NTT出版/アメリカーナレコード N09D-012 1992年 JASRAC表示:なし
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このCDシングルは、「FFV」のサントラはもちろんのこと、ソフトそのものも発売前の時期に、楽曲担当の植松伸夫氏がゲームのために製作したものの中から、特に序盤で印象深いものをセレクトしてまとめ、リリースしたものです。言わば、先行シングル。ユーザーたちはこれを聞きながら、おおっ、今回のバトルはこうきたか、おやっ、ハーヴェストってどこで流れるんだろう?と、期待に胸を膨らませて、ゲームの発売を心待ちにしていました。
そのようにして聴いていると、最後の曲に引っかかります。あれ、この曲、聴いたことあるゾ……。過去に「FF」をずっと追いかけてきたユーザーは、きっとそう思ったことでしょう。これぞ、シングルのタイトルにもなっている「+1」。シリーズ原点の「ファイナルファンタジーI」の中で使用された、「マトーヤの洞窟」です。それも、「スーパーファミコンで鳴らすことを想定した」アレンジバージョンになっています。「FFI」は当然ファミコンソフトなのですが、このシングルに収録された「マトーヤの洞窟」は、スーパーファミコンではこうなる!というクオリティの違いをアピールするための比較対象としてはまさにうってつけ。スーパーファミコンって凄いんだぜ、と思わせるには、これ以上のファンサービスは考えられません。
つまり、このシングルは「マトーヤの洞窟」以外はオリジナルサントラと同様の音源なので、ある意味でコレクターズアイテムでしかありません。しかし、この「マトーヤの洞窟」を聴きたいがためだけに、今でもこのシングルを探し求めるファンもいるほどです。が、もちろんこのシングルは廃盤につき入手困難となっています。そこでリリースされたのが12cmミニアルバム「F.F.MIX」。FF関連のレア音源をまとめたこのアルバムに、「マトーヤの洞窟」が再収録されました(「FFIVミニマムアルバム」「FFVマンボdeチョコボ」も全曲収録)。まさにファン必携のアイテムなのですが、残念ながら「F.F.MIX」も現在は廃盤。一部のレコード店にはまだ在庫が残っていることもあるので、見かけたら即ゲットしましょう。
track1.オープニング
ゲームのオープニングで流れるイベント曲で、ちょっと聴いただけでも、音色が「IV」の頃よりも格段にグレードアップしているのがわかるでしょう。しかも4分を超える大作!いったい「V」はどんなオープニングなんだろうと、発売を心待ちにするファンにはこれ以上ない期待と高揚を与えてくれました。展開も多様で、曲を聴いてはいろいろとシーンを想像したものです。こういった楽しみもまた、事前発売グッズならではでしょう。
楽曲のテイストや展開がより「映画的」になったのもこの頃から。場面に合わせてガラリと雰囲気を変える楽曲構成は、イメージを膨らませるのにもってこいでした。メインテーマのモチーフが様々な形で顔を出すことなども、まだ見ぬゲームへの期待を抱かせるにじゅうぶんな要素です。ゲームを紐解くヒントを、このシングルはソフトの発売前から多数内包していたと言えるでしょう。なお、最終トラックの「マトーヤの洞窟」以外はゲーム中のもの(オリジナルサウンドトラック収録のもの)と同じ音源です。
track2.メインテーマ
ゲームを立ち上げると、最初に表示されるデータ選択画面で流れる楽曲です。多くのプレイヤーが最初に聞くことになるこの曲は、「V」のメインテーマ。もちろんこのシングル発売時点ではそのようなことは知らされていないわけで、「FF」をかじった人は「メインテーマ=たぶんフィールドで流れるんだろうな」と予想していたわけです。実際はその予想ははずれてしまうわけですが……(フィールドではメインテーマの別バージョンを使用)。
この曲は「V」で使われた数々の楽曲中でも、かなり人気が高いものです。さすがメインテーマということでしょうか、つい口ずさんでしまう気持ちの良いメロディと、弦、管などがステレオ音場に広がるように配置され、ハープのアルペジオも加えられたとあっちゃあ「FF者」にウケないわけがない、という王道な編成はもちろんのこと、メインテーマらしく印象深いイベントで繰り返し使われたのですから当然ですね。そのイベントの内容がいずれも前向きなものであったから、というのも大きな理由になっているのではないでしょうか。
track3.ハーヴェスト
「FFIV」アレンジバージョンからのフィードバックか、民族音楽的テイストを持った楽曲。スーファミ音源とは思えないできに、これまたゲーム本編への期待感を煽るにはもってこいの楽曲だと言えるでしょう。こんなフィドルっぽい曲、どこで流れるのかな?お祭りイベントでも用意されているのかな?あれやこれやと想像を巡らせるのも、先行シングルを購入したファンだけの特権でした。
こうしてシングルに収録された曲の並びを見てみると、植松氏がどういった順序で曲を作ったかがなんとなくわかる気がしてきますね。だいたい氏は、シナリオを読まなくても作れ、かつ絶対に作る必要がある町の曲やダンジョン、バトル曲から作り始めると言いますし、メインテーマはフィールドで流す以上(少なくともメロディは)比較的初期に作られるでしょう。もっともまだゲームも発売されていないのに、あまり後半の曲を入れても……という判断もあるのでしょうが。
track4.ダンジョン
「IV」の延長線上とも言える、3拍子のダンジョンBG。ハープのアルペジオとストリングスが、やはり何とも言えない冷ややかさを醸し出しています。一定の緊張感を保ちながらも、ただのおどろおどろしい楽曲に留まらず、音楽としての美しさに満ちている点も健在です。おかげで、長時間ダンジョンに入り浸っても苦になりませんね。ゲーム発売前はこの曲を聴きながら、今回はどんなイジワルな仕掛けが待ち構えているのか……と武者震いしたものです。
track5.バトル1
ここまで「プレリュード」も「ファイナルファンタジー」もないため、「これホントにFFの音楽なの?」という疑問を抱く人もいたかもしれません。なじみのある人なら音色やフレーズのそこかしこに顕われている「植松節」で感じ取れますが……。しかし、このバトル曲を聴けば、これらがまごうことなきFF音楽であることがわかるでしょう。なんたって、このイントロですよ。これだけでもう、音楽のみならず「FFはやっぱりFFだ」ということが確信できるというものです。そして「バトル1」というタイトルから、きっとボス専用のバトル曲もたくさんあるんだ、という音楽ファンならではの期待も盛り上がるわけです。
track6.マトーヤの洞窟 (SFC VERSION from FINAL FANTASY)
序文で解説した通り、「ファイナルファンタジーI」の名曲「マトーヤの洞窟」を、スーパーファミコンの音源でリアレンジしたものです。これは植松氏からの「古くからのFFファンに対するサービス」とのこと。もっともこれが何のために作られたものなのかはわかりませんが……。スーファミ移行期に実験的に作られたもの?それとも純粋にこのためだけに作られたもの?どちらにしてもこの一曲が、このシングルのコレクターズアイテム的価値を高めているのは間違いありません。まさしく「このシングルでしか聴けない」レアトラックだったのです。後に「F.F.MIX」に再収録されました。
ファン人気の高い「マトーヤの洞窟」ですが、オリジナルはファミコン音源です。アレンジはいくつか存在しますが、「ゲーム中で鳴ったらこうなるかもよ」というアレンジは、PS版の「FFI」が登場するまではありませんでした。このシングルでのアレンジは冒頭こそファミコンっぽい音色で奏でられているため「おや?」と思うのですが、すぐにブワーッと広がってスーファミクオリティに変貌します(あえてこの構成にしたのはグーだと思います)。メインのメロディはトランペットが受け持ち、力強いベースとドラムスがいかにもスーファミ的。そして周囲をストリングスとハープが埋めるという形で、もし「V」の中でさりげなく流されても違和感はなさそうです。後のPS版と聴き比べるのも面白いでしょう。
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