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FIST(フィスト)

ジャンル:格闘アクション
制作:イマジニア
SLPS 00538

1996年11月22日発売
定価:6800円

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検索などで直接いらした方、当サイトは「GAMERS EDEN」です。
企画  黒田 愛実     プロデューサー  飯田 就平
ディレクター  本間 一郎 演出  桑原 康臣
キャラクターデザイン/作画監督  池田 裕治 プログラム  修理 亘
モデル作成  五十子 孝史 ムービー  OMI
サウンド  玉山 文人

史上最強アイドル決定オーディション開催!
本作「FIST」は1996年にリリースされた、プレイステーション用格闘ゲームです。格闘ゲームと言ってもいろいろありますが、さらに細分化すると「FIST」はアニメ絵美少女系、ということになるでしょうか。パッケージ表面のイラストはリアル路線の硬派なタッチで描かれておりますが、クルリと引っくり返せばその筋の人にはたまらない、萌え萌えアニメタッチの美少女キャラが。さらに声優サンのご尊顔も。おお、國府田マリ子、大谷育江、井上喜久子、氷上恭子などなど、豪華なメンツが揃っております。もちろんゲームの中のキャラは彼女らの声によってしゃべりまくってくれるわけですよね?アニメ好きなオトモダチにオススメできそうですよね!ホント、この絵のまんまでゲームを作っていれば、オタク必須作品ぐらいの名声は手に入れられたかもしれないのに……。

とゆーか、「史上最強アイドル決定オーディション」て何なのよさ?取説によれば「
アイドル。それは少女達の憧れ。いつの時代でも、その可憐な容姿は多くの者から羨望のまなざしを受け、その澄み渡る歌声は聴く者の心を癒す。日夜激しいレッスンに励む者。スカウトマンの目に留まろうと町をさまよう者。その地位を獲得するために、少女達は様々な努力をする。今回のオーディション優勝者には有名プロデューサーによる曲が提供され、その歌はテレビ番組とのタイアップをされるという。しかし、何よりもトップアイドルへの近道となるであろうこのオーディションの優勝条件は、思いも寄らぬ物だった。「誰よりも強い者であること」 そして、8人のアイドル候補達が過酷な闘いの場へ集まった。青春の全てを賭けた闘いが、今ここに始まろうとしている。」……太字、原文ママ。つまり、アイドルになりたいヤツは闘って勝てば強力プッシュで売り出してあげますよ、ということですか。というかそもそもアイドルが強い必要、あるの?「町をさまよう」のは努力なの?

しかし、世の中にはバカおかしな女の子がいたもんです。アイドルになりたい一心から、激しいレッスンも、スカウトされるために町をさまよう(笑)こともやめて、闘うことを選んだ娘が総勢8名……ん?女の子は6名しかいません。かわりにマッチョメンが2匹混じってます。名前はアンディとアーツ、どこかの格闘家ですか?しかもひとりはどう見ても黒人です。キミらもアイドルの座を狙っているのですか?ってことで、6名の美少女と2匹のマッチョたちは壮絶なバトルへと身を投じます。……なぜこのストーリーが企画会議を通ったのでしょうか。アイドルが強くなければならない意味がワカリマセ〜ン。もしもこのコンセプトで現実にオーディションを開催しようものなら勝ち上がるのは女子プロレスラーみたいなのばっかりで、約束通りアイドルとして売り出したとしても速攻で消え去るのが目に見えます。まあ最近の格闘女子にはカワイイ娘もけっこういるけどね。
アイドルになるもん、なキャラクターたち
ストーリーがどんなに破綻していようとも、本作は格闘ゲームですからそんなものは二の次です。格闘ゲームとしてしっかりしていれば問題ありません。ストーリーのことはきれいサッパリ忘れてゲームを起動しましょう。さっそくセルアニメ調のオープニングムービーがスタート!これこれ、これだよな〜とアニメ好きなオトモダチも納得の……っていうか、ムービーとは名ばかりで、キャラの大部分は止め絵じゃないすか。それをエフェクトで動かしているだけ。背景は目まぐるしく動いてますが、キャラクターはミョーに原画枚数が少なくないですか?目だけは頻繁にパチクリしてますが。
作画レベルは高い方でしょうけど。
で、アニメが採用されてるのってこのオープニングぐらいのものなんですけど、エンドクレジットを見ると動画マンが6人ぐらいいるんです。どんだけ仕事の遅いアニメーターを揃えたんでしょう。このボリュームと内容であれば、はっきり言って原画マン一人でじゅうぶん。とは言うものの、原画はキャラデザインと同じ人が担当しているため、おそらくいろいろと忙しかったでしょうから大目に見るとして、動画マン6人はいくらなんでも多すぎます。まあ絵柄はアニメファン受けしそうなタッチで、豪華声優陣と合わせてウリにできそうではあります。この絵のまんまでゲームを作っていれば、以下略。

でわでわ、さっそくゲーム本編をプレイしてみましょうか。繰り返しますがこれは格闘ゲームですので、ストーリーだのオープニングアニメだのは二の次、三の次です。肝心カナメはやっぱりゲームの中身ですよお客さん!この娘さんたちが豪華声優陣の声とともに飛んだり跳ねたり殴ったり蹴ったり、考えるだけでワクワクしてきませんか?してこないですかそうですか。ゲームモードは「SCENARIO」「VS」の2つ。トレーニングモードのようなものはありません。まあトレーニングの必要もないことはあとでわかります。
タイトル画面。
とりあえずシナリオモードを選んでみます。すぐさまマイキャラチョイス。キャラクターは先に述べた通り8名おりますが、美少女格闘をウリにしている(と思われる)ゲームを前にして、男キャラを選ぶのはあまりに愚かしく、何に対してお金を払ったかわかったもんじゃありません(答:ゲームにです)。実はこの「FIST」、かつてスーパーファミコンでリリースされていた格闘ゲーム「制服伝説プリティ・ファイター」、そしてセガサターンの「プリティファイターX」の続編という顔も持っていたりします。当然それらのキャラも登場するのですが、ストーリーや設定にはほとんど繋がりがないばかりか、「プリティ・ファイターの続編ですよ」ということすらどこにも謳われておりません。それだけでなんとなく「プリティ・ファイター」がどんなもんだったのかがわかるような気がして、うすら寒いですね。ということで、取説も参照しつつざっとキャラを見てみることにしましょう。

えー、取説8ページ、「CARACTER GUIDE」。おや、「CARACTER」とはこれいかに。「H」が抜けてますよ、なんて些細な誤植(まさか本気?)に突っ込むのももはやお約束って感じですが。気を取り直して、イラストなんかでもセンターに据えられている主役級のキャラが、セーラー服姿の青木真琳(あおきまりん)、自称「セーラーファイター」。なるほど、アイドルを目指すだけあって美少女です。ただしヘソ出しミニスカセーラー服ってあたり、安っぽいコスプレ水商売でバイト経験アリな雰囲気を醸し出しています。「ストII」のさくらと大差ないコスチュームのようにも見えますが、さくらと違ってロングヘアってあたりがアイドルってことですか。発売時期が時期だけに、どことなく「美少女戦士セーラームーン」を意識しているような気もしますが、肩に付いている巨大なショルダーパーツは何でしょうか。

続いてはタヌキのよーな着ぐるみ装備の、「FIST」新キャラ土月真澄(どつきますみ)。アイドルになれたならすぐに改名しなさい。てゆーかこの着ぐるみはナニ?筆者よくわかりませんが、「萌え」っていうのはこういう世界なのですか?これに萌える人とは一生友達になれなさそうな気がします。つーかむしろこれに萌える人は友達がいなさそうな気がします(暴言)。関西弁という要素は個性付けという点では面白いのですが、なら声優もそっち出身の人にした方が。

次はバニースタイルがエロめかしい(そんな言葉はない)新キャラクター、バニー・メイ。すみません、こちらが水商売でしたね。ウサ耳、アミタイツとお約束炸裂なコスチュームは前作にはなかった要素。そんで体操服姿でマニアに媚びまくっているのが桃山愛(ももやまあい)、名前から何から直球の悪趣味ロリキャラでありまして、オマエは何を勘違いして格闘オーディションに参加したんだ、と問い詰めたい。筋肉なんかカケラもない身体しやがって、萌えるじゃねーか(矛盾)。ちなみに愛ちゃんは初代「プリティ・ファイター」から存在している古参キャラです。

そんでもってニンジャスタイルの新キャラ・刻風(ときかげ)は顔をマスクで隠しながらも、ムキ出しの下半身がムダにエロいです。ヒラヒラしている前かけもきわどく、ゲームの中でどのように処理されているのか他人事ながら心配になります。そのくせ二の腕にはゴッツイ筋肉を纏っており、普通に見たら女性陣では彼女が優勝候補ですかね。最後はよくわからないコスチュームを着たマリア・クリステル、「プリティ・ファイターX」からのキャラクターです。その時の設定と見た目から言えばシスターキャラですね。ということで男2名は華麗にスルーします。「プリティ・ファイター」では8名全員女の子だったのに、消えろやカスが。退化してどーする。

それぞれに個性を持たせ、デザイン上でもしっかり特徴を持たせたキャラクターデザインはなかなかウレセン(死語)。絵柄に好みはあるでしょうが、美少女アニメの好きな人には平均的にウケそうです。実際、「FIST」のキャラクターデザインやイラストに関してはほとんど悪評を聞きません。だからこそ、その絵柄がゲーム中でどのぐらい再現されているか、が評価に直結してくるわけです。
魅力あるキャラクターとゲーム内ビジュアル
そんなこんなでそれなりに魅力的な6名の美少女・美女(+2匹の野郎)の中から、自分は誰を使おうかな、などと悩むのも楽しいものです。普通にヒロイン級の真琳を使えば無難に遊べそうですが、装飾の少ないシンプルなキャラクターの方がモデリングやモーションを細部に渡って観察できるだろうとの考えから、体操服姿の桃山愛をチョイス(断じて他意はありません)。キャラクターセレクト画面はイラストを取り込んで作られており、これから始まるバトルへの期待を高めます。
キャラ選択画面。
それでもって高まりまくった期待は、次の瞬間完膚なきまでに打ち砕かれまくります

ラクガキなのか?

なんだこれ。↑

愛タンどこォ?(困惑から「タン」付け)とおそるおそるコントローラーを動かしてみると、画面左側にいる関節接合部ムキ出しの角材がそれに従って動いています。これがオレの愛タンなのか(いつの間にか「オレの」に)。そうです、本作「FIST」は3D格闘ゲームなのでした。オープニングアニメは「2D格闘ですよ」と言わんばかりなのですが、どっからどー見ても3Dです、それもかなり出来の悪い方。もちろんこちらとしても3Dであることは承知で購入していますけど、ここまでキャラクターイラストとポリゴンモデルにギャップがあるのではほとんど詐欺です。パッケージをイラストメインで構成し、ゲーム画面を小さく、ちょびっとしか載せていない理由がなんとなく理解できました。

この落差ったら。

↑思わず比較してみました。

とは言うものの、3Dゲーム初期のポリゴンものなんてだいたいこんなもんだったしねえ、だいたい「バーチャ1」とか「鉄拳1」とか「トバルNo.1」でもいいや、今になって見ると大差ないじゃん?と自分を無理に納得させようと試みます。そうでもしないとやってられません。あとは脳内補完です。画面上でうごめくポリゴンキャラを、脳内でイメージイラストに置き換えていけばいいのです。そうすれば子供のラクガキのような愛タンもほうら、とってもカワユく……なりません、ごめんなさい。格闘ゲームしながらそんな強烈な脳内変換は私にはムリです。少なくとも脳ミソが2つ3つないと、そのような高度な処理はできません。

それにしても先に挙げた「バーチャ」とか「鉄拳」についてはポリゴンキャラが酷評されることはほとんどないのに対し、「FIST」だけがここまでクソミソに言われるのはなぜなんでしょう?「バーチャ」だって角材じゃん、イラストとのギャップありまくりじゃん?つまり、それは「FIST」のキャラクターイラストに対する評価の裏返しなんですね。なんだかんだ言っても、みんな「FIST」のデザインは好きなんじゃない?モデリングスタッフに、ちょっとキャラに対する愛情がなかっただけの話ですよ些細なことなんですよ……もう挫けてもいいですか。というか、ポリゴンモデルそのものはともかく、与えられたモーションが手抜き以外のなにものでもなく、視認できるほどのコマ送りっぷりはゲーム性そのものに関わってくる要素。間を繋ぐ動き(フレーム)が欠落しすぎです。いくらオープニングムービーがアニメだからって、ゲーム中のモーションまでテレビアニメ並みのフレーム数にする必要はなかったんじゃないの?プロデューサーさんとかディレクターさんとか演出さんとかデザイナーさんとか、「これもうちょっとなんとかなんないの?」と言った人はいなかったんでしょうか。もし言ったのなら、モデラーやプログラマーは「プレステじゃあこれが限界ですね」とか答えちゃったりしたんでしょうか。

でもですね、これ悲しいけど格闘ゲームなのよね。ポリゴンモデルなんて二の次、三の次、四の次なんじゃないかなあ?グラフィックはそこそこでもゲームとしてダメダメな作品なんていっぱいあるんだし、多少ポリゴンがゴリゴリの角材だって、ゲームとして面白ければ何の問題もないわけですよ。
グラフィックを補完し得るゲームシステム?
舌の根も乾かないうちに問題ありまくりました、格闘ゲームとしても厳しいシロモノでした、本当にすいません。謝って済むのなら謝りますから許して下さい。筆者が謝る理由が見当たりませんが、とりあえず謝罪します。まあなんだ、格闘ゲームとしては「バーチャファイター」系列に分類されますかね。「鉄拳」「ストII」系ではないです。それも、綿密なプログラムのもとで緊迫した駆け引きを一切求められない「バーチャ」です。「FIST」をプレイしたことのある人の間で合言葉になっているのが「できの悪いバーチャ」なので覚えておいて下さい(テストに出ます)。
シンプル・イズ・ベストな操作。
操作系を見てみると、ズラリ並んだ「使わない」の文字。せめて「使用しません」とか書けよ(そういう問題ではない)!四角がガード、丸がキック、バツがパンチというシンプル設計。あとは方向キーですね。プレステのコントローラーのボタンを半分以上使わないゲームには筆者もあまりお目にかかったことはありませんが、三角ボタンすら使わないのですから格闘ゲーム初心者にオススメです(ただし、オススメしません)。で、筆者はデフォルトのままプレイしましたが、一応自分でボタンの割り振りをカスタマイズすることもできます。が、一説によるとデフォルトのボタン配置(P・K・Gの位置)を変更すると固有技が出せなくなるらしく、技を封印して闘いたいプレイヤーにオススメです(ただし、もちろんオススメしません)。どんなプログラムなんだよそれ。他の格闘ゲームで普通にできていることが「FIST」においてはできていません。そして、そんな部分が多すぎるのです

では、これに従ってプレイしてみます。とりあえずパンチとかキックとか繰り出してみるか、とパッドを入力。ポチッとな。ん?……押した瞬間に動いてくれないのね。微妙にワンテンポずれた感が常につきまといます。感覚的には、そうですね、「P、K」と続けて入力したとしましょう。ポン、ポンと。その場合、「K」を入力した頃にやっと画面上では「P」が出てる、と言えばなんとなくわかりますかね?普通の格闘ゲームって、ボタンを押すと瞬時にキャラがリアクションするからこそ爽快なわけだし、複雑な技も入るというもの。しかし「FIST」の独特のモタツキ感には慣れるのに時間がかかりそうです。もっともその時点でこのソフトをそこまでやり込もうというモチベーションを維持できているのは、全購入者の1割に達するかどうか疑問なところです。

基本的な単発のパンチやキックでさえこれですから、固有技ともなると大変です。たとえば愛タンの場合は「P、P、P」と入力することで「ぱんち!ぱんち!ぱんち!」という技が出ますっつーか技かコレ。技名だけでももう少しなんとかして下さい、心からお願いします。で、その「P、P、P」を入力してみますが、いわゆる格ゲー的テンポで入力しても、出ません。「ボタン入力→実際にリアクション」までに、先に述べたような独特のワンクッションがあるので、どのタイミングが正しいのかまったくわかりません。これを体得するには30時間はプレイしないとならなさそうです。しかも、これまでプレイしてきたすべての格闘ゲームで得たスキルをすべて捨てるぐらいの意気込みで。そうでなければ「FIST」を極めることはできないでしょう。極める気にならん、というクレームは受け付けません。

愛タンには他に昇龍拳コマンドを用いた「あっぱーだ!」、P・←・P・Kで「ぱんち!ぱんち!きっく!」、↓K・↓Kで「きっく!きっく!」、「さまーそるときっくだ!」に至っては左上+K。このゲームで斜め入力を決めろってか。思いのままに技を放てるようになるのに、50時間はプレイしなければならなさそうです。もう娯楽、遊戯としてのゲームというよりは苦行です。人々はその時間で他のゲームをプレイするでしょう、きっと。キャラによっては技名にやたらと「コンボ」が付いたものがありますが、絶対に繋がりそうにないコンボも存在しているようなので注意です。

さて、キャラ固有技のほかに、全キャラ共通の特殊技もあります。たとえば「ジャンプしながらのキック攻撃」であれば、「↑+K」。ちょっと格闘ゲームをかじった人なら、これどう入力しますか?まず思いつくのは「↑」を入れた直後に「K」という、「ポポン」押しではないでしょうか。でも「FIST」は違います、完全同時入力が求められます。そのへんの判定だけはガッチリ作られており、わずかでもズレると発生しません。というか、ジャンプ中は一切のボタン入力を受け付けていないのです。むむう……固有技も共通技も入らないとなるとどうすれば……というところで登場するのが「投げ」です。「四角+バツ」で出すことができます。が、ヒット判定がとんでもなく狭く、相手に密着しないと出せません。発生し損ねると不発モーションで逆にスキだらけになりますので、チャンスとピンチが紙一重になっておりスリル満点。発生すれば威力はそこそこなので、まず投げをマスターするのがクリアへの近道ではないでしょうか。

ということで愛タンで投げ入力。もの凄い怒声(声:大谷育江=ピカチ○ウ)とともにバックドロップを繰り出しました!アイドル候補の美少女が、相手が誰であろうと軽々とバックドロップです!めでたくデビューしたら間違いなくバラエティ担当ですね、おめでとう!そう言えば忘れてましたがこのゲーム、登場キャラ全員アイドルになるために闘っているのでした(笑)。なのに相手に対する気遣いは一切見られません。あわよくば顔面に消えない傷を付けてやろう、ぐらいのことを考えていそうです。ホスト界における「顔だけはやめといてやれ」みたいな最低限の仁義も、芸能界では通用しないのです。こわいですね〜。

投げられたり大技を当てられたりするとキャラは倒れますが、時間経過とともに勝手に起き上がることはありません。プレイヤーが何らかのボタン入力(方向キー、PKGいずれも可)をするまでは寝っぱなしですので、すぐに起き上がって体勢を整えましょう。追い討ちのジャンプ攻撃が来るからです。ただ、本作のジャンプは無重力空間にいるかのようなフンワリゆるやかジャンプなので、相手が跳んだのを見てからでも対処はできますが。もちろんこちらが跳ぶ場合も同様ですので、むやみやたらと飛び跳ねない方が安全です。なお、普通なら格闘ゲームに用意されていそうな「起き上がり攻撃」は「FIST」に関してはありません。どのボタンで起き上がろうとも、ただ起き上がるだけ。また、3D格闘とは言えステージに奥行きの概念はありません。リングという概念もないので、リングアウトももちろんありません。キャラの位置関係は完全に同一線上で、軸ずらしなんてステキな要素は本作にはないのです。こうなるともう「そもそも無理に3Dにする必要があったのか」という根本的な疑問も出てきます。「プリティ・ファイター」のように、美少女系2D格闘としてまとめていれば、世間で「クソゲー」と言われることもなかったかも。

もうひとつ、他の格闘ゲームと異なる「FIST」ならではの特徴があります。世間一般の格闘ゲームでは、パンチやキックを出すとキャラクターはわずかに前進します。その結果じわりじわりと互いの距離が詰まったり、またその間合いが駆け引きに影響してくるのですが、「FIST」の場合は前進しません。ええもうまったく。位置的にはその場に静止したままパンチやキックを出します。微妙な違いなようでいて、実はこれが他の対戦格闘ゲームとはまったく違う手触りを生み出しているのです。

読めば読むほど「そんなゲームでエンディングが見られるのか」と思われるかもしれませんが、この硬派かつ高難易度なゲームについて制作者が救済策を用意しないわけがありません。どうしてもクリアできない人は、まずはタイトル画面の「OPTION」で難易度を下げましょう。それでゲームを始めたら、とにかくしゃがんでキック。反応の悪さはグッとこらえて、ひたすら蹴りましょう。気が付けばエンディングが始まっているはずです。難易度はノーマルでも問題ありません。筆者の場合、それではゲームとしてあまりにつまらない(禁句)ので、積極的な攻撃ののち、追い込まれた時にのみこの方法でピンチを凌ぎました。結果、難易度デフォルトで一度たりともゲームオーバーにはならずクリアできました。愛タンは見事にアイドルとしてデビュー!コンサートで着ているヒラヒラ衣装の下には……

パンチラ防止用ですか。

ただぶるまを愛用しているだけの娘でした。
言い訳のようにおまけ要素も大充実、なのか
さてさて、格闘ゲームと言えば、プレイ時間やクリア状況によって続々追加されるオマケ要素も、コレクター心をくすぐるものですよね。代表的なものに「隠しキャラ」があります。ボス敵をプレイヤーが使えるようになったり、新たな美少女が参戦したり……しません、本作に限っては。そもそもボスがいないですし。使えるキャラクターは泣いても笑ってもデフォルトの8人だけ!これは断言しておきます。

キャラではありませんが美少女格闘に欠かせないのはコスチュームです。こう書くとピンと来る人もいるでしょう(アンタも好きねぇ〜)。「わかった、プレイしているとだんだんコスチュームが増えていくんだ」と。通常、ゲーム中にプレイヤーが見ることのできるのは、一人プレイならば1Pコスチュームです。愛タンを例に取ると体操服、ですな。対戦で同キャラ対決になると2PもしくはCPU側が2Pコスチュームになるほか、1Pでもキャラセレクト時に三角ボタンで決定することで2Pコスチュームで出場できます(愛タンならスクール水着、という具合)。さてさて、クリアするとアイドルとしてデビューした娘さんのアイドル衣装が拝めますが、それが新たなコスチュームとして使用可能に……なりません。コスチュームはデフォルトから一切増えません、本作においては。サービス精神?そんなものは本作スタッフに関しては皆無ですヨ!「DOA」を見習え!

まあこれでは不親切すぎますよね。美少女格闘の購入層は比較的格ゲーに疎い人が多い傾向があり、ゲームそのものよりもキャラ萌えや声優、オマケに期待しているものです。そういった需要を満たすためかどうなのか、シナリオモードでは3ステージ勝ち進むごとにご褒美グラフィックが挿入されます。5秒ぐらい。エンディングも含め、1キャラにつき3枚あります。これらはアニメ調イラストを使っているので、ポリゴンモデルにヘコまされたオタ心を満たしてくれるでしょう。が、あっという間に消えてしまうのです。もっとじっくり見たいよう!という人のために、クリア後のオマケで見られるように……なりません、普通はなりますが本作ではなりません。ご褒美グラフィックとは一期一会です。見たければそのたびゲームをプレイして勝ち進む必要があります。そんな殺生な、という嘆きの声が聞こえてくるようですが、実はここに、制作者からユーザーへのメッセージが込められています。ご褒美グラフィック見たさに繰り返しプレイすれば、いつの間にか独特の操作性にも慣れてみるみる上達!毒気のあるポリゴンモデルにも慣れて「萌え」を感じられるように!即ち「FISTを愛して下さいね」というスタッフからのメッセージなのではないでしょうか?まったくもって余計なお世話です。制作側の本音は「そんなに見たけりゃビデオにでも録ればぁ?」でしょうか。

もういいよ、つまり「FIST」にオマケはないんだな?と思われたアナタ、おまえさんの目はフシアナなのかい?タイトル画面から「OPTION」に入ってみな、良いモノがあるだろう。そう、本作唯一のオマケ要素「キャラ紹介」です。任意のキャラを選ぶと、その中に「カメラ」という項目がありますよね。ここではお目当てのポリゴンモデルを、コントローラーで好き放題にグリグリと動かせます!見たい角度から、も、もちろんスカートの中だって……ハアハア。コントローラーを握る手が汗ばんできましたか?ところが、

萌えられますか?

やっぱりぜんぜんまったく嬉しくないです。

このポリゴンモデルにハアハアできる人はちょっとヘンだと思います。つーか野郎2人についてもしっかりグリグリ回転させられるあたり、親切なのか不親切なのかわかりません(たぶん後者)。せっかくのオマケ要素がこれだけかあ……とガックリしましたか?このうつけ!チミには「設定資料」の文字が見えないのですくわっ!おっと、今はまだチョイスできないゼ、黙ってそのキャラでシナリオモードをクリアしてみなよ。すると、そのキャラに限っては「設定資料」をオープンできるようになります。こういうのこそ正しいオマケだよ〜、と思いながら見て下さい。音速のような怒涛のカット割りであっとゆー間に終わるムービーが見られましたか?満足しましたか?最後には声優サンのお顔も拝めましたね。良かった良かった。おいしいイラストが詰まっているにはいるので、録画して楽しむか、静止画として切り出すのが正しい楽しみ方だ!と言わんばかり。さ、頑張って全キャラ集めて下さい。
サウンドについて
商品を見る限りとても予算豊富な作品とは思えませんので、まあ音もそれなり、です。打ち込みを主体とした楽曲は格闘ゲームをじゅうぶんに意識しているものの、生楽器をふんだんに使えるはずもなく、全体に「お安いかんじ」です。しかしどんな楽器を使おうが、好き嫌いは別としてそれはかまわないでしょう。それよりも気になったのが、核となるストーリーでもある「有名プロデューサーの楽曲でテレビタイアップ」というあたりを意識しすぎたのか、なんかどこかで耳にしたような曲が多いことですね。時代が時代だけに「これ、小室哲哉が作った安室奈美恵の曲だよな」という感じの、当時のウレセンが多いというか。そんな元ネタ探しに走るのもひとつの楽しみ方かもしれません。というかサントラCDで曲名を見れば、元ネタバレバレなのです。コンセプトは「キャラクターの持ち歌」だそうで、作曲の玉山文人氏によると「それぞれモチーフになった曲があります」とのこと。いや、こりゃモチーフというよりはパク(自粛)。

「FIST」サントラ ←サントラCDはこんなジャケット。

そのわりにオープニング/エンディング主題歌はしっかりオリジナルの歌モノを作るあたり、アニメファンを意識しているものと思われます。主題歌はいずれも玉山氏作曲、作詞はゲームの企画を担当した黒田愛実氏みずから!どうりでゲームの世界観が120パーセント反映された曲になってるわけですね!特にコーダが爆発音で完結するあたり、ゲームの放つボンバーなテイストがバッチリ出ています!ゲームのコンセプトに沿ったアイドル歌謡っぽい、ヘタウマ(ウマを外しても可)なボーカルは岡村明美サンが熱唱。ところで誰ですか?

豪華声優を起用しているだけあって、キャラクターボイスはそちらのマニアにはたまらないものになっているようですが、筆者個人としてはそちらにあまり興味がないのでわかりません。そういう人間が誤解をおそれずに印象を述べるなら、「セリフのバリエーション少なくないか?」です。バトル中の掛け声などはスルーしたとして、勝ち台詞が1キャラにつき2種ってどうでしょう。格闘ゲームとしては平均的な数かもしれませんが、これだけの声優さんを揃え、かつそれをウリにしている作品であるにもかかわらず、ですよ。「準備運動が足りないようねぇ〜」って、制作サイドも何かの準備が足りてかなったんじゃないでしょうか、と勘繰らずにはいられません。仮に候補となったセリフの中から吟味した結果、絞り込まれたセリフがゲームに乗ったのだとしたら、候補にはいったいどれだけ知能指数の低そうなセリフが並んでいたのか、ぜひ見てみたいものです。

効果音については言うまでもなく、格闘ゲームに必要最低限な音をどうにかこうにか付けました、という程度のもので、音作りに関して特に感心するようなものはありませんでした。「必殺仕事人」の効果音CDからそのまま拝借したかのような音が多く、「アリモノで適当にやっつけたな」というのが素直な印象です。
サターン版とどう違うのか
当時はプレステとセガサターンが互角の戦いをしていた頃でしたので、両方のハードに同一タイトルが供給されることも珍しくはありませんでした。今なら「マルチプラットフォーム」と言われるこの戦略、実は「FIST」も乗っかっていたのです。即ち、プレステ版とはどこかが違う「セガサターン版FIST」が存在するのです。残念ながら筆者は持っていませんし、この作品をハード別に2本も所持する意義も感じませんので、聞いた話・見た話から比較してみます。

サターン版。 ←サターン版パッケージ。

まずよく言われているのが、「サターン版の方がゲーム部分はまだまとも」だとのこと。即ちダメゲー度はプレステ版の方が高いんだそうです。やはり「バーチャ」のノウハウのあるサターン用ツールを使って製作すると、それなりのゲームができるもんなんでしょうか。プレステ版ではまずお目にかかれない「空中コンボ」も、サターン版だと決められるそうですよ。3Dポリゴンモデルについてはどっこいどっこいのようですけど、顔がアップになった時の破壊力は、個人的にはサターンの方が上かなと思ってます。目がデカすぎてこえーよ!使用可能なプレイヤーキャラに差異はないですが、コスチュームカラーがちょこちょこ違ってます。

最大の違いは、オプションの「キャラ紹介」にあるカメラモードではないでしょうか。プレステ版はポリゴンモデルの回転しかできませんが、サターン版はズームで寄れるらしいのです。もちろん顔にも寄れますが、こわいのでやめとけ。トラウマになるぞ。さて、ずーっと寄って寄って寄りまくると、しまいにはキャラクターの身体の中にまでカメラは入り込んでしまうそうで。すると、頭と胴体を繋ぐ「杭」が見られるというオモシロ仕様。ポリゴンモデリングの構造まで見せ付けるとは凄い余裕。ゲームクリエイター志望者はこれで勉強しろ!と言いたげです。

また、プレステ版ではおそらくソニーさんの指導からかスカートの中にぶるまのようなものを穿いていた真琳ですが、サターン版ではバッチリ白パンツ着用。わーお。で、それをカメラモードでグリグリと穴が開くまで鑑賞することができるのです!ただし、カクカクゴリゴリの角材を接合したようなポリゴンモデルのパンツを見て興奮できる人がどのぐらいいるのかは不明です。それ言っちゃうとカメラモードの存在意義すら問われそうですが。さらにさらにサターン版ではこのカメラモードのバックで、声優さんの声によるキャラクターの自己紹介が流れるとか。声優目当ての人なら間違いなくサターン版の方が価値ありますね。ただ、その声を聴きながらポリゴンモデルをグリグリ動かしてあまつさえパンツにズームしているような姿は、絶対他人に見られてはいけません
そろそろ総評でもしときますか?
このゲームを知らずにここまで読まれた方も既に理解完了しておられるでしょうが、ゲーマーの間ではある意味で非常に有名な作品です、不名誉な方向で。つまりいわゆる「クソゲー」として、ですね。筆者は「クソゲー」という言葉はあまり好きではないので使いたくないのですが、では「FIST」をどのように形容するかとなると、やはり「クソゲー」以外に適切な言葉が見つかりません。

世の中には2種類の「クソゲー」があります。おバカテイストや独特の味わいを狙ってやっているゲーム、即ち意図的なクソゲーは「バカゲー」とも呼ばれ、制作者もユーザーもそれを承知のうえでダメなゲームを楽しみます。もうひとつは、制作者たちは至ってマジメに作っているのに、技術力や資金の不足、タイトなスケジュールが原因で、図らずも不出来なものになってしまったもの。こちらは正真正銘のクソゲーであり、「FIST」はこちらに属します。制作者はダメなゲームを作ろうとはしていなかったはずですが、できたモノがコレ。いったいなにがいけなかったのでしょう?

キャラクター設定とそのデザインはむしろ好評な方。絵柄もアニメファン層に受けるものであり、さらに豪華声優陣が声を当て、大ヒットとはいかないまでもプチヒットぐらいは狙えそうな外面。それに対してゲーム本編……、まあさんざん記してきたことですが、「設定として用意されたデザイン画を再現してみせようという"ヤル気"がまったく感じられないポリゴンモデル」と、「3D対戦格闘を一切理解しないまま作ってしまった対戦部分」が圧倒的にダメでした。さらに不幸だったのは、それに対してNGを出せる人がいなかったこと。「こんなもん売るわけいかんわ!」とダメ出しをする勇者が制作側にまったくいなかったとしか思えません。完成までには何度もの会議、ROM焼き、テストプレイが行われたことでしょうが、そのたび「こんな感じでいいんじゃないの〜、オーケーオーケー」なんていうテキトーなやり取りが交わされた様子がハッキリと見えてきます、ゲーム画面から

そもそもこの「FIST」、ムリヤリ3Dにしなければならなかったのでしょうか?美少女2D格闘ゲームとして、設定画に忠実な2Dキャラがぶつかり合うようなゲームにしておけば、伝説のクソゲーとしてその名を歴史に刻むことはなかったはずです。おそらく、そこそこ遊べるが深さはない、キャラクター重視の「及第点ゲーム」ぐらいにはなったでしょう。格闘ゲームとして「深い」必要はありません。心から格闘ゲームを愛し、日々鍛錬を欠かさないハードゲーマーが手に取るタイプのタイトルではありませんから。メインターゲットはアニメが好きそうなキャラ萌えゲーマーでしょうから、格闘ゲームとしてはヌルい程度でかまわないのです。そう考えると、それこそ「制服伝説プリティ・ファイター」の正式な続編として、プレステになってグラフィックとサウンドをパワーアップ!新キャラも参戦!みたいなノリの2D格闘にするのがきっと正しかったのでしょう。ま、それはそれでゲーマーたちの記憶にも残らない、幾多のゲームに埋もれ消えていく凡作になったかのもしれませんが、伝説のクソゲーとして記憶されるよりはマシでしょう。逆に言えば、「FIST」やその制作者たちがこれほど有名なのは、やはり「FIST」がとんでもないゲームだったからこそと言えます。それこそ「FF・スクウェア・坂口」と同じぐらい「FIST・イマジニア・黒田」はメジャーなのです、不名誉な方向で
ゲーム批評において匿名は許されないか?
こんなゲームですから、インターネットで検索をかければ罵倒レビューを無数に発掘できると思います。雑誌でレビュアーにクソミソに書かれたこともありました。ゴマスリ、擁護、ヨイショがメジャー誌におけるレビューの鉄則と誤解されがちですが、そこでここまで真正面から罵られたゲームは滅多にありません。イマジニアの広報担当がファミ通の編集者に「FISTはあの有名格闘ゲームと同等か、それ以上のゲームになりますよ!」と豪語し、製品をプレイしたその編集者に誌面で思いっきり「彼(広報担当)はウソつきになりましたが」と書かれてしまったという話はもはや神話の域に達しています。

そこまで言われるんだから、どんなもんなのか見てみたいと思う人が現れるのは自然な流れと言えるでしょう。世の中にはわざわざ不出来なゲームだけを収集し、いかに不出来かを楽しむゲーマーも多数存在するのです。「うわー本当だ、こりゃヒデエや」という悪評は、ネットが普及してからは驚異的なスピードで広がっていきました。掲示板における感想の書き込みに始まり、レビュー文をサイトで公開する人まで、「FISTはとんでもないゲームだ」「ヒドいポリゴンだ」という「批評」はWeb上に溢れていったのです。

基本的にユーザーがネット上でゲームの感想を語る場合、多くは匿名で行われます。これに黙っていなかったのが、「FIST」の企画担当である黒田愛実氏でした。いわく「自分の名前を公表しない者が、自分(黒田氏)とその作品を名指しで批判するようなことが許されるのか」。氏によれば、ゲームの感想を公の場で述べる際には本名を明かさなければならないようです。が、もちろんそんなことはないわけで。制作者はその作品をお金と引き換えに売るのですから名前ぐらい明かしてもらわないと、どこの誰が作ったのかわからないものなど買えませんよ。また、その批評文を本などに執筆することで原稿料という対価を得ている、プロのライターであればそれも名を明かしてしかるべきでしょう。しかし、ユーザーはお金を払う側。買ったものに意見するのは当然の権利であり、名前を明かす義務もないでしょう。それで対価を得るわけではありませんからね。

作品を世に出すということは、賞賛されればめっけものですが、当然批評や罵倒を叩き付けられることもあります。それが創作であり、創作にはそれらに対する覚悟も伴うべきなのです。その覚悟がないから安易な作品ができてしまうわけで、匿名の批評も許せなくなるのです。覚悟なきクリエイターがユーザーからの声を拒否する姿は滑稽ですらあります。覚悟があれば作品の質を上げるべく努力するはずですし、ここまで罵倒される作品を(わかっていながら)リリースすることもできないはずなのです。お金を払って食べたものに対して「マズい」と言うのは、消費者の当然の権利なんですから。

……ただ、黒田氏に限っては同情も禁じえないのは事実。「エヴァンゲリオン」における庵野監督のごとくオープニングムービーで名前を晒され、すべての責任を押し付けられてしまった側面もあるからです。黒田氏は監督でもプロデューサーでもないのです。ディレクターやプロデューサー、モデラーやプログラマーは当然それぞれ担当者がいますが、これを見たユーザーが「すべて黒田氏が仕切っている」と思い込んでしまうのも無理はないでしょう。結果として、ユーザーからの罵倒が黒田氏に集中したのでは。それを受けての黒田氏の発言には問題がありますが、罵倒すべきスタッフは他にもいます。デバッガーやテストプレイヤーも共犯と言っていいでしょう。誰か一人ぐらい「これでいいんですか?」と言ったのではないかと信じたいのですが、まあ下っ端が何を言ったところでお偉いサンが聞く耳を持たなければ何も変わらないのですけどね。

なお、黒田氏は後にゲームメーカー「元気」でヒット作を手掛けていますが、イマジニアさんは今なにをしてるんでしょう。「FIST」は黒歴史となっているのか、会社HPのどこを見ても一切触れられていません。「ウチはそんなもの作ってませんよ」と言いたげです。そう言えばイマジニアの社長さんと言えば、「ゲームは美しいだけじゃいけない」「ウチは硬派な会社というイメージがある」といった名言を残されているんですよね。硬派な会社が美しいだけじゃないゲームを作ると「FIST」ができあがるワケか。美少女イラストをイマジニアという名の電子レンジに入れてチンすると、あ〜ら不思議、角材ポリゴンキャラクターのいっちょあがり!

ちなみに、メーカー自らハッキリと「ウリは声優だ」と明言したという噂も(未確認)。開き直り?
どんな人に向いたゲームなのか?
筆者はこのゲームの発売を心から待ち望んだわけではありませんし、発売日にゲットしたわけでもなく、美少女アニメファンということも特になく、黒田氏やイマジニアを崇拝していたわけでもありません。ではなぜこの作品を所持しているのか。それは、この作品のことをまったく知らない私に、知人が囁いた悪魔のひとこと……「フィストっていう凄い格闘ゲームがあるんだけど、ゲーマーなら一度ぐらいやっとくべきだ」。こう言われたら、「へえ、そんなによく出来たゲームなんだ」と思うじゃないですか。で、買ったんですよ。でも、騙されたとは思ってません。ゲーマーとしてプレイする価値はあったからです。名作と言われる格闘ゲームは、何が良いのか、他とどこが違うのか。「クソゲー」と呼ばれるゲームはどこが悪いのか。そんなことを理解させてくれたのは間違いなく「FIST」だったのです。

そのことを啓蒙すべく、また別の友人に対戦プレイを持ちかけてみました。ええ、正直に「どんなゲームか」をざっくり説明したうえでね。拒否される可能性もありましたが、彼は「どんなもんか見てやろうじゃないか」とプレイを承諾。かくして1Pvs2Pの対人戦スタート!「スト」系シリーズや鉄拳、DOAでいつも手加減のないアツい戦いを繰り広げる筆者と友人でしたが、本作での対戦は言うまでもなくまともなものになるわけがなく、しばしその独特の操作感を味わった後、「なるほど……」の一言で終了。しっかり啓蒙できました!

このゲームをプレイすべき人
・格闘ゲームは苦手だけど美少女キャラは好きな人
・出演している声優の関連商品収集に魂を燃やす人
・ポリゴンそのものに萌えられる人
・クソゲーをプレイすることに喜びを見出すイジワルな人
・ゲームの良し悪しについてしっかり考察、検証してみたいコアな人

このゲームをプレイすべきではない人
・手応えのある格闘ゲームで遊びたい人
・美麗CGという響きについつい反応しちゃう人
・アニメ絵に拒否反応を示す人
・大作ゲームにしか興味のない人
・なによりクソゲーが嫌いな人


PS版、安い! こちらはサターン版 サントラの方がレア