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ファイナルファンタジーVI アレンジヴァージョン グランド・フィナーレ
ジャケ&オビ
ポリスター
PSCN 5004  
1994年  
JASRAC表記:なし


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ファイナルファンタジーVI グランド・フィナーレ
 このアルバムは、スーパーファミコンソフト「ファイナルファンタジーVI」で使用された楽曲から11曲をセレクトし、オーケストラアレンジとしてまとめたものである。作中、スーファミ音源で表現されていた(それでも見事だった)オペラの楽曲も、完全なるフルオーケストラ演奏で収録。その荘厳さ、豪華なアレンジにはただただ聴き惚れるばかりのできだ。編曲は鷺巣詩郎(さぎすしろう:エヴァンゲリオンなどガイナックス作品の劇伴でおなじみ)・斉藤恒芳(さいとうつねよし:元クライズラー&カンパニー)両氏が担当。見事なまでのオーケストレーションを演奏するのは、スカラ座弦楽アンサンブル、そしてミラノ交響楽団。もちろん全曲ミラノでレコーディング、FFのアレンジアルバムとしては非常に大規模なものとなっている。
 
 しかし、ライナーノーツを読むと、作曲者・植松伸夫氏はこのアルバムの出来に満足していないことがわかる。いったい何があったのだろうか?実は、指揮者がいざ本番、という段階になって不調を訴え、楽団も指揮者に対する不信を訴え始めてしまった。代わりに、あるチェロ奏者が指揮を取ることになったものの、あまりに演奏者たちにやる気がなく、当然良い演奏とはならなかった。植松氏としてはこんな演奏を収めたアルバムを発売することはしたくなかったが、様々な事情から発売は中止できなかった(すでに発売日も決まっており、かなりモメたらしい)。仕方なく、「今後はアレンジや演奏者選びを他人に任せきりにはしない」という自戒の意味を込めて発売することにしたようだ。植松氏にとっては「演奏がひどくて今となっては聴けない。なにひとつとっても良いところがない」というものらしい。何もここまで……という程の酷評ぶりだが、だまっていれば「ゴージャスなアレンジアルバム」と評されるものを、なぜ作曲者みずからが否定するのか?ライナーノーツの文章をここに掲載することはしないが、ぜひ自分でCDを手に取って、『ものをつくるということはどういうことか』『誠実さとは何か』といったあたりを、植松氏の文章から読み取っていただきたい。氏の自戒でもある文章はたいへん興味深く読むことができるだろう。

 ただ一点だけ言っておきたいことは、「ものづくり」に携わる人間がその過程を人任せにした以上、出来上がったものに後から文句を言うのは反則だということ。自分と同じ考えの人間など存在せず、自分の思い通りに動いてくれる人間もそうはいない。理想のものを作りたかったら、結局は自分でやるしかないのだと筆者は考える。他人に任せるという行為は、その人の持ち味や提案によってプラスアルファの良さが作品に加味されるという期待もある反面、まったく期待外れなものになってしまう危険性も孕んでいる、言わばバクチなのだ。そうして起こってしまったトラブルに対する不満を、お金を出してCDを買ってくれたリスナーの目につく所に発表してしまう行為はいかがなものかと。戒めならば自分の心の中だけにしまっておけ、という感想は否定できない。とか言いつつ、そんな裏話をここに掲載している私も同罪なんだけどね。まあ、ファンはなんでも知りたいと思うものなので。
 
 だからと言って、このアルバムに収録されているオーケストラによるアレンジが駄作なのかと言うとそうではない。植松氏も、決して鷺巣・斉藤両氏に不満があるのではない。アレンジ自体は決して悪いものではなく(多少やり過ぎなものもあるが)、ゲームのファンには楽しめるものであることは間違いないので、御安心を(演奏は、オーケストラに慣れ親しんだ人の耳には物足りない面もあるようだが)。ちなみに一部楽曲はプレイステーション移植版の「VI」で、ムービーに使用されている。

01 Opening Theme〜Tina 「予兆」からティナのテーマへと繋がっていく、アルバムの幕開けにふさわしい壮大なアレンジ。まるで映画音楽のようなブ厚さは、もともと映画的だった原曲の雰囲気をさらに強調。もしも今のハードでリメイクされることがあったら、オープニングは間違いなくこういうテイストになると確信させるに充分な迫力。1分43秒からの「ティナのテーマ」も非常に哀愁を帯びつつも前向きさを感じさせる仕上がりになっており、ドアタマから「やられた〜」という感じです。もっとも原曲の良さもあってのことですけどね。アレンジバージョンなのに、なぜかオリジナルバージョン以上にゲームのシーンを想起しますね。
02 Cefca 序盤はいかにもケフカ。このようにアレンジされるとなんかバレエ音楽のようでもありますね。バレリーナがつまさき立ちで、チョコチョコと踊っていそうです。物語のある組曲にも聞こえてきます。さあ、曲を聴きながら目を閉じて下さい……あなたの頭の中でも、バレリーナが踊り始めたでしょう?
03 The Mystic Forest 「迷いの森」です。こうして聴くと、アルバム全体が一連のオペラ劇音楽のようにも思えてきますね。展開のあるアレンジで、「反復の音楽」であるゲーム音楽が別の顔を持っていることに気付かされます。ループされていた時には気付かなかった、曲の持つ表情にハッとさせられのも、アレンジバージョンの醍醐味。うっすらと入っているコーラスも神々しい雰囲気を醸し出しているんですが、これは迷いの森とはまた別のイメージかな。どちらかと言うと「妖精の森」といった、神秘的なイメージ。
04 Gau チェンバロの伴奏が加えられ、バロック調になった「ガウのテーマ」。原曲に輪をかけてガウっぽくないですね(笑)。なんとなく王宮っぽくなっちゃってるように感じるのは、私の耳がドラクエに害されてるのかな?それにしてもこのアレンジはちょっと違和感あるかも……。中盤(2分47秒)の部分はもう、なんか違う曲になってるしね。

ただまあ、アレンジャーにゲーム渡して「これをプレイして、ガウというキャラを把握したうえでのアレンジを」なんてことは無茶なハナシですし、もっと言ってしまえば、そもそももとの「ガウのテーマ」がガウにはちっとも似合ってな(略
05 Milan de Chocobo チョコボのテーマ・フルオケ版!本編ではテクノでしたが、このアレンジでは「チョコボの不思議なダンジョン」という感じになっています。純然な「FF」のアレンジアルバムとしてのフルオーケストラバージョンは、後にも先にもこれだけでしょうね。とっても長い演奏になってます。よくぞこの短い曲をここまで伸ばしたなー、と感心。
06 Troops March On 「帝国の進軍」。こういう曲はフルオケに限りますね!まさに映画音楽。スターウォーズか、はたまたプロデューサーが現われる前ブレなのか(by電波少年)という、威圧感のある迫力に満ちています。

ただ、なんかスネアとティンパニのタイミングが微妙に合っていないと感じるのは私だけでしょうか?というか、全体的なテンポにバラ付きを感じます。演奏者達が指揮者を見ていないのか、とさえ思えてしまいますね。もしくは指揮がドヘタなのか。一応さ、プロなんだからちゃんと仕事しようよ!……世界的な楽団つかまえて「一応プロ」とか言っちゃう私も恐いもの知らずですが(笑)。
07 Kids Run Through The City Corner 前半・後半で別モノです。前半はなんかスパニッシュな哀愁を帯びた、哀愁のバイオリンソロ&チェンバロのバッキングで、「この曲ナニ?」と思ったアナタは正しい。っていうかこのイントロ不要ですね。後半(1分13秒)からが正当な「街角の子供達」です。妙にブ厚いですけど。

それにしてもやっぱり、チェンバロとか入っちゃうのはいきすぎだと個人的には思う。あくまで「町」の曲なんですよ、コレ。ゲーム中では。アレンジャーに、そんな最低限のことを伝えるのも困難なんですかね?それとも、もとの曲にとらわれない自由なアレンジを、という頼みかたなんでしょうか?これじゃやっぱり城か、歴史のある、厳格なヨーロッパの古都という感じ。ゲームで見られるのどかな町のイメージとはかけ離れてませんかね?

アレンジとは、原曲を崩すべきである。アレンジとは、原曲のイメージを増幅するべきである。どちらの考え方も理解はできますが、ゲーム音楽のアレンジというものは、だいたいゲーム本編のユーザーがメインターゲットになるわけで、……それでもどちらを尊重すべきかは難しいところですね。ゲームの中での想い出に浸りたい人もいれば、それとはまったく違った形での曲を聴きたい人もいるわけで。
08 Blackjack 原曲の持っていた疾走感とはまた別の、爽やかさといった部分を取り出して強調した感じのアレンジ。なんかとっても「鷺巣節」なんですけど(斉藤氏だったらゴメン)。特に金管や弦の感じが……「ふしぎの海のナディア」チック。ノーチラスのBGみたいな。意味わかんない人にはゴメンなさいですが、ナディアのサントラ知ってる人には「そうそう!」と言わせる自信があります(何の?)。
09 Relm ブ厚いオーケストラが鳴り続ける本作にあって、とっても落ち着くリルムのテーマ。はぁ〜、気持ちが安らぎますねえ。バグパイプが入る点も原曲通り。バグパイプで安らぐか、飛び起きるかは人それぞれでしょうけど(この音色、生理的に受け付けないという人もけっこういます)。

余談ですが、このアレンジだと「FFVIII」で流れてきても違和感ないかも。後半がモロに「EYES ON ME」してます。
10 Mistery Train 魔列車ですね。ピアノの伴奏に、バイオリンが歌いまくります。これはなんかとても、斉藤氏のアレンジのような気がするんですが(違ってたらスンマセン)。斉藤氏が担当したアニメーション「ナスカ」のサントラとかに入っていそう。これだけバイオリンがフィーチャーされていると、クライズラー&カンパニーを思わずにはいられません。えっ、このバイオリン葉加瀬じゃないの?って。
11 Aria Di mezzo Carattere もう、この曲のためだけにこのアルバム買ってもいいってぐらいの傑作!ゲーム中ではサンプリング音声によって表現されていたオペラを、歌詞付きのモノホンオペラで収録、圧巻の演奏は必聴ものでしょう。作詞(原詞)はゲームの方のディレクター・北瀬佳範氏(歌詞はライナーノーツに掲載されてます)。もう、これ聴いた瞬間に「FFのアレンジはドラクエを超えた」とまで思ってしまいました。RPGのフルオケと言ったらやっぱり「ドラクエ」になっちゃいがちですが、そんなことはないんだと声を大にして言いたいですね。とにかく聴いて!

なお、PS版におまけとして収録されているパイロットムービーでは、この演奏を編集して使っています(とは言っても、最後のサビ前からフェードインしているだけですが)。植松氏的には、PS版でこのアレンジが使われることには複雑な思いがあったのでは?

FF音楽ファンの間でたびたび話題になる、ゲーム中の歌詞に忠実な日本語バージョンは、下で紹介している「ゲーム音楽コンサート」で聴くことができます。しかもアリアだけでなく、序曲から大団円まで、ゲーム中のイベントに忠実なフルバージョンで!詳細は下の「関連CD」をチェックして下さい。
関連CD
オーケストラによるゲーム音楽コンサート4 〜ライヴ・ベスト・コレクション〜
 すぎやまこういち氏監修のもとで行われていた、オーケストラによるゲーム音楽コンサートのCD化第4弾。「スーパーマリオ」や「ドラクエII」と並び、トリである11トラック目に本作「FFVI」の楽曲が収録されている。オペラシーンで我々ユーザーに大きなインパクトを与えた劇中曲を、ゲームに基づいて忠実にオーケストラで再現。しかもゲームとまったく同じ日本語歌詞!なんと23分に及ぶ超大作である。日本語の「アリア」が収められてるのは、世界中どこを探してもこのCDのみ。「FFVI」ファン、FF音楽ファンならぜひコレクションに加えたいお宝アイテムであることは言うまでもないだろう。

SONY RECORDS
SRCL 2736
1994年
JASRAC表記:
あり

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