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組曲「ドラゴンクエスト」
ジャケット画像  家庭用ゲームに、初めて「RPG」というジャンルをわかりやすく翻訳し、広く普及させた「ドラゴンクエスト」。堀井雄二、鳥山明、中村光一といったクリエイターが集結したのは、偶然か?必然か?そしてそこに、すぎやまこういちという稀代の名作曲家が参加することになったのも、今にして思えば運命のようにも思える。今日まで続く、「ドラクエサウンド」の原点がここにある。

アポロン音産
BY30-5121(CD)廃盤
AY25-5(LP)廃盤、KSF1476(カセットテープ)廃盤
1986年 
JASRAC表記:
あり

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ゲーム紹介

 1986年5月27日、一本のファミコンソフトが発売される。その名は「ドラゴンクエスト」。ジャンルは、RPGというものらしい。1986年といえばファミコンブームは絶好調、グラディウス、スターソルジャー、ツインビーなどシューティングゲームが盛んで、また、前年の85年に発売された「スーパーマリオ」の影響もあってか、アクションゲームのリリースが相次いでいた。その状況で「RPG」である。ファミコンゲーマーにはおよそ馴染みのない言葉だった。いったいそれは、何なんだ?新しもの好きなゲームキッズの間で話題になると同時に、漫画家・鳥山明氏のイラストを前面に押し出したビジュアルはジャンプキッズの心をも捉えて離さなかった。それでも、大多数のユーザーにとっては「様子見のゲーム」でしかなかった。RPGというジャンルに対する免疫があまりに低かったのである。

 結果として、ファミコン版「ドラゴンクエスト」は発売と同時に70万本を売り上げる。しかし、当時にしてみればそれは「まあまあかな」という成果でしかなかった。あの頃は、出せば100万本売れることも珍しくはなかった時代だったのである。しかし、この時購入したユーザーから口コミといった形で「ドラクエ、面白いぞ!」という評判が拡がり、次第に店頭で「ドラクエ」は品薄状態になっていく。しかたなく、ある者たちはソフトを持っている友人の家にたむろし、みんなでプレイした。ある者は、追入荷されるソフトを狙って、ゲーム店に入り浸った。結果、「ドラクエ」は最終的に150万本を売り上げ、ヒットタイトルへの仲間入りを果たすとともに、それまでパソコンをのぞく家庭用ゲーム機には存在しなかった、RPGというジャンルを広く認知させることに成功した。今日のRPGが業界でトップシェアを誇るジャンルとなったのは、この「ドラゴンクエスト」があったからに他ならない。「ドラクエ」の功績はかように大きいのだ。

 ゲームデザインは、「ポートピア連続殺人事件」の堀井雄二氏。キャラクターデザインは「Dr.スランプ」「ドラゴンボール」の漫画家・鳥山明氏。プログラムは、今や「不思議のダンジョン」やサウンドノベルで有名なチュンソフト社長・中村光一氏。そして音楽は……たまたま、以前にエニックスのゲーム(森田将棋)をプレイし、そのアンケートハガキを出していた、作曲家すぎやまこういち氏。「ドラクエの音楽を誰にやってもらうか?」という段階で、たまたまそのアンケートハガキが目にとまる。「これって、あのすぎやまこういち?」ということで、ダメモトで依頼してみたら快諾!という流れで、すぎやま氏は今日まで「ドラクエ」の楽曲を作り続け、和製RPG作曲家のドンとして君臨し続けているのだ。おそらく、ドラクエの音楽は「スーパーマリオ」と並び、最も有名なゲーム音楽であるはずだ。

 しかし、それでも当初はすぎやま氏を迎えることに反対する声もあった。他でもない、プログラム担当の中村光一氏である。当時は、音楽を外部の作曲家に依頼すること自体が珍しく、まだまだプログラマーが音楽を兼任することも多かった時代。中村氏としては、「ゲームを知らない人に任せても良いものにはならない」という不安があったのだ。ある一説によると「ドラクエ」には当初、チュンソフト内部のスタッフによるまったく別の音楽が用意されていたとも言われている。しかし、どうもそれがエニックスサイドとしては「いまひとつ」だったらしく、特に社長である千田幸信氏が「この音楽じゃダメだ」と猛烈にダメ出ししていたという。「なんとかプロの作曲家に依頼できないか」……。そんな時、千田氏がたまたま目にしたのが、エニックスが発売していた将棋ゲームのアンケート葉書。そこにはなんと「すぎやまこういち」の名前が……。「これって、あのすぎやまこういちか?」ということで、ダメモトで「ドラクエ」の音楽を依頼してみたところ、すぎやま氏はふたつ返事で引き受けたというのだ。そうなると、納得のいかないのは中村光一氏。ところが、今でこそ有名な話ではあるが、実はすぎやま氏は自他ともに認めるゲーマー。自宅のゲームコレクションは、ヘタなゲーマーが尻尾を巻いて逃げ出すほど。実際にすぎやま氏と会って話をした中村氏は「自分よりはるかにゲームに詳しい」すぎやま氏に驚き、彼に音楽を任せることに同意したという。その信頼が不動のものであることは、チュンソフト製「トルネコ」シリーズの音楽もすぎやま氏が担当している事実が証明しているだろう。

 だが、すぎやま氏に依頼があった時点で開発は終盤も終盤。実際に氏に与えられた作曲期間は、氏みずから語るところによるとわずか一週間だったそうだ。今のゲームに比べると曲数は少ないものの、それでも城・街・フィールド・洞窟・バトル、さらにラスボス戦、そしてオープニングテーマとエンディングである。シリーズ化を意識していたかどうかは定かではないが、すでにボツとなったチュンソフト内製の楽曲があったのだから、当然それを超える楽曲を作らなければならなかったはずだ(その内部事情を氏が知っていたかどうかはわからないが)。さらに、忘れてはならないのがME。レベルアップを始めとする短いブリッジ音楽も作らなければならなかったのである。すぎやま氏はCM音楽を手掛けてきた経験上、突発的な依頼に短時間で対応する術を心得てはいただろうが、ゲームは初めてのこと。そのような条件のなか、今でも我々の心に深く刻み込まれている名曲の数々を生み出したことは、賞賛するほかない。

 ファミコンはご存知の通り、効果音も含めて音には3トラックしか使えない。ゲーム畑ではないすぎやま氏にとっては苦痛な仕事かと思いきや、むしろパズルのように楽しんで作れたというのだから驚きだ。3トラックということは、余計な装飾やゴマカシが入れられず、そういったものを排除してもなお「シンプルで良い音楽」を作る必要がある。それは、本当の意味で作曲家の腕が問われることを意味している。すぎやま氏にしてみれば、「腕が鳴る」ということなのだろう。また、3トラックとは言っても効果音の入らないオープニングやエンディングであれば、それをフルに使っても問題はないが、ゲーム中は効果音も鳴ることを考えると、ほとんどの曲を2トラックで仕上げる配慮も求められた。氏は常に楽譜のタテに2つ以上の音が重ならないように計算していたという。そしてこのクラシカルな雰囲気。チュンソフト内製の音楽がどのようなものだったか知る術はないが、おそらくそれとはまったく異なる仕上がりに堀井氏らも驚いたことだろう。

 そこで、このCDの登場だ。このCDには、ゲーム中で使用するために作った楽曲を、すぎやま氏がみずからオーケストラスコアとして編曲し直したものを「交響組曲」として収めている。当然、ファミコン音源と比べるまでもなく豪華なものになってはいるが、聴き比べてみれば、根底にあるスピリットは変わっていないことがわかるだろう。これは決して「ゲーム音源でイマイチだった曲を、豪華に作りなおしました」という位置付けではない。「本当はこうだったんだよ」という言い訳のようなものではなく、もっと前向きに音楽としての完成度を高めたもの、そのように解釈して聴き込むべきだろう。つまり、ファミコン音源とオーケストラバージョンは、同列なのだ。どちらが優れ、どちらが劣っているわけではない。どちらも等しく「ドラクエの音楽」なのである。

 演奏は、東京弦楽合奏団。もちろん、指揮はすぎやまこういち氏が担当している。オーケストラ録音は以後のシリーズでもおなじみの行方洋一氏による。残念ながらこのCDは廃盤となっており、入手が非常に困難ではある。しかし、ドラクエ音楽を語るのであれば決して欠くことのできない一枚だ。後にロンドンフィルが演奏しているもの(スーパーファミコン版)との編曲・解釈の違いも興味深く、「ドラクエ」を通してクラシック音楽を紹介していこうというすぎやま氏の意欲が垣間見えてくる。中古CDショップやオークションを利用してでも入手する価値はあるだろう。このCDのレビューでは、ライナーノーツですぎやま氏みずからが行なっている曲解説も併せて紹介していこう。

歴史的名作は、きちんとゲームもプレイしておきたいですね。
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01 序曲
OVERTURE MARCH
おそらく、日本で最も有名なRPG音楽であると同時に、ゲーム音楽としても誰が聴いてもわかる、ドラゴンクエストシリーズのメインテーマです。ご存知の方も多いと思いますが、この曲は「I」から「III」までと、「IV」以降ではイントロが大きく変化します。ファミコンの頃から「ドラクエ」をプレイしてきた人にとっては、このバージョンのイントロの方が思い入れは大きいことでしょう。かく言う筆者も、カセットテープがワカメになるまで毎日のように聴きましたね。当時はまだCDというメディアが出たばかりの頃で、このアルバムもレコード、カセットともに発売されていたのです。

実は、このイントロにすでに、すぎやま氏のこだわりが現われているのです。オーケストラバージョンやスーパーファミコンでは明らかにホルンの音がしているわけですが、ファミコンではそうはいきません。が、ファンにはファミコン音源でもホルンに聞こえる。その秘密は、すぎやま氏のこんな言葉で明かされていました。「あのフレーズがホルンでやるといちばん似合う典型的なフレーズだから。ホルンらしい音形だから、ファミコンの音色でやってもホルンに聞こえるんだね。だから、(音色うんぬんよりも)いい楽曲、いいフレーズを作ることが、まず大事なの」。ドラクエを通して、クラシック音楽の素晴らしさを伝えたい……そんな願いが、この言葉にすべて表れているような気がします。

そんなホルンの勇ましいイントロに続いて、弦楽合奏を中心とした瑞々しいさわやかな演奏(0'12"〜)。そしてリピートでは、フルオーケストラの圧倒的な迫力を十二分に発揮します(0'44"〜)。続く「展開部」と言われる間奏(1'16"〜)はゲーム中にはなかったもので、メインのモチーフを印象的に用いながら進行していきます(この間奏は「II」からはなくなります)。そして最後にもう一度主題をリピートし(2'22"〜)、クローズとなります。驚くべきことにこの一度聴いたそばから口ずさめるメロディ、すぎやま氏はこれを生み出すのに5分とかからなかったとか。作曲期間1週間という制約があったにしても早すぎます!ただし氏いわく、その5分は「54年+5分」とのことで、蓄積があるからこそ可能であったと語っています。

ここからトラック8までは、すぎやまこういち氏がみずから指揮した、東京弦楽合奏団の演奏によるオーケストラバージョンが続きます。

すぎやまこういち氏の解説:
森に響きわたる狩人の角笛、それに続く勇壮な行進曲。君の冒険への旅立ちを祝福します。
02 ラダトーム城
CHATEAU LADUTORM
カルテット(弦楽四重奏)による、「城」のテーマ。強弱を付けて情感タップリに演奏するストリングスは、美麗のひとこと。このあたりは東京弦楽合奏団にしてみればお手のもの、という感じではないでしょうか?いかにもクラシカルなイメージの楽曲は、クラシック音楽にあまり縁のないゲーム・キッズたちに、その素晴らしさを伝えるには充分すぎるものでしょう。「ドラクエ」がRPGというジャンルをわかり易く翻訳して人々に広めたのと同じく、ドラクエ音楽は「多くの人に、クラシック音楽を、わかりやすく」というすぎやま氏の願いのもと作られているのです。

そもそもすぎやま氏が「ドラクエ」の音楽をこのようにクラシカルなものとしたことには、理由があります。氏は作曲にあたり、プログラマーの中村氏に「どういう舞台のゲームか」を尋ねました。「ひとことで言えば、中世ヨーロッパの騎士物語」との返事を得たすぎやま氏は、クラシック調でいこうとすぐに決断。それを知らない堀井氏や中村氏としてはとうぜん、「ゲームっぽい曲が上がってくるだろう」と思っていたわけですが、実際に仕上がった曲を聞くとそのあまりのクラシックぶりに第一印象では「ドット絵なのに音楽だけが凄すぎないか」「ゲームと会わないかも……」と思ったそうですが、実際に乗せてみると「いいね!」「会うね!」となったとか。

また、「ドラクエI」は後のRPGにおける、ゲーム音楽の基礎となったことも忘れてはいけません。「城」「街」「洞窟」などの統一されたテーマは、当時のROMの容量の限界からくる制約であったかもしれませんが、逆にプレイヤーに残す印象は強烈なものだったはずです。また、後に続いた多くのRPGが、こぞってオーケストラを意識した楽曲を採用したことも、ドラクエの影響によるものだと断言していいでしょう。ドラクエ、およびすぎやま氏がジャパニーズRPG(ドラクエのフォロワー)に与えた影響は計り知れません。もし本作の楽曲をすぎやま氏が担当していなかったら。もしもチュンソフト内製の楽曲が採用されていたら。日本のゲーム音楽は今とはまったく異なる展開を見せていたかもしれませんね。

すぎやまこういち氏の解説:
壮麗な城内、王様の威厳、きらびやかな宮廷のサロン、優美な王女様。バロック調の音楽です。
03 街の人々
PEOPLE
こちらも、弦を中心とした「街」のテーマです。流れるような弦楽アンサンブルは、じゅうぶんに気品を感じさせながらも、跳ねるようなピチカートは軽快で楽しげ。オーケストラは荘厳なだけじゃないんだぞとばかりに、幅広い表現力を実感させるにはうってつけの楽曲です。お城の曲との差別化も見事のひとこと。城は荘厳な雰囲気を重視しているのに対し、同じ弦楽でも街は楽しげに。こういったタッチの変化をそれぞれの曲につけることによって、プレイヤーは「今、どこにいるのか」という判別を無意識のうちにすることができます。

間奏にあるピチカートによる部分はもちろんオーケストラ編曲の際に加えられた部分ですが、スーパーファミコン版「I」ではこの部分を名前入力画面で使用することになります。こういったオケ版でのアレンジも、時を経てゲームに還元されていっているのです。

この曲だけでなくアルバム全体に言えることなんですが、この豊かでいて上品な残響は、もっと賞賛されて良いのではないかと思います。ライナーノーツに掲載されている使用機材一覧にはエフェクターの類はないので、ホールリバーブだと思われます。つまり、完全に収録時の残響ですね。録音は尚美学園バリオホール(東京・御茶ノ水)で行なわれていますが、このホール、当時最新の「ホール内の残響を目的に応じて可変できる」というもので、この「組曲ドラゴンクエスト」は残響時間を「最大」にして録音しているようです。当然マルチトラック録音ではなく、ステレオ一発収録ですから、このような豊かなアンビエンスと一体感のある録音となったのでしょう。CDが出始めの頃なのでマスタリングは甘いところがあるものの、録音は非常に優れたものであると筆者は感じています。

すぎやまこういち氏の解説:
街路を行き交う人達、教会の広場に集う善男善女、市場の喧騒。人々の中から自然に生まれたヨーロッパ民謡。そんな雰囲気の曲です。
04 広野を行く
UNKNOWN WORLD
これこそ、ファミコンRPGフィールドBGMの元祖。街を出て、ひとり広野を行く時の不安と寂しさを何倍にも増幅させてくれます。ここでもまた、同じ弦楽でありながら城・街とは異なる曲調をしっかりと盛り込むことによって、場面の区切りを音のうえでも明確にしてくれています。このなんとも不安げで寂しい雰囲気は、パーティという概念がまだなかった、一人旅スタイルの「ドラクエI」ならではの曲と言えるでしょう。ただし、そういった不安・孤独感といった中にもしっかりと曲としての美しさが盛り込まれているのは、さすがとしか言いようがありません。ただ寂しいだけの曲では、ここまで歴史に残るものにはならなかったでしょう。

何の予備知識もなく聴くと寂しすぎるこの曲に対して「いかがなものか」と異を唱えたのは他でもない堀井氏、そしてやはり中村光一氏だったようです。「冒険に行くという感じがぜんぜんしない」という評価をすぎやま氏に返したそうですが、一方でかなり切迫した状態で作曲していたとは言え、すぎやま氏はこの曲に絶対の自信があったらしく、最終的にダメなら作り直すとして「とりあえずテストROMに乗せてプレイしてみてくれ」と説得。3日後に「やっぱりこの曲でいい」、と言ってきたのは中村氏の方でした。いわく、「テストプレイヤーたちがみんなこの曲を鼻歌で歌ってるんですよ!いいですね、これ!」。ゲームをしながら、そしてゲームをしていない時でもつい口ずさんでしまう音楽。それこそベストだったのです。

フィールドにおけるBGMをすべてこれに統一したことは、前述の通り容量の制約からくるものだったかもしれませんが、実はこれこそが、謀らずも後の「II」「III」への大きな伏線となりました。「II」「III」では、「アレフガルドにて」という題名でこの曲が顔を出します。「I」のフィールドでこの曲が強い印象を残したおかげで、後の作品でこの曲が流れると、プレイヤーには「あっ、この曲は!ということは、ここはアレフガルド?!」という驚きと、なんとも言えない郷愁感が訪れるのです。これは、もしも場所によってコロコロ音楽が変わっていたなら、決して味わうことのできなかった感覚でしょう。また、「III」ではラスボス音楽にもこの「広野を行く」のモチーフが使われ、言わば「ロト編のモチーフ」といった意味付けがなされていくようになります。

曲数が増えると、パッと見はゴージャスに思えるかもしれませんが、実は一曲一曲に対する印象というものは薄れてしまうものです。そういう意味で「ドラクエ」は、ゲームのボリューム:曲数の点ではベストなバランスだったのではないでしょうか。

すぎやまこういち氏の解説:
いよいよ旅立ちです。広々とした草原、深い森、荒涼たる荒れ地。未知の世界が君の目の前に広がってきます。冒険への期待と一抹の不安、無限にどこまでも続く新しい世界。無窮動、つまり終わりのない音楽です。
05 戦闘
FIGHT
ひとり寂しく広野を進んでいると、突如として出現するモンスター。ドラクエシリーズの大きな特徴である、漫画家・鳥山明氏によるどこか愛嬌のあるモンスターたちも、この曲を伴うことによって何倍にも手強く、脅威的に感じさせられます。「ドラクエI」のバトルは例外なく主人公VS魔物の一騎打ちですから、他に頼るものがない、攻撃も回復も一人で行わなければならない緊張感は昨今のRPGでは味わえないものです。

雄叫びを上げるような金管群と、緊迫感を煽る弦の刻みが、ゲーム音源以上の焦燥感・危機感を感じさせてくれます。城や街、フィールドの楽曲を弦楽で統一しながら、戦闘でバーンと金管を鳴らすことで、ショッキングとも言えるインパクトを生み出しているのです。さらに、ゲーム音源にはなかった静かな中間部(0'45"〜)が加わることで、リスナーのイメージをよりいっそう膨らませてくれるのです。オーケストラアレンジにはこういった、「ゲームでの冒険の想い出をより生々しく、増幅したイメージとして感じる」楽しみもあるのです。そして、こういった組曲ならではの要素はスーパーファミコン版へと還元され、ゲーム音楽そのものもクオリティアップしていくのです。

すぎやまこういち氏の解説:
魔物との死力を尽くした戦い。こうした困難を乗り越え経験を積んで君は成長して行きます。君の人生に苦しいことがあった時はこの音楽を思い出して下さい。
06 洞窟
DUNGEON
フィールド以上に、孤独感と不安を増幅するダンジョン音楽。意図的な不協和音の採用で、聴く人に言いようのない恐怖感を与えています。そんなおどろおどろしいストリングスの音程とテンポがだんだん低く、遅くなっていき、ダンジョンの奥深くまで進めば進むほど、不安もまた増していくような仕掛けが施されています。ゲーム中でもこの仕掛けはしっかりと再現されており、「ずいぶん深くまで来たんだな」と、プレイヤーに耳で判断させてくれたのです。

なお、オケでは弦になっていますが、ファミコン音源での低音による演奏も、抜群のおどろおどろしさを放っていました。ファミコン音源の魅力は、生楽器では置き換えのきかない独特な音色にあるのでしょう。

ファミコン版のダンジョンは本当に真っ暗で、たいまつを灯したとしても明るくなるのは自分の周囲だけ。有効時間も非常にシビアで、ダンジョンの探索においてはどれだけたいまつを持って行けるかが重要でした。そんなダンジョンで出会うモンスターは、また格別の強敵といった感じで、コントローラーを握る手にも力が入るというものです。この曲は、そんな不安をいやというほど増幅してくれました。後の作品ではそういった緊張感は薄れてしまいましたね。

すぎやまこういち氏の解説:
悪魔の住む不気味な洞窟。奥深く進む程次第に音程が低くなっていきます。恐怖との戦いです。
07 竜王
KING DRAGON
「ドラクエI」のラスボスである、変身後の竜王との戦闘音楽です。ラスボスは一度以上姿を変えるというRPGの伝統も、すでにここに始まっていました。一般的には「ボス音楽は通常戦闘よりもさらに激しく」という傾向がありますが、実は元祖「ドラクエI」においてはそうでもありません。煽り立てるというよりはむしろ、シンプルでありながらも低音を中心とした「刻み」による威圧感・緊迫感が重視されており、音数は少ないながらも絶大なるインパクトを与えることに成功していると言えます。もちろん通常戦とは異なる音楽が初めて流れる戦闘となるわけで、それだけでもプレイヤーに「これは今までの戦闘とは違う!」と認識させるにはじゅうぶんでした。

オケ版では弦による刻みをベースに、竜王の強大さを感じさせる威圧的な金管が、圧倒的なボスである竜王という存在をこのうえなく表現しています。時折ドラが激しく鳴り響きますが、すぎやま氏によればこれ、「ドラゴ〜ンと鳴るからドラゴン、即ち竜王」ということです……ファンサービス的なギャグなのかもしれませんが、すぎやま氏は本気でそういう気の利いたシャレを考えながら作曲していそうでもありますね。

すぎやまこういち氏の解説:
炎を吐き戦士を打ち倒す竜王。東洋から来た怪物です。東洋的な力を秘めた音楽です。
08 フィナーレ
FINALE
圧倒的な達成感のある、プレイヤーを賞賛するエンディング曲。世界には平和が訪れた……そして新たな旅に出る勇者。そんなあなたを、この曲が送り出します。そしてそれは、以後のドラクエシリーズへと続く、壮大なオープニングでもあるのです。

栄誉を称えるファンファーレ的なブラスと、流れるようなストリングス。そして主人公の足取りをイメージさせる軽快なタンバリンと、曲全体がとにかく前向きで明るく、一点の曇りもありません。RPGのエンディングは時とともにどんどんと長大化が顕著になっていきますが、これぐらいの長さで歯切れ良くスパッと終わるシンプルなエンディングこそ、むしろ我々に大きな余韻を残してくれるのかもしれません。そういう意味では余計なものを語らない、ストレートすぎるこの曲は、シンプルにしてベストではないでしょうか。個人的にはドラクエのエンディングで1、2を争う名曲だと思っています。

聞き込めば聞き込むほど、「序曲」の変奏に聞こえてきてしまうのもこの曲の特徴ではないでしょうか。ファンファーレの音符の並び方、主題への入り方、そしてコーダへの繋がり方、どこを切っても個人的には「あえて合わせてあるのではないか?」と思えるほどに「序曲」と共通したものを見出してしまいます。気のせいかもしれませんけどね。

すぎやまこういち氏の解説:
いよいよ終曲です。儀仗兵の吹き鳴らすファンファーレが君を迎えてくれます。勇気を持って何かを成し遂げた時の感動、君の人生にもいつかきっとある筈です。この曲は君の勝利への賛歌です。
09 ドラゴンクエスト
ゲームオリジナル
    サウンドメドレー
当時はまだ、ゲーム機(=ファミコン)が鳴らす音楽に、音楽としての市民権が与えられていなかった時代。今でこそ珍しいことではありませんが、ファミコン音源による曲を単一のトラックに収めることは稀でした。そういった背景からか、ゲーム音源はこのようにゲームのストーリーをなぞるように紡がれていたのです。効果音も入っていますが、当時の記憶が鮮明に蘇ってくるという点では、こういった形態もあって然りなのかもしれませんね。

逆に言えば、今となってはファミコン版のゲームをプレイする以外では、ファミコン音源による「ドラクエI」の音楽を聴けるのはこのトラックぐらいのものです。さあ、あなたもこのトラックで再び、アレフガルドに旅立ってみませんか?懐かしいファミコンの音に耳を澄ませば、きっと「あの頃」にタイムスリップできるはずですよ。
シンセサイザーバージョン
09 ドラゴンクエスト
   オープニングテーマ DRAGONQUEST
   OPENING THEME
ここからは、シンセサイザーで演奏したバージョンを収録。言ってみればオーケストラとゲーム音源の中間的なもの。演奏クレジットがすぎやま氏になっているところを見ると、レコード化にあたって新たに製作したものというよりは、彼が作曲時にスケッチとして作ったシーケンスデータを使用しているのではないでしょうか?すぎやま氏がスタッフに聴かせるために、作った曲をシンセで鳴らしてデモを作るということは有名な話です。その作業は今日でも行なわれています。

おなじみのオープニングテーマは、いかにもシンセ!という感じの元気なブラスで幕を開けます。オケ版とは対照的に、弦楽器が一切出てこないあたり、ゲームでの演奏形態を意識したアレンジである気がします(推測にすぎませんが)。そう考えると、オケ版での「間奏」がないのにも納得です。ゲーム製作後(オケ編曲後)なら、シンセバージョンにも間奏があって然りではないでしょうか。
11 ドラゴンクエスト
   ラダトーム城 DRAGONQUEST
   CHATEAU LADUTORM
オケ版とはだいぶテイストの異なる、チェンバロ音色とチャーチオルガンでの演奏による「城」の音楽。妙に宗教的というか、典型的なバロックのイメージになっています。ファミコンで弦楽器を表現するのは難しく、こういったアタックの強い音色でシミュレートした方が、ゲームで鳴った時のイメージを想定し易いのでしょう。
12 ドラゴンクエスト
   街の人々
DRAGONQUEST
   PEOPLE
メインのメロディをフルートのような音色で奏でる「街」のテーマ。エレピやトライアングルなどが脇を固め、人々が行き交うにぎやかな街をイメージさせます。特筆すべきは、シンセベースが低音部を受け持っている点。これ、後の「ドラクエII」のオケ版(東京弦楽合奏団版)に通じているんじゃないかと思うんですが。
13 ドラゴンクエスト
   広野を行く
DRAGONQUEST
   UNKNOWN WORLD
ボーカリーズとベル音色で奏でられ、きらびやかな感じの増した「広野を行く」。間奏部分もなく、ゲーム中で鳴っているものの骨組みはここで完成しています。ってデモであることを前提に書いてますが……。見当違いだったらどうしましょ。
14 ドラゴンクエスト
   戦闘
DRAGONQUEST
   FIGHT
ベースとエレキギター(の、シンセ音色)が前面に出され、ドラムも加えられた戦闘の曲。ゲームでのインパクトというか、アタック感を重視したアレンジになっています。このあたりも、非常に「ドラクエII」に通じるテイストなんじゃないかなーと思います。
15 ドラゴンクエスト
   洞窟
DRAGONQUEST
   DUNGEON
木管系音色を中心に構成されたダンジョンのテーマ。徐々にテンポが落ちていくあたりも原曲に忠実です。この曲で特筆すべきなのは、なんともイメージ重視な構成になっていること。洞窟を吹き抜ける風、どこかでしたたり落ちる水滴、洞窟内を流れる川……そんな効果音が散りばめられているのです。妙に生々しく、薄暗い洞窟を歩いている気分にさせられます。
16 ドラゴンクエスト
   竜王
DRAGONQUEST
   KING DRAGON
低音のシンセブラスを中心にまとめられた竜王のテーマ。カキーン、キーンというSEが全体に挿入され、勇者の剣と竜王の固い表皮のぶつかり合いをイメージさせます。さらに竜王の吐く炎と思われる効果音も加えられ、迫力はじゅうぶん。きっと、勇者と竜王の戦いはこんな激戦だったのだろうな、と感じさせられます。ドラも鳴ってるし(笑)。
17 ドラゴンクエスト
   フィナーレ
DRAGONQUEST
   FINALE
シンセによるフィナーレ。暖かい感じの音色でまとめられており、平和の訪れを感じさせてくれます。途中からドラム・ベース・ギターが加わってくるあたり、やっぱりすぎやま氏はポップスの人だな、なんて思ったりもして。ある意味、初期のドラクエではオーケストラサウンドに対する固執は、今ほどなかったのではないかと思います。最近では「ドラクエ=オケ」というイメージが定着していますが、この頃は「合っていれば何の音でも使う」というような柔軟さがあったように思います。

東京弦楽合奏団バージョンが再販されました!
組曲「ドラゴンクエストI・II」 すぎやまこういち
パッケージ画像  長らくコレクターズアイテムとして、数少ない中古品が競って買い求められてきた「東京弦楽合奏団」による「元祖・組曲」が2009年、キングレコードから再販されました。残念ながらオリジナルサウンドメドレーとシンセサイザーバージョンは省かれてしまいましたが、なんと「II」とのカップリングとなっています。あくまで「組曲」であることを前面に出した形ですね。

キングレコード
KICC-6371
2009年10月7日発売 
JASRAC表記:
あり

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