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スーパーファミコン版 すぎやまこういち 交響組曲「ドラゴンクエストII」
ジャケット画像  スーパーファミコンのクオリティでリメイクされた、歴史的名作「ドラゴンクエストI・II」のカップリングソフト。このCDは、「II」のために作られた楽曲を、オーケストラ録音とゲームオリジナル音源で漏らさず収録したものである。ファミコン版の組曲では東京弦楽合奏団によるポップステイストの強調された演奏を、今回はロンドンフィルハーモニック管弦楽団が新たに演奏している。その際にかつてのポップステイストは徹底的に排除されており、その音楽的な味わいの変化は、今なおどちらの演奏が良いか、ファンの間での議論は尽きることがない。

SME
SRCL-2734
1994年 
JASRAC表記:
あり


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ゲーム紹介

 PCエンジン、メガドライブの登場。一世を風靡した家庭用ゲーム機・ファミリーコンピュータにとって、次々と発売される他社の「次世代ハード」とのスペックの差を露呈せざるを得ない事態。どんなに優れたハードであっても、時代とともに過去のものとなってしまうのは必然であろう。また、ゲームを製作するクリエイターも、ファミコンのスペックに対してストレスを抱えるようになっていた。大容量メモリーを搭載したうえでのバンク切り替えや、ソフトそのものへの機能拡張基盤の追加など、表現したい内容に合わせた「裏技」も駆使され尽くした。誰もがそろそろファミコンの限界を悟っていたのである。が、ファミコンにはこのまま過去のものとするにはあまりに惜しい、他機種を圧倒する豊富なソフト資産があった。だからこそ、他社の新ハードを前にしてもファミコンは圧倒的な普及率を維持できたのである。

 とは言え、エンタテインメントは進化していくもの。ファミコンもその時期を迎えていたのだ。しかし、ヘタをすればユーザー離れを引き起こすかもしれないギャンブル。ファミコンのイメージを崩さない新ハードが絶対に必要だったのだ。そこで、任天堂が打ち出した新ハード……その名は「スーパーファミコン」であった。「ファミコン」の名を残し、パワーアップしたことが誰にでもわかるよう「スーパー」の冠を付けた。結果として、各ソフトメーカーはファミコンで育った人気シリーズをスーパーファミコンへと移行していく。任天堂はバクチに勝ったのだ。他社の新ハードを蹴散らして、スーパーファミコンはきわめて早期にひとり勝ち体制を築いていった。ゲームとは、ハードではなくあくまでソフト……今日まで語り継がれる真理は、当時すでに証明されていたと言っても過言ではない(それを現在において具現化しているのがプレイステーションであろう)。

 「ドラクエ」もまた、例外ではない。「ドラクエ」がスーファミに移ることは、誰も疑っていなかった。「最も普及しているハードで出す」、それは当時から現在まで一貫している、エニックスの姿勢である。そこでまず「ドラクエ」は、92年に最新作「V」をリリース。続いて翌年に第一作と「II」をカップリングしたリメイクをリリースしたのだ。「スーファミはこんなにスゴいんだぞ」とユーザーにアピールするには、過去の作品のリメイクはうってつけだったわけである。ゲーム自体のシステムや味わいは不変のまま、グラフィックやサウンドを強化した「ドラクエ」は、驚愕と賞賛をもってユーザーに迎えられた。キャラクターイラストも、当時の鳥山明氏のタッチによって新たに描き起こされた。

 ファミコン時代から継続したスタッフと同様に、サウンドもファミコンから引き続き、すぎやまこういち氏が担当している。ファミコン時代の「ドラゴンクエストII」におけるアレンジCDと言えば、東京弦楽合奏団によるものを思い浮かべるファンも多いはずだ。あの、ギターやサックス、ドラムスがふんだんに使用された、誤解を恐れずに言うならばポップスの要素が強調された、あのアルバムである。今となっては異色とも言われる「ドラクエII」の音楽は、スーパーファミコンでのリリースを機に生まれ変わった。それが、今回紹介するこのCDである。結論から言えば、「ポップス」であった「ドラクエII」の音楽は、新たになんともクラシカルなオーケストラ音楽となった。すぎやまこういち氏はこの時期、ドラクエの音楽をオーケストラによる音楽として統一することを選んだのだ。これこそが、ゲーマーに「ドラクエ音楽=クラシック風味」という不動の認識を与えるきっかけとなっているのである。

 が、過去にすぎやまこういち氏が自ら語ったこととの矛盾も生じる。かつて氏は、「『ドラクエI』を基準として、『II』は新たな世代の話だから音楽はポップス調に、『III』はさらに昔の話だから音楽もよりクラシカルに」と語っていた。後付けの発言かもしれないが、ファンにとっては「すぎやまこういち氏はそこまで考えて作曲していたのか」と唸ったものである。しかし、スーパーファミコンの発売とともにポップステイストが失われた「II」の音楽では、この計算は成り立たない。スーパーファミコン以後、ドラクエの音楽は変化なく、クラシック色に染められていった。どちらが良し悪しということはないが、ファンの間でも「II」の音楽は新・旧の比較についての議論が絶えないのもまた事実である。これを読んでいるあなたは、どちらの方がお好みだろうか。聞き進めていくことにしよう。

 オーケストラ演奏は、おなじみのロンドン・フィルハーモニー管弦楽団が行っている。指揮はもちろんすぎやまこういち氏自身によるものだ。あわせて、ファミコン時代と比べて飛躍的に質の上がったオリジナル・ゲームサウンドトラックも漏らさず収めている。ファミコン時代から聴き続けてきたファンには、比較という意味も含めてオススメしたい一枚である。なお、本作のレビューの一部内容について、ファミコン版のレビューと重複がある点をご理解いただきたい。音質や楽団が変わったとは言え、曲の背景や性質は不変であるからに他ならないが、どちらか一方のみを読む閲覧者への配慮もあり、あえて重複した内容を残したままにしている。



↑SUGIレーベルの移籍に伴い、ジャケットリニューアルで再発されています。ただしゲーム音源は収録されておらず、「I」の交響組曲とカップリングになっています。

01 ドラゴンクエスト・マーチ
DRAGONQUEST MARCH
ここからトラック11までは、すぎやまこういち氏がみずから指揮を執った、ロンドンフィル演奏によるオーケストラバージョンが続きます。まずは言わずと知れた「ドラクエ」シリーズのメイン・テーマ、本作でのタイトルは「ドラゴンクエストマーチ」です。この曲は「序曲のマーチ」「ロトのテーマ」などいろいろな呼ばれ方をしますが、スーパーファミコン版「II」ではファミコン版と同様のタイトルが与えられているわけです。この辺のこだわりも嬉しい配慮ですね。イントロのバージョンもファミコンと同じです(「I」〜「III」で使われている「旧イントロ」)。

また「I」とは異なり、出だしから3連符の伴奏を用いたアレンジになっています。シリーズの序曲ではリピートから3連ベースになるものはいくつかありますが、冒頭から3連符が楽曲を支配しているのはこのスーパーファミコン版(ロンフィル版)「II」と「IV」だけです。

演奏は、ファミコン版サントラでの東京弦楽合奏団のものがストリングスを前面に出したものだったのに対し、今回のロンドンフィルは金管によるメロディが主体となっています。「I」のロンドンフィル版のリピート以降を抜き出したような形ですね。ただし編集によるものではなく、きっちり別演奏されています。ファミコン版同様、「I」にあったような間奏はなく、テーマを2度繰り返す演奏形態をとっています。
02 Love Song 探して
ONLY LONELY BOY
ファミコン版を愛する人々からはとかく批難される、今回の「Love Song 探して」は、ピチカートストリングスによる演奏になりました。後(「IV」以降)の「間奏曲(インテルメッツォ)」をイメージしていただけるとわかりやすいと思います。が、やはり「こんなの『ラブソング探して』じゃないやい!」と声を大にして言いたいのは筆者も同じでして。こういった形で収録されるのであれば、もう無くしてほしかったほどです。

スーパーファミコン化にあたり、アレンジ盤(このCDです)からポップス楽器が排除されたのは既に語り尽くされた感もありますが、もちろんポップスとは使われている楽器のみを指している言葉ではありません。ジャンルそのものの説明は割愛しますが(そもそもポップスの定義は曖昧なものですし)、要は我々の耳に染み付いた、エレキ楽器をふんだんに使っていた、ポップな「Love Song 探して」こそが本命なのです。

もともとは「ゲーム発の歌をヒットさせる」という目論見があったがための「Love Song 探して」であり、かつてはレコードも出ました。結果として商業的には失敗だったわけですが、当時のファミコンブームにはそういった可能性があったのです。スーパーファミコン版にこの曲を入れる意味は、あくまでファンサービスだったのではないでしょうか。かと言って、ロンドンフィルの演奏にあたりポップスアレンジは無理ですし、この曲だけそういったアレンジにするのも、CDとしての統一感を損ないます。よってこういう形になってしまったわけですが、逆に「いらぬファンサービス」になってしまったような気もします。この頃には既に「間奏曲」が存在していたわけで、そっちに差し替えても良かったのでは?
03 パストラール〜カタストロフ
PASTORAL〜
  CATASTROPHE
ファミコン版しかプレイしていないユーザーが、まず「えっ、この曲ナニ?」と驚くのがこのトラックでしょう。スーパーファミコン化にあたって「ドラクエI」はほぼそのままの進化を見せたわけですが、「II」については序章に新たなイベントが追加されました。そのシーンに流れてくるのがこの「パストラール〜カタストロフ」です。

一見平和そうなムーンブルク城では、「パストラール」が流れています。静かに流れるストリングス、憂いを帯びた木管が印象的な穏やかな曲ですね。そして、事態は一転してハーゴンの手下が襲ってくるところから、1分55秒以降にあたる「カタストロフ」になります。ティンパニと金管楽器が鳴り響き、弦楽器が危機感を高めているこの曲、まごうことなきドラクエ音楽であり、新曲でありながら旧作のイントロとしてまったく違和感はありません。

しかしこの曲、純然たる新曲ではありません。「ドラクエ」シリーズ的には新曲ですが、実はかつてすぎやまこういち氏が音楽を担当した「劇場版ガッチャマン」で使われた曲です。「交響組曲ガッチャマン」として、CDもリリースされています。そちらの演奏はNHK交響楽団ですので、ドラクエ音楽ファンには無視できないものではないでしょうか(笑)。ちなみに「ガッチャマン」における曲名は「平和そして危機への予感」。……ってそのまんまじゃん!この転用……言ってみれば「使い回し」の意図は不明ですが、すぎやま氏はしばしば過去の自分の名作を「ドラクエ」に持って来ています(「VI」のエンディング「時の子守唄」もそのひとつ)。たいていは自分の自信作が映像作品の中でろくな使われ方をしなかったことに納得がいかず、権利を返してもらった上で、「この曲はもっと良い場面で再登場させよう」と思ってのことのようです。「ドラクエ」はそれに最も適した場面でしょうし、我々も純粋にドラクエの新曲として楽しむことができますが、「使い回し」に対する賛否も確かに存在しています。

補足として、ゲーム中ではこの曲が流れた後、ムーンブルク城の陥落から傷付いた兵士がひとりローレシア城へ……というイベントに続きますが、そこでは早くも7曲目の「レクイエム」が流れます。炎に包まれていく城、身体を引きずって歩く兵士……そんな場面にバッチリの選曲でした。
04 王城
CHATEAU
おなじみ「A線上のアリア」こと、お城のテーマです。「I」と同様のイメージの、カルテット(弦楽四重奏)によるもの静かな楽曲。「I」の「ラダトーム城」が華やかさのある楽曲だったのに対し、この曲はさらに厳かな、高貴さを感じさせる曲調になっています。より格調高いと言いますか、クラシカルな感じ。

東京弦楽合奏団による演奏がもともと弦楽四重奏だったので、基本的な印象はロンフィル版でも変わりませんが、今回はよりマイルドになったとでも言いましょうか、一発録りの空気感が加わっております。聞き比べてみますと、東京弦楽合奏団版はスピーカーに耳を付けて聴いているような密着感(目の前に楽器があるような感じ)があったのですが、ロンフィル版は「場の残響」が加わったような、上品な質感になっています。また、東京弦楽合奏団の場合は同じ編成のままリピートしていましたが、ロンフィル版ではリピート以降の編成が厚くなります。この迫力と臨場感はロンフィル版固有のものでしょう。

気になるのは、特に出だしで各奏者の「縦の線」が揃っていないこと。打ち込み音楽ではないのですから当然のことなのですが、ちょっと目立つかもしれません。こんなことからドラクエ音楽ファンの中でも「N響派」のような人々からは、「ロンフィルはちゃんと指揮者を見てるのか」と批難されることもあるようです。これを情感のこもった演奏ととるか、それともいい加減ととるかで評価は分かれそうです。
05 街の賑わい
TOWN
ファミコン版のアレンジでは、このうえなくポップステイストになっていた街の音楽。ロンドンフィル版でも冒頭からハイハットが加えられているのがわかるかと思います。マーチングスネアも軽快に、全体的に弾むようにリズミカルなアレンジ。いかにも「賑わい」、多くの人が行き交う街のようすを楽しく表現しています。途中にピチカートソロやのんびりとしたダウンフレーズが組み込まれており、緩急もバッチリ付けられ、ひとことで「街」と言っても様々な表情があることを巧みに表していますね。

アレンジの種類こそ違いますが、東京弦楽合奏団版もロンドンフィル版も、この曲についてはベクトルはまったく同じ方向を向いていると筆者は感じますよ。
06 恐怖の地下洞〜魔の塔
FRIGHT IN DUNGEON
  〜DEVIL'S TOWER
東京弦楽合奏団の演奏ではなかった、新規のイントロが加えられたことでより緊張感の増したダンジョン音楽「恐怖の地下道」。一瞬「新曲?」と思ってしまいました。50秒からはおなじみの弦の刻みが現れます。ちなみにこのイントロはゲーム中では使われていません。

さすがにロンドンフィルによる演奏は金管にボリュームがあり、ブラスによる威圧感はかなりのもの。その効果は1分53秒からの「魔の塔」でさらに顕著です。この「魔の塔」ですが、ところどころに手が加えられており、東京弦楽合奏団版にはなかった弦の駆け上がりなどが、さらなる緊張感を生み出しております。一方で持続するような緊迫を煽る高音の弦はカットされていたり、全体のリズムをリードしていたスネアドラムは控え目なバランスに抑えられていたり、このあたりの比較・解釈の違いもまた面白いですね。録音手法の違いもまたその理由でしょう。

2分54秒に向けてテンポがゆっくりになっていき、塔の頂上に達した(でもまだなにかありそう…)かのようなコーダ部分に繋がります。
07 レクイエム
REQUIEM
戦闘で全滅した時の曲です。ファミコン版同様、この曲を長く聴いたプレイヤーはあまりいないことでしょう。スーパーファミコン版はセーブがバックアップバッテリーになったことで、リセットしてからの再スタートもお手軽になりましたからね。

スーパーファミコン版では、この曲をしっかり聴かせてくれるイベントシーンが追加になっています。それはオープニングでのムーンブルク城陥落のシーン。魔物の襲撃を受けて炎に包まれていく城、そしてその報をローレシア城に伝えに行く、傷付いた兵士……そんな場面にこのうえなくハマっていた選曲でした。

東京弦楽合奏団の演奏と同じく、弦による悲壮感たっぷりのアレンジになっており、曲そのものの印象は不変ですが、お城の曲と同様に録音の雰囲気・空気感といったものはロンドンフィル版が圧倒的に高品位です。ゲーム中の音楽もオーケストラ調になった、スーパーファミコンのアレンジバージョンとしての面目躍如ですね。
08 遥かなる旅路〜広野を行く
  〜果てしなき世界
ENDLESS WORLD
まずは「ひとりでフィールドに立たされた孤独感」でしょうか、弦による切ないイントロが短く付加された「遥かなる旅路」から。しかし主人公はすぐに前に進み始めるのです。トロンボーンが勇ましい勇者の足取りを思い起こさせる一方、周囲を囲むピチカート、ハープ、ベルが孤独感と、あたりに潜む魔物の影を同時に表現しているかのよう。それでも目的地を目指し、足取りは止まらない(1分30秒)……。壮大なストーリーを秘めた楽曲です。そして安堵のひと時……。

2分27秒からは前作のファンにはおなじみ、アレフガルドのテーマ「広野を行く」。主人公たちにとっては初めて訪れる、そしてプレイヤーにとっては懐かしき場所となるアレフガルド。どちらに感情移入するかは人それぞれですが、音楽は後者に寄っているようです。

4分01秒からはフィールドのメインテーマ「果てしなき世界」。頼もしき仲間と共に果てしない世界を巡る旅を彩り、プレイヤーの心に染み付いている名曲です。と、このように楽曲の構成は変わっていませんが、ポップス的な楽器の加えられた東京弦楽合奏団版とロンドンフィル版、その聴き比べがこれほど興味深いトラックもないのではないでしょうか。現代楽器が表現していた要素をどのようにしてオーケストラ楽器に置き換えているのか、聴きこんでみるのも楽しみのひとつです。CDを入れ換えながら、じっくりハマっちゃって下さい。
09 海原を行く
BEYOUND THE WAVES
想像通りのアレンジとなっている海の曲。ズンチャッチャ、ズンチャッチャ。ファミコン版をプレイしていた時でも、多くの人が頭の中ではこのようなワルツを鳴らしていたのではないでしょうか?今のゲーム音楽は音色もますますリアルになってきましたが、ファミコン音源の頃はプレイヤーがそれを補完する必要がありました。想像力というやつですね。つまりプレイヤーの数だけ、いくつもの「海原を行く」があったのです。

スーパーファミコン版の音楽は確かに良い音になりましたし、誰が聞いてもワルツなのですが、同時にプレイヤーの想像力が介入する余地は失われました。良い悪いではないのですが、昔のゲーム音楽ほど多くの人の思い入れを得られているのは、そんなところにもヒントがありそうです。誤解を恐れずに言えば、プレイヤーもアレンジャーとして音楽に参加することができたのがファミコンの音楽なのです。

ロンドンフィルの演奏では、かつてはなかった新たなイントロが付け加えられています。どこかユーモラスな冒頭部は慣れない船に悪戦苦闘、波しぶきにヒョコヒョコと飛び跳ねながらどうにか海へと漕ぎ出す……たちまち広がるまだ見ぬ世界、遠のいていく陸地。そんなストーリーが見えてくるようです。
10 戦い〜死を賭して
DEATHFIGHT
  〜DEAD OR ALIVE
東京弦楽合奏団版ではギター、ベース、ドラムスなどのリズム楽器が幅をきかせていた通常戦闘音楽、「戦い」。ロンドンフィルバージョンではドラムこそ残っていますが、あとはもちろん大編成のフルオーケストラに置き換わっています。テンポがかなりヨタっているのと、相変わらず縦軸が揃っていない点は気になりますが、これもアレンジの違いによる印象の変化に注目したい曲ですね。

1分22秒からはラスボス(シドー)戦専用曲「死を賭して」。ブラス中心の威圧的な編曲で、挑んでゆく主人公たちの前に立ちはだかる者の強さを思い出させます。この戦いはいったいいつになったら終わるんだ……そんな緊張感を表すのが、新規に追加されたブロック(2分11秒〜)。これは東京弦楽合奏団の演奏にはなかったものです。全体にブラス中心の楽曲の中にあって、弦による緊迫したフレーズは雰囲気にメリハリを与えています。

ちなみにラスボス第一段階のハーゴン戦は、ファミコン版・スーパーファミコン版ともに通常の「戦い」が使われています。
11 この道わが旅
MY ROAD MY JOURNEY
言うまでもなくエンディング音楽、「この道わが旅」。どんどん長大化していく最近のエンディングに対し、シンプルなこの曲を推すファンもいまだ多い、ドラクエシリーズを代表する曲です。アニメ「ダイの大冒険」のエンディングに使われていたことも、その人気の要因でしょう。

ピアノなどが用いられ、ポールモーリア的インストルメンタルを連想させた東京弦楽合奏団版の同曲に対して、暖かな弦をメインに始まるロンフィル版は、また新たな解釈を我々に与えてくれます。前者が目的を達成した若い世代に贈る「明日への賛歌」だとすれば、後者は順当なエンディングであり「お疲れさまでした」という感じでしょうか。ロンフィル版の終盤の盛り上がりはより圧倒的な達成感と、ゲームへの郷愁を感じさせてくれることでしょう。個人的にはロンフィル版は「III」もふまえたうえでの「ロト編完結」を感じます。一方で東京弦楽合奏団版は「次回作への繋がり」。即ち、両者には開発段階でまだ「III」がなかったファミコン版と、既にその後だったスーファミ版、といった違いがあるように思いますね。どうでしょう?
12 Love Song 探して(名前入力) ここからは、スーパーファミコン版のゲーム音源を収録。スーファミ版のソフトは「I」とのカップリングであり、「ドラゴンクエストマーチ(序曲)」については共通のものが使われているためか、このCDでは割愛されています(「I」のスーファミ版に収録)。

さて、ゲーム音源は「Love Song 探して」からスタート。後の「間奏曲(インテルメッツォ)」を思わせるピチカートによる演奏は、ここでも健在。でも何度聴いても、やっぱりファミコン版の方が良いなあ〜と思ってしまうのは、筆者がジジイだからでしょうか?
13 パストラール〜カタストロフ オーケストラ版をよく再現した、ゲーム音源版の「パストラール〜カタストロフ」。言うまでもなくオープニングイベントで使われているスーファミ版の新曲で、このイベントともどもファミコン版にはありません。最初は平和なムーンブルク城、そして1分32秒あたりから雲行きが怪しくなり始め、1分44秒あたりから魔物の襲来、となります。

ファミコンと比べるとスーパーファミコンの音色は格段に美しく、楽器音っぽくなったのですが、オーケストラ曲はさすがに難題。しかし、出すべきところと間引くべきところのチョイスが絶妙で、言ってみれば巧みなディフォルメを施されています。ゲーム中でのイベントの演出をするうえでは、まったく問題ないクオリティの仕上がりと言えます。
14 王城 かなり厳選したサンプリングを行っているのか、とても美しい弦の音色で奏でられるゲーム版の「城」の曲。ループポイントの設定もまったく違和感を感じさせません。データの打ち込みとともに音色にも厳しいというすぎやまこういち氏のこだわりを感じます。

ゲーム中では、命からがらムーンブルクから脱出した兵士が、ローレシア城にたどり着くオープニングプロローグで初めて耳にすることになります。そこからダイレクトにゲーム本編に繋がるわけです。このイベントが追加されたことで、主人公が旅に出る動機がさらに強められました。
15 街の賑わい オーケストラバージョンとは異なり、かなりファミコン版アレンジの色が残された「街」の曲。タムを含めたポップス的なドラム、明らかにオーケストラ楽器ではないベース音色など、オーケストラバージョンとの対比が面白いですね。交響組曲はポップスを捨てたのに、ゲームの中では捨て切れなかった、と。それでもフレーズにはファミコン版にはなかった、交響組曲からのフィードバックであるフレーズが組み込まれており、1ループが長くなっています。
16 恐怖の地下洞 弦による刻みがかなりそれっぽくシミュレートされている、「ダンジョン」の音楽です。基本的には弦のみ(まれに金管)で進行しますが、全体にベース音色を鳴らすことで不安感を出しています。今にも何かが出てきそうな、物陰でうごめく魔物たちの息づかいを感じさせ、なんとも言えない緊張を盛り上げます。

ただ、ファミコン音色にあった「たとえようのないオドロオドロしさ」はなくなってしまいましたね。やっぱりあの独特の音色は、他では代用が利きそうにありません。スーファミで初めて「ドラクエ」をプレイした人には何の問題もありませんが、ファミコン世代はその記憶と違和感からは永遠に抜け出せないのでしょう。
17 魔の塔 ファミコン版・オーケストラバージョンとは、リズムの配置が大きく変わった「塔」の曲。マーチングスネアは廃され、そのリズムをハイハットが受け持っています。キックとスネア、タムタムはまったく別の役割を与えられているようです。その上に乗せられた威圧感のあるブラスと緊張感のあるストリングスはオケ版通り。

掲示板にて肌村さんより補完:
ファミコン版「II」ではハーゴンの神殿1Fで「恐怖の地下洞」が流れていましたが、SFC版ではこの「魔の塔」に変更されているとのこと。このように使用曲が微妙に異なっている場所がいくつかあるようです。
18 レクイエム オーケストラバージョンを忠実に(は、言い過ぎですが)再現した、雰囲気たっぷりの全滅時の音楽。弦は管以上に、オーケストラではあらゆる場面で使われる楽器ですから、特にサンプルには気を遣っているようです。この曲は全滅時のほか、オーケストラバージョンの解説でも記している通り、オープニングイベントが初出となっています。

掲示板にて肌村さんより補完:
SFC版「II」のゲーム中では、ムーンブルク城のBGMとしても使用。ファミコン版の同マップでは「恐怖の地下洞」が流れていました。また、SFC版「I」のドムドーラの町に流用されているそうです。ファミコン版では「洞窟」が流れていました。
19 ほこら ゲーム音源にしか存在しない「ほこら」の曲。「レクイエム」あたりとの組曲でオーケストラ化できないもんなんでしょうか?あえてしてないってことは理由があるのでしょうけど……。もっとも短い曲ですしね。それでも、「ほこら」の言葉にできない神聖さを的確に表現した名曲です。ファミコン音源による演奏も素晴らしいものでしたが、こうして弦楽にするとメロディの良さが際立ちます。宗教音楽っぽい雰囲気がなんとも言えません。このテイストは後のシリーズの「教会」の曲に繋がっていくものでしょう。

掲示板にて肌村さんより補完:
このゲーム音源版はそのままSFC版「I」のゲーム中でも、ほこら曲として使用されています。ファミコン版「I」のほこらでは「ラダトーム城」が流れていたとのことです。
20 遥かなる旅路 エレピのような音色でスタートする、初期のフィールドBGM。徐々にストリングスや木管、ハープが加わり、交響組曲版をフィードバックした展開の多さは、CDを聞き込んできたファンにとっては、ついついゲーム中と言えど口ずさんでしまうものではないでしょうか。敵と出会った時の衝撃を立たせるためか、あえてあっさりとしたアンサンブルに仕上げてある点に注目。移動中の曲を薄めにしておくことで、エンカウントした時の戦闘曲とのメリハリを付けているのでしょう。
21 果てしなき世界 爽やかささえ感じさせる、仲間終結以後のフィールドBGM。こちらも「遥かなる旅路」同様に、薄めのあっさりとしたアレンジになっております。ストリングスとエレピ、ベースといった、オーケストラ版と旧ポップス版が混ざり合ったような編成が面白いですね。きっといろいろなオーケストラ楽器の音色を充ててみたのでしょうが、サンプルの良し悪しやスーファミの表現力を考慮し、最終的にこのような判断になったようです(推測ですが)。もしも現行機でリメイクされたら、もっと全体にオーケストラっぽいものになるのではないでしょうか?

ちなみにアレフガルドの曲「広野を行く」はカップリングである「I」と共通のデータが使われているのでしょうから、このCDでは割愛されています。CDも「I」と合わせて初めて完全版になるのですね。

ファミコン版では、パーティが揃った後でも誰かが死んで人数が欠けると、フィールド曲が「遥かなる旅路」に戻るという仕様がありましたが、スーファミ版ではなくなりました。パーティ終結後は「果てしなき世界」固定になっています。
22 海原を行く オーケストラバージョンを可能な限り再現した、スーパーファミコン・フィルハーモニックオーケストラによる「海」移動中の曲です。これでもおそらく5パートほどしか使っていないと思われるのですが、そうは思えないほどゴージャスに感じるのは音色の良さとシミュレートの上手さでしようか?リタルダントも含めて「それっぽく」味付けされています。それとも我々の耳が勝手にオケ変換しているのかな?
23 戦い こちらもかなりポップス版の雰囲気が色濃く残っている、戦闘のBGMです。やはりドラムスによるテンポ感と、ベースで補う低音はないがしろにできないようです。むしろこのようにすることで、移動中のフィールドBGMとの対比を付けているのでしょう。
24 死を賭して シドー戦の戦闘BGMです。オーケストラバージョン同様、ファミコン版の頃にはなかったフレーズが加えられており、1ループが長くなっています。管音色を中心にまとめられていますが、それにしても今になって聴くとけっこうスカスカな構成になっていますね。スーファミ当時はこれで「スゲーリアル!スゲー迫力!」と思っていたのですから。さすがにラスボス戦ということで効果音も激しいものが鳴りまくることになりますから、楽曲はあえて一歩引いているのかも、と好意的に解釈してみることにしましょう。発音数の問題もありますしね。
25 この道わが旅 エンディングということで、ふんだんにパートを使った「この道わが旅」。さすがにオーケストラバージョンのように……とまではいきませんが、スーパーファミコン・フィルハーモニックオーケストラが持てる力量のすべてを注ぎ込んで演奏しています。もちろん、このオーケストラは後のシリーズでさらにレベルアップしていくのですが……。
26 MEコレクション このトラックでは、ゲーム音源からMEを集めてまとめています。どれも「II」をやり込んだ人にとっては、聞けば一瞬で思い出せるものでしょう。宿屋(宿泊時)〜出会い(仲間と出会う)〜福引のあたり〜勝利〜レベル・アップ〜呪〜教会(治療時)〜重要アイテム発見〜やまびこの笛〜ルビスの守り、の順番です。もちろんこういった小品もすぎやまこういち氏の手によるものです。

やっぱり「呪い」はファミコンの方が怖かったな〜。

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