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交響組曲「ドラゴンクエストIV」(ポニーキャニオン版)
ジャケット画像  90年発売のアポロン音産盤「交響組曲ドラゴンクエストIV 導かれし者たち」からほぼ1年後、ロンドンフィルハーモニー管弦楽団演奏によるこのCDがリリースされた。録音自体はそれこそ、アポロン盤の数ヶ月後というペース。同時に映像作品としてビデオでも日の目を見たこの演奏は、海外のオーケストラが演奏していることもあってN響のそれとはまた異なる表情を見せている。CDのタイトルからゲームの副題「導かれし者たち」がなくなっていたり、珍しくポニーキャニオンから発売していたりとシリーズでも異色のこのCD、廃盤となっていることもありファンの間ではコレクターズアイテムとして珍重がられている。また、後のスーパーファミコン版「I・II」以降のオーケストラバージョンをロンドンフィルが演奏するようになったのも、間違いなくこのCDにおけるすぎやまこういちとロンドンフィルの出会いがきっかけになったのだ。そういう意味でもドラクエ音楽を語るうえで欠かせない一枚になっていると言えよう。

ポニーキャニオン
PCCG-00118 廃盤
1991年
JASRAC表記:
あり

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01 序曲
Overture
ファミコン版「ドラクエIV」から使われることになった、新しいファンファーレをイントロに採用したおなじみの「序曲」。以後、シリーズ最新作まで使われている「ドラクエの顔」です。「III」までの「ロト編」から新たな物語「天空編」に移行するにあたり、制作スタッフから序曲の変更を提案されたすぎやまこういち氏は、定着したこの曲そのものを変えることを拒否、イントロのファンファーレを新しくすることで対応しました。

ポニーキャニオン盤の演奏は、前述の通りロンドンフィルハーモニック管弦楽団。後にスーパーファミコン版「I・II」「III」「VI」、プレイステーション版「VII」のオーケストラバージョンを演奏し、「IV」「V」についても2000年にCDをリリースしています。ドラクエ音楽ファンにとってはもはやN響と同じくおなじみの楽団であることは言うまでもないですね。そのようにもうひとつの「ドラクエの顔」となるロンドンフィルが初めてドラクエの曲を演奏したのが、他でもない、このポニーキャニオン盤の「ドラクエIV」なのです。

勇者を讃えるトランペットが鳴り響くイントロに続いて、ロト編から不変のメインテーマはN響盤と同じ「3連ベース」。ただしその聞こえ方はN響盤とはだいぶ違っています。これはこのCD全体を通して言えることなのですが、「オーケストラ全体の一体感・空気感を味わいたいならPC盤ロンフィル(このCDです)」「各楽器ごとの粒立ちをはっきり聞き取りたいならN響」というのが筆者の結論です。このCDには録音機材のデータが記載されていないのですが、ジャケット写真を見る限りではマイクが見当たりません。これはワンポイントステレオ集音をしていると推測できます。つまり、オーケストラの出す音を全体の響きとしてとらえています。対してN響盤では、機材のリストを見る限りけっこうな数のマイクが使われていますので、パートごとにマイクが立っているのではないかと思われます。そうすると楽器(パート)ごとの輪郭が際立ってくるのです。それぞれのマイクをミキシングコンソールでまとめたのがN響盤の音ということですね。リアルな響きはPC盤ロンフィル、細部を聴き込むならN響盤といったところですかね。

なお、2000年にソニーからリリースされたロンフィル盤は、写真を見る限りN響と同様のマルチマイクで収録されていますので、そちらもまたかなり聞こえ方の印象が異なるものになっています。
02 王宮のメヌエット
Menuet
弦楽で奏でる王城の曲です。ゲーム中ではあらゆる城で流れるこの曲ですが、「ドラクエ」のお城としては定番のイメージを守り抜いています。それでいて、過去3作品の中で最も優美。正統派な宮廷音楽の様式美さえ感じさせます。N響盤の同曲が各弦楽器を「点」でとらえていたのに対し、このCDでは「場」でとらえているため、ふくよかな響きを湛えたマイルドな録音になっていると言えるでしょう。

もちろんこれはどちらが良い・悪いということではありません。録音方式の違いが楽曲自体の本質に影響を与えることはないからです。もちろん良い録音と悪い録音ならば話は別ですが、手法が違うだけでどちらも悪い録音ではないと思います。同じ楽曲、同じ指揮者(すぎやま氏)であっても楽団の違い、収録方式の違いによって聞こえ方が違うという、それもひとつのオーケストラ録音を鑑賞するうえでの楽しみなのですから。無論、そういったことに興味がない人はいちドラクエの音楽として純粋に耳を傾ければいいまでのこと。理屈は必ずしも必要ではありません。
03 勇者の仲間たち
Comrades
(間奏曲〜
戦士はひとり征く〜
おてんば姫の行進〜
武器商人トルネコ〜
ジプシー・ダンス〜
ジプシーの旅〜
間奏曲)
ゲームは第一章から第五章に分かれており、それぞれの章に主人公がいます。もちろんそれぞれにテーマ曲が存在し、それが移動中のフィールドBGMとして流れるしくみ。ここではその、第一章から第四章で登場する、勇者以外の仲間たちのテーマ曲を組曲で楽しむことができます。

冒頭は「間奏曲」と呼ばれるもので、ゲームではゲームスタート時のデータ選択画面で流れる短い曲です。この「IV」で初めて登場し、以後シリーズを通して使われていくおなじみの楽曲になりました。27秒からは第一章のフィールドBGM、戦士ライアンのテーマ「勇者はひとり征く」。2分3秒からの曲は第二章・アリーナ姫御一行のテーマ曲「おてんば姫の行進」。続いて4分9秒から、第三章「武器商人トルネコ」。さらに5分52秒は第四章限定の戦闘音楽「ジプシー・ダンス」、7分45秒からがその第四章におけるフィールドテーマ、マーニャ・ミネア姉妹の旅に寄り添う「ジプシーの旅」になります。構成はアポロン盤に収録のN響による演奏と一切変更ありません。9分14秒ではもう一度「間奏曲」に戻って締め括ります。
04 街でのひととき
In a Town
(街〜
楽しいカジノ〜
コロシアム〜
街)
ゲーム中で町関係に使われている楽曲を組曲にしたトラック。まずは汎用BGM「街」、あらゆる町や村といった舞台で流れる曲です。1分21秒からがその「街」をアレンジした「楽しいカジノ」。その名の通り、カジノという名の施設で流れるBGMです。ロンドンフィルによるビッグバンドジャズテイストの演奏はなかなか珍しいんじゃないでしょうか。勝ったり負けたり、人々の喜怒哀楽すべてを表したかのような、多彩な表情を持つ演奏です。3分30秒のアタックはゲーム中のカジノで大当たりした際に使われる「ファンファーレ中」。

雰囲気が一変し、3分42秒からはエンドールというお城の中にあるコロシアムで流れる、その名もズバリ「コロシアム」。この中に「コロシアム楽屋」「コロシアムスタンド」の2曲が組み込まれています。繋がった編曲になっているので知らない人には判別できないかと思いますが、いちおう5分00秒のところからが「スタンド」のフレーズです。

5分20秒から「街」に戻り、組曲を締めます。
05 勇者の故郷〜
    〜馬車のマーチ
Homeland〜
〜Wagon Wheels' March
第五章のフィールドテーマ2曲をメドレーで。ゲーム中の第五章は、ひとり旅立った勇者が一章〜四章の主人公たちに巡り会いながら進行し、最終的に全員が集結して共通の目的に向かって歩み始めるというストーリー。その仲間たちが全員揃う前までフィールドで流れるのが、前半の「勇者の故郷」、仲間が全員揃ってからは3分3秒からの「馬車のマーチ」というわけです。同じフィールドテーマでも、ひとり心細げな不安も内包した静かな「勇者の故郷」、仲間が揃いさあ行くぞ!という勇壮さに溢れる「馬車のマーチ」、見事にタッチを切り替えてあるのがわかるでしょう。これにより、今後どのようにゲームを進めていくべきか、その雰囲気さえもプレイヤーに伝えているのです。
06 恐怖の洞窟〜
   呪われし塔
Frightenin' Dungeons
〜Cursed Towers
RPGにおいては様々な目的を設置され、時にはプレイヤーの前に障害となって立ちはだかる「ダンジョン」と呼ばれる場所で使われる楽曲2つを組曲にしたトラック。「ドラクエIV」には深く潜っていく「洞窟」タイプと、ひたすら登っていく「塔」タイプの2種のダンジョンが存在します。冒頭からは洞窟で流れる「恐怖の洞窟」、1分45秒からが塔で流される「呪われし塔」です。

だいたい、オーケストラでは演奏の前に、少なくとも主席を担う演奏者ぐらいはその楽曲がどういった背景を持つ曲なのかということを、作曲者および指揮者に確認します(指揮者は当然わかってる、はず…)。何の曲か、どういったシチュエーションの曲かも知らずに演奏しても、良いものになるわけないですよね?幸い「ドラクエ」においては作曲者と指揮者が同一ですから、その曲の持つ背景から曲に込めた意図などをことこまかに聞き出すことができます。しかもすぎやま氏は英語にも長けています。そうしたコミュニケーションをしっかりととることで、ニュアンスを汲んだ演奏が可能になるのです。N響のメンバーにはドラクエのファンも多いようですが、ロンドンフィルの奏者もすぎやま氏とのコミュニケーションから楽曲の意味を探り演奏に反映させようとする姿勢を、筆者はこのCDから聞き取れるような気がします。
07 エレジー〜
   不思議のほこら
Elegy〜
Mysterious Shrine
悲哀を感じさせる楽曲を括ったトラック。最初の「エレジー」は戦闘でパーティが全滅した際に流される、いわゆるレクイエムですが、ゲーム中では印象的なイベント、土地に流用されることで、その存在価値をおおいに高めている名曲です。たいていのプレイヤーは全滅してしまうと、その憤りと負けん気からすぐさまゲームを再起動し、再挑戦しようとします。結果として「エレジー」はほとんど聴かれることもないのですが、イベントなどで必然的に耳にする機会を与えることで、楽曲のイメージを記憶に留めるのです。

2分49秒からは「ほこら」と呼ばれる施設で流れる「不思議のほこら」。シリーズでは「II」からある施設で、大きな町や村と違って人の気配はあまりありませんが、なぜか心が落ち着く休憩スポットとして、時にはゲームの進行に深く関わる秘密や目的が配置されている場所として、欠かせないものになっています。そこで流れる楽曲は短いものですが、その神秘性と安堵感から常に一定の人気を得ています。決して悲しいシチュエーションで流れる種類の曲ではありませんが、独特の哀愁を帯びたメロディはレクイエム系の楽曲と組み合わされることが多いのです。
08 のどかな熱気球のたび
   〜海図を広げて
Balloon's Flight〜
Sea Breeze
ゲーム中に登場する移動手段は3つ。ひとつを単純な徒歩(馬車)とするなら、あとは船と気球で陸海空が揃います。船ならば海上や河川を自由に移動できますが、岩山に囲まれた場所には進入できません。そこで気球を用いて空から、となるわけです。そんな気球での空の旅を彩るのがトラック冒頭の「のどかな熱気球のたび」。変拍子をふんだんに取り入れ、落ち着かない気流の乱れを表しているかのよう。

4分27秒からは船で水上を移動する際のBG「海図を広げて」。船が初登場した「II」、そして「III」と船の音楽は定番の3拍子(ワルツ)に則ったものだったのですが、本作「IV」で初めてそこから抜け出しました。展開に富む壮大な曲調により、作品で一・二を争う高い人気を獲得しています。
09 謎の城
The Unknown Castle
「謎の」とは言っても恐ろしい場所ではありません。空に浮かぶ神秘の城・天空城に与えられた楽曲です。系統的にはシリーズ伝統の「王宮」に属する楽曲で、やはり弦楽として仕上げられています。ワルツを取り入れており、トラック2「王宮のメヌエット」よりもさらに気品と優雅さを感じさせます。
10 栄光への戦い
Battle for The Glory
(戦闘-生か死か-〜
邪悪なるもの〜
悪の化身)
RPGでは敵との戦闘は避けられません。ある意味ではゲーム上、もっとも重要な要素です。ここではそんな戦闘を盛り上げる楽曲たちを組曲でお届けしています。トラック冒頭は頻繁に行われる通常の戦闘で流れる「戦闘−生か死か−」。ゲーム中で最も頻繁に耳にする楽曲であり、激しいリズム感と音圧で厳しい戦闘を演出しつつも、変拍子を取り入れることで飽きさせない工夫をしています。

1分40秒はシナリオの最後で待ち受ける諸悪の根源、デスピサロとの戦闘で流れる特別な戦闘音楽「邪悪なるもの」。ついに最終決戦という緊張感と敵の強大さをじゅうぶんに表現しています。必死の思いで敵を追い詰めるものの、勇者たちを嘲笑するかのように真の姿を現すデスピサロ。本当の意味での決戦を彩るのが2分49秒からの「悪の化身」です。
11 導かれし者たち -終曲-
The End
デスピサロを打ち倒し、目的を果たした仲間たちはそれぞれの故郷へと帰っていきます。そんなエンディングで流れるのがこの「導かれし者たち」です。このロンドンフィルの演奏は、まさにオーケストラの一体感を感じ取ることのできる迫力の快演になっています。

「導かれし者たち」とはゲームのサブタイトルで、第一章から第五章にかけて、勇者のもとに集う仲間たちを指しています。が、このCDの題名からは外されていますね。何か理由があるのでしょうか?

2分ちょうどのあたりで右側で鳴っている「プチッ」て、何のノイズでしょう?演奏ノイズ(奏者の持つ楽器がたてる音や、イスが動いた音、衣服のこすれなど)にしては空気感が違うような気がしますし。オーケストラ演奏での演奏ノイズはつきものですが、これはなんか後で入ったノイズのような気が。

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