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すぎやまこういち交響組曲「ドラゴンクエストIV 導かれし者たち」
ロンドンフィルハーモニー管弦楽団演奏、SBM盤
ジャケット画像  「ドラゴンクエストIV」には3つのオーケストラーバージョンが存在する。ひとつはPS版のサントラにも再収録された、NHK交響楽団による演奏。もうひとつは1990年にロンドンフィルハーモニー管弦楽団が演奏したもの(ポニーキャニオンからリリース)。そして3つめが、このCDに収録された演奏だ。1997年と2000年に、やはりロンドンフィルによって演奏されたものである。すぎやまこういち氏がドラクエの音楽をロンドンフィルでまとめていこうとしていた時期のものだろう。90年の演奏との違いを比較するもよし、「IV」の決定版として長く聴き込むことができるだろう。

ソニーミュージックエンターテインメント
SVWC 7064
2000年
JASRAC表記:
あり

このCDを購入できます。
2009年、SUGIレーベルのキングレコード移籍に伴い、
パッケージリニューアルで再販されました。
交響組曲「ドラゴンクエストIV」導かれし者たち

KICC-6317
楽曲解説は一部、ポニーキャニオン盤の改変によって作成しています。

01 序曲
Overture
既に90年録音のポニーキャニオン盤が存在する、ロンドンフィルによる「ドラクエIV」の音楽。ほぼ10年後、同じ楽団によって2000年5月に録音されたのがこのソニー盤になります。独自技術「スーパービットマッピング(SBM)」によって音質の向上に努めたこのCDですが、その性質から「ポニーキャニオン盤の再販でしょ?」という誤解を受けることも少なくありません。前述の通り、このCDに収録されている演奏は90年録音のポニーキャニオン盤とはまったく別のもの。主に2000年に録音(一部1997年)されたこの演奏は、ゲームのリリースなどとシンクロしたものではなく、すぎやまこういち氏が独自にロンドンフィルの演奏によってドラクエ音楽をまとめよう、と思い立っての企画によるものなのです。よって「ドラクエIV」のオーケストラバージョンは、N響盤を含めて3種存在するということです。いずれ都響盤もリリースされるでしょうから、ますますそのバリエーションは増加するものと思われます。

一部97年の録音が混ざっていると書きましたが、これは企画盤「ドラゴンクエスト・ベストセレクション ロト編・天空編」を制作するために録音されたものです。そこで録音されなかった楽曲を2000年になって追加録音し、まとめたのがこのCDということになります。なお、97年の録音はトラック3「勇者の仲間たち」、トラック5「勇者の故郷〜馬車のマーチ」、トラック7「エレジー〜不思議のほこら」、トラック9「海図を広げて」になります。あとはすべて2000年の追加録音です。

さて、90年のポニーキャニオン盤がワンポイントステレオ収録だったのに対し、今回の演奏はブックレットの写真を見ればわかる通りマルチマイクによる集音となっています。即ち、収録形態についてはN響盤に近いということ。この方法の利点は各パート(楽器)の輪郭がはっきりすること、定位感が確かなものとなり、パート間が分離することにあります。ただし、しっかりとアンビエンスのマイクを用意することで自然な空気感を得ています。

CDのトップを飾る「序曲」からして、ファンファーレのトランペットの定位感(右に寄っている)、そして最初のインパクト(オケ全体のヒット)で音場がバアーンと広がる感じがはっきりとわかります。個々の楽器の輪郭もありありとしており、これをポニーキャニオン盤(以下、PC盤)と比較してみると、PC盤の「序曲」はイントロのトランペットからやや右寄りではあるもののセンターで響いており、最初のインパクトも後ろに引っ込んだ印象です。鑑賞していてどちらが気持ちいいですか?こればっかりは個人の好みでしかありませんし、オーケストラ録音においてどちらが正解ということもありません。ただ、ゲーム音楽や映像のサウンドトラック、流行りのヒット曲を好む人は、分離のはっきりしたこのCDの演奏を好むのではないでしょうか。これはマルチトラックによる分離の良い録音に耳が慣れているからです。逆に、コンサート会場に足繁く通うような生粋のオーケストラファンには、PC盤の方が馴染みやすいのでは?こちらはオーケストラ全体の響き、空気感を知っているため。絶対ではありませんが、傾向としてはこのように分類できます。

実際、ゲームファンで普段はあまりオーケストラに馴染みのないリスナーにはN響の演奏が、クラシックも聴き込む人にはロンドンフィルのホール録音タイプの演奏が支持される傾向があるようです。

どうでもいいですが、1分49秒あたりに左側で鳴っている「プチ」、気になるなあ〜。演奏はいいのになあ〜。
02 王宮のメヌエット
Menuet
マルチマイクによる、各パートの定位がくっきりと表現されている「王宮のメヌエット」。包み込まれるような感覚が気持ちいいですね。ヘッドホンもいいですけど、機会があったら大きなスピーカーで、適確なリスニングポイントでじっくり聴いてみて下さい(大きなスタジオとかで聴くと、これが気持ちいい!)。

リスニングポイントとは、2点のステレオスピーカーとリスナーを正三角形で結んだ、理想的な場所のことです。ここが最もステレオ感を得られやすいと言われています。あまり意識しない人も多いのですが、ステレオに対して身体を横に向けたり、左右のスピーカーを縦に積んだりしていてはステレオの意味がありません!自宅でもちょっとしたことで快適なステレオ環境は構築できますから、自分の部屋を見回してみて下さいね。スピーカーの高さも、自分が音楽を聴くときの耳の高さと同じぐらいに配置すると良いでしょう。
03 勇者の仲間たち
Comrades
(間奏曲〜
戦士はひとり征く〜
おてんば姫の行進〜
武器商人トルネコ〜
ジプシー・ダンス〜
ジプシーの旅〜
間奏曲)
おなじみ、仲間テーマ組曲です。冒頭は「間奏曲」と呼ばれるもので、ゲームではゲームスタート時のデータ選択画面で流れる短い曲。この「IV」で初めて登場し、以後シリーズを通して使われていくおなじみの楽曲になりました。

27秒からは第一章のフィールドBGM、戦士ライアンのテーマ「勇者はひとり征く」。2分8秒からの曲は第二章・アリーナ姫御一行のテーマ曲「おてんば姫の行進」。続いて4分16秒から、第三章「武器商人トルネコ」。さらに5分59秒は第四章限定の戦闘音楽「ジプシー・ダンス」、8分20秒からがその第四章におけるフィールドテーマ、マーニャ・ミネア姉妹の旅に寄り添う「ジプシーの旅」になります。構成はアポロン盤に収録のN響による演奏からPC盤を経て、ここまで一切の変更はありません。ただ、感情の込め具合やタメ具合はそれぞれの個性が出ますし、ポップスのようにドンカマがあるわけでもないので、指揮者の指揮も毎回異なります。それはその時の演奏のノリや熱気によっても変わるでしょう。この演奏、PC盤と比べると実に40秒近く長くなっているんです。これをダレてしまっているととるか、感情を込めたタメのある演奏ととるかは受け手次第。筆者は「ドラクエIV」交響組曲の決定版と言える名演奏だと思いますよ。

9分53秒でもう一度「間奏曲」に戻って締め括ります。
04 街でのひととき
In a Town
(街〜
楽しいカジノ〜
コロシアム〜
街)
ゲーム中で町関係に使われている楽曲を組曲にしたトラック。まずは汎用BGM「街」、あらゆる町や村といった舞台で流れる曲です。1分24秒からがその「街」をアレンジした「楽しいカジノ」。その名の通り、カジノという名の施設で流れるBGM。金管奏者の見せ場ですね。3分33秒のアタックはゲーム中のカジノで大当たりした際に使われる「ファンファーレ中」。

雰囲気が一変し、3分45秒からはエンドールというお城の中にあるコロシアムで流れる、その名もズバリ「コロシアム」。この中に「コロシアム楽屋」「コロシアムスタンド」の2曲が組み込まれています。繋がった編曲になっていますが、いちおう4分58秒のところからが「スタンド」のフレーズです。5分26秒から「街」のフレーズも顔を出しつつ、さらに「コロシアム」は進行します。PC盤では「スタンド」が一度現れたところで「街」に戻って終了するのですが、今回の演奏はそれ以後の「コロシアム」がずいぶん長くなっているんです。

6分46秒から「街」をリピートし、組曲を締めます。
05 勇者の故郷〜
    〜馬車のマーチ
Homeland〜
〜Wagon Wheels' March
第五章のフィールドテーマ2曲をメドレーで。ゲーム中の第五章は、ひとり旅立った勇者が一章〜四章の主人公たちに巡り会いながら進行し、最終的に全員が集結して共通の目的に向かって歩み始めるというストーリー。その仲間たちが全員揃う前までフィールドで流れるのが、前半の「勇者の故郷」、仲間が全員揃ってからは2分52秒からの「馬車のマーチ」というわけです。同じフィールドテーマでも、ひとり心細げな不安も内包した静かな「勇者の故郷」、仲間が揃いさあ行くぞ!という勇壮さに溢れる「馬車のマーチ」、見事にタッチを切り替えてあるのがわかるでしょう。これにより、今後どのようにゲームを進めていくべきか、その雰囲気さえもプレイヤーに伝えているのです。「勇者の故郷」がPC盤に比べてかなり早くなっていますね。
06 恐怖の洞窟〜
   呪われし塔
Frightenin' Dungeons
〜Cursed Towers
RPGにおいては様々な目的を設置され、時にはプレイヤーの前に障害となって立ちはだかる「ダンジョン」と呼ばれる場所で使われる楽曲2つを組曲にしたトラック。「ドラクエIV」には深く潜っていく「洞窟」タイプと、ひたすら登っていく「塔」タイプの2種のダンジョンが存在します。冒頭からは洞窟で流れる「恐怖の洞窟」、1分44秒からが塔で流される「呪われし塔」です。
07 エレジー〜
   不思議のほこら
Elegy〜
Mysterious Shrine
悲哀を感じさせる楽曲を括ったトラック。最初の「エレジー」は戦闘でパーティが全滅した際に流される、いわゆるレクイエムですが、ゲーム中では印象的なイベント、土地に流用されることで、その存在価値をおおいに高めている名曲です。たいていのプレイヤーは全滅してしまうと、その憤りと負けん気からすぐさまゲームを再起動し、再挑戦しようとします。結果として「エレジー」はほとんど聴かれることもないのですが、イベントなどで必然的に耳にする機会を与えることで、楽曲のイメージを記憶に留めるのです。

おそらくすぎやま氏はこの曲の意味、使われるシーンなどを、あらためて演奏者に細かく伝えたのではないでしょうか。楽器を持つ手に込められた感情の度合いが、PC盤の比ではないような気がしませんか?すぎやま氏の曲に対する思い入れゆえか指揮も確立されているようで、曲の長さという点ではPC盤とピッタリ同じです。たとえば、ちょっと指揮をかじった人であっても、同じ曲を同じテンポで、同じ長さになるようにしなさいと言われたところでとてもできる芸当ではありません。

2分49秒からは「ほこら」と呼ばれる施設で流れる「不思議のほこら」。シリーズでは「II」からある施設で、大きな町や村と違って人の気配はあまりありませんが、なぜか心が落ち着く休憩スポットとして、時にはゲームの進行に深く関わる秘密や目的が配置されている場所として、欠かせないものになっています。そこで流れる楽曲は短いものですが、その神秘性と安堵感から常に一定の人気を得ています。決して悲しいシチュエーションで流れる種類の曲ではありませんが、独特の哀愁を帯びたメロディはレクイエム系の楽曲と組み合わされることが多いのです。
08 のどかな熱気球のたび
Balloon's Flight〜
ゲーム中に登場する移動手段は3つ。ひとつを単純な徒歩(馬車)とするなら、あとは船と気球で陸海空が揃います。船ならば海上や河川を自由に移動できますが、岩山に囲まれた場所には進入できません。そこで気球を用いて空から、となるわけです。そんな気球での空の旅を彩るのがトラック冒頭の「のどかな熱気球のたび」。変拍子をふんだんに取り入れ、落ち着かない気流の乱れを表しているかのよう。

なお、アポロン盤とPC盤では同一のトラックで繋げられていたこの曲と「海図を広げて」ですが、やはりこのCDをきっかけに分割されています。PS版のサントラに再収録されたN響の演奏ももともとは連続した組曲でしたが、再編集の際に分割され、別々のトラックになりました。なんでかな?
09 海図を広げて
Sea Breeze
船で水上を移動する際のBG「海図を広げて」。船が初登場した「II」、そして「III」と船の音楽は定番の3拍子(ワルツ)に則ったものだったのですが、本作「IV」で初めてそこから抜け出しました。展開に富む壮大な曲調により、作品で一・二を争う高い人気を獲得しています。
10 謎の城
The Unknown Castle
「謎の」とは言っても恐ろしい場所ではありません。空に浮かぶ神秘の城・天空城に与えられた楽曲です。系統的にはシリーズ伝統の「王宮」に属する楽曲で、やはり弦楽として仕上げられています。ワルツを取り入れており、トラック2「王宮のメヌエット」よりもさらに気品と優雅さを感じさせますね。過去のN響による演奏は、どちらかと言うと弦全体で聴かせるものに仕上がっていたと思うのですが、ロンドンフィルの演奏はPC盤も含めて特にバイオリンが強調されているように感じます。中でもこのCDでの伸びやかに歌うようなバイオリンの名演は、過去のどの録音にあっても群を抜いています。
11 栄光への戦い
Battle for The Glory
(戦闘-生か死か-〜
邪悪なるもの〜
悪の化身)
RPGでは敵との戦闘は避けられません。ある意味ではゲーム上、もっとも重要な要素です。ここではそんな戦闘を盛り上げる楽曲たちを組曲でお届けしています。トラック冒頭は頻繁に行われる通常の戦闘で流れる「戦闘−生か死か−」。ゲーム中で最も頻繁に耳にする楽曲であり、激しいリズム感と音圧で厳しい戦闘を演出しつつも、変拍子を取り入れることで飽きさせない工夫をしています。もう何度も演奏されている「戦闘−生か死か−」ですが、このCDに収録された演奏は成熟の感さえある秀逸な演奏。速いテンポや変拍子にもたつくこともなく、ピッタリと揃った気持ちのいい演奏を聴かせてくれます。タクトを振るすぎやま氏も気持ちが良かったのではないでしょうか?リピートも多くなり、PC盤と比べるとここまでで実に1分近く長くなっているのです。

2分39秒はシナリオの最後で待ち受ける諸悪の根源、デスピサロとの戦闘で流れる特別な戦闘音楽「邪悪なるもの」。ついに最終決戦という緊張感と敵の強大さをじゅうぶんに表現しています。各パートの分離がはっきりしているため、ひとつのメロディラインがどのようにパートを駆け抜けていくか、楽器の分担が把握できて面白いですね。音場を右に左に駆け巡る「音の線」が興味深いです。

必死の思いで敵を追い詰めるものの、勇者たちを嘲笑するかのように真の姿を現すデスピサロ。本当の意味での決戦を彩るのが5分07秒からの「悪の化身」です。
12 導かれし者たち -終曲-
Ending
「導かれし者たち」とはゲームのサブタイトルで、第一章から第五章にかけて、勇者のもとに集う仲間たちを指す言葉。デスピサロを打ち倒し、目的を果たした「導かれし者たち」はそれぞれの故郷へと帰っていきます。そんなエンディングで流れるのがこの「導かれし者たち−終曲−」です。ゲームが発売された直後のオリジナルN響盤およびPC盤では、英語タイトルが「The End」となっていましたが、これだとニュアンスが伝わらないとの判断から、このCDより「Ending」と改められました。PS版サントラに再収録されたN響盤もこれに倣って改題されています。確かに「The End」だとなんかハイおしまい、という感じで、余韻がないですよね。こういう改題はすぎやま氏が発案することも多いようです。

結論として、このCDは録音よし、音質よし、そしてロンフィルによる演奏も極まった、「ドラクエIV」の交響組曲として決定版!と言える一枚になっていると思います。オーケストラバージョンを探している時に、複数のCDを前にして悩んでしまったら、とりあえずこれをおさえれば良いのではないでしょうか。ゲーム音源などの資料価値を求めない人に「ドラクエIVのオーケストラが欲しいんだけど、どれがいい?」と尋ねられたら、筆者はこのCDを薦めます。

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