GAMERS EDEN ゲーム音楽 ゲームサントラ レビュー ファイナルファンタジー
FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN COMPLETE
REUNION TRACKS
ジャケット画像  2005年9月にリリースされた、「FFVII」の正統な続編にして映像作品である「ADVENT CHILDREN(以下"AC")」。そしてブルーレイディスクという新たなメディアを用い、「AC」は更に進化した。全般に渡る映像の再調整はもちろん、30分にも及ぶという新たなカットも大量に追加され、その名に「COMPLETE」を冠して再び我々の前に姿を現した。

 映像が変われば、音楽も当然変わる。可能なものはエディットを駆使して微調整を行い、大幅に改編の加えられたシーンについては楽曲の再構築が行われた。そういった「COMPLETE」のために再度アレンジが行われた楽曲の一部は既にオンライン配信限定のミニアルバムにはなっていたが、未収録曲が多かったのも事実。ファンの声を受けてか、改変・追加のあった楽曲をすべて収録した完全版CDがついにリリースされた。

スクウェア・エニックス SCEX 10172
JASRAC表記:なし
2009年9月16日発売
作品紹介

 2005年9月14日に発売された「FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN(以下AC)」。ゲーム作品の続編が映像作品であるという前代未聞の試みではあったが、ユーザーからの評価は上々。他のゲーム発CG作品の中でも群を抜く映像、新たな要素を散りばめながらも「FFVII」のファンが見たいものを欠かさない、ツボを心得たストーリーと演出。そして「FFVII」のゲーム中の楽曲をアレンジした劇伴(BGM)もまた、ユーザーの期待を裏切らずさらにその上を行くものであったと言える。

 だが、上を目指すということには終わりがない。「AC」発売後、既に制作スタッフは「さらに上」を見据えて動き出していた。映像的にはまだまだ「やり足りなかった」のだ。状況としては、DVDに換わる新たなメディアとしてブルーレイが世に浸透し始め、次世代ハード「PS3」がそのブルーレイを採用、一方でテレビ放送が「地上デジタル」に移行、家庭にハイビジョンテレビが普及し始め、一般的にも「ハイビジョン」が標準となりつつあった頃。まだまだ上を目指せる、目指さなければならないと「AC」は必然のように進化を始めた。CGは更に精密に描き込まれていくが、「映像が綺麗になりました」だけではウリがないからなのか、はたまた予定はされていたが諸々の制約からカットされたものなのか、合計30分にもなるという新作追加カットも投入。そして「AC」は2009年4月16日、完全版を意味する「COMPLETE」をその名に加え、「FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN COMPLETE(以下ACC)」として再び世に放たれた。

 筆者はフルスペックハイビジョンTVとDVDプレイヤーをHDMI接続した状態で「AC」も鑑賞しているが、同様にTVとPS3をHDMI接続して「ACC」を観ると、もはや比べようもないほどに美麗になった映像にまず驚いた。もちろん追加シーンは単純に新作カットとして楽しめるのだが、既に知ったシーンであっても注意深く見てしまうほどに映像の再調整が行われている。その中には「前にも描かれていたが再生装置のスペック的に再現されていなかった」ものもあるだろうし、「ACC化にあたり加えられたもの」もあるのだろうが、すべてのシーンを再び新鮮な気持ちで観ることができた。「AC」を観たことがなくこれから観るつもりのファンには無論「ACC」を勧めたいが、既に「AC」を観たユーザーにももう一度「ACC」を観てほしい。追加シーンによって人物はさらに深く描かれ、また、既存のシーンのニュアンスが微妙に変化していたりもして飽きずに観られるはずだ。

 変化(進化)しているのは映像だけではない。追加シーンが挟まれれば、当然そこに流れる音楽にも変化が求められる。それは単純に編集による「伸縮」で済む場合もあれば、楽曲そのものを練り直す必要が出てくることもあるだろう。結果的に、音楽についてもかなり広範囲にわたる再調整が行われているのだ。もともとシーンに寄り添い、時にはフレーズを映像に同期させて「AC」の音楽構成は行われていたわけだが、それを更に微妙に調整していく作業はまさに「職人技」だ。DTM時代の音楽制作ならではということもあるが、映像の変化に合わせて音楽がどのように追従していったのか、こちらも好きな人にはかなり興味深い要素。中には付けられている曲が「AC」と異なっているもの、「ACC」で初めて追加されたものもある。

 「ACC」のために新たにアレンジされた楽曲の一部は、ネット配信限定のミニアルバムとして既にリリースされている。やはり追加曲だけではCDアルバムとして発売するには無理があるか、コストに対して売り上げが期待できないのか。そもそも業界全体の傾向としてCDは縮小、配信のみでしかリリースされない作品も多く、「そういう時代だし仕方ないか」と諦観しつつも、「ACC」で初めて使われていながらミニアルバムには収録されていない楽曲もあるため、サントラについては「COMPLETE」とはなっていないところがファンとしては残念なところであった。しかし、そういった中にはスクウェア・エニックスに対して「アルバムをCDとして出してほしい」と要望を送った者もいただろう。そういった声に応えてのものかは知る由もないが、「ACC」での改変・追加曲をすべて収録したCDサントラを発売することが急遽アナウンスされた。そうしてリリースされたのが、今回ここに御紹介する「FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN COMPLETE REUNION TRACKS」である。

 改変・追加楽曲の一部についてはミニアルバムのレビューで解説済みであり、未収録曲についても作品と照らし合わせての検証は既に行っている。それゆえ今回はそれらのレビューをもとにし、一部書き直したものとなることをご了承いただきたい。もちろん、諸兄には「AC」「ACC」を鑑賞済み、そして「AC」サントラも把握されていることを期待し、それを前提とした文章になっていることはいつものことである。



予備知識
雑誌インタビュー記事より抜粋

――曲のアレンジや差し替えも野末さんからリクエストがあったとのことですが。

野末 今回は時間に余裕があったので、映像に合わせて曲もアレンジしてもらいました。

野村 『FFVIIAC』では曲に映像を合わせたのですが、今回は
映像に曲を合わせてもらったので、理想のバトルシーンになりましたね。

筆者注:「AC」において作品前半は、ベネチア映画祭に間に合わせるためなどの事情もあり、映像と音楽が並行して作られていた。そのため既に出来上がっていた音楽を映像に「乗せる」シーンも多々あり、曲が映像と完全にはシンクロしていなかったり、アクションに合わせてフレーズや間を合わせることが難しいことも。ベネチア以後は映像に合わせて曲を作る手法に切り替えられているため、作品後半は絵と同期した音楽演出が多く行われている。「ACC」においては作品前半の楽曲についても見直しがなされ、映像に合わせてフレーズや曲調を変化させているところが多くなっている。

エンディングスタッフロールでは、「COMPOSE & ARRANGEMENT(作曲・編曲)」のクレジットが河盛慶次氏と関戸剛氏の2名になっている。「ACC」における再編曲、追加楽曲の制作はこの二人によって行われたものと思われたが、サントラのリリースによってそのあたりの詳細も判明した。それについては楽曲解説で触れていくことにする。オーケストラものについては外山和彦氏が編曲に参加、追加録音に生を使うという、決してお手軽ではない新録が行われている。

既に配信中のミニアルバムに収録されているのは
・Sign - ACC Long Version
・更に闘う者達 [FFVII ACC Version]
・The Chase of Highway [FFVII ACC Version]
・Advent: One-Winged Angel - ACC Long Version
・On the Way to a Smile [EPISODE DENZEL]
の5曲。うち「On the Way to a Smile [EPISODE DENZEL]」は「ACC」本編で流れる楽曲ではなく、特典映像「On the Way to a Smile EPISODE DENZEL FINAL FANTASY VII」のもの。「AC」特典の「LO FFVII」同様のアニメーション作品で、作曲は「BC」「CC」などコンピレーション作品でおなじみの石元丈晴氏。

レビューの曲名の下に記してある記号は植=植松伸夫、福=福井健一郎、関=関戸剛、河=河盛慶次、浜=浜口史郎、外=外山和彦(敬称略)。作曲者と編曲者を「植/福(作曲:植松伸夫/編曲:福井健一郎)」という具合に表記する。


繰り返しますがネタバレしてます!本編鑑賞前の方はご注意下さい。

01 BEYOND THE WASTELAND
-FFVII ACC VERSION-


植/福

弦アレンジ:外山和彦

E.G:関戸剛
Perc:福井健一郎
タイトルを含めたスタッフクレジットから「ドックン……」という心拍音のようなSEが流れ始め、徐々に「ジョーズ」のような不気味さを持った低音の弦とピアノが加えられていきます。クラウドとカダージュらのファーストコンタクトにおいて貫かれている楽曲です。「AC」では本編で使用しているミックスがサントラとは異なり、ギターが抑えられた弦メインのアレンジになっていましたが、「ACC」バージョンは最初からそれを前提としたアレンジになっており、「AC」サントラ収録のものとはかなり聞こえ方が変わっています。

映像の新規カットはほとんど見られないシーンではあるものの、楽曲の展開は「AC」よりもさらに映像に合わせたものにされています。クラウドが劣勢になるあたりから弦のフレーズに緊張感が漂い始め、かつてはなかった危機的なメロディが現れるのです(2分51秒〜)。クラウドが額を撃たれるところでテンションは極限に達し、カダージュがモンスターを引っ込めるところで一瞬カットアウトするかのように音がピタッと消えます(3分34秒)。その後、持続する弦がうっすらと残り、パーカッションパートが復活。クラウドがバイクを止めるところでパーカッションが完結し(3分46秒)、以後這うような弦が不敵な笑みを浮かべるカダージュ〜立ち去る敵を見送るクラウドまでこぼされ、余韻を作っています。また、「AC」では曲はフェードアウトしていましたが「ACC」では上記のようにシーンに合わせた完結形となったことで、付随音楽として映像に寄り添う感覚がかなり強められています。

「AC」前半はベネチアに間に合わせる都合もあって映像と音楽は同時進行、場合によっては音楽の方が早くできており、後から映像に乗せる手法を採っていたことから、映像との同期が完全ではなかったり、曲の終わり方に違和感のある場面も見受けられました。そのため「ACC」においては前半シーンでの音楽演出について再設計が行われており、「AC」の後半と同様、映像が先にあって音楽を合わせていく方法が採らたのでしょう。序盤も序盤のこのシーンにおけるフレーズの再アレンジ、そして完結のしかたからそれがはっきりと確認できます。
02 SIGN
-ACC LONG VERSION-


植/福&外

Cho:杉並児童合唱団
車椅子のルーファウスが現れるところからすうっと流れ出す、ピアノを主体とした楽曲。シーンそのものが新作カット(北の大空洞におけるタークスらとカダージュたちとの接触)も含めてかなり長くなっているため、既存の「Sign」を伸ばすのではなく、全面的な再構築が行われています。そもそも曲の長さ自体が2倍以上になっているのです。編集して伸ばすだけでは飽きてしまうでしょうね。

曲調は当然のことながらそのまま引き継いでいますが、出だしからストリングスが加えられておりさらに緊張感が足されています。前述の通りシーンがかなり長くなったため、ピアノを主体としてそれを繰り返すだけでは飽きがくる、緊張感を持続できないといった理由によって弦が加えられたのではないでしょうか。一方で、「AC」バージョンと比較するとわかるのですが、ピアノも冒頭からいきなり新たなものに差し換わっています。元々が手弾きのピアノであったため、原曲のデータを再利用(コラージュもしくはリミックス)するのではなく、すべて新録音されているものと思われます。アレンジは福井氏による原曲をベースに、追加された生系(ストリングス)を外山和彦氏がアレンジし付け加えているもよう(エンドロールより)。

不安定さが欲しいとの意図から子供(浜渦正志氏の愛娘、当時4歳)のコーラスが加えられていた「AC」に対し、「ACC」バージョンではそのかわりに杉並児童合唱団がコーラスを担当。かなり印象が変わってますので、ぜひ原曲と比較しその変化を確認してほしいところ。
03 MAIN THEME OF
 FINAL FANTASY VII
-ACC ORCHESTRA
         VERSION-


植/外
冒頭から「FFVIIメインテーマ」のフレーズを聴き取ることができる新曲。木管と弦を主体としてマイナー調にアレンジされているものです。デンゼルがクラウドの携帯で電話をかけるところではっきりと「FFVIIメインテーマ」が奏でられます(40秒)。シーンの途中で曲は一度鳴り止みますが(1分21秒)、携帯にティファが折り返してくるところから復活し、同時にデンゼルの星痕が激しく疼き出すところから恐怖感のある感じに煽り立てます(3分3秒〜)。もちろんこんな不穏な「FFVIIメインテーマ」は既存音源にはなく、「ACC」のための新規録音。外山和彦氏が編曲を行っています。けっこう長い曲でしたがミニアルバムには漏れ、CD盤サントラの発売でめでたく収録。
04 MUSIC EFFECT

河/河
短いピアノのタッチブリッジ。「FFVII」の楽曲「お前は...誰だ」に似た感じですが、直接的なアレンジではなく単に「似た感じ」。完全にMEとしての扱いなのでしょうか、この曲のことを指すものであろうクレジットは「ACC」エンディングにも見当たらなかったのですが、めでたくサントラに収録されました。使用シーンは新作である「モグ子と弟」のところで、作品中におけるタイミングとしては上の3トラックよりも前。とは言えこの曲をサントラのアタマにするわけにはいかなかったのでしょう(笑)。作曲は河盛慶次氏。
05 不安な心
-FFVII ACC VERSION-


植/河
「AC」では「Water」が流れていた教会でのシーンですが、「ACC」では曲そのものが差し替えになっています。「FFVII」でミッドガルやニブルヘイムをはじめ多数のイベントで流れた「不安な心」をストリングスアレンジしたもので、ファンにとっては非常に耳馴染みがあり、かつ印象深い楽曲のはず。音色はゲームのものとよく似た、リアル寄りではないシンセ・ストリングスが使われており、ゲームをやった人をグッと惹き付けるものになっています。この音色チョイスは絶妙と言わざるを得ません。大容量ソフトシンセ全盛のいま、リアルにしようとすればできるのにあえてこの音!曲そのものが短いのが残念ですね。

「AC」における「Water」ではあまりにエアリスのイメージが強すぎ、かつここはまだ「癒し」のシーンではないため、曲がやや明るすぎた印象もありました(もっともそれも"狙い"かもしれませんが)。そのため、よりシーンに、そしてクラウドとティファにマッチするであろう「不安な心」に替えられたのではないでしょうか。「FFVII」をプレイしたファンにとってはより「ACC」とゲームとの関連性が強まり、シーンに深みが増す選曲と言えます。「Water」は解釈をユーザーに委ねる選曲、「不安な心」はストレートな選曲と言えるかもしれません。

どちらが良いとは一概には言えません。「Water」はこの時点ではまだ直接的な表現のされていないエアリスの存在を匂わす伏線でしたし、「不安な心」はこの後のティファとクラウドの会話シーン(「ズルズルズルズル」のあたり)を前提に、二人の関係を語っています。ただ、実際の映像で寄り添うようにして倒れているのはクラウドとティファであるため、「ACC」の選曲は直接的でわかり易くなっていると言えます。もっともその意味付けがわかるのは、「ゲームをやっている」ユーザーだけではあるのですが……。
06 MATERIA
-FFVII ACC VERSION-


植/関&河
忘らるる都アジトにおいて、カダージュたちがマテリアを己の身体に採り込むシーンで流れるもの。もともとが構成曲と言えるような「BGM然」とした曲でしたが、「ACC」バージョンはさらにアンダースコアとも言えるような抑えた構成になっています。低音のシンセとスローでダークなループはそのままに、新たなリズムループが加えられています(16秒〜)。同時に弦か何かの音を加工したかのような、エフェクティヴな音色も足されました。

シーンにおける曲の音量もかなり抑え目で、無理して音楽を付ける必要がないようにも思えました。前後のシーンとの対比の面からあえてここに音楽を充ててタッチを付けているとも言えますが、それほどの「メリハリ」にはなっていないように感じてしまいました。ちなみに「AC」製作途中ではもともとこのシーンに対して音楽は充てられていませんでしたが、野村ディレクターの「ここは音楽があった方がいいよね」との発案により急遽加えられたという経緯があります。
07 BLACK WATER
-FFVII ACC VERSION-


植/関&河&福

E.G:関戸剛
E.B:河盛慶次
CELLO:岩永知樹
「AC」においてはほぼサントラ収録のものと同じ形の楽曲が充てられていましたが、「ACC」においては1分2秒以降のあたりをはじめとする細かな改変が行われており、中でもデンゼルが水を飲むところでビートが弱まりギターが抜け(2分17秒〜)、シンセ中心の不穏なフレーズだけが残るようにされたのが音楽設計上の最大の変更点。ただしもともと楽曲が強く主張していたシーンではないため、印象はそれほど変わっていないとも言えるでしょう。

また、「AC」においてはシーンエンドの満月から次のクラウドがバイクで疾走してくる画にかけてフェードアウトし「こぼして」いましたが、「ACC」では満月の頃には完全に無音になるようなフェードアウト処理がなされています。これによって音楽が「シーンの橋渡し」的なものから、シーンを明確に区切るものへとその役割を変えているのが興味深いところ。筆者は「AC」のレビューにおいて「自信なさげに消えていく曲が多く、意義あるフェードアウトとはなっていないケースが目立つ」と記しましたが、「ACC」に際してのスタッフインタビューでは「ユーザーの声もかなり反映している」とのことで、もしかすると少しは採り入れてもらえたのだろうか、などと邪推するのは少々思い上がりが過ぎるでしょうか?
08 BATTLE IN THE
  FORGOTTEN CITY
-FFVII ACC VERSION-


植/関&河&福

弦アレンジ:外山和彦
忘らるる都における、クリウドとカダージュ一味の戦闘シーンにかなり長いストロークで流されている曲。序盤はほぼ原型のままですが、戦闘が激しさを見せ始めるあたりから楽曲にも厚みが足され(1分8秒)、弦が増強されたのかかなり前に出たほか、新たにマーチングスネアのパラパラパラという細かなリズムが加えられており、シーンに小気味の良いテンポ感をもたらしています。

後半は大きく原曲と変えられており、映像的にタメのあるところで一瞬フッと無音部分が設けられていたり、新規に加えられたコーラスやストリングスの駆け上がりによってさらに緊迫感を煽っていたりと、より映像に合わせたものに作り換えられました。この曲も制作序盤に作られたものと思われ、「Beyond The Wasteland」同様に「ただ乗せただけの音楽」から「映像ありきでさらに密接になるよう」再構築されたのでしょう。改変度で言えば激しく手を加えられた楽曲であり、ミニアルバムに漏れたのが残念ではありましたが、CDで出てくれてよかったです。
09 MAIN THEME OF
 FINAL FANTASY VII
-ACC PIANO VERSION-


植/外
忘らるる都からエッジへと戻ったクラウドとマリンが、セブンスヘヴンの前で会話する新作シーンで流れる「FFVIIメインテーマ」のピアノアレンジ。ティファやエアリス、「闘う者達」の例もあるので「ピアノコレクション」か?と思いきや、今回のための新録音であることがエンドクレジットからわかります。外山和彦氏が編曲を担当。結果的に、デンゼルの新規シーンと合わせて「AC」よりも本編中において「FFVIIメインテーマ」がかなり露出する形となりました。逆に言えば、「音楽を追加したいが何にすれば良いだろう?」と悩んだときにはとりあえずコレにしておけば間違いはない、という無難な選択とも。オリジナル曲をイチから作るよりは答えが出ていますし、ファンも喜ぶでしょうし。
10 更に闘う者達
-FFVII ACC VERSION-


植/関&福
「FFVII」の仲間たちがエッジに集結、バハムートと激しい闘いを繰り広げる見せ場を彩る楽曲です。ここは追加シーンがかなり多くなっているため、必然的に楽曲にも大改造が求められます(単純に曲の長さが2分も伸びているのです)。ただしすべてを新たにアレンジ・録音する方向ではなく、オリジナル(ACバージョン)を極力活かしエディットで対応、つじつま合わせが必要な部分に新規のギター、シンセ、ドラムが追加されており、新アレンジと言うよりはコラージュ(もしくはリミックス)に近いと言えます。以下、タイムに合わせて楽曲を検証しましょう。

仲間が集まり次々と戦いに加わっていく冒頭はオリジナルと変わらず進行。1分41秒でいったんおとなしくなるところは「AC」ではクラウドが駆け付けるシーンですが、「ACC」においてはデンゼルの回想シーンとなっています。その後カメラは再び仲間たちのバトルへスイッチし、追加されたティファの戦い、ピンチに陥るティファ、そこを救うクラウドといったシーンを挟み、楽曲の2分59秒で再度クールダウン。ここがクラウドが「軽くなった気がする。引きずりすぎて、磨り減ったかな」と言う場面です。同じダウンパートを二度使い、シーンに合わせたメリハリを付けているわけですが、やや「使い回し感」が気になりますね。

楽曲が再び激しさを取り戻す3分44秒、オリジナルにはなかった「ビキビキビキビキ」という高音のシンセシーケンスが鳴り響くパートは、追加となったデンゼルの戦い。ステレオで鳴らされているブ厚いアナログシンセのリフはもちろん新規アレンジですが、リズムパートも音色は似せているものの「ACC」における新たなもの。一瞬ブレイクするところはありますが(3分56秒)、特に映像とのシンクロは感じられません。4分26秒でふっとオリジナルに戻るところからが、映像的にはビル上での仲間たちの空中戦。5分09秒や5分26秒の無音は、ヴィンセントの回避やユフィのジャンプに一応合わせられています。いったん極限まで映像に合わせてこうしたギミックを込めて完成された曲を、再度微調整するのには並々ならぬ苦労と工夫が必要だったことでしょう。

オリジナルのサントラを聴き込んだ人にとっては、同じパートが何度か現れる「編集中心のつじつま合わせ」に物足りなさを感じるかもしれません。また、このアルバムのトラックを「AC」サントラと比較したところ、音楽単体のミキシング(マスタリング)の差がかなり気になりました。ミニアルバムの時から気になっていたのですが、それはきちんとしたCDではないからだと、128kのmp3だからなのだと理解していたのですが、そうではないようです。「ACC」本編の音楽の引っ込み具合は楽曲そのものの音圧も無関係ではないなと感じました。これはミックスやマスタリングのみならず、アレンジまでさかのぼった根本的な問題なのでしょうか?この曲で言えばわかりやすいところで、5分10秒からのリズムソロの薄っぺらさはどうしたことかと。「AC」バージョンの方が圧倒的に良いのです。
11 THE CHACE OF HIGHWAY
-FFVII ACC VERSION-


植&河/河

E.G:関戸剛&河盛慶次
E.B:河盛慶次
ハイウェイチェイスも大幅に新作カットが追加されたシーン。チェイス自体が所々伸びているほか、レノたちのヘリ追撃をメインにした新作カットが多くあり、もちろん楽曲もこれに対応する必要があります。出だしはオリジナルと似ていますが、ミキシングの違いに起因するのか、ギターやドラムの聞こえ方がまるで異なっているのがわかるでしょうか。ギターについてはエフェクトを変えたのか、演奏そのものからやり直したのかというぐらいに耳当たりが変わりました。「AC」に比べてややマイルドな音色になっているように感じます。一方でシンセのシーケンスやベースはかなりオリジナルのイメージに近くなっています。

ドラムはさらに音数を増やす方向でプログラミングし直されているようで、しばしば挿入される細かな連打(最初に聴けるのは48秒)がシーンにスピード感を与えています。1分23秒からコーラスが加わり、オリジナルではそれ終わりのエフェクティブなフィルインでシーン変わりとなるところでしたが、何事もなかったかのように以前のフレーズに戻ります(1分35秒)。……かと思うと1分41秒からはオリジナルにはなかったピコピコ音が目立つ新規パートに突入。映像的にはレノたちの乗ったヘリコプターが追撃してくるところ。よく聴くとこの「ピコピコ音」、「FFVII」の「クレイジーモーターサイクル」のイントロを模しているように聞こえなくもない……考えすぎでしょうか?あれもハイウェイでしたし、「わかるかな?」レベルのファンサービスとして入れられていたとしても不思議はありません。すると、2分7秒からのシンセ・ストリングス(映像的にはルードがバズーカを撃ち始めるところ)……やはりコレは直球で「クレイジーモーターサイクル」のフレーズ!「ACC」では「タークスのテーマ」だけでなく、さらにもう一曲採り込んだわけですね。

2分33秒で無音になるところは、映像ではヘリのコクピットにヤズーが飛び込んでくるシーン。そしてスネアのフィルイン以降、操縦桿壊れる、墜落するヘリ、間一髪助かるレノとルード……と続きます。以後カメラはクラウド側に移り、トンネル内のバトルでの流れは「AC」に準じています。5分16秒、トンネルから出るところにはオリジナルにはなかったギターのリフが加えられ、続く「タークスのテーマ」部分も基本は同じながらループビートがさらに汚され、それを「AC」バージョンよりも派手にパンニング(左右に移動)しています。オリジナルのサントラバージョンにはあるものの結局「AC」本編ではカットされた、コーダのドラムドコドコはなくなりました。

この曲の最大のサプライズはやはり「クレイジーモーターサイクル」の挿入ではないでしょうか。正直、最初に「ACC」本編を鑑賞した際に思わず顔が緩んでしまいました。
12 ADVENT:
ONE-WINGED ANGEL
-ACC LONG VERSION-


植/福

オーケストレーション:
浜口史郎&外山和彦

コーラス:G.Y.A

E.G:関戸剛
E.B:河盛慶次
Dr:そうる透
クライマックスのクラウド対セフィロス戦。ここは特に終盤、映像に大幅な追加・改変が行われており、「AC」の段階で完全に画面に合わせて作られた楽曲は当然合うはずもありません。そのため、この曲も「ACC」に合わせてほぼ丸ごと録音し直されていると言っていいでしょう。

まず、エンドクレジットには外山和彦氏と浜口史郎氏が連名でオーケストレーションと記されています(外山氏は指揮も担当)。「AC」でのこの曲は「リユニオントラック」に収録されていたオーケストラ版「片翼の天使」に、新規コーラスとバンドサウンドを足したものでした。つまりその時点での編曲は「浜口氏」となります。今回「ACC」では、元となる「リユニオントラック」で浜口氏が編曲したものをベースに、外山氏が「ACC」用の再アレンジを施したことを意味していると思われます。最初は一部に「AC」のもの、もしくは「リユニオントラック」の音源を採り込んでいるのかとも思いましたが、ミニアルバム収録の楽曲を聴いた限り、オーケストラパートについてはほぼ録り直しているようです。前述の通りにミキシング/マスタリングが「AC」よりも劣っているため厚みがやや不足しており、このレベルであれば最近の大容量ソフトシンセでも再現可能かも……とも思いましたが、それであればわざわざ外部のオーケストレーターを起用はしないでしょうし、「コンダクター」のクレジットもしないはず。ゆえにオケ録音はしているものと思われます。

一方のバンドサウンドですが、こちらはまずドラムが「AC」のものとは完全に差し替わっています。音色はもちろんのこと、演奏自体が別のもの。基本的には「AC」でのドラムスを再現する方向で作られていますが、特にフィルインに変わっているところがだいぶあります。「AC」版のドラムは福井健一郎氏が叩いていましたが、今回はなんと「そうる透」氏が担当。また、前回多くのユーザーから「ドラムがウェットすぎる(リバーブがかかりすぎ)」と指摘されていた点についても、「ACC」バージョンにおいてはずいぶんドライになりました。そしてギターですが、「AC」版を何度も聴き込んだ筆者の頭の中で鳴っている音とほとんど違いは感じられません。ギターについては元のトラックを引っ張ってきているのかもしれません。

以上のことを基本事項として、楽曲を追いかけてみましょう。セフィロスが「久しぶりだな、クラウド」と言って曲が流れ始めるところは「AC」と変わりなし。細部は変わっているものの、楽曲の進行も同じです。最初に大きな改変が見られるのは、3分15秒以降。「AC」バージョンではここからバンドサウンドとコーラスだけになるのですが、「ACC」バージョンではオーケストラ楽器が加わり(3分46秒〜)、コーラスパートとユニゾンの形で金管群を主体としてメロディを奏でています。次にこまかいところだと、4分33秒からのアドリブギターが「AC」では左右にパンニングされていましたが、「ACC」では右側に定位しています。

5分12秒からは「AC」ではCメロのコーラスになりますが、「ACC」バージョンではバンドサウンドが消えAメロ及びBメロをオーケストラのみで奏でるパートになっています(カラオケのような感じ)。映像的には「AC」から最大の変更があった部分で、もともとはクラウドがセフィロスの剣で肩を貫かれていたところが、「ACC」では全身メッタ斬りにされています。セフィロスの脅威を強調すべく、バンドサウンドを取り払いオーケストラだけにしたわけです。そう考えると、この楽曲においてバンドサウンドはクラウド、オーケストラはセフィロスを象徴しているとも考えられるのではないでしょうか。両者がともに鳴り響くところでは二人が互角の戦いを見せ、クラウドが奮闘するところではバンドサウンドが前に出る。セフィロス優勢のシーンではオーケストラのみになる……。そう考えると、3分15秒以降にオケが加えられたのも合点がいきます。確かにクラウドは奮闘し一歩も退かないものの、セフィロスが劣勢なわけではないからです。

6分でいったん楽曲がブレイクする部分は、本編では「クラウドに語りかけるザックス」の部分。ここでは音楽は鳴らされずセリフのみとなり、実際はもっと長い間になっています。そして楽曲が復活するとクラウドがリミットブレイク(もちろんバンドサウンドもここで復活)、セフィロスを撃破します。皆さんにはぜひミニアルバムと「AC」サントラを聴き比べ、楽曲の構成やアレンジの変化を吟味していただきたいです。
13 AERITH'S THEME
-ACC LONG VERSION-


植/外
あちこちで電話が鳴り響き、人々が教会へと集うシーンに充てられた、オーケストラ演奏のエアリスのテーマ。「リユニオントラック」から使用……しているのではなく、外山和彦氏が編曲した新録音です。オーケストラ新規録音についての参加ミュージシャンはサントラブックレットに記載がありますので参照して下さい。
14 夜明け
〜FFVIIのテーマ
  アレンジバージョン〜
これ以降は「ACC」の特典映像であるアニメーション作品「On the Way to a Smile -EPISODE:DENZEL-」の劇伴になります。もともとは野島一成氏による小説だった作品「On the Way to a Smile ファイナルファンタジーVII」の映像化で、楽曲担当は「BC」「CC」などの「FFVII」コンピレーション作品、そして同じアニメーション作品である「LO」も担当した石元丈晴氏。

氏にしては珍しくギターをほとんど使用せず、ピアノを前面に出しシンセで周囲を固めるスタイルでサウンド全体を構成。氏の個性が出ていないとも言えますが、なんでもかんでもロックにしたいわけじゃないよ、というプロの姿勢を感じ取ることができます。作品に必要な音を考えた結果、ロックになることもあればそうでないことももちろんあるわけです。

1曲目は「FFVII メインテーマ」を絶妙にアレンジ。原曲のニュアンスを見事に活かした好アレンジですね。本作に関してはネタバレは避けた方が良いと思いますので使用シーンは割愛しますが、「これもFFVII」と胸を張って言えるぐらいハマってますよ。
15 疑心 曲名そのままの劇伴曲。既存の「FF」楽曲のアレンジではなく、オリジナル曲です。
16 陽だまり 短いですけど、こちらも曲名がすべてを物語るピアノ小曲。
17 赤い空 「陽だまり」のテンポを上げてマイナートーンにしたようなピアノ曲。後半はバイオリン(シンセ)とリズムが加わり、悲劇的な展開に。
18 青い空 こちらも短いピアノバラード。
19 つなぐ心
〜ティファのテーマ
  アレンジバージョン〜
シンセで構成した「ティファのテーマ」のアレンジ。とはいえイントロ部分のみで、さてここからメロ!という前に終わってしまいます。確かに「ティファのテーマ」ですが……。
20 約束 希望に満ちた感じの前向きなインストルメンタル。アコースティックギターやオルガンが使われ、ソフトなロックのテイストを感じる曲になっています。
21 ON THE WAY
      TO A SMILE
-EPISODE DENZEL-
「陽だまり」で幕を開けるエンディング曲。始めは静かにゆったりとピアノだけで語りますが、1分5秒からは雄大なアンセム調に。情感たっぷりに、ピアノとシンセ・ストリングスで作品を締め括ります。明るく前向きな、普通に良い曲です。コーダがちょっと暗くなるのが個人的には残念。明るいまま終わってほしかったところですが、「AC」に繋がる含みを持たせたかったのかも。

小説 On the Way to a Smile ファイナルファンタジーVII

「ACC」において改変があったものの、本CDに収録されなかった楽曲
Encounter
ビルから落下するカダージュとそれを追跡するルーファウスのシーンで流れる短い楽曲。イリーナ、ツォンが出てくる新作カットの分、「AC」よりも映像は若干伸びているものの、編集で伸ばすことで対応しているもよう。もともとが同じフレーズを繰り返すブリッジのような構成曲であるため、編集は容易でしょう。アレンジやミックスの変化はなく、わざわざ再収録もされていません。
Safe And SoundKYOSUKE HIMURO feat.GERARD WAY
改変というよりも新曲。 「AC」ではエンディングにテーマソングとして氷室京介氏の既存曲から「CALLING」を使用していたが、「ACC」にあたって制作サイドから更なるコラボレーションをオファー、今回は新曲が氷室氏サイドより提供された。ただし、氷室氏サイドのリリースを読むと「そのために」作られた曲ではないようだ(オファーが来たのがこの曲のレコーディング中だった、と明記されている)。しかし、それにしては歌詞が作品にピッタリきているように感じる。氷室氏起用の是非は既にファンの間で語り尽された感もあるが、筆者は「AC」のテーマソングとしては「CALLING」よりも「Safe And Sound」の方がメッセージ的にはしっくりくると思う。ただ、前者と後者では曲調がだいぶ異なるため、作品を見終わった後でユーザーに残る「余韻」のようなものはだいぶ変化したように感じる。

せっかくだから今回のCDに収録してほしかった感もあるが、そもそも楽曲自体が配信限定でリリースされているため、仕方ないというところか。


ゲーマーズエデン トップへ サントラレビュー メニューへ
2009 GAMERS EDEN

まさか「FFVII」ゲーム本編をやらずにここを
読んでいる人は……いませんよね?