮大な楽曲が充てられるようになってきたのです。本作「V」でもワルツの要素を廃し、雄大なイメージをいっそう押し進めた曲想になっています。もっとも海をワルツにしてしまうと「結婚ワルツ」ともかぶってしまうという理由もあるでしょう。ドラクエシリーズの「海BG」の中でも屈指の人気を誇る名曲で、ロンドンフィルの演奏はさすがのスケール感。強弱のはっきりとした、オーケストラ音楽のダイナミクスを実感できる快演です。
05 愛の旋律
Melody of Love
ゲームの中で、主人公(=プレイヤー)に訪れる大きな転機。結婚前夜、翌日にはどちらと結婚するか答を出さなければならない……。どうにも眠れない主人公がサラボナの町を歩く際に流れるのがこの「愛の旋律」です。イベントではここでしか流れず、ほとんど聴く機会のない曲ではあるのですが、プレイヤーの印象にはイベントともども強烈に残り、作品中でもファン人気の高い楽曲となっています。

夜ということもあり、楽曲はもの静かなフルートとピチカートストリングスで始まります。何を想うのか、人気のない街を歩く主人公。向こうにはフローラのいるルドマン家の明かりが見えている……ビアンカはもう寝ているかな……そのうち主人公の葛藤を表すかのように、壮大な弦楽セクションが挿入されて気持ちを盛り上げます。この「静」と「動」の対比もこの曲の特徴で、単なる劇伴に留まらないゆえん。独立した楽曲としてじゅうぶんな完成度で、1分39秒からのバイオリンソロも聞きどころです。

感情移入の度合いはN響もロンフィルも甲乙つけ難い名演なのですが、残響の豊かさという点ではやはりロンフィルに軍配が。静かな夜って昼間より音が遠くまで響くじゃないですか?ゲームのイベントの雰囲気も加味したうえでは、ロンフィルの演奏(録音)の方がベターだと思います。ロンフィルのコンサートマスターは演奏する曲がどういった背景を持つ曲なのかという点について、すぎやま氏とコミュニケーションを怠らないそうですが、レコーディングエンジニアもそういった意識を持ってやってくれてるとしたら、いちドラクエ音楽ファンとして嬉しいですね。
06 洞窟に魔物の影が〜
死の塔〜
暗黒の世界〜
洞窟に魔物の影が

Monsters in the Dungeon〜
Tower of Death〜
Dark World〜
Monsters in the Dungeon
ダンジョン系メドレーのトラックです。最初は洞窟系ダンジョンで流れる「洞窟に魔物の影が」。ジワジワと迫り来たかと思うと消え入りそうになる、強弱の付けられたストリングスの上にオーボエのメロディが乗っています。寒々しい不気味さを醸し出しながらも怖いだけの曲に留まっていないのは、このオーボエの音色によるところが大きいでしょう。面白いのは1分39秒以降の終結部付近。木管とストリングスの役割がここでガラッと入れ替わるのです。木管が後ろでジワジワジワジワ、そのうえでストリングスが主題を奏でているのです。

2分5秒からは塔で使われている「死の塔」。木管メロ・ストリングスの伴奏・金管のアクセントという構成は「洞窟に魔物の影が」と共通です。ゲーム音源ではあからさまなベンドダウンが強烈なインパクトを放っていたこの曲ですが、オーケストラバージョンでは弦のポルタメント奏法(弦から指を離さずスライドさせ、持続音の中で音程を変化させる奏法)でこれを再現しており、楽曲の特徴を損うことなく演奏されているのはN響の演奏と同様。ゲーム中ではひたすら不気味な曲という印象があったのですが、オーケストラバージョンではやはりオーボエの音色が持つ暖かさのおかげか、だいぶ恐怖感が和らいでいます。子供だけで侵入したレヌール城における主人公たちの心細さ、を思わずにはいられません。

3分31秒からは暗黒世界のフィールドで耳にする「暗黒の世界」。これまでとはうって変わってピッコロが押し出され、伴奏も金管メイン。威圧感もあるのですが、なぜだかゲームの終盤も終盤、ここにきて妙に呑気な雰囲気になっています。普通なら「暗黒の世界」の名の通り、ひたすら怖いオドロオドロしい曲を充てそうなところですが、そうしないのはひとえにすぎやま氏の人柄ゆえ、なのでしょうか?

4分41秒からは再度「洞窟に魔物の影が」を演奏して締め括ります。
07 哀愁物語
Make Me Feel Sad
このCDを発売とほぼ同時にゲットした人の多くは、この曲が目当てだったのではないでしょうか?N響盤では収録されなかった人気曲「哀愁物語」です。なぜN響盤では演奏されなかったのでしょうか?

ゲームでは青年になった主人公がサンタローズへと戻り、そこでパパスの残した遺書を読むイベントが初出。また、アルカパの宿屋に泊まったヘンリーが夜、故郷ラインハットに想いを馳せるシーンや、グランバニアでのサンチョとの再会、イブール撃破後にいのちの指輪から母・マーサが語りかけてくるシーン、その母とエビルマウンテンで出会うシーンなどなど……。いずれも作品中では「哀愁」の名に恥じない、珠玉の名場面に流れていたのにもかかわらず、組曲収録の見送りは当時たしかに疑問でした。

すぎやまこういち氏としては、この曲を「歌謡曲っぽい」と感じ、交響組曲に組み込むことは考えていなかったようです。そして、そのまま交響組曲を録音。しかしゲームの製作が進むうち、いろいろな場面に付けられていく「哀愁物語」。一説には楽曲に合わせて調整されたイベントもあるほどだとか……。プログラマ(山名学氏)がこの曲を特別に気に入っていたのでしょう。結果としてかなり頻出、それも印象に残る名場面に充てられているにもかかわらず、組曲の録音はもう終えてしまった……ということになってしまったようです。やむなくN響盤はそのままリリースされましたが、それを受けてのファンからの反響・問い合わせもあって、すぎやま氏は「哀愁物語」をオーケストラ演奏用に編曲し、94年にコンサートで初めてオーケストラバージョンを披露します。そしてやっと2000年、このロンフィル盤でやっと収録が実現したというわけです。

その演奏は、ゲームでの印象を損なわない、感情移入バッチリの名演。強弱の表情をたっぷり付けた包み込むような厚いストリングスに、木管の切ないメロディ、そこにアクセントを受け持つハープと、楽器の編成もユーザーの思い入れを邪魔することのない、これ以上ないというほど適確なものです。2分30秒弱という短い演奏ながら、このためにロンフィル盤を買った人には大満足なものでした。
08 戦火を交えて〜
不死身の敵に挑む

Violent Enemies〜
Almighty Boss Devil is Challenged
戦闘メドレーです。まずは通常戦闘のBG、「戦火を交えて」から。N響盤と比べた時、アルバム全体を通して最も印象が変わっているのがこの曲ではないでしょうか。ストリングスや金管の響きの違いからくる音場の広がりはもちろん、5小節目からの木管の印象はスコアを改変したのではないかと思えるほどニュアンスが変わっています。ところどころスネアがモタって聞こえるのは豊か過ぎる残響の影響もあるのかもしれませんが、それを差し引いても演奏全体としてのまとまり、そして迫力はN響・都響と比べてもダントツ。こういうことを言うと、そもそもロンフィルと日本のオーケストラごときを比べるな!とかおっしゃる「オーケストラ通」の人が必ずいるのですが、私は「オーケストラ通」ではありませんから、なんの悪気もなく比較しちゃいますのであしからず。

なお、1分9秒のところで聞き取れるブラスのフレーズは「高貴なるレクイエム」のモチーフ。こうした要素をもブレンドすることで、戦いの末に待つものを暗示しているかのよう。また、過去にレクイエム系楽曲に対するユーザーの印象の薄さにショックを受けたすぎやま氏。戦闘曲にそのモチーフを組み込むのは苦肉の策なのかも?とは邪推しすぎでしょうか。

いったんクールダウンし、静かな「地平の彼方へ」のモチーフが挿入されます。戦い終わってひと息、というところでしょうか。傷付いた仲間を回復したり……と、息もつかせないようにして現れるさらなる強敵!3分35秒からは中ボス戦BGM「不死身の敵に挑む」。実はリメイクを除き、正統なナンバリングシリーズで初めて中ボス戦の曲が用意されたのがこの「V」でした。

オーケストラ全体で鳴らす強烈なヒットから始まり、打ち鳴らすティンパニのインパクトも絶大。今から戦う敵はそのへんのザコとは違うんだぞ、ということを音で明確に提示しています。オケヒット+ティンパニの組み合わせは通常戦以上に威圧的で、激しい戦いをいやでも想起させてくれますね。ただ、「戦火を交えて」で息切れしてしまったのか、各パートがバラついてきています(よく言われる「縦の線が揃ってない」というやつです)。ダイナミクスの面ではロンフィルの方が強いですが、こういう一音一音のインパクトが重要な曲において、各パートの発音タイミングがどれだけ揃っているかは根幹に関わるキモ。よって個人的には「不死身の敵に挑む」はN響の演奏に軍配。

なお、4分33秒のところでチラッと聞くことのできる、右側にいる低い弦楽器によるフレーズも「高貴なるレクイエム」のモチーフになっています。レクイエムのモチーフが戦闘音楽に散りばめられているのはシリーズでも「V」ぐらいではないでしょうか。
09 高貴なるレクイエム〜


Noble Requiem〜
Saint
ドラクエの交響組曲では既に恒例の「全滅+ほこら」組曲。まずは全滅時に流される「高貴なるレクイエム」です。また、全滅時だけ流すのでは印象が弱い(もったいない)との判断から、前作「IV」からはレクイエム系の曲がイベントでも多用されるようになりました。本作においてもそれは同様であり、中でも最たるものは少年期・古代の神殿におけるパパスの死亡イベントではないでしょうか?青年期での「石になった主人公」イベントも強烈でしたね。何を言ってるのかわからないという人はゲーム本編をプレイして下さい。ウチのレビューを読んでいる方々の中では、ゲーム未プレイという人は少数派だとは思いますが……。

低く暗い導入は「本当に死んでしまったの?」という戸惑い、そして事実を受け入れて瞬間的に感情が昂ぶるかのような、悲劇的なストリングス。そして葬送を思わせる粛々としたティンパニと、死者を弔う鐘の音。この楽曲は弦とティンパニ、鐘だけという構成ながら、どんな曲よりも「語って」います。パーティの全滅時においては「やりすぎ」な感もありますが、むしろイベント優先で楽曲を作ったのではと思えるほどです。

4分34秒からはほこら音楽「」。「高貴なるレクイエム」とは対照的な、オーボエと弦から成る優しくあたたかな雰囲気で、人の気配は感じさせないものの暗さ・寂しさはありません。筆者としては安堵感を強く感じます。同一トラックにはなっていますが「高貴なるレクイエム」と無理に繋げず、独立した構成としたのは正解でしょう。本当の意味での組曲とするには、曲の意味合いが正反対もいいところですから。別トラックでもかまわないほどですが、そうすると「聖」が短すぎますからね。まあ仕方ないでしょう。

ちなみにN響盤でも「聖」の入りは4分34秒からでした。異なる楽団で演奏し、N響盤から8年の歳月が流れているにもかかわらず、「高貴なるレクイエム」から「聖」に至るまでのタイムが同じだとは驚きですね。すぎやまこういち氏が指揮者としても一流であること以上に、氏の楽曲に対する思い入れがこんなところに表れているのではないでしょうか。
10 大魔王
Satan
激しいティンパニから始まるこの曲は、ラスボス「ミルドラース」第二形態との戦いを彩る、まさに最終戦の専用曲。イントロのティンパニから既に、N響盤よりややテンポが速いですね。「I」の「竜王」を思わせる管弦の刻みに、「暗黒の世界」とのイメージの共通化を図ったかのようなピッコロのアクセントが続きます。

この曲ではよく「歌うティンパニ」が指摘されていますが、15秒から左側で繰り返される、ホルンによるフレーズも特徴的。さりげないながらも、これは楽曲を支配するメインのモチーフです。トランペットやフルートがそれを反復したりしつつ、1分40秒からのストリングスへと受け渡す伏線になっており、楽曲全体がひとつのモチーフで貫かれています。2分11秒以降の再現においてもそれは繰り返されていきます。ティンパニすらもこのモチーフを「歌って」いるのです(4分3秒あたりに顕著)。

中ボス戦での「不死身の敵に挑む」がとにかく煽り立てていくような曲だったのに対し、ラスボス戦はあえて音にスキマを持たせるかのような構成にしてあるのもシリーズではおなじみの要素であり、激しい効果音と楽曲の両方を埋もれさせないための工夫なのだと考えます。

残念なのは、「戦火を交えて」や「不死身の敵に挑む」に「高貴なるレクイエム」のモチーフを入れることで統一感を出していたものが、この最終戦で損なわれている点。この曲のどこかにもチラッと入っていたら、と個人的には思います。しかし一方で、別のモチーフがこの曲には入れられています。1分20秒以降に金管や弦で繰り返されていく「パラパパッパッパー」というフレーズ、実はこれ、ゲーム中に登場したMEが元になっています。後にそれは「悪のモチーフ(V)」という曲名であることがわかるのですが、それがラスボス音楽に組み込まれているのです。ただ、伏線とするからにはボスの存在が希薄な頃から早々に行われていること、そして伏線がそもそも短いMEによって張られていることから、それほど印象的にはなっていないのが残念。音楽に注目してじっくり検証するようなタイプのユーザーでなければ気にも留めないかもしれません。逆に、その手法を徹底的にやったのが次回作「VI」となるわけです。
11 天空城
Heaven
ゲーム中では天空城のBGとして流される楽曲。前作「IV」でも登場した天空城ですが、お聴きの通り楽曲は変わっています(前作では「謎の城」)。しかし、シリーズにおける「城」のイメージからは逸脱しない弦楽で仕上げられている点は共通。そこにクラリネットによるメインのメロディが乗せられるという編成になっています。コンサートではクラリネット奏者の腕の見せ所ですね。厚みと広がりのあるストリングス、まったりととろけるようなクラリネットは美しいことこのうえなく、演奏も録音状態も非常に良好だと言えます。地上の城でのトランペットに対し、空の城はクラリネット。この対比による印象付けも巧みです。
12 結婚ワルツ
Bridal Waltz
本来はゲーム中盤、主人公の結婚式で流れる楽曲です。クラシカルな結婚式のイメージとしてワルツという名の舞踏曲は不可欠で、これ以外には考えられない絶妙のチョイスでしょう。さすがにすぎやま氏ならではの本格的なワルツで、知らない人にれっきとしたウインナワルツだよと言って聞かせても信じてしまうに違いありません。

華やかなファンファーレ調のイントロに続くのは、王道的な3拍子の流麗なストリングス。さりげなく添えられたスネアと、右側で清らかなアクセントとなっているトライアングルも邪魔をしていませんね。低音部はコントラバスとともに金管が補強しています。ハープも二人を祝福しているかのように花を添えています。

そしてなんと、「V」はシリーズ中で唯一、エンディング専用の曲がありません。そう、クリアした人ならばご存知の通り、この「結婚ワルツ」がエンディングにも流れるんですね。筆者は「エンディングは間違いなく結婚ワルツを核としたアレンジだろう」と当時は予想していたのですが、まさかそのものをそのまま使うとは!でも結果的に、「V」においてはこれ以上の選曲はないですね。楽曲のおかげで、これほど幸せな気分で終われるゲームも珍しいのではないでしょうか?

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