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ファイナルファンタジー ヴォーカルコレクションズ II
Love Will Grow
ジャケット画像  ファイナルファンタジーシリーズのために作られた楽曲を、ボーカル曲としてリアレンジしてリスナーに届ける、前作「pray」に続くコンセプトアルバムの第二弾。植松氏の音楽的興味・欲求が結実したアルバムであることは前作同様で、新たな書き下ろし曲(つまり、FF音楽ではない曲)が収録されているあたり、それは疑いようのない事実である。

 単にゲームに付随する「グッズ」としてのCDであるなら、既存曲をお手軽にアレンジして発売すればいい。だが、植松氏のこれら一連のアレンジアルバムに対する姿勢は、そういった安易な類ではまったくなく、普段はあまり「アーティスト」としての主張をしない氏が、一人の作曲家・アーティストとしての重要な作品提示の場として捉えておられるようだ。ひとつの作品に必ず一枚はアレンジ盤があることからもわかるように、これは「ドラクエ」におけるオーケストラバージョンとは意味がまったく異なるはずだ。

 ボーカルは、「pray」の大木理紗氏と、新たに野口郁子氏が参加。時に神々しく、時に圧倒的な透明感を醸し出すその美声は、前作にまったくひけをとらない。最近のFFでは著名な歌手が主題歌を担当することが珍しくないが、「ボーカルコレクションズ」を担当したこの二人こそ、FFの音楽世界には欠かせない存在であり、いつの日か、FF本編の主題歌を歌われることを願って止まない。
ポリスター
PSCN-5041
1995年
JASRAC表記:なし

 最近では入手困難なこのアルバムですが、実は大木理紗さんのオフィシャルサイトにて販売をしています。クレジットカードがあればオンラインで決済でき、すぐに自宅に届けてもらえます。何軒ものレコード店を巡っても見つからなかったとお嘆きのリスナーは、ぜひ大木さんのサイトへ訪れてみましょう(情報提供はウォータールーさん。ありがとうございました!)。

大木さんのサイトはこちら→ http://www.kasaya.com/lisa.htm

アマゾンにも在庫あり→ファイナルファンタジー ヴォーカル・コレクションズII(ラヴ・ウィル・グロウ)


01 Long Distance  原曲は「ファイナルファンタジーIV メインテーマ」。FFIVのフィールドで流れていたアノ曲です。アレンジが篠崎正嗣氏だけあって、弦を前面に押し出したアレンジになっています。リスナーを取り囲む弦楽器群と、その中心で圧倒的な存在感を誇示する大木理紗さんのボーカル。流れるような、伸びやかな高音成分がとっても気持ちいいですね。弦はもちろん、篠崎正嗣ストリングスが演奏しています。楽曲のベースとなっているイメージストーリーはFFIVのシナリオではありませんが(ライナーノーツ参照)、楽曲の雰囲気は原曲の方向性を残していると言えます。「ケルティック・ムーン」で打ち出した『民族音楽色』とはまた違う味がしています。

 ちなみに、冒頭で解説しておきますが、作詞や作曲でたびたびクレジットされている「山吹理々子」なる名前は、実は誰あろう、大木理紗さんのことです。原曲にはない、ボーカルアレンジならではの独自のフレーズは、大木さん本人によるものなんですね。
02 悠久の風  タイトル通り、原曲は「FFIII」の「悠久の風」に他なりません。言うまでもなく、FFIIIのフィールドBGです。しかし、曲の雰囲気はまったく異なるテイストにアレンジされています。俗に言う「ボサノバ」というスタイルになっており、植松氏本人も「アルコールでも飲みながら聴きたい」とおっしゃっています。FFのアレンジだよ、ということを言わなくても、じゅうぶんにボサノバナンバーとして成立しているのはお見事と言うほかありません。ギター、ベース、エレピ、ブラシのドラムセットと、ジャジーでシンプルな楽器編成が、なんとも穏やかな気分にさせてくれます。イメージしにくかったら、FFVIIの「太陽の海岸(コスタ・デル・ソルの曲)」を連想して下さい。南国情緒、って感じです。
03 Have You Ever Seen Me?  原曲は「FFIII」より、「小人の村トーザス」。いかにも楽しげな、小人たちが歌い踊っている雰囲気に満ちています。思わず一緒に歌いたくなることうけあい!メインボーカルは野口郁子さんで、その周囲で小人役(?)の大木さんがコーラスを重ねているようです。大木さんのコーラスのイメージはやっぱり「歌い踊る小人たち」ということなのでしょうか。とってもかわいらしい楽曲になっており、ディズニーを連想させますね。

 楽器の編成もユニークで、基本は弦楽(ヴァイオリン・チェロ)なのですが、アコースティックギター(これも弦楽器ですが)、さらにクラリネットが加わっています。この編成だけで、どんな雰囲気の曲なのかわかる人もいるでしょうね。
04 Valse des Amoureux  この曲が、本アルバム書き下ろしとなるオリジナル曲です。タイトル及び歌詞はフランス語ですね。ライナーに対訳が載っているのでわかりますが、「Valse des Amoureux」は「恋人たちのワルツ」となります。ボーカルは、3曲目で可愛らしい小人のイメージで聴かせてくれた野口さんが担当しています(コーラスは大木さん)。ヨーロピアンテイストに溢れ、シャンソンやミュゼットの雰囲気を十二分に味わうことができます。

 ここまで2曲目、3曲目と小編成のシンプルなアレンジで楽しませてくれましたが、この曲もシンプル。アコーディオンとギターが2つずつ、そしてベースだけです。FF本編はオーケストラを意識し、これでもかと音を重ねていく傾向があるのに対して、アレンジでのこの方向性。アレンジャーの趣向もあるとは思いますが、なかなか興味深いですね。音を重ねて豪華にするだけが優れたアレンジではないと、再確認させてくれるのにじゅうぶんなクオリティです。

 さてさて、この曲「FFと関係ないじゃん」と言うなかれ。FF本編には必ず、ワルツが入っているのをお忘れですか?ワルツもまた、立派にFF音楽のルーツとなっているのですよ!
05 GAIA  「FFI」の「メイン・テーマ」です。フィールドBGですね。「我らの住む星=地球=ガイア」ということで、FFを示すキーワードである「GAIA理論」。巨大な生命体「地球」とそこに住む人々を、野口郁子さんが神々しく歌い上げます。こういう内容だと、えてしてフルオーケストラでジャーンと盛り上げたくなるものですが、それをせずに弦とピアノで静かに仕上げた部分は、大成功なんじゃないでしょうか。その方がボーカルと歌詞が染みますよね。あくまでこのアルバムの主役は「ボーカル」ですから、フルオケが派手に鳴り響く必要はないんです。

 余談ですが、発売が予定されているPS版「FFI」のエンディングとかにこれが流れるなんてのも、あるんでしょうか(2002年注:なかったです)。PS版「FFVI」では、アレンジアルバムからの流用がありましたしね。

 ちなみに、2001年発売のFFリラクゼーションアルバム「potion2」にも収録されました。
06 遠い日々の名残り  さらにシンプルにして心に響く楽曲が続きます。「FFV」から「離愁」です。シンプルさで言えば、このアルバムの中で最もシンプル。ピアノとボーカルだけです。なのに、ここまで聴かせてしまうか!というぐらい、曲の説得力があります。大木さんの表現力もさることながら、情感たっぷりのピアノがなんとも言えませんね。もちろん、楽曲そのもののメロの良さも見逃せません。シンプルにして曲の本質を裸に近い状態にすればするほど、本当にそれが良い曲か?ということが問われてきます。あえてこのような形にすることは、勝負してるってことなんですよね。

 ちなみに、こちらも「potion2」に収録。
07 はるかなる故郷  「FFV」の「はるかなる故郷」です。FFのアレンジ盤を聴き慣れていると、こういう歌も素直に受け入れてしまいそうにもなりますが、やっぱり「これ、どこの言語?」という疑問もあることと思います。実はこれ、どこの言語でもなく、「FITHOS〜」や「い〜え〜ゆ〜い〜」にも通じる、言葉遊びが行なわれているのです。ライナーノーツには歌詞が載っていますが、それをローマ字のつもりで歌詞の最後から最初に戻りつつ逆に読んでいってみて下さい。ね?

 それにしても大木・野口のデュオは素晴らしいですね。いかにもありそうな言葉を、民族歌唱的に聴かせてしまいます。しかも、あえて日本語の発音を除外して……。これも、「このことば、ナニ?」と思わせてしまうのに一役かっていると思われます。
08 Estrelas  原曲は「FFIV」の「ギルバートのリュート」です。もちろん雰囲気はまったく異なるものになっていますが……。言ってみれば2曲目の「悠久の風」のようなボサノバテイストが入っているのですが、ヴァイオリンが入っているので、それともまた違った味わいになっています。この構成も実にシンプルで、ヴァイオリン・ギター・ベースとパーカッションだけでゆったりと聴かせてくれます。ボーカルは大木さんです。
09 神の揺り籠  原曲は「FFVI」から、「リルムのテーマ」です。なんと楽器を一切使わず……いや、失礼。「人の声」という楽器だけでアレンジされており、一大合唱曲となっております。最近ではアカペラやゴスペル・コーラスも流行ってますけど、いずれもポップな感じになっているのに対して、この曲の神々しさはどうでしょう。思わずゾクッとしてしまいます。もちろん賛美歌をイメージしているのでしょうが、聴感上ではバスがもっとも立っているため、なんか「念仏」のような香りもしてしまいます……チーン。なんか「FFX」の世界にハマりそうです。

 メインボーカルは大木理紗さん。で、編曲も大木さんにより、さらに作詞も「山吹理々子=大木理紗」ですから、曲全体が大木ワールドなのです。もはや植松氏の手元から、楽曲が巣立ったとさえ言えるのではないでしょうか。
10 Love Will Grow  「FFII」より、「フィナーレ」です。フルオーケストラに近い編成の楽器群をバックに、大木理紗さんが雄大に歌いあげます(一部、野口さんも参加)。3分56秒からの盛り上がりは圧巻。混声合唱も加わって、気分は24時間テレビのエンディング状態です。……いや、失礼。

 これだけの編成のオケに、ボーカルがまったく負けていないことも特筆もの。いや、ミックスバランスとかの問題ではなく、表現力のことね。ここまで歌える人ってどのぐらいいるんだろうか……。ちなみにアレンジは篠崎正嗣氏がされており、さらに篠崎氏はティンパニまで叩いちゃっているんだからビックリです。「ティンパニ叩く人、頼むの忘れてたヨ」「しょうがないなあ、じゃあ俺が叩くか」ってことでもないんでしょうけど……。
11 Prelude  「これまでにたくさんのアレンジがあり、そのどれとも違うアレンジにする」ことがテーマだったこの曲。その通り、今までになかったタイプのアレンジになっていますが、聴けばすぐに「プレリュード」ということはわかると思います。冒頭におなじみの駆け上がりがないんですが、ボーカルのメロディを聴けば、ね?

 まあヨーロピアンテイストというか、ジャズの入った軽快なアレンジと思って下さい。基本はギター(2本)とウッドベース、アコーディオンです。間奏でフリューゲル・ホーンとアコーディオンがソロを受け持つあたりが、なんともジャズ→ヨーロッパな雰囲気。ボーカルは大木さんと野口さんが所々ソロになったり、ハモったり、かけあいをしたりと入れ代わりながら進んでいきます。

 とにもかくにも、これまでにない「プレリュード」であるのは間違いありません。プレリュードのキモとも言えるあの駆け上がりフレーズをまったく使わないことに賛否両論あるとは思いますが、ひとつのアレンジとして受け入れようではありませんか。

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