"CHRONO TRIGGER" THE BRINK OF TIME
ジャケット画像  スクウェアのスーパーファミコン用RPG「クロノ・トリガー」において、作曲家としてのスタートを果たした光田康典氏。そのデビュー作がすぐにアレンジ版発売となったのは、ユーザーには驚くべきことだった。単純に考えて、デビュー間もない新人(失礼)が、そんなに簡単にアレンジ版を発表できるものなのか?という疑問がある。が、ゲーム音楽をただの「ゲーム内のBGM」に終わらせないためには、アレンジの発表は重要なことだ。その点、このアルバムの発売を現実のものにした光田氏と制作陣には、いちゲーム音楽ファンとして敬意を表したい。

 クロノのアレンジ版が出る、と聞いてユーザーが想像するものは、ゲーム本編での楽曲的色合いを踏襲した、より密度の濃いオーケストラバージョンだったろう。だが、このアルバムはそんなユーザーの想像よりも一歩も二歩も先に行っていた。今でこそファンならば知っている光田氏の、本来の音楽的趣味が色濃く反映された非常に聴きごたえのある内容になっている。誤解を恐れずに言ってみれば、普段ゲーム音楽しか聴かない人にとっては当時、「聴いたことのない音楽」であったことだろう。圧倒的に「ファンク」なアレンジは、光田氏の民族音楽テイストこそまだ出ていないものの、後の氏の作曲活動を予見しているようで興味深い。

 そんな本作のアレンジは光田氏はもちろん、アレンジャーユニット「GUIDO」によってなされている。GUIDOはHIROSHI HATA、KALTA OHTSUKIの二人からなるユニットで、この二人は後々の「トバルNo.1」「ゼノギアス」に至るまで、光田氏の圧倒的信頼を受けて創作活動に携わっていくことになる。また、余談だがミクシングはロンドンで行なわれている。
ポリスター
PSCN-5024
1995年 
JASRAC表記:
なし
CDをamazonで購入

01 CHRONO TRIGGER 街頭ノイズに始まり、誰かが歩いている。重厚なシンセストリングスが幕開けを予感させるその間も、足音は何かに向けて歩み続ける。その足音が立ち止まり、扉を開けたその時……。この「足音」は我々リスナーか?扉はアルバムの入口か?なにかストーリーめいたものを感じさせる導入に続いて、ループのリズムが鳴り始める。そして、どこかで聞き覚えのあるベースとローズ、ギターによる進行。続いて現れたトランペットは……まごうことなき、「クロノ・トリガー」のメインテーマだ。ゲームを遊んだリスナーなら、まず驚いたこのアレンジ。戸惑いとは裏腹に、なぜかリズムにあわせて揺れてしまう体……。

ファンク・ジャズのテイストを前面に押し出したクロノのメインテーマはゲームのそれとは違うけれど、「FF」のアレンジヴァージョンとはまったく別の方向性、そしてゲーム音楽のこれからの可能性を感じさせるには充分なものだった。文句なしにカッコイイ。バンドスタイルの演奏は、やはり打ち込みでは出せないアジがある。
02 SECRET OF FOREST HATA氏のギターをフィーチャーした、「樹海の神秘」のアレンジ。原曲をあえて意識しないアレンジは、世が世なら「癒し系コンピレーション」に収録されてもおかしくなさそう。スーファミ音源のある種「チープさ」から解放された時、光田氏の生み出した楽曲本来のメロディの良さがいっそう引き立つことは、この曲を聴くだけでわかるはず。ダメな音楽をどうアレンジしたところで良いものにはならないものだ。その点、光田氏は作曲段階から、頭の中ではこんな感じで音が鳴っているのではないかと思えてくる。逆に言えば、ゲーム音源に慣れすぎてしまったリスナーには、こういったアレンジの良さはなかなか理解してもらえないかも。
03 ZEAL PALACE 「ジール宮殿」のアレンジなのだが、それと気付くにはだいぶかかるだろう。わざとわかりにくくしている、わざと原曲から遠ざかろうとしている……そう思えてしかたがないほどに、元の形から変貌している。序盤からヒントは示されているのだけども、ゲームをプレイしたすべてのプレイヤーが「あ、あの曲か?!」となるのは2分40秒を過ぎたあたりからかも。しかし、原曲らしいテイストが出て来てからがあまりに短い……誰もが「ジール宮殿」とわかる頃には、曲は終盤にさしかかっている。

全体に「ディストーション」な曲。ギター以外も、あらゆる音源が「歪んだ」印象を受ける曲だ。ゲームに絡めて考えると、ジールという人がいかに歪んでいたかということだろうか?余談だが、「ディレイのかかったスクラッチ」は個人的には理解不能。ディレイない方がよかったのに。
04 WARLOCK BATTLE 「魔王決戦」のアレンジ。イントロは非常にロックを意識している……と思わせておきながら、ジャジーな雰囲気に。かと思うと再び激しくなったり、一筋縄ではいかないアレンジだ。仮にジャンルを特定しなければならないとなったら、非常に悩むところだ(笑)。特にラッパはアドリブ感が強く、「譜面なんかないだろ?」と思ってしまう。この曲も原曲らしさはほとんど残っていないので、原曲重視に期待しているリスナーにとってはこのうえなく「?」なアレンジであることだろう。
05 CHRONO CORRIDOR 「時の回廊」のアレンジ。もとがシタールのような音色でやっていたパートがギターになっているものの違和感はなし。そんなに展開はせず、淡々と進行していく。ある意味ではこのアルバムの中では、最も原曲のイメージが色濃く残っている曲と言えるかな。「驚かしてやろう」という意図も見えないし。特に前半部(1分30秒あたりまで)は再現度高し。それ以降はリズムこそ打ち込みのループものになるものの、基本的にはおとなしい。ギタープレイを楽しむ曲。
06 UNDERSEA PALACE タイトルまんまに「海底神殿」のアレンジ。イントロからしてもう典型的な「海底」。海洋もののドキュメンタリー映像によく乗りそう(笑)。画が浮かんでくるではないか。悠々と泳ぐ魚の群れ、そして海面から射し込む太陽光。もしくは、ある小さな浜辺の夕景かな。このパートはオリジナルっぽい。

で、1分26秒からが本題。原曲の再現度が非常に高い運命的なピアノはそのままに、ホーンとストリングスがかぶさってくる、アルバム中では珍しいオケなアレンジになっている。このへんはゲームのファンへのサービスだろうか。
07 WORLD REVOLUTION 「世界変革の時」。原曲のイメージを、さらにグレードアップして再演奏してみた、そういうアレンジ。ゲームそのものがリメイクされたら(移植はともかく完全リメイクはないと思うが)、これがそのまま流れてきても違和感はないだろう。個人的には、この曲がアルバム内でもっとも原曲重視だと思う。ディストーションギターと、思いっきりコンプで潰したようなドラムで、とにかくデカい音を聴かせてやろう!という勢いのあるアレンジ。かけまわるシーケンスも原曲通り。

そして、3分06秒から「ラストバトル」へと続く。こちらも原曲を重視したアレンジで、ベースとドラム、シーケンスは特に再現度がほぼそのまま。「ラストバトル」は短くいったん終了し、4分20秒からは軽快な曲が始まる。これはオリジナルだろうか?意図するところがわからないまま、5分34秒から再度「ラストバトル」に戻って終了。うーん、めまぐるしいアレンジだ。このめまぐるしさも含めて原曲っぽい。
08 THE BRINK OF TIME 「時の最果て」のアレンジ。ウッドベースのイントロがあるが、すぐに「時の最果て」とわかるだろう。原曲のハープをギターが担当していて、意外とハマっている。全体にジャズっぽいテイストに仕上がっており、「世界変革の時」の次ということもあってか非常に和まされる。
09 GUARDIA MILLENIAL FAIR 「ガルディア王国千年祭」。ゼノギアスを思い出させる、民族テイストのあるアレンジになっていて、これぞ光田節!という感じ。原曲はにぎやかな感じの「魔女の宅急便」だったが(笑)、アレンジはおとなしめでまた別の雰囲気が出ている。ライナーノーツの表記には民族音楽特有の楽器の表記がないので、それっぽく聞こえる弦楽器はすべてギターで代用しているようだ。篠笛とスティールパンは本物。ちゃんと演奏者の表記がある。

ちなみに、この「MILLENIAL FAIR」の名称は後に光田氏のユニットとして発展していき、「ゼノギアス」のアレンジヴァージョンなどを演奏することになる。「ユニットであってバンドではないので、解散したわけではない(by光田氏)」とのことなので、またMILLENIAL FAIR名義での作品発表もあるかも。期待したい。
10 OUTSKIRTS OF TIME エンディング曲「遥かなる時の彼方へ」のアレンジ。基本的には軽快なギターインストゥルメンタルになっているが、アルバム中で唯一、女声スキャットが入っている。原曲のような爽快感、疾走感はなくなっているが、アルバムを締め括るにはちょうど良い「おやすみ」的なアレンジ。豪華なオケアレンジが聴きたい人には、プレステ版のサントラがオススメ。関戸剛氏によるシンセオケ・アレンジが聴けるのだ。

ゲーマーズエデン トップへ サントラレビュー メニューへ
2002 GAMERS EDEN

わりと容易に手に入るようですね。