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すぎやまこういち交響組曲「ドラゴンクエストIV 導かれし者たち」(PS版)
ジャケット画像  家庭用ゲームにおける国産RPGの代名詞「ドラゴンクエスト」、そのシリーズ4作目がこの「ドラゴンクエストIV 導かれし者たち」だ。「I」〜「III」のシリーズで語られてきたロトの伝説は完結し、「IV」は新たな舞台「天空編」の幕開けとなる。以後「VI」まで続く「天空編」はそれぞれにロトシリーズほどの密接な関連性はないものの、決して切り離せない共通したキーワードが登場することになる。

ソニーミュージックエンターテインメント
SVWC 7112〜3
2001年
JASRAC表記:
あり

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ゲーム紹介

 1986年に発売され、家庭用ゲーマーに「ロールプレイングゲーム」というものをわかりやすく翻訳、その魅力を広く認知させることに成功した「ドラゴンクエスト」。3作品に跨る壮大なスケールで描かれた「ロトの伝説」。そのどちらもが、ファミコンRPGの代名詞と言っても過言ではないほどである。もはや定番として定着したシリーズだったが、そうなればユーザーが常に気にするのは「次回作はどうなる?」ということだった。スペック的に表現の限界が見え始めてきたファミコン、そして完結した「ロトの伝説」。ユーザーの目にもドラクエに壁が立ち塞がっているのがはっきりと見えていた。いつまでロトを引っ張るのか?次の舞台はどうなるのか?ファミコンで「III」以上の表現が可能なのか?

 堀井雄二氏、エニックス、そしてチュンソフトが出した回答は、いかなるユーザーの予測も不安も覆すものであった。シナリオ的には、これまでの「ロトの伝説」の縛りを受けない、まったくの新たな舞台を用意。さらに、シナリオを五つの章に分けることで、一本のゲームの中に複数の物語を詰め込んだ。そして、5つの物語は最終的に集束し、共通の目的に対して動き出す。ここからが、やっとゲームの本筋となるのだ。それに伴い、世界も「III」にひけをとらない広大なものとなった。章を進めるにつれ、既に見知った場所に訪れることもあるが、プレイヤーは知っていてもキャラクターたちにその知識はないという不思議な感覚がかえって新鮮。訪れるたびに何かが変化し、かつて訪れた仲間たちの残り香を感じさせる絶妙のストーリーテリング。ロトに依存せずとも、堀井氏の語り口は不変なのである。

 新たな土地、新たなシナリオに加えて新たなアイテムや呪文も多数用意されているが、これがまごうことなき「ドラクエ」であることは、もはやおなじみとなったモンスターやアイテムが証明していた。加えて流れ続ける数々の音楽が、この作品を「ドラクエ」たらしめていることは言うまでもない。本作も、これまで同様すぎやまこういち氏が音楽を担当。お約束の城や街、ダンジョンはもちろん、どこを切ってもドラクエ節。加えて過去作と共通のMEが、プレイヤーの「今やっているのはドラクエなんだ」という没入感を高めていた。

 旧シリーズとの訣別は、時にシリーズものに取り返しの付かない危機的状況を付加してしまう。つまり、「こんなのドラクエじゃねーよ」と言われる危険性ということだ。が、「ドラクエ」は見事にそれを回避した。一新した「IV」は「III」より劣るとは言え、堂々310万本の大ヒット作となる。それは堀井雄二のテキストが持つ独特の味が不変であったこと、ドラクエの香りをふんだんに放つ楽曲があったこと、過去作と同じ手触りを違和感なく感じさせてくれたプログラムがあったからに他ならない。毎回メインのスタッフが入れ替わり、変化することを良しとする「ファイナルファンタジー」とはまるで対称的である。固定客の多いシリーズを維持することは容易ではないが、「ドラクエ」ほど見事にそれをやってのけた作品は他に例がない。

 「IV」が「ドラクエ」ユーザーに受け入れられたことの証明として、プレイステーションでのリメイクがある。時代とともに過去の遺物となったファミコン、「ドラクエ」も「V」以降はスーパーファミコンへと移行した。「I・II」「III」がスーファミやゲームボーイなどの現行機種(当時)でリメイクされていくなか、「IV」だけは手付かずだったのだ。「IV」を遊びたければ、ファミコン本体とカセットを用意する必要があったのである。そして、多くのユーザーからのリメイクの要望を受け、当時プレイステーション最新作だった「VII」の素材を利用して「IV」はリメイクされた。リメイクとは言え決して手を抜かないこともまた、「ドラクエ」シリーズの特徴。追加ボスやダンジョンを追加し、ファミコン版とは異なる結末を見ることができるアナザーシナリオも追加された。

 このCDは、ファミコン版からはるかにグレードアップし、厚みを増したゲーム内容に合わせて追加された新曲や新アレンジをゲーム音源ですべて収録した、プレイステーション版「IV」の純粋なるサウンドトラックである。ファミコン音源での楽曲単体を納めたサントラは存在しないことから、このCDこそ「IV」の劇伴としての「完全版」と言えるだろう。プレイステーション版をプレイしていないファンも手元に置いておく価値がある。さらに、廃盤となっているアポロン盤に収録のNHK交響楽団によるオーケストラバージョンを再収録しているのも嬉しい配慮。ソニーからリリースされているロンドンフィル盤と聴き比べてみるのも面白い。


本作:N響盤 ロンフィル盤 都響盤もぜひ

Disc 1 レビューはアポロン盤「交響組曲ドラゴンクエストIV 導かれし者たち」の改変です。
01 序曲
Overture
Disc1は1990年に発売された、アポロン音産盤「交響組曲ドラゴンクエスト IV導かれし者たち」に収録の、NHK交響楽団によるオーケストラバージョンを再収録しています。現在アポロン盤は廃盤であり、N響バージョンを聴く手段が中古漁り以外になかったわけで、これはファンとしてみれば嬉しい特典。このためだけに買う価値があると言っても過言ではないでしょう。逆に、新バージョンのオーケストラ版が聴きたいという声があるのも事実。特にPS版で追加された新曲(「ピサロ」)などのオーケストラバージョンが存在しないという状況でもあります。いつか補完されるのでしょうか?

まずは「序曲」です。「I」〜「III」とは異なる新しいイントロは、新たな「天空編」の幕開けに相応しい華々しいもの。高らかに鳴り響くトランペットが、壮大なる冒険へと旅立つ勇者(=プレイヤー)を讃えます。以後、このイントロは少しずつアレンジを変えながら、最新作まで使われ続ける「ドラクエの顔」となっていきます。イントロ以後はシリーズ共通の主題。ただし「IV」は、弦楽器などによる伴奏が冒頭から3連符を刻む、いわゆる「3連ベース」のアレンジになっています。パッと聴いて同じように聞こえる序曲でも、実は作品ごとにこういう細かい部分が違っているんですよね。他のシリーズの序曲でもリピートから3連符が顔を出すものはありますが、楽曲冒頭から全体を3連符が支配しているのはロンドンフィル版「II」とこの「IV(N響・ロンフィルとも)」のみです。

実は「天空編」の始まりにあたって、音楽的には大きなピンチがありました。それは、制作陣の「新しいシリーズだから、序曲を変えませんか?」という思いつき。すっかり定着した「ドラクエの顔」を、新しい曲に変えようというものだったのです。しかし、すぎやま氏ははっきりとそれを拒否。「ならば、頭のファンファーレを変えよう」という代替案で解決したのです。新しいシリーズだから曲を変えよう、という発想はものを作る人なら誰でも思いつきがちな安易なアイディアではありますが、それが成功したためしはありません。だったら潔くゲームのタイトルも変えちゃえよ、ということです。もしここでまったく違う序曲になっていたら、ドラクエはここまでのシリーズにはなっていなかったかも。「そんなおおげさな」と思われるかもしれませんが、決しておおげさではありませんよ。
02 王宮のメヌエット
Menuet
弦楽による「城」の音楽。そのイメージは過去のロトシリーズから不変です。ドラクエの城といったらコレ!というイメージは、序曲と同様にすっかり定着していますよね。情感たっぷりの弦楽器はオーケストラバージョンならではの楽しみですが、もとのファミコン音源でもかなり高いクオリティで完成されたアレンジと言えます。PS版のブックレットにも転載された3段の楽譜がありますが、できる人はこれを試しにMIDIで、それっぽいストリングスの音色で打ち込んでみて下さい。3段から成る音符で構成された編曲の、その完成度に驚愕すること間違いなしです。もちろんファミコン音源版にない展開の魅力は、オーケストラバージョンだけに与えられた特権。心ゆくまで酔いしれましょう。このPS版「IV」では、交響組曲を再現した会心のゲーム音源バージョンも楽しむことができます(Disc2-2「王宮のメヌエット」)。
03 勇者の仲間たち
Comrades
[間奏曲〜
戦士はひとり征く〜
おてんば姫の行進〜
武器商人トルネコ〜
ジプシー・ダンス〜
ジプシーの旅〜
間奏曲]
間奏曲に挟まれた、各章の主人公達のテーマ曲を組曲でお届けするこのトラック。こういった形での楽曲の味わい方もまた、交響組曲ならでは。それぞれの旅の軌跡に思いを馳せて浸りましょう。

0分00秒からは「間奏曲」、後のシリーズでは「インテルメッツォ」と呼ばれることもある定番の曲で、冒険の書作成/選択画面で流れる短いものです。PS版もゲーム音源の方は「インテルメッツォ」になってますね。ピチカートと鉄琴、ハイハットという構成も不変の要素。こういう短い曲も組曲に入れられるのは嬉しい限り。ゲームの追体験として欠かせません。それにしてもハイハットのリバーブのかかり方はすごいです(笑)。ケツのティンパニも効いてます。

0分27秒からは第一章、戦士ライアンのフィールドテーマ「戦士はひとり征く」。ふくよかな管群と雄大なストリングスに包まれ、ゆったりと進行する「まったり音楽」。屈強な戦士ライアンにとって、バトランド周辺などの探索などは散歩をするがごとし、という感じ。2分04秒からは第二章のフィールドテーマ、「おてんば姫の行進」。トランペットは恐れを知らずに堂々と進むアリーナ姫を描き、それを支える伴奏は姫のムチャに付き合わされるクリフトとブライ、という印象。小言の絶えない、賑やかな旅を想起させます。

4分05秒からは第三章、トルネコのフィールドテーマ「武器商人トルネコ」。低音のコントラバス主体の編成はトルネコの体格から?木管の暖かな伴奏が、彼の性格の良さそうな人柄を感じさせますね。5分46秒からは第四章の戦闘音楽、「ジプシー・ダンス」。カスタネットとタンバリンの軽快なリズムに乗って、流れるような弦楽器が舞い踊るさまは、まさに踊り子を模したダンス。姉妹は「蝶のように舞い、蜂のように刺す」戦いをしているのでしょうか。きっと戦っている姿も美しいんでしょうね。8分06秒からが第四章のフィールドテーマ「ジプシーの旅」。若くして重い宿命を背負った姉妹にふさわしい、いくつもの複雑な想いを秘めた楽曲です。ピチカートによるメインのメロディとその裏のオーボエとの対比が、姉妹の外見の華麗さと内に秘めた想いを語っています。

最後に9分29秒からは再び「間奏曲」でシメます。
04 街でのひととき
In a Town
[街〜
楽しいカジノ〜
コロシアム〜
街]
このトラックでは街メドレーをお届け。まずはストレートに、町で流れる「街」。人々の往来と賑わい、商売に精を出すいくつもの店、とにかく明るい、笑顔の絶えない町の雰囲気を十二分に表した気持ちの良い楽曲です。ちなみにゲーム中では町・村の区別なくあらゆる場所で流れます。

1分21秒からはその「街」のアレンジである「楽しいカジノ」。もちろんカジノで流れるものです。ブラシのスネアドラムと金管中心のアレンジは、ビッグバンドジャズの味わい。オーケストラでこのアレンジはなかなか見られませんが、こういうタイプの曲もそつなく演奏するあたり、さすが劇判も無数に演奏しているNHK交響楽団、というところでしょうか。おまけとして、3分24秒からは「ファンファーレ中」も入っています。ファンファーレはこのファミコン版「IV」で初登場し、以後のシリーズで定番となったもの。カジノの曲は「VIII」で再登場していたりもします(「IV」の街アレンジなのに)。

3分34秒からは「コロシアム」。その中でも冒頭はコロシアムの楽屋、4分44秒からはコロシアムのスタンド部分です。5分07秒からは「街」のモチーフも組み込みつつ、「コロシアム」が進行します(「コロシアム」自体は「街」のアレンジではありません)。「コロシアム」の弦のトレモロは、観衆のざわめきを表現したものだとか。これはファミコンならではのアイディアですね。ゲーム音源版も合わせて聴くと、そのニュアンスが理解できるでしょう。

6分14秒からは再度「街」を演奏して組曲を締め括ります。ちなみにプレイステーション版のゲーム音源では、「街」の曲に「街でのひととき」という曲名が与えられています。また、「コロシアム」は「コロシアム楽屋」「コロシアムスタンド」という曲名がそれぞれに与えられました(そのまんまや)。
05 勇者の故郷
   〜馬車のマーチ
Homeland
〜Wagon Wheel's March
第五章のフィールドテーマを組曲で。まずは仲間が全員揃っていない状態で流れる「勇者の故郷」からです。寂しげな孤独感を増強する、か細いストリングスのイントロに続いて、木管のメロディが切なさを醸し出します。歩き出したはいいものの、いまだ心の傷は癒えず。また、どこへ向かえばいいのかもわからない、そんな戸惑いを感じます。しかし、ひとり、またひとりと仲間と出会い、「何をすべきか」を見出していく主人公。そんな心境の変化を楽曲の展開が描き出しているかのようです。「馬車のマーチ」との対比をはっきりとするため、あえて一歩引いたおとなしめの曲にしているという意図もあるように思えます。

3分01秒からは、いよいよ導かれし者たちが全員揃ってからフィールドで流れ出す「馬車のマーチ」になります。馬車は第五章の序盤で手に入りますが、この曲が流れるようになるのはあくまで仲間が揃ってから。達成感を持ち上げると同時に、さあここからが本番、一丸となって出発!とプレイヤーを奮い立たせる両方の役割を担っている曲調はお見事と言うほかありません。それまでの「勇者の故郷」との対比もバッチリです。
06 恐怖の洞窟
   〜呪われし塔
Frightening Dungeons
〜Cursed Towers
洞窟と塔の「ダンジョン組曲」。まずは「恐怖の洞窟」から始まります。ファミコン音源では、個人的にイマイチ怖くない曲だなあ、なんて思っていたのですが……特に31秒あたりからの弾むような部分が、どうにもユーモラスに感じて仕方なかったのですね。しかしオーケストラバージョンではうすら寒さが表現されています。オーボエによる切な系のメロが、ただ怖いだけでない独特の雰囲気を滲み出しているのです。50秒からのリピートは冷たい空気を感じさせる弦のパートが、さらなる洞窟の薄暗さを醸し出しているではないですか。PS版ではこれを模したゲーム音源バージョンによって、同じ洞窟でもファミコン版とはまた違った感触を味わうことができます。

さて、ドラクエ音楽リスナーの間で、不名誉な意味で有名な箇所がこのトラックにはあります。1分22秒あたりをよく聴いて下さい。音が欠落していますね?俗に言う「ドロップアウト」という現象で、テープメディアではプロ環境でもわりと頻繁に起こることです。古いテープはもちろん、新しいテープでも保存状態によっては発生します。この欠落、90年のアポロン盤の頃からあったものなのですが、問題は今回のPS版のCDでも欠落が修正されていないこと。即ち、レコードの製作過程ではなく、マスターテープの段階で起こっているものであり、修正できない致命的な損傷だということを意味しています。ミックスマスターであればもとのマスターからミックスをやり直せば修正は可能ですが、レコーディングマスターがドロップアウトしていてはどうにもなりません。レコーディング・マスタリングともにソニーのデジタルレコーダーが使われていますが、おそらくテープの問題でしょう。可能性としてはレコーディングミキサー及び付随する機材・ケーブルの接触不良からくる欠落もありますが、これに気付かないようではレコーディングエンジニア失格です。どっちにしても正確な原因は不明。今回のCDにN響版が再収録されると知ったリスナーたちは「もしやアレが直ってるのでは?」と淡い期待を抱きましたが、ダメでした。

話が横道にそれましたが、1分43秒からが塔の曲、「呪われし塔」。これもファミコン音源だとぜんぜん呪われた感じを受けなかったのですが、オーケストラバージョンはひっそりと忍び寄ってくるかのような弦、バスの刻みが緊張感を高めています。強弱をつけた展開もインパクトがあり、じわじわと迫ってくるかのようです。登っても登っても先が見えない……そんな不安も感じます。
07 エレジー
   〜不思議のほこら
Elegy
〜Mysterious Shirine
ファミコン音源ではその醸し出す独特の低音とドロドロ感がなによりも恐怖を誘った名曲「エレジー」、そう、アッテムトの曲ですね。本来は全滅時の音楽なのですが、ファンの間では圧倒的に「アッテムトの曲」としての認知度の方が高いです。アッテムトの絶望的な雰囲気とあいまって、ドラクエシリーズでも随一の悲劇的楽曲という地位を不動のものにしています。オーケストラバージョンではドロドロとした感じはなくなり、ふつうに悲哀を強調した美しい弦楽に仕上げられています。これならアッテムトで流れてもこわくなさそうですね。実際PS版ではこれを模したものが流されていますが(Disc2-23「エレジー」)、やっぱりあまり怖くはありませんでした。

2分46秒からはほこらの曲。短い曲なのですが、もはやシリーズのお約束となったほこら曲は欠かせない要素。その短さゆえ組曲にすることが難しいのですが、そこは我らがすぎやまこういち先生、「III」からはしっかり組曲に組み入れてくれるようになりました。こういった小曲にしっかりとファンがつくのもドラクエの特色。ほこらが各地に点在しており曲を耳にする機会が多いという理由に限らず、すぎやま氏がこのような短い曲でも手を抜かず良い曲を作っているということの証明なんですよね。
08 のどかな熱気球のたび
Balloon's Flight
組曲・乗り物。ということで、入手順とは異なりますが、まずは「のどかな熱気球のたび」をどうぞ。軽やかなワルツかと思いきや変拍子の連続で、テンポチェンジもある、一筋縄ではいかない曲ですね。うつろいゆく空模様を表しているかのような、3/4→4/4→5/8→4/4→5/8→4/4→5/8→2/2……自分でもワケわからなくなります。常々すぎやま氏は「空は敵と出会わずに音楽が流れ続けるから、絶対に快適じゃなければイカン」とおっしゃっておられるのですが、私は聴くたびに進行を追ってしまってワケがわからなくなり、ちっとも快適じゃないです!ファミコンってこんな複雑な拍が管理できるシロモノだったんでしょうか?

PS版のゲーム音源もこの拍子をうまく再現しておりますが、もしも筆者がこの曲を(仕事とは言え)打ち込みなさいと言われたら……イヤだなあ。変拍子苦手なんですよ、ワタシ。

なお、オリジナル版のアポロン盤組曲では、「のどかな熱気球のたび」は次の「海図を広げて」と繋がった同一トラックでしたが、今回のPS版にあたって別トラックとして分けられています(音源はまったく一緒です)。おそらくマスタリングの時点でトラックが増やされたものだと思いますが、ロンドンフィルハーモニー管弦楽団演奏のポニーキャニオン盤では同一トラック、ソニーからリリースの2000年盤では分けられています。くっついたり、分かれたり……未練タラタラの恋人みたいですね。意図はわかりませんけど、すぎやま氏の考えに何らかの変化があったのでしょう。
09 海図を広げて
Sea Breeze
前2作では3拍子「ドンブラコ」の法則を守り抜いた海の楽曲ですが、「IV」において初めてワルツではなくなりました。船に乗っている間に流れる曲、「海図を広げて」です。水の流れ、波の動きを表現しているかのような流麗なストリングスがなんとも悠然で、目を閉じて浸っていたくなります。ファミコン版のゲーム中ではあるイベントの効果によって非常にファン人気の高い曲となったのですが、PS版でその演出はなくなってしまいました。ちなみに第四章の最後、マーニャ・ミネア姉妹がハバリアから船に乗ってエンドールへ向かうイベントがそれ。PS版では「ジプシーの旅」が流れていますが、ファミコン版ではこの「海図を広げて」が使われており、姉妹の想いを投影したかのような曲調は没入感バッチリで、イベント専用曲かと思ってしまったほどにハマっていたのです。
10 謎の城
The Unknown Castle
曲名こそなんとなくこわい「謎の城」ですが、決してデスパレスで流れるわけではなく、天空城の専用BGです。たしかに初めて着いた時にはプレイヤーにとって「謎の城」ですね。空の上にあるし……。楽曲はドラクエの「お城」のイメージに反しない、しっとりとした弦楽です。オーケストラバージョンは奏者の感情さえ感じ取れる雰囲気たっぷりの演奏で、聞き惚れてしまいます。

「天空城」はこの後、スーファミでリリースされる「VI」まで共通のキーワードになっていきますが、楽曲は統一されておらず、作品ごとに別個の「天空城」の曲が与えられます(「VI」では専用曲そのものがナシ)。この「IV」の曲をずっと使っても良かったんじゃないかなあ。まあそれぞれの作品に、「ロト」ほどの密接な関連性はないからこそ曲を変えたんじゃないかとは思うんですけど。
11 栄光への戦い
Battle for the Glory
[戦闘〜
邪悪なるもの〜
悪の化身]
トラック10はバトル組曲です。まず最初は通常のザコ戦音楽「戦闘−生か死か−」。圧倒的なテンポの速さと音数でグイグイとテンションを引っ張ります。後半は9/8→2/4→7/8という流れの変拍子が組み込まれており、これがまた戦闘に独特の緊張感を与えてくれるのです。PS版のゲーム音源バージョンもそこそこの再現度で戦闘を盛り上げますが、テンポはやや遅くなっています。

2分56秒からはデスピサロ戦の序盤〜中盤にかけて流れる「邪悪なるもの」。金管が前面に出された威圧的なトーンで、異形な敵の強さをこれでもかというほど感じさせています。5分08秒からが最終戦、デスピサロ第三形態で流れるラスボス楽曲「悪の化身」。確かに悪なんだけれども、人間も悪いんだよ……というメッセージが、曲に…込められてませんね。「邪悪なるもの」から引き継ぐような編成で、緊迫感のある弦の刻みと、高域の弦による張り詰めたようなメロディラインがさらなる危機感を煽ります。
12 導かれし者たち
Ending
デスピサロを倒し、天空城から仲間のもとへ……気球に乗って、主人公は仲間たちを故郷に送り届けます。そのようすを見せながら、この楽曲がこれまでの足跡を雄弁に語ってくれるのです。ゲームの中では各キャラクターのテーマやその他の様々な楽曲のモチーフを取り入れながら進行したこの楽曲ですが、オーケストラバージョンでは「導かれし者たち」の主題のみで構成されておりちょっと残念。ゲームでの展開に添ったオーケストラバージョンが聴きたかったですね。
Disc 2
01 序曲 Disc2はプレイステーション版ゲーム音源を収録。純然なサウンドトラックとして資料価値も高いですね。できることなら楽曲単体をトラックごとに収録したファミコン音源のサントラも欲しいものですが……。ということでまずは「序曲」です。採用作品数から言って、「ロト編イントロ」よりもドラクエの顔として定着した感のあるこの形のイントロは、新たなストーリーの幕開けである「IV」から登場したものであることはご存知のはず。

PS版のゲーム音源はマーチングスネアの入っていない管弦アレンジ。オケバージョンのところでも触れた通り、「3連ベース」に分類されます。PSの「VII」と時期がきわめて近いことから序曲も流用となることが予想されましたが、しっかりこのために作ってくれました。「VII」はマーチングスネアありの行進曲風アレンジで、「V」から入れられたフルートも健在。テンポもややゆったりしており、聞き比べればその違いは瞭然。しかも、この短期間にしっかりと音色もグレードアップされています。リメイクだからと言って決して手を抜かない姿勢は、作品の顔である「序曲」からしっかりと聞き取れるのです。

PS版ではまず、ゲーム起動直後のオープニングタイトル画面で耳にします。雲の上に浮かぶ城に向かって飛ぶ1匹のドラゴン……ゲームを終盤近くまで進めるとこれがどのシーンなのか、どの場所なのか、このドラゴンは何なのか……すべてわかりますね。シリーズではオープニングの他に、船の出航シーンやエンディングなど、ここぞという見せ場で必ず使われている「序曲」ですが、「IV」では意外や意外、ほかでの流用が一切ありません。
02 王宮のメヌエット 普通に考えて2曲目はインテルメッツォだろう……と思うのですが、「王宮のメヌエット」です。ゲームに登場するあらゆる「城」で流れるBGですね。ドラクエの城のイメージに添った、様式美すら感じさせる重厚な弦楽に仕上げられています。当然のようにファミコン版では組み込まれていなかったフレーズも今回は入れられており、交響組曲からのフィードバックは毎度のことながらN響及びロンフィルのCDを聴き込んできたファンには嬉しい限り。ファミコン音源のベタ打ちな音も独特の味がありましたが、強弱による表情がしっかりと付けられたPS版の演奏も魅力じゅうぶんで、ゲームの進化を実感させられます。

初出は第一章の冒頭、ライアンら王宮の兵士たちが王からとある任務を受ける場面でした(もっともバトランドのBGとして、ですが)。その後、この曲はありとあらゆる「城」で例外なく流れます。それこそ魔物たちに乗っ取られたサントハイムだろうがキングレオだろうが、魔物の居城デスパレスだろうと例外なく、です。移民の町の特殊形態「キングキャッスル」「大聖堂」でも聴けました。一応、すべての使用箇所は以下。

バトランド、サントハイム、エンドール、ボンモール、キングレオ、ブランカ、スタンシアラ、ガーデンブルク、メダル王の城、デスパレス、移民の町・キングキャッスル、移民の町・大聖堂
03 王宮のメヌエット(夜) ファミコン版にもあった昼夜の概念ですが、「III」と同様、ファミコン当時は楽曲に変化はありませんでしたが、スーパーファミコンでのリメイク作品からは、城や町の曲に昼夜両方のアレンジが用意されるようになりました。PS版「IV」もそれに倣い、夜アレンジが採用されています。暗くなった城にチェンバロの演奏は、もはや外すことのできないほどしっくりとくるお約束。シリーズの定番となっています。「III」のスーファミ版に始まり、PS2の「VIII」も城の夜アレンジはチェンバロが使われています。

「王宮のメヌエット」が流れる場所では、夜になると例外なくこちらのアレンジが流れると思って間違いありません。
04 インテルメッツォ 冒険の書作成/選択画面で流れる曲です。ファミコン版「IV」で初登場したものですね。これも、以後のシリーズで通して使われる定番曲となっているのは言うまでもありません。軽快なピチカートストリングスを主体に、ベル音色を混ぜ込んだ弾むような楽曲で、ハイハットの刻みがさらなるリズム感を付け加えています。短いループ曲ながらも、冒険に出ようとするプレイヤーの高揚感を高める効果は絶大であり、これもしっかりとドラクエの顔として定着していると言えます。

これも「VII」の流用ではなく、PS版「IV」のために作られたもの。ノートデータ自体はほぼ同じなのですが、音色の違いがはっきりとしています。「VII」の方が残響が多めで、広域を強調したブライトな感じになっているのに対し、「IV」のものはあまり前に出ない控え目な印象になっています。

なお、ファミコン版ではこの曲は「間奏曲」と呼ばれていました。
05 戦士はひとり征く 第一章・ライアン編のフィールドBGM。非常にゆったりとした曲で、とにかくいろいろな事件が起こっても顔色ひとつ変えない、ライアンの沈着さを表現しているのでしょうか。あまり急がず、のんびりレベル上げでもしてね、みたいな。フィールドがこうであるからこそ、洞窟や塔に入った時の緊張感はいやでも高まりますよね。

「IV」は、全体的に曲が「呑気」だと思いませんか?アリーナの曲(「おてんば姫の行進」)もどこかとぼけていますし、トルネコ(「武器商人トルネコ」)もしかり。つまりは対比なんじゃないでしょうか?戦闘に突入した際、洞窟や塔に進入した際とのタッチをしっかりとつけているんじゃないでしょうか。
06 エンディング第一章 第一章の終わりに流れる短いME。ライアンのテーマとも言える、「戦士はひとり征く」のモチーフを使っています。ファミコン版と比べて、ずいぶんと壮大なアレンジに生まれ変わりました。
07 おてんば姫の行進 第二章・アリーナ編のフィールドで流れる曲です。恐れを知らず、ずんずんと力強く進むアリーナの姿が見えてくるようです。なにかしらとぼけた感じがするのは、そのアリーナの後ろを「姫〜!」とか言いながらついていく、ヘロヘロになったブライとクリフトのイメージ?

PS版では交響組曲からのフィードバックを受けた起伏のあるアレンジをもって、時にリズミカルに、時に雄大に三人衆の足取りを彩ってくれます。右側で鳴っている金管の刻みが、どんどんと前に進んでいくアリーナの歩みをイメージさせますね。また、金管・木管によるメインのメロディは、お小言の止まないブライ、聴く耳を持たないアリーナ、翻弄されるクリフトといったパーティの賑やかさといったところ。そして刻々と変化していくバッキングが移りゆく景色とまだ見ぬ世界を感じさせ、我々の眼に映るグラフィックにプラスアルファの世界観を与えてくれるようです。
08 エンディング第二章 第二章の終わりに流れる短いME。もちろん「おてんば姫の行進」のモチーフです。
09 武器商人トルネコ 第三章・トルネコ編のフィールドBGM。フルートとコントラバスによる、トルネコの体型をそのまま曲に反映したかのような、どこかコミカルな楽曲です。低音と高音の対比が、数々の武器をかついでヒイヒイ言いながら歩くトルネコの、足取りと吐息を感じさせます。それでもつらさはなく、あくまでのんびり、マイペース。その楽曲の親しみ易さからか、トルネコのテーマ曲としてすっかり定着し、後にドラクエの派生シリーズである「不思議のダンジョン トルネコの大冒険」でも使われています。

難点は、低音をフィーチャーしたことによる「テレビでの聞こえにくさ」ではないでしょうか。CDで聴けば問題ないのですが、ゲーム音楽はほとんどの場合、ゲーム機から出力されてテレビのスピーカーから流れるものです。テレビのスピーカーは個々の差こそあれ、たいていはそれほど性能の良いものではありませんから、低音を鳴らしきれないんですね。さらにPS版「IV」は音楽と効果音のバランスが悪く、効果音のレベルに合わせてテレビの音量を操作すると、音楽がよく聞こえないという状況に陥ります。ただでさえ聞こえにくいこの曲なんか、もうよくわからないことになるわけです。ファミコンの音源なら問題なかったのですが、なまじオーケストラを忠実に再現しようとしたことが、結果として楽曲にとっては可哀想なことになってしまったのです。
10 エンディング第三章 第三章の終わりに流れる短いME。言うまでもなく「武器商人トルネコ」のモチーフを利用したもの。
11 ジプシーダンス 第四章・姉妹編限定の戦闘BGM。なぜこの章だけバトル音楽を変えたのかはナゾですが、姉妹には合っていますよね。タンバリンによる軽快なリズムは交響組曲からのフィードバック。マーニャが叩いているイメージかな?せっかくだから装備品にタンバリンがあっても面白かったですね。「VIII」にはアイテムとしてありましたけど。

初出は実はバトルではなく、第四章冒頭の劇場シーン。イベントで踊るマーニャを彩っていたのです。だから、「ダンス」なのです。戦闘でもきっと、マーニャは華麗に踊るように立ち回っていたのでしょう(とは言え、魔法メインですが)。また、夜にモンバーバラの劇場を訪れた際にも聴くことができます(第五章では、天空のかぶと入手以後)。バニーたちの踊りはマーニャのそれと比べてどうなんでしょうか。客は大興奮してるようなので、そこそこイケてるのかな?

第五章のサントハイムで闘うことになるバルザックは、マーニャ・ミネアと因縁浅からぬ相手。この戦闘では中ボス戦用楽曲の「立ちはだかる難敵」は使われず、代わりにこの「ジプシーダンス」が流れるのです。なかなか気の利いた選曲ですよね。

ところで、交響組曲では「ジプシー・ダンス」と「・(ナカグロ)」が入るのですが、ゲーム音源版はナカグロないですね。この違いは?っていうか深い意味はないと思いますが。ガンダムにおける「哀・戦士」「哀戦士」みたいなもの?
12 ジプシーの旅 第四章・姉妹編のフィールドBGM。オーケストラバージョンを忠実に再現し、ピチカートストリングスやタンバリンによるリズムがうまく表現されていますね。とは言え、オーボエが微妙にオーケストラバージョンとは変わっていたりしますが、まあ間違いと言うほど気持ちの悪いものになっているわけではないので。PS版はこうなった、ぐらいです(すぎやま氏によると間違いのようですが)。

第四章の終わり、姉妹が船に乗ってエンドールへと旅立つシーンにも使われていますが、ここはファミコン版では「海図を広げて」が鳴る演出でした。この演出に思い入れのあるファンは少なくなく、「PS版の四章の最後はいただけない!」という声がとにかく多いこと。リメイクというものはファンの記憶も含めて面倒みなければならないのですから、生半可な作業ではありません。何を残し何を変えるか、その選択は容易なことではないでしょう。
13 エンディング第四章 第四章の終わりに流れる短いME。もちろん「ジプシーの旅」のモチーフです。切なげな弦によるアレンジが、姉妹の抱く複雑な想いとこの先に待ち受ける運命を感じさせます。
14 街でのひととき この世界にある、ありとあらゆる町、そして村で流れる曲。ゆったりとして暖かみのある雰囲気が、プレイヤーにひとときの憩いを与えてくれるでしょう。前半は軽やかなピチカートとフルート、清楚なストリングスがここは安全な場所であるという安堵を感じさせ、さて、それではあちこち探索してみようか、というあたりで後半の展開が賑やかな人々の往来を表現します。

初出は序章、勇者がとある地下室から地上に出たところ。ゲーム開始後序盤も序盤、もっとも早い時期に耳にする曲であることから印象も深いですね。しかし、世界が広くなったことでさらに数を増した町&村。「III」にはあった「村の曲」がなくなったことで、どこに行っても、町の規模に関係なくこの曲が流れます。それでもどんな場所にもハマるように配慮はされていると思うのですが、なぜ「IV」では「村の曲」をなくしてしまったのでしょうか?おそらく容量的な制約であろうことは容易に想像ができます。各章ごとにフィールドの曲を変えたこと、コロシアムに数パターンの曲を使ったこと、いずれも演出上不可欠な曲数の増加が、結果として最も「なくても困らない」、村の曲を削ぎ落とすというしわ寄せになったのではないでしょうか?確かになくてもまったく問題ないのですが、過去にあったものがなくなるというのはそれなりに事情があるのだろうと、邪推してみたくもなるってもんです。以下は使用場所のリスト。多いですよ〜。

バトランド城下町、イムル、サラン、テンペ、フレノール、砂漠のバザー、エンドール城下町、レイクナバ、ボンモール北の村(キツネの隠れ村)、モンバーバラ、コーミズ、アネイル、コナンベリー、ミントス、ソレッタ、海辺の村、スタンシアラ城下町、ロザリーヒル、移民の町(一部の特殊形態を除く)
15 街でのひととき(夜) PSになれば容量の制約はそれほどシビアではありません。よって町の曲にも夜バージョンがしっかり用意されています。スーファミ版「III」から始められた、城&町の夜バージョンは、本作にもしっかりと受け継がれています。もとは同じ曲でも、アレンジしだいでここまで表情を変えるのか、と筆者なんかはいつも目からウロコですよ。

ならPS版で新たに「村の曲」も入れちゃえば良かったじゃん、と言う人もいると思いますが、全体を見ればわかる通り、ファミコン版になかったものを無理矢理増やすという方向では作られていないのです。ピサロの曲などは第六章が追加された以上必須だったのでしょうが、村の曲は演出の上で必ずしも必要ではない、ということです。
16 楽しいカジノ エンドールのカジノで流れている曲。第二章でアリーナがエンドールに到着すればその時点から聴くことができ、以後、すべての章でエンドールのカジノにて聴くことができます。カジノは実はそれだけではなく、移民の町で特定の条件を満たした時に出現する「グランドスラム」もあります。もちろんそのカジノで流れるのもこの曲です。

「街でのひととき」のアレンジになっているのがわかるでしょうか?以後、シリーズでは街の曲をアレンジしたカジノの音楽が伝統になりました。なお、後にPS2の「VIII」に流用されています(逆にそこで伝統を覆してしまうわけですが)。ファミコン版ではもちろん軽快なアレンジではあったものの、PS版ではそこに「ビッグバンドジャズ風」というテイストが加味されました。それも含めて「VIII」で再現されていますので、興味のある方は両方聞いてみるのも良いでしょう(ファミコン音源のも含めて)。

第五章では、天空のかぶと入手前(正しくはパノンを仲間にする前)まではモンバーバラの劇場にパノンというお笑い芸人がおり、爆笑ステージをやっています。そこでは「ジプシーダンス」ではなく、このカジノの曲が流れているのでした。天空のかぶと入手後(パノンと別れた後)は、また「ジプシーダンス」に戻ります。

PS版で追加された隠しダンジョンでは、最後にエッグラとチキーラというボスが待ち受けています。ユーモラスな彼らとの戦闘に流れるのは、なんとこのカジノの曲なのです!しかし、その雰囲気とはウラハラにデスピサロなど比較にならない強さを誇るふたりなのでした。油断してると痛いメに遭いますよ?
17 コロシアム楽屋 エンドール城内、コロシアム手前の部屋で流れる曲。また、大会に出場した際はバトルとバトルの間の小休止で聞くことになります。

ファミコン当時にわざわざこのためだけに曲を用意していたということも驚きですが(他に流用ないですし)、さらに驚くのは「コロシアム楽屋」に2つのバージョンが用意されていた点。コロシアム楽屋前では、遠くから聞いたような音量の低いバージョン、楽屋内では音量の上がったものが使い分けられていたのですが、実はこれ、単なる音量の操作ではなく、別個のデータを切り替えていたのです(アレンジも異なっています)。PS版ではこれをボリュームの操作でまかなっていますね。

イントロから鳴っているストリングスのトレモロですが、すぎやま氏によるとこれは「観客のざわめき」を表現しているのだそう。上で記したファミコン版の「2つのバージョン」ではこのトレモロが変えられており、コロシアムに近付いた時にはより多くのざわめきを感じられるように工夫されていたのです。しかし、PS版ではどうでしょう。すぎやま氏の思惑とは別に、観客のざわめきそのまんまの効果音が被せられているではないですか!技術的に制約されていた頃の創意工夫は、制約から解放された舞台ではもろくも崩れ去るものなんですね……。リアルを優先したということでしょうか。
18 コロシアムスタンド コロシアム闘技場で流れる曲。大会に参加することで、入場シーンに流れます。また試合に出ずとも、楽屋右手の階段から見るだけでも曲は聴けます。

なお、第五章になるとボンモール王子とエンドールの姫がコロシアムで結婚式を行っていますが、その最中もこの曲が流れています。結婚式にしてはずいぶんと勇ましいですが……。中世の結婚式ってこんな感じだったのかもしれませんけど。
19 勇者の故郷 第五章において、導かれし者たちが全員揃っていない段階でのフィールドBGを務める楽曲。勇者の故郷である小さな村で流れるわけではありません。朽ち果て静まりかえった村から初めて外界に出たものの、どこへ行けばいいかもわからない、目的もわからない……そんな勇者の途方に暮れた様子にピッタリでした。序盤を少し寂しげなこの曲に乗せて冒険することで、仲間が全員そろってからの「馬車のマーチ」のインパクトが高められています。
20 馬車のマーチ 第五章で、すべての導かれし者たちが集まった時点から、フィールドで鳴らされる曲。タイトルは「馬車のマーチ」で、馬車は五章のかなり早い段階で入手できますが、この曲が流れるのはあくまで仲間が全員揃ってからです。タイミングとしてはキングレオ攻略後、ライアンが仲間になってからですね。ブラスが高らかに鳴り響く行進曲で、いよいよここからが本当の始まり!という高揚感に満ちているばかりか、ここに集いしそれぞれのキャラクターの宿命をも感じさせてくれる名曲です。「II」以降、フィールドBGが前半・後半で変化する手法はおなじみとなりましたが、どこで変わるんだろうという楽しみにもなっています。「IVはこうきたか!」と唸ったのではないでしょうか。

なお、これまでの一章から四章で流れたそれぞれのテーマ曲(フィールドBGM)を五章で聴くには、該当する仲間を並び替えで先頭にすればOKです。これで移動中の曲がそのキャラクターのテーマになります。例外として勇者を先頭にしていてもこの「馬車のマーチ」になりますが、「勇者の故郷」を聞きたいのであれば勇者1人になればOK(並び替えで勇者→おわり)。もちろん、第六章でピサロを先頭にすれば「ピサロは征く」になりますよ。
21 恐怖の洞窟 洞窟タイプのダンジョンで流れる曲です。ファミコン版の音源ではどこか怖さ、緊迫感の足りなかったこの曲ですが、PS版ではオーケストラバージョンを模したアレンジで、背筋がゾクッとするようなうすら寒さを感じられるようになりました。洞窟の曲といえば単にオドロオドロしい曲になりがちなものですが、ドラクエは毎回それだけでない、プラスアルファな雰囲気を加味されているのが特徴です。「IV」では様々な仕掛けがあったり、水に囲まれていたり、時には巨大な像の中だったりとバラエティに富んだダンジョンに対応するかのように、音楽も展開に富んだものになっています。

町や村と同じく、世界が広くなったぶんダンジョンの数も増えています。もうちょっと塔の曲を割り当てても良かったかなあ、とも思いますね。たとえば魔神像なんかは塔でもいいのでは?以下、使用箇所一覧。

バトランドとイムルを結ぶ地下洞窟、イムル古井戸、古井戸の底、フレノール南の洞窟、レイクナバ北の洞窟、女神像の洞窟、エンドールとブランカをつなぐ地下道、コーミズ西の洞窟、アッテムト鉱山内部、裏切りの洞窟、パデキアの洞窟、ガーデンブルク西の火山、ガーデンブルク南の洞窟、滝の流れる洞窟、王家の墓、魔神像、闇の洞窟、デスキャッスル、第六章ゴットサイドのダンジョン
22 呪われし塔 塔タイプのダンジョンで流れるBG。ウッドブロックが淡々とリズムを打ち、弦楽器もまた淡々と刻みを繰り返しており、楽曲に一定の焦燥感を持ち込んでいます。そのうえで木管・金管が代わる代わるメロディを受け持っていき、時おり挿入される弦楽器によるタッチがプレイヤーの意識を引き締めます。どんなに登ってもいっこうに頂上の見えない焦りのようなものを感じますね。塔自体がそれほど多くないため、「恐怖の洞窟」に比べて聴く機会は少ないですが、以下の場所で使われております。

イムル・湖の塔、さえずりの塔、大灯台、世界樹、天空への塔
23 エレジー この曲こそ、ドラクエシリーズいち怖くて悲しい曲という地位を不動のものにしている「アッテムトの曲」です。しかしそれもファミコン音源バージョンに限ってのこと。PS版はなにか普通に小奇麗な曲になってしまいましたね。それでも悲壮感たっぷりのストリングスと、哀愁のオーボエはじゅうぶん悲劇的ではありますが。

通常は戦闘でパーティが全滅した時に流れる曲ですが、イベントでも使われています。第五章の冒頭、惨劇に襲われた村。地下室にいた主人公には、もはや地上に人の気配を感じることはできません。静まりかえった地下室から出た時に流れるこの曲の悲壮感は筆舌に尽くしがたいものがありました。このイベントにおける「栄光への戦い・生か死か」→無音→「エレジー」の演出には脱帽ですね。緩急をうまく使い分けています。

こういうシチュエーションで使われている曲なのに、「IV」の中でもかなりの人気があります。「ドラクエ」はさすがに国民的ソフトなので、オーケストラの演奏者の中にもプレイしている人はたくさんいるわけです。交響組曲の録音やコンサートのリハーサルでは、演奏者がそれぞれの曲にさまざまな感想を言いながら行うこともあるようですが、なぜか「レクイエム」「鎮魂歌」といった類の「全滅曲」だけは、「こんな曲あったっけ?」と言われてしまうそうです。そう、みんなさっさとリセットしたり、王様のところに戻ってしまうわけで、曲を聴く機会がないんですね。このことにショックを受けたすぎやま氏は、全滅曲を他のイベントにも押し出していこうと決意。前述のようにこの「エレジー」をアッテムトのBGや、第五章の悲劇的なイベントに使ったわけです。結果として、「エレジー」の人気がその効果を裏付けているでしょう。
24 不思議のほこら ほこら全般で使われている曲です。初めて聴くことになるのは第二章も終盤、フレノール地方南とエンドールを結ぶほこらになります。以後、キングレオ西の神のお告げ所、主人公の故郷南・きこりの小屋、砂漠の宿屋、ミントス東のほこら、リバーサイド西の旅の扉、魔神像入り口、つの笛のほこら、希望のほこら、闇の世界の結界×4などでたびたび耳にすることになります。最終的にデスピサロが待ち構える、闇の世界の火山内部でも流れています。ちなみにファミコン版ではここは「恐怖の洞窟」でした。

街ではありますが、PS版のゴットサイドでもこの曲が流れています。ファミコン版では通常の「街でのひととき」でしたから、雰囲気がずいぶんと変わりました。ゴットサイドの名に恥じない、神々しさを感じさせてくれます。曲でこんなにも雰囲気が変わるか?という、音楽の持つ説得力を実感しました。

また、何も手をつけていない段階(ホフマンしかいないレベル)の移民の町でも使われています。発展すれば、「街でのひととき」になります。
25 海図を広げて 第五章・コナンベリーでトルネコを仲間にすると、一行は船に乗り込みます。その船出発のシーンで流れるのがこの曲。以後、もちろん海上のフィールドBGMとして流れるようになる曲です。ファミコン版から尋常でない進化を遂げた、交響組曲のフィードバックをふんだんに盛り込まれた壮大なアレンジとして生まれ変わっています。

ファミコン版では船を入手する前、第四章の終わりでひと足早く聴けた「海図を広げて」ですが、PS版ではその演出がなくなってしまいました。これはファミコン版からのファンの間では賛否両論というか、聞こえる限り「否」しかないですね。もしもこのPS版アレンジがあのタイミングで流れてていたら、背筋に電流走りまくりだったと思うのですが、逆に盛り上がりすぎて引っ込みが付かなくなってしまったかも、と思います。難しいですね。
26 ピサロ 敵方・ピサロのテーマ。PS版で追加された新曲になります。静かな弦と木管の導入から、一転して危うげな曲調に。緊迫した弦がひと盛り上がりすると、以後はそのテンションが楽曲を支配します。敵方ではありますがただ恐怖感のある楽曲に終始していないのは、彼が悪へと手を染めた背景に理由がありそうです。過去のシリーズの「悪」と異なり、彼がそうならざるを得なかったのは人間の側にも原因があります。ピサロのそうした純粋さが、曲の前半部には現れているのでしょう。後半はピサロが人間に抱く憎悪、でしょうか。

初出はロザリーヒルにて、あやかしの笛を用いて塔の隠し通路から内部に侵入した際。次に聴くことができるのは、デスパレスにて魔物の会議に参加した時になります。席についておとなしくピサロの到着を待つ魔物たち……そして現れるデスピサロことピサロ。すっかり魔物たちを統率しているようです。

ファミコン版にはなかったピサロのテーマ曲がPS版で追加されたのは、アナザーシナリオを用意したことで彼に当てられるスポットが強化されたことによるものでしょう。第六章、生き返ったロザリーをピサロのいる闇の世界の火山に連れて行くと、回想イベントが始まります。ピサロとロザリーの出会い……セピア色のそんなイベントに流れたのもこの曲でした。
27 ピサロは征く 「ピサロ」のアレンジで、もちろんPS版新曲。どことなく「巨人の星」って感じがしてしまう行進曲です(笑)。第六章でピサロを仲間にし、彼を並び替えで先頭にすることで聴くことができます。が、それ以外で使われることはなく、ピサロをパーティの後ろにくっつけていたプレイヤーは、この曲をまったく聴かずにゲームを終えてしまったことでしょう。

PS版の新曲ですから、どうしてもファミコンからプレイしているユーザーには印象が薄くなってしまいますが、それはオーケストラバージョンが存在しないことも一因でしょうね。ドラクエ音楽ファンはそれはもう無意識のうちにオケバージョンを求めてしまいますから、それが存在しないものについてはなかなか受け入れられないのかもしれません。こう書くとすぎやま先生には失礼かもしれませんが、やっぱりゲーム音源バージョンとオケバージョン、両方揃って「ドラクエの音楽」なんですよ。そういうふうにユーザーを教育してしまったのは、送り手側ですからね。
28 のどかな熱気球のたび リバーサイドで気球を手に入れると、その浮上イベントから流れるこの曲、当然空中を移動している間、鳴り続けるものです。気球に乗っている間はエンカウントもありませんから、邪魔をされずに聴き続けることができます。

変拍子をふんだんに取り入れ、音楽的にはいろいろと凝ったことをやっていますし、PS音源でもそれを可能な限り再現しているとは思うのですが、筆者にはいまひとつピンときません。これがすぎやま氏が再三おっしゃっている「空は敵と会わず、途切れることなく音楽が鳴る。だから絶対に快適な曲でなきゃならない」という主張に添っているとは思えないんですよ。「III」のラーミアが良かっただけに、個人的にはファミコン版プレイ時「えー、これ?」という印象を否定できませんでした。その印象はPS版プレイ後も変わりません。気球という乗り物ののどかさは演出しているとしても、「ドラクエの空を飛ぶ時の曲」としてはヒネりすぎなのかもしれません。
29 謎の城 「謎の城」と書かれるとなにやら不気味な感じがしますが、実は天空城で流れる楽曲です。「ドラクエの城」という定番の雰囲気を受け継いだ、正統派の弦楽舞踏曲。他への流用はいっさいありません。また、後のシリーズでも天空城は登場しますが、この曲が再び使われるということもありません。あくまで「IV」の天空城のためだけに作られた楽曲です。

天空城の登場時期がゲーム終盤であること、そしてそれほどしょっちゅう訪れる場所でないこと(拠点とするほど便利な場所ではない)から、楽曲自体への思い入れはそれほどないですね。曲は聴けばわかりますが、無意識のうちに鼻歌を歌ってしまうかといえばそれはありません。楽曲自体の良し悪しを論じるつもりはなく、もったいないな、という感想。それはゲームそのものにも言えることで、五章をかけて紡いできた物語ではありますが、終盤はかなり「駆け足感」があるんですよね。やっと辿り着いた天空城ですら、通過点でしかない。あっという間に雲に穴が開いて、主人公達は諸悪の根源を倒すため、また地上へと戻っていく。拡げたフロシキを焦ってたたもうとしているのがユーザーにもわかる、と言えばよいでしょうか?
30 栄光への戦い・生か死か 通常のエンカウントバトルBG、いわゆるザコ戦で流れる曲です。ファミコン当時は組曲「栄光への戦い」の中で「戦闘−生か死か−」というタイトルを与えられていました(Disc1収録のオーケストラバージョンでは「戦闘」と改題されています)。たたみかけるようなテンポと、細かい音数、圧倒的なダイナミクスで戦闘を盛り上げます。たとえ相手が「スライム」であろうと「だいまどう」であろうと、平等な緊迫感を感じさせてくれるのです(ちょっとおおげさ?)。後半には変拍子も取り入れられ、ともすれば作業になりがちな戦闘にさまざまな表情を加えています。ちなみに、第二章の武闘大会でのバトルもすべてこの曲。

イベントでも使われることがありました。第四章においてキングレオを脱出するも兵士に見つかるミネアたち。追っ手を食い止めるべくオーリンが飛び出すシーンで流れましたね。また、五章が始まってすぐ、主人公のいる村に魔物が攻め入るイベントでも使用。さらに、裏切りの洞窟で何度もニセモノに痛い目に遭わされたマーニャが、主人公と戦おうとするイベントでも流れました。そして、第五章のキングレオ城で、ついにキングレオと対峙するイベントでも使用されています。敵兵士を食い止めるライアン、勇者どのはキングレオを!というシーンです。

いずれも実際の戦闘にはなりませんが、汎用焦らし曲がなかったため流用されたものです。PS版でそういった追加曲があるかな〜、と思っていたのですが、むやみに新曲を増やすことはしなかったようですね。後のシリーズでは、こういったイベントで使うための焦らし曲が用意されるようになります。
31 立ちはだかる難敵 PS版で新たに追加された中ボス戦用の曲です。ザコ戦の「栄光への戦い・生か死か」のアレンジになっています。ドラムスやエレキベースの加えられた、ゲームならではのアレンジがいかにも新規追加曲といった感じ。リメイクでは中ボス曲の追加はもはやお約束ですが、何の曲のアレンジとなるかという予想も含め、それもまた楽しみのひとつ。今回は前述のように、ストレートな通常バトルのアレンジでしたね。アレンジの巧妙さから、まったく異なる緊迫感を出すことに成功しています。この曲が用いられる戦闘は以下。

ピサロのてさき、カメレオンマン、キングレオ(四章・五章とも)、うらぎりこぞう×2+きゅうけつこうもり×2(裏切りの洞窟)、とうだいタイガー、バルザック(第五章のみ)、とうぞくバコタ、ピサロナイト、アンドレアル×3(結界)、ギガデーモン、ヘルバトラー、エビルプリースト(結界)
32 邪悪なるもの 大ボス戦BGMです。通常バトルや中ボス戦よりもテンポを落とし、あえて音数も減らすことによって、強大なボスの威圧感を表現しています。楽曲のタイプを通常の戦闘とはガラッと変えることで、これまでの敵とは違うぞ、ということを訴える手法はもはや定番。言ってみれば「ドラクエI」の竜王からそうだったわけで。

初出はエスターク神殿での対エスターク戦にて。ラスボス戦であるデスピサロ(第一形態)とのバトルでも使用されています。進化の秘法で禍々しい姿となった彼は、まさに「邪悪なるもの」。しかしそれもある純粋な「想い」ゆえ。本作がわかりやすい勧善懲悪のストーリーでないことは、このあたりに起因しています。PS版のアナザーシナリオをプレイすれば、そのあたりの事情をより深く理解することができるでしょう。というわけで、第六章の最終戦、対エビルプリースト第一〜第二形態バトルでもこの曲が流れます。
33 悪の化身 おぞましい真の姿をあらわしたデスピサロとの最終戦を演出する曲です。曲が切り替わるタイミングは、体が緑色に変色し手足が生えそろい、ついに頭部が出現した際、咆哮一発の後です(それまでは「邪悪なるもの」が流れています)。第六章の対エビルプリースト第三形態戦以後も同様にこの曲が流れます。曲が切り替わるポイントはデスピサロと同じです。こちらは第四形態(体が変色)までありますが、曲はそのまま引っ張ります。

「邪悪なるもの」と同様、やはりド派手に煽り倒すことはせず、ズンズンと迫り来るような焦燥感・危機感を演出。所々に駆け上がりのインパクトを挿入し、最後の戦いに相応しい緊迫感を付け加えてあります。また、用いる音色を限定し「邪悪なるもの」を引き継ぐことで、曲が切り替わったときの違和感をなくしてあるのもうまい。ハードがプレステともなれば音を鳴らしまくる方向でのアレンジもあり得たのでしょうが、あえて原曲(ここではファミコン版、そして交響組曲版)のイメージを尊重しているところに好感が持てます。戦闘中はいっそう激しい効果音も派手に鳴り響きますから、それと合わさった時のことも考えてあるのでしょう。
34 終曲・導かれし者たち マスタードラゴンに地上に戻ることを告げた勇者が、天空城を後にするタイミングから鳴り始めるエンディングの曲。交響組曲では毎度省かれる、各キャラクターのテーマメドレーもバッチリおさえてます。この形のオーケストラバージョンを切望していたファンにとっては、このPS音源バージョンがとりあえずの妥協点でしょうか。

まずは「導かれし者たち」の主題で展開していきます。ゆったりと進んでいく気球にシンクロするようなゆったりとした曲調で、各地を巡っていく勇者に寄り添います。それぞれの土地へと帰っていく仲間たちを見送りながら……。3分17秒で現れるのはまぎれもなく「序曲」、そして「戦士はひとり征く」「おてんば姫の冒険」「武器商人トルネコ」「ジプシーの旅」が短く紡がれていきます。4分06秒からは「ピサロ」です。これは第五章をクリアしただけだとなぜエンディングに組み込まれているのかわからないのですが(敵のテーマだし)、第六章をクリアした人には「おっ」と思わせるというサービスですね。一部では「第五章クリア時点ではピサロの部分はカットされている」「ピサロが組み込まれるのは第六章のエンディングだけ」、つまりエンディングの曲はピサロあり・ピサロなしの2種が存在すると言われていますが、誤解です。エンディングの曲は1種しかなく、五章クリアでもピサロはあります(両者をビデオ録画して確認済み)。異なるのはグラフィックだけです(六章クリアの場合、ロザリーヒルで気球を見送るピサロ・ロザリーの画が挿入される。五章の場合、そこはロザリーの眠るお墓の画)。

少しだけ主題に戻り、4分31秒からは「王宮のメヌエット」、そして「勇者の故郷」と繋がります。そして主題に戻り、あとは終幕へ向けて進行していきます。故郷でシンシアと再会して涙する勇者とプレイヤーがもっともシンクロする瞬間ですね。6分05秒から再度イントロに戻るところは、ゲームではスタッフロールになります。

惜しまれるのは、これだけ各キャラクターのテーマがフィーチャーされているのに、画面との同期がまったく取られていないこと。たとえば、「戦士はひとり征く」が流れているところで、映像にはライアンは映っていないのです(実際、「戦士はひとり征く」〜「おてんば姫の行進」のところは、画面はトルネコ)。もっとも各テーマ曲が画と合わせるほど長くは組み込まれていないから無理なんですが、やっぱり音が鳴っているからには画も見たいですよね。ここで比較するのは失礼かもしれませんが、同じことをFFシリーズの植松伸夫氏がやっていたら、逆にクドいぐらいに画と合わせるんじゃないかと思うんです。曲は曲で、画は画で、そういう演出もアリなのでしょうが、「ドラクエIV」においては合わせてほしかったですねえ。
ME集
35 あやかしの笛
聖なる種火
パデキアの種が…
病気回復
「あやかしの笛」はその名の通り、アイテムとしてあやかしの笛を使った際に奏でられるメロディ。初出は第五章のイムルで宿屋に泊まった時に見られる夢の中。ピサロが奏でた笛の音です。「聖なる種火」は、大灯台で聖なる種火を使った時に流れるハープのME。「パデキアの種が…」は、パデキアの種をソレッタの畑に撒き、あっという間にパデキアが育つイベントを埋める木管楽器のMEです。「病気回復」は、そのパデキアをミントスに持ち帰り、クリフトが回復するところで鳴るME。いずれもPS版で追加されたものではなく、ファミコン版で既に存在していたものです。
36 ファンファーレ小
ファンファーレ中
ファンファーレ大
いずれもカジノのミニゲームで勝利した際に、その勝ち幅に応じて鳴らされるもの。大きく儲ければ儲けるほど、豪華なファンファーレになります。また、「ファンファーレ中」は、第六章の隠しダンジョンのボス・エッグラとチキーラを倒した際にも使われています。「ファンファーレ大」は、カジノ以外ではモンスター図鑑が完成した際に鳴らされます。イベントでの使用もあり、第二章でエンドールの武術大会に見事優勝した際に鳴り響きました。

いずれもファミコン版の「IV」で初登場し、以後のシリーズでおなじみの音として受け継がれていくことになりました。
サントラ未収録曲(すぎやまこういち氏作成のME)
・宿屋に泊まった時のME
・セーブする時のME
・戦闘勝利時のかけ上がりME
・レベルアップのファンファーレ(第三章でトルネコが店を手に入れた/商売を成功させた時にも使用)
・教会で治療/蘇生する際のME
・重要アイテム発見ME
・誰かが仲間になった時のおなじみのME
 (このMEが使われる仲間→導かれし者たちと、第三章雇われNPC、第四章オーリン、
  第五章ホフマン、パノン、ルーシア、ドラン、第六章ロザリー、ピサロ)
・バロンのつのぶえ
・呪いのME
その他補足事項&ツッコミ
デモイベントの音楽
ゲーム起動後、放置したままにしておくとタイトル画面に続いて始まる、各キャラクターのデモイベントで流れる楽曲は以下の通り。ライアン→「王宮のメヌエット」、アリーナ→「おてんば姫の行進」、トルネコ→「武器商人トルネコ」、マーニャ・ミネア姉妹→「ジプシーダンス」。なぜライアンだけテーマ曲じゃないのでしょう?確かに場面は城だけども。ゲームスタートするとすぐ第一章が始まるから、という配慮?それを言うなら、第一章でまず流れる曲はそれこそ「王宮のメヌエット」なんですけど……。ちなみにデモイベントに勇者のエピソードはありません。四章まで。

効果的な「無音」の演出
音楽を「鳴らす」だけでなく、あえて「鳴らさない」演出も随所で光っています。たとえば第二章の終わり、シーンと静まりかえったサントハイム城の「無音」などは、人々が忽然と姿を消してしまった人気のない城内の雰囲気を、どんな楽曲よりも上手く表現していると言えます。また、この不気味さ、空虚さとは異なる方向で「無音」が使われている場面もあります。天空城に到達する直前の、天空の塔における「無音」です。ここでの静けさは人の気配のない場所での「ずいぶん高い所に登って来たんだなあ」という実感を促してはいますが、不気味さというものとは無縁です。むしろ直後にくる天空城のインパクトを極限まで高める演出と言えるでしょう。

新曲・新アレンジ以外でのファミコン版との相違
細かいものは山ほどあると思うのですが、代表的なものを紹介しておきましょう。まずは「重要アイテム発見」時のME。ファミコン版では「IV」独自の『チャカチャチャカチャチャーン、タラララーン』という、わりと音数の多い明るいブリッジだったのですが、PS版ではスーパーファミコンの「I・II」以降から採用された、その後のシリーズ共通の『タンランランランラーン』という短いSE的なものになりました。楽曲そのものの変更はこんなものだと思いますが、効果音で印象的なものをひとつ。それはザキ、ザラキといった即死系魔法の音です。ファミコン版では「ピキピキピキ」という高音の、それこそ全身の細胞が氷結というか壊死というか、何とも言えない音だったのですが、PS版では「ボシュッ」という煙のような音になりました。ファミコン版のあの音にはファンも多く、「PSの音はなんか違う」という声が続出したものです。

音そのものではなく、「使いどころ」にもスポットを当ててみましょう。まずは第四章のエンディングから。ファミコン版では、マーニャ・ミネア姉妹が船に乗ってエンドールに向かうこのシーンでは「海図を広げて」が流れていました。複雑な想いを抱えて因縁の土地を後にする姉妹にぴったりの絶妙な選曲だったのですが、PS版では同じ場面に普通に「ジプシーの旅」が流れます。これは「改悪だ」とする人の多い、微妙な変更点でしたね。もうひとつはゴットサイドのBG。ファミコン版では通常の街の曲「街でのひととき」が流れていましたが、PS版では「不思議のほこら」に変更。これはゴットサイドという場所の、いわくありげな神々しさをアップさせた改善点と言えるでしょう。続いてはデスピサロの眠る闇の世界の火山内部。ファミコン版では「恐怖の洞窟」でしたが、PS版ではここも「不思議のほこら」です。なぜ新曲の「ピサロ」を使っていないのかという点については、第六章でここを訪れると理解できるでしょう。ロザリーを連れた状態でここに来た時に挿入される回想イベントで、「ピサロ」が流れるからです(BGとして使っていると、曲が被ってしまうため)。

決してバランスはよろしくないPS版「ドラクエIV」の音
最後にこんなことを書くとここまでのレビューぶち壊しなのですが、あえて書きます。PS版「IV」の音ってバランス悪いですよねぇ〜。これを読んだ方々には「はあ?」と思われてしまうかもしれませんが、音楽と効果音のバランスが劣悪なんですよ。サウンドプログラムに起因するものだと思われますが、しかし単なるボリュームの問題。なにも難しくはありません。テストプレイをしっかりやっていれば、誰かが気付いても良さそうなものなんですけど……。効果音が圧倒的にデカすぎるんです。音楽聞こえないな〜、と思って音量を上げると、効果音が爆音で鳴り響く。特に戦闘での魔法系SEは殺人的にデカい!なのでボリュームを下げるとやっぱり音楽が聞こえない。これってかなりのストレスになるんですよね。最終的にどんなバランスでスピーカーから出力されるのか、そこまで面倒見てこそ本物のプロの仕事だと思うんですが……どうもゲームの音はそこまでできてないものが多い気がします。

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