とうとう8作目を迎えたスクウェアの「ファイナルファンタジー」シリーズ。前作「VII」はシリーズ初のプレイステーションフォーマットとして発売され、その重厚なシナリオとやり込めるシステム、そして美麗なグラフィックは、ゲームをあまり知らない層にも「FF」の名を知らしめた(いまでもプレステ時代のFFナンバーワンには「VII」を推すユーザーも多い)。その開発スタッフが「VII」終了後に引き続いて製作したのが「VIII」である。近未来・グラフィック重視・最先端技術といった路線をさらに推し進め、結果として「VII」を超える出荷を記録した。
「FFVIII」ではシナリオの上でキーとなる楽曲があり、言わばゲーム内での現実音楽として、FFシリーズで初となるボーカルのあるメインテーマを入れることが決められた。作曲の植松伸夫氏はまずメロディを製作し、それを誰に歌ってもらうかということでスタッフがCDを持ち寄って会議を重ねた。その中にはマライア・キャリーやセリーヌ・ディオンなど大御所シンガーのCDもあったが、選出は思いのほか難航したという(セリーヌが歌った日にゃ、まんまタイタニックですゼ)。
そしてある日、シナリオ担当の野島一成氏がそっと忍ばせておいたフェイ・ウォンのCDを再生した瞬間、スタッフ一同に電撃が走った。「これは!」。かくして、フェイに歌ってもらう−交渉してみるということで満場一致で決定したという(実は野島氏は香港でのライブにも行くほどの熱狂的なフェイのリスナー)。しかし、いかに大作「FF」と言えど、知らない人にしてみれば「たかが」ゲームの主題歌。内心、スタッフの誰もが「はたして歌ってもらえるのか?」という疑問を捨てきれなかったようだ。そんな懸念をよそに交渉は順調に進み、フェイのスケジュールの都合から香港でレコーディングをすることとなった。フェイには事前にデモテープを渡しておき、当日はほぼ一発でOKテイクとなったという。それまでフェイのことを「名前ぐらいしか知らなかった」と言う植松氏は、「録音の前に1時間ぐらいひとりでスタジオに入って精神集中する。不思議な女性でしたねえ」と、彼女の印象を語っている。が、後に「今は技術のおかげでなんとかなるんですよ。フェイとか」といった発言もしているらしいことから、テイクこそ一発だったが後の調整にはだいぶ時間を費やしたということだろうか。
作曲はもちろん植松氏で、編曲はおなじみ浜口史郎氏。作詞は染谷和美氏が担当。シングルのカップリングには「Eyes
On Me」のインストバージョン(バックトラックですな)のほか、フェイのアルバムから「アカシアの実」を収録している。
「Eyes On Me」日本語訳詞
歌う時はいつも ステージで独りきり
語る時はいつも 聞いてほしいと願ってた
そのたびに、あなたが笑っていたような
本当かしら、気のせいかしら
あなたはいつも片隅にいた ちっぽけな、このバーの
ここで最後の夜 いつもの曲を、もう一度
あなたとも最後の夜? かもしれないし、違うかも
何となく好きだった 恥ずかしそうに私を見るあなたの目
あなたは知っていたかしら 私もそうしていたことを
ねえ、あなたはそこで 相変わらずの表情
傷ついたりしないかのような 落ち込んだりしないかのような
こうしましょうか ぎゅっと優しくあなたをつねるの
しかめ面をしたら あなたが夢を見てないってわかる
あなたのところへ行かせて 好きなだけそばに
うんと近づくの 高鳴る鼓動を感じるほどに
そのまま私の話を聞いて
穏やかな瞳に見つめられ、どれだけ嬉しかったか
あなたは知っていたかしら 私もそうしていたことを
ねえ、私に分けてよ 余るほど愛があるなら
涙をこらえているなら 苦悩なら、それでもいい
どうしたらわかってもらえるかしら 私は服と声ばかりじゃない
こちらに手を伸ばしてくれたら 夢じゃないって、あなたもわかるのに
関連CD
フェイ・ウォンの曲だから、もしくは圧倒的に人の耳に残ったからなのかは定かではないが、ゲームの主題歌としては異例のリミックスバージョンも多数作られ、ダンス系のコンピレーションアルバムに収録されることも珍しいことではなかった。ここではその中のいくつかを紹介したい。

Dancemania X5 東芝EMI TOCP-64050 2000年 JASRAC表記:あり
5曲目に「Eyes On Me (Almighty Mix)」を収録。リミックス担当はオールマイティ。オリジナルよりもかなりテンポの速くなったリミックスで、ボーカルはタイムストレッチ処理されていると思われる。オリジナルではサビなどをかなり独特のタメで歌っていたため、テンポ合わせは困難だったことだろう。それでもシンセによる置き換えでオリジナルのストリングスや間奏のメロを可能な限り再現しており、自然に聴くことのできるリミックスと言っていい。4つ打ちの典型的なポップ・ダンスナンバーになっている。

Dancemania SPEED 東芝EMI TOCP-64088 2000年 JASRAC表記:あり
14曲目に「Eyes On Me (Super Planet Mix)」を収録。上の「Almighty Mix」よりもさらにテンポが速くなっており、打ちつける4つ打ちビートは重く攻撃的ですらある。オケはオリジナルを意識しないアレンジになっている。ボーカルへのタイムストレッチもさらに激しくかけられており、原曲を知っている人には少々辛いものがあるかも……。フェイ・ウォンが聴いたら怒るかな?

「チャン・ヨウ(歌あそび)」/フェイ・ウォン
東芝EMI TOCP-65170 1998年/1999年 JASRAC表記:あり
こちらはフェイのオリジナルアルバム。実は「FFVIII」が発売される前の作品で、当時のアルバムには「Eyes
On Me」はもちろん収録されていなかった。しかし「Eyes On Me」が大ヒットすると、それをボーナストラックとして収録して再発。しかもその他に3曲のボーナストラックを伴って、だ。旧盤をすでに持っているファンにしてみれば「なんじゃそりゃ〜」な結果となってしまった。今レコード屋さんに並んでいる日本盤はすべて「Eyes
On Me」収録済みバージョンのはず(中古で買うなら収録曲をチェックしよう!)。ちなみに「Eyes
On Me」はフェイの曲では唯一の英語のナンバーである。

「フェイブル」/フェイ・ウォン
東芝EMI TOCP-65473 2001年 JASRAC表記:あり
2001年発売のフェイ・ウォンのアルバム。「チャン・ヨウ」でオリジナルの「Eyes
On Me」は収録済みだが、今回は日本盤のみのボーナス・トラックとして「ALMIGHTY
RADIO MIX」を収録。基本的には「Dancemania X5」に収録のものとほぼ同じバージョンだが、「フェイブル」ではもちろんノンストップ・ミックスはされていないので独立したトラックとして楽しむことができる。気になるのは、歌詞カードのクレジット。作曲が「植村伸夫」になっているではないか!誤植なのか?本気で間違えているのか?理解不能……。
「Eyes On Me」ではないが、14曲目のシークレット・トラック「シャナイア」では日本語歌唱に挑戦!個人的にはこちらがオススメ。

the most relaxing「feel」
東芝EMI 2000年 JASRAC表記:あり
独自の癒し路線を展開する人気コンピレーション。今ではだいぶ落ち着いた感もあるが、一時期の過剰なまでの「癒しブーム」の火付け役と言っても過言ではあるまい。その「癒し」に「EYES
ON ME」が大抜擢。ゲーム音楽が「癒し」になるのは我々ゲーム音楽ファンにとっては既知の事実だけど、一般の人にしてみれば「え?これってゲームの歌なの?」ってところ。ゲームを離れても、良い曲は良いのである。収録されてるのはノーマルなMIX。他のメンツはアディエマス、シークレットガーデン、エニグマ、マドレデウスなど豪華なアーティストを取り揃えている。

アンジェラ・アキ「心の戦士 」
Epic Records 2006年 JASRAC表記:あり
2006年3月に発売された「ファイナルファンタジーXII」の挿入歌を歌うことになったアンジェラ・アキが、「XII」に先駆けて植松氏とコラボレーションし、「Eyes
On Me」をカバー。それをボーナストラックとしてシングル「心の戦士」に収録した。アンジェラ自身によるピアノを伴った歌唱はフェイ・ウォンのそれとはだいぶ雰囲気が異なっているが、歌い手によってメロディラインの印象がここまで変わるのか!と驚かずにはいられないはずだ。
CDには「心の戦士」「Eyes On Me」のほか、「空はいつも泣いている」「TODAY」を収録。特に「心の戦士」はそのタイトルからか「FFXII」関連曲だと誤解されがちだが、「XII」の挿入曲は「Kiss
Me Good-Bye」である(本CDには未収録)。なお、CDとDVDがセットになった初回生産限定盤には、DVDに「FFXII」のプレミア・ムービーを収めている。「XII」の映像をチラッと見てみたいという人のみならず、BGMに「Kiss
Me Good-Bye」が充てられているので、いち早く聴きたいというファンにもオススメ。
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