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ドラゴンクエストIX 〜星空の守り人〜
Synthesizer & Original Soundtrack
パッケージ画像  正統なオリジナルナンバリングシリーズとして初めて、携帯ゲーム機をプラットフォームとした「ドラゴンクエストIX」は良くも悪くも話題になった。通信プレイ、クエスト、シンボルエンカウント、属性魔法の系統見直し……。「不変」と言われ続けてきた「DQ」が新しいものを貪欲に取り込んだとき、ゲームはどのように仕上がったのか。そして音楽は、変わったのか、変わらなかったのか。その答えが、このCDに詰まっている。

Sony Music Entertainment
SVWC 7052〜3
2000年
JASRAC表記:
あり
ゲーム紹介

 「ドラゴンクエスト」というゲームの名前を知らない人は、ある程度の世代までならあまりいないだろう。ゲームをほとんどやらないような人でも、「ドラクエ」と言われれば何のことかわかる。そのぐらい、「ドラクエ」はゲーム作品として世間に浸透しているのだ。初代の「ドラゴンクエスト」はファミコンソフトとして発売された。日本国内ではあまり馴染みのなかったRPG(ロールプレイングゲーム)をわかりやすく噛み砕き、人々にその面白さを紹介する役割を担った「ドラクエ」はまだインターネットもなかった時代に口コミで広まり、人気作品への仲間入りを果たす。そればかりか「II」「III」を経て、留まるところを知らないファミコンブームとともに日本を代表するゲームタイトルへと上り詰めた。ファミコンで最後となる「IV」をリリースした後、「ドラゴンクエストV」「VI」はスーパーファミコンソフトとなり、「VII」はプレイステーション、「VIII」はプレイステーション2をプラットフォームとしてきた。これらに共通しているのは「家庭用据え置きハード」ということ。そう、これまで「ドラクエ」のオリジナルナンバリングシリーズは「据え置き機」でしか発売されてこなかった。携帯ゲーム機向けに旧作が移植されることはあっても、ナンバリングの最新作は常に据え置き機のソフトとして制作・発売されてきたのである。「"ドラクエ"は最も普及しているハードで出す」というエニックスの姿勢は有名だ。ゆえに誰しも、「ドラクエ」の新作は最も普及している据え置き機で出ることを疑っていなかった。

 しかし、「ドラクエIX」の発売にあたってはその予測が成り立たなかった。ひとことで言うなら、「据え置きハードに元気がなかった」のである。「このまま出したのでは、どのハードにしても100万本いかないのでは?」と、少しゲームに詳しい人なら誰しもが予想してみせただろう。鳴り物入りで世に放たれたプレイステーション3が伸び悩んでおり、前作「VIII」がPS2だった事実はあっても、PS3での「ドラクエIX」は難しいであろうことは容易に想像できた。Xbox360も「ドラクエ」の受け皿としては頼りない。この時点で頭ひとつ抜きん出ていたのは任天堂のWii。「ドラクエIX」が出るならWiiが最も可能性が高かった。ところが、スクウェア・エニックスの発表はそのどれとも違っていた。なんと、「ドラクエIX」は携帯ゲーム機・ニンテンドーDSで発売するというのだ(同時に、「X」はWiiになるとも発表されたが)。「ナンバリングは据え置き機」と思い込み続けていたユーザーの予想を覆す驚きの決定。しかし、よくよく考えてみれば「据え置き機」という前提を、メーカーは一度たりとも明言していない。あくまで「最も普及しているハードで出す」方針なのであって、この時点で最も普及しているであろうハードがNDSだっただけなのだ。出す側にしてみれば、据え置き・携帯機という区別など最初からなかったのである。

 もっとも、その決断が下されたのは、携帯機と言えどかつてのハードとは異なり、最新作を作り得る容量とテクノロジーをNDSが有していたからであろう。かつての携帯ゲーム機は据え置き機よりも圧倒的に劣るものだった。旧作の移植や、携帯機であることを前提に「軽く」作れるソフトを動かす場だったのである。ユーザーにとってもゴージャスなものは据え置き機でじっくり遊び、携帯機は移動時間やちょっとしたヒマ潰しにサクッと遊ぶものというスタイルが定着していた。が、もはやその棲み分けはないのだと思った方が良いだろう。ライフスタイルが変わったからなのか、家で据え置き機のゲームを腰を落ち着けて遊ぶ人は減り、ゲームのメインプラットフォームが携帯機にスイッチした感のある昨今、ソフトをより多く売るならどちらを選ぶか。売ることを宿命付けられている「大作」はなおさら、その答えは決まっているようなものだろう。もっともそれができるのは「ドラクエ」がグラフィックやサウンド、最新技術といったものをウリにしていないからであることは言うまでもない。「FF」のナンバリング最新作をNDSで、というのは無理な話だろう。

 とは言うものの、NDSである。ソフトが供給される専用カードは最大でも512MBほどの容量しかないのだ(よく4ギガと誤解されるが、4ギガbitであり、それは換算すると512MBになる)。もっともそれだとかなりのコスト高になってしまうため、ゲーム用として採用されているものの多くは256MB以下のものである。ソフトの定価が5980円である「ドラクエIX」も、そこに含まれると考えて良いだろうか。前作「VIII」でDVD-ROMを採用したものが、もし256MBという容量の制限を受けたとき、どうなるのか?ユーザーには多少なりとも不安が湧き起こったはずである。NDSであり「ドラクエ」であれば最初から「美麗グラフィック&サウンド」への期待は薄いとは言え、「VII」のCD-ROM2枚組にも劣るのではゲームそのものにまで質の低下が及ぶのではないか……と思うのも無理はない。そして、その不安は現実のものとなる

 当初は2007年度発売とされた「IX」は、クオリティアップのためという理由で2008年度発売へと延期され、後に実際に正式な発売日として発表されたのは2009年3月28日。この時点で2度の延期があったことになり、同時に「アクション寄りの戦闘→従来のコマンド式」「通信寄りになった協力プレイ→あくまでメインは1人プレイ」といった仕様の変更も行われた。そしていよいよ発売が現実的なものとなってきた2009年2月、開発において重大な不具合が多数発生していることが明かされ、再度発売が延期されてしまった。初めて組み込まれた通信要素周辺に厄介な不具合が多く残っていたようで、それを知ったうえで製品版をプレイすると「手に負えないから切っちゃったのかなあ」と思えてしまうほど、通信プレイはオマケのようなものに留まっている。

 2009年7月11日、紆余曲折はあったものの「IX」はようやく世に放たれた。週刊ファミ通のクロスレビューでは40点満点を獲得し、発売から3日で300万本を出荷、2011年2月の時点で430万本を突破し、シリーズ最高の販売本数を記録。「さすが、ドラクエ」とも言うべき実績を打ち立てるが、それに反して発売直後の評価は大きく割れた。比較的若い年代のユーザーにはおおむね好評であったが、それこそファミコンの「ドラゴンクエスト」からシリーズ作品をプレイし続けてきた層から厳しい批判の声が挙がったのである。そもそも携帯機で出たこと自体が受け入れられないとするユーザーも多く、「魔法にベギラマ系統がない」「敵シンボルが最初からマップに見えている」「無個性な仲間キャラクター」などのシリーズ作品との相違への拒否反応、さらには発売前のネガティブなイメージとも重なり「せっかくの通信が言い訳程度」「ダンジョンに仕掛けの形跡はあるのに実際には作動しない=謎解きに手ごたえがない」といった不満。そしてこれはNDSでリリースされたことに起因するのだが、「シナリオが薄い」「モンスターを連れて歩けない」「カジノがない」「クリア後のやり込み要素がただの作業」「セーブデータがひとつしか作れない」など、容量不足が原因となる不満も多く聞かれた。

 「すれ違い通信」「宝の地図」が社会現象となり、また継続して「WiFiショッピング」「クエスト配信」を行ったこともあって、「IX」は長くやり込めるものになった。熱心にプレイし続けた人たちは本作を評価し、当初は否定的だったユーザーも後にはそれを改めるなど、現在ではほぼ「良作」との見方が一般的になっているように思える。しかし筆者個人的には、やはり「本編」とも言うべき「エンディングへと至るストーリー」が、昨今のRPGにしてはボリューム不足になっている点が不満として残っている。2〜3日、集中してプレイすればクリアできてしまうかもしれないほどのものなのだ。反対に、「宝の地図」や「クエスト」は確かに長く遊べる要素ではあるものの、「宝の地図」は自動生成ダンジョンというシステムで容量に負担をかけないものとされており、クエストも多くの場合でその実態はテキストが中心である。容量を抑えて長く遊ばせるものに仕上げた工夫は感心するべきところであろうが、どこか「上手くごまかされた」ような気もしないではない。容量の多い豪華絢爛なものが絶対的に良いわけではないし、ボリュームがあれば良作なのかと問われればそんなことはないと答えよう。が、ファミコン時代からシリーズを見続けてきたからこそ、本作のボリュームダウンは「退化」にも見えてしまったのだ。

 その現象は音楽にも現れている。「IX」の音楽もお馴染みのすぎやまこういち氏が手掛けており、もちろん楽曲そのものの質が落ちているわけではない(ただしその評価は、ユーザーの数だけ好みに左右されるが)。しかし、たとえば「VI」の時にはその音楽の完成度を「スーパーファミコン・シンフォニックオーケストラ」と誇り、また前作「VIII」では「PS2で究極の音になった、そのままでもじゅうぶん鑑賞できる」として、オーケストラ盤よりも先にオリジナル・サウンドトラックをリリースしてきた氏が、「IX」のサウンドトラックは「シンセサイザー・バージョン」との2枚組での発売。そこには、さすがに「ゲーム音源だけでは出せないなあ」という、ある意味「自信のなさ」があるのではないか?と見るのはひねくれすぎだろうか。PS2の「VIII」とNDSの「IX」とでは、音源の質において比べること自体が無意味なのだが、同時に優劣も明らか。その意味でのみ、「IX」の音楽は「退化」したと言わざるを得ない。もちろん、楽曲そのものの質が退化したわけでないことだけは繰り返させていただく。

 今回御紹介するCDは、前述のようにシンセサイザー・バージョンとオリジナル・サウンドトラックの2枚組となっている。ゲーム本編をプレイしてその音楽を気に入った人には、シンセサイザー・バージョンで楽曲が持つ別の顔を味わってもらうもよし、さらに別に発売されているオーケストラ・バージョンも堪能していただきたい。では、オリジナル・サウンドトラックに価値がないのかと言えばそうではなく、DS音源でどのように鳴らされていたのか、そしてNDSのスピーカーやヘッドフォン端子では再現しきれていなかった音の輪郭がCDでなら楽しめるはず。3つの「ドラクエIX音楽」がそれぞれ味わえるのだから、これはこれでやはり、ファンサービスなのだろうか。ちなみに筆者は「IX」のゲーム自体、エンディングまでのシナリオはもちろん、配信クエストまで含めてまるまる2回プレイし、楽曲の仕様箇所を調べた。それにあたってはセーブデータをひとつしか作れないという仕様上、ソフトを2本購入している。そこまでやり込んだ者としてのゲーム本編のレビューはいずれどこかでやりたいが、ここではひとまず音楽についてのみ触れていこう。

 ただひとつ、ゲームそのものについてここで言っておきたいことがある。「ドラクエIX」というゲームの本質は発売直後の盛り上がっている時ではなく、あえて「いま」「最初から」プレイすることで見えてくるということ。誰もがプレイし、すれ違い通信が盛り上がっていれば楽しい気がするものだ。いま、誰ともすれ違えない状態でプレイするとどんなことになるのか……。諸々の事情で遅れてゲームを始めた人がどう思うのか、本作をどう評価するだろうか……。意外に、今となっては「もうできない」「欲しくても手に入らない」ものが多いことに気付かされる。そのとき、本作は「良作」であり続けられるのだろうか?

CDをお持ちでない方は、こちらから購入できます。

レビューはまずDISC2のオリジナルサウンドトラック版から行い、それからDISC1のシンセサイザー版に戻ります。曲の趣旨やゲーム中での使用例を順に把握してから、シンセサイザー版と比較していった方が良いだろうと判断したためです。また、一部の楽曲(旧作からの既存曲)はシンセサイザー版に収録されていないことも理由です。レビューではゲームの内容について言及(いわゆるネタバレ)することがありますので、今後プレイを検討されている方は閲覧に際してはじゅうぶんに注意をお願いいたします。以上を御了承いただき、読み進めて下さい。

DISC2 オリジナルサウンドトラック版

01.序曲IX
・オープニングムービー
シリーズおなじみの「序曲」ですが、「VII」でロト編とも天空編とも異なる新たな展開を迎えたとき、さらに「VIII」でフルモデルチェンジしたときにも「IV」から不変だったイントロが、今回ついに変わりました。初めての携帯機、そして通信プレイで新しい拡がりが!どんな冒険が待ち受けているのか?という期待感を煽るかのような、未知の世界への入り口といった感じの導入になっています。ロト編のイントロは短く簡潔にしかし勇ましいもので、天空編はこのうえなく華やかなファンファーレでしたが、新イントロはユーザーに「何があるのかな?何が起こるのかな?」と思わせるものになっていると個人的には思います。

かつてファミコンの「IV」で新たに天空編となるとき、制作サイドからすぎやま先生に「序曲を変えたい」というオーダーがあったのは有名な話。先生は「それを変えるなんてとんでもない!」と、イントロを変更して対応したわけですが、今となってはさすがに序曲を変えようなんて話はなかったはず。それでもイントロが変わったのは、制作スタッフからのオーダーなのか、すぎやま先生のアイディアなのかが気になりますね。これについては先生が次のように語っておられます。「"ドラゴンクエストIV"の曲を作るとき、堀井雄二氏に『"IV"からは"III"までとは違う新しい物語が始まるので、イントロも新しいものを考えて欲しい』と言われて、"IV"のあの導入部ができあがりました。今回"IX"を作るときにもあのときと同じように、『新しいシリーズをはじめるので、"IV"〜"VIII"とは違うイントロにして欲しい』と言われました」。ということで、制作サイドからの依頼だったようです。……ん?「VII」や「VIII」は堀井氏の中で、「IV」からひと括りなんでしょうか?

この新イントロについてはやはり「作っては壊し」の繰り返しだったそうです。さすがに制作スタッフにもユーザーにも旧イントロのイメージが染み付いていますから、それを超えるものを作るのは容易なことではないでしょう。しかし、新要素を多数盛り込んだ「IX」には新しいイントロの序曲がどうしても必要だったのだと。ファンから非難されることも覚悟のうえで、変えることを決意したのだと思われます。すぎやま先生が「IX」の楽曲を作り始めたのは2004年末から翌年始めにかけてとのことで、足掛け5年ほどの製作期間だったことになりますが、その間に様々な試行錯誤があり、中でも「新・序曲」は「5回作り直したバージョン」であるといいます。没になったバージョンにも興味が尽きませんが……。「候補を5種類以上作りました。そしてそれをスタッフ会議のたびに聞いてもらいました。重視したのは"壮大な世界がはじまる"というイメージです」と先生は振り返っています。なお、コンサートでは「試作段階ですが」と前置きしたうえで、ファンファーレを廃し、スネアドラムとブラスアンサンブルによるリズム主体のイントロを伴った「序曲」が、「"IX"の序曲」として演奏されたこともあります。これも没案のひとつでしょうか。

そうして出来上がった「IX」の「新・序曲」が、ここで聴けるものです。イントロの変更はシリーズのファンならば、いやいやゲームファンであれば誰が聞いてもすぐわかります。さすがにすぎやま先生でも旧イントロからの完全な脱却はし難かったのか、22秒あたりから急激に従来のイントロに戻る形となっており、若干の未練が(笑)。それでも「新しい"ドラクエ"ですよ!」とアピールするにじゅうぶんでしょう。当然、旧来のファンからの拒否反応も予想されましたが、思ったよりも好評なようです。イントロ以降は「VIII」までに発展し続けてきたものと基本的には同じで、金管メインの木管による対旋律あり、です。マーチングスネアは「III」準拠のアレンジ(タッタラー、タッタラー、タッ・ター、タカタカタッタ)になっています。ゲーム中で聴けるのはオープニングムービーだけとなっています。本編中での印象的な使用も毎回楽しみなのですが、「IX」においてはそのような演出はありませんでした。ただ、「序曲」をアレンジした「集え、者たち(トラック27)」のような曲があったり、ラスボス戦に組み込むという「III」の「勇者の挑戦」を思わせる演出もあったりで、その存在が薄れているといったことは決してありません。

ゲームでもこの曲だけは内蔵音源ではなく、東京都交響楽団によるオーケストラ演奏が流されています。その際はもちろん圧縮音源であり、さらにDSのスピーカー/ヘッドフォンアウトを介して再生されるわけですが、それでもゲームでフルオケが流れるとゾワッとしますよね。昨今のゲームでフルオケが流れるのは決して珍しいことではありませんが、やはりDSの小さな機体から出てくるとインパクトあります。ここに収録されているのはもちろんそのオーケストラバージョンですが、後にリリースされた交響組曲盤での演奏とは別のもので、これのみ先行収録されたゲーム専用バージョンということになるでしょうか。メインパートのリピートがなく、1周でアウトロに至ります。交響組曲のものはリピートがあり、編集で1周にすることもできるでしょうが、しかし2周目でマーチングスネアがなくなるなど編成が変わるので現実的ではありません。

また、用途の違いからくるミキシング/マスタリングの違いにも注目。交響組曲盤ではオーケストラ的なダイナミックレンジが重視されたナチュラルな仕上がりとされているのに対し、サントラ盤はゲーム機での使用を考慮しているためか、グッと前に出る音圧重視の音になっています。両者を同じ環境・同じボリュームで再生すると、出だしの「ジャーン」からして音圧がまったく異なることがわかるでしょう。DSでしっかり聞かせるためには、音圧を詰め込んでおかないと厳しいんですね。交響組曲的なミキシングでは繊細すぎて聞こえず、他のゲーム音源とのバランスもとりにくくなってしまうんです。ユーザーにボリュームを操作させることなく、他の音源との差も考えてあるわけです。逆に、交響組曲すべてがこのような前に出る音だったら、通して聴くと疲れてしまいます。音楽の仕上げというものは、その用途も想定していかなければならないのです。ゲーム音楽ファンを自認するのであれば、そういったところにも興味を持たれるのも良いのではないでしょうか。
02.インテルメッツォ(IV)
・ニューゲームデータ作成中
・ゲーム起動後のデータ選択画面
こちらもいまや、「序曲」とセットでおなじみの「インテルメッツォ(間奏曲)」です。「序曲」の後にセーブデータ画面でこれが来る流れは、「ドラクエ」ファンであれば脳内に焼き付いてますよね。弾むようなピチカートストリングスをメインに、メロディを補佐するベル、そしてハイハットの細かな刻みで構成されているところは今回も同様。さすがにプレステの「VII」、PS2の「VIII」のゲーム音源と比べてしまえば聞き劣りしますが、なかなか頑張っているのではないでしょうか。ゲーム音源製作はトーセで、過去の移植作品はもとより、「VIII」でもすぎやま先生とガッチリ組み「PS2最高の音」と先生が自負する仕事をされた実績があります。それもあって今回も起用されたのでしょう。さすがにPS2とDSとでは事情が変わってきますが、ドラクエコンサートに招かれて生オーケストラの音を学んだことが、「IX」にも注がれているはずです。
03.天の祈り
・天使界BGM
・女神の果実を捧げた一行に謎の声(世界樹=女神セレシア)が語りかける
・人間になった主人公が天の箱舟で神の世界へ向かう際(ラスダン直前)、箱舟内がこの曲に
・最終戦後、世界樹がセレシアとなり、神の国を元に戻す
・追加クエストNo150にて天の箱舟3両目、サンディの部屋内部にある謎の空間
すぎやま先生が「IX」全体のテーマ曲だと位置付けている(そのような意識で作曲された)、本作の主題と言っても過言ではない楽曲。こういった、どこかもの悲しい曲は氏の十八番、シリーズ作品においてもいくつもの名曲が生み出されているのはご存知の通り。今回もこの曲は、「IX」でのユーザー人気はダントツと言って良いのではないでしょうか?この曲は先生が開発中、まだ音楽のついていないバージョンのゲームをテストプレイしていたときに、ふっとメロディが浮かんできてできあがったものだということ。ゲームでは序盤も序盤、天使界のBGMとして耳に入ってきます。「ドラクエ」のマップBGMとしてはかなり長い曲になっていますが、天使界は広く、ここにはかなり長くいることになるため音楽も長く流れることになります。実はこの曲、すぎやま先生は当初、1コーラスの曲として作っていました。しかしテストプレイの際、思ったよりも天使界にいる時間が長く、曲も途切れず流れ続けるためユーザーが飽きてしまうと思い、2コーラス、3コーラスと曲を伸ばしていったんだとか。そして最終的に、ここに収録されているような形になったのです。日頃から「ゲームでは飽きさせない曲が大事」と仰っている先生ならではの配慮ですね。

アコースティックギターにも聞こえる、つま弾くハープ、もしくはリュートのような音から楽曲はスタートします。いや、もしかするとゲーム音源版はアコースティックギターのつもりでやっているのかもしれませんが……。ゲーム音源版と組曲版の楽器は必ずしも一致しませんからね。そういう意味では、組曲ではオーボエが担当しているメロディは、ゲーム音源では女声ボーカリーズとなり、神秘的なテイストが加わっています。ゲーム中でのシチュエーション、楽曲の使い所に寄せてあるわけです。もちろん、ゲームのための音楽として作られている以上、ゲーム音源の方が先なのですけどね。ゲーム音源でも30秒からはメロディの担当楽器が木管となり、伴奏に弦が加わります。1分37秒からはリピート……に思わせて、3分12秒からは初出のブロックが出現。転調して盛り上げていきます。4分55秒からが本当のループで、1周5分弱というのはかなり長い曲ですね。シリーズでも珍しいぐらい長いです。基本的には同じモチーフを繰り返していくタイプの楽曲なのですが、見事に飽きさせないテクニックには「さすが」と唸るほかありません。

天使の世界というと、ただ荘厳に神々しい曲を充ててしまいそうになるところを、このような曲想を当てはめたセンスも素晴らしいです。ゲームの進行・探索を妨げることなく、世界観を醸し出しています。決して姿は見せないけれど人間に感謝され、そこには独自の営みがある天使たち。そして彼らが暮らす規律ある世界。そんな背景がすべて包み込まれているかのような楽曲だと感じます。ゲーム中では天使界のBGとしてのほか、天使にまつわる印象的なイベントで何度か耳にすることになります。エンディング以後は天使界には行けなくなってしまいますが、曲そのものは箱舟の中にある特定の部屋でいつでも聴くことができます。すぎやま先生は「ゲーム音楽は、全体の中心…いわば"へそ"となる楽曲ができるかどうかが非常に重要で、"ドラクエIX"ではこの"天の祈り"がそれにあたる曲でした」と、この曲に対する思い入れを語っておられます。それはユーザーにも伝わっているに違いありません。
04.王宮のオーボエ
・城内のBGM
ファミコン時代の「ドラクエ」におけるお城の曲は弦楽が多く、アリア、ロンド、メヌエットといった変化をつけてきたわけですが、スーパーファミコンの「V」以降はそれを主題楽器に委ねることも。「V」でトランペット、「VII」でホルンときて今回はオーボエです。弾むような弦主体の伴奏のうえで、流れるようにのびのびとしたオーボエが歌います。近年のシリーズにおける城は荘厳、威容といった曲想が多かったのですが、今回のような明るく楽しげなものは久々といった感じがします。「III」の「王宮のロンド」、「V」の「王宮のトランペット」に連なるタイプですね。

本作においては城が少なく、この曲の出番もあまり多くありません。お城の曲として流れるのは実にセントシュタイン城とグビアナ城だけです。よって荘厳な感じをあえて避け、展開も必要最低限にし、深い味わいはないかもしれないけれども伝わり易い曲にしたのではないでしょうか。だからこそ、エルシオン学園にも流用できたと。学校というロケーションが「ドラクエ」では珍しく、街や村の曲という感じでもないしなあ……というところに、このお城の曲がピッタリだったのでは。これが、ストレートなバロック音楽だったらエルシオン学園では使えなかったかもしれません。使用箇所は以下の囲みを参照。決して多くはないのですが、クエストをやり込み始めるとこれらの3箇所には頻繁に訪れることになるため、この曲の印象が薄いということはありません。逆に、シナリオだけパパッとプレイして終えてしまったユーザーにとっては、いまひとつ馴染んでいないかもしれないですね。


セントシュタイン城、グビアナ城、エルシオン学園(昼間のみ、夜は音楽が止む)
05.来たれわが街へ
・街のBGM
比較的規模の大きい人々の集う場で流れる、いわゆる街の曲です。個人的には「II」や「III」の街曲の匂いを感じる、懐かしいタイプの音楽だなあ、うんうんいかにも街……と感じていました。しかしこの曲、すぎやま先生はフィールドBGMのつもりで作ったと言うのですから驚きです。先生としては、アタマの「トテトテトテトテ」は歩く音をイメージしているんだそうで、さらに1周が2分近くあることを考えても、言われてみればフィールドを想定していたようにも思えます。が、この曲を打ち合わせで堀井雄二氏に聞かせたところ、しばし黙って曲を聴いていた彼がひとこと「これ、街ですね」と言ったとか。すぎやま先生にしてみれば「えっ」といったところだったのでしょうけど、実際にテストROMに街の曲として乗せてプレイしてみたら、これがピッタリ。「堀井さんの感覚、凄いわ」と思われたそうです。「で、先生、フィールドは?」「あ、フィールドね、そうね」と慌ててフィールドの曲を作った……のかどうかは定かではありませんが(笑)。もしこの曲がフィールドで流れていたら、かなりゲームの印象が変わっていたでしょうね。そこかしこに旧作の曲が顔を出す「IX」、筆者は「街も懐かしい感じできたか!」と感じていただけに、このエピソードを知ったときは驚きました。

イントロは木管とハイハットの刻みでスタート。主題が入ると伴奏に弦、そしてポップス的なベースが乗ってきます。42秒からの展開部からは、これもポップス的な要素である、いわゆるドラムスが顕著に(キックとリムの音色はその前から入っていますが)。ブラスも加わってきて、賑やかになってきます。イメージとしては序盤は街の入り口で、中へ中へと進むにつれてたくさんの人で賑わい……という感じ。特に錬金やダウンロード、仲間の入れ替え、すれ違いの成果確認などでたびたび戻るセントシュタインのイメージが強いですね。本作には街がそれほどないため、耳にする機会は思ったよりも多くはありません。


セントシュタイン城下町、ベクセリア(問題解決後)、サンマロウ、グビアナ城下町、ドミールの里
06.賛美歌に癒されて(VIII)
・教会内部
オルガンで奏でられる、教会内部のBGM。「VIII」で初登場した曲であり、「IX」のオリジナル曲ではありません。アレンジも「VIII」そのまま、音源を置き換えただけのようです(もとになったMIDIデータがおそらく同じ)。そのあたり、「VIII」でも組んだすぎやま先生とトーセですから、やりやすかったのではないでしょうか。

「VIII」の時に語られたエピソードですが、すぎやま先生は祖母がクリスチャンだったため、賛美歌が身体に染み付いているのだそうです。「賛美歌というのはこういう音楽、と完全に身についている。ドラクエの教会で流れる賛美歌はパロディではなく、そういった本物の賛美歌なんです」とのこと。「IX」にも使われたことで、この曲も「定番曲」の仲間入りということになるのでしょうか。
07.夢見るわが街
・夜になった街のBGM
前作「VIII」に続き、フィールドでの時間経過とともに昼夜が切り替わる本作。夜に街へと立ち寄ると、音楽がこのトラックのものに変化します。もちろん、トラック5「来たれわが街へ」のアレンジです。ベル、鉄琴、深みのあるピチカートを添えて、ボーカリーズをバックに子守唄のような木管がしっとりとメロディを奏でます。同じ曲でもアレンジとテンポが変わるとこんなに違っちゃうんだ!というアレンジの妙技を堪能しましょう。しかし毎度のことながら、「ドラクエ」の夜アレンジは絶妙です。もっとも、元になる曲がしっかりできているからこそなんですが。
08.酒場のポルカ
・セントシュタイン宿屋
・グビアナ城下町ダンスホール(昼夜とも)
・WiFiショップ
やり込めばやり込むほど、ゲーム中で頻繁に立ち寄ることになるセントシュタイン・リッカの宿屋で流れる印象的な曲がこちら。「パン・パン・パパッパッパン!」という手拍子(ハンドクラップ)から始まり、ひたすら陽気に展開していくポルカです。ポルカは民族音楽として発祥したものなので、この曲の楽器構成もアコーディオンのようなメロディ楽器、ギター、ウッドベースなど「ドラクエ音楽」としては風変わりな編成に。「ヨーロッパのちょっと昔のパブのようなところをイメージして作曲しました」とは、すぎやま先生の談。「酒場の奥にバンドがいて,その中央にはアコーディオンを抱えたバンドマスターがいる。その横にはクラリネットを持った若者が立っていて,そしてベースがいてドラムスがいて演奏をしている。店内ではお客たちがジョッキでビールを飲んでいる――そんな光景を思い描きながら作っていきました」とのことです。組曲ではどうするんだろう?というあたりは、しっかり適切なオーケストラ楽器に置き換えられており違和感なく聞けます(クラリネットやヴァイオリンがメロディを担当)。同様に、コンサートではどうするんだろう?という手拍子ですが、一部の手が空いているオケの人が実際にやっているそうです。

「ドラクエ音楽」としての位置付けは酒場曲、カジノ曲の延長にある感じでしょうか。本作にもしカジノがあったなら、きっとこの曲が流れていたことでしょう。なお、セントシュタインの宿屋だけでなく、グビアナ城下町のダンスホールでも聞くことができます。お休み中の昼間に行ってもこの曲でした。ロクサーヌのWiFiショッピングでも流れていますが、これは宿屋BGMが継続していると解釈すべきでしょうか。ダウンロード&セーブ中は無音になって、幕が上がるところからまた流れ出すんですよね。ちなみにこの曲、すぎやま先生によると「食事中に思い浮かんでできあがった」んだそうです。食事中にポルカが浮かぶ日本人がどれだけいますか?
09.錬金がま(VIII)
・カマエルで錬金中
「VIII」で新要素として組み込まれた錬金が「IX」にも引き続き登場。よって、錬金中のBGMもそのまま「VIII」から引き継がれました。カマエルに話しかけ、錬金をしている間に聞くことができます。「右手と左手が異なる調を奏でているイメージで、メカニカルな感じを出している」と語ったのはすぎやま先生。メカニカルな感じ……というと、とかく音色やリズムに依存しがちですが、こういう表現のしかたもあるんですね。音色こそ異なっていますが、曲そのものは「VIII」のものと同じです。
10.陽だまりの村
・村のBGM
街よりも規模の小さな、いわゆる「村」で流れるBG。本作では街よりも村の方が多く、さらにちょっとした小屋の内部でも流れたりするため、耳にする頻度は街よりも圧倒的に高くなっています。可愛らしいリコーダーのような木管のリードで始まり、以後もフルートを中心とした木管と弦を主体に進行。キック、リムショット、ハイハットといったドラムがリズムを執っています。とても素朴な雰囲気が良い感じなのですが、街にもともとすぎやま先生が想定していなかった曲が充てられてしまったこともあるのか、いまひとつ「街」と「村」で色を分けきれていない気もしますね。シリーズではいつも、街は街、村は村ではっきりと曲調が区別されていましたので……。となると、すぎやま先生がもともと「街」のつもりで用意していた曲はどんなものだったのかな、と気になってきますね。使用箇所は下の囲みの通りで、ゲームクリア後でないと行けない場所もかなりあります。

実は「序曲」や「インテルメッツォ」以外では、新規プレイでゲーム中に最も早く耳にする曲でもあります。二人の天使、イザヤールと主人公の会話。そこに、向こうからてくてくと歩いてくる少女と老人……そんなスタートシーンで流れているのがこの曲でした(次に流れるのは、魔物出現MEに続けて戦闘曲である「負けるものか」)。

ウォルロ村、エラフィタ村、ツォの浜、ふなつきば、カラコタ橋、ビタリ山ふもと(小屋のあるマップ)、カルバドの集落、狩人のパオ、ナザム村、東セントシュタインの小島にあるビーンおよびスピオの小屋、東ナザム地方・高台の井戸2つの内部、西ナザム地方・高台の井戸内部、アイスバリー海岸の小島にある洞窟内およびサンタの家、サンマロウ西の小島・灯台内部、アユルダーマ島東の湖の木(巨人と男の子がいる場所・クエスト58)、アシュバル地方(エルシオン学園南)高台・アントンの小屋内、オンゴリのがけ高台・お笑い修行をする女性の家、アルマの塔の前・窪地(ソマとトマがいる)
11.村の夕べ
・夜になった村のBGM
夜の村で流れる、村アレンジです。こちらもボーカリーズをバックに敷いた木管主体の曲であるため、街の夜バージョンである「夢見るわが街(トラック07)」とよく似ています。まあ、夜と言ったらこうなるものですけど。
12.悲壮なるプロローグ
・プロローグイベント〜アニメーションムービー〜タイトル
すぎやま先生がお気に入りに挙げる曲で、ゲーム中ではタイトルの表示されるプロローグムービーで流れるイベント専用曲です。タイミングとしては、序盤のウォルロ村で一連のシナリオを消化し、一度天使界に戻ったところ。星のオーラを捧げ、女神の果実が……そして現れる箱舟。しかしその瞬間、謎の「邪悪な光」によって破壊される箱舟、貫かれる天使界。地上に堕ちる主人公、各地に散らばるドラゴンボール……いや、女神の果実。そして地上各地に起こる異変……という、「FF」も真っ青な衝撃のムービーになっています。曲名もまさに、その内容から付けられていますね。

重々しく始まる冒頭は、「宿命(トラック26)」と同じです。ハープの加わる48秒あたりから変わってきて、タイトルまで一気に引っ張っていきます。
13.野を越え山を越え
・フィールドマップBGM
・ウォルロ東、「とうげの道」内部でもフィールドから変わらず引き続き流れる
・同様にセントシュタイン北、シュタイン湖内部でも流れる
・セントシュタイン北東の関所室内もそのまま
パパッパ、パパッパというブラスで幕を開ける、フィールドのBGがこちら。このブラスは主人公たちの歩みといったイメージでしょうか。広がりのあるストリングスが世界の広さを感じさせ、空気感も醸し出しています。ボン、ボンという深みのあるピチカートが旅の道筋を、あるいはそこかしこに潜んでいるかもしれない魔物の気配を描き、木管や木琴はそんな中にあってホッとさせられるのどかな風景を感じさせてくれます。非常に様々な表情を盛り込んだ曲と言えるでしょう。「IX」は敵のシンボルが最初から見えているため、その気になれば戦闘を避けつつひたすら歩むことも可能です。そのため、ランダムエンカウントであった通常のシリーズよりも、音楽が途切れることなく流れることもあり得ます。よってこのように、多彩な表情が持たされているのではないでしょうか。

筆者は「VIII」のフィールド曲もかなり好きだったのですが、「IX」の曲も好きですね。やっぱり正しいフィールド、という気がします。表情は多彩なのですが、それほどパートに厚みがないため(これは"あえて"でしょうが)、決して多くを語り過ぎていません。ゲームに寄り添ってはいますが邪魔はしていないのです。とても心地良いバランスを保っていると言えます。場合によってはここに「来たれわが街へ」が流れるかもしれなかったわけですから、堀井ジャッジは正しかったんだなと。
14.海図を広げて(IV)
・ツォの浜から船が出るイベントシーン
・以後、船で海を航行中BGM
いわゆる「船」の曲ですが、本作の海にはシリーズをプレイし続けているファンなら思わず「おっ」と反応してしまう、人気ナンバーワンと言っても過言ではない「IV」の曲を持ってきています。宝の地図での魔王系ボスではそれらのボス曲が流れたり、宝の地図の洞窟に「III」のダンジョン曲が流れたりと、シリーズのファンを意識していないわけがないと思われる本作。「IV」の海曲が流れることにシビれる人もいるでしょうが、新規ユーザーは置いてけぼりの古参ユーザー限定のサービスとも言えます。そしてその古参ユーザーからも、意外に「新曲が聞きたかった」という声が聞こえてくるのです。言わば「流用」であるこの仕様、賛否両論なのです。

「序曲」のイントロを変えてまで「新しいシリーズですよ、新しいドラクエですよ」とアピールしながらも、古参ユーザーが離れることを恐れたのか、彼らをつかんでおく仕掛けもぬかりはない……といったところでしょうか?どのような理由で本作に「IV」の海曲が充てられたのか、そしてなぜそうでなければならなかったのか、事情が知りたいですね。「VIII」におけるラーミアのような必然性も感じられませんし……。

流用の是非はともかくとして、とにかく表情豊かで壮大なこの曲、「IX」のゲーム音源はかなり頑張っていると思います。音質は比べるべくもありませんが、音の強弱や音色のチョイスといったシミュレートに関しては、PS版「IV」のゲーム音源にもひけをとりません。残念なのは本作では船の出番がさほど多くなく、圧倒的に箱舟が使われることからこの曲もやはり出番が少ないこと。「だから流用でもいいか」という判断になったのでしょうか?
15.負けるものか
・通常戦闘
・ウォルロに向かうリッカと老人の前に魔物登場、助けに向かうイザヤールと主人公
・カルバドの集落を魔物が襲う〜主人公と対峙し逃げ出す魔物
・ポギーをシャルマナにけしかけるナムジン、アバキ草の汁をかけてシャルマナの正体を暴く
・エルシオン学園クリア後、箱舟内部でイザヤールと戦う
・ドミールの里がガナンの兵士に襲われる
・カデスの牢獄にて、処刑台にかけられる仲間を見過ごせず蜂起するアギロ
本作の通常戦闘BGMがこちら。「VI」や「VIII」の通常戦闘曲から連なる、ポップス寄りの曲調になっています。細かく刻むハイハット、打ち鳴らすスネアに駆け巡るタムタムといったアグレッシブなドラムスと、ビンビンとテンションを上げるベース。リズム隊には要所要所にティンパニも重ねられています。そして勇ましいブラスと緊迫感のあるストリングスはもはやお約束。誰が聞いてもすぐにそれとわかる、文句なしのバトル音楽です。

ところがこの曲、意外に難産だったよう。すぎやま先生によれば戦闘の曲は「5回作り直したもの」だそうで、やはり「作っては壊し」が繰り返されたそうです。最初に作った戦闘の曲は、それを乗せてしばらく開発が進んでいたものの、そのうちに堀井氏が「先生には悪いけど、この曲は飽きます」と却下したらしく、すぎやま先生もそれで実際にプレイしてみたら「確かに飽きるね」ということで作り直したとか。部外者である我々からしてみれば、制作スタッフは御大・すぎやまこういちの作った曲を黙ってありがたくいただいているように思えますが、言うべきことは言い、ダメ出しもしているんです。すぎやま先生も「I」からの付き合いで堀井氏の感性、判断が正しいことはわかっているので、そこはきちんとプロとして直すのです。もちろん逆もあって、第一印象でスタッフからのリアクションがよろしくなかった曲も、すぎやま先生が「これで大丈夫なはずだから」と粘った結果、徐々に「最初はどうかと思ったけど、この曲で正解」となることも少なくないんだとか(「I」のフィールドは特に有名ですね)。
16.暗闇の魔窟
・ダンジョンBGM
こちらが本作のダンジョンBGMになります。オーボエとストリングスで始まる、不穏な中にもどこか暖かさのある導入。しかし27秒のあたりからは一転して緊張した不気味さを前面に押し出した雰囲気に。それが徐々に増大していき、楽曲後半はおどろおどろしさに支配されていきます。洞窟入り口から次第に深く深くへと潜っていくさまが楽曲で描かれていると言えるでしょう。もちろんループしてしまうわけですが……。怖いだけの曲になっていないところはすぎやま先生の人柄が現れているのでしょうか。互いに張り合うような、高音と低音の弦の対比が曲に深みと拡がりを与えているように感じます。

使用箇所リストは以下。ダンジョンが多い本作では、耳にする機会が多くなっています。

キサゴナ遺跡、ルディアノ城内、封印のほこら、海辺の洞窟、ビタリ山、サンマロウ北の洞窟、グビアナ地下水道、カズチャ村、エルシオン地下校舎、魔獣の洞窟、ドミール火山、ガナン帝国城、追加クエストNo128「ぶちこわせスキマを」にて井戸の底に新たに出現した「セントシュタイン城 地下」、グビアナ城から西の高台・毒沼内部
17.洞窟のワルツ
・メリア(フィオーネ)とレオコーンの踊り
ゲーム序盤と言ってもいい時点で発生する、ひとつのイベント専用に仕立てられた曲です。ルディアノ城においてレオコーン(黒騎士)とフィオーネが踊るイベントで流れます。ダンジョン曲である「暗闇の魔窟」のアレンジになっていますが、ワルツに仕立てられており音符の配置が変わっていることと、弦楽主体になっていることから、パッと聞いただけだとそうとは気付かないかもしれません。このイベントのためだけに1曲用意するというのも、「ドラクエ」ではあまり見られない特別な演出ですね。ほかにこのシーンに合いそうな曲もありませんし、逆にこの曲が使えそうなイベントもありませんし。
18.そびえ立つ死の気配
・塔タイプのダンジョンBGM
ダンジョンの中でも特に、塔の形をしたタイプのダンジョンで流れる曲。とは言っても塔らしい塔は2つしかなく、カデスの牢獄および閉ざされた牢獄については、「通常のダンジョンとはちょっと区別したい」という理由からくる流用と思われます。あまり耳にする機会のない曲であるため、効果的ではありますね。ダーマからカデスの牢獄までは間が空きますし、アルマの塔はクリア後ですし。

上昇、下降を繰り返すストリングスの刻みを伴って、オーボエをはじめとする木管が入れ替わりながらメロディを奏でていきます。43秒以降はところどころで金管が威圧的なアクセントを加えつつ、「昇れ昇れ!」とプレイヤーをジワジワと焦らせます。1分9秒からは刻みが止まり、終盤でそれまで溜めていた恐怖感が一気に襲いかかってくるかのような展開に。一方ではしばしば、コミカルな音色(イントロから聞かれる、フクロウの声のような音)も挿入されており、なんか「FF」の植松氏がやりそうな遊びも盛り込まれていますね。これは「魔物の声のような音」なんだそうです。余談ですが、昇っては降りる弦の刻みが「V」の戦闘曲に似てる、と思ったのは私だけでしょうか?使用箇所は以下。

ダーマの塔、カデスの牢獄、ガナン帝国城地下・閉ざされた牢獄、アルマの塔
19.サンディのテーマ
・サンディ初登場シーン
・以後、戦歴画面BGM
・とうげの道で箱舟発見、サンディが扉を開き中へ
・箱舟内部BGM
・クリア後、ぬしさまにもらった女神の果実を食べる主人公。そしてサンディが再登場
・サンディがセレシアをお姉ちゃんと呼び、「ネイルアーティスト検定に合格したの!!」
筆者が職場で「IX」をプレイしていた際、「えっ、それドラクエなの?ドラクエっぽくない音楽だなあ」と言われてしまったのがこの曲、サンディのテーマです。「女の子のキャピキャピした雰囲気を出すためにポップス系の歌っぽい曲に」というイメージですぎやま先生は作られており、なるほど確かに一般の人がイメージするところの「ドラクエ=オーケストラ」とはかけ離れているかも。シリーズをプレイしていれば、「ドラクエ」の音楽はわりといろいろなジャンルの曲が流れているのだと知っているんですけどね。

リッカの父・宿王リベルトを訪ね、危険を冒してウォルロ村にやって来たルイーダ。しかしリベルトは既に亡き人となっていました。ルイーダはリベルトの娘であるリッカに、代わりにセントシュタインの宿屋に来ないかと持ちかけます。悩むリッカ、そんな彼女を見つめるリベルトの魂……そんなシーンで初登場するサンディ。雰囲気ブチ壊しなギャルキャラを全開にした彼女は、本作がユーザーから叩かれる一因にもなってしまいましたが……。すぎやま先生は「初めて登場した場面で、僕の音楽との合い具合がおかしくて笑っちゃいました」とのこと。

ドラムス、ベースを他の曲よりも前面に出し、弦や管といったオーケストラ音色もひと通り入ってはいます。メロディを奏でているのは木管にも聞こえますが、実はソプラノのボーカリーズ音色。しっかり「歌もの」になってるわけです。サンディ初登場後は、戦歴画面を開けばいつでも聞けるんですけど!また、箱舟内部のBGMにもなってるんですけど!チョーうける!
20.サンディの泪
・エンディング後のサンディ、アギロとの別れ
聞いての通り、サンディのテーマ・しんみりバージョン。こちらもメロディはボーカリーズが奏でています。エンディング後、人間になった主人公は次第にサンディたちのことも見えなくなっていきます。そんな彼らの別れのシーンに流れる曲です。まあまあ、彼女とは後にまた会えますので。というかこの曲、もうちょっと他のシーンでも流れていた印象だったのですが、2回目のプレイで確認したら1度きりでした。「サンディ容疑者」周辺とか、「ネイルアーティスト」関連とかで流れてたような気もするのですが……。これは通常の「サンディのテーマ」に洗脳されてるってことでしょうか?!
21.箱舟に乗って
・ベクセリアクリア後、動き出す箱舟。主人公とサンディは天使界へ
・↑の後、天使界から出発する箱舟。世界樹が用意した、地上の青い木へと降り立つ
・カデスの牢獄、アギロが笛を吹くと……箱舟が登場!
・箱舟が天使界から神の国へと向け出発
・アギロホイッスル入手後、箱舟飛行中BGM
ストーリー中も箱舟が印象的に登場するシーンで何度か流れていますが、クリア後は箱舟が自由に操作可能に。その箱舟飛行中に流れ続けるのがこの曲です。エンカウントもありませんし、好きなだけ聞いていられます。よって展開の多い曲になっております。街や村への移動であればルーラが早いのですが、ダンジョンに行きたかったり、フィールドアイテムを拾いたかったり、徒歩では行けない高台に行きたかったり、宝の地図の洞窟を探したり……と箱舟の用途は多く、この曲も頻繁に耳にすることになるでしょう。やり込まない人は別ですが……。

この曲はBGMであると同時に効果音的な役割も果たしており、汽車の走行音である「シュシュポポシュシュポポ」の擬音をそのまま曲にしています。冒頭から「シュシュシュシュ、シュシュシュシュ」と鳴り続けるシェイカー、同じリズムで「ポポポポ、ポポポポ」と刻む弦や木管をそのつもりで聴いていると、「シュシュポポシュシュポポ」に聞こえてくるのです。また、イベントシーンでは汽笛のSEが加えられることもありますが、曲の頭のブラスも汽笛を模しているのだと考えられますね。50秒あたりからのベンド・ダウンするブラスも汽笛でしょう。そんな感じで各パートが一丸となって「汽車ごっこ」をしているなか、軽やかに歌うメロディはどこまでも爽快で楽しげ。「空を飛んでる間は敵と出会いませんから、音楽は快適じゃなきゃいかんのですよ」という、昔からのすぎやま先生の哲学が貫かれています。

もしもこれが、シナリオクリア前だったら能天気すぎるのかもしれません。が、「IX」で箱舟を自由に操れる頃というのは、シナリオは一応クリアしています。世界の危機は去っているのです。他の作品では「世界の危機そっちのけでなに寄り道してるんだ」という罪悪感がどこかにあり、それがツッコミどころだったり自虐ギャグにもなったりするのですが、「ドラクエIX」においては「目的は果たしました、あとは宝の地図でも錬金でもお好きなだけどうぞ」ということになっています。宝の地図のボスたちも篭っているだけで、外に出てきて悪さをしようという気配はありませんからねえ……。ある意味、堂々と寄り道できるのが「IX」の良いところかも。
22.せつなき思い
・ベクセリア、問題解決前(教会に入っても曲はそのまま変わらず)
・ダーマの塔最上階
・海辺の洞窟、村長のプライベートビーチ
・石の町
・マキナの屋敷、墓地でマキナと会話
・アノン撃破後、ジーラがやって来る〜アノンとユリシス女王を気遣うジーラ、改心するアノン
・ダダマルダ山内部
・ナザム北の泉内部
・クリア後、ひみつのいわば(海辺の洞窟・村長のプライベートビーチ)
・精霊の泉(ウォルロ地方・高台の洞窟)
・西ベクセリア地方、きとうしのいる小屋内
・追加クエストNo139、ロクサーヌのお願いにて、リッカの宿帳を「宿六会」なる男たちに
  渡してしまうロクサーヌ。主人公に「わたくしはスパイなのです……」と告白する
本作で「祈りの詩(トラック24)」に次ぐ使用頻度である、イベント用音楽。すぎやま先生の得意な、メロディアスな悲哀曲です。ちょっと「ほこら」の雰囲気があるんですよね、と思ったら先生もライナーノーツに「エレジーとも相通じる」と書かれていました。だからなのか、ユーザー人気も高いです。曲そのものは非常にシンプルで、弦楽を従えてディレイ(このディレイタイムがまた絶妙)の付いたベル音色が、悲しいとも優しいとも言い切れない微妙なメロディを奏でているのです。この「どちらかに寄り切らない曲調」ということが、BGMとして使いやすい、何度も使える汎用性のもとにもなっているのです。慣れていない作曲家だと、ここぞとばかりに気合いを入れてベタベタな曲を作ってしまったりするのですが、さすがにすぎやん、おっと失礼、すぎやま先生は心得ておられます。

使用箇所は上にまとめたように多いのですが、イベントで特定のキッカケで鳴り出すこともあれば、マップに入ったとたんに流れ出す(つまりマップBGになっている)こともあり、後者の場合はイベント終了後に訪れても常に流れていることがほとんどです。
23.渦巻く欲望
・ボス戦BGM
・闇竜バルボロスの背に乗ったゲルニックとイザヤールのやり取り
  〜バルボロスが箱舟に攻撃、その衝撃で落下する主人公
・バルボロスVSグレイナルのアニメーションムービー(イントロなし)
・牢獄を解放し、勝利を手中に収めたかに見えたアギロたち。そこにバルボロスが現れる
「負けるものか(トラック15)」をザコ戦BGMとするなら、ボス戦はこの曲。「渦巻く欲望」とはまた凄い曲名を付けたものです。これは果たして敵の欲望?レアアイテム欲しさに何度もしつこく戦いを挑む、プレイヤーの欲望?

ということで、「ジャジャジャジャジャーン!」と「ダイ・ハード2」も顔負けの衝撃的なアタックから始まるこの曲、そのあたりのザコとは違う特別な敵の手強さ、威圧感を表現するべくあえてテンポを落とし、ズッシリじわじわと迫り来るかのような曲調とされています。長期戦になりがちだろうという判断からか1周が約1分45秒あり、ゆったりしたテンポとあいまってとても長い曲に感じられますね(逆にザコ戦の曲は1周が1分20秒ほどで、テンポも速いことからわりと短く感じます)。

敵の攻撃を凌ぎ、全員の「ひっさつ」が溜まるまでひたすら耐えた日々が蘇ってきますなあ……この曲を聴いていると。この曲が流れるボスは以下にまとめておきます。なおゲーム後半、バルボロスとグレイナルが戦うアニメーションムービーで流れるこの曲は、頭のアタックがない専用バージョンになってます。

ブルドーガ、黒騎士、イシュダル、病魔パンデルム、魔人ジャダーマ、ぬしさま、石の番人、ズオー、アノン、シャルマナ、魔教師エルシオン、大怪像ガドンゴ、グレイナル、ゴレオン将軍、ゲルニック将軍、ギュメイ将軍、暗黒皇帝ガナサダイ第一戦&第二戦、エルギオス(イベント)、堕天使エルギオス(第一形態)、バルボロス、ぬしさま(クリア後の第二戦)、宝の地図のボス(歴代魔王以外)、エビルフレイム、いにしえの魔神、ギャングアニマル、名をうばわれし王、フォロボシータ、アルマトラ
24.祈りの詩
・ベクセリア教会前の墓地で、病魔に冒され亡くなったエリザとの別れを哀しむ人々
・ルーフィンが立ち直ったことで想いを叶え、主人公に感謝しつつ天に召されるエリザ
・海辺の洞窟で戦ったぬしさまが、オリガの父だと判明〜以後イベント
・ズオー戦後、マウリヤとマキナの語らい〜思いをとげ召されるマキナ
・ラテーナの回想:助けた天使、村で暴虐をふるうガナン帝国兵、立ち上がり兵を追い払う天使
・ガナサダイ最期の攻撃から主人公をかばい、命を落とすイザヤール
・閉ざされた牢獄からエルギオスが去った後、ラテーナが現れて回想
   (エルギオスが人間を憎む理由、ラテーナがエルギオスを探している理由)
・最終戦後、まさに世界を滅ぼさんとするエルギオスの前にラテーナが現れる
   〜我にかえり、改心するエルギオス
・追加クエストNo123、リッカの夢の宝物。「夢」と付くたからの地図の洞窟で
  最深部のボスを倒すと発生するイベント(リッカの母からの手編みのセーターと、手紙)
・追加クエストNo125、ルイーダのヒミツ。友情のペンダントを入手し、ルイーダに見せる
・追加クエストNo135、第1回ルディアノ会合でのフィオーネ姫とメリア姫の対話
・追加クエストNo160竜の語りべにて、語りべがドミール火山山頂で古い歌を歌う
・ガナン帝国城・閉ざされた牢獄B4での回想イベント、ラテーナとアルマトラ
・ウォルロ村で、人間になったイザヤールと再会
ゲーム中で最多使用となっているイベントBGMで、作品を象徴するキー楽曲でもある「天の祈り(トラック03)」との共通点も感じる印象的な曲です。ハープ、弦、木管など構成楽器も似ていますね。「せつなき思い」と比べて優しげで安堵感があることから、だいたい「事件解決後」や「絆、ふれあい」といったイベントで流れることが多いです。

クリア後の追加クエストで使われることも多く、特に「ストーリー」と銘打たれたストーリー性のあるクエストにおいて頻出。そこではエンディングまでの「本編」では語られない内容も多く、これらを「エンディング前」に入れていたら、「ボリューム不足」と言われたシナリオもまた違ったものになったのではないかと思います。おっと、曲とは関係ないですね、これは。

楽曲そのものはあくまで汎用性を持たせ、様々なシーンで使えるように作られているため、特定の象徴的なモチーフが組み込まれているとか、何かのアレンジだったりとかという意味付けはなされていません。「天使の曲」とも言い切れないですし、「感謝の曲」といったテーマ性があるわけではありません。それは使用箇所リストを見れば明らかで、すぎやま先生の解説は「神聖な雰囲気を持った曲です」ということに留まっています。

ここでまたシナリオの話になるのですが、音楽に「モチーフ」「アレンジ」といった仕掛けを込めて伏線を張り、後にそれを回収するにはシナリオにもそれ相応のボリュームが必要なんですね。わかりやすく言うと、あるテーマ音楽があったとして、それが(もしくはそのアレンジが)2時間ある映画の冒頭・中盤・エンディングで流れれば相応の効果があるかもしれません。しかし、30分枠のドラマで同じことをやっても、それぞれのポイントが近すぎて効果が発揮できず、むしろ同じ曲の重複感が強調されクドくなってしまう可能性もあります。ゲームも同じ。いや、そもそも同じ曲が何度も流れるゲームはさらにそのハードルが高いのかもしれません。ここぞ!というテーマ曲はよほど計算して使わなければなりませんし、それなりに間隔が必要になってきます。「IX」のボリュームではそれは難しく、ゆえに「アレンジ」や「モチーフ」といった楽曲の関連付けに伴う演出は、あまり行われていないですね。……筆者の言わんとすること、伝わってるかな?まあ、ゲームに直接関係する話ではないので、流していただいても……。
25.仲間とともに
・他のプレイヤーと通信プレイ中のフィールドBGM
この曲は、実際に「IX」をプレイしたユーザーの間からも「何の曲?」と言われてしまう、不幸なものだったりします。これは他のプレイヤーと通信プレイしている際にフィールドで流れる曲なのです。曲名ももちろんそこから。他のプレイヤーの世界に行く、もしくは他のプレイヤーが自分の世界に来ている状態でフィールドに出てみましょう。聞いたことがないという方は、通信プレイを一切せずに終えてしまったんですね。それをしないと「おわかれのつばさ」というアイテムが手に入らないため、アイテムコンプ率にも影響してくるという(笑)。

上で「街の曲はもともとフィールドを想定して作られたもの」ということは既に記しましたが、それを知ったうえでこの曲を聴くと、なるほど「街の曲(トラック05"来たれわが街へ")」とよく似ています。「トテトテタテトテ」という出だしも、「歩みをイメージした」という街の曲と姉妹のよう。聞き進めるとそこかしこに、アレンジとは言わないまでも似通ったところも聞き受けられますね。名残りというやつです。そもそも「フィールドの曲を通信時・非通信時で変える必要があるのか?」ということについてはなんとも言えませんが……。

とは言え、製品版のフィールドになった「野を越え山を越え(トラック13)」とは区別化されているので重複感はありませんし、「まあ、変えてみるのも面白いんじゃない?」と思えます。一人プレイのときよりも前向きでどこかユーモラス、なんとなくワクワクさせられる曲調になってます。筆者は通信プレイにはそれほど乗り気ではありませんでしたが、誘われてやってみたらそれはそれで面白かったです。「その魔法って、そんなふうに使うんだぁ」と新規ユーザーの女の子に言われたら悪い気はしません(笑)。
26.宿命
・グレイナルの最期
アニメーションムービーによって描かれる、グレイナルと闇竜バルボロス。そこにはボス戦曲「渦巻く欲望」が充てられていますが、続けて描かれるシーンに流れるのがこの曲。大地を消し飛ばさんとするバルボロスの一撃、グレイナルは背中に乗っていた主人公を振り落とし、その身を捨ててバルボロスの攻撃を阻止します。主人公に思いを託す、グレイナルの最期。なにもできないまま、地上へと墜ちてゆく主人公……。そんなシリアスなシーンです。「宿命」というのはグレイナルとバルボロス?それとも主人公に背負わされたもの?様々に解釈できる曲名ですが、この曲は「悲壮なるプロローグ(トラック12)」の「原曲」でもあります。つまり、このシーンとプロローグムービーには関連付けるべき繋がりがあるのです。それは「主人公、天使に対する攻撃は誰の思惑によるものか」でも良いですし、「翻弄され、なにもできずに墜ちる主人公」というシーンの類似性も表しているのかもしれません。

重々しい弦楽によるズッシリとした曲調に、本編でも屈指の悲壮感が漂っています。絶望感はアッテムト並みです(笑)。なお、お気に入りのイベントシーンを問われたすぎやま先生が真っ先に挙げたのがこのシーンで、「ゲーム後半のムービーシーンですね。あそこは先に映像があって、それにタイミングや曲調をあわせて制作しているんです」とのことでした。「ドラクエ」ではこのような楽曲製作は珍しいのではないでしょうか?
27.集え、者たち
・ダーマ神殿内部
最初にダーマ神殿に辿り着いたとき、シリーズのファンならば誰もが「おっ?!」と気を惹かれたのではないでしょうか。そう、ダーマ神殿で流れるこの曲、シリーズを象徴する「序曲」のアレンジなんですね。これまでの作品ではダーマ神殿内は通常の「お城BGM」が流れており、このような演出は初めてのこと。「シリーズ総決算」的な意味も感じますし、「新章スタート」のような決意表明にも聞こえますね。なにかこれ、定番化しそうじゃありません?以後のシリーズで、ダーマといったらこの曲、みたいになるんじゃないでしょうか。根拠はないですが。

弦楽で奏でられる序曲アレンジということで、雰囲気としてはファミコン版「I」における東京弦楽合奏団の演奏に近いですね。しかも16秒あたりからには、「I」の序曲ロングバージョンでしか聴けないフレーズが盛り込まれていたりして、完全に古参ユーザー狙い。ここにも「新シリーズでありつつも古参もつかんでおきたい」というサービスが仕掛けられていました。悔しいけどこれは目論見通りにつかまれちゃったなー。
28.運命に導かれ
・神の国
ゲーム終盤に訪れる「神の国」で流れる、神々しいとも不気味ともとれる「薄ら寒い不穏な曲」です。個人的にはヘタなダンジョン曲よりも恐く感じてしまいます。なんて言うんでしょ、この不安定な感じ?「歌ってごらん」と言われても簡単には再現できそうもないこのメロディ。序盤こそまだ「神の国」という感じですが、24秒からは完全にホラーです。またこのゲーム音源の劣化した感じが、かえって恐いんですよね。ゲーム中での人の気配がない感じもなんとも言えず、良くないことが起こるに違いない、一刻も早く立ち去りたいという空気で……。ただ、ゲーム中ではすぐ次の曲に変化するため、それほど聞く機会はありません。

なお、エンディング後も神の国に行くことは可能で、そこにはセレシアがいます。曲はあいかわらずこの曲が流れており、やっぱり恐いです……。セレシアに話しかければ絶望と憎悪の魔宮へ行くこともできます。
29.主なき神殿
・エルギオスによって禍々しく変貌した神の国=絶望と憎悪の魔宮
上の「運命に導かれ」のモチーフを使った、ラストダンジョンBGM。この曲の元になってるんですから、やはり「運命に導かれ」は恐いはずだわ……。緊迫した弦を這わせ、木管や金管がそれぞれ思うままにアクセントを入れている感じ。もちろん計算された音なのですが、あえて音楽っぽくしていないというか、不安定な感じを出しています。音に空白のあるところが、いつどこで何が起きてもおかしくない緊迫感となっています。これが面白いんですが、あえて音に隙間を作っておくと、ユーザーが勝手にその中に様々な思い、想像を詰め込むんですね。そして勝手に不安になったり、焦ったり、恐がったりしてくれるのです。つまり、受け手に委ねる曲作り。「この余白にキミは何を感じる?」ということです。

これが、ガチガチに音を重ねて「ほらほら恐いぞ、不気味だぞ〜」という押し付けるような曲だったら、イメージが限定されユーザーの空想が入り込む余地がなくなります。すると、その曲を恐いと感じない人にとっては本当にただのBGMになってしまうんです。「恐怖感を演出するには、語りすぎず」。それが最近、筆者が思っていることだったりします。そのうえで改めてシリーズのダンジョン曲、ラスダン曲を振り返ると、恐い曲というのはだいたいそんな感じなんですよ。というより、上手いゲーム音楽においてはだいたいそうですね。ダンジョンで「ジャジャジーン、バーン、ドジャーン」とかやっちゃってるのって、たいていはコケオドシで恐くないんです。
30.決戦の時
・堕天使エルギオス戦(第二形態)
最終ボス戦BGです。追加クエストで流用あるかなーと思いましたが、ありませんでした。あくまで特別な曲となっています。まあ、宝の地図をやり込んでるようなプレイヤーにとっては、追加クエストのボスなんてアルマトラですら瞬殺だったことでしょう。もっとも歯ごたえのあるものも欲しかったですね……。あ、曲と関係ありませんでした。

最終戦を彩る曲として、何か仕掛けがあるはずだと勘繰ってしまうのは悪いクセですが、冒頭のブラス(7秒〜)が既に、「天の祈り(トラック03)」を元にしているように思えてしかたありません。以後もそのモチーフが散りばめられているように思えるのですが、深読みしすぎでしょうか?1分17秒からは明らかに「序曲」が組み込まれています。ここまではっきりと使われるのは「III」の「勇者の挑戦」以来かと。本作ではダーマ神殿の曲も「序曲」のアレンジでしたし、他の作品よりもさらにゲーム本編に入り込んでいるんですね。1分31秒で現れるブラスの「序曲」主題、すぐ1分33秒でそれを追いかけるように現れるのはやはり「天の祈り」。1分40秒からは「主なき神殿」、もしくは「運命に導かれ」のモチーフが。プレイヤー(「序曲」)、天使(「天の祈り」)、エルギオス(「主なき神殿」)が入り乱れまさに圧巻!全体としては正統派「すぎやんラスボス曲」になっており、「VIII」の「おおぞらに戦う」との共通項も感じられる、最終戦に相応しい楽曲となっております。

すぎやま先生によると、最初は制作陣からラスボスのイメージを「神経質でピリピリしたタイプの敵」と聞かされていたそう。「ボスの曲には二種類の考え方があります。一つは戦いの激しさを全面に出す方法。もう一つは、怖さやボスの威厳を表現する方法です」とする先生は、「神経質でピリピリしたタイプの敵」に対して「そのイメージで"威厳"系、あるいは"静か"系で一度曲を作った」のですが、ここでどんでん返しが。ラスボスのイメージが変更になったのです。「おいおい、それはないでしょう」と思いながらも曲を作り直した先生、そうしてここで聞けるような「"激しい"系」になったとのこと。いやはや、開発中はいろいろなことがあるもんですね。しかし、「神経質でピリピリした」ラスボスって……エルギオスはエルギオスだったんでしょうけど、最初はもうちょっと違った性格だったんでしょうかね?うーん、「IV」のピサロみたいな感じでしょうか?
31.星空へ
・エンディング前半
「天の祈り(トラック03)」を発展させた、エンディング前半に流れる曲。構成楽器は異なるものの、ストレートなアレンジといった印象です。楽曲自体はそれほど長くありません。
32.星空の守り人
・エンディング後半(スタッフロール)
こちらがエンディングのメインで、5分強ある大作。力強いイントロから始まります。こちらもどんな構成になっているか勘繰りながら聞いていますから、まず36秒のところで引っ掛かりました。あれ、この曲はなんだっけな……で、すぐに浮かんだのは「I」の「ラダトーム城」。そんなものが組み込まれる理由はないということで、単に似てるだけとスルー。48秒からはフィールドBG、「野を越え山を越え(トラック13)」が入っているような気も。いや、気のせいか。以後もこれらのモチーフを繰り返していきますが、最終的にはアレンジは組み込まれてないという結論に。「ラダトームっぽいフレーズ」が頻出するため、聞き馴染みがあるように錯覚してしまいました。

さて、最近の「ドラクエ」エンディング曲は既存曲の流用がなにかと話題になりますが、今回はどうなんでしょうか。今のところそれっぽい情報は出ていないようなのですが……。久々の新規オリジナル曲、ということで良いんでしょうか。個人的にはどっちでもいいんですけど……。
33.クエスト受注
・クエスト受注時
木管で奏でられる、短いMEです。曲名のまま、クエストを受注したときに鳴るもの。今回のサントラにはおなじみとなっている既存MEが入っていませんが、新規のものについてはこのように収録されています。もしも今後の作品でクエストが盛り込まれたら、このMEも定番になるかもしれませんね。
34.クエスト・クリア
・クエストクリア時
クエストをクリアした際に流れる、「めでたし、めでたし」なME。木管とピチカートで構成されたさりげない音です。なにか物足りない……と思ったら、「CLEAR」の文字が出るときの「バン!」という効果音がないからでした……。音の印象として、ワンセットになってるんですよね。
35.転職
・転職時
ダーマ神殿で転職する際に流れる、ハープとシンセ(弦?)による短いME。ほんとうに一瞬で、音楽と言うよりはまさしくME、エフェクトに近いものです。なお、ダーマの神殿での転職以外に、「ダーマのさとり」を使って転職する時にも鳴ります。さらに、転生の時にも流れますね(転生はダーマの神殿でしかできません)。
36.スーパースター
・スーパースターの技「バックダンサーよび」発動時
スーパースターの特技「バックダンサーよび」を使うと、戦闘BGMが中断されてこのMEが流れてきます。珍しくエレキギターの音が使われており、完全にポップス寄り。これぐらいの長さがあるとMEというよりは完全に音楽ですね。コーダは「序曲」のモチーフで締めています。エグザ○ルばりの連携したダンスを見せるキャラクターたち、後ろのダンサーはどこから現れたナニモノ?安易に流行りに乗っかったようにも見えなくもないこの演出は、シリーズのファンからも非難されたりしましたが……。これが「FF」だったら、エイベ○クスとタイアップしてエグザ○ルの曲を流したり、そっくりなCGキャラクターを登場させたりするぐらいのことはやるぞ、きっと……。

CD未収録曲
本作にもシリーズおなじみの「ME」が使われていますが、新規のものを除いてサントラには収録されていません。ここではそれらにスポットを当ててみたいと思います。取りこぼしがあったらお知らせ下さい。

魔物出現 「VIII」と同じもの。主に中ボスの登場とともに流れました。
宿屋 宿泊時や「そして夜が明けた」などの演出に。回復の象徴。
戦闘勝利 おなじみ、戦闘終了時の短い駆け上がりのME。
重要アイテム入手 ゲーム進行に欠かせない、キーアイテム入手時の音です。「チャララララーン」という短いもの。星のオーラ、女神の果実など。
獲得 「チャカチャチャカチャチャーン、チャラララーン」というやや長い方。称号の獲得や、戦歴に新たな項目出現、しぐさを覚えるとき。また、ルイーダに「おうえん」を教えてもらったり、世界樹からルーラを授けられた時にも。
レベルアップ おなじみのファンファーレです。また序盤で、「ルイーダが連れてきたのが小娘と知って呆れるレナに、トロフィーを取り出して見せるリッカ」というシーンにも。ちなみにサンディはこのMEを「戦いで経験値をかせいでいくとパパラッパッパッパ〜ン とレベルが上がって強くなるんですケド」と表現。
仲間 パーティキャラやNPCが仲間になる際に流れるシリーズおなじみのME。仲間を自分で作成する本作では、ルイーダやロクサーヌ、リッカ、イザヤールが仲間に加わるときに流れます。
セーブ 教会などで冒険の書に記録した時のオルガンME。シリーズおなじみ。
治療 教会で毒の治療をした際などに流れるオルガンME。シリーズ共通。西ベクセリア地方、小屋の中にいるきとうしが呪いを解こうとする際にも流れます(呪いは解けません)。
呪い シリーズおなじみ。呪われた装備品を装備する、呪われた状態で装備を変えようとした時に流れるほか、カルバドで少女チャミーにゲンキ草を渡してぱふぱふをしてもらうが、実はヒツジによるぱふぱふだった!というところで唐突に流れて驚かせてくれました。ところで……本作でもセーブデータが意図せず消えてしまった時に流れるのでしょうか?
ファンファーレ小 シリーズ共通。いつもはカジノでの小当たりで使われますが、本作にはカジノがありません。宝の地図に潜む、魔王系ボス最短討伐ターン数の記録を更新した際に流れます。またクエストNo45「消えたテスト用紙」にて、ベクセリア周辺のモンスターを倒して「やぶれたテスト1〜3」を集め、エミィに3枚全て渡すとクエスト達成となり、やぶれたテスト用紙をつなぎ合わせてみると……なんと100点!というところで「チャララララララララ・タッターン」とこのMEが鳴ります。
ファンファーレ中 シリーズ共通。本作では追加クエストで、「見事に宿王になったリッカ」といった演出に使われました。
虹の杖(レインボー・ハープ) 「I」から。竜の門で光の矢を放ち、橋がかかるシーンに。

未収録曲はMEだけではありません。宝の地図の洞窟関連では旧作の既存曲が使用されていますが、未収録となっており残念です。宝の地図の洞窟内では「DQIII」のダンジョンBGMが使われ、また魔王系ボスではシリーズ作品の各ラスボス音楽が使用されています。懐かしいボス曲が「IX」での新規アレンジで聴けるのです。どうしても聴きたい人は頑張って地図集めをして下さい。すれ違いでも手に入りますが、現在では配信クエストをこなすことで最終的にすべてのボス地図が手に入ります。ボスごとに使用される曲は以下の通り。

竜王→「竜王(I)」、シドー→「死を賭して(II)」、バラモス→「戦いのとき(III)」、ゾーマ→「勇者の挑戦(III)」、エスターク→「邪悪なるもの(IV)」、デスピサロ→「悪の化身(IV)」、ミルドラース→「大魔王(V)」、ムドー→「魔物出現(VI)」、デスタムーア→「魔王との対決(VI)」、ダークドレアム→「魔王との対決(VI)」、オルゴ・デミーラ→「オルゴ・デミーラ(VII)」、ドルマゲス→「ドルマゲス(VIII)」、ラプソーン→「おおぞらに戦う(VIII)」



DISC1 シンセサイザー版

01.序曲IX
さてさて、ここからはDISC1に戻って「シンセサイザー版」を聴いていきましょう。とは言うものの、最初の1曲目に収録されているのはこちらも都響演奏の「序曲IX」で、DISC2と同じです。せっかくなら「序曲」のシンセバージョンを入れてほしかったところですが、既存曲なのでデモを作成しなかったんでしょうか?でも新イントロのデモは作ってると思うんですけどね。
02.天の祈り
ということで、DISC1は「シンセサイザー版」と銘打たれているものの、アレンジ版というわけではありません。その実は、会議などでスタッフに聞かせるための「デモバージョン」が元になっています。多少の調整はされているかもしれませんが、いわゆる「シンセアレンジ」とは異なる性質のものです。楽曲にOKが出たらこれらを元にして、トーセのスタッフとともにゲーム音源への落とし込みが行われるわけです(その結果がDISC2ということになります)。以降は、ゲーム音源と比べながらシンセサイザー版を吟味しましょう。

「天の祈り」のシンセバージョンは、ギター(リュート)の音が思いっきり右側に振られているのがポイント。ゲーム音源では逆になっており、センター寄りに気持ち左に振ってるぐらいのパンニング(定位)になっています。これはおそらく、DSのスピーカーで聞いたときに極端な定位にするよりも、聞こえやすいバランスを重視してのことではないでしょうか。ゲーム音源への落とし込みでは音色そのものの吟味だけでなく、ゲーム機での鳴り方や聞こえ方を考えてそういった細かい部分の調整も行われるのです。CDで聞くときと、テレビのスピーカーやゲーム機のスピーカーで聞くときでは最適なバランスというものが変わってきますからね。そのあたりにも注目してみて下さい。

ボーカリーズの音色は、ゲーム音源に比べて繊細です。木管類もそうですね。このあたりはProteus/2か、JV-2080あたりの音でしょうか。あまり音を重ねる・混ぜるということはしてないようです。ゴージャスにするよりも、デモとしてのわかりやすさを優先しているようです。もっともこの後でゲーム音源に落とし込まなければなりませんから、デモをいたずらにゴージャスにしても意味がないでしょうし。
03.王宮のオーボエ
ゲーム音源と比べて拡がりと深みのある弦の音。さすがにいま聞くと「ひと昔前の音色だなあ」とも感じてしまいますが……。昨今のゲーム音楽はストリーミングでフルオーケストラが流れることも珍しくありませんし、オーケストラを使えないときでもそのシミュレートには、中堅から若手の作曲家たちは大容量のソフトウェア・シンセを使い、本物ソックリな厚みのあるオーケストラサウンドを構築しています。「これ、シンセなの?」と驚いてしまうようなシンセ・オーケストラ。もしすぎやま先生のような「生のオーケストラ」を知っている方が、そういった大容量ソフトウェア音源を使いこなしたら凄いものができるんだろうなあと思いますが、先生は生オケとゲーム音源それぞれの良さをわかったうえで、シンセにオケを完璧にマネさせようとは考えていないんですね。ましてこれらはデモですから、きっと今後もずっと現在のシステムを使い続けるのでしょう。

DISC1の聴きどころは、「ゲーム音源とはどう違うか」「もとはどんな音だったのか」というところ以外に、MIDIデータの作成……つまり「打ち込み」をすぎやま先生自らが行っているというところにもあります。過去のCDにもシンセバージョンが収録されたことはありますが、先生自らが作成した演奏データがそのままCDになったのは今回が初めて。先生の打ち込み職人としての技も確認できるというわけなんです。とは言っても普通、打ち込みといったらまずシーケンサーに入力していくわけですが、先生の場合はそうではありません。すぎやま先生は五線譜に鉛筆で音符を書いていくように、まずスコア作成ソフト「Overture」を用いてコンピューター上で譜面を作成。それを、「Overture」と連携しているシーケンサーソフト「Easy vision」で走らせ、音楽として鳴らすんですね。打ち込みをする人はリアルタイム入力したものをクオンタイズしたり、またはステップで打ち込むわけですが、先生の場合は楽譜を作成することが即ち「打ち込み」なのです。ちょっとマニアックな話題になりましたか?それぞれのソフトが気になる人は、さらに検索などを重ねていろいろ調べてみて下さい。調べるうちにますます興味が湧きますし、楽しくなってきますよ。もちろん、先生と同じソフトを揃えないと音楽が作れないわけではないので、念のため。しかしいま、Easy vision使ってる人はなかなかいないだろうなあ……。

ついでのようになりましたがこの曲、ゲーム音源にはないコーダが付いており、完結しています。交響組曲のことも見越したスケッチになっているのでしょうか?
04.来たれわが街へ
とにかく前へ前へ出るような音作りがされているゲーム音源に対し、シンセサイザー版は柔らかい音になっています。それでいて奥行きがあり、ふくよかな拡がり感が心地よい。多少、表情に乏しいベタ打ちな感じがするのは、そもそも先生は打ち込みの専門家ではないのでしかたありません。それにしても、JVで「ドラクエ」音楽の耳コピをしていたときを思い出す、個人的にはとても懐かしい音。この時期の音源でゲーム音楽の耳コピをしていた人にはわかってもらえるでしょう。「90年代・サンプルプレイバック音源」の音なんですね。

そんなわけでここでは、Overtureで作成されEasy visionで走らされたMIDIデータが実際に「音」となって出力される、「シンセサイザー」について触れておきましょう。すぎやま先生が使われているのは、つまり皆さんがここで聞かれている音は、CDのライナーノーツにも書かれている「E-MU(イーミュ) Proteus/2」、「Roland(ローランド) JV-2080」、「KORG(コルグ) M1」のほか、アナログシンセ「KORG MS-10」といったシンセサイザーによるものです。シンセサイザーとは簡単に言えば「いろいろな音が出せる楽器」です。アナログシンセ「MS-10」は自分でいろいろな音を作ることができます。他のデジタルシンセ、「プロテウス」「JV-2080」「M1」は別の言い方ではプリセットシンセサイザーと呼ばれ、様々な楽器音があらかじめ入っているものです。先生はこれらから「弦はこれ、ラッパはこれ、ドラムはこれ」といった感じでチョイスしているのです。個々のシンセについては以下で触れていくことにします。
05.夢見るわが街
夜の街の曲ですが、ゲーム音源ではコーラス音色(ボーカリーズ)が左右に拡げてあるのに対し、シンセ版ではほぼセンターに留まっています。ゲーム音源にする際、「ちょっと拡げようか」といった感じで膨らませたのでしょうか。一方でベルの音色は本体が左側で鳴り、右側で減衰した音(ディレイ)が鳴るというところまでゲーム音源でも再現されています。すぎやま先生のこだわりでしょうか。しかし正直、曲そのものについてはゲーム音源で語ってしまっているので、シンセ版はあまり書くことがないんですよね……。もうあとは聴いていただくしかない、みたいな。

ということで、ここで先生が使われているシンセのうち、「E-MU Proteus/2」について簡単に紹介いたしましょう。「ドラクエ」の音楽を好きで聴いている人でも、こういうことについてはよくわからない人も少なくないはず。「すぎやま先生はこういう機械で作ってるんだ」「このCDの音はこんな機械から出てるのね」ということも知って損はありません。

プロテウスシリーズはかつてアメリカのイーミュ社から発売されたデジタル音源モジュールで、中でも「Proteus/2」は特にオーケストラ楽器に特化したモジュール。すぎやま先生が所有しておられるのも頷けますね。当時の評価は高く、オーケストラサウンドを必要とするプロ、とりわけ映像音楽家は必ずと言っていいほど持っていたほど。その出音は、大容量のソフトウェア音源が普及したいまとなってはイマイチに聞こえてしまうかもしれませんが、「オーケストラと言ったらProteus/2」という時代が確かにあったのです。
E-MU Proteus/2
E-MU Proteus/2

現在はもちろん生産されておりませんが、古い機材ですので中古品がかなり安く購入できます。かつては高くて手が出なかった人がいま、「大人買い」していたりも。ただしメーカーサポートは終了していますので、自己責任ということになりますが……。なお、「Proteus/2」ではありませんが、現在E-MUはPCで使用するソフトウェアシンセ、「Proteus VX」をフリーで無償配布しています。Proteus直系の1024音色が制限なく使えますので、興味がある人はダウンロードされてみてはいかがでしょうか。ダウンロードはこちら(メールニュースへの登録が必要です)。
06.酒場のポルカ
こちらはおなじみ、宿屋の曲ですね。実はこの曲、個人的にはゲーム音源がかなり頑張っており、完成度はそちらの方が上、とも思っております。特に手拍子の音はトーセのスタッフが作り込んだのでしょうか、かなり「らしい」んですよ。対してシンセ版は単音のハンドクラップを鳴らしただけという感じ。またギターの音もそうで、たとえば32秒あたりの「ジャン、ジャン、ジャッジャッジャン」では、シンセ版がいっぺんにノートしているような感じであるのに対し、ゲーム音源ではちゃんと弦を上から「ジャラン」と引っ掻いてる雰囲気が出されています(こまかくてすみませんね)。両者を比較することで、「曲そのものを作るプロ」と「音を作るプロ」の仕事の違いが聞き取れます。シンセ版はたしかに音はふくよかですが、ニュアンスはゲーム音源の方が出てたりして、面白いところです。

さてさて、このCDでの使用シンセサイザー紹介、続いては「Roland JV-2080」です。かつてローランド社は多くの音源モジュールを出し続けてきましたが、その決定版として出たのが1994年のJV-1080。もともとの音色の豊富さに加え、拡張音源ボードでさらなる音色の追加が可能で、いわば「即戦力」。ミュージシャンや作曲家がこぞって購入し、多くのプロのスタジオには高い確率で導入されていました。90年代の様々な音楽にJVのサウンドを聴くことができます。いまだに現役で使っている人も少なくありません。
Roland JV-2080
Roland JV-2080

そして、その後継機として出たのがJV-2080でした。様々な部分でJV-1080よりも強化され、装着できる拡張ボード数も倍になり、スタンバイ可能な音色数はすべて聞くだけでも一苦労するほど。拡張ボードの中にはオーケストラ楽器に特化したものもあり、おそらくすぎやま先生もお使いなのではないでしょうか。現在はもちろん製造されておらず、こちらも中古品がかなり手頃な価格で手に入ります。かつてリアルタイムに購入した者としては複雑な心境ですが……。その後、JVはXP、XVとさらに進化を重ね、現在のFantomシリーズにその血が流れています。
07.陽だまりの村
えー、村の曲です。う、他に書くことがない……。ゲーム音源での最限度も高いです。シンセ版では細かなプツプツというノイズのような音が聞こえるのですが、リズムにちょっとディレイがかかってるんですね……。カツ、カツというリムの音にディレイがかかったものが、ノイズのように聞こえてます。これが面白いことに、ゲーム音源でも再現されているんですよ。「ん?ドラムにディレイがかかってるなー、これも一応同じようにしておくか?」と、トーセのスタッフが言ったかどうかは定かではありません。

すぎやま先生のシンセ紹介、続いて「KORG M1」です(ライナーノーツでは"M-1"となっていますが、KORGにM-1というシンセはありません)。M1はコルグ社が1988年に発売したミュージック・ワークステーションで、鍵盤(キーボード)・音源・シーケンサーが搭載されたオール・イン・ワン・シンセ。これ一台で音楽制作が可能です。いま「ワークステーション」と言ったらサンプリング機能やオーディオレコーディング機能も付くものですが、当時はこうだったのです。こちらもプロを中心に大ヒットしたもので、公称で10万台売れたとも言われています。M1には8トラックのシーケンサーがありますが、すぎやま先生は使っていません(上で述べているように、MIDIデータはOvertureとeasy visionで扱っておられます)。

KORG M1
KORG M1

また、鍵盤のないM1Rというラックマウントタイプのモジュールもあります。先生がどちらを使っているのかはわかりませんが、普通M1と言ったら鍵盤タイプのものを指します。時代の流れというものは寂しいもので、当時25万円したM1も今の中古市場では1万円しないものも珍しくありません。ということは、数万円あれば鍵盤付きのM1、そしてJV-1080やProteus/2を揃えてすぎやま先生と同じシンセ環境を構築することも可能ですね。8トラックとはいえシーケンサーもありますから、とりあえず打ち込みもできますし。当時、同じことをやろうとしたら50万以上かかったでしょう。

←なお、DSソフトとしてM1を再現した「KORG M01」が出ています。これでアナタもDSで、ドラクエサウンドを奏でられるかもしれない?!
08.村の夕べ
村の夜バージョンです。街の曲と同様、ボーカリーズ音色はゲーム音源にする際に拡げられています。メロディ楽器はゲーム音源では木管(リコーダー、フルート系の音)なのですが、シンセ版は木管というよりはシンセ的なリード音色になっており、珍しい味になっております。ProteusやJVを使っていればもっとオケっぽい木管の音色はありますし、他の曲では使っていますから、このチョイスは「あえて」なんでしょうか。ちょっとファミコンっぽい懐かしさがあります。

さて、ここではすぎやま先生がお使いになっているシンセについてもうひとつ、KORGのMS-10を御紹介しておきましょう。ライナーノーツにはその名がありませんが、インタビューでは「KORGのMS-10も使っていますよ」と発言されています。このMS-10はここまでに御紹介してきたデジタル・シンセサイザーとは異なり、いわゆる「アナログ・シンセ」と呼ばれるビンテージ品(発売は1978年)。その仕組みなど細かなことは割愛しますが、デジタルよりも扱いは難しいものです。なにしろ最初からリアルな「ピアノの音」やら「ドラムの音」が入っているわけではなく、「自分で音を作る」ことが大前提。既存の楽器の音を真似るのには向いていませんが、この世にふたつとない音を自分で作り出せるという、シンセサイザー本来の面白さがある楽器です。

KORG MS-10
KORG MS-10

左側にあるツマミをいじり、右側にある端子を線で繋ぐ=パッチングすることで音色作りをしていきます。上位機種としてMS-20があり、MS-10はその廉価版という性質もあって発売当時の価格は6万円弱(MS-20が約10万円)。さらに、鍵盤を廃したかわりにツマミや端子を増やし、音作りの自由度に特化した玄人向けのMS-50という機種もあります。アナログ・シンセは時とともに価値が上がっていくもので、発売当時の価格はM1やJV-2080、Proteus/2の方がダントツに高かったのですが、現在の中古市場ではMS-10の方が高くなっています。デジタルシンセのように安定していませんし、メンテンナンスも大変ですが、アナログ・シンセ入門機としては良いでしょう(どうせならもうちょいフンパツしてMS-20を手に入れたいところですが)。

←入門という意味では、DSでMS-10を再現した「DS-10」でアナログ・シンセ気分を味わってみるのもいいかも。
09.悲壮なるプロローグ
「悲壮なるプロローグ」のシンセ版は、JVの音を中心としたシンセサイザー・弦楽合奏団といった感じ。一部の弦のパンニングが左にいったり右にいったり妙な動きをしているんですが、JVにはこういうヘンなプリセット・エフェクトがかかったパッチがあるんです。そのまま使ってしまうとこういうことになります。1本の弦(もしくは1セクションのストリングス)が動き回るなんてことはあり得ませんから、オケを知り尽くした先生であればデモとはいえど外してほしかったところですね。また、このシンセ版はライナーノーツによれば「デモ版を元にしています」とのことですから、CD化にあたってもう少し詰めることもできたのではないでしょうか。それとは逆に、後半で出てくるフルートとハープはゲーム音源にない瑞々しさがあります。一方でゲーム音源も改めて聴くと、けっこう頑張ってることがわかります。

ハープの定位が両者で逆になっているところにも注目。オーケストラを再現するという意味では、ハープが左側に聞こえているシンセ版が正解ですが、ゲーム音源ではなぜ右にしたのでしょう。特に他のパートに被ってるということもないようなのですが……。

ここで「定位(パンニング)」について少し。定位とは簡単に言うと、ステレオ音場において楽器を左右どの位置に置くかということです。たとえばドラムであればキックとスネアは真ん中、ハイハットは右側、タムは右から左へと流れ、両側に音の異なるシンバルが置かれます。これは実際の楽器の配置と同じようにするのが一般的です。オーケストラであれば、ステージ上での楽器の配置が通常、録音においても再現されるわけです。ただし低音の強い楽器や音の大きい楽器を左・右どちらかに振りすぎると全体のバランスが聴きにくいものになるため、ポップスにおいてはわりと自由に変えられることも少なくありません。上で述べているハープで言うとステージでは左側の隅に位置していることが多いため、CDなどでもハープは左側に寄っています。

ただし定位については考え方がふたつあり、「観客視点」「演奏者視点」の解釈が存在します。前述した例は「観客から見たステージ」における定位です。これを演奏者視点にするとすべての定位が逆になります。聞き手にバンドの中にいるような臨場感を与えたいときには、このような定位が採られることもあります。ただ、オーケストラにおいては客席、もしくは指揮者からの定位を再現するのが一般的であるため、観客視点の定位が採られることがほとんどです。

定位は録音するときの状態をそのまま捉える方法と、ミキシングであとから設定する方法があります。前者はオーケストラをホールなどで一発録りする際やライブレコーディング、後者はポップスなどでよく使われます。特にシンセでの定位はあってないようなもので、どのパートをどこに定位させるかということについても制作者のセンスが問われてくるのです。
10.野を越え山を越え
フィールド曲のシンセバージョン。これに関してはあくまで個人的にですが、完全にゲーム音源の勝ちなんですよね。シンセ版の方がゴージャスであるといった印象はまったくありません。ゲームでずっと聴いていたから何らかの思い出補正がかかっているというハンデがあるにしても、シンセ版はベタ打ちのMIDIという感じで表情もありませんし、やっぱり弦は動き回っちゃってますし……。そういえばすぎやま先生、フィールドってもともとは街の曲を使うつもりでいたんでしたね。堀井氏に「これは街でしょう」と言われ、慌てて作って時間がなく、あまりデモを作り込めなかったのかもしれないなあ……などと邪推してみたり。

逆に言うと、ゲーム音源が頑張ってるなってことなんですけど。ゲーム音源の後にシンセバージョンを聞いたら普通は「おお!やっぱり豪華だなあ」となるものですけど、誤解をおそれずに言えばすぎやま先生は作曲のプロであってMIDIやらシンセ(音作り)のプロではありませんから、「デモ」の域を出てないんです。もちろんゲーム音源は圧縮されてますし音質も決して良くありませんが、音楽(特にこういう打ち込み音楽)の良し悪しって、音質だけが評価の対象でしょうか?音色のチョイス、エディット、細かな打ち込みテクニックによる演奏のニュアンス、表情……。「餅は餅屋」じゃないですけど、このフィールド曲を聴く限りでは「サントラ買ったけどDISC1しか聴いてない」とか言ってる人に、「おいちょっと待て」と言いたくなりますね。あくまで、筆者は。
11.負けるものか
通常戦闘の曲です。シンセ版はドラムの音がかなり控え目ですが、ハイハットだけは前に出ています。ティンパニもだいぶ強調されてますね。また、ゲームでは駆け巡るタムが焦燥感を醸し出すキモになっていたのですが、シンセ版は使っているドラムキットがそういう性質のものではなかったのか、タムは使われていますがほとんどセンターになっています。よって、曲から受ける印象がだいぶ変わっていると言えます。

これも、ゲーム音源の方が総合的に完成度は高くなってますね。もちろん、これはあくまで「デモ」であって、ゲームが本チャンであることは理解していますが……。音源の質、発音数などスペックの面ではシンセ版が圧勝しているはずなのに、ゲーム音源とそこまでの差がないんですよ。個々の楽器のミックスバランスもゲーム音源の方が良いと思います。「いやまあほら、これはデモだからさ」と言うのであれば、じゃあ「このCDはなに?」と。2枚組にしてこれを同時収録したのは何のためなのでしょう。筆者は最初、「DSの音源だけではなんだから、シンセ版も付けましょう」というクオリティアップ、もしくはファンサービスなのではと考えていたのですが、今では「デモから本チャンへとグレードアップしていく過程を見せよう」という企画か、と理解しています。「シンセ版=豪華版」とは誰も言ってないのです。そのつもりで読むとすぎやま先生のライナーノーツも、「このデモ版でも曲の雰囲気や狙いは充分にスタッフに伝わったと思います」「皆さんも製作スタッフの一員になったつもりで聴いてみるのも面白いかも」と書かれており、これは完成形ではありませんよと主張されている。完成形はあくまでゲーム音源版なのだと。しかしファンの中には「DISC2は聞いてない」「DISC1ばかり聴いてる」という人もいるのです。まあ、そこはあくまで好みの域なのですが、ゲーム音源もちゃんと聴いてあげてよ、と。余計なお世話かもしれませんが。
12.暗闇の魔窟
洞窟の曲です。総じて木管ものの音はシンセ版の方がさすがに秀でていますね。ただ、弦はいつも同じ音色を立ち上げているのか、これも定位がグルグル動いちゃってて落ち着かないです。異なるパートにフレーズを受け渡していくことでの音色移動ではなく、明らかに同一であるべき弦が右にいったり、左に行ったりしています。これはシンセだし、オーケストラじゃないからそういう演出かも?いやいや、こと「ドラクエ」の音楽でそれはあり得ないでしょう。現に、ゲーム音源版ではその現象は起こっていないのですから。容量的に、スペック的にDSではPANで遊ぶ余裕がないんでしょう……ということではなく、音楽的におかしいから再現していないだけです。
13.洞窟のワルツ
これもですね。ノートするたびに定位が変わるストリングスが……。「ドラクエ」でなければ定位のお遊びとしてスルーできるんですが、「ドラクエ」だからこそ「それ、やっちゃいますか」と……。もしくはオケ楽器以外のあからさまなシンセ音やSEでやるならともかく、「ドラクエ」においてオケ音色でそれをやるのはいかがなものでしょうか。弦楽器奏者が演奏しながら、楽器を担いでステージ上を右へ左へ走り回るようなものですよ?
14.そびえ立つ死の気配
とは言うものの、こういう曲だと弦の刻みがグルグル回るのは効果としてアリかも?と思えてしまうから不思議です。「魔物の声」が入っていたりして遊びのある曲だからこそ、です。でも、ゲーム音源ではその効果はなくなってるんですが……。つまり、「狙い」ではないんですね。たまたまそういう音色を選んでしまって、気付かずに使い続けてしまったがゆえのアクシデントです。

ところでこの「魔物の声」、デモと本チャンでほとんど同じ音がしています。単発なので再現も容易だったのでしょう。すぎやま先生の自宅とトーセのスタジオには同じ機材が用意されているのは、「ドラクエ」音楽ファンには有名な話。「これはあのシンセの○番の音ね」「わかりましたー」という感じでしょうか。もちろんトーセで先生も立ち会って音作りをする際には、それら以外のシンセやサンプリング素材も使われるのだと思われます。
15.サンディのテーマ
サンディは賛否の多いキャラクターですが、アンチの人からは「戦歴画面を開くたび"ダッ!"というのがムカつく」、と曲までいわれのない非難を受けている「サンディのテーマ」。ゲーム音源版は木管ぽさもあったボーカリーズのメロディですが、シンセ版はしっかりはっきり「人の声」になってます。音が低くなると急に生々しくなることも。これはJV-2080のプリセットでしょうか。JVにはこのようなボーカリーズ音色が複数入っており、さらに拡張音源ボード「VOCAL COLLECTION」を載せると、ブラックからゴスペルコーラスまで様々な人声が使えるようになります。
16.サンディの泪
ここで使われているボーカリーズも「サンディのテーマ」と同じものです。ううっ……あいかわらずストリングスがグルグル回っている……。酔いそうです
17.箱舟に乗って
これはアイディアありきの曲ですね。汽車の音を曲で表現しよう!という。鳥、気球、じゅうたん、ベット、石など様々なもので空を飛んできた「ドラクエ」ですが、汽車ならやっぱりこうでしょう。シェイカーの「シュシュシュシュ」という音が、ゲーム音源と比べると控え目になっています。個人的にはこれぐらいのバランスの方が良いですね。ゲーム音源版は少々デカすぎるように感じていたので……。
18.せつなき思い
これもグルグルストリングスですが、それはもうわかったよということで。ゲーム音源は木琴にベルもしくは鉄琴がユニゾンで重ねられていたため、多少金属的な響きもあったのですが、シンセ版は木琴だけでマイルドな印象になっています。ディレイもよく聴かないとわからないレベルですね。
19.渦巻く欲望
頭のアタックの印象が、ゲーム音源とシンセ版でだいぶ違います。ゲーム音源は微妙なニュアンスのタメがあったんですよね。字にすると「ダ・ダダダダーン」と、1発目の後ろに一瞬のタメが感じられます。対してゲーム音源は「ダダダダーン」と連続しており、タメがありません。また、ゲーム音源はアタックの最後がベンドダウン(持続的に音程が下がっていく)していたのですが、シンセ版ではしていません。そういえばこの曲の弦は回りませんね。音色変えたんでしょうか?

両者の比較とは関係ないんですが、この曲のドラムが凄く好きですね。「負けるものか」のように叩きまくるのとはまた違って、音数は少ないんですがその配置が絶妙で、凄く緻密に計算されている感じ。
20.祈りの詩
グルグルストリングス、復活しました(笑)。これさえなければずっと聴いていたいんですけどねえ。つま弾くリュート的な弦楽器がゲーム音源ではセンターでしたが、シンセ版では右寄りになっています。
21.仲間とともに
余談ですが、皆さん「すれ違い」ではない「通信プレイ」ってどれぐらいしました?友達の世界にゲストで行くか、自分がホストとなって来てもらう協力プレイのことです。筆者は数えるほどしかやってないんですが、やっぱり子供は休み時間とか放課後なんかに、わいわいと遊んだんでしょうねえ。筆者が子供の頃にもこういうおもちゃがあったらなあ。もしかしたら人生がまるで変わっていたかもしれませんよね。

今の若い人ってパソコンにまったく抵抗がないですし、デジタルものも使いこなすのが早いこと速いこと!物心ついたときからパソコン、ネット、携帯、そして携帯ゲーム機があるんですから当然ですが、筆者なんかはアナログからデジタルへの移行期真っ只中にいた世代ですから。レコードがCDになり、カセットがDATになりMDになりi-podになり、ビデオテープがDVDになり。ゲームは2Dが3Dになり、ドット絵が実写と見紛うCGになり。「ドラクエ」は任天堂からソニーになり、また任天堂になり。スクウェアとエニックスが合体してスクウェア・エニックスになり。だからどうしたって話ですいません。これからもまだまだ技術は進歩するでしょうし、身の回りのアイテムも変わっていくでしょう。そのうち人間の身体にもUSB端子が付くかもしれません。
22.宿命
同じ音色を使っている限り、ストリングスは回る宿命なのです。
23.集え、者たち
シンセサイザー・ストリングス・オーケストラによる「序曲」アレンジです。ゲーム音源を聴いてシンセ版を聴いて、それから交響組曲を聴くと、さすがに本物は違うなあと感動します。ただ、最近の大容量ソフトウェア音源だと「これ生でしょ?」という弦楽もできちゃったりしますから侮れません。超リアルなソフト音源はオーケストラものだけでなくドラムに特化したもの、ギターやベースにこだわり抜いたものなどいろいろあり、代用品を超えたクオリティで楽曲製作ができてしまいます(本当に凄いものはお値段も凄いですが)。音色だけでDVD○枚ぶん、トータル何十ギガなんてものもあり、そうなるとミュージシャンのお仕事を奪ってしまうことも。そうなるとバイトや副業せざるを得なくなったり、場合によっては転職も……。

と、無理矢理ダーマに繋げてみましたが、スタジオミュージシャンはよほどの売れっ子でもない限り、けっこう厳しいそうです。音楽業界も予算縮小やら諸般の事情などで、「シンセでいけるものはシンセで」という現場も珍しくなく、一方でメジャーデビューしているような歌手、バンドやグループもCDが売れないのでキツい。ものにもよりますが必要とあればフルオーケストラレコーディングできるゲーム音楽は、けっこうゼイタクなんですよ。売れることが保証されてる大作・人気シリーズでないとできませんけどね。

えっ、シンセ版になってから雑談が増えたって?まあまあ、たまにはこういうレビューもいいでしょう。豆知識的な……。「ドラクエ音楽」のレビューを読みに来たら、なぜか他の知識も得てしまったというのもそれはそれで……。正直なところ、同じ曲について何度も違うこと語れるほど音楽に詳しくもなければ、ボキャブラリーもないんです。こういう構成のCDはほんとに困ります(笑)。いずれ交響組曲盤のレビューもしますし……。
24.運命に導かれ
「神の国」の曲です。この拡がり、透明感……。惜しいなあ、これでストリングスの定位がキマってさえいれば……。でも、こういう曲だと「アリ」な気も。しかし何度聴いても恐い曲ですね。
25.主なき神殿
「運命に導かれ」から派生した、ラストダンジョンの曲です。
26.決戦の時
ラスボス戦の曲ですが、ゲーム音源版とはドラムスの印象がだいぶ違います。特に導入のスネア連打。タムのような音階のあるスネアが使われていますが、ゲーム音源ではハイハットのような音色に差し換わっています。また、スネア全般もシンセ版は生ドラムっぽい音なのですが、ゲーム音源ではややテクノっぽい、リズムマシン的な音になっています。全体的な音のまとまり、表情、完成度はゲーム音源に軍配。トーセさん、良い仕事をしてくれました。それが確認できたことこそが、シンセサイザー版の存在意義ですかね。
27.星空へ
良いところなのに、このストリングスはなんとかなりませんか?
28.星空の守り人
ということで、MEを除いてはこれにてラスト。デモとは言えど、この長い曲を打ち込みきるのはけっこう大変だったのではないでしょうか。すぎやま先生、お疲れ様でした!

さて、このシンセサイザー版をひと通り聴いてみて、「IX」のゲーム音源がDSというプラットフォームでいかに頑張っていたのかがよくわかりました。その点で、これをサントラに付けたことは意味があったと思います。最近は純粋なゲーム音源をサントラに入れず、ゲームに落とし込む前の音源を収録したものも少なくないのですが、聞けばそれは確かに豪華です。音楽的な完成度も高い。しかしそれはサントラなのか?というと、微妙なところですよね。本作はゲーム音源もきちんと収録したうえで、デモ版も添えて製作の過程をも見せたということで、貴重な作品だと言うことができます。

同時に、「シンセ版なんだから当然、豪華なんだろう」という、盲目的なファンをふるいにかけるものにもなっています。音楽の好みは人それぞれとは言えど、「DISC1しか聴かない」というリスナーがいることが、筆者にはちょっと信じられません。「DISC2はDS音源だから音、悪いんでしょ」とおっしゃいますが、音楽の優劣は音質だけで決まるものでしょうか?音質は確かにシンセサイザー版の方が良いでしょう。しかし、音楽としてどうなのか?表現力は?音のバランスは?トータルのまとまり、完成度は?といろいろな要素を考えたとき、筆者の中ではゲーム音源の方がシンセ版に勝っていると思える曲がいくつもありました(それも好みだろ、と言われれば返す言葉もありませんが)。ぜひもう一度、ゲーム音源にもしっかり耳を傾けていただけるよう、願ってやみません。そのうえで本当に良い音、良いアレンジを聴きたいのなら、「ドラクエ」ファンには交響組曲があります。なんとも幸せなことではありませんか。
29.クエスト受注
これは良いですね。ゲームの印象と変わらないまま、音色がグレードアップした感じです。
30.クエスト・クリア
同上。
31.転職
左に寄っているハープですが、ゲーム音源ではセンターになっています。弦が拡がっているので、バランスをとるためあえてそうしたのでしょう。
32.スーパースター
エレキギターの音色が目立ってます。JVのプリセットそのままという感じですね。さすがにあの頃のシンセをそのまま使うと、ギターはこれぐらいです。ゲーム音源にもギターは入ってますが、ベンドを駆使してよりギターらしくなるよう努力されています。そのため両者の印象がけっこう違ってるのです。どちらが良いかはそれぞれの好みです。

←交響組曲もあわせてどうぞ。



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