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すぎやまこういち交響組曲「ドラゴンクエストVI 幻の大地」
ジャケット画像  「ドラクエVIは、プロの作品」。すぎやまこういち氏が発売に際して、各種メディアで繰り返し用いたフレーズである。物書き(シナリオ)のプロ、絵描きのプロ、音楽のプロ、プログラムのプロが集って作り上げた作品こそ、「ドラクエ」という称号を与えられるに相応しいもの。世の流れがどれだけ工業化に傾倒していっても、ドラクエチームは常に家内制手工業。ひとつひとつが手作りだという「VI」を彩る楽曲はどのようなものだったのか。そして、その出来は?「スーファミ音楽決定版」がここに。

ソニーミュージックエンタテインメント
SRCL 2737〜8
1995年
JASRAC表記:
あり

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ゲーム紹介

 1995年12月。年末商戦を見据えたこの好期を狙い澄ましたかのように、「ドラゴンクエストVI」は発売された。当時は知らされていなかったわけだが、「VI」は「IV」「V」から続く「天空編」の締め括りであると同時に、スーパーファミコンでの正統ナンバリングシリーズとしても最後の作品となった。次回作「VII」は、この時すでに存在がおぼろげに見え始めてきていた次世代機=プレイステーションプラットフォームとなるのである。既に「超」を付けても良いぐらいに大作としての地位を不動のものにしていた「ドラゴンクエスト」の、シリーズ最新作という期待と話題性、そして前作「V」から実に3年あまりという間隔からくるユーザーの飢餓感、そういった要素もあって実に320万本の大ヒットを記録した。

 もちろんそれだけ売れた要因には、ゲームとしての完成度が高いレベルのものだった、という事実も忘れることはできない。グラフィックは、スーパーファミコンソフトとしては「V」よりもさらに描き込みの増した美麗なものでありながら、「ドラクエらしさ」を失っていないハイクオリティな「完成形」。本作の完成度がやたらに高かったゆえ、逆に「VII」が「古臭い」「進歩がない」と評されてしまったほど。サウンドもすぎやまこういち氏が自信をもって「スーパーファミコンゲーム音楽の決定版」と豪語するほどの出来。もちろんゲームの核となるシナリオもよく練られている。堀井雄二氏が抱いていた「街や城が近くなりすぎた」という前作までの物理的な悩みを、構造として昇華させた「2つの異なる世界」という大胆なマップ。その2つの世界を行き来することで発生するストーリーは、フィールドマップをただ移動するだけのものから、シナリオに複雑に絡み付く要素へと変えた。システム面もこれまでのシリーズの「おいしいところ」をより進化させ、「III」の職業・転職の概念を再び取り入れ、「V」で好評だった仲間モンスターも投入。さらにおなじみのカジノやベストドレッサーコンテスト、スライム格闘場といったミニゲームも盛り込まれ、それぞれにやり込んだ人へのご褒美を豊富に用意した。

 新たな移動手段を手に入れるととたんに拡がる行動範囲。テーマは「自由な発見の旅」である。攻略本に沿った筋道通りのプレイならば易しく、しかし一歩ルートを外れるととたんに難度の高いマップに迷い込む。ちょっとしたところに設置してある井戸が見つけられなかったりすると、果てしなく世界を巡ることにもなった。とにかく本作の世界は広大で、しかも2つのマップが存在し、さらにそれぞれが微妙に似通っていることから迷子が続出した。総じて昨今のシリーズの中でも総合的な難易度は高めになっていると言えるだろう。

 世界が広大になりイベントの発生も増加すれば、必然的に楽曲の数も増えるもの。しかし、すぎやまこういち氏は必要最低限の楽曲でうまく抑えていると筆者は思う。これは氏の一貫した「曲数が増えると一曲の印象が薄れる」という考えによるものであろうが、それでも過去の作品と比べれば曲数はどうしても多くなっている。そこで氏が用いた手法は、徹底的なモチーフとそのアレンジによる印象付けだ。本作「VI」は、シリーズ全体を見渡して後にも先にも並ぶものがないほど、同一のモチーフでトータルの印象を徹底的に括っている。代表的なのが「悪のモチーフ」である。洞窟、塔などのダンジョンは言うに及ばず、戦闘BGMにもこのモチーフを忍ばせている。逆に主人公サイドは街などのBGMを統一したモチーフから派生させることで、楽曲の増加による印象度の低下を防いでいるばかりか、「主人公VS悪」という図式を音でも明確にしているのだ。

 しかし、それだけでは「スーパーファミコン音楽の決定版」とするのは言い過ぎな感もあるだろう。実は「VI」のサウンド製作にあたっては、いわゆるプログラマー畑の人材ではなく、作曲家として独自に活躍している2人のプロをサウンドデザイナーとして招いている。ドラクエではピアノ譜でおなじみの多和田吏氏と、オウガバトルシリーズや「FFT」、最近では「FFXII」、「グラディウスV」まで幅広いジャンルに精通する崎元仁氏だ。多和田氏はスーファミの「イーハトーヴォ物語」の作曲を担当、それがすぎやま氏の目にとまっての抜擢。崎元氏はすぎやま氏が監修として関わった「マスター・オブ・モンスターズ」のサウンドプログラムを担当、その関係で声をかけられての参加である。この起用は純粋なすぎやま氏の欲求からくるもので、単なるプログラマーだと氏の「音楽的要求」が理解されないことが多いため、しっかり音楽的感性を持った人と組み、クオリティを上げようというのが狙い。

 音色は例によってすぎやま氏がつきっきりで注文を付けつつ、シンセサイザーや音色ROMからセレクト・加工を繰り返し、多和田氏を中心にして作られている。崎元氏は効果音をメインで担当しつつ、多和田氏が作成したオケ音色のデータにドラムを足したりと全般に渡って活躍した。また、すぎやま氏はスーファミの発音数である8トラックをすべて使うことはせず、最大でも5トラック程度で楽曲をまとめあげ、残った3トラックをエフェクト(リバーブ、ディレイなど)にまわすよう計算したという。結果として楽曲の厚みだけではないプラスアルファのリッチさを出すことに成功している。

 プロの作曲家をサウンドプログラマーとして起用したことこそ贅沢の極みであるが、そうしてできあがるハイレベルな楽曲を鳴らすには、デフォルトの内蔵音源では明らかに力不足。そこでメインプログラマーの山名学氏が、「VI」専用のサウンドドライバー(音源をスーファミで鳴るように変換するプログラム)を作成、職人たちが作り出す楽曲を見事に鳴らしてみせた。ここまですれば音色の容量だけでもそうとうなものになりそうなものだが、大作と呼ばれるゲームがサウンドの大容量を誇らしげに掲げるなか、本作はなんと2メガ弱しか使用していないのだとか(ちなみに「VI」は32メガのROMである)。音楽がゲームを重くしてはいけない、しかし妥協もしない。すぎやま氏のポリシーは本作でも貫かれているのだ。

 と、いうところでこのCD。これまでのシリーズと同じくオーケストラによる「交響組曲」だが、それだけではない。シリーズで初めて単独ゲーム音源も収録し、オーケストラバージョンとの2枚組となった、「VI」の純然たるサウンドトラックである。これまでの交響組曲がどうしても「アレンジ盤」という位置付けから脱せなかったのに対し、本CDはまごうことなきオリジナルサントラ盤+アレンジ盤である。オーケストラバージョンの演奏は、今ではおなじみとなったロンドンフィルハーモニー管弦楽団によるもの。「V」の後にリリースされた、スーパーファミコン版「I&II」の交響組曲から、すぎやま氏は楽団をロンドンフィルに絞ったのだ。ゆえに、本作からNHK交響楽団の演奏・録音はされていない。これまでいくつかの楽団によって演奏されてきたドラクエ音楽だが、「VI」についてはロンフィルオンリー、言わば比較対象がない状態であった。しかし東京都交響楽団盤の発売がアナウンスされており、ようやく複数の楽団の「聞き比べ」が、「VI」の楽曲でも可能になりそうだ。そちらも楽しみである。

一度はゲームもプレイしておきたいですね。
原作・SFC版 待望のDSリメイク


DISC 1〜オーケストラ・ヴァージョン〜
01 序曲のマーチ
OVERTURE
まずは「ドラクエ」シリーズおなじみの「序曲のマーチ」。ちなみに天空編では「IV」が「序曲」、「V」と「VI」では「序曲のマーチ」という表記になっています。「IV」からはイントロのファンファーレが変わり、「V」からは対旋律が加わったりと新作ごとにマイナーチェンジしてきた「序曲」ですが、「VI」では特に目新しい追加要素はありません。また、これまで偶数作品(「II」・「IV」)ではいわゆる「3連ベース」のアレンジがなされてきましたが、同じく偶数作品である今回の「VI」は3連ベースではありません。演奏のうえでは主題のリピートが省かれ、1分23秒と短くまとまっています。ゲーム音源バージョンと同じ構成になっているわけですね。

時期的にはロンフィルが初めて「ドラクエ」の楽曲を演奏したのは90年の「IV」ポニーキャニオン盤で、続いて94年にスーファミ版「I&II」がリリースされています。「VI」の交響組曲はそろそろロンフィルも「ドラクエ」の楽曲に馴染んできた頃の演奏で、すぎやま氏とのコミュニケーションも円滑に進んだもよう。N響盤が存在せず比較対象がないものの、過去のロンフィル盤と比べても完成度の高い演奏になっていると思います。
02 王宮にて
AT THE PALACE
ゲーム中では主にお城で流れる王宮BGMがこちら。これまで「ドラクエの城」といったら弦楽のイメージだったのですが、「V」ではそのイメージを保ちつつもトランペットを主役にもってきていました。以後のシリーズはそういった形でいくのかな、という予想もありましたが、「VI」ではシンプルな弦楽に戻っているのは聴いていただければわかりますね。

「ドラクエ」のお城における「弦楽」は荘厳、優雅といった曲調が優先されてきたと思うのですが、本作では作品全体に流れる悲しげな雰囲気のせいか、お城の音楽もどことなく憂いがあります。そのため、事件や悲しいイベントが起こりがちな本作のお城において、どんな場面に流れていても違和感がありません。もしこれが単に優雅なだけの楽曲だったら、イベントのたびに曲を変えなければならなくなってしまうでしょう。もちろん従来の優雅さも忘れられていないので、通常のBGMとしてもまったく邪魔をすることがありません。このように相反する要素を1曲に内包させているあたり、「うまいなあ」と思わされてしまいます。

「ドラクエVI」はゲーム音源のクオリティも非常に高いものでしたが、ロンフィルによるオーケストラバージョンはそれを補完して余りある演奏。ゲームでの冒険の日々が思い出される郷愁感もあり、この音でゲームをしていたかのような錯覚を覚えます。粛々としたストリングスは一糸乱れぬまとまりと空間的な拡がりを持っており、ロンフィル盤でよく指摘される「不揃いの縦の線」はまったくありません。とても上品な演奏になっています。
03 木漏れ日の中で〜
ハッピーハミング〜
ぬくもりの里に〜
フォークダンス

IN THE TOWN〜
HAPPY HUMMING〜
INVITING VILLAGE〜
FOLK DANCE
このトラックは街関係の組曲ですね。最初の「木漏れ日の中で」は、ゲーム中ではほとんどの街で耳にする「VI」で最も耳馴染みのある曲であるほか、そのメロディは後に続く「ハッピーハミング」や「フォークダンス」の基礎として印象のあるものになっています。跳ね回るようなピッコロのメロディがなんとも楽しげで、活き活きと動き回る人々の生活のようすを感じさせます。そこかしこで子供が駆け回っているイメージ。世界は魔王の影に脅かされているのですが、それでも人は自分の人生を精一杯生きなければなりません。「辛いこともあるけど、それでも一生懸命生きなければならないんだよ」というメッセージを、「ドラクエVI」というゲームから感じるのは筆者だけでしょうか?どんな事情があっても、困難な状況があっても、自分の人生を諦めてはいけない・・・諦めてしまった人の姿が、本作の「はざまの世界」では描かれているのです。全体的に暗めのトーンに仕上がっている本作において街の曲がこんなにも楽しげなのは、そんなメッセージが込められているからではないでしょうか?

1分18秒からは主にカジノで流れる「ハッピーハミング」。「ドラクエ」では「カジノの曲は街の曲のアレンジである」という伝統がありますが、もちろんこの曲も「木漏れ日の中で」をビックバンドジャズ風にアレンジしたものです。ゲーム音源ではボーカリーズが歌う独特のアレンジでしたが、オーケストラバージョンはお聴きの通り正統派なビッグバンドジャズになっています。こちらでは金管群がユーモラスに「歌って」おり、そこから感じる楽しさ、人々の喧騒は共通。およそクラシックらしからぬロンドンフィルの演奏を堪能できます。

2分57秒からは「ぬくもりの里に」。このトラックで唯一「木漏れ日アレンジ」ではない曲で、ゲームでは小さな建物などで使われていた、シリーズでいうところの「ほこら」的扱いをされているものです。この曲がここに組み込まれていることで「街の変奏なのでは?」と言う人もいるようですが、これを変奏と言うのは無理がありますね。まったく別の曲だと考えてよいのではないでしょうか。オーケストラバージョンは木管を基調とした素朴なアレンジで、リピートは清楚なストリングスによる心安らぐ演奏がされています。街組曲に組み込んでも違和感のない仕上がり。

5分15秒からは再び「木漏れ日の中で」を3拍子のアレンジにした「フォークダンス」。ライフコッドの村祭りでの踊りなどで使われている曲です。「VI」の世界ではフォークダンスがブームなのか、レイドックの城でも宴のダンスシーンは必ず「フォークダンス」が使われています。「V」のような優雅なワルツがあってもよかったような気がしますね。原曲(ゲーム音源)は「木漏れ日の中で」と大きく差別化を図った独特の音源によるものでしたが、オーケストラバージョンは木管(クラリネット)+弦の編成で、「木漏れ日の中で・ワルツバージョン」といった感じ。フォークダンスっぽくはなくなっていますが、イメージは壊していません。

6分1秒からはもう一度「木漏れ日の中で」でシメ。さて、この組曲の特徴はなんと言っても、各曲の繋ぎ目に「木漏れ日の中で」の一部を挟み込むことで違和感を解消していること。その中で微妙に転調を施し、調の異なる曲どうしをスムーズに繋げているのです。それぞれが「木漏れ日の中で」のアレンジであるゆえの統一感も生まれ、組曲として非常に秀逸なものになっています。
04 さすらいのテーマ〜
静寂に漂う〜
もう一つの世界

THROUGH THE FIELDS〜
WANDERING THROUGH THE SILENCE〜
ANOTHER WORLD
フィールドBG組曲です。「さすらいのテーマ」は下の世界(現実世界)のフィールドで流れるもので、フィールドBGMの基礎となっているものです。管が「パッ・パッ・パッ・パッ」と淡々としたリズムの役割を担い、そのうえでブラス群が高らかにメロディを歌い上げます。ストリングスはこれを追いかける形で対旋律を奏でます。これによって単に淡々とした楽曲ではなくなり、次へ次へと移り変わっていくような「流れ」が生まれています。次の目的地を目指してひたすら前へ歩み続けるパーティに寄り添うかのような演奏です。

1分48秒からは海底世界のBG「静寂に漂う」。「さすらいのテーマ」を少ない音数でアレンジした曲で、音の隙間が海の底の静寂を表現しています。ピチカートストリングスがまるで泡音のよう。メインを務めるのがファゴットというのも面白いですね。右側で鳴っているミュートトランペットによる「ホワン」という音も味付けとして楽しい雰囲気を生み出しています。どことなくコミカルに聞こえるのはコイツのせいです(笑)。

3分17秒からは上の世界(夢の世界)におけるフィールド音楽「もう一つの世界」。基本的には「さすらいのテーマ」をゆっくりにしたアレンジバージョンですね。さきほど「さすらいのテーマ」をフィールドBGMの基礎と書きましたが、実はゲーム内では「もう一つの世界」の方を先に耳にすることになります。オーケストラバージョンでは「さすらいのテーマ」よりも起伏のある壮大なアレンジがなされており、組曲としてリプライズ的な役割も持たされているようです。
05 エーゲ海に船出して
OCEAN WAVES
船で海上を航行中に流れる「エーゲ海に船出して」。「エーゲ海にふなでして」ですよ。「ふねだして」じゃありません。たまに勘違いしてる人がいるので、念のため。一部では「ドラクエ」の船BGM中いちばんの名曲、と絶賛されているこの曲、「IV」「V」と続いてきた壮大な海上BGの完成形とも言えるもので、スーパーファミコンによって可能となった展開の豊かさと表現力は、ゲーム音源の段階で既に組曲としての骨格を成していました。

ゲーム音源がかようにクオリティの高いものになってくると、ゲームと交響組曲の関係も以前とは異なるものになってきます。ファミコン時代はゲーム音源の表現力が低かったため、「ゲーム音源と交響組曲はあくまで別のもの」と捉えられており、ユーザーはゲーム音源からそれぞれの交響組曲を思い描き、想像力を膨らませていました。それに対してすぎやまこういち氏からひとつの回答として提示されたのがレコードだったのです。それがスーパーファミコンになると、音色とパートの基本的な骨組みはゲーム音源で既に示されていますから、より完成形に近い組曲を想像できるようになりました。即ち交響組曲はファミコン時代の「ゲーム音源とは別もの」という存在から、「ゲーム音源の豪華補完バージョン」という位置付けに変化したのです。

もともと展開に富んだ楽曲だったのですが、オーケストラバージョンはたっぷりと感情を盛り込んだ起伏のある演奏になっており、決して二度とは同じ表情を見せない海の様子を描ききっています。時におだやかに、時に荒れ狂う波を感じさせる構成は、主人公(そしてプレイヤー)の人生をも投影しているかのようで、聴く者をなんともたまらない気持ちにさせるでしょう。単に垂れ流されるだけのいわゆるBGMではなく、「考える音楽」だと言っても過言ではありません。弦、管、ハープが渾然一体となってリスナーに問いかけてくる、そんな曲です。「壮大」「雄大」などというお決まりの誉め言葉ではとても語りきれません。ロンフィルの演奏も、その問いかけにひとつの解答を示さんと言わんばかりの快演。
06 空飛ぶベッド
FLYING BED
「IV」は気球、「V」で魔法のじゅうたんときて、あ、「VI」もじゅうたんはありますね。しかし本作の隠し玉はなんと完全に予想外の「空飛ぶベッド」。夢の世界の船はひょうたん島ですし、だんだんキテレツなことになってきてますね、乗り物。ということで、空飛ぶベッドでスイスイと飛行中している時に流れるのがこの曲です。魔法のじゅうたんに乗る際に流れる曲としても流用されています。

「ドラクエ」では珍しく、木琴(シロフォン)が主役を張る曲です。もちろんゲーム音源もそういうアレンジで、交響組曲になっても楽曲のイメージ自体はほとんど変わっていません。軽快に跳ねるような木琴のトレモロは、敵にエンカウントせずスイスイと移動する快適さをプレイヤーに感じさせてくれます。これについてはすぎやま氏の言葉を借りるのが最もわかりやすいでしょう。「敵と会わずにずっと流れているからねえ、快適じゃなきゃ」。堀井氏もお気に入りのようです。
07 ペガサス〜
精霊の冠

PEGASUS〜
SAINT'S WREATH
哀愁系トラック。「ペガサス」はゲーム終盤、天馬のたづな入手後に乗ることができるようになる「空飛ぶファルシオン」に乗っている間、流れる楽曲になります。どこにでも行くことができる最終的な飛行手段を手に入れれば、普通のゲームなら明るく爽快な楽曲をあてそうなところをそうしないのは「ドラクエ」ゆえ。ファルシオンが飛べるようになる頃にはゲームも終盤、メインの舞台は人間の「負の部分」をいやというほど見せられる「はざまの世界」となっているわけで、むしろこういった憂いを帯びた楽曲の方がハマるのです。

楽曲を支配するのは憂いを帯びた木管のメロディ。すぎゆま氏は聞く者の心に訴えかけるような木管の使い方が抜群に上手く、特にオーボエはドラクエ音楽では定番と言っていいほど。この曲の主役は間違いなくオーボエとフルートでしょう。主題のリピートでのストリングスによる壮大な歌い上げも定番と言えば定番ですが、木管による伏線があってこそ、より聞く者の心に響き渡ってくるのです。

3分10秒からの「精霊の冠」はイベントBGM。ゲーム中では曲名通り「精霊の儀式」のイベントで使われているもの。こちらもオーボエが主役になっているため、「ペガサス」からの繋がりが実に自然です。まるでひとつの楽曲であるかのよう。イベント楽曲として作られた曲だけに遠慮がなく、オーケストラバージョンも雰囲気重視で奏でられております。静かな曲なのにすべての音が主張に満ちており、装飾のないアレンジです。ロンフィルの演奏もその意図を理解してか、一音一音にしっかりと感情を込めた聴き応えのある演奏となっています。
08 悪のモチーフ〜
ムドーの城〜
戦慄のとき

EVIL WORLD〜
SATAN'S CASTLE〜
FRIGHTENING DUNGEON
本作の楽曲が大きなモチーフによって貫かれているのは語り尽くされた感もありますが、気付かない人は気付かない仕掛けでもあります。そういう人にはこのトラックを聴き込んでいただきたい!冒頭の「悪のモチーフ」の「ターッタラター」。この音形を頭に叩き込んで、「ムドーの城」〜「戦慄のとき」を聴いてみましょう。どうです?そこかしこに「悪のモチーフ」が入っているでしょう?さらに次のトラック9や、トラック12〜14にも顕著ですね?つまり、悪を象徴するモチーフを、ダンジョンBGMや戦闘BGMにテーマ的に盛り込むことで、強大な悪の存在を印象付けるとともに楽曲の印象を高める効果にもなっているんです。

威圧的な金管が奏でる「悪のモチーフ」に続き、9秒からが「ムドーの城」。ゲーム音源では印象的なボーカリーズが用いられていましたが、オーケストラバージョンはまさに「ドラクエ」的な「城」をイメージさせる弦楽アレンジになっています。悪の巣窟でありつつも荘厳さを感じさせるお城のイメージはもちろん「悪のモチーフ」を積み重ねて奏でられるもので、徐々に音量が上がってくる演奏が迫りくるような緊迫感を醸し出しています。

1分24秒からは「戦慄のとき」。ゲーム音源ではエコーやディレイなどの効果をふんだんに使っており、どのようにしてオーケストラ化するか非常に興味深いものでした。使われていた音色もボーカリーズ、エレピなどおよそオーケストラとはかけ離れていたものだったのですから、こりゃあ組曲には入らないだろうと思っていたのですが、甘かった。金管のタッチはそのままに、木管・ハープ・鉄琴・弦をフルに活用して原曲のニュアンスを完璧に再現しております。まいりました!というほかありません。しかもコンサートでも演奏されるのです。

コンサートと言えば、この曲の演奏で面白いのは、エコーの表現を担当するホルンをステージ袖に隠して演奏していたこと。あくまで楽音ではなく自然の現象であるエコーを担う楽器はその姿を見せず、「この音はどこから聞こえてくるんだ?」という、まさに天然のエコーのような存在感を作り出しているのです。このアイディアは誰が考えたんでしょう、グッドです。

3分1秒からは「ムドーの城」を繰り返して組曲を締めます。
09 勇気ある戦い〜
敢然と立ち向かう
BRAVE FIGHT
戦闘系組曲その1。まずは通常のザコ戦BG「勇気ある戦い」から。ゲーム音源では崎元氏によるものと思われる攻撃的なドラムが入っていましたが、オーケストラバージョンではあくまでオーケストラ然としたスネアのみに留められています。こうしたゲーム音源とオーケストラバージョンの違いは単純に興味深いだけでなく、ゲーム音源においてすぎやま氏はオーケストラのシミュレートを最優先にしているわけではない、ということを証明しています。ゲームの音楽として必要ならばポップスの楽器も使う、ということです。

ゲーム音源ではベースの刻みをイントロとしていましたが、オーケストラバージョンは新たな駆け下り系のイントロが加えられ、過去の「ドラクエ」シリーズの戦闘音楽に似た感じになっています。ちょっと懐かしいですね。管弦を駆使してベースに相当するパートが再現され、音色こそ異なるものの違和感のないリズム隊を再現。ティンパニも効果的に用いられ、ゲーム音源での独特なドラム(キック、タム)の役目を担っています。金管がバリバリと鳴り響く「悪のモチーフ」、ストリングスが危機感を高める主旋律も特に新しいことはせず、ゲームバージョンをなぞっています。一体感のあるロンフィルの演奏もまた、ゲーム音源と違和感のない「粒の揃った演奏」の再現に貢献しているのは言うまでもありません。そういったアレンジ、演奏すべてが一体となった結果、とても高いレベルでの原曲の再現が行われているわけですが、それはなにもオーケストラだけの功績ではありません。もともとのゲーム音源のクオリティが高かったからこそ、オケ化した時の再現性がより高まっているのです。

3分36秒からはムドー戦専用音楽「敢然と立ち向かう」。2分45秒からの前奏で既に主題を匂わせているのが効果的。主人公視点の曲であくまで勇ましく、そして対比するかのように挿入される「悪のモチーフ」は相対するムドーを感じさせます。ムドー戦でしか流れないため、楽曲の評価は二分されています。一方は「ムドー戦限定という希少さが曲の印象を強めている」、もう一方は「ムドー戦でしか流れないのでまったく印象に残っていない」というもの。ムドー戦はどちらかというとゲーム序盤であり、その後も「悪のモチーフ」を使った曲が頻出するため、この曲の存在が忘れられてしまうんですね。まあ確かにどちらも理解できる意見。筆者としては「ムドーの城へ向かう」と合わせて一本、という感じですね。言われてみればゲームの中で最も印象が薄い曲です。せめてゲーム終盤にもう一度ぐらい出番があれば……。
10 哀しみのとき
MELANCHOLY
シリーズには必ず「レクイエム系」と呼ばれる楽曲があります。主人公パーティが戦闘で全滅した際に流されるものですが、「ドラクエ」では全滅しても即ゲームオーバーではなく、所持金は半分にされるもののすぐに再開できることから、多くのプレイヤーはほとんどレクイエムを聴くことがありません。しかし、レクイエムとは言えすぎやま氏にとってはそれも一生懸命に作った曲。やっぱりしっかり聴いてほしい・・・・・・氏はなんとかならないかと思案したうえ、「IV」からはレクイエム系楽曲をイベント音楽としても積極的に流用していくことにしたのです。その効果は絶大で、「IV」の「エレジー」、「V」の「高貴なるレクイエム」は全滅曲というよりも、イベントBGMとして多くのユーザーに認知され、人気曲になりました。

本作でも同様に全滅時に流れる「哀しみのとき」ですが、やはり全滅時の曲というより、悲しいイベントでの曲、という印象の方が強くなっています。しかも今回、ゲーム音源では「哀しみのとき」だけで3バージョンを用意し、シチュエーションによって微妙な使い分けをしているのです。オーケストラバージョンはバイオリンソロを中心とした、ゲーム中におけるストリングスバージョンに近いテイストで編曲されています。とは言えこの切なすぎるバイオリンの感情の込め方は、決してゲーム音源では出せない雰囲気ですね。「哀しみ」という点について徹底的に突き詰めた感のある演奏です。イントロの「エレジー」のような部分は原曲(ゲーム音源)にはなく、オーケストラバージョンで追加されたものです。

いろいろな楽器が入れ替わりながら主題を繰り返していく後半部分は、ゲーム音源の収録に漏れた「木管バージョン」の補完でしょうか。
11 奇蹟のオカリナ〜
神に祈りを

OCARINA〜
THE SAINT
奇蹟のオカリナ」は、ムドーの城に向かう際にミレーユが吹くオカリナのメロディ。ここではピッコロによって演奏されています。「悪のモチーフ」に対して「神のモチーフ」といったところでしょうか。

14秒からはそのモチーフを拡大しひとつの楽曲にした「神に祈りを」。ゲーム中では教会で流れるBGMで、原曲はオルガンバージョンとストリングスバージョンの2種がありました。ロンフィルによるオーケストラバージョンはそのいずれとも雰囲気を異にするもので、木管群を中心に構成されています。徐々に重なっていくオルガンのパートを再現するかのように、オーボエ、フルート、クラリネット、ファゴットが次々に現れます。1分1秒からの再現は弦で構成され、ゲームにおける「ストリングスバージョン」に近いものになっております。ゲーム音源のグレードアップバージョンとして楽しむのも可ですし、逆に「ゲーム音源もよくできているなー」との再認識もできるでしょう。
12 迷いの塔
DEVIL'S TOWER
洞窟曲よりも塔の曲が先にくるというのは「ドラクエ」の組曲において珍しい構成ですね。「悪のモチーフ」をひたすら繰り返し展開していく、塔タイプのダンジョンで使われている曲がこちら。ゲーム音源では最大の特徴とも言えるドラムセットがあったのですが、オーケストラバージョンではもちろん省かれており、違った曲というより別アレンジ、という雰囲気があります。ドラムの有無でずいぶん印象が変わるものです。

ゲーム音源はエレピをメインにしたアレンジでしたが、ここでは木管、特にファゴットを中心にした珍しいアレンジがなされております。木管のみの編成も珍しいですね。弦すら入っていません。あとはリズムを担うパーカッション(ウッドブロック)ぐらいです。確かにオケ視点では珍しいアレンジだな、という着眼点はあるものの、原曲に比べて無難にまとまりすぎな感じはしますね。収録時間も1分30秒ちょいと短いですし、ティンパニやスネアを伴う再現があってもよかったかも。
13 暗闇にひびく足音〜
ラストダンジョン

DUNGEONS〜
LAST DUNGEON
洞窟系ダンジョンメドレー。もちろん骨格となっているのは「悪のモチーフ」です。組曲は「暗闇に響く足音」から幕を開けます。「迷いの塔」に対してこちらはかなり原曲重視。パートの割り振りもほぼそのままで、ゲーム音源でうすら寒い感覚をうまく表現していたトレモロのストリングスも雰囲気バッチリ。木管(オーボエ)による怪しくもどこか暖かいパートも違和感なく取り入れられており、「原曲そっくり大賞」を進呈します!いや、必ずしもオケ版がゲーム音源を再現する必要はないのですが、「ドラクエ」である以上、そして「VI」があそこまでオーケストラにこだわった音作りをしたのであれば、今度はそれをいかに忠実にオケ化するかというのもひとつのテーマじゃないかと思うんですよ。それによってゲームのファンに違和感のないものとなりますし、そこから「ゲーム音源も頑張ってるねえ」という再評価に繋がるわけで。

1分59秒あたりからはいつの間に、という感じで「ラストダンジョン」へ。原曲でボーカリーズが受け持っていたパートはそのままストリングスへ。もともとボーカリーズからストリングスへとクロスフェードするようなアレンジがされていたので、特に違和感はないです。静かで不気味な中にしばしば鳴り響く、割れそうな金管もオリジナルのニュアンスをうまく捉えてます。ゲーム音源バージョンをロンフィルの面々に聞かせる、なんてことまではしていないと思われますが……。持続する低音部の楽器群が、地響きするようなラストダンジョンの情景を巧みに描き出しています。
14 魔物出現〜
魔王との対決

MONSTERS〜
DEMON COMBAT
中ボス戦BGとしてゲーム中でも多くの戦闘で耳にすることになる「魔物出現」から。フルオーケストラならではの音圧感で怒涛の幕開け。耳をつんざくようなブリブリの金管、緊迫感に満ち溢れたストリングスが、かつてプレイしたゲームにおける強敵との戦いを思い出させます。ゲーム音源の持つニュアンスを良い方向に、何倍にも増幅した好アレンジ&好演奏です。全体を「悪のモチーフ」で縛りながらも、「勇気ある戦い」や「敢然と立ち向かう」とはまったく別の楽曲として仕立て上げる手腕には脱帽です。ロンフィルの鬼気迫る演奏は、シリーズすべてのバトル楽曲の中でも珠玉の逸品。

戦いは終わった……と思わせて、4分36秒からはラスボス戦にふさわしい圧倒的な立ち上がりで始まる「魔王との対決」。ここまでいくつもの曲で伏線を敷いてきた「悪のモチーフ」がここで完結するわけですから、気合も入るというもの。ゲーム中ではデスタムーア最終形態で流れるこの曲、「魔物出現」からの繋がりは間違いなくこの最終戦を意識したものでしょう。これまでの「悪のモチーフシリーズ」のどの曲よりもそのメインモチーフを徹底的に繰り返して進行します。まさに最終決戦!
15 時の子守唄
ETERNAL LULLABY
本作「ドラクエVI」の終局を飾る曲。どこか緊張した感じの幕開け、そして哀愁漂いまくりの主題、次に続きそうな余韻を含んだコーダ、などなど単体で聴いた時には「これ本当にエンディング?」という疑問もありますが、ゲーム中で流れるものを聴けばすべて解決するでしょう。このあたり、ゲームのためのゲーム音楽として、楽曲単体ではなかなか語りきれない難しい部分ではあります。ゲームをプレイせずに曲だけを単独で鑑賞している人に、その状況を説明するのは困難なことです。言わばそれはネタバレ行為であり、その人の「いずれプレイしてみよう」という意欲自体を削ぐことにもなります。作品としてはそれはチャンスロスですから、筆者としてもそれは避けたいところではあるのですが……。いちおうウチは「ネタバレサイト」と名言していますので、閲覧される側が上手に取捨選択して下さい。

ゲームにおいてはこの曲が流れる部分だけがエンディングではありません。「前フリ」があり、「受け」があります。乱暴に言ってしまえば、「時の子守唄」はスタッフロール部分の音楽でしかありません。つまり、「前フリ」を受けてこそのイントロであり、そして「受け」に繋げるためのコーダなのです。ゲームの中では「時の子守唄」に続いて「序曲のマーチ」が流れます。もしも「時の子守唄」がジャジャジャン!と歯切れ良く終わっていたら、「序曲のマーチ」がまったく立ちません。次へ繋げるために、余韻を残した歯切れの悪い終わり方になっているんです。ゲームをプレイしていない人がそういった事実を知らずに「エンディングらしくない終わり方」と言い放ってしまうのは無知ゆえの暴言でしかありません。確かにこの曲のまま「The End」になるんだったら「さっぱりしないエンディング」ですけど、そうじゃありませんので。

さて、この曲は「VI」のための純粋なオリジナルではなく、すぎやま氏の過去の作品からの流用であることは、ドラクエ音楽ファンであれば常識。ロンドンフィルの演奏とは関係しないことですので、ゲームバージョンの方で解説させてもらってます。興味のある方はそちらをどうぞ。

DISC 2〜オリジナル・ゲーム・ヴァージョン〜
01.序曲のマーチ
・オープニングタイトルバック
・エンディング終盤、クラウド城のタマゴから未来が生まれる……!
本作「VI」では、交響組曲盤のほかにゲーム音源を単一トラックで収録した、純然たるサントラCDも付属しています。これまでゲーム音源はほとんどオマケの扱いで、「サウンドストーリー」といった形で効果音込みで収録されていただけに、単一トラックでの単体音源のCD化はファンが待望したものだったのです。以後この形は継承され、PS版「VII」「IV」がこれに倣っています。また、スーファミ版「III」やPS2最新作の「VIII」はオケ盤とゲーム音源盤が個別に発売され、ゲーム音源がいよいよCDでの音楽鑑賞に堪えるものになったことの証と言えるでしょう。

さて、ゲーム音源盤の幕開けはゲームでのオープニングタイトルで流れる、おなじみの「序曲のマーチ」。前作「V」の交響組曲では「サウンドストーリー」でゲーム音源を聴くことができましたが、それと比較しても明らかにクオリティが上がっています。同じスーファミなのになぜ?という問いへの答えは、序文にも記していますが、2人のサウンドデザイナーの参加によるものでしょう。しかもそのサウンドデザイナーはプログラム畑ではなく、個人でも作曲家として名を立てている多和田吏氏、崎元仁氏。「きちんとした音楽的感性を持った人と、僕の持つ音楽的要求を理解してもらったうえで作業をしたい」というすぎやまこういち氏の希望で迎えられた2人は、最高の仕事をしてくれたことがこの「序曲のマーチ」を聴いただけで理解できると思います。「単体では良い音でも、アンサンブルにすると混じりが悪かったりする」という多和田氏が、すぎやま氏とああでもない、こうでもないと言いながら吟味した音色群は出色。10時間トライ&エラーを繰り返し、結局全ボツにしたこともあったとか。

ゲーム中では前述のオープニングタイトルのほか、エンディングの最後の最後でも流れます。スタッフロール後、クラウド城の場面。そこにはバーバラの姿も。本編から意味ありげだったタマゴから何かが・・・未来が生まれようとしています。そこで高らかに鳴り響くのが序曲なのです。最初と最後をテーマ曲で盛り上げる演出は鉄板ながら、これ以上ないというものでもあります。同時に「天空編の終わり、新しいシリーズの幕開け」を暗示しているかのようです。シリーズではゲームの途中でも印象的に使われることがある「序曲」ですが、「VI」に関しては以上の2回しか流れません。
02.間奏曲
・冒険の書作成/選択画面
こちらもシリーズではおなじみの「インテルメッツォ」。冒険の書画面で流れるもので、ファミコン版「IV」で初登場したものです。そのまま「V」「VI」以降も受け継がれました。スーファミ版「III」にも使われるなど、過去作のリメイクにもフィードバックされています。ピチカート+ハイハットという構成は「IV」の交響組曲を忠実に再現したアレンジで、この点についても後のシリーズへ受け継がれていきます。
03.ムドーの城へ向かう
・ニューゲーム開始直後、ドラゴンに乗ってムドーの城へ向かうイベント
・「下の世界」で、↑と同じイベントが再現されるシーン
・天馬の塔頂上で、ファルシオンが大空へ羽ばたくシーン
風が吹いて、ドラゴンの咆哮1発。雷の鳴り響く雲海の中、ドラゴンに乗ってムドーの城へと向かう、まさに曲名通りのイベントに充てられている楽曲です。ニューゲーム開始直後のイベントのほか、「下の世界」における同様のイベントでももちろん使われています。オーケストラ楽器の音色も高いクオリティですが、サウンドチームはなにも楽曲だけを作っていたわけではありません。効果音も崎元氏を中心として手掛けているのです。このトラックではドラゴンの声、雷鳴などが聴けますね。

しかし、それぞれがゴージャスにすることだけを目指していたのでは、あっという間に容量オーバー。発音数の問題もあります。そこで、まず多和田氏と崎元氏は製作初期の時点で、楽器音と効果音の容量分配を取り決めたのです。あとはそこからはみ出さないように調整しつつ作業することで、最終的な出音で問題が発生することを未然に防ぎました。あとは発音数ですが、すぎやまこういち氏は楽曲のスコアを4段、5段程度に抑え、絶対に楽曲だけで6つ以上の音が縦に重ならないような作曲をしたのです。このあたり、「制約のある作曲」も得意とするすぎやま氏ならでは。スーファミの同時発音数は8音ですから、これで3トラック以上の余裕が生まれます。このサウンドチームはそれを効果に回したわけです。効果音はもちろん、曲によってはディレイやコーラス成分を使い、音のクオリティを最大限に上げたのですね。このように制約を逆手に取った創意工夫が、「VI」のハイクオリティサウンドを生んだのです。もちろんそこにはメインプログラマー・山名学氏によるサウンドドライバーも貢献してますが。

さて、ゲーム冒頭のインパクトを引き上げるためか、この序盤のトラックで既に裏技的な効果が投入されています。そう、雷鳴の音ですね。ゲームでもそうですが、CDではその効果がより顕著に現れているでしょう。雷の音のエフェクト成分を左右逆位相にして、立体的な音場を生み出しているのです。ゲーム機で擬似サラウンドのような効果を出しているんですね。それによって単に雷の音を鳴らした場合とはまったく異なる、プレイヤーを包み込むような音になっています。もの凄く主張する、楽曲に負けることがない「前に出る効果音」なのです。なお効果音抜きバージョンが、天馬の塔の頂上でファルシオンが飛び立つシーンに使われています(CD未収録)。

この曲をモチーフとした「敢然と立ち向かう(トラック26)」が、ムドーとの戦いに用いられていることも付け加えておきましょう(というよりも、ほとんど同一曲ですが)。言わばこの曲は「ムドーに挑む者たちのテーマ」という意味。「悪のモチーフ」も散りばめられ(30秒あたりに顕著)、主人公パーティVSムドーを印象付けています。また、ゲーム序盤からこのモチーフを提示しておくことで、終盤まで頻出する「悪のモチーフ」を匂わせています。
04.木漏れ日の中で
・一部をのぞく、多くの街のBGMとして
「VI」における街のメインBGMです。世界全体にどことなく牧歌的雰囲気が漂い、グラフィックのトーンも暖かめな本作では、陽気でのどかなこの曲がなんとも言えずノッていますね。歴代シリーズでは「村」で流れそうな曲になっています。フルートによる清楚なメロディ、タンバリンとトライアングルによる今にも踊り出しそうなリズムが楽しげです。また、このメロディは「人々の生活の場」における共通したモチーフという意味を持たされており、「ハッピーハミング」や「フォークダンス」に活かされています。プレイヤーにとって「ホッとする場所」というイメージを、音から感じさせているのです。

ゲームでは、ベッドから落っこちた主人公がターニアから「村長が呼んでいた」ことを聞かされて家から出た際に、まぶしい日差しとともに鳴り出したのが初出となっています。とても印象的なライフコッドのBGMですね。そのため「これは村の曲だナ」と思ったものですが、実は本作では街・村の楽曲的な区別はなかったのでした。以後、シエーナ、トルッカ、レイドックの城下町、サンマリーノ、アモール、ゲントの村、モンストル、カルカド(ジャミラス撃破後)、クリアベール、マウントスノー(氷の呪いが解けた後)、ロンガデセオ、ジャンポルテの館、絶望の町(気力回復後)、欲望の町、クリア後隠しダンジョン内デスコッドなど、非常に多くの街で流れています。もちろん上の世界・下の世界両方に存在する街もありますから、この曲を聴く機会はかなり多いと言えます。「VIの音楽」と言われて、まずこのメロディを思い浮かべる人も少なくないのではないでしょうか?
05.ハッピーハミング
・カジノのBGM
・ベストドレッサーコンテストのアピールタイム
・スライム格闘場のBGM
主にカジノで流れている曲です。前述の通り、「木漏れ日の中で」を巧みにアレンジしたもので、ビッグバンドジャズに変化を遂げています。すぎやま氏のアレンジャーとしての技能の高さをこれでもかと感じさせてくれますね。チーチッチ・チーチッチという典型的なジャズのドラム、ウッドベースを思わせるファットなベースライン、明らかにオーケストラセットとは別の音色を用意していると思われる金管群などなど、この曲ならではの特徴を挙げたらきりがないのですが、最も目立つのは前半でメロを奏でるボイスの音色ではないでしょうか?これこそスーファミならではというか、ファミコンでは絶対に表現できないものです。「FF」はオペラで大々的にサンプリングボイスをアピールしていましたが、すぎやま氏はさすがに使いどころが渋いです。オーケストラバージョンはどうするのか?といった感じもしますが、まあDisc1を聴いて下さい。こういったゲーム音源とオケ盤の比較が容易なのも魅力です。

ゲーム中ではサンマリーノのカジノが初出となるでしょう(立ち寄っていれば、ですが)。次に聴けるのはロンガデセオ、そしてはざまの世界の「欲望の町」にもカジノがあります。カジノ以外では、ジャンポルテの館で開催されている「ベストドレッサーコンテスト」でのアピールタイムに流れていました。スライム格闘場ではカジノ同様、BGMとして流れています。堀井雄二氏は「いちばんのお気に入りの曲は?」と訊かれて「カジノの曲が一番好きなんですよ。あれはいいねえ。気持ちいい」と答えていました。それに対してすぎやま氏は「カジノはねえ、戦闘とか会話とかで中断しないでしょ。遊んでいる間、ずーっと聴いている曲だからねえ。だから絶対に快適じゃなきゃいかんのですよ」。御自身もゲーム中のカジノではデータ分析するほどハマり込む氏ならでは、の楽曲と言えるのでは。
06.フォークダンス
・ライフコッドの村祭り
・ホルストックでの、ホルス王子が洗礼を為したことを祝う宴
・エンディングで各地に立ち寄るなか、訪れるライフコッド(上)
・エンディングでのレイドックの宴
・クリア後隠しダンジョン、デスコッドの初期状態(夜のライフコッド)
こちらも「木漏れ日の中で」をアレンジしたもので、しかもダンスということを意識してか、3拍子(いわゆるワルツです)になっています。しかし、それでいて違和感はまったくありません。「ハッピーハミング」同様、うまい!と思わず叫ばずにはいられません。この音色は何と言えばいいんでしょうか、アコーディオンというか、それとも学校や公民館の隅っこでホコリをかぶってる古びたオルガンの伴奏と、パンフルート?のようにも聞こえるのですが、オーケストラ楽器っぽくはないですよね。多和田氏によると、これは「笛とクラリネットの二重奏」とのことです。笛?笛ってなんだろ。いずれにしてもいかにも素朴な村の小さなお祭り、といった雰囲気がいいですね。さすがにオーケストラバージョンは録音されないのでは?と思われましたが、しっかり組曲に入れられています。Disc1の3曲目を参照。

ライフコッドの村祭りで精霊の儀式が終わった後、村人たちが歌い踊るシーンで流れるのが初出です。その名の通り、村人はたき火を囲んでフォークダンスに興じています。建物の中に入ると音楽が遠ざかるような効果(ボリューム操作)が行われていることから、現場で実際に流されている現実音楽という扱いのようですね。花火の効果音も良い感じでした。またホルストックでは、ホルス王子が洗礼を受けて帰還したことを祝う宴が開かれるイベントでも流れます。さらに、エンディングで立ち寄るライフコッド(上)でもこの曲が流れていました。同様にレイドックで行われる宴のイベントでも流れます。村祭りならともかく、王宮の宴にはこの曲の素朴さがミスマッチではありますが・・・きっと「VI」の世界では、身分を問わずフォークダンスが流行中なんでしょう。

クリア後の隠しダンジョンでは途中、ルート上にライフコッドのような場所(デスコッド)がありますが、初めて訪れた時そこはちょうどゲーム序盤で精霊の冠を手に入れた頃のライフコッドと酷似しており、この曲が流れています。これからお祭りが始まりそうな雰囲気に、あれ?洞窟を進んでいたはずなのに、なぜこんなところに村が?と、プレイヤーを戸惑わせること必至です。
07.ぬくもりの里に
・多くの井戸、小屋など「ほこら」的扱いの用途
・ホルコッタやペスカニ、ザクソンといった小さな村のBGMとして
「ドラクエ」シリーズでは、広大なフィールドに街や村よりもさらに小さい建物がポツンと建っていることがあります。それは旅の扉だったり、ヒントをくれる老人の家だったり、教会だったり。いずれの場合もそれらはまとめて「ほこら」と呼ばれ、ほこら専用の楽曲も用意されていました。本作「VI」では井戸というフィーチャーがあるため、そういった小さな建造物がさらに増えています。しかし、教会には専用の曲が用意されており、シリーズでおなじみの「神聖な場所としてのほこら」といった意味合いが薄れました。そんな本作で、従来の「ほこら」的用途で使われているのがこの「ぬくもりの里に」です。「教会」という雰囲気を表現する必要がないため、従来のシリーズのような「神聖さ」はなくなり、旅の経過点といったようなイメージが重視されています。そのおかげか、どちらかと言うとフィールド音楽のような感じに仕上がっていると思えます。

素朴な感じを出すためか木管楽器を中心に構成されていますが、リピートではストリングスに置き換えて展開しています。楽曲の素朴さを重視してかわざと音に隙間を持たせた構成で、そのためとてもエコーが際立っているのが特徴。すぎやま氏いわく、山名氏による独自のサウンドドライバーの性能で、スタジオ録音さながらのリバーブエコーが可能になったということです。「スーパーファミコンのゲームでリバーブエコーができているものって、ほとんどないでしょう。エコーですら、ほとんどないよね」とのことで、なるほど確かにスーパーファミコンのゲームサウンドとしては比較するものがないほど上品なリバーブエコーです。こういった要素も音のクオリティアップに繋がっているのですね。もしこれでエコーがなかったら、曲のイメージもだいぶ変わるでしょう。

主な使いどころは前述のように井戸や一軒家といった小さな建物。また、人工の少ない小さな村に充てられていることもあります。トルッカ北・夢見の井戸、レイドック東・きこりの家、旅の洞窟北の集落、ライフコッド(上)東・老人の住む小島、ダーマ(上)南・民家、ホルコッタ、ホルストック西の井戸、フォーン城西の井戸、ペスカニ、ライフコッド(下)南・老人の家、ザクソンの村、ザクソン北の井戸、スライム格闘場への井戸、ヘルハーブ温泉(はざまの世界)……、なにしろ数が多いので見落としているものもあるかもしれませんが、だいたいこんなところで流れています。
08.王宮にて
・城のBGM
もう弦の音色が素晴らしすぎる!の王宮音楽です。ヘタなDTM音源が尻尾を巻いて逃げ出してしまいそう。同じスーパーファミコンでリリースされた「V」、「I&II」でもファミコンからの進化に驚いたものですが、ここでさらに飛躍的な進化を遂げています。ゲーム音源でここまでやられてしまうと、交響組曲になった時の驚きが薄れてしまいそうなほど。まあそれでもやはり生楽器の演奏はまた別の感動を持っているのですけど。すぎやま氏は「ストリングスの音でも、いわゆるストリングスに聞こえればいいというのではなくて、数あるストリングスの音の中でも、きれいないいストリングスの音を選びました」と語っています。さらに多和田氏が「すぎやま先生は生のオーケストラの音が耳に焼き付いていらっしゃるので、いい音と言っても、いわゆるシンセサイザーのいい音とは意味合いが違うんです。アンサンブルにした時、いかにオーケストラの音になるかということ」と補完しています。

「VI」はシリーズの中でも全体的にお城が多く、上の世界と下の世界両方にあるお城もありますから、結果的にこの曲を耳にする頻度は多くなっています。これらのお城では悲しい雰囲気のイベントが発生することもあり、またゲーム全体に漂うトーンを考慮したのか、歴代のお城BGの中でも特に憂いのある色に仕上げられています。ゲーム中ではレイドック(上)が初出です。以後ダーマ神殿、レイドック(下)、アークボルト、メダル王の城、ホルストック、フォーン城、ガンディーノ、グレイス城、ヘルクラウド城(ゼニスの城)で使われています。なお、この中で城下町があるのはレイドックのみ。もちろん城下町は「木漏れ日の中に」が流れています。
09.さすらいのテーマ
・下の世界(現実世界)フィールド
村長に頼まれてシエーナに来たものの、冠職人ヒルダは外出中。主人公は彼を探し、地面に大穴の開いた森で彼と出会います。しかし、ヒルダはいままさに穴に落ちそう!彼を助ける主人公でしたが、かわりに自分が穴に落ちてしまった!・・・と思ったのも束の間、落ちた先にはフィールドが。いったいここはどこなのか?そんな「下の世界」を探索する間のフィールドBGMがこの曲です。イントロから拍を刻み続けるのは何の音色なのでしょうか?ピアノのイメージでしょうか、少なくともいわゆるオーケストラ楽器ではなさそうですが……。メロディは金管を中心に、フルートなどが入り混じって進行していきます。金管のディレイが曲に拡がりを与え、広大な世界をさまよう様子を表現しています。これは効果音にも使われているワザを駆使したもので、ディレイ成分を左右逆位相にして通常のステレオエフェクト以上の拡がり感を持たせているのです。

徹底的に場面ごとのモチーフの統一を意識した本作。ダンジョンや戦闘は「悪のモチーフ」、人々の生活の場は「木漏れ日の中で」を核としているのと同じく、この曲はパーティの旅に寄り添うモチーフとなっています。上の世界のフィールドBGである「もう一つの世界」、そして海底のBGである「静寂に漂う」にこのメロディを使用し、イメージの統一を図っています。同時に楽曲の印象も高めているのです。
10.静寂に漂う
・海底世界フィールド(船潜行中)
マーメイドハープを入手すると、主人公たちの船は海底を探索できるようになります。海底を船で進む間に流れるのがこの曲。前述の通り、「さすらいのテーマ」のアレンジになっております。「エーゲ海に船出して」のアレンジではないのは、やられたという感じですね。意味合いとしては「もう一つの世界」と同じで「旅のテーマ」。上・下・そして海底という3つの世界があるということを示しています。ここでもすぎやま氏のアレンジの妙味を堪能できるでしょう。泡の音を模した「プクッ」といった感じの音色はお約束という感じながら、「ドラクエ」でこれをやったのは崎元氏あたりのアイディアではないでしょうか?その音に気をとられがちですが、低音のピチカートも似たような効果を狙ったものと思われます。特にイントロで聴けるような、パンニングされたピチカートと泡音の組み合わせは、自分が海底にいるような「包まれ感」に満ちています。

そんな遊び心たっぷりの伴奏を伴い、メロディを受け持つのはフルート(パンフルート)系の木管と、それによく似た雰囲気を持つボーカリーズ。あえてオーケストラっぽい音色を避けることで、楽曲に地上とは異なるイメージを持たせることに成功しています。
11.もう一つの世界
・上の世界(夢の世界)フィールド
最初に主人公が暮らしている、「上の世界」におけるフィールドBGM。トラック9「さすらいのテーマ」のテンポを落としたアレンジバージョン、と言うのは語弊があるかもしれませんが、同一曲であることは間違いありません。中にはこれについて「手抜きだ」と評する人もいるようですが、その結論は単純すぎませんか?確かにマップが複数存在するゲームは珍しくありませんし、多くの場合はそれぞれまったく異なる曲を流して、違いを明確にしています。街やダンジョンの曲すら変えていることもありますよね。ですが、「ドラクエVI」について、それが必要でしょうか?あえて上の世界と下の世界のマップを微妙に似せているのはなぜか?制作陣としては、「ユーザーを迷子にさせよう」という目論見があったことは明確です。そもそもテーマが「自由な発見の旅」であり、中盤以降は次にどこへ行けばいいかはっきりとは指定されません。「次にどちらの世界のどこへ行くべきか、そもそも自分はいまどこにいるのか」という感覚こそ、本作のキモなのです。もしもそこで、上の世界と下の世界にまったく異なる曲が流れていたらどうでしょう?そう、「音によるネタバレ」が起こります。少なくとも自分がどちらの世界にいるかははっきりと認識できてしまい、それは「迷子」とは程遠い状態になってしまうのです。あえて同じような曲を上下それぞれの世界に充てたのは、すぎやま氏による巧妙な罠なのです。手抜きであるどころか思慮を重ねた結果、に違いありません。

先に「さすらいのテーマ」が基本モチーフであると書きましたが、実際のゲーム中においてはこちらの「もう一つの世界」を先に耳にすることになります。しかし下の世界が現実で、上の世界がその派生であることを考えると、こちらの曲が意味的には「さすらいのテーマ」の派生であると言えるでしょう。なおダンジョン内においても、外観部分ではこの曲がフィールドから引き続き流れている場合もあります(ライフコッド・やまはだの道がそうです)。
12.精霊の冠
・ライフコッドの村祭り、精霊の儀
・アモール(下)でのジーナとイリアの再会シーン
・フォーン王がイリカの呪いを解くイベント
・主人公が夜のレイドック(下)で過去の記憶の断片を見て廻るイベント
・カルベローナのBGM
ライフコッドの村祭りで、精霊の使いに扮したターニアが登場したところで流れる曲です。もちろん彼女の頭には精霊の冠が。これこそが曲名の由来ですね。美しいグラフィックとあいまって、とても幻想的なイベントでした。楽曲はハープとストリングスに包み込まれるようなバックトラックの上で、オーボエが歌っています。なんとも憂いを秘めた哀愁のある曲調で、イベントに命を吹き込んでいると言っても過言ではありません。楽曲がグラフィックの説得力を何倍にも高めているのです。精霊の儀式はゲーム中で一度きりのイベントですが、楽曲はその独特の雰囲気から、後に複数のイベントに流用されていきます。アモール(下)での年老いたジーナとイリアの再会シーンで使われているのが最初の流用。さらに、フォーン城でフォーン王が鏡に封じられたイリカの呪いを解く場面でも幻想的に使われました。

精霊の儀式と並んでこの曲が主役級の扱いを受けるのは、主人公が自分を取り戻してからレイドック(下)に戻った際に発生するイベント。王子の無事帰還を受け、城では宴が行われて場面は夜に。久々に王妃の隣で眠る主人公のもとに、グランマーズがやって来て語りかけるシーンでこの曲が流れ始めます。夢の中で過ごした時間が長かった主人公は、完全な「もとの自分」には戻りきれていない……眠れないのなら城の中を散歩してきたら、少しは記憶が戻るのではないか、とのグランマーズの勧めによって、夜のレイドック城内を歩く主人公。そして、そこかしこにある記憶の欠片を見ていきます。その間も、この曲がしっとりと寄り添っていたのです。また、カルベローナのBGとしても流れています。キラキラとした結晶が舞う、幻想的な街の雰囲気にピッタリでしたね。通常の「木漏れ日の中で」だったら、かなり違和感があったことでしょう。
13.空飛ぶベッド
・空飛ぶベッド搭乗時
・まほうのじゅうたん使用時
クリアベール(下)でジョンの願いを果たすと、空飛ぶベッドを入手して上の世界を飛行して移動できるようになります(この、下で手に入れて上の世界へ……というところがわかりにくいですが)。ベッドで飛行する間に流れるのが曲名ズバリのこの曲。木琴の軽やかなメロディと、弾むようなタンバリンに思わず身体が動いてしまいます。途中で挿入される風のようなSEも、いま自分は飛んでいるだぞ〜、という気分を盛り上げるのに貢献していますね。後に入手する魔法のじゅうたん搭乗時にも流れます。いずれも飛行中はモンスターとエンカウントせず、曲が途切れることがないという点を重視し、すぎやま氏は「快適さ」ということを最優先に曲を作られたそうです。
14.エーゲ海に船出して
・サンマリーノ定期船乗り場のBGM
・神の船およびひょうたん島で海上を航行時
・海底世界の建造物内BGM
海上を船で移動する際に流れる、いわゆる「船BGM」。自由に船を操ることができるのはゲーム開始後しばらくしてからになりますが、この曲はサンマリーノの定期船乗り場へ行けば序盤から聴くことができました。また、ミレーユを仲間にしてサンマリーノからレイドックへ船で向かう際にも耳にすることになります。さらに、ゲントの村から「神の船」に乗ってムドーの城に向かう際にも聴けますね。カルカドで初めて目にするひょうたん島に乗り込んだ時にも流れます。もっともこれは船のBGMとして、ですが。いずれも自動操縦で強制移動ですが、いつこれを自由に操作できるんだろう、というユーザーの期待を、楽曲が盛り上げてくれたのです。

少し悲しげに始まるイントロから、ハープのアルペジオを従わせて徐々に盛り上がっていく展開に富んだ楽曲。ゲーム全体に漂う悲しい雰囲気にバッチリはまっています。よく「ドラクエVIは暗い」と言われますが、シリーズのどの作品と比べても、確かに本作は「暗い」と思います。しかしその暗さは単に「世界が危ない」といった恐怖からくるものではなく、「自分探し」という大テーマと、人間の内面をチラリと覗かせるイベントからくるものでしょう。イベントも悲しいものが多いですし、かなり「大人の」シナリオになっていると思います。それだけにユーザーには「暗さ」だけが増幅されて印象付けられているのでしょうが、だからこそ子供の頃にだけプレイして本作を敬遠している人には、大人になってから再プレイしてほしい作品でもあります。子供の頃とはまた違った印象を持てると思いますよ。残念ながら筆者は発売時すでに20代でしたが、それでも30代になってからのプレイではまた違った印象を持てました。

この曲は海以外では、海底の建造物内のBGMとして鳴らされるケースもあります。ポセイドン城、宝物庫、沈没船、ルビスの城などを代表とする、海底の建築物(ほこら含む)がそれです。海底を移動していると、ついついそこがフィールドであると錯覚してしまうのですが、この曲が鳴ることで海であることを再確認できるのです。
15.悪のモチーフ
本作の楽曲の最大特色である「悪のモチーフ」。このモチーフがダンジョンや戦闘の音楽に散りばめられ、一大「悪のテーマ」となっていることはさんざん語られている通りです。ここまで徹底してモチーフの統一が図られているのはシリーズでも珍しく、だからこそ「VI」の音楽は良くも悪くもユーザーに強く印象付けられています。「良くも」の要素は、ムドー→デスタムーアと連なる、悪しき存在の統一されたイメージ付け。すべてはバラバラに好き勝手をしている悪者ではなく、ひとつの意志のもと縦に繋がった強大な悪であるということを示しています。「悪くも」は、一部ユーザーにとっての「使い回しじゃん、手抜きじゃん」という印象付け。後者はちょっと考察が足りないかな、表面しかなぞっていないのでは?という感じで、伝わらない人には何を言っても伝わらない、ということです。

「悪のモチーフ」自体はそれこそモチーフとして多数の楽曲に用いられているのですが、このトラックに収録されたMEとしての形態ではそれほど多く使われてはいません。初出はサンマリーノ町長の愛犬ペロが、サンディに与えられたエサを食べて具合が悪くなり町長が慌てるイベントで、ペロがうずくまるタイミングで鳴りました。……「悪」って、アマンダのこと?まあショッキングMEという扱いですな。以下、使用シーン。

・レイドック王が回想シーンでムドーになってしまった瞬間。「気づいたとき、わしはムドーだったのじゃ!」
・フォーン城で呪いの鏡に対してラーの鏡を使った時。「ブキミに笑う魔物の姿が!」
・フォーン城の兵士が「海底深くの城には海の魔王が!」とウワサ話を語るシーン
16.暗闇にひびく足音
・洞窟系ダンジョンBGM
・井戸の中
・アモール(上)で川が血の色に染まるイベント
・はざまの世界の「牢獄の町」BGM
洞窟系のダンジョンBG。わかりやすい形で「悪のモチーフ」を組み込んだ典型的な楽曲です。冒頭で複数のパートが追いかけっこをする「タッタラター」が、既に「悪のモチーフ」となっています。以後はうすら寒いストリングスによるアンサンブルによって進行していきます。しかし「ドラクエ」においては怖いだけのダンジョンBGというのは稀で、この曲も38秒からはオーボエによる、もの悲しくも暖かさを感じさせるメロディが挿入されます。そうかと思えば55秒からは太い金管が威圧的に「悪のモチーフ」を奏でます。1分39秒のストリングスも「悪のモチーフ」ですね。本作では上下2枚マップに伴い、ダンジョンの数も非常に多くなっています。そのためこの曲を聴く機会も多いです。以下、この曲が使われているダンジョン一覧。

ライフコッド・やまはだの道、川の抜け道(レイドック→ダーマ)、夢見の洞窟、アモール北の洞窟、地底魔城、ムドーの島、モンストル北の山、アークボルト北・旅の洞窟、カルカド東の洞窟、しあわせの国(ジャミラスの城)、ホルストック城地下洞窟、洗礼のほこら、運命の壁、スライム格闘場南・牢獄のほこら、ペスカニの洞窟、海底神殿、海底・レイドックに通じる水路、マウントスノー北東・氷のほこら、氷の洞窟、不思議な洞窟、クリアベール(下)西・おしゃれな鍛冶屋、クリアベール(上)東・小さな洞窟、欲望の町北西の隠れ森、嘆きの牢獄。ダンジョンではないですが、はざまの世界の「牢獄の町」では街のBGMとして流れています。

井戸の中で鳴ることも多く(ライフコッド、レイドック、グランマーズの館、アモール、カルカド、フォーン城への井戸、フォーン城北の井戸、マウントスノー、ロンガデセオ、ガンディーノ、スライム格闘場、カルベローナ、クラウド城)、この曲の使用頻度をさらに高めてます。なにも街の中にあるただの井戸にまで流さなくてもいいんじゃない?と思うんですが、逆にこの曲が流れることで「ただの井戸に見えるけど、何かあるのでは?」と、プレイヤーを不安にさせます。まあ、たいていは本当に何もないんですが。

イベントBG的な使用例もあり、アモール(上)の川がまるで血のような色に変色するイベントでは、街のBGMとしてこの曲が絶えず流れ続けていました。また、しあわせの国をめざすひょうたん島が実は魔物のワナだったことがわかる際にも、ひょうたん島内部でこの曲が流れます。
17.戦慄のとき
・ムドーの城内BGM(ムドーのいる部屋をのぞく)
ダンジョンBGMで、ムドーの城だけに流れる専用曲です。もちろん「悪のモチーフ」が軸となっており、ボーカリーズが奏でる主題からもう現れています。左右に拡散するように広がりながら減衰していくディレイ成分が楽曲に独特の雰囲気を持たせており、効果に力を入れた本作ならでは、と言える曲になっています。このディレイもセンターだけの場合と、左右に思いっきりパンニングされている場合とがあり、単なるエフェクトというよりはエフェクトトラックを巧みに使っての巧妙なワザが効いてそうですね。全体的にはボーカリーズとエレピを中心に構成され、その隙間でアタック的に鳴るトランペットの音色がショッキング。オーケストラでどのように演奏するのか、最も筆者が興味を持った曲でもあります。

オープニングイベントにおける静まりかえったムドーの城内では、この音に隙間を持たせた断続的な構成がバッチリとハマり、いや〜な雰囲気を醸し出していました。ゲームスタート直後、何の前置きもなく突然放り出された未知の城。ただの城ではない、雷はゴロゴロ鳴り響いてるし、絶対に良くないことがあるのはわかっているのに、進まざるを得ない状況……。あえて言わせてもらえばですね、この曲にこそ「ムドーの城」という曲名を付けるべきだったのではないでしょうか?で、ダンジョンの最後の最後、強敵と対峙するフロアで流れる「ムドーの城(トラック19)」こそ、「戦慄のとき」とするべきだったのでは?はっきり言うと、「曲名逆だろ!」です。この曲は本当にムドーの城でしか流れませんが、トラック19は流用しまくりですし。

もうひとつ、このCDを最初にCDDBに登録した人へ言わせて下さい。なんか曲名が「戦火の時」になってるんですけど…。すべて間違ってますよ?「慄」が読めなかったのでしょうか?っていうか「とき」も漢字になってるしぃ。どうせ登録するなら正確にお願いしますよー。
18.迷いの塔
・塔系ダンジョンBGM
洞窟に比べて塔の数は少ないですが、そんな塔タイプのダンジョンで流れるのがこちら。流れる頻度は多くはないのにこの曲が強烈な印象を放っているのは、スコアなしでは追っかけることさえできなさそうな変拍子の嵐によるものではないでしょうか。筆者はここのレビューでいろいろとえらそーに語ってはおりますが、音楽演奏については素人なので、スコアがあったとしてもこんな曲を「演奏しなさい」と言われるのはイヤです。変拍子、苦手なんですよー。しかもこう目まぐるしいとギブアップですね。出だしから4/4、7/8、8/8、7/8と一小節ごとに変わってるんですよ!そのあとしばらく4/4が続くものの、また5/8、3/4、5/8、3/4、4/4ときてさらに8/9、3/4、5/8、7/8……ってもういい、という感じ。こういう曲は聴くに徹するに限りますね。コイツだけは耳コピする気になりません。

もうひとつはこの曲が非常にポップス寄りである、ということ。エレピ系の音源を使った主題とベース、そして崎元氏によるこれでもかというほどに打ち鳴らすドラムス。この曲ばかりは交響組曲から外されるだろう、という予測は外れましたが、ゲーム音源ではオケ音色は徹底的に排除されています。逆に言えば、これがオーケストラバージョンではどういった解釈で演奏されるか、という楽しみもあるのですけど。ドラムスも生っぽいものではなく、どちらかというとテクノ寄りの音色が用いられています。すぎやま氏いわく「多和田くんはクラシック担当、崎元くんはポップス担当という感じですね。崎元くんはロックに強いから」とのことですが、これはロックなのですか?ちなみに崎元氏はクラシックが苦手なわけではないですよ。「オウガ」や「FFT」でしっかりやってますから。

なお、この曲が流れるのはレイドック南の試練の塔が初出で、あとは月鏡の塔、魔術師の塔、天馬の塔といった全4ヶ所。これだけなのに、筆者個人としては「暗闇にひびく足音」よりも印象に残ってます。当然のことながらこの曲も「悪のモチーフ」が散りばめられています。8秒のボーカリーズ、そしてそれに付随する11秒のエレピがそれ。32秒からエレピが2度繰り返すのも「悪のモチーフ」です。わかりやすいと思うんですが、意外と気付かない人が多いのもこの曲の特徴でしょうか。
19.ムドーの城
・ムドーの城内、ムドーのいる部屋
・地底魔城、にせムドーのいる部屋
・海底神殿、グラコスのいるフロア
・グレイス城の魔方陣部屋(隠しダンジョンでダークドレアムと戦う場所)
・クラウド城、デュランのいる部屋
・はざまの世界フィールド
・牢獄の町、アクバーのいる部屋
・大賢者マサールがズイカク&ショウカクから拷問を受けるイベント
曲名通り、ムドーの城内におけるムドーの部屋で流れるものです(オープニングイベント:ムドーによって主人公らが石にされるまで。下の世界でのムドーとの再戦でも同様)。地底魔城のニセムドーのいるフロアでも流れています。また、海底神殿のグラコスがいるフロアにも流用されています。さらにさらに、グレイス城の魔方陣部屋で王様が悪魔を呼び出す儀式を行うイベントでも使われています。クラウド城内のデュランのいるフロアでも流れています。牢獄の町ではアクバーの部屋で流れていました。クリア後隠しダンジョンでは隠しボス・ダークドレアムのいるフロアで流れています……というように、多くの場合はダンジョンの最終フロア、ボスが待ち構える場所で耳にする曲です。だからこそ、この曲こそが「戦慄のとき」ではないのでしょうか?ってしつこいですか?

後に、「はざまの世界」のフィールドBGとして流用されています。また、イベントでの使用もありました。デスタムーア城手前のほこら(嘆きの牢獄)には、クリムトの兄・大賢者マサールが幽閉されています。彼の心の世界を主人公達が垣間見るイベント(魔物たちがマサールに忠誠を強要)で流れます。

もちろん「悪のモチーフ」を核とした曲であり、6秒のところのボーカリーズ(左)、16秒の低音の弦(右)、26秒のストリングス(左)がわかりやすいですね。36秒からボーカリーズが繰り返すフレーズもそうですね。全体的には弦を中心とした、いかにも「悪者が支配するお城の曲」といった曲調。終結部に向かってだんだんと音量が上がっていく盛り上げかたも、すぎやま氏の意図がじゅうぶんに反映されていそうです。演奏に強弱を付けることでプレイヤーの心理を揺さぶります。クラシック音楽ではおなじみの手法ですね。
20.ラストダンジョン
言うまでもなく曲名通り、ラストダンジョン「デスタムーア城」で流れる曲です。冒頭からいきなり「悪のモチーフ」全開で、ここまで長きに渡って張ってきた伏線がついに集束する、という感じでしょうか。「戦慄のとき」をより発展させたものとも言えそうです。やはり隙間を持たせた構成、各パートが現れては消えるという断続的な展開も共通しています。メロディがしっかりとした楽曲というよりも、あくまで劇伴としての効果を最優先したもの。

多和田氏によると、「女声コーラス系の音色が、オクターブ上のストリングスの音色にクロスフェードするようにプログラムしました」とのことです。実際に聴いてみると、「音色のモーフィング効果」というニュアンスではなく、ボーカリーズのパートに重なるようにストリングスがうっすらと忍び込んできて、かわりにボーカリーズが減衰、結果的にいつの間にかパートの音色が入れ替わっているというものですね。万人がそれとわかるあからさまな効果というわけではありませんが、少ないパート数で凝ったことやってるなあ、というマニアックな仕掛けです。
21.哀しみのとき
・ボーカリーズ=アモスイベント、鏡姫イベント、マウントスノー初期BG、絶望の町初期BGほか
・ストリングス=戦闘での全滅時、レイドック「妹の名前」イベント
この曲には実は3種類のバージョンがあり、ゲーム中ではイベントの雰囲気によって微妙な使い分けがなされています。3種類もあるの?とこれを読んで初めて知った人もいるでしょう。反対に「知ってるよ〜」という人は、かなりコアなファンであるか、耳の肥えた人です。CDに収録されているのはボーカリーズバージョンとストリングスバージョンの2種で、もうひとつの木管バージョンは残念ながら未収録となっています。ここまでやるなら木管も入れてよ、という気がしますが……。CDにはまだ20分ほどの余裕があるみたいですし。ついでに言うなら、各曲をあとちょっとずつでも長く収録してほしかったですね。

まずはボーカリーズバージョン。モンストルにおいて夜、モンストラーと戦う主人公たちの前に町人が立ち塞がり、「やめて下さい!この怪物は……」と言い出すシーン。なんとこの怪物こそが、村の英雄……何か事情がありそう。また、フォーン城の鏡姫の部屋でも流れています。中でも絶大な印象を誇るのは、マウントスノーではないでしょうか?外海に出て、最初にたどりついた村は凍りついていた……。このボーカリーズが厳寒の村の様子、そして時を止めた人々の悲哀をこれでもかというほどに演出していたのです。また、ロンガデセオ北のほこら(メアリの墓)でも流れます。伝説の剣を研ぐのを頑なに拒むサリイ。ロンガデセオに戻った彼女に話しかけると、再度この曲が流れます。彼女は「正しいことのためだけにこの剣を使う」という条件で、伝説の剣を研ぐことを承諾してくれるのです。そこにはかつて剣職人であった父と、そのために苦労を強いられた母と自分の想いが重ねられていたのでしょう。

さらに、ライフコッド(下)で本当の自分と融合した主人公を見て、ターニアが「お兄ちゃんもういないんだ…そっか…」と悲しむシーン。ううっ、ごめんよターニア、と謝る必要もないのに謝ってしまいたくなる、切ないイベントでしたね。そして、ヘルクラウド城におけるミレーユとテリーの再会シーンにも流れました。ボーカリーズバージョンはほかに、はざまの世界の「絶望の町」のBGとしても耳にすることができます。ただし、エンデに仕事道具を渡すことで街の人々は気力を取り戻し、BGMが「木漏れ日の中で」に変わります。

この曲はシリーズでおなじみの全滅時のレクイエム音楽といった役目も担っており、その場合は1分24秒からのストリングスバージョンが流れます。イベントでは、レイドック(下)で大臣ゲバンから妹の名を問われた主人公が、誤った回答をすると同時に流れたのがストリングスバージョンでした。

さて、未収録の木管バージョンですが、カルカドで耳にすることができます。なお、カルカドはイベントの進行によって夜になりますが、夜になってからはボーカリーズバージョンが流れるのです。ちなみにジャミラス撃破後は、カルカドのBGMが「木漏れ日の中で」に変化するので、木管バージョンは非常に期間の限定されたものになっていると言えます。また、クリアベール(下)の教会で、ジョンの両親がその悲痛な胸のうちを神父に吐露するイベントでも、この木管バージョンが流れています。こちらも一度きりのイベントなので、やはり聴く機会は限定されています。

これらのバージョンがどういった基準で使い分けられているのかはちょっと判別つきかねます。なぜ3バージョン作ったのかも謎。いろいろ試行錯誤するうち複数のバージョンができて、どれもいいじゃんということで採用されたのか、それとも明確な意図があるのでしょうか?人々の哀しみや「想い」をメインとしたイベント→「ボーカリーズ」、主人公の失敗→「ストリングス」と分類してみても、ジョンのイベントの説明がつかず破綻。個人的には本作最大の謎解きです。永遠に答えは出なさそうですけど。
22.奇蹟のオカリナ
ニューゲーム開始直後、絶壁からムドーの城に出発するという場面で、ミレーユが吹くオカリナのME。言わば現実音ですね。このイベントはゲームの中で2度発生しますので、この音もゲームで2回聴くことになります。なぜミレーユがこんなオカリナを持っているのか、そしてなぜこれを吹くとドラゴンが飛んでくるのか?それはゲームの中で語られていくでしょう(ホントか?)。こまめにいろいろな人に話しかけてみて下さい。
23.神に祈りを
・オルガンバージョン=教会施設のBGM
・ストリングスバージョン=いくつかの謎めいた場所で流れる
本作ではシリーズ初の試みとして、教会の専用音楽が用意されました。これまで蘇生やセーブ時のMEはありましたが、常に教会で流れる曲というのは、繰り返しになりますがシリーズ初なんです。そして、気付いてる人はとっくに気付いてると思われますが、この「神に祈りを」、ゲームでは2バージョンが使用されています。2種類あるの?とこれを読んで初めて知った人もいるでしょう。反対に「知ってるよ〜」という人は、かなりコアな(以下略)。

トラックの冒頭に収められているのはオルガンバージョンで、主として教会で使われているもの(ライフコッド、シエーナ、レイドック、サンマリーノ、アモール、ゲントの村、モンストル、アークボルト、カルカド、ホルコッタ、クリアベール、ロンガデセオ、ガンディーノ、グレイス城)。街にある教会だけでなく、フィールドにポツンと建っている一軒家の教会でももちろん流れています(レイドック東、上クリアベール西、海底ほか)。筆者は子供の頃にちょこっとだけオルガンを習っていたものの、本格的なチャーチオルガンのことはよく知らないのですが、これ4パートあれますよね。まず右側でメロが始まり、センターが追いかける(6秒〜)。続いて左でローの伴奏が加わり(12秒〜)、同じく左で高い方の伴奏が(31秒〜)。演奏者の右手・左手としても、まず一人では演奏できなさそうです。

1分ちょうどから始まるのがストリングスバージョン。同じメロディをオルガンではなく弦で演奏したものです。伴奏が重なっていくタイミングもほぼ同じ。ただ、オルガンバージョンとはパートの定位が左右逆になっています。芸が細かいですよね。オルガンは鍵盤の配置が左から右にかけて高い音になっていきますが、弦楽の場合、楽器の配置は左が高く右が低い音になります。しっかりと楽器の構造、配置をふまえて設計していることがわかります。もちろん音楽家さんたちはそういったものが頭に染み込んでいますから、無意識にやってるのでしょうけどね。ステレオ音場を最大限に活かしつつ、嘘はついてません。さて、このストリングスバージョンですが、ゲーム中ではグランマーズの館、占いの館、マウントスノー南の宿屋、スライム格闘場の水門小屋、ガンディーノ南・学者の家、ガンディーノ西・ヘルクラウドのほこらなどで耳にすることができます。教会ではないけど「ぬくもりの里に」ではちょっと・・・といった、謎めいた雰囲気を出したい場所に割り当てているようです。

ところで、なぜ「神に祈りを」は「奇蹟のオカリナ」をモチーフとして使っているのでしょうか?同じモチーフを用いる必然性はそれほど強く感じられません。無理に繋げるならば「祈り」を象徴したメロディだから、という理由が考えられます。さらに、「奇蹟のオカリナ」はミレーユが持っているアイテムで、そのミレーユはグランマーズの所で暮らしていました。グランマーズの館でも「神に祈りを」が流れていますよね。オープニングイベントで行動をともにしたきりの謎の女性と、サンマリーノで再会、そしてマーズの館へ。聴いたことのあるメロディを再度流すことで、ユーザーに「あれ、この人と会ったことあるよな……」と思わせる狙いもあったのかも。楽曲によってユーザーの想像力に訴えかけるのは、映像作品では定番の手法です。・・・とまあ、関連性はいくつか思い付きますが、作品全体の楽曲をモチーフで紡ぐことを試みた「VI」において、むやみやたらと異なるメロディを使うのはいかがなものか、という判断から、「神聖なもの」をこのメロディで括ったというのが妥当なセンでは?
24.ペガサス
・ニューゲーム開始直後、絶壁からムドーの城を窺うシーン
・下の世界でムドーを倒しに行く際、↑を再現するイベント
・レイドック王がムドー討伐へ向かい、にせムドーになるまで、を語る回想イベント
・ゲントの村、神殿内部
・ペガサス騎乗中BGM
曲名を見ればわかる通り、天馬の塔で天馬のたづなを手に入れた後、ゼニス王の祈りによって空を飛ぶことができるようになったファルシオンがゆったりと飛行する際に流れるものです。これで世界のどこにでも行けるゼ!という爽快感はなく、なんだかうすぼんやりとユウウツな感じ・・・・・・。それもそのはず、主人公たちはこれからゲームの最終目的地「はざまの世界」へ向かうのです。そこでプレイヤーは、人間の醜い姿を目の当たりにすることになります。そんな状況で、明るい音楽が流れたら雰囲気ブチ壊しです。そのため、どちらかと言うと暗い曲調になっているのでしょう。しかし、すぎやま氏らしく楽曲自体には神秘的な美しさも同居しています。楽曲の持つイメージとペガサスの移動感は「III」のラーミアに通じるものがありますね。

しかし、ペガサスに乗ることができるようになるのは、前述の通りゲーム終盤も終盤。それまでこの曲はオアズケなのかと言うと、ユーザーに「使い回し」を感じさせないよう配慮したうえで、ゲーム前半のイベントに流用されています。まずはニューゲーム開始直後、絶壁からムドーの城に出発するという場面(ミレーユがオカリナを吹くまで)。同じく、下の世界において同様のイベントを再現する際にも当然流れます。また、レイドック(下)の王がムドー討伐へ向かった時のことを語る回想シーンでも流れました。ゲントの村で神の船を祀る神殿内部に足を踏み入れた際にも使われており、曲の持つ神秘的な感じが「なにやらたいそうなモノが出てきたぞ」、と思わせてくれました。
25.勇気ある戦い
・ザコ戦闘BGM
・モンストルで、理性のタネを与えられ怪物に姿を変えるアモス、というシーン
・主人公と主人公の分身が対峙するところに、ライフコッドが魔物に襲われているという報せが来るイベント
・はざまの世界、秘密の湖で宝箱を奪い合い傷付け合う人々
・スライム格闘場、対戦中BGM
イントロからロック(byすぎやま先生)なドラムが炸裂する、通常ザコ戦バトル音楽。しかもベースは思いっきりエレキベースです。ゲームに必要であればオーケストラ楽器には固執しない、ドラムでもベースでも何でも使うよ、という姿勢が職人です。オケ好きなドラクエファンからはこの曲の評価は低いようですが、何のためのオーケストラバージョンですか?ゲーム音源まですべてオケ音色でやらなきゃいかんと誰が決めたんでしょう。逆にゲームバージョンが大好きなファンからは、オーケストラバージョンが不評のようです。うむむ、難しいもんですね。個々のアレンジを広く受け止めるおおらかさを持ちたいものであります。

そんな賛否両論のリズム隊に、プレイヤーを奮起させる勇ましいブラス、そして緊迫した戦いを感じさせる弦が重なり、バトルを盛り上げます。これらは全般にディレイで拡げられ、実際に使用している以上のパート数を感じさせてくれます。つまり「ブ厚い」ってことです。おっと、今さら言うまでもありませんが、この曲も「悪のモチーフ」を組み込んでいます。ゲームでは何度となくザコ戦を繰り返しますから、もう我々の耳には「悪のモチーフ」が染み込んで離れないですね。ボス戦やダンジョンの音楽もあるわけですから、それこそ百万回ぐらい「悪のモチーフ」を聞いたはずです(注:根拠なし)。それでいて決して飽きがこない。どんなに凝ったことをやっていようと、ユーザーに飽きられてはオシマイです。ゲーム音楽はプレイ中に何度も聴くことになるため、特に最も頻度の高いザコ戦音楽は、非常に製作に気を遣うのです。「悪のモチーフ」であっても「飽くのモチーフ」ではダメなんです。うっわ、さむ〜。

寒いダジャレはスルーしまして・・・、イベントでこの曲が使われることもありましたね。モンストルで理性のタネを与えたとたん怪物に姿を変えるアモス(すわ戦闘か、と思わせつつそうはならないニクい演出)、というのがイベント使用としては初出。その次は、やまはだの洞窟で対峙する主人公とその分身のもとに、ライフコッドが魔物に襲われているという報せが来るシーンで流れます。以後ライフコッドでは村じゅうが燃えさかるなかこの曲が流れ続けました。もうひとつは「欲望の町」絡みのイベント。この街に住む人々は宝を独り占めすることばかりを考えています。町の北西にある森に宝が眠るとは聞いたものの、湖の底にあるらしいそれに手も足も出ず。困り果てたところ、突如干上がる湖。われ先に!と水のなくなった湖になだれ込む人々は、醜い争いを始めてしまいます。そんな場面にもこの曲が流れたのでした。

なお、スライム格闘場での対戦にも流れます。
26.敢然と立ち向かう
トラック03「ムドーの城へ向かう」とほぼ同じ曲ですが、イントロがやや異なっており、「悪のモチーフ」で幕を開けています。対ムドー戦専用楽曲です。ショッキングなイントロの後、流れるようなストリングスと勇ましいブラスで展開していきます。大ボス戦音楽にしては緊迫感よりも勇壮さが強調されており、っていうかそもそもなんで「ムドーの城へ向かう」と同じなの?という疑問もおありでしょうが、答えは簡単、楽曲はこちら(プレイヤー)主観なんですね。立ち向かうのは誰ですか?ムドーじゃありませんよね。主人公たちです。「ムドーの城へ向かう」と同じく、正義感を奮い立たせて邪悪なものに立ち向かってゆく者たちを讃える曲なんです。イントロは我々を亡きものにしようと襲い掛かってくるムドーを表し、以後は「今回は以前のようにやられはしない!」と奮闘するパーティを支えます。

しかし、ムドーも黙ってやられてはくれません。楽曲にはところどころに「悪のモチーフ」が散りばめられており、強大な力を放ってくるムドーの反撃を思わせます。
27.魔物出現
・ボス戦BGM
いわゆるボス戦のバトル音楽。アタッキーなヒットから始まる典型的な「ドラクエボス戦音楽」になっており、高音の緊張したストリングスが引っ張る緊迫感は通常バトルとはまた異なるものです。通常バトルで多用していたドラムをあえて用いず、差別化を図っています。これも他の楽曲と同じく使用しているのは5パート程度だと思われますが、この豊かな表現力はどうでしょう。優れた音色と手の込んだ効果が一体となって、単純なトラック数以上の楽曲に聞こえます。「5トラック以内で、オーケストラのテュッティ全員がジャーンと鳴らしているような表現をすることも、プロのワザのひとつなんですよ」とはすぎやま氏の言葉。なるほど、ですね。

ゲーム中での初出は夢見の洞窟で戦うブラディーポ。「VI」はマップの広さやダンジョンの数から中ボスも数多く配置されており、この曲を聴く機会は多いですね。以下、この曲が流れるバトル一覧、どどん。

ホラービースト(アモール北の洞窟)、ポイズンゾンビ×3(月鏡の塔)、にせムドー(地底魔城)、ムドー1回目(ムドーの城)、ジャミラス(しあわせの国)、ミラルゴ(魔術師の塔)、グラコス(海底神殿)、まおうのつかい(ライフコッド)、ヘルクラウド(クラウド城)、キラーマジンガ&ランドアーマー(クラウド城)、テリー(クラウド城)、デュラン(クラウド城)、ホロゴースト&ランプのまおう&デビルパピヨン(天馬の塔)、アクバー+ガーディアン×2(牢獄の町)、ズイカク&ショウカク(嘆きの牢獄)、デスタムーア第一・第二形態(デスタムーア城)

クリア後の隠しダンジョンの最終ボス・ダークドレアムとの戦いでも流れています。隠しボスなら「魔王との対決」の流用もアリなのでは?という疑問もあると思いますが、実はダークドレアムを倒す際にある条件を満たすと、ダークドレアムがデスタムーアをやっつけてくれる、というイベントが発生するのです。そこでのダークドレアムVSデスタムーアのイベント戦闘で「魔王との対決」が流れるので、あえてダークドレアム戦は「魔物出現」にしてあるんですね。
28.魔王との対決
まさしくラスボス・デスタムーア第三形態との戦いで流れる、最終バトル音楽。ズーンという低音に導かれ、「悪のモチーフ」がイントロとなって始まります。ここまで伏線として様々な楽曲・場面に散りばめられてきた「悪のモチーフ」が完結するところでもあります。その後、低音の弦の刻みがリズム的に楽曲を引っ張っていき、通常戦闘の「勇気ある戦い」によく似たフレーズが変奏されるような感じで展開されていきます。いや、「勇気ある戦い」に似ているというよりも、どちらも「悪のモチーフ」を骨格としたうえで、これまで重ねてきた戦闘もすべてはこの時に至る経過点、という意味合いでしょうか。さすがに最終戦ということで、各パートがくどいぐらいに「悪のモチーフ」をリフレインして進行します。

後半は効果音も混ざった形での収録になっています。これはやはりサウンドチームの自信の顕れというか、効果音も凄いからぜひ聴いてほしい、というものでしょう。すぎやま氏も「最後の戦闘の音はホント、すごいよ」とのことで、ここでも効果+位相マジックが炸裂し、画面の前へと飛び出してプレイヤーに襲い掛かってきそうな効果音が秀逸です。とかく楽曲ばかりが語られがちな「ドラクエ」ですが、「VI」は効果音についてもっと評価されてもいいですね。

クリア後の隠しイベントでは、ダークドレアムがデスタムーアを倒すという展開もあります。この場合主人公たちは傍観者に徹し、なにもせずにエンディングを迎えます(そのためにはダークドレアムを速攻で倒さなければならないので、それなりの苦労はあるのですが)。そこでのダークドレアムVSデスタムーア戦でも、この曲が使われています。つまり、一貫して「デスタムーアとの対決」のみに充てられているんですね。流用は一切ナシです。
29.時の子守唄
エンディングのスタッフロールで流れる曲。具体的にはレイドックでバーバラが消えた後、画面が暗転すると流れ出します。アタマのショッキングなフレーズはクラウド城が浮かび上がるシーンで、これは主人公らと夢の世界との訣別を意味しています。作品全体を貫く重めのトーン、悲しげな雰囲気を内包するかのように、スカッと爽やかというタイプの楽曲ではないのですが、哀愁を帯びて奏でられる印象的なメロディはクリア後の余韻を味わうにピッタリで、どの「ドラクエ」シリーズとも異なる味わいをエンディングに持ち込んでいると思います。エンディングにしては短めの曲なのですが、この後場面はクラウド城へ。そこからは「序曲のマーチ」へと引き継がれるのです。「時の子守唄」を哀愁を帯びた曲調にしてあるのは、この「序曲のマーチ」との対比を狙ったものとも思われます。「時の子守唄」の後に華々しい「序曲のマーチ」が鳴り響く時の気持ちよさといったら、……言葉にできません。「時の子守唄」は「序曲」の前フリだったのか、と思えてしまうほどです。

ドラクエ音楽に興味を持っている人であれば、この「時の子守唄」がすぎやま氏の別の作品からの流用であることは既にご存知でしょう。ご存知ない方のために記しておきますと、アニメーション作品「劇場版科学忍者隊ガッチャマン」のための作曲をすぎやま氏が手掛けた際に生み出された、「時の子守唄〜レッド・インパルスのテーマ」です。「時の子守唄」というタイトルも既にこの時あったのです。ではなぜ、他の作品のために作られた曲を「ドラクエ」のエンディングに流用したのでしょうか?

その答えはすぎやま氏の言葉を借りるのが最もわかりやすく、かつ真実でしょう。原典こそ明かしていないものの、氏は「VI」発売時にこんなコメントをしています。「あの曲自体、実は十年くらい前からあたためてた曲なんですよ。時の子守唄、って曲なんだけれども、十数年前に書いて、なんかに使われたんだけど、ぶつ切れにされて、ろくな使いかたされなかったんで、返してもらってずーっと取ってあったの。この曲ぜひいい場面で再登場させたいってね。ドラクエVIのコンセプト見て、時の子守唄がドンピシャだった。これこそ出番だっていってね。本当に自信のあるメロディっていうのは、数年に一個ぐらいしかできないものなんですよ。時の子守唄がそうだったんです。英語題がエターナルララバイ。何か永遠を感じさせる子守唄ということで。これは、はまったと思うよ、ドラクエVIに。だから、ぜひとも皆さんにエンディングを迎えてもらって、聞いて欲しいですね」……つまり、「時の子守唄」という数年にひとつの自信ある曲が出来たのに、ガッチャマンでは(編集されたかなにかで)良い使い方をされなかった、それで終わらせるにはあまりに惜しい(ほど自信のある)曲なので、権利を返してもらって暖めておいた、「ドラクエVI」のコンセプトを見た時にここぞ出番だと思った、ということですね。

まあ言わなければわからないことかもしれませんが、世の中コアな方々がいらっしゃいますので、どちらにしてもこの「流用」は暴かれたでしょう。筆者としてはすぎやま氏自身の曲であることは間違いないし、作品に合っていれば流用そのものはまったく気にならないのですが、やはり否定的意見を持つファンが存在するのも確かです。安易な流用=手抜き、という印象を抱くのでしょう。まあこの後「VII」「VIII」と同様の流用が続きますので、そういった意見も理解できなくはありません。「せっかくのドラクエなんだから手を抜かないで!」という、ドラクエを愛するがゆえの否定的意見であり、それを批難するつもりはないです。が、こうは考えられないでしょうか?「せっかくのドラクエだからこそ、自信のある曲を出したいんだ」と。音楽家としてのキャリアの長いすぎやま氏ですが、数百万本を売り上げる「ドラクエ」シリーズは、音楽メディア(CD)やテレビ以上に自分の音楽をたくさんの人々に聴いてもらうことのできる「場」。「ドラクエ」は単なるゲームではなく、氏にとって発表会に等しいのです。だからこそ、過去に作ってきた「数年に一度の自信あるマイベスト」を、ここぞというエンディングに持ってくるのではないでしょうか。まあそろそろ「数年に一度の自信ある新曲」のエンディングも聴きたいですけどね。「V」は「結婚ワルツ」が使われたためエンディング専用曲がありませんでしたし。
30.ME集
(宿屋〜教会〜仲間〜レベル・アップ〜呪い〜セーブ〜アイテム〜ファンファーレ1〜
 ファンファーレ2〜ファンファーレ3〜ミステリーハープ〜フィーバー〜ロール・登場)
サントラ盤で嬉しい要素がこの「ME集」です。ゲームに登場した、きわめて短い効果音的な小品たちもメドレー形式でバッチリ収録されています。それがこのトラック。もちろんこれらの「ME」も、「音階のあるものはすべて僕が作る」というすぎやま氏の手によるものです。音階がある以上はそれも立派な楽曲であり、人まかせにはできないという氏のこだわりと職人芸が生んだMEは、新規のものをのぞいてシリーズで代々受け継がれてきた、ファンおなじみのもの。シリーズを重ねるごとに新しいものが追加され、そして定番となってきました。これらのアイテムはもう「序曲」と同じぐらい「ドラクエ」に欠かせない存在なんです。

宿屋」は宿屋に宿泊した際や、「そして夜が明けた」などのメッセージとともに流れるME。プレイヤーにとっては回復の象徴であり、ホッとさせられるMEですね。「教会」は教会における蘇生・治療MEとしての使用以外に、ダーマの神殿における転職時にも鳴ります。「仲間」は「II」から登場した由緒正しいMEで、パーティに新たな仲間が加わる際に流れるもの。本作ではハッサン・ミレーユ・バーバラ・チャモロ・テリーらパーティキャラのほか、NPCであるアモスやドランゴ、クリムトが仲間になる際にも流れます。また、ハッサンと協力して馬(ファルシオン)をつかまえた際にも耳にすることができます。

レベル・アップ」は主人公がレイドックの兵士テストに合格する場面や、きこりの頼みでハッサンが木造の小屋を見事に完成させる場面でも流れます。また、「自分探し」をテーマとする本作では、ハッサンが自分の実体を取り戻し「せいけん突き」を思い出す所、主人公が同様にライデインを思い出す場面でも使われています。さらに氷の洞窟入り口の合言葉に正解した時にも鳴り響きました。これは「正解!」というニュアンスですね。

呪い」もシリーズおなじみにして、ユーザーから最も恐れられているME。呪い系装備を身に着けた時はもちろん、セーブデータが消失した際にも流れます(これが忌み嫌われる理由)。「V」では「呪い」が数箇所でショッキングタッチ的に使われていましたが、本作は「悪のモチーフ」があるためかイベント等で耳にすることはありませんでした。

セーブ」は教会で冒険の書への記録を行った際に流れるオルガンのME。これもおなじみですね。「アイテム」は特別なアイテムを入手した際のきわめて短いME。「IV」「V」で使われたものとは変えられており、スーファミ版「I&II」から採用されたものになっています。

ファンファーレ1」はスライム格闘場で、各ランクの1、2回戦の勝ち抜き時に流れるもの。3回戦の勝ち抜きは「ファンファーレ2」が充てられています。ランクGで優勝し、なおかつチャンプに勝利すると「ファンファーレ3」を聴くことができます。これらファンファーレはファミコン版「IV」から登場したもので、既にファンの耳には定番となっていますね。もちろん本作でもカジノでの「当たり」に使われており、儲け率に応じて3つのファンファーレが使い分けられています。少ない元手で大きく勝てば、より盛大なファンファーレが流れるのです。ポーカーでチマチマ稼いでる程度だと「ファンファーレ1」ばかり聴くことになりますよ。ドーンとダブルアップせんかい!

ミステリーハープ」はその曲名から「そんなアイテムあったか?」と思ってしまいますが、マーメイドハープの音色ですね。あわあわ船で海に潜る時のハープです。「フィーバー」はカジノのスロットで流れる愉快なMEで、カジノで流れているBGM「ハッピーハミング」同様に街アレンジになっているのです。あえてファミコン風というか「ゲームの音」っぽい音色にしてあるのは、実際のスロットを意識してのものでしょうか。過剰なディレイで拡げられた音場が、カジノの賑わいを感じさせます。「ロール・登場」はベストドレッサーコンテストの審査結果発表のアオリに流れるドラムロール。「優勝は……」のタイミングで「ジャン!」となります。なお、その結果プレイヤーが優勝すると「ファンファーレ2」が流れます。ベストドレッサーコンテストのランク8で優勝すると、「ファンファーレ3」が盛大に鳴り響きます。
未収録曲
・「哀しみのとき」木管バージョン
 カルカドの昼間BGM(ジャミラス撃破前)、クリアベール教会のイベント(ジョンの両親)
クリア後隠しイベントの楽曲配分
ダンジョン前半→「暗闇にひびく足音」
初めてデスコッドに到着した時(夜)→「フォークダンス」
デスコッドが真の姿を現してから→「木漏れ日の中で」
ダンジョン後半→「暗闇にひびく足音」
ダークドレアムのいるフロア→「ムドーの城」
ダークドレアム戦→「魔物出現」
ダークドレアムVSデスタムーア第一・第二形態→「魔物出現」
ダークドレアムVSデスタムーア第三形態→「魔王との対決」
以後は通常のエンディングと同様の流れ

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ゲーム音源はもう手に入らない?!